突ポ娘外伝 - 第三章 閉鎖空間編
#2 バトルタワー

#2



太陽の無い世界。
時間も空間も意味が無く、あらゆる法則が正確に機能してない亜空間、そこに俺は閉じ込められていた。

轟はずっと訓練場で眠り、恋はきままに書物を読んだり、外で訓練を繰り返している。
一方で俺は、この世界がなんなのか、それを考察を続けていた。




 「はっ! やぁっ!」


 (恋の型……正確な所は分からんが空手や柔道じゃないな)

恋の訓練は非常にスピーディーな演舞にも見える。
その型は独特で該当する答えは出ない。
或いは我流だろうか? しかしそれにしては流麗な技だ。


 「恋、やっぱりそれだけ動いても疲れないのか?」


 「え? ああ……特には」

事実恋は随分激しく動いても汗一つ流さない。
そもそも疲れないという事は、無限に動けるという事でもあるが、その訓練で得られる物は何も無いのではないだろうか。


 (食っても腹は膨らまない、味覚も機能しない、眠気も増えない……無茶苦茶と言えば無茶苦茶だ)

正直、これは俺にどうにか出来る問題なのか?
俺は恋の訓練を見ながら空を見上げるも、そこは暗黒が広がるのみ。
関係あるかは知らないが、ここには光はないにも関わらず暗くはない。
お陰でこの世界には影が存在しない。
言ってみればゲームの世界だな。
それも少し古いゲームのような質感。


 「……たくよ、どうすりゃいいんだか」

俺はゆっくりと腰を上げる。
すると、恋は訓練を止めて直ぐに俺に近寄ってくる。


 「何かするんですか!? 手伝います!」

体感時間推定20時間程だが、段々恋のことを理解してきた。
この子はとても甲斐甲斐しい子だ。
誰かを助けたり、誰かのためになるのが好きなのだろう。


 「よしよし、その気持ちは嬉しいぞ!」

俺はそう言うと恋の頭をぐしゃぐしゃと撫で上げた。
異様な巻き毛は上を向いており、煙かなんかみたいだな。


 「きゃん♪ 照れますよ〜」

恋は目を細めて喜んでいた。
どいつもこいつも何故かナデナデが好きだよなぁ〜。


 「ゲームだとしたら、クリア条件があるはずだよな?」


 「ふえ?」

俺はそう言うと、山の上の道場を見る。
普通に考えて、答えがあるならあそこだろう。



***




 「……トキワのあんちゃん、戻ってきてどうしたんだい?」

轟は相変わらず道場で眠っていた。
しかし俺の足音を聞き分け、目を開ける。


 「お前、よくずっと寝てるよな」


 「仕方ないさ、ここではやることもない」


 「それなら本を読んだりすればいいのに……」

恋はいつも通り俺の真後ろに隠れると、そう小さく呟いた。
轟は聞こえたか聞こえなかったか分からないが、ゆっくりと気にした様子もなく立ち上がる。


 「トキワが来るまで、ここは本当に何もなかった……だが、俺の直感では何かが動き出した気がするぜ」


 「直感ね……」

俺はギシギシと足音を立てながら、道場の中を探る。


 (貯蔵庫に炊事場……そして表の訓練場……)

俺は頭の中に見取り図を思い浮かべる。


 「あの? 何かおかしな物でもあったんですか?」


 「二人に聞きたいんだが、逆に何かおかしな物はなかったか?」


 「おかしな物ねぇ……?」


 「特には……」

二人とも頭を捻るが、特には無いようだ。
ここでは頭脳労働者は俺だけらしく、結局俺が解決するしかねぇのか?


 「ええい! ならば総出で家捜しじゃー! 轟も手伝え!」


 「家捜しねぇ」


 「では、私は貯蔵庫の方を」


 「俺は炊事場を担当する」

そう言うと二人はそれぞれ部屋を捜していく。


 「怪しいと言えば、この訓練場も調べねぇとな……」

俺はギシギシと鳴る、今にも床が抜けそうな道場を調べた。
しかし隅々まで調べても、隠し地下室のような物は見つからなかった。


 「駄目だ……やっぱりなんも怪しい物なんて無いぜ?」

轟も捜索が終わったのか、そう言って頭を掻いていた。
後は期待できないが恋の方だが。



***




 「……清山拳、どうして私は憧れを抱いているんだろう?」

私は貯蔵庫に行くと、乱雑に置かれた書物の数々を見る。
一冊づつ纏めると、私はそれを本棚に仕舞う。


 (不思議だよね……私って何者なんだろう……どうして文字が読めるのかな?)

本は轟や茂さんは読めない。
私だけが読めるが、それだけでは私が誰なのか分からない。


 「恋−? そっちはー?」


 「あっ、その……」

しまった、まだ調べ終えていないのに茂さんが入ってくる。


 「貯蔵庫なのに暗くないって不思議だよな」


 「い、一応窓はありますが……」

ほぼ採光用だろう小さな窓はある。


 「で? 何か怪しい物はあったか?」


 「すいません、まだ……あ!?」

私はその時、足を何かに取られてしまう。
何かのビンを踏み、私は後ろ倒れ……。


 「恋ッ!?」

茂さんが飛び出した。
私は為す術なく、茂さんに抱きかかえられて、乱雑に積まれた荷物の上に倒れた。


 「怪我……ないか?」


 「は、はい」

私は顔を真っ赤にしてしまう。
こんな風にされたのは初めてで、とっても照れくさかったのだ。
しかしそれを見ていた轟はあきれ顔で。


 「なーに、やってんだか」


 「こ、これは不慮の事故でして!?」

私は慌てて立ち上がる。
すると、先ほど転ぶ原因になったビンが足下に当たった。


 「これは?」

茂さんはビンを拾うと、瓶の中には紙が入っていた。


 「なんだこれ……」

茂さんは瓶から紙を引き取るが、それを見て益々顔を顰める。


 「あの、見せて貰っても?」


 「ああ、恋なら」

私は茂さんから受け取ると、その紙に書かれた物を確認する。


 「力を示せ?」

それだけだった。
簡潔な文字で、それだけが書いてあるのだ。


 「力を示せだぁ?」

その直後だった。
ゴゴゴゴ……と訓練場の方から地鳴りがする。


 「何か、始まったらしいな」



***



イベントが進行したとでも思えばいいのだろうか?
俺達が訓練場に入ると、不気味な地下へと続く階段が出現していた。


 (階段? さっき調べた時にはこんなの無かったぞ?)


 「ははっ! 新発見じゃねぇか!」


 「あの……これはどういう事でしょう?」


 「……進めって事だろう。まぁ無味乾燥な無限を過ごすなら行く必要も無いだろうが」

俺はそう言うと階段に向かう。
例え罠だろうが、俺は足を止めるつもりはない。
これまで約束してきたポケモン娘たちのためにも俺は前へと進まなければならない。


 「ヘ! 良いねぇ! 面白そうだ!」


 「行くしかないのですね……」

二人はそれぞれ喜怒哀楽が別れていた。
轟は楽しそうで、恋は不安そう。
二人の性格差だろうな。
俺は先頭を歩きながら階段を下っていく。
階段は質感の分からない真っ白な物だった。
そして段々と、暗くなっていく。


 「暗くなる? 光が機能しているのか?」


 「でも、なんだか落ち着くような……」


 「灯りが必要なら、ほれ!」

一番後ろを歩く轟はそう言うと、掌から炎を滾らせた。
バシャーモらしく炎は手足から出せるため、人間松明と言った所か。
しかし、それにより光源から影が産まれる。
真ん中を歩いていた恋は急な明るさに怯えた。


 「きゃあ!?」

その瞬間、恋が消えた。
まるで炎を怖れるようにぽつんと轟と俺の間に隙間が生まれる。


 「恋が消えた?」


 「おいおい? 何が起きやがった?」


 「あの〜、ここです〜」

恋が消えた事に困惑すると、恋の声が聞こえた。
それは俺の影だった。
影が喋ったのだ!


 「俺の影が喋ったぁ!?」


 「影じゃないです〜」

恋は驚いた俺の影からニュッと生えた。
影から顔だけだした恋はまだ炎に怯えているようだった。


 「お前……影に潜めるのか?」


 「よく分からないけど……そうみたいですぅ〜」

恋はそう言うと影に潜った。
この習性、該当するにはゲンガー、ダークライだろうか?
いや……それとも。


 「お前、マーシャドーか?」


 「ふえ?」

マーシャドー、それは第七世代アローラ地方で登場した幻のポケモンだ。
幻と言っても個体数が少ないとか、希少価値という意味ではないようで、その位置づけはシェイミやダークライに近いかもしれない。
曰く人の影に潜むポケモンらしく、滅多に姿を現さないが影のあるところのマーシャドーはいるという。


 「とりあえず……降りれる所まで降りよう」

俺は恋の考察も兎も角、とりあえず先へと進んだ。
やがて、進行方向から光が見えてきた。


 「……開けてきたか?」

やがて階段が終わると、そこは真っ白な空間だった。
円形状で、真上にライトが焚かれた、無機質な空間。
そこに三人が降り立つと、目の前にある人物が現れた。


 「ようこそバトルタワーへ!」

そいつは白いシャツに赤い蝶ネクタイをした男だった。
まるでジャッジのようで、俺達は訝しむもその男は説明を続ける。

ジャッジ
 「ここではシングルバトル3人で70戦連続踏破に挑んで貰います! バトルは終了後に必ず回復しますのでご安心を!」


 「……まさにゲームかよ、巫山戯てんのか?」

俺は呆れかえって頭を抱える。
だが、轟は前に出ると拳をぶつけた。


 「良いじゃねぇか! ようは勝てば良いんだろう!?」

ジャッジ
 「その通り! 70戦連続勝利の暁には、貴方達の必要な物が得られるでしょう!」


 「その前に……お前誰だ?」

俺は男を睨みつけると、男は蝶ネクタイを弄りながら余裕の笑顔を浮かべ答えた。

ジャッジ
 「しがないただのジャッジですよ」


 「茂さん……?」

恋は影から全身を出すと、そっと俺の後ろから不安そうに顔を上げた。
俺は拳を握るも、溜息とともに解く。


 「二人とも、やるぞ!」

ジャッジ
 「それではシングルバトル第一戦開始!」

ジャッジは腕を上げると、俺達の前に三人のポケモン男が現れた。
どうやら対戦相手らしく、まず大きな角が額に生えた男が前に出てきた。


 「先ずは俺が行く!」


 「気を付けろ! 多分サイホーンかサイドン! お前地面弱点なんだからな!?」

前に出た轟は分かっているのか分かっていないのか。
いずれにせよ軽快なフットワークで、嬉しさを全開にしていた。


 (ルージュを瀬戸際まで追い詰めた奴だ……弱いとは思わんが)


 「ヘェイ! カモンカモン!」

帽子を調整し、手振りで挑発する轟。
身長があり、身体はやや細身。
対して相手は身長160センチ台、横に太くて筋肉の塊のようなポケモンだ。

サイホーン
 「うおおお!」

ドスンドスンと足音を立てて、直進するサイホーン。
轟は冷静にその動きを見ていた。
額に生えた大角はサイを思わせる、躱さなければ人体など容易に貫通しそうだ。


 「はぁ!」

しかし轟に怖れはない。
むしろ敵と自分の正確な力量さ推し量り、顔面を蹴る!

サイホーン
 「ぐ!?」


 「やったか!?」


 「まだです!」

俺の影に半身を埋めながら見ていた恋は、熱くなってきたのか叫んでいた。
やっぱりこの様子、格闘タイプであるマーシャドーの感じだな。


 「フィニッシュ!」

カコーン!

強烈な足蹴りがサイホーンの顎を跳ね上げた。
二度蹴りだ、一発目は左の距離調整を目した蹴りで、二発目が本命。
本来バシャーモの得意とする戦闘スタイルだった。

ジャッジ
 「サイホーン戦闘不能!」

ジャッジがそう宣言すると、サイホーンは一瞬で消え去る。


 (あの消え方……今までと違うな)

俺は相手の消え方を見て、この世界の秘密を探ろうかと思う。
とはいえ、消え方一つで特異性が見いだせれば苦労はしない。
ご都合主義が働くとはいえ、なぜこんな事させられてるのか不明だからな。


 「ヒュー! 良いねぇ、この感じ!」


 「轟! 身体に異変は無いな!?」


 「ねぇよ! むしろヒートアップしてきたぜ!」

轟はバシャーモ故にやはり熱しやすいのだろう。
格闘タイプとしては理想的かもしれないが、知らずにダメージが蓄積するかもしれん。
俺は次の相手を見ると、相手は小さな鼠のような前歯を持つ少年。
先端の丸まった長い尻尾は紫色で、該当するのはコラッタだった。


 「轟! 一旦交代!」


 「ああん!? なんで!?」


 「恋の能力も見たい!」


 「はっ!?」

轟はそれを聞くと恋を一瞥。
溜息交じりに後ろに高くバックステップした。


 「ちっ、交代だ!」


 「という訳でやれるな?」


 「で、でも私なんかより轟の方が……」


 「訓練の通り、やってみれば良い!」


 「……分かりました、行きます!」

恋はそう言うと影から飛び出し、相手の前で独特の構えをする。
拳は腰より少し上で、僅かに前に出て、足はどっしりと地面を踏みしめている。
轟は常に動のスタイルならば、恋は静のスタイルなのか?

コラッタ
 「やぁ!」

コラッタはバトル相手を定めると超スピードで突撃した!


 「速っ!?」

しかし、コラッタの身体は恋をすり抜ける!
困惑する両者とは大局的に俺は確信を得た。


 「どうなってる? すり抜けたぞ?」

轟も分かっていないようだ。
記憶喪失なのもありそうだが、やはり野性のポケモンはタイプ判別出来ないという事だろうか。
この辺りは最新作でも野性ポケモンはタイプを見てない節があるからな。


 「ゴーストタイプにノーマル・格闘タイプの技は無効だ、コラッタが使ったのは電光石火だろう」

だからすり抜けた。
自分の事さえ分かっていない恋まで驚いたのは意外だったが、恋は相手の後ろを取った。


 「恋! ぶちこめ!」


 「はぁ!」

恋は咄嗟に震脚を踏むように、真っ直ぐ伸ばした右腕が相手の顔面を捉えた!

ズダンッ!

コラッタ
 「ッ!?」

その威力は凄まじく、相手が軽いとはいえコラッタは4メートルは飛び、そのまま転がって動かなかった。

ジャッジ
 「コラッタ戦闘不能!」


 「あ……」


 「よし! 良くやった!」


 「あ、あはは……」

恋は「これ自分がやったの?」と言った乾いた笑いを浮かべていたが、やはり下地は良く出来ている。
轟と比べても遜色は無いだろう。


 「おい! 次は俺! 俺だよな!?」

轟は速く戦いたくてうずうずしているようだ。
俺は相手を確認すると、相手は背中に蕾を背負った少年だった。
二本のツタを背中側から出しており、大凡フシギダネと想定される。


 「良いだろう、恋、轟と交代!」


 「りょ、了解!」


 「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!」

入れ替わるように、高い跳躍力を持って相手に襲いかかる轟。
思いっきり悪役染みているが、本人は実に楽しそうだ。


 (とは言え70戦連続勝利、金シンボル相当か)

思い出されるのはバトルフロンティア。
当時俺はまだガキだから当然だったが、それは到底攻略出来る物ではなかった。
それ程熟練者すら唸らせらせた施設、それがバトルタワー……。
しかしバトルタワーは上に昇って行く筈では?
勝てば下へと進んでいく……一体観測者は何を考えている?



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#2 バトルタワー 完

#3に続く。


KaZuKiNa ( 2020/02/24(月) 11:18 )