突ポ娘外伝






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第三章 閉鎖空間編
#11 伝承、新たな拳士達よ

#11




 「黒だよ……真っ黒ォ!」

ドカァァァン!!

バトルタワー第69戦、残り一人となった対戦相手を轟はオーバーヒートで爆砕、敵はそのまま光に変わった。
取りあえずガングロ……お前に何があった。

ジャッジ
 「おめでとうございます! いよいよ残すところは後1戦ですね」


 (後1戦……ついに)

俺はこの直前の事、第60戦が終わった後のことを思い出す。



***




 「爺さんが……最後のボス!?」


 「そうです、元々私はそのために呼ばれたのです……そして全ての役目を終える時が来ました」


 (……予想しなかった訳ではないが)

俺は中老師の行動を薄々予想はしていた。
そもそもこの閉鎖世界、あまりにも作為的な要素が多すぎる。
それこそ監視者の実験としか思えない程。
その中で何故老師は最初から存在しなかったのか、疑問だった。

その答えがこれだった訳か。


 「茂君……貴方には最後まで見ていただきたい」


 「言われなくても、俺は二人の師匠ですからね」

俺はそう言って肩を竦める。
中老師はそれを聞いて和やかに笑った。


 「恋さん、轟君……貴方達はとても素晴らしい拳士です、もはや心配することはないでしょう……ここからは二人で駆け上がるのです!」


 「ああ! 爺さんに負ける訳にはいかねぇからな!」


 「清山拳の名を穢す事のないよう務めます」

老師は二人に頷くと、その姿を薄らと消していった。
消えるのはあっという間、だが再会はすぐだろう。


 「恋!轟! 駆け抜けるぞ!」


 「はい! 師匠!」


 「応!」



***



ジャッジ
 「もうこれで思い残す事はありませんね……私ごとですが、最終決戦楽しみにしています」

思えば、コイツも相当謎の存在だよな。
あくまでも裏方に徹し、特にやましいこともなく、結局何だったのだ?


 「最後の最後で聞くが、アンタ何者だ?」

ジャッジ
 「私はただのジャッジですよ、望まれれば何処にでも赴き、公正なジャッジを心がける……それだけの存在です」


 「師匠……そろそろ」

そうだな、きっと中老師も待ちかねているだろう。
俺は万全の恋を見る。
師匠として、最後に出来る事は何だろうか。


 「恋、師匠としては俺はどうだった?」


 「師匠は……私のもう一人の養父です、師匠の叱責も喜びも、私の力になりました……」


 「中老師は強い……間違いなく最強の相手だ、そんな闘いに俺は何も出来ない……」


 「師匠……」


 「だから俺はお前にこの言葉を捧げる、立て、そして闘え!」

俺はそう言うと恋の肩を叩く。
恋は温和な笑みを浮かべると、やがてハッキリとした闘志をその目に浮かべる!


 「……二人とも、いくぞ!」



***



階段を降り、最下層を目指す。
真っ暗闇の階段には足音だけが響き、否応がなく興奮している。
俺は直接闘う訳でも無いのに、まるで決勝戦のような高揚があった。
やがて、階段の終わりを迎え、光は零れた。


 「ここは……?」

そこは道場だった。
それも見覚えがある。


 「ここは、清山拳の道場?」


 「特別にあしらっていただきまして……」

道場の奥には、中老師がいた。
ここが最終決戦場、道場はボロボロではない。
恐らくあの閉鎖空間の道場とは異なるのだろう。


 「よくぞ、ここまで参られた! 清山拳伝承者中發白がお相手しましょう!」

中老師はそう言うと真剣な眼差しで構えた。
俺をそれを見て、俺の真後ろにピッタリくっつく恋を見る。
恋は俺の目線に気付いて、コクリと頷いた。


 「我が名は黄影! 黄龍拳伝承者! 我が真名は恋! いざ尋常に! お手合わせお願いします!」

そう言って恋は前に出て構える。
轟は腕を組んで何も言わなかった。
この闘いに口を出すのは無粋……まるでそう言うように。

ジャッジ
 「それでは! バトルタワー最終戦! 試合開始!!」

ジャッジの宣言、それと同時に二人は正面から駆け出した!


 「ハイ! ハイ! ハイ!」


 「ハァー! イヤー!」

激しい拳打のラリーが始まる!
二人の力は五分! 目にも見えぬ拳打のラッシュは幾重にも絡み、クリーンヒットを許さない。


 「やはり五分か……!」


 「いや、二人のスタイルは似ているようで違う! 必ず何処かで均衡は崩れるぞ!」

轟の予見はその通りだった。
ラッシュの途中、突然二人は顔を弾かれた!


 「くう!?」


 「ああっ!?」

相打ち! お互いの拳は顔面を捉えた。
だが類い希なる動体視力を誇る二人は、直撃を許さない。


 (くっ!? 速い……! 動き自体は読んでいたのに、上を行かれた!?)


 (重い……! なんとか先に拳を当て態勢を崩させたにもかかわらず、この一撃……!)

二人は後ろに飛び、態勢を立て直す。
一合目の闘いは五分だ。
この先もこの均衡が続くのか?
俺は手汗を握り、恋の勝利を信じた。


 (恋! 勝て!)


 「イヤー!」

恋は再び果敢に中老師に攻め込む!
中老師もまた、その勇敢な闘いに応じ、拳打を繰り返した!


 「ハイヤー!」

中老師は戦術の鬼才だ。
その年並みからくる経験は恋の比ではない。
足払いを絡め、恋を幻惑的に追い込む姿は、まさに中老師の年の功だろう。

だが、恋も伊達ではない!
既に地力だけならば中老師を越えているかも知れない。


 「ハァ!」

恋は咄嗟に、身体を霊体に変える!
その一瞬、中老師のコンパクトな蹴りが恋をすり抜けた!


 「チャンスだ!」


 「もらった!」

恋は素早く霊体化を解き、態勢を崩した中老師に拳を握った!
中老師は目を見開く、その直後!


 「まだです!」

老師はその拳をギリギリで回避して、逆に蹴りを繰り出す!


 「カハッ!?」

中老師の蹴りが恋の腹部に突き刺さる。
だが、恋はその闘志を陰らさない。
マーシャドーの髪は恋の感情に応じて、その髪を燃え上がらせる。
その蹴りだけではもはや恋は止まらない!


 「イヤー!」

恋は返しのハイキックを中老師に叩き込む!
中老師は両腕でブロックするが、それでも吹き飛ばされた!


 「ハッ!」

中老師はバク転を数回繰り返すと、離れた場所で止まった。
お互いダメージはどうだ?
俺は二人の顔を見た。


 「はぁ、はぁ!」


 「スゥ……ハァ……!」

お互いダメージはある様子だった。
ただ、恋に比べ中老師は落ち着いている。
これが場数の差か、余裕があるのは中老師に思えた。


 (いや、中老師も不死身じゃない……歳の分だけスタミナは少ないはずだ!)

俺に出来ることはあくまでも恋を信じること。
それを陰らせる訳にはいかない。
ただ、恋の背中を見守るしかなかった。


 (強い……流石中老師です、伝説の武術家と本気で打ち合えることは、本当に光栄です)


 (拳を合わせる度に、蹴りが交差する度に恋さんの技は鋭く強くなっていく……誇らしいですよ、貴方程の拳士に我が清山拳を教えられるとは)

二人は笑っていた。
闘いの中、決して憎しみはない。
あくまでも試合、だが負けず嫌いな二人は互いを認め、賞賛しているのだ。


 「ホッホ、それでこそ清山拳の神髄を教えるに値するという物です」


 「中老師……貴方程素晴らしい拳士を私は知りません……もし黄龍お義父さんではなく、貴方に拾われていれば……!」


 「さぁ掛かってきなさい、新しき風よ!」


 「参ります!」

恋は突っ込む。
中老師は自然体で構えた。


 「ハァ!」

恋は拳打を繰り返す。
中老師はそれを的確に捌いた。


 「テェイ!」

右後ろ回し蹴り!
それは迂闊な一撃だ!
だが、恋の仕込みは!


 「!?」

中老師は冷静に両腕でブロックをしようとした。
だが、当たる直前恋の足は霊体化する!
中老師の身体を通過する蹴りは、今度は鎌首を掲げ中老師の顎をかち上げた!

ドカァ!


 「ぐふっ!?」


 「入った!」


 「駄目だ! 当たりはしたがアレでは体重が乗らない!」

中老師は口から血を吐くが、その目はギラついていた。
一瞬の殺気、それを感じ取った恋は咄嗟にブロックする!


 「ハイヤー!」

中老師は構わず恋の脳天に踵落としを放つ!
恋は腰を揺らし、なんとかそれに耐える。


 「ぐうっ!?」


 「足を踏ん張りなさい! 腰に力を! そんな事ではこの老人一人倒せはしませんぞ!?」


 「イィィ……ヤー!」

恋は腎力を引き出し、地面を陥没させるほどの震脚を放って、中老師の蹴りを跳ね返した。
中老師は空中で回転し、そのまま華麗に着地した。

もう何分闘っている?
後どれだけこの緊迫の闘いは続くのか。

中老師は腕をダラリと降ろすと、大きく息を吸い、そして吐いた。


 「スゥ……! ハァ……!」


 「……」


 「恋さん、今こそ伝承者の証を示しなさい」


 「伝承者の証……!」

恋は構えを変えた。
それは神破孔山拳の構えだ!
そして同様に中老師も構える。


 「師匠……私を信じてください」


 「恋、ああ! お前を信じる! だからやれ!」

恋は強く頷いた。
その二人のオーラは徐々に強くなる。

恋&中
 「「清山拳奥義……!」」


 「神!」


 「破!」

恋&中
 「「孔山拳!!」」

ほぼ同時、その技は繰り出された。
闘気のぶつけ合い!
それは大きな力のうねりとなり、道場を吹き飛ばそうとしていた!


 「くぅ!?」


 「これで未完成だってのか!?」

俺たちは吹き飛ばされないように必死にしがみついた。
オーラのぶつけ合いはどうなっている!?
目も満足に開けられない中、俺は微かに見た。


 (恋が圧されている!?)


 「くうううううう!?」


 「どうしました!? その程度か!?」

やはり恋はまだ奥義を完全に習得していないのか!?
俺は胸が張り裂けそうになる。
この我慢比べに負ければ恋は一溜まりもないだろう!
だが、その時俺は……あの指南書の最後のページを思い出す。


 「七色の光……!」

それは紛れもなくゼンリョクワザの証明だろう。
ここにはZリングもZストーンもない。
だが、俺は両手を合わせて祈った。


 (俺の全部お前にくれてやる……! だから!)

その瞬間、俺は恋と繋がった。
奇跡だろうが、作為的だろうがこの際構わない。
ゼンリョクワザがトレーナーの生命力を使うなら、俺の命で!


 「ッ!? 暖かい……これが師匠?」

その瞬間、恋の身体が七色のオーラに纏われた。


 「これは!?」


 「老師……! 今こそ私は! 貴方を越える!」

ゼンリョクワザ、神破孔山拳は本来の力を放つ!
まるで空間を捻れるように、その力は老師のオーラを貫いた!
老師の胸はゆっくりと抉られる。
やがて、痛みは遅れて中老師を襲った。


 「が!? それで、こそ……清山拳、伝承者!」

その最期、中老師は微笑んでいた。
そしてその全エネルギーは中老師に炸裂する!
暴れ狂う闘気はついに道場を吹き飛ばした!

ズドォォン!!



***



空は晴天だった。
激しい奥義のぶつけ合いは屋根も壁も吹き飛ばしてしまった。
そんな晴天の中、恋は屈み込んで中老師を抱きかかえていた。


 「お、お見事です……もう私の時代は完全に終わったのですね」


 「中老師、すみません! 加減も効かず……!」


 「良いのです、これは私に遅れて来た継承なのですから」


 「老師……!」


 「さ、最後に聞かせてください。今もなお瞳さんに復讐をしたいですか?」


 「今はもう……。ですが、一人の拳士として、養父を破った瞳さんとは闘いたいと思います……!」


 「ほっほ♪ ならば……行きな、さい! 貴方は清山拳伝承者、なのだから……!」

中老師はそう言って恋の小さな手を握る。
そして……ぐったりと目を閉じると、その身体を光の粒子に変えていった。


 「老師……中老師! 私は大好きでした! お爺ちゃんの事! 大好きでしたー!」

恋の叫びは空の彼方まで届いた。
それは一人の老拳士の時代の終わり、そして新たな拳士の時代の始まりだった。



***



ジャッジ
 「新たな時代の幕開けですね……素晴らしい拳士が現れ、私自身嬉しく思います!」


 「この後俺たちはどうすれば良い?」

ジャッジ
 「あの光の扉を潜ってください、主催者は予めあのゲートを用意していました」

そう言って、俺達の目の前には光で出来た扉が出現した。
そこを抜ければ、俺は茜たちの元に帰れるのか?
いや、恐らくは無理だろうな……まだ監視者の意図は分からない。


 「二人とも、もうこんな変な世界にいる必要は無い! 行くぞ!」


 「師匠……悪いけど、先行っててくれや」

しかし、轟はなぜかその闘志を燃やしていた。
その意味はなにか?
俺は自ずとその目的を理解した。


 「恋! 俺と闘え!」


 「轟……!」


 「疼くんだよ……お前と爺さんの闘いを見て、俺の血は疼いて堪らねぇ!」


 「二人とも、先行くぜ?」

俺はそう言うと光の扉に向かった。


 「俺達格闘家はエゴイストなもんだ、強い奴を見れば闘いたくなる、どっちが強いんだってな!」


 「轟……!」


 「さぁ! カモンカモン!」

それが俺が最後に見た二人の姿だった。
果たしてどっちが勝つのか。
恋は間違いなく強い、だが轟も然りだ。
しかその答えは得られないだろう。
俺は意識を光に溶けさせていく――。





突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#11 伝承、新たな拳士達よ 完

第四章に続く。


KaZuKiNa ( 2020/04/26(日) 18:18 )