第二章 歪められた世界編
#9 桃源郷を求めて

#9



マギアナは2人いた。
何を言っているか分からねーと思うが、俺にも何をされたのか分からなかった。
頭がどうにかなりそうだった……。
催眠術とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
……なんて冗談言って場合じゃないが、今回は冗談から始めさせてくれ。

ウツロイド
 「あなた〜♪ ご飯ですわよ〜♪」

良くも悪くも戦争は終わった。
クローズはマギアナの死体を晒し者にし、当初の予定通りレジスタンス達をまとめ上げ、一斉に武装蜂起、内側に攻め入り、関東地区からPKM合衆国連合を追い出す事に成功した。
結果論だが、マギアナやったことは日和見主義者達でさえ武器を取る程の事態を巻き起こしたのだ。
内側に攻め入った人数は20万にも及ぶという。
ほぼ全ての関東市民が怒れるまま雪崩れ込んだのだろう。
マギアナを失ったPKM合衆国連合は呆気ない物だった。


 「クイタラン〜、飯だぞ〜」

そんで2カ月。
俺はウツロイドとクイタランと一緒に、以前住んでいた家に再び住み着いた。
幸いここは、内側と外側の中間に位置したおかげで、治安も良くあまり人間もPKMも立ち寄らない場所だった。
ウツロイドもすっかり元気になり、今では俺達は家族同然だった。

クイタラン
 「お腹空いた……」

ウツロイド
 「今日は新鮮な野菜が手に入りましたの♪」

ウツロイドはそう言うと、食材をテーブルに並べていく。
因みに行動や習性まで含めてこのウツロイド、間違いなく保美香なんだが、保美香と呼ばれることは大層嫌った。
なんでも、何かモヤモヤするものがあるらしい。
変わりというか、俺のこともだんな様とは言ってくれない。
いやまぁ、今は雇用関係じゃないし、そもそも旦那って言う年齢でもないしな。
それでも死ぬほど会いたかった顔の女に言って貰えないのは寂しさもある……。

クイタラン
 「これ、白菜?」

ウツロイド
 「冬と言えば、やはりこれですわね」


 「八宝菜か……俺だと鍋しか思い付かん具材だな」

ウツロイド
 「ふふ、安く頂けましたわ」


 「お前、割と今の社会にも順応してるよな」

ウツロイド
 「こういう時、人間と差の無い見た目は得しますわ」

今の世界ははっきり言ってPKMが差別される時代だ。
それこそバレたら即殺されかねないが、持ち前のバイタリティと順応力で既に馴染んでいるらしい。
相変わらず謎人脈を持つ保美香らしいが。

一方でクイタランはと言うと、こいつは凄まじく内向的な奴だ。
ルージュに近いが、アイツほど卑屈でも負けず嫌いでもない。
なんて言うか、やれば出来る子だが、言わないと絶対やらないタイプ。
今は勉強に励んでいる。
それは俺や保美香の薦めでもあり、必ずPKMと人間が共存できる時代がくると思ってだ。


 「それじゃ皆さんお手を合わせて」

二人
 「「いただきま〜す」」

昼ご飯は始まった。
保美香は状況に甘える奴じゃない。
常に完璧な物を供する様は正にプロだ。
電気インフラは不完全であり、家に住んでいるとはいえ、不備はある。
それでも良くやってくれていた。

クイタラン
 「ねぇ茂さん」


 「ん?」

クイタラン
 「後で教えて欲しい所があるんだけど」


 「ああ、いいぜ。まぁ俺もお前が考えてる程頭良い訳じゃないけどな」

あれから俺はある意味で傍観していた。
クローズは必ず説明すると言ったが、それは時が来ればだと言う。

ウツロイド
 「ふふ♪」


 「ん? どうした?」

ウツロイド
 「いえ、もうすっかりお父さんですね」


 「ぶっ!?」

思わずお茶を噴き出してしまった。
俺とクイタランとのやりとりから、そういうニュアンスを汲み取ったらしい。

クイタラン
 「茂さんがパパ?」


 「グワー!? 止めろー!? これでも一応既婚者なんだよ俺はー!?」

茜もこれくらいは許してくれると思うが、流石にパパは無理だ。
もう援助交際にしか思えないし、第一俺が無理。
ギラティナの娘でアグノムの里奈は養子として引き取った、アレは事情が事情で特殊だったからだ。


 「ああもう! ご馳走さん!」

俺はさっさと飯を腹に入れると、直ぐに立ち上がった。


 「見回り行ってくる!」

ウツロイド
 「あらあら、からかい過ぎたかしら?」



***



家を出ると、寒さは肌に染みるほどだった。
今の日本にかつての豊かさはない。
今や本州の殆どは人間が奪還し、PKM合衆国連合は九州や北海道に逃れていった。
だからといって、復興からはほど遠い。

俺はマンションを出ると、ある場所を目指した。
ウツロイドとクイタランに対して俺はある約束をした。
そこはある意味でその集大成だ。


 「たいしょー! 合い言葉を言え!」

ある場所……と言っても直ぐ近くの工場だ。
家から15分、入口を護っていたのは6本の尻尾が目立つ赤毛の少女だ。


 「ポケットモンスターはゲームフリーク」

合言葉、と言っても適当だがそれを言うと少女は和やかな顔で抱きついてきた。
この少女にとっては厳格なセキュリティよりも、こういうルーティンの方が大事なのだろう。

少女
 「たいしょー、会いたかったぞー!」


 「はいはいロコンちゃん、昨日も会ったでしょう?」

ロコン
 「1日会わなければ寂しいのだー!」


 「中入るよ〜」

廃棄された工場に入ると、まずは上層だ。
地上1階は遺棄された集積物が積まれ、迷路のようになっている。
だが、その迷路をくぐり抜けると地下への階段が見える。

カツンカツン。

錆びた階段をロコンちゃんと一緒に降りると、地下なのに光りが見えた。
ドラム缶に燃える物を入れて熱と光を確保した空間。
そこには無数のテントが立ち並んでいる。


 「皆ー! 元気かー?」

俺はある程度大きな声を出すと、テントからぞろぞろとある集団が姿を現した。

PKM
 「大将、昨日の今日でそんな変化はないぜ?」

テントから現れたのは皆PKMだった。
戦争の結果行き場を無くしたPKM達を俺は片っ端からここに集めた。
ここには少なくとも30人のPKMがいる。
外側でクイタランのように鉄砲玉にされた者も、内側から理不尽に追い出された者もここにはいた。


 「まぁ、そうは言うが健康チェックも兼ねてるからな」

老人
 「フォッフォ、ワシらPKMは人間より頑丈じゃてぇ」

そう言ったのは既に腰の曲がったコータスの老人だった。
ここでは長老みたいな人で、元々世俗を離れて最初にここに住んでいたPKMだ。
ここには戦争を良しとしないPKMが集まっていた。
だが環境はまだPKMを許してはくれない。
だからこそ俺が彼らを許す。
誰か一人でも彼らの心の標なればと思って、この施設をつくったのだ。

ロコン
 「えへへ〜♪ たいしょーこそ風邪引くなよ〜!?」


 「今じゃ抗生物質も楽には手には入らんからな」

人間とPKMが平和に共存できるユートピア。
それはまだまだ遠いが、ここはその第一歩だ。
頼れる人間もいない、けれどこの現状がおかしいって事くらい俺でも分かる。
だから俺が先頭を走ることにした。
クローズとは違う、俺なりの解答をこの世界に導きたいと思う。


 (クローズ、今お前は満足か?)



***



クローズ
 「……!」

私は夢を見ていた。
懐かしき夢だ。
フーパさんたちと一緒に馬鹿騒ぎした夢、ご主人様達と家族ごっこした夢。
全ては儚き幻なのか、今では全ては思い出せない。

クローズ
 (……ご主人様、私はきっと最低です、フーパさんやジラーチさんも軽蔑するでしょうね)

私は軍の最高司令官として日本奪還作戦を遂行していた。
今では驚くべき程の人間が結集し、日本を取り戻すために戦っている。
しかしこの事態そのものがおかしい。
だからこそご主人様は私と全く違う立場に立った。

クローズ
 (初めから理解していたはずです……ご主人様ならどちらにもつかないと)

ご主人様はとてもタフなお方だと知っている。
ご主人様の意思を曲げるのはそう簡単な事ではない。
だからこそ、ご主人様は『秩序』にも『混沌』にも染まらない。
究極の中立『傍観』なのだ。
茜さんが愛するほどのお方、私はあの人を好きになりすぎてしまった。

クローズ
 (あんな想いを……願わなければ)

切欠は些細だった。
私とて欲望のない存在ではない。
茜さんや保美香さんを見て嫉妬しない訳ではなかった。
そんな私の子供っぽいエゴイズムがご主人様を苦しめてしまった。
でも……真相を言うのが恐い。
それ以上に……ご主人様をこれ以上苛酷に導いても良いのだろうか?

クローズ
 (このままこの世界に留めれば……ご主人様はずっと幸せに……っ!?)

私は首を振る。
この世界に幸せなどあるはずがない。
茜さんのいない世界線をあの人が認める筈がない。
ずっと思い悩んで、どんな理不尽にも負けないで、やっと掴んだ幸せだったはず。
まだどんな子供が産まれるのかも分からない。
そんな本来なら幸せな語らいを一杯しないといけないはずなのに……。

クローズ
 「……マギアナ、つくづく私たちは愚かですよね」

それは皮肉だ。
人造ポケモンである私は結局は不完全だった。
しかし意図しての不完全だったのかもしれない。
完璧なアリスよりも、不完全なアリスの方が美しかったのかもしれない。
しかし私は醜いアリスだ……お父様が私にどんな願いを込めて造られたのか私は知らない。
だけど……分かってる。
ご主人様を欺けば、ソウルハートが痛い痛いと悲鳴を上げる。

クローズ
 (物語は終わる……必ずハッピーエンドで)



***



クイタラン
 「……は!」

夜、私は炎の鞭を振るって、訓練をしていた。
茂さんは私に戦う必要はないって言うけど、私はそれでも茂さんのためならなんでもしたいって思った。
私はウツロイド様と比べたら何も優れた部分がない。
戦闘力でも、奉仕する能力でも、勿論女としても劣っている。
だけど茂さんは私を真っ直ぐ見てくれた。
初めて私を私として見てくれたんだ。
それは凄く嬉しくて、同時に私がしたいことがはっきりと見えた瞬間だった。

クイタラン
 「茂さんを助けたい!」

私は炎の鞭を振るう。
鞭は遠くに置いた空き缶を弾いた。

クイタラン
 (火力も精密さもまだまだ……か)

私は取り立てて強いポケモンでもないとはいえ、自分の未熟さを今更呪う。
どうしてこれまで強くなる努力をしなかったんだろう。
悪運は強くて、今まで大切な人や一緒に暮らした人たちを一杯見捨ててきた。
でも次は絶対に嫌だ。
次は悪運を言い訳に生き残ったりしない。
絶対に笑顔で生きてやる。
茂さんと一緒に……足掻いてやる!

ウツロイド
 「精が出ますね」

クイタラン
 「ウツロイド様?」

私は一人離れた場所で訓練していたが、ウツロイド様には筒抜けだったのだろうか。
ウツロイド様は近寄ると、暖かい飲み物を手渡してきた。

ウツロイド
 「炎タイプとはいえ、冬の寒さは厳しいですわよ」

クイタラン
 「ありがとう、ございます」

私は飲み物を頂く、それはショウガ汁のようだった。

ウツロイド
 「……ポケモンは直ぐに強くなれるけれど、それは命がけの戦いがあってこそ」

クイタラン
 「ウツロイド様は経験が?」

ウツロイド
 「ええ、それなりに苛酷な世界を生きてきましたので」

私は平凡な世界で産まれた。
強くなると言っても、生きる上で必要な程度だ。
決してトップアスリートのような鍛え方はしていない。
ウツロイド様のそれは、正にトップアスリートの鍛え方だろう。

ウツロイド
 「もしあの方のお力になりたいと思うなら、正直そう言う事です……本当の強さと言うのはトレーナーと一心同体になってこそ現れる物ですよ?」

クイタラン
 「でも茂さんは……」

ウツロイド
 「あの方は、確かに争いごとが嫌いですわ……でも私達を否定はしません」

クイタラン
 「……」

ウツロイド様は随分茂さんを信頼している。
私から見てもまるで夫婦のように仲が良くて、一緒に暮らしているのに嫉妬しちゃう部分もある。
私はウツロイド様ほど、茂さんを信頼できるだろうか?

ウツロイド
 「さて、そろそろ帰らないとあの方お怒りになりますわ」

クイタラン
 「あ、いけない!」

私は今の時間を思い出し、慌てて後片付けを始める。
生活の跡を残していると、いつ私達が人間に特定されるか分からないから、なるべく徹底しないといけない。
茂さんみたいなPKMを差別しない人は特別で、まだまだ桃源郷を創るのは時間が掛かる。
でも私がその手伝いを出来ていると思うと、人生で一番充実しているのも今だった。



***



クイタラン
 「た、ただいま〜」


 「随分長い散歩だな……」

俺は玄関でクイタラン達の帰りを待っていた。
一応クイタランは自覚しているらしく、申し訳なさそうに静かに扉を開けて中に入った。

ウツロイド
 「ただいま帰りましたわ」

続いて中に入ったのはクールビューティなウツロイド。
無事クイタランを見つけて戻ってきたようだ。


 「寒かったろう? 適当に温かい物を出そう」

ウツロイド
 「あらあら! いけませんわ! それはわたくしの仕事ですので!」


 「……本当に保美香だよな。まぁなんでも自分でやろうとするな、簡単な事位手伝える」

ウツロイドはすかさず俺の仕事を取ろうとするが、俺としては充分彼女に甘えすぎている。
特に今は仕事で忙しいって訳でも無いから、今後も兼ねてなるべく家事はしたいのだ。


 「クイタラン、お前本当は何してるんだ?」

クイタラン
 「う……!」

あからさまに顔に出す。
どうもこいつは内向的で、言葉にしたがらない。
クイタランは多分なにかを隠している。
だが、それは俺に秘密という事か。


 「はぁ……危ない事だけは勘弁してくれよ?」

もし子供が産まれていて、クイタラン位に成長したら同じ気持ちになるんだろうか?
俺は否定はしたが、きっとこれが親になる想いなんだろう。


 「さっさと中に入れ」

俺は頭を掻くと、そう言ってリビングに向かう。

ウツロイド
 「さぁ、入りましょう」

クイタラン
 「う、うん」

俺はリビングで温かいお茶を用意すると、それをテーブルに並べる。

クイタラン
 「……」

クイタランは何も言わず、上着を脱いでテーブルに座った。
俺はクイタランをどうすればいいんだろうか?
やはりクイタラン位の女子は考えることが分からん。


 「……」

ウツロイド
 「茂様、クイタランを信じてあげてくださいませ」


 「ウツロイド?」

ウツロイドは俺の横に座ると、お茶を飲みながらそう言う。
どうやらウツロイドは事情を知っている上で言っているらしい。


 「ふむ、クイタラン……お前は何か言いたい事はないのか?」

クイタラン
 「えと……」

クイタランは湯飲みを握ったまま俯いた。
やはりこいつは口にするのが苦手らしい。
俺は頭を掻くと、テーブルを叩き、こう言った。


 「クイタラン! 言いたい事は言わないと、俺には何も分からん!」

クイタラン
 「うっ! その……あの」


 「無論無理には聞かない……お前だって言えないことは多いだろう」

クイタラン
 「違うの……その」

ウツロイド
 「クイタラン」

ウツロイドはクイタランの背中に回ると優しく肩に手を置いた。
それにクイタランは緊張が和らいだのか、その目を真っ直ぐにして俺に向き合った。

クイタラン
 「茂さん、私強くなりたいんです! 茂さんをどんな理不尽からも護れる位! 茂さんがきっと創ってくれるユートピアのために!」

ダン!

俺より強くテーブルを叩いて身を迫り出すクイタラン。
その目は炎のように揺らめいているようだった。


 「強く……か」

俺はこの目を知っている。
古くは茜の覚悟、彼女は数多の絶望を知って、それでも折れず俺に誓いを立てた。
新しくはルージュ、一族の落ちこぼれで、それでも立派なキリキザンになりたくて最後には立派なその姿を俺に見せてくれた。
俺は知っている……この目が奇跡を呼ぶ目だと言うことを。


 「クイタラン……半端な覚悟じゃないんだな?」

クイタラン
 「うん! 今は弱いけど……絶対強くなってみせる!」

俺はクイタランを誤解していたらしい。
こいつは情熱とは無縁な奴だと思っていた。
全部誰かに任せて、自分で何かを変えようとはしない。
だけど違った……誰が言った訳でもないのにコイツは自分でその殻を破ろうとしている。
コイツには自分の一生を賭けられる情熱がある!


 「良いだろう……それなら俺が応援してやる! お前のやりたいこと、やって見せろ!」

クイタラン
 「うん! ありがとう……茂さん!」

クイタランは微笑んだ。
今までで一番可愛い顔で。


 (そう言えばユミルは傍にいる者を信じよって言っていた……その相手ってもしかしてコイツだったのか……?)

それは遅すぎる伏線回収かもしれない。
でも俺の隣にはいつもポケモンがいた。
今回は遅かったが、その相手がクイタランなのか?
だとすると俺はある疑問を浮かべる。


 (クローズの正体はマギアナだった……ならばマギアナは俺の横に立つ者ではなかった?)

それはつまり初めから、クローズと別れることは必然だったのだろうか。
この歪んだ世界……二人のマギアナの意味。
そしてクローズの理想……全ての答えは……案外近いのかもしれない。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#9 桃源郷を求めて 完

#10に続く。


KaZuKiNa ( 2020/01/26(日) 11:18 )