突ポ娘外伝 - 第三章 閉鎖空間編
#4 第一関門ゴーリキー!

#4



バトルタワー挑戦2回目、第9戦目。
轟と恋はここまで順調に勝っていた。
まだ序盤な事もあり、それ程地力においてあの二人に追いつく者はいない。
ただ、人化していてもこれはポケモンバトル。
完全なメタが機能すると手も足も出ない事は充分ありえる。
一先ずは、まず10勝を目指すべきだろう。


 「はぁ!」

轟の相手はモンジャラ、全身を蔦で覆い、それを触手のように使う。
良くエロ同人で使われるみたいに恋なら色んな意味で危ない相手だろう。
だが、相性有利な轟は蔦に両手を絡まれながらも右足に炎を滾らせ、サマーソルトキックでモンジャラをかち上げる!

ジャッジ
 「モンジャラ戦闘不能!」

ジャッジがコールすると、最後の敵であったモンジャラも消えた。
その後いつもようにジャッジは近寄ると、ポケモンの回復を行う。


 「不思議ですよね、どういう原理で回復するんですか?」

ジャッジ
 「それは秘密です、私は施設運営を正しく公正に行うことが使命でして。それでは次は第一のボス戦です、覚悟はよろしいですか?」


 「第一のボス……!」

いよいよここまできた。
俺という戦力外を抱えながら、ここまで闘うのも大変だったろう。
しかしこれはまだ最初の関門に過ぎない。
俺は二人の顔を見る。
二人の顔は気負って等はいない、闘志を滾らせている顔だった。


 「行くぞ、お前たち!」


 「はい! 師匠!」


 「任せろ!」

俺達は次の階へと進む。
真っ白な空間で、何で出来ているのかも分からないバトルフィールド。
その中央には一人の人間に非常に近い男が立っていた。


 「俺は世界最強のゴーリキー! さぁ、かかってこい!」

やけにイケメンボイスのゴーリキーはそう言うと逞しい二の腕で挑発する。
成る程、ゴーリキーか、言われてみれば似ているパーツが目立つな。


 「お前だけか?」

ゴーリキー
 「その通り! だが心配ご無用! 俺はそこらの雑兵3人より強いからな!」

そう言うと豪快に笑った。
随分快活の良い男だな……。
ジャッジも何も言っていないので、とりあえず良いのだろう。


 「恋、いけるな?」


 「はい、任せてください師匠!」

相性で言えばゴーストタイプである恋が良い。
とはいえ不安の種が無いわけでもないからな。


 (今だ何一つ技が使えない……果たしてボス相手に通用するか?)

恋は前に出ると、いつものようにどっしりと構えた。
一方で相手はレスリングスタイル。
拳は高く、掌は開いている。

ジャッジ
 「それでは、第10戦目、開始!」

ゴーリキー
 「行くぞ!」

先ずはゴーリキーが先制、正面からショルダータックル!


 「ッ!」

しかし、ショルダータックルは恋の身体をすり抜ける!
霊体に格闘技は通用しない!
だが……あれは万能ではない。


 「イイィィヤァァ!」

ズダン!

凄まじい足踏みから放たれる掌打、ゴーリキーの不意を突いて放たれたそれを、ゴーリキーはクロスアームディフェンスで防ぐ!

ゴーリキー
 「ぬぅ!? 見た目に似合わずなんという威力! だが……どうやら触れる事は可能のようだな!」

ゴーリキーはすかさず、ミッドレンジから恋の腕を掴む!
そう、恋は霊体のまま殴れる訳ではない。
必ず実体化しないといけないタイミングがある。
あのゴーリキー、意外と頭の回転が良いな!

ゴーリキー
 「むぅん!」


 「うお!?」

そのままゴーリキーはなんと、片手で恋の腕を掴んだまま振り回し始めた。
凄まじい怪力の成せる技で、恋もその遠心力からは逃れる術がない!


 「アイツ、確かにやるな!」

轟も腕を組んで、この戦いを見守っている。
ゴーリキーは徐々に回転速度を上げると、雄叫びを上げて恋を投げる!


 「くうう!?」

恋の身体は7メートルは飛んだだろう。
如何に体重が軽いとはいえ、凄まじい怪力だ。
恋は地面に当たる直前、自らを影に変える。
ダメージを完全に消せるかは分からないが、そのまま影となった恋はゴーリキー向かう!

ゴーリキー
 「ええい! 面妖な奴め!?」


 (ゴーストタイプだからな……)

マーシャドーというポケモンは影に擬態する。
その性質はゲンガーに近く、闇に潜むダークライとは少し違うようだ。


 「はぁ!」

恋はゴーリキーの目の前で姿を現すと、強烈な垂直キックを放つ!
それはゴーリキーの顎を捉え、相手の頭が跳ね上がる!


 「クリーンヒット!」


 「いや、敢えて受けた! 何か仕掛けてくるぞ!?」


 「なに!?」

轟はそう指摘すると、確かにゴーリキーは密着距離から一歩も退いていない。
わざと受けただと?
俺には格闘技の手は分からん、だがゴーリキーの目は死んでいない!

ゴーリキー
 「お返しだっ!!」

ゴーリキーは口から血を吐きながらも、その手に闇の力を集め恋の頬を叩く!
遠心力の乗ったその威力は凄まじく、恋は回転しながら吹き飛ばされる!


 (くぅ!? なんて威力……!?)


 「しっぺ返しか! ゴースト対策があった訳か!?」

恋は地面に倒れると、フラフラしながらもなんとか立ち上がる。
だが、それはグロッキー寸前の姿だ。


 「行ってくる」

轟はそう言うと、素早く恋の後ろから肩を叩いて、ゴーリキーの前に出た。


 「お疲れさん、恋」


 「め、面目ありません……」


 「恋ッ!」

俺は急いで恋に駆け寄ると、恋はフラフラと俺に倒れ込んだ。


 「御免なさい……師匠」


 「気にすんな、後は轟に任せろ」

俺は恋を抱きかかえると、後ろへと下がる。
轟は今、徐々に熱量を上げている。
足下を見れば、陽炎が立っているのが分かるだろう。
より強い相手を見て、その闘志を燃やしているのだ!


 「レスリングか、強ぇな」

ゴーリキー
 「無論! だが、本当に強いのは俺だからだ!」


 「へ……OK」

轟は帽子を被り直す。
赤いキャップを深く被り、やや前屈みに構えた。

ゴーリキー
 「行くぞ!」

ゴーリキーもまた応えるように、突進した!

ゴーリキー
 「むぅん!」

右拳を振りかぶり、弓形に引いて、ダッシュストレートパンチを放つ!
しかし、轟の動体視力は並では無い。
空手の回し受けに似た、円の防御でゴーリキーのパンチを逸らし返し刀で!


 「燃えろぉ!」

ゴゥッ!

轟の右足が燃えた!
まるで松明のように燃えてゴーリキーの頭部を蹴り抜く!

ゴーリキー
 「ぐおおおっ!?」

技の恋に対して、力の轟、その一撃はやはり凄まじかった。
ブレイズキックを受けたゴーリキーは吹っ飛んで倒れる。


 「……いや、跳んだな?」


 「跳んだ?」


 「ヒット直前、ゴーリキーは自分で跳んだんです……だから吹き飛んだ」

恋はそう解説すると、倒れていたゴーリキーはゆっくりと立ち上がる。

ゴーリキー
 「やるな! 直撃なら一撃でやられていたかもしれん!」

そう言うと、ゴーリキーは足下に口に溜まった血を吐いた。
そして首をコキコキと鳴らすと、急に態勢を低く構えた。


 (あれ、レスリングで見る構え)

ゴーリキー
 「レスリングで最も恐ろしいのはタックルだ、一気に地面に倒し関節技で決める……シンプルで強力だ!」


 「……成る程」


 (轟が冷静?)

俺は轟の様子を見て、この緊迫感を理解する。
轟は冷や汗を流しているのだ。
どんどん熱くなっていく男が、危険を感じている。
それ程にゴーリキーは轟にプレッシャーを掛けているのか。

距離4メートル、両者はジリジリと距離を詰めていく。
やがてお互いの危険距離に接触すると……両者は動いた!


 「バーニング!」

轟は燃える足でハイキック!

ゴーリキー
 「ッ!」

しかしそれを上回り、凄まじいスピードでゴーリキーは轟の腰をロックした!

ゴーリキー
 「貰ったぞ!」

そのままゴーリキーは流れるように轟の後ろに回り……轟を引っこ抜く!


 「人間アーチ! スープレックスホールド!?」

通称ジャーマンスープレックス!
ゴーリキーは轟の体重を易々と引っ張り上げ、そのまま頭から落とした!

ズゥゥン!!


 「がはっ!?」

地面はマットではない!
硬いのだ! そのダメージは殺人級のはず!
轟は血を吐き、ドサリと倒れた。


 (つ、つぇぇ……コイツ冗談じゃなく、本気で強い……)

轟は動かない。
一方で冷や汗を掻くゴーリキーは立ち上がる。
ジャッジはまだ裁定を迷っているようだ。


 (でも、なんでだろうな……なんで笑っちまう?)

ゴーリキー
 (こいつ? 笑っている?)

轟は倒れながら笑っていた。
そして、徐々に熱量が回復していく。


 「あ、相手が強ければ強い程燃え上がっちまう……どうしようもなくなぁ!」

轟はゆっくりと立ち上がると、全身から陽炎を放っていた。
遠距離からでも分かるほどの熱量。


 「猛火の特性が発動したのか……!」

バシャーモの特性は炎御三家と呼ばれるポケモン共通の猛火。
ピンチになれば炎技の威力を上げる……しかし逆に言えばもう耐える体力は無い!


 (頑張れ……轟!)

俺は祈るように轟の勝利を願った。
だが轟は両手をダラリとして、ただその場に立ち尽くしている。

ゴーリキー
 「なんという熱量……しかし!」

ゴーリキーは怯まない!
常人なら倒れかねない熱量の中で、二人の偉丈夫は対峙している。

ゴーリキー
 「二度は耐えられまい!」

先に動いたのはゴーリキーだ!
ゴーリキーは素早くタックル、しかし轟はふらりと後ろに倒れていく。


 「へ……熱すぎて火傷すんなよ……!? 全熱量……持ってけぇ!!!」

完全に不意を突いた。
倒れる轟を呆然と見るゴーリキーの目の前に轟は右手を翳した、その直後!

ドォォン!!

それは爆発だった。
熱された空気が急激に膨張して、爆風生み出す。
そして衝撃波はフィールド全体に及んだ!


 「くうう!?」


 「きゃあ!?」

俺は恋が吹き飛ばないように、必死に盾になった。
爆風が止むと……そこに立っていたのは。


 「はぁ、はぁ」

立っていたのは轟だ、ゴーリキーは大の字に倒れている!

ジャッジ
 「ゴーリキー戦闘不能!」

ジャッジがそう宣告すると、ゴーリキーは消滅した。
いきなりとんでもない難敵だったが、それでも勝ったのは轟だ。


 「やったな! 轟!」


 「……も、燃え尽きたぜ」

轟はそう言うとドサリと前のめりに倒れた。
土壇場で修得したオーバーヒートにより、轟の体温は急激に落ちていた。
俺はすかさずジャッジを呼ぶ!


 「ジャッジ! 直ぐ手当を!」

ジャッジ
 「ただいま!」


 「う……く?」

ジャッジは轟に近寄ると、轟の身体は一瞬で治療される。
ついでに俺と恋も回復し、改めて第一関門突破だった。

ジャッジ
 「次の階層は戦闘はありません、また訓練場との中継ポイントになります」


 「中継?」

ジャッジ
 「一旦戻る場合はポータルをご利用ください。またポータルは負けるまで有効ですのでご了解ください」


 「ふむ」

ようするにゲームにおける中断か。
戦闘が終わればダメージこそ回復するものの、連戦の精神的疲労は隠せない。


 「なんか怠い……兎に角休めるなら休もうぜ」

轟はズレた帽子を被り直すと、階段に向かった。
あの轟がここまで疲労したのだから、凄まじい相手だったんだな。


 「轟の言う通り、一先ず進みましょう」


 「そうだな」

俺達はそう決めると、階段を下っていく。
階段を下ると、再び暗くなってきた。


 「何か異変は感じるか?」


 「空気が変わった気がするな」


 「でもなんだか清涼な風が流れているような……」


 「風?」

それは階下から吹いていた。
俺は意を決して階段を下ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


 「滝……だと?」

10階までの無機質さとは異端の自然がそこには広がっていた。
広さは同じくらい、しかし滝が設置されており、円の外周には植物が密生している。
足下には水路が張り巡らされており、風の正体はここのようだ。


 「わぁ♪ 凄い……青空が見えますよ!?」


 「は? ここって地下だろ?」


 「突っ込むだけ無駄、ここはそういう世界」

そこは例えるならポケモンバトルレボリューションに登場するコロシアム、ウォータースタジアムのようだ。
多分自然の力でハイドロポンプ出るな、ここ。


 「しかしまぁ、確かにブレイクタイムにゃもってこいだな……ん?」

轟が何かに気付く。
俺達は轟の目線を追うと、そこには老人がいた。

老人
 「そこの方々、あなた方も閉じ込められたのですかな?」


 「も? という事はご老体も?」

その老人は俗に言うチャイナ服を身に纏っていた。
腰が曲がっているのか、背は低く感じ、しかし好々爺とした顔と髭が目立つ。
昔の中国人が付けていたような帽子を被り、帽子から白い耳がチョコンと生えていた。
異様に長い袖は先端がダブダブだ。
推測出来る種族はコジョントだろうか?


 「え? 嘘!? 貴方中老師では!?」


 「この爺さん知ってるのか?」


 「老師中と言えば……」

そうだ、恋が見よう見まねで使う清山拳の先代伝承者。
て……既に故人じゃなかったっけ?

老人
 「ほっほ♪ いえいえ、私は旅の武芸者でして」


 「中老師ではない?」

老人
 「私は老(ラオ)と申します、まぁコジョントという種族の者でして」


 「あ、私は恋と言います! その……種族は、多分マーシャドー……」

相変わらず確信持てないのな。
十中八九そうだと思うが、記憶喪失じゃ仕方ないか。


 「俺は轟、バシャーモだぜ!」


 「俺は常葉茂です、えぇ種族ねぇ……ホモサピエンスです」


 「ほお、変わった三人だ……もしよろしければ、この可哀相な老人も仲間に加えてはくれませぬか?」


 「……だとよ、どうする?」


 「むぅ……」

いきなり仲間に加えてくださいと来たか。
まぁ正直言えば、ご老体と言えど仲間が増えるのは有り難い。
なにせ俺は役立たずも良いところ、なのに数あわせに入っているからな。
とはいえ、なんでこの爺さんいきなりここで現れる?
ジャッジと言い、最初からいなかったのは怪しすぎるんだが。
とはいえ、それで黒認定するのもどうかなとは思ってしまう。
人情か非情か……。


 「助けましょう! お爺ちゃん、私達に任せてください!」

俺が悩んでいると、恋は即決で決めた。
爺さんの両手を取ると、嬉しそうにブンブンと振っていた。


 「ほっほ、ありがとう、お嬢さん♪」


 「……まぁいい、人数足りないのも事実だしな」


 「この老、最善を尽くしましょう」


 (案外よくあるクソ強い拳法の達人かもしれんしな……)

生憎俺は轟程見る目はない。
一応轟の腹を小突いて聞くが。


 「あの爺さん、どう見る?」


 「分からねぇ……隙だらけにも見えるし……しかし達人のようにも……」

轟はそう言うと首を捻った。
その人間の所作だけで、相手の強さを推し量れる轟をもってしても難解なご老体か。


 (奇しくも格闘タイプ3人……これは因果か、それとも意図的なチーム編成か?)

俺は善悪の区別の付かない爺さんとそれすらも見ているだろう監視者の事を考える。
1回目を誤算としても、2回目の理由は?
何故マギアナがあんな目に合わなければならなかった?
最初は俺を殺す気だったようだが、今は何かを試している?


 (分からない……だが、俺の芯はいつだって真っ直ぐだ……必ず家族を取り返す!)



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#4 第一関門ゴーリキー! 完

#5に続く。


KaZuKiNa ( 2020/03/15(日) 17:27 )