突ポ娘外伝 - 第二章 歪められた世界編
#11  歪んだ世界の終幕(クローズ)

#11



テレビ
 『皆さん見て下さい! 遂に我々は日本の完全奪還に成功しました! あの声をお聞きください!』

新年を迎える頃、戦況は遂に人類側が日本列島からPKM合衆国連合を追い出した事を生放送で伝えていた。


 「……こっちじゃもう久しく戦闘はなかったとはいえ、これで日本から戦いもなくなるか」

ウツロイド
 「聞けば、大陸の方でも劣勢だと聞きます」

クイタラン
 「ヨーロッパの方からユーラシアの占領地への一斉攻撃も前に報道してたよね」


 「正にオデッサ・ディ」

今やどこにもPKM合衆国連合が安心して暮らせる場所など無くなった。
もとより流浪の民であるPKMには母国はなく、そして数において絶対的に負けていた。
本格的に身の振り方を考えないといけないだろうな。

クイタラン
 「ウチも大丈夫かな?」


 「問題が起きるなら、俺が話を付ける」

PKM達の共同体は次第に数を増やして、今じゃ50名を越えていた。
恐らくまだ増えるものだと考えられる。
俺の求めた答えこそがPKMと人間の共存だ。
本当は線引きの必要ない世界を用意したいが、俺ではそこまでは出来ん。
だが、いよいよもって覚悟を決めないといけないだろう。
日本復興は今だ遅々とだが、しかし着実に進んでいる。
新日本政府が樹立したのが2カ月前、奪還が完了したのならば開発は急ピッチに進むだろう。
その時、俺は共同体の皆を護れるだろうか?
否、護るのだ……!

ウツロイド
 「はぁ、いつまでわたくしも身分を隠せますかしら」

クイタラン
 「ウツロイド様はまだ良いですよ、私なんて尻尾あるし、舌なんて見られたら一発ですよ」

クイタランの尻尾は普段ズボンの下に隠してある。
それ程大きな尻尾はではないが、尻尾の先端が吸気孔になっており、そこから空気を取り込んで内燃機関を動かす。
PKMの面白い特徴だが、同じポケモンでも同じ特徴を持つとは限らない所か。
ヌメルゴン娘の伊吹は尻尾がないが、一方で別のヌメルゴンにはある事もある。
一方で伊吹は原種同様にぬめぬめとした粘液を出すが、出さないPKMもいる。
何故こんな亜種が産まれていくのか、俺にはさっぱりだが人間に近い方が今はマシというのも皮肉だな。


 「ズズ……兎に角もう力で解決すんのはウンザリだ、出来れば言葉で解決したいもんだぜ」

そう言って俺は熱いお茶を啜る。
昼下がり、相変わらず家は平和だった。



***



クローズ
 『直ぐ行くのだな』

私は日本を取り返す戦いに最後まで指揮官を務め、そして今、基地を出て行こうとしている女に別れの挨拶をした。

セーラ
 「当たり前でしょ、こっちの経験をもって祖国奪還に向かうわ」

セーラはこの後空港に向かうのだろう。
今だ復旧はままならず、国営の状況ではあるが、なんとかヨーロッパまでの空路は取り返した。

セーラ
 「ねぇ、アンタこそ……これからどうするわけ?」

クローズ
 『どうする……か』

セーラ
 「アンタ国王にだってきっとなれる、でもそんな気ないんでしょう?」

クローズ
 『ふ、なれるものか』

私は皮肉めいて笑う。
だがセーラには分からないでしょ。

いや、勘は良い女ですから……種族は気付いている?

セーラ
 「……特異点が消えた理由、本当に思想の違いだけ?」

クローズ
 『そうだ』

セーラは今だ特異点を気にしているらしい。
魔術的観点においても、やはりご主人様は実験動物なのか。
今の私に言えた事ではないが、やはりご主人様を利用しようとする者には虫唾が走る。

セーラ
 「……アンタの事はそんなに嫌いじゃなかったわ」

クローズ
 『私もだよ、魔術師はもっと外道かと思っていた』

セーラ
 「生憎あのクソ野郎よりは俗物的でまともだったでしょう?」

討希の事か。
彼は狂気の人物だが、筋の通った狂気がある。
少なくとも、目的がなければ虐殺のような真似はしない。
だが目的になるならば、PKMを平気で実験の犠牲にするサイコパスだ。
彼がいなければこんなに速く日本も奪還出来なかったし、なによりマギアナに勝つことは出来なかった。
狂った力であるが、この物語には必要な物だった。

セーラ
 「それじゃ、もう行くわ」

セーラは荷物を纏めるとそう言った。

クローズ
 『在籍記録は全部消しておく』

セーラ
 「グラッツェ(ありがとう)♪ 魔術師はこの世に存在しちゃいけないからね」

そう言ってセーラは出て行った。
セーラも消えて、次々と人々は次の生活を始めている。
物語は終わりだというのに、まるで次があるかのように……。

クローズ
 (ふふっ、やはり私には主人公は荷が重いのですね……この様なのですから)

私はご主人様の事を思い浮かべた。
特異点であるご主人様は存在するだけで世界の定理をねじ曲げる。
そう、あの人が現れてからこの世界の主人公はご主人様に変わった。
ならば私がすべき事は?

クローズ
 『ふふふ……あはは……アーハッハッハ!』

私はヘルメットに手を掛けて思いっきり引き抜いた。
久方ぶりの嗅いだ空気の匂いは新鮮に感じた。

兵士
 「一体どうしましたクローズ……な!?」

クローズ
 「なにを驚いていますの?」

私の様子を気にした守衛の兵士が部屋を覗くと、私と目が合った。
彼は信じられない物を見たという顔をしていた。

兵士
 「まぎ、アナ!?」

クローズ
 「そう、クローズの正体は魔王マギアナ……もうお膳立てはお終いです」

私はそう言うと守衛の兵士にラスターカノンを撃つ。
通常のマギアナは指がないが、私には指があるから人差し指から放つ。
それは細い光線となって守衛の兵士の胸を貫いた。

兵士
 「な、なぜ……あなたが……?」

クローズ
 「何故? PKMは悪なのでしょう? 殺したい程憎いのでしょう? アッハッハ!」

私は今だ銃すら向けない兵士に滑稽な笑い声を立てる。
この人にとって私は英雄、尊敬すべき相手だったのだろう。
所詮そういう風に造られただけの癖に!

兵士
 「一体どうした……うわ!?」

クローズ
 「邪魔です」

私はラスターカノンを十本の指から一斉に発射した。
ラスターカノンは壁を貫き、建物をチーズのように切り裂いた。

クローズ
 「アッハッハ! 恐れ戦くのです! マギアナは復活しました!」

私はそう言うと、壁を蹴破った。
駐屯基地は騒然としている。
私は構わず、真っ直ぐある場所に向かう。

クローズ
 (御免なさいご主人様、もしもまだ貴方のお力になれるなら、最後のケジメとして物語のエピローグに付き合って貰います)



***



魔王復活、それは日本人全てを絶望させるのには充分であった。

テレビ
 『ヘリコプターからの映像を見て下さい! マギアナです! クローズの正体はマギアナだったのです! それにしても今何処に向かっているのでしょうか!? マギアナは軍の攻撃を物ともせず東に進んでいます……あ、光りが――ザザァァァ!』

ダンッ!

その映像にテーブルを激しく叩いたのはウツロイドだった。
彼女は信じられないという顔で。

ウツロイド
 「何故生きている? 今更なお人間を害虫扱いか!?」

クイタラン
 「う、ウツロイド様……」

ウツロイドはすぐさま立ち上がる。
そして出口を目指す……が、俺はその肩を後ろから掴んだ。


 「どこへ行く?」

ウツロイド
 「決まってますわ、あの馬鹿に引導を渡しますの!」


 「お前一人でか?」

ウツロイド
 「お放しください! あの女だけは!?」


 「クイタラン、出掛ける用意しろ」

クイタラン
 「は、はい?」


 「ウツロイド、聞け! これはお前一人の問題じゃない! 全員の問題だ!」

俺はクローズが凶行に走った意味を考える。
映像のクローズはまるで、あの狂ったマギアナと同じに見えた。
つまりは、俺への当てつけだろう。
遂に全てを話すのか……それとも!


 「ウツロイド、直ぐに共同体に行って皆を集めてくれ!」

ウツロイド
 「茂様? それは……」


 「俺達は人間やPKMのために戦うんじゃない、ただ信じる正義のために戦う!」

クイタラン
 「信じる正義……」


 「ウツロイド! 俺達でマギアナ……クローズを止める!」



***



共同体のPKMたちは直ぐに集まってくれた。
夜遅くだというのに、彼らは一人たりとも文句を言わず、俺の前に集まる。


 「皆……今、マギアナが再び破壊活動を開始した! 俺はこれまで君たちに語った理想を思い出してくれ! これはその障害だ! 皆、もし君たちも全ての存在が分かり合える日を望むなら、俺に力を貸してくれ!」

俺は彼らに演説を行う。
正直、マギアナを人間に止めることは不可能だ。
嫌われ者のPKMたちでしか止めることは出来ない。
だが、俺の言葉を聞いた彼らは湧き上がった。

ロコン
 「たいしょー! 私の命預けるのだー!」

アバゴーラ
 「フハハハハ! よかろう! お前の盾となってやろうではないか!」

クチート
 「ふん! 勿論手伝いますわ、だって私はなんでも出来ますもの! オーホッホ!」

コータス
 「ほっほ、寧ろご迷惑をお掛けしないか不安です」


 「……皆」

皆、皆俺のために力を貸してくれるという。
俺は涙を拭いて、彼らに言う。


 「マギアナを止める! 皆出撃だ!」

PKMたち
 「「「おおーっ!」」」



***



街が紅く染まる。
クローズはマギアナとしての力を使い、都市一つのインフラを掌握して、それを破壊したのだ。
都市防衛隊も必死に抵抗したが、彼女には無力だった。

クローズ
 「脆い、脆いですわね……」

私は燃える街並みを歩いた。
力のない民間人は逃げ惑っている。
私はそんな民間人に指を向けた。
ラスターカノンは簡単にその命を奪うだろう。
だが……。

パルパルパル!

クローズ
 「アレは?」

それはメインローターが二つあるタイプのヘリコプターだった。
確か自衛隊の使うCH-47でしたかね?
複数編隊が此方に向かっている。
私は民間人を無視して、そちらに指を向ける……が。

クローズ
 「PKM?」

ヘリコプターの編隊の周囲を飛んでいるのは、飛行ポケモン達だ。
どうして人類軍とPKMが?
いや、これは間違いない……あの方だ!



***



バババババ!

駐屯基地を訪れた俺は、そこにいた司令官を必死に説得した。
マギアナを止めるため、それと現地の民間人を一人でも護るために。
俺の訴えはなんとか、通じ彼らは力を貸してくれた。
俺はヘリの中から、皆に最後のブリーフィングを行う。


 「いいか? マギアナを止める事は確かに大切だが、まずは民間人を助けるのが優先だ、水ポケモン氷ポケモンは炎上している建物の鎮火を優先! また岩ポケモン炎ポケモンは建物に取り残された負傷者を優先して救助してくれ!」

ウツロイド
 「マギアナはそれを許してくれますでしょうか?」


 「そのためには彼女の足を止めなければならない……それを担当してもらうのは」

俺は目の前で座る少女を見た。


 「クイタラン、君に決めた!」

クイタラン
 「は、はい!」

俺はマギアナに勝てる可能性があるのはクイタランだけだと思った。
彼女は奇跡を必ず起こして見せる、可能性は無限大だ。

機長
 「準備はいいか!? 降下頼むぜ!?」

輸送ヘリを操縦してくれた兵士は操縦席からグッドラックのポーズをとる。
俺は号令を発した!


 「全員降下! ミッションスタート!」

その声に皆を怖れずヘリの側面から飛び降りていく。
何人かは飛行ポケモンが下ろし、俺はウツロイドと手を繋いで飛び降りた。

ウツロイド
 「茂様! ご武運を!」


 「ああ、マギアナの前まで頼む!」

やがて、地表が近づくと、炎の熱気に噎せそうだった。
そして4車線はある主幹道路の中心に彼女は立っていた。

ウツロイド
 「……どうか」

ウツロイドはそう言うと、俺をマギアナの目の前に降ろして、飛び去った。
俺は改めて彼女と向き合う。


 「マギアナ……それともクローズか?」

クローズ
 「クローズです、今はそう名乗らせてください」

彼女はそう言うと礼儀正しく頭を下げた。
やはりその振る舞いは紛れもなくマギアナのそれだ。


 「何故急に不毛な事を始めた!?」

クローズ
 「うふふ……今更それですの? そもそもPKMは悪、おとぎ話を思い出してください、悪龍は倒されるために存在するのではなくて?」


 「違う! それは間違っているぞクローズ! PKMが悪なんじゃない! 人間にもPKMにも悪魔はいる! でもそれを良しとしない奴らだっているんだよ!」

クローズ
 「詭弁ですわ、であれば何故戦争は起きましたの? お互い存在を許せないのは何故?」


 「クローズ、ならお前は何故今まで人間の振りをした?」

クローズ
 「……やはり平行線ですか、仕方ありません……お覚悟を」

クローズはそう言うと、指を向ける。
恐らくラスターカノンの構え。
邪魔するなら俺も撃つという事か。
だが、それを良しとしない女はここに凄いスピードで迫っていた。

クローズ
 「あれは? はっ!」


 「クイタラン!」

それはクイタランだった。
闇夜は燃える街に紅く照らされ、クイタランは炎の鞭を引っかけ、その反動を使って跳躍を繰り返す。
さながらロープワークアクション、マギアナはラスターカノンを放った!
しかしクイタランは鞭を解除して、地面を滑る!
そのまま、足下を燃やしながらクイタランは俺の少し後ろに着地した。

クイタラン
 「マギアナ……私が相手です!」

クローズ
 「クイタラン? 貴方が? 貴方程度が?」


 「そうやって侮っていると、足下救われるぞ?」

クローズ
 「面白い! ならばラスターカノン!」

クイタラン
 「遅い!」

クイタランは一瞬でマギアナの目の前に移動して、蹴りを放った。

クローズ
 「くっ!?」

クローズは仰け反りながらもラスターカノンを人差し指から放つ。
だが、それは僅かにクイタランの顔の横を過ぎ、ラスターカノンは空に消えた。

クローズ
 「不意打ち!? ですがまだ!」

クローズは拳を握り、クイタランに殴りかかる!
しかしクイタランはその腕を掴み取る!

クイタラン
 「はぁ!」

そのままクイタランはクローズを投げる!
クローズはアスファルトに叩きつけられた!

クローズ
 「な!?」


 「だから言ったろう? クイタランはお前を止めるためにいるんだぞ!?」

クローズ
 「ふ、ふふ……流石、やはりご主人様は……ですが!」

クローズは倒れた状態からクイタランの顔面に蹴りを放つ!
クイタランはそれを回避するが、クローズはそこから驚くべき戦い方を始めた!


 「なんだ!? 地面からケーブルが!?」

クローズ
 「この街は既に掌握済みですわ! だからこうやって!」

クローズは既にソウルハートを通して、街と一体化していた。
機械化した街はクローズにとってはエサ同然。
地下を這う電線はクイタランの足を捉えると、電流を放った!

クイタラン
 「あああっ!?」


 「クイタラン!?」

クイタラン
 「くう!?」

クイタランは全身から熱波を放つ。
オーバーヒートがケーブルを焼き払った!

クローズ
 「アッハッハ! 隙だらけですよ!」

クローズはその両手をクイタランに向ける!

クローズ
 「フルールキャノン!」

それは十本の指から放たれたピンクの光。
光は収束して、クイタランに直撃すると爆発を起こした!

ドォォン!


 「くうう!?」

その威力は凄まじい。
クイタランは直撃を受けてしまった。
俺は血の気が引いた。

クローズ
 「うふふ、私の切り札、直撃すれば炎タイプといえど……っ!?」

爆風の中から何かが放たれた!
それは炎の鞭、炎の鞭はクローズの腕を掴んだ!

クローズ
 「あああっ!?」

クローズは特に炎に弱い。
腕からはプスプス黒煙が上がる。
爆風の中から姿を現したのは右手から炎の鞭を生成したクイタランだった。
クイタランは口から血を流し、全身ボロボロだ。
でも、立っていた。
全力のフルールキャノンを受けてもなお、彼女は歯を食いしばって耐えて見せたのだ。

クイタラン
 (はぁ、はぁ……危なかった、でも諦めない! 茂さんが選んだのは私! 私はもう絶対弱い私にはならない!)

クローズ
 「こ、の!」

クローズは左手からラスターカノンを放って、炎の鞭を切断するが、その右腕は焼け焦げていた。

クローズ
 「はぁ、はぁ……何故、です?」


 「?」

クローズは右腕を抑えながら、クイタランを真っ直ぐ見ていた。
そして俺は疑問に思う、彼女は本当に悪党か?

クローズ
 「なぜ、そこまで頑張れるの……?」

クイタラン
 「嬉しいから、茂さんに頼りにされて……こんな弱っちい私を選んでくれて」

クローズ
 「そう、貴方は取るに足らない脇役……掃いて捨てるような存在……その筈だった」


 「クローズ、答えろ……お前の目的はなんだ!?」

クローズ
 「物語を……終わらせる事です!」

クローズはクイタランに左手を向ける!
しかしクイタランは炎の鞭を振り回して、マギアナの胴を拘束する!

クローズ
 「あああっ!?」

クローズはピンクの光を空へと放った。
あまりのダメージに悶絶し、狙いを外したのだ。
そしてクローズはそのまま地面に倒れた。

クイタラン
 「はぁ、はぁ? やった?」

クローズ
 「ふ……くく、お見事です」

クローズは倒れながら、そう言った。
やがて、戦っている間に街は様子が変わり始めていた。

ウツロイド
 「避難誘導終わりましたわ! 鎮火も順調です……茂様、これは!?」

ウツロイドは高速で飛んでくると、途中経過を報告してくれた。
彼女は丁度倒れたクローズを見て、驚いた顔をした。

クイタラン
 「はぁ、はぁ! や、やりました……!」

ウツロイド
 「クイタラン……貴方が」

クローズ
 「ふふ、保美香さんですか……貴方も脇役でしたのね」

ウツロイド
 「保美香と呼ぶのは止めていただきたいですわ! なんでか分からないですけど、不快ですの!」

クローズ
 「当然です……だって貴方も私にとって憎き対象でしたから」


 「なんだと!? どういう意味だ!?」

クローズ
 「私はずっと羨ましいと思いました、幸せそうな茜さん達を、誰もが祝福するご主人様達を」


 「!?」

クローズは涙を流しながら……語り出した。



***



クローズ
 「私は醜い嫉妬の機械人形に過ぎません……」

それは懺悔だった。
勿論許して貰おうとは思わない。
私はこうなる運命を受け入れて、なるべくしてなったのだ。

クイタラン
 「嫉妬って……?」

クローズ
 「うふふ、この世界を造ったのが私だとして信じます?」


 「造った、だと?」

クローズ
 「ご主人様なら……この歪んだ世界に違和感があったでしょう?」

ご主人様は気付いているのか、顎に手を当てて考えた。
この世界における矛盾は私。
なぜ、私はこことは違う世界線の記憶があるのでしょうか?
どうしてご主人様は補正を受けていないのでしょうか?


 「……ここは本当の世界じゃない?」

クローズ
 「ご名答……ここは、本来ある世界線に上から造られた世界を被せた状態ですの」


 (そうか、だからスマホはそのままなんだ)

ウツロイド
 「それとわたくしになんの関係が?」

クローズ
 「保美香さん、貴方は本来はご主人様に保美香の名を貰って仕えているのです」

ウツロイド
 「な!?」

クイタラン
 「わ、私は?」

クローズ
 「さぁ? 先ほども言った通り、有象無象までは」

クイタランは本来なら早期に死んでいたはずの存在。
それが特異点と最初に関わった事で、運命が変わってしまった。
理は彼女をヒロインに変え、私は魔王に堕ちた。


 「まだ分からん! 造ったというがお前にその力があるはずがない!」

流石、ご主人様はよく推察されます。
その通り、この世界は私の願いが形になった世界。
これを造ったのは私ではない。

クローズ
 「ご、主人さま……奴に気を付けて、アイツは貴方を監視している……」


 「あいつ? アイツって!?」

クローズ
 「……正体は分かりません……ですが、いる……」

段々苦しくなってくる。
でも最後まで私は役割を熟さないといけません。

クローズ
 「はぁ、はぁ……ご主人様、なぜ私がクローズと名乗るか分かります?」


 「え?」

クローズ
 「それは、終幕を与える者という意味です!」

私はそう言うと胸ポケットに忍ばせた銃を取り出す!

クイタラン
 「危ない茂さん!?」



***



タァァン!

乾いた銃声が夜明けを迎える街に響いた。
それはクローズの最後の足掻きか?
違う……クローズが撃ったのは自分だった!


 「ば、馬鹿野郎! なんでだ!? なんで自分を撃った!?」

クローズ
 「う、ふふ……私が、死ねば……この世界は、消滅します……」


 「だ、だからって!?」

クイタラン
 「茂さん……もう」

クローズ
 「ふふふ……貴方の勝ち、でもざん、ねん……貴方も消える定め、なの」

クイタラン
 「私も造られた存在だから、か」


 「クイタラン!? お前身体が!?」

ウツロイド
 「わたくしもですか……」

見るとウツロイドだけじゃない、世界が白い光に変わっていっていた。

クイタラン
 「茂さん、ありがとう……私、消えちゃうけど、貴方に会えて良かった」


 「馬鹿野郎……こんなのってないぞ!?」

クイタラン
 「だったら思い出をください……私を忘れないように」

クイタランはそう言うと俺に抱きついてきた。
光りに変わりながら、彼女はそっとファーストキスをする。


 「忘れない……忘れるものか!」

クイタラン
 「ふふ、初めて、あげちゃった♪」


 「クイタラン……いや、お前には燐(りん)、この名をやる……絶対忘れんな!」


 「っ!? 忘れません……一生忘れませんからっ!」

彼女は泣いた。
大粒の涙を流して、笑った。

ウツロイド
 「妬けますわね……お先に行きますわ」


 「保美香!?」

ウツロイド
 「最後くらいそう呼ばれてやります――」

そう言って保美香は光りに変わった。
世界はすでに漂白されたように真っ白で、最後に残ったのは燐とマギアナだけだ。


 「茂さん……マギアナを」


 「マギアナ……済まない! お前には気付いてやれなくて!」

クローズ
 「あやまら、ないで……ください」


 「でもお前は辛かったんだろう!? だからこんな甲斐の無い世界を造って!」

クローズ
 「ッ!? ならば……約束、してくれますか……?」


 「何をだ? マギアナ……?」

クローズ
 「次は、幸せな世界を……」


 「する、約束する! 俺は絶対にこんな不幸を認めない! 認めてなるか! 絶対に見つけてやる! お前も幸せになれる世界線!」

クローズ
 「ふふ……」


 「茂さん……ご機嫌よう――」

そして、全ては光りに変わった――。



***



マギアナ
 (お父様……私ずっと疑問でしたの、なぜお父様は私をお造りになったの?)

それは消えゆく意識下での自問自答だった。

マギアナ
 (私、もしかしたら気付いちゃ4ったかも)

私はきっとご主人様を導くために産まれたのだ。
敢えて不完全なのは、ご主人様を困らせちゃうため。
ご主人様、こんな私のために一杯泣いてくれた。
そして約束もしてくれた。

ああ、次は幸せな世界に産まれたいな――。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#11 歪んだ世界の終幕(クローズ) 完

第三章に続く。


KaZuKiNa ( 2020/02/09(日) 18:30 )