突ポ娘外伝






小説トップ
第二章 歪められた世界編
#10 クイタランの特訓

#10



それは朧気な記憶だ――。
幸せそうな日常風景……ご主人様が茜さんのお腹を優しく擦っている。
母親の微笑みを得た茜さんの笑顔は誰もが微笑ましくて、本来恋敵だった筈の保美香さんや、凪さん華凛さんまで笑顔で祝福している。

それを私《マギアナ》はある感情で見てしまった……。

『あぁ、いっそ皆消えて、あの位置に私が入れたなら……』

それは……未だに自分の本当の感情なのか分からない。
でも私は不完全であり、その嫉妬を否定することは出来なかった。
誰しも望んだ幸せが手に入る訳じゃない……私はそれを理解した上で、この醜悪な感情を抱いてしまったのだ。

だけど……それを見て嘲笑う者がいた。
『アレ』はなんだったのか?
ある日、暗がりの中から現れて闇に埋もれた顔から不気味な声を放つ。

『特異点がそんなに恋しいか?』

私は何も答えられなかった。
ただ『アレ』は得がたい存在感で私を竦ませ、私は恐怖に近い感情を覚えた。
しかし『アレ』は私が何も答えなくても、全てを見透かして笑うのだ。

『お前の望みを叶えてやる、混沌のままに』

そうして『アレ』は闇を讃える腕を私に伸ばした。
その瞬間……世界は壊れたのだ。



***



ロコン
 「やー!」

クイタラン
 「くっ!?」

クイタランが強くなりたいと覚悟を決めた翌日、俺達はPKM達が暮らす共同体を訪れた。
俺は彼らにクイタランの相手をして欲しいと頼むと4人がそれに応じてくれた。
丁度彼らも隠匿生活に鬱憤が溜まっているのか、ギャラリーも含めて、工場前の広場でスパーリングが始まった。

最初の相手はロコンちゃん。
幼いが、小柄ですばしっこさでクイタランを翻弄する。


 「クイタラン! 炎の鞭で動きを止めろ!」

クイタラン
 「はぁ!」

クイタランは右手に炎の鞭を生成すると、それは別の生き物のように蠢いた。
普通の炎は出した後自由に制御することは出来ない。
だがクイタランはこの鞭に限ればそれを可能とする!

ロコン
 「きゃ!?」

炎の鞭はロコンちゃんの足を掴んだ!
そう掴む、クイタランの炎の鞭は相手を掴み拘束出来る。
炎はそのままロコンちゃんを苦しめるが、それ自体は同じ炎タイプのロコンちゃんにはあまりダメージがない。
だが、この技はヒット確認から繋げる事に本領がある!

クイタラン
 「はぁ!」

ロコン
 「わぁーっ!?」

ロコンちゃんは鞭に足を取られ、そのまま大きく持ち上げられた。
放物線を描き、ロコンちゃんは地面に叩きつけられた。

ロコン
 「やーらーれーたー!?」

クイタラン
 「ふぅ」

ロコンちゃんが大の字に倒れると、クイタランは炎の鞭を解除した。
まずは一本だな。


 「国へ帰るんだな、お前にも家族がいるだろう」

ロコン
 「うぇぇん! たいしょー!」

ロコンちゃんは割とケロッとしており、そのまま起き上がると直ぐさま俺に抱きついてきた。


 「君は良くやったよ、最高の少女さ」

そう言って頭をナデナデし労うと、ロコンちゃんは尻尾を振って感情を表した。

ロコン
 「えへへ〜♪ ナデナデ〜♪」

クイタラン
 「むー! 次っ!」

クイタランはロコンちゃんを意地らしく睨むと、直ぐに次の相手を呼んだ。
どうにも焼いてんのか?
後でちゃんとフォローしてやらんとな。


 「情けねぇ! こんなチビ相手にー!」

次に出てきたのは兎に角デカい、クイタランが小さいんじゃなくてお前がデカいんだ。
2メートル超す大柄なアバゴーラのPKMだ。
頑丈な岩の甲羅をアーマーのように着込んでいるが、実は脱着可能で、亀としてはどうなのかというPKMだ。

アバゴーラ
 「所詮奴は我々の中では最弱!」


 「もうソードマスターネタ古いと思います!」

とはいえ二番手からいきなり相性最悪か。
アバゴーラは水岩タイプ、クイタランの炎は4分の1にされ、こっちは水だろうが岩だろうが抜群だ。

アバゴーラ
 「さぁ何所からでもかかってくるがいい!」


 「だそうだ、どうする?」

クイタラン
 「全力でぶつかる!」

クイタランはそう言うと炎の鞭を生成し、上から振りかぶる。
アバゴーラはその場から動かず、大きく振り下ろされた炎の鞭を両手でガードした。
炎の鞭は触れ続ける限り、継続して相手の身体を燃やして防御を下げるがアバゴーラは涼しい顔で笑んでいた。

アバゴーラ
 「フハハ! この身体に炎は通用せん!」

アバゴーラはそう言うと鞭を振り払い、全身に水を纏った。

アバゴーラ
 「では、反撃をさせてもらう!」

そのままアバゴーラはクイタランに向かって高速で突撃する!
アバゴーラのアクアジェットだ!


 「クイタラン!?」

クイタラン
 「く!? きゃあ!?」

クイタランは少しでも動きを止めようと鞭を振るうが、アバゴーラの純然たる質量を止めるには敵わず、アクアジェットを受け、横に飛び退いた。

アバゴーラ
 「直撃は免れたか!」

クイタラン
 「くぅ、こんのぉ……!」

クイタランはゆっくりと起き上がるとアバゴーラを睨みつけた。

ロコン
 「たいしょー! これってどっちが強いのだー!」


 「強いのは勝つ方さ」

ロコンちゃんはそんな俺にも分からん事を聞いてくる。
だが俺の解答に納得したのかロコンちゃんは「そっかー」と答えて、スパーリングに向き直った。

クイタラン
 「この……!」

しかしそれに触発されたのかクイタランは熱量を上げていく。
やがて、内燃温度が上がっていくと、頻りに炎の舌を外に出し始めた。
PKMとしてクイタランは口内の熱耐性が完全ではないらしく、舌を出して温度を下げなければいけない。
つまりこの状態はいよいよクイタランの力が引き出されてきた証である。
その証拠か、やがて口から白い煙も放出されていく。

アバゴーラ
 「フハハ! 噛み砕いてくれる!」

炎耐性に絶対の自信を持つアバゴーラは、高圧的な態度を崩さずドスドスと足音を立ててクイタランに迫った。
だが、距離4メートルという所で、クイタランは突然アバゴーラの目の前に瞬間移動した!

クイタラン
 「ウザイ!」

クイタランは完全に不意を突いて、アバゴーラの側頭部にハイキックを叩き込む!

アバゴーラ
 「が!?」

急所に当たった、そう言ってもいい会心の一撃に、アバゴーラは脳を揺さぶられたのか、そのまま前のめりに倒れた。

ロコン
 「たいしょー、今の技はー?」


 「不意打ち、かな?」

俺はクイタランが確か原作で使えた技で該当しそうだと思ったのはそれだけだった。
一応家族だと華凛が使えるが、奥の手なのか見たことがない。
原作なら寧ろメインウェポンのルージュとノワールに至っては使う気もなさそうな剣鬼どもだし……。


 「あの世でワイクルを見るが良い!」

ロコン
 「クイタラン、ウィーンズ!」


 「まーたく! これだから口だけの男って野蛮で嫌いですのっ!」

そう言って現れたのは、ここでは嫌に身なりのいい地面に付くほどのポニーテールをしたお嬢様だ。
ポニーテールとは言うが、ぶっちゃけそれは角だ。
欺きポケモンの名を持つクチートの少女で、普段は擬態しているがメインウェポンはあの刺々しい鋼の牙の生えた角である。
身長はロコンよりも低く、多分ここで一番の低身。
角含めるとそこそこなんだが。

クチート
 「ですが! 選ばれしこのわたくしが、貴女に敗北という二文字を刻んであげますわ! オーホッホッホ!」

今時逆に珍しい高ビー系お嬢様キャラ。
まぁ見ての通り内側で悠々自適に貴族同然に暮らしていたが、没落して追い出されたホームレスだ。

クイタラン
 「かえんほうしゃー、ががが!」

クイタランはあまりにも苛立ったのか、どこぞの懸賞金6万(後に25万)の賞金首のように両手から火を放った。

クチート
 「あっちゃーですわー!?」

クチートは文字通りテッドプロイラー(火炙り)され、踊り狂う。


 「つか、お前なんで炎に弱い癖に出てきた!?」

クチート
 「喧しいかしら!? そんな物この私には通用しませんもの!」


 「駄目だコイツ……早くなんとかしないと!」

ロコン
 「クーは口だけだからなー」

クチート
 「そこ! 略すんじゃありませんの! わたくしにはクチートという高貴な名が!」

クイタラン
 「ただの個体名の癖に……」

ボソッとそう呟くクイタランの言葉には明らかに毒が混じっていた。
外側で鉄砲玉同然に扱われたクイタランはトコトン貧しい環境を知っている。
だから内側に住む富を独占する奴らを特に毛嫌いしているのだろう。
ぶっちゃけただの私怨なんだが、クイタランも人の子だな。

クチート
 「あーもう! 当たれば一撃ですのー!」

クチートはなんと鎮火すると、角を振り回してクイタランに襲いかかった。
しかしクイタランはそれを冷静に見て、炎の鞭を振るった。
炎の鞭は角の顎に絡みつくと、クイタランは鞭を両手で持ってキツく縛り上げる!

クチート
 「ギャアー熱いー!? でも何かに目覚めそうですのー!?」

ロコン
 「何かってなんなのだー?」


 「子供は知らんでいい」

そのままクイタランは地面に引きずり倒されると、クイタランに引っ張られ、足蹴にされた。

クイタラン
 「ブタめが死んだぞ」


 「情け無用だな! おい!?」

ロコン
 「玉砕!」

クチート
 「くぅぅ……メガ進化さえ出来ればこんな奴〜……」


 「メガに頼ってる時点で第八世代絶望じゃねぇか」

ロコン
 「出演しているだけマシなのだー」

クイタラン
 「……」

クイタランは炎の鞭を解除するとクチートを蹴り転ばした。
地味に扱いが雑である。

コータス
 「ほっほ、やりますのぉ」

これを見ていた長老役のコータス爺さんは目を細めて笑う。
クイタランは確かに力を発揮しだしている……だが。

ウツロイド
 「では、最後の相手、任されましたわ」

4番手……最後に来たのはウツロイドだ。
これにはクイタランも戦慄している。
敵に回せばどれだけ恐ろしい女か身に染みて知っているだけに、今のクイタランじゃ正直勝てる気がしない。

コータス
 「ウツロイドさん、お願いします」

ウツロイド
 「ふふ、お互い後続を見守るばかりではいけませんものね」

クイタラン
 「ウツロイド様……」

ウツロイド
 「手加減はいりませんわよ? 無論わたくしも致しません」

本気でやるという宣言。
恐らくこの世界でも五指に入るであろう女の宣言は少なからず俺にも響いた。


 「クイタラン……お前を信じろ、お前の信じるお前を信じろ!」

クイタラン
 「私を信じる私……!」


 「俺はお前を信じる! お前は奇跡を呼ぶ女だ!」

クイタラン
 「茂さん!」

俺は強く手を握り込む。
クイタランと呼吸を合わせようとその呼吸を強めた。

ウツロイド
 「ふふ、これサービスですわ」

ウツロイドはそう言うと自身とクイタランを淡い光で繋いだ。
それは直ぐに消え去るが、クイタランは不思議そうに自分の身体を見た。

クイタラン
 「なんだか軽くなった?」

ウツロイド
 「パワーシェアですわ、逆にこっちはちょっと重いかしら?」

お互いの力関係を五分にするパワーシェア。
これを使ったことで、お互いの攻撃力は互角になった。
だが、文字通りそれはただのサービスに過ぎない。
保美香の強さはその冷静さだと言える。


 「遠慮はいらん! やるぞ!」

クイタラン
 「はい! 炎の鞭!」

クイタランは右手から今まで以上の出力の炎の鞭を作り出すと、ウツロイドに向かって伸ばす!
だが、ウツロイドは身一つ動かしてそれを回避!

ウツロイド
 「その程度ですの? 遅いですわね」

クイタラン
 「く!?」

違う、クイタランが遅いんじゃなくてウツロイドが一段速いんだ。
クイタランの動きは全体ではなく、部位ごとに動かす速さだ。
一方でウツロイドは全身を一気に動かす。
速いだけなら凪の方が速いし、反応は茜の方が上だ。
それでもウツロイドが速いと思えるのは、全身を急激に動かせるためだろう。

ウツロイド
 「パワージェム!」

ウツロイドは琥珀の宝石を掌に産み出すと、それを素早く発射!
あえて避けにくいように放射状に放った!

クイタラン
 「きゃあ!?」

クイタランは顔面をガードするも琥珀の宝石はクイタランの全身に突き刺さる。
幸い肉を抉るほどではなかったらしく、ボロボロと落ちるが、これは経験から言えば牽制だろう。

ロコン
 「たいしょー……相手強すぎなのだー」

ロコンちゃんは不安そうにそう言った。
誰の目から見てもレベルが違う。
PKM合衆国連合で幹部にまでのし上がり、多くの存在を畏怖させたその女は正に格の違いをまざまざと見せつけてくる。


 「心配するな、あのねーちゃんは無敵だ!」

クイタラン
 「はは……」

乾いた笑いを浮かべるクイタラン。
まだダメージはそこまででもないようだな。

ウツロイド
 「ほらほら! トレーナーがそう言ってくれているのですよ!? もう少し頑張ってみなさい!」

ウツロイドは少し地面から浮遊すると、そのままクイタランに真っ直ぐ突っ込んだ。

クイタラン
 「わっ!? くっ!?」

クイタランはあまりのスピード差に完全に出遅れる!
ウツロイドはそのまま足を蹴る!

ウツロイド
 「反撃も出来ないのかしら!?」

クイタラン
 (強い! まるでついて行けない……でも!)

ウツロイドはそのまま空中でターン!
今度は頭部を蹴りにいく!
しかしクイタランは炎の鞭を周囲を覆うように振り回した!

ウツロイド
 「くっ!?」

強襲は失敗、ウツロイドは炎の鞭の不規則な軌道を避けきれず、飛び退いた。

クイタラン
 「はぁ、はぁ……!」

クイタランは今や炎の鞭を10メートル近く伸ばしている。
それをまるでとぐろを巻く蛇のように地面を這わせた。

ウツロイド
 「差し詰め炎の結界ですか」


 (レベルアップしている……!)

それは目に見えてクイタランが強くなっていく様だった。
確かにポケモンはポケモンバトルをするのが最も効率の良い鍛錬だという。
事実スパーリングを得るごとに、クイタランの熱はくべられ、炎は増して、その目は輝いていく。


 「同じだ……!」

ロコン
 「え?」


 (ルージュも目まぐるしく圧倒的なスピードで成長していた、アイツは常に自分より格上と戦った結果だった……!)

最終的にジラーチも正面突破で倒したものの、アイツの成長が何所まで進んだのか俺には分からない。
そしてそれは今、クイタランにも同じ事が起きていた。
保美香に合わせて、強烈に強さを近づけつつある……。


 「クイタラン!」

俺は彼女の名を叫んだ。
彼女はそれに答えるように鞭を振るう!

クイタラン
 「はぁぁっ!」

クイタランの動きは繊細だ。
しかし彼女の僅かな一挙一頭足に合わせて激しく炎の鞭は生物的に蠢く!

クイタラン
 (予測不能の攻撃……それしかウツロイド様には通用しない!)

ウツロイド
 「く……厄介ですわ!」

炎の鞭はまるで蛇のようで、しかしアトランダムに不規則な動きを混ぜてウツロイドを追い詰めていく。
それでもクリーンヒットを得られないのは流石と言った所か。

ウツロイド
 「ち、ベノムショック!」

ウツロイドは毒液をその場に散らすが、炎の鞭に触れるとジュゥゥと音を立てて蒸発した。
彼女にしては珍しい技だが、何か狙いがあるのか?
俺はそれを分析しようとするが、戦いは目まぐるしく進んでいく。

ウツロイド
 「ベノムショック!」

クイタラン
 「?」

ウツロイドはベノムショックを繰り返すが、炎の鞭は怯むことを知らない。
クイタランは徹底的にウツロイドを近寄らせない、中距離戦を徹底していた。
この距離にウツロイドは対応できない訳ではないが、妙だ。

ウツロイド
 「ふふっ、ベノムショック!」


 「笑った?」

僅かだが彼女が笑みを浮かべた。
しかし異常事態は直ぐに訪れ、彼女の目的が初めて分かった。

クイタラン
 「し、視界が……!?」

ベノムショックの毒液は蒸発すると煙を放つ。
それも数を過ぎれば、煙幕のように視界を遮った!


 「これが保美香の狙いか!」

ロコン
 「何にも見えないのだ〜!?」

クイタラン
 「しまっ!?」

この事態に及んでクイタランに出来る事は無かった。
それがクイタランの限界なのか。
その煙幕を急速に突き破ったのはウツロイド自身だ。
極めて精微な操作を要求する炎の鞭は一手遅れただけでも致命的なのだ!

ウツロイド
 「それが貴女の限界ですか!?」

クイタラン
 「くぅぅ!?」

クイタラン慌てて鞭を振るう。
しかしウツロイドはなお速い!
素早くクイタランの頭上を飛び越え、背筋から髪に擬態した触手を差し込む!

クイタラン
 「う……!?」

クイタランの神経にウツロイドの触手が繋がると、炎の鞭は自然に消滅した。
完全にクイタランはウツロイドに掌握されたのか!?


 「クイタラン!」

ウツロイド
 「うふふ……どうですか寄生されて動けない気分は?」

クイタラン
 「うぅ!?」

ウツロイド
 「例えるなら……そう、1分しか潜れない男が、1分ギリギリで水面に現れた時、こうグイッと……」


 「長い! そのネタは台詞量が多くて困る!」

俺はそう突っ込むと、ウツロイドは「チッ」と舌打ちした。
最後までやりたかったんだろうか。

クイタラン
 「なにも、出来ないと、思う?」

ウツロイド
 「は? すでに呼吸以外掌握しているはず……出来る事など……」

クイタラン
 「奥の手!」

クイタランは何ポケモンか?
そう! アリクイポケモンだ!
クイタランは口から炎の舌を飛び出させ、保美香の顔に巻き付く!

ウツロイド
 「なっ!?」

気道を確保したのは仇となった。
クイタランはそもそもその燃える舌で戦うポケモンなのだ。
人の身になれば小さな舌だが、それは立派な武器である。
炎の鞭となった舌はウツロイドを苦しめる!

ウツロイド
 「くうう!?」

クイタラン
 「くっ!?」

二人とも根負けせずに耐えられるか、そんな勝負になっていた。
俺はおろか、ロコンちゃんや、ギャラリーまでもが息を呑んでいる!


 (お前って奴は! どこまで!)

俺はクイタランが見せる可能性に涙が出そうだった。


 「クイタラン! 勝て!」

クイタラン
 「ッ!!」

クイタランは炎の舌でウツロイドの触手を焼き切った。
それはまるでバーナーかファイヤートーチだろうか。
クイタランの凄いところはその異様な器用さじゃないだろうか。
相手の神経を焼き切る事は、逆にウツロイドに悲鳴を上げさせた。

ウツロイド
 「あああ!?」

クイタラン
 「は、ああああ!」

クイタランはウツロイドに上からのしかかった!

クイタラン
 「はぁ、はぁ!」

ウツロイド
 「はぁはぁ……続きやります?」

クイタラン
 「茂さんごめん……もう無理!」

ドサァ!

クイタランは覆い被さるようにウツロイドの上に倒れた。
ウツロイドはそんなクイタランを優しく抱きかかえる。

ウツロイド
 「よく頑張りましたね、それにしても炎の舌とは恐れ入りました」

クイタラン
 「zzz……」

クイタランはすでに寝息を立てていた。
ここまでウツロイド相手に競ったというのは、相当無理した証なのだろう。
俺は溜息を吐いて、二人の元に向かった。


 「二人ともお疲れ様、クイタランはどうだった?」

ウツロイド
 「多少心を加えたとはいえ、まさかここまで追い詰められるとは思っていませんでしたわ」


 「ああ、多分コイツはもっとやれる……可能性は無限大だ」

俺はクイタランを抱きかかえると、その頭を優しく撫でてあげた。
労いと愛おしさを込めて。


 「クイタラン……本当にお疲れ様」



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#10 クイタランの特訓 完

#11に続く。



KaZuKiNa ( 2020/02/02(日) 18:44 )