突ポ娘外伝 - 第三章 閉鎖空間編
#3 技の大切さ

#3



バトルタワー逆走攻略。
本来バトルタワーは上から昇って行く物だが、今回は違う。
地下へ降っていく……これがタワーなのかとも思うが、ここはあらゆる法則の通用しない世界、考えるだけ無駄だろう。

そして俺と恋と轟の三人は最初こそ順調に勝ち進んだ物の、その陰りは6戦目にて唐突にやってきた。




 「うおおお!」

轟の猛攻、全身から炎を吹き上げ対戦相手に襲いかかる!
対戦相手はパンチポケモンのエビワラー。
ビーカーブースタイルと呼ばれる防御重視の構えで、轟の猛攻を凌いでいた。


 「ちぃ!? 亀みたいに閉じこもりやがって!」

当たれば豪快だが、外せば隙だらけな轟の攻撃に俺は危惧感を覚えている。


 (ルージュと戦ったアイツ、こんなに向こう見ずだったか?)

俺の記憶では轟は古武術のような戦闘スタイルで熱い性格とは裏腹に冷静な戦闘運びをする奴だった。
だが今の轟は冷静さなど無い。
あるのは眼前の敵を粉砕せんとする剥き出しの闘志だけだ。

エビワラー
 「ッ!」

轟の大きな蹴りの振り終わり、エビワラーが動いた!


 「まずい! ガードしろ!」


 「先にぶち込むッ!」

轟はガードを選択しなかった。
空中で駒のように周り、変則の二度蹴りを放つ……が!

エビワラー
 「ッ!」


 「コイツ!?」

エビワラーは素早くダッキング。
太ももで蹴っても、遠心力の乗らない蹴りに重さはない。
そのままエビワラーは渾身のストレートを轟の顔面に叩き込んだ!

ドスゥッ!


 「がぁっ!?」

錐揉み回転しながら、宙を舞う轟はそのまま倒れた。


 「やばい! 恋!」


 「は、はい! 行きますっ!」

轟は直ぐには立てない。
口から血を吐いており、直ぐに治療が必要な大ダメージだった。


 (相手凄く巧い……轟をああも簡単にいなすなんて……私じゃ無理!)

恋は轟とは対称的だ。
どっしりと構えて、相手の動きを見る。
エビワラーはステップをしながら、絶妙な距離を維持していた。


 (私がなんとかしなきゃ……私が!)

恋は意を決したのか動く!
震脚を踏むような重い踏み込み、そこから放たれる背筋の伸びた掌底!
エビワラーはブロックする……が!


 「いいいぃぃやぁぁ!!!」

恋の一撃はブロックを突き破り、エビワラーをくの字に曲げる!

エビワラー
 「!?」

エビワラーが悶絶した。
円の攻撃ではボクシングの防御を崩すのは難しいが、逆に線の攻撃は針の穴さえ通せるなら、防御をすり抜けられる。
戦闘スタイルの差が出たな。


 「トドメ!」

恋は頭が下がったエビワラーに拳を握る!
そのままそれを振り下ろす……が!
突如エビワラーの斜め上から暗黒のボールが恋に向かう!
不味い、恋は気付いていない!?


 「上だ恋!」


 「えっ? きゃあ!?」

恋は咄嗟に身を退いた。
シャドーボールは地面に当たると弾け飛ぶ。
直ぐさま敵も交代し、出てきたのは人体をまともに構成していないゴースだった。

ゴース
 「ゴッゴッゴ!」

ゴースはガス状の身体を顔のように変化させ、笑っていた。
浮遊するゴース相手に恋は戸惑いを隠せない。


 「こんなのどう戦えば良いの? 降りてくる所を迎撃する?」


 「恋! 相手は浮遊の特性だ! 一生降りてこん! 加えて奴はそこからでもお前を攻撃できるぞ!?」


 「そんな……きゃ!?」

そう言ってる間にもゴースの攻撃は続く。
ゴースはシャドーボールを生み出すと、それを恋に向かって数発放つ。

恋は動きを最小限に留める傾向がある……がそれが不味い!
一発目のシャドーボールを寸前で回避するも、その直後真横から円軌道を描いてシャドーボールが襲う!


 「きゃあああっ!?」

ドォン!

シャドーボールが直撃すると、黒い煙を撒き散らしながら、恋は前のめりに倒れていた。
当然だ、効果は抜群だからな……。

ゴース
 「ゴッゴッゴ!」


 「くっ!? はぁ、はぁ……」

ゴースは勝利を確信したかのように笑う。
恋はボロボロになりながらもなんとか立ち上がった。


 (ち……エビワラーにしろ、ゴースにしろ弱敵なのに、こうもやられるか!?)

俺はある決断をしなければならない。
この勝負は残念ながら負けだ。
悔しいが……この結果の意味が大きい。


 「ジャッジ! 降参だ!」


 「えっ!?」


 「な、に……!?」

二人が驚きの顔を見せるが、俺は曲げる気は無い。
ジャッジはそれを承認すると、両手を頭の上でクロスする。

ジャッジ
 「降参を確認!」

その瞬間、目の前が真っ暗になった!



***



気が付くと、道場に寝転がっていた。
俺は起き上がると、恋と轟もそこに眠っていた。


 「う……ここは?」


 「道場だな」


 「はっ!? 俺はまだやれ……れ?」

続いて轟も起きた。
どうやら怪我も治癒されたらしく元気な姿を見せてくれた。
つくづくチートな世界だな。


 「……くそ! クソォ! なんで降参した!?」


 「やっても負けが確定していたからだ」


 「俺はまだやれたぞ!? ジャッジだって戦闘不能とは言ってねぇ!」


 「カウンターの一撃で立てなかった癖にか!?」

俺は敢えて語気を強くする。
轟は直前の光景を思い出して、悔しそうに唇を噛んだ。


 「私も手も足も出ませんでした……」

恋も同様にゴースの戦術に何も出来なかった事を悔やんでいた。
俺は落ち込む二人の肩を叩くとこう言ってやる。


 「お前たちは弱いわけじゃない、事実当たれば一撃で、くらっても一撃では倒れなかった! にも関わらず負けたのはお前たちに技が無いからだ!」


 「ワザ? そんなもん一撃を当てれば必要ねぇ!」


 「だからお前は阿呆なのだぁ! その一撃のチャンスすら全て潰されて負けたのはお前だろうが!?」


 「うぐっ!?」


 「しかし技と言っても、ここには師匠になる人もいません……私達我流ですし、一体どうすれば?」


 「俺が師匠になってやる!」

その声に、二人はポカンとした。
まぁ当然と言えば当然よな。
それでも俺は、ポケモントレーナーの目線で彼らに教えられることはあると思っている。


 「お前、素人だろう?」


 「そうです! 凄く素人じゃないですか!?」


 「だが、お前らの何倍もポケモンの知識ならあるぜ? 敢えて言おう凡骨共! お前たち強くはなりたくないのか!? なんのために闘う!?」

轟&恋
 「ッ!?」

二人の心にも響いたか、二人はそれ以上不満は零さなかった。


 「勝ちてぇ……最強になりてぇ!」


 「私も……理由は分かりませんが、胸が熱くなります!」

二人には闘う理由がある。
それはとても不器用な答えかも知れないが、それが格闘ポケモン達の性なのだろう。


 「しかし実際どうするんだ?」


 「思うに、轟はまずディフェンスを覚えろ」


 「ディフェンスだぁ? どうも性に合わねぇんだが……」


 (しかしコイツはルージュの猛攻を凌ぎ、形勢を逆転する技前を見せていた……)

あの時のコイツはどう動いていた?
俺は記憶を遡り、あの準決勝を思い出していく。


 「円の動き……!」


 「あん?」

徐々に思い出される。
コイツは超人的な反射神経と両腕を使った動きでルージュを捌いたんだ。


 「轟! 足技を控えろ……構えは確か、こうだ」

俺はルージュ戦で構えていたバシャーモを思い出して、構える。


 「腰を下ろして、手は胸元ですか」


 「うーん、なんかしっくりこねぇ」

確かに、実際と記憶には乖離もあるからな。
とはいえ、轟のセンスの素晴らしさは知っている。


 「俺も正直記憶を手探りだからな……よし、轟! 恋と模擬戦だ!」


 「は、はい!」


 「へ! いいぜ!」


 「ただし轟は足技禁止!」


 「ダニィ!?」


 「荒療治だが、実戦の中から防御を見いだせ!」

我ながら無茶苦茶だが、轟の動体視力ならやれるはずだ。
轟は渋々だが、足をどっしりと据える。
恋は轟が攻めてこないと見ると、自分から摺り足で前に進む。


 「行きます!」

轟は教えられた通り構え、恋は真っ直ぐ直進する。
恋の掌底は轟の胸を狙うが、轟はそれを冷静にパーリング。


 「おっ?」

轟自身何かに気付いたか?
その後態勢を崩した恋はすかさず跳び蹴りを轟の顔面めがけ放つ……が、轟はそれを動体視力を駆使して頭一つ避ける。


 「イヤー!」


 「足技禁止……なら!」

轟は手に炎を滾らせ、炎のパンチを隙だらけな恋に放った。


 「きゃあ!?」

恋は炎に焼かれながら、道場に転がった。


 「なんかよく分からねぇけど……案外やれてる?」


 「よし! それを忘れるな! お前は格闘ポケモンとしては天才だ、その反射神経は特に特筆する!」


 「へ、へへ……照れるぜ師匠」


 「凄いです! 轟が防御に徹するだけであんなに闘いにくいなんて!」


 「それは恋の戦いがカウンター主体だからだろう」

恋は素早い、構えこそどっしりしているが、動くと風のようだ。
その拳速あってこそ、相手の動きに合わせて必殺の掌打を放てる。


 「は、はわわ……師匠、そんな事も分かるんですか!?」

恋は気付いていなかったのか口元に手を当て驚いていた。
改めてこの二人、闘争本能のみで闘っているのか?


 「因みに恋は技は何が使えるんだ?」

代表的な技ならシャドースチールだろうか。
ゴーストタイプの技で、相手が出そうとした補助技を奪うという横取りの効果を持った攻撃技だ。


 「お、お恥ずかしながら何も……」


 「なにも使えない?」

恋は小さくなりながらもコクンと頷いた。
ゴーストタイプなのにゴーストに無力って洒落にならんぞ。


 「がっはっは! 因みに俺は二度蹴り、ブレイズキック、炎のパンチが使えるぜ!」


 「あれ? オーバーヒートは?」


 「オーバーヒート? 修得してねぇぞ?」

と言うことは、あの大技は向こうの世界で修得したのか?
俺は今でもあの攻撃力は思い出せる。
恐らくあの大会でも最大の攻撃力を持っていたのは間違いなく轟だったろう。
オーバーヒートの熱量を拳一点に集中させて放つ、指向性の爆発。
今でもなぜルージュが倒れなかったのか不思議でならない位だ。
それだけに修得すれば大きな武器になるだろう。


 「技……重要ですよね、ポケモンですもん」

一方で技を使えない恋は落ち込んでいた。
俺は励ますように彼女の頭を撫でると、ある女の事を話す。


 「最初周りからも馬鹿にされる位情けないポケモンがいた、そいつもお前と同じように技が使えなくて弱いポケモンだった。でもそいつは夢のために諦めず頑張って技を習得して、やがて最強にまで上り詰めた」


 「最強……私もなれるでしょうか?」


 「俺は不可能じゃないと思うがね」


 「ッ! 私やります! 絶対技を覚えてみせます!」


 「まぁ頑張れ、俺は俺で型を試しているからよ」

轟はそう言うと再び防御の型を試し始めた。
体移動から、どう重心が動くか確認するように。


 「あの、師匠! 一緒に貯蔵庫に来てくれませんか!?」


 「貯蔵庫?」


 「師匠となら、何か分かるかも知れないでしょ!?」

恋はそう言うと貯蔵庫に走り込む。
俺は頭を掻きながらも内心は満更でもなかった。
恋はルージュや燐とそんなに歳も離れていないだろう。
そういう意味では俺からしたら子供も良いところ。
子供が元気にいてくれたら嬉しい物だ。



***




 「清山拳……ねぇ?」

それは恋がなぜか心引かれるという拳法の手引き書だ。
著者は麗水鳥とある、読みはリースイキンだそうだ。


 「この書は今は無き師、中發白(チュンファーパイ)の残した技を後世に残すため書とする……」

内容は恋が翻訳してくれる。
俺一人なら語学を学ぶだけで何カ月掛かるか分かったもんじゃない。
簡単な単語なら直ぐに覚えれそうだが、文章となると流石にな……。


 「イラスト付きか……これなら分かりやすいな」


 「恐らくですが、文字が読めない弟子に向けた教科書だと思うんです」

恋はそう言ってページを捲っていく。
その書には事細やかに様々な体技、修練法が記るされており、実戦すれば俺でも初歩なら体得できるかもしれない。
そして恋の動きはこの清山拳をベースにしていることが分かった。


 「お前、もしかして清山拳の門下生?」


 「あっ、その……正直記憶にないんですよね……でも大体の動きはマスターした……つもり、です」

段々と声が小さくなっていく恋。
それは正に彼女の自信の表れだろう。
彼女は自分に自信がないんだ。
轟が陽キャなら恋は陰キャ、まぁゴーストタイプらしいが。


 「実戦してくれる師匠がいれば一番良いんだが、なにせ通信教育のような状態だもんなぁ」


 「……」

恋は弱くはない。
むしろルージュに比べたら才能ありすぎだ、そこは流石幻のポケモン。
AS125B80他90という破格の対面性能を誇る600属だからな。
まぁ技が使えなかったらどうにもなんねぇんだが。


 「うん? この最後のページの技、七色に塗られてるな?」


 「幻の奥義神破孔山拳……老師中と伝承者瞳のみが体得したらしいです、が……ッ」

幻の奥義……と来ましたか。
なぜこのページだけカラーで塗られてるのか。
もしかしてゼンリョクワザか?
だとすれば本来Zリングを通してトレーナーの生命力を借りる大技だ、単体で撃とうものなら、まともなポケモンじゃ体得できないだろう。


 「私、少し身体動かしてきます……!」


 「え……あ」

恋はそう言うと一人で走り去った。
俺はそれを呆然と見届けるしかなかった。



***




 (う、く……時々なぜか胸が締め付けられる、あの技だ、神破孔山拳……あのページを見るとどうしてこんなに苦しいの?)

私はあの場所から逃げ出すと、道場を出た。
こうなったらいつも私はがむしゃらに身体を動かすしかない。
私は誰? 本当にマーシャドーなの?
清山拳と私……一体どんなつながりがあるの……?



***




 「この字が麗、んでこの字が中、でこっちが包」

俺は恋に読んで貰った書から、なんとか単語を覚えていった。
だが一つ気になることが出てきた。


 「瞳って誰だ? そんな名前何処にも見当たらねぇが」

しかし彼女は何度か瞳という人名を言っていた。
幻の奥義神破孔山拳の修得者だと。
だがこの教科書には中老師のみが書いてある。


 「これはどっちが矛盾だ?」

それは意味があるのか、それは無意味なのか分からない。
分からないが……一つだけ気掛かりがある。


 「アイツ……あの顔」

俺はページを開き、七色に輝く老師のイラストを見る。
そしてそれを見ていた時の恋の表情を思い出した。


 「……あんな泣きそうな顔、でも何故?」

分からない……でも、俺は拳を握った。
どんな理由であれ、あの子が苦しむのなら俺が払ってやる。
あの子の記憶、それが良い物か、それとも忘れたいほどの悪夢なのか。
いずれにせよ今があるのだ、俺は今の彼女を全力で支えよう。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#3 技の大切さ 完

#4に続く。


KaZuKiNa ( 2020/03/01(日) 21:40 )