突ポ娘外伝






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第四章 無限の水平線の世界編
#1 海の世界

#1



光の扉を抜けた先は真っ白な世界だった――。
それが光だけで構成された世界だと認識するのはそれ程難しい事でもなかった。
前後不覚に陥ることもなく、何故か俺は真っ直ぐに走ることが出来ている。


 (後ろは……振り向かない!)

俺は恋と轟の事を思い返すが、きっとあの二人だ。
満足いくまで闘ったら、あの世界を脱出しているだろう。
問題は寧ろ俺の方だ。


 (一体誰だ……? 俺にこんな次元旅行を繰り返させるのは!?)

俺は事の発端からここまでの事を思い出していく。
初め、俺は命を狙われていた。
俺を殺せば願いが叶うと諭されたルージュがその凶行を行おうとしたのだ。
しかし突然開いたウルトラホールに吸い込まれた俺は、主神ユミルが見守る人とポケモンがバディを組む世界に放り出された。
俺とルージュはそれぞれの願いを叶えるためにユミルの主催する大会を勝ち上がり、その奇跡を元に帰還した……だが。

戻った世界は俺の住んでいた世界とは異なっていた。
ユミルは約束を破ったのか……否。
確かに俺は帰っていた、問題はその帰った先にマギアナの願いをベースとした世界が上書きされていた事だ。
マギアナは茜たちに対する嫉妬を利用されて、茜たちのいない世界を生み出し、元あった世界に覆い被せた。
そこでは悪の女王マギアナと救世主クローズに別れて、陳腐な英雄譚を綴っていた。
だがマギアナは気付いていた、例え望みの世界を生み出しても俺はそこにはいない。
例え俺と家族を引き剥がしても、その絆を消し去ることは出来ない。
悲しく、冷酷な結末だったがマギアナは自分の死と引き換えにその英雄譚を終わらせる決意をした。
俺は哀しみのままマギアナを失い、同時にこの狂った世界から必ずマギアナを救う事を誓った。

だが……またも俺が家族の元に帰ることはなかった。
今度は非常に狭い閉鎖空間に閉じ込められ、そこで三人の拳士と出会った。
清山拳に恨みがありながら、同時に非情にはなれない優しさをもった少女恋。
馬鹿正直なほど真っ直ぐで、燃える闘志を抱く轟。
あの空間さえも用意した神と呼ばれる者に招聘された清山拳先代伝承者中。
俺達は何かの意思に利用されるようにバトルタワー逆走を行わされた。
だが、その道中は至ってシンプルであり、俺に関する策謀は何一つ無かった。

ここまでの次元旅行には、共通点がまるで見当たらない。
今だ姿を見せない超常の者……その目的はなんだ!?


 「ッ! 光が――」

光の回廊は終わりを告げていた。
俺は光の中を抜けると、そこは大きな積乱雲を抱く青空だった。


 「――は?」

その状況に気付いたのは数秒だろうか?
俺は重力に引っ張られるまま、落下していた。
目の前に広がるのは海面!?



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第四章 無限の水平線の世界



***



バシャァァアアアン!!


 「がぼ!? ぼぼっ!」

激しく海面に叩きつけられた俺は肺から息を吐き出さされた。
海はそれ自体穏やかな物かも知れない。
だが、いきなり海に放り出された俺は為す術もなく、海中へと沈んでいく。
藻掻けば藻掻くほど、空気は失い、海面がどちらかさえ分からなくなると、やがて目の前には闇が広がった。
深海には光は射さない。


 (ちく、しょう……ここまで、か)

意識は薄れていく。
その時俺は見た。
深海を泳ぐ人魚の姿を――。



***



穏やかな世界――。
柔らかな陽がベッドルームに差し込む。


 「おはようございます……貴方」


 「え?」

俺と同じ部屋で寝ていたのは我が妻の姿だった。
イーブイのPKMで、茶色い耳と大きな筆のような尻尾が特徴的な、おっとりとしていて、身体の小さな女性。
一見すると中学生のようでもあり、身なりの良いお嬢様にも見えるかもしれない。
だが彼女はその中に胎児を宿した母なのだ。

俺は信じられなかった。
だが妻はいつものように優しい笑みを浮かべている。
ああ、もしかして俺は長い永い夢でも見ていたのだろうか。
俺は茜に抱きつこうとした。
その温もりが堪らなく恋しくて俺はその手を伸ばす――。



***




 「茜!?」


 「きゃあ!?」

ん? なんか変だぞ?
むにゅんとするこの感覚は間違いなくおっぱい!
しかも並大抵ではない! かなりの巨乳!
だがこれは茜じゃないぞ……?

と、どうでも良いことに頭を働かせると、急にぼやけた意識は覚醒を始める。
薄暗い部屋、俺はそっと顔を上げると顔を真っ赤にした雪の様に白い髪の毛をした女性と目が合った


 「……え?」


 「あ、あうあう……!」

冷静になってくると、急に事態を把握した俺は顔を真っ青にした。
何やってんだ茂!? いきなり知らない女性に抱きつくとか変態じゃねぇか!?


 「す、すみませんでしたぁ!!」

俺はすかさず離れると、その場で土下座する。
こんな物、間違いなく猥褻罪物だが、俺は平謝りするしか手立てはなかった。


 「あの、茂さん……わ、私怒っていませんから」


 「本当に……て、え?」

俺はキョトンとして顔を上げた。
茂さん? 俺は改めて顔を紅くした銀髪をウェーブさせた女性を見る。


 「アンタだ〜れ?」


 「イヤン♪」

そう言って腰をくねらせる。
そこで俺はその女性が少なくとも何者か理解した。


 「魚のような下半身……額の一本角、アンタジュゴンか?」

ジュゴン
 「はい、マナフィ様に仕えさせて頂いておりますジュゴンと申します」

ジュゴンの女性はそう言うとぺこりとお辞儀した。
というか今マナフィ様って?


 「どないやー? 茂兄ちゃん目覚ましたかー?」

突然ジュゴンの後ろから、背の低い青髪の少女が部屋に入ってきた。
俺はそれを見て、愕然とする。


 「お前は淫乱糞ビッチのマナフィ!?」

マナフィ
 「誰がビッチやねん!? ウチは相手を選ばんだけや!!」

謎の関西弁で喋るマナフィは間違いなく、ジラーチ達と共に俺達を助けてくれたマナフィだった。
家にも何日か滞在していたが、フーパ達に伴って旅立った筈だが……。

マナフィ
 「しかし兄ちゃん久しいなぁ! 元気やったか!?」

マナフィはそう言うと笑顔で俺の肩を叩く。
俺は冷静に状況を分析していた。
ジラーチ、マギアナ、マーシャドー、そしてマナフィ?


 (幻のマ率高ぇ! じゃなくて!)

俺は久し振りのボケを頭の中で炸裂させながらも、この共通点が何を意味するか類推していた。
ジラーチは無関係だった。
マギアナは黒幕だった。
マーシャドーは唯一俺と初対面であり、閉鎖空間自体が恋の為に用意されたかのようだった。


 (なら、このマナフィは……?)

マナフィ
 「なんや兄ちゃん恐い顔してからに、まぁええ! 取りあえず立ち上がり! 中案内したるさかい!」

マナフィはそう言うと背中を見せる。
その間ジュゴンは礼儀正しく鎮座して、マナフィが通り過ぎると頭を垂れた。


 (まずはここが何処か……だな)

俺は立ち上がると、マナフィの後を追う。



***



マナフィ
 「ここは海上都市、人呼んでマナフィランド!」

俺は部屋を出ると呆然とした。
部屋は岩をくりぬいただけの粗末な物で、外に出ると大地はないのだ。
代わりに海面から木材で組み立てられた海上都市が広がっていた。


 「なんだここは……?」

ジュゴン
 「正式名称はウォーターアイランド、海に住むポケモン達で構成した海上都市です」

ジュゴンさんは俺の隣まで、オットセイのように這ってくるとそう説明した。

マナフィ
 「とりあえず茂兄ちゃんはなんも分からんやろうから説明したるけど、この世界は海に覆われた雄大な世界や」


 「陸が見えねぇな……」

ジュゴン
 「陸は……もう殆ど残っていないのです」

ジュゴンは沈んだ顔でそう言った。
陸地が殆ど無い?
それじゃこの世界に陸上のポケモンは?

マナフィ
 「まぁ陸地が無くてもウチら海のポケモンは殆ど困らんのやけどな!」

ハッハッハ! と大声で笑うマナフィに気付いた何人かが近づいてきた。
皆マナフィにそっくりだが、マナフィよりも大きな少女達だった。


 (フィオネか?)

その少女達は皆身長が150センチ前後。
隣に立つ(?)のジュゴンに比べると遥かに小柄だ。
特徴的な長い触角が頭から一本伸び、手に銛が持たれている。

フィオネ
 「マスター! 巡回に出た第七班から被害が……」

マナフィ
 「またか〜!」

マナフィはそう言うと顔を叩いた。
なにか頭を痛める問題があったのだろうか。
一方で少女達は俺を見ると怪訝な顔をした。

フィオネ
 「マスター、この者……陸の者では?」

マナフィ
 「この兄ちゃんは特別や! ある意味では陸の民やけど、そうやない!」

フィオネ
 「マスター……道楽はもうおよしてください……ただでさえ半端者を抱えて……」

ジュゴン
 「っ……!」


 「?」

ジュゴンさんは突然胸元を抑え付けた。
何かを我慢するように。

マナフィ
 「おい47号! ウチはそんな優しいないで?」

マナフィは突然ドスの効いた声でそう言うと、47号と言われたフィオネは顔を青くした。

フィオネ
 「し、失礼致しました!」

マナフィ
 「ち……! それよりも魚栄軍の方や!」


 「魚栄軍?」

ジュゴン
 「この町を狙う海賊です……!」

その時だった。

バッシャァァン!!

突然海上都市で幾つもの水柱が上がる!
その数10以上か!?

マナフィ
 「ち!? タイミング悪いなぁ!? 茂兄ちゃんは洞窟に隠れておれ! ジュゴン! 護衛任せたで!」

住宅からは一斉に銛を持ったフィオネ達が飛び出していく。
だが、何人かが海面から投げられた銛に貫かれた!


 「な!?」

ジュゴン
 「ここは危険です! 茂さん中へ!」

ジュゴンさんはそう言うが早いか、俺の手を引っ張ると薄暗い洞窟の中へと引っ張った。
外からは勇ましい声や悲鳴が響いている。
それがなにかやばいことだと言うのは俺にも分かった。


 「襲撃されているみたいだけど!?」

ジュゴン
 「魚栄軍です! 縄張り争いがこの町と起きているんです!」


 「縄張り争い!?」

俺はこの世界にやってきて、いきなり切り替わる常識に戸惑った。
ただ、分かった事は、自分の身は自分で守れ! だった。



***



マナフィ
 「第11班! 後ろから回りこめ!」

ウチは襲撃に対して、フィオネ達に陣頭指揮をとった。
この海上都市におるフィオネは300余り、全部ウチが産んだ子供や。
マナフィはマナフィを産めん、何故かフィオネしか産めん。
それには意味がある。
フィオネは兵隊や、この時のためにある。

バシャァン!

突然目の前で水柱が上がった。
目の前に飛び出したのは魚人だった。
全身を鮫肌で覆った、人の形からは余りに逸脱した存在。
サメの頭部を持ったその男はウチを猫の目のような鋭い目で見下ろした。

魚人
 「ほお? 噂通りちっせぇちっせぇ!」

マナフィ
 「そう言うお前は大っきいなぁ! 魚栄軍シャーク組次男坊やな?」

魚人
 「そうともよ! 俺様こそがシャーク組最強の男、ジャック様よぉ!」

魚人はそう言うと大笑いした。
シャーク組は魚栄軍の一角でサメハダーとキバニアで構成された組織や。
魚栄軍きっての武闘派で、度々近海で衝突しとる。

ジャック
 「マナフィ組の頭領! 貰ったぁ!」

魚人はその手に持った三つ叉の銛トライデントを構えると、ウチに振り下ろした。
だが……!

マナフィ
 「はん! 要は鉄砲玉やろ? 舐めたらアカンでぇ」

ウチはそのトライデントを受け止めるとそのまま離さない。

ジャック
 「な!? なんだこの馬鹿力!? 化け物か!?」

マナフィ
 「化け物ぉ? 違うで……ウチは『海の皇子』、お前ら如きが敵うかい!」

ウチはそう言うとトライデントを握りつぶし、拳を固めた。

マナフィ
 「筋通したらぁ!!」

ウチは飛び上がると、そのサメの頭を思いっきり打ち抜く!

ジャック
 「がぼ!?」

魚人はそのまま血を吐いて海へと沈んだ。
その様子を見た何人かが、悲鳴と歓喜を上げる。

フィオネ
 「やったぁ! マスターが勝った!」

サメハダー
 「ジャック様がやられたぁ!?」

マナフィ
 「第3、4、5班は追撃! 生きて返すな!」

次々と敗走する魚栄軍、ウチはフィオネ達に追撃させる。

マナフィ
 「牙のジョー……人のシマ荒らしてただで済むと思うなや……!」



海が支配する世界。
今や様々な海のポケモン達が群雄割拠を広げている。
その中でも魚栄軍は最大の派閥。
ただ、奴らは文化を知らへん。
ただ他者から奪うだけや。
それだけやのに、奴ら海賊は日増しに規模を大きくしとる。

マナフィ
 (いいわ、丁度ええ……魚栄軍は潰す、新たなる海にお前らは要らん)

それは海の皇子としての決定だった。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#1 海の世界 完

#2に続く。


KaZuKiNa ( 2020/05/03(日) 18:35 )