突ポ娘外伝




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第二章 歪められた世界編
#2 個を無視する世界

#2



謎の人物『クローズ』に命を救われた俺は、反PKM組織『黒の一族』に保護された。
ユミルによって元の世界に帰った筈の俺は、この歴史が違う歪んだ世界に放り込まれ、今は右も左も分からない状態だ。
特になぜPKM連合は人類に勝利できたのか?
なぜ4年という大きな隔たりが生まれてしまったのか?

ここは本当に同じ世界なのか?
今だ謎は多い、2つの世界で共通する『特異点』という言葉、消えたルージュや家族達。
果たして俺は家族と再会できるのだろうか?



***




 「……」

黒の一族の地下アジト。
電気インフラは通ってるが、物資には色々困窮しているらしい。
地上ではPKM合衆国連合がパトロールしており、日夜人間狩りが行われており、迂闊に動けない状態だ。
そんな中俺は、クローズの手配で狭いながら個室を宛がわれた。
個室と言っても殆どカプセルホテルみたいなもので、ベッドと照明があるだけだが。
俺はそんな手狭なベッドに寝転びながらスマホを見ていた。


 (何か妙なんだよな……)

それは違和感だった。
スマホには家族や仕事関係のアドレスが残っている。
それは俺が辿った人間関係の歴史だといえる。
家族で使っているSNSもそのままであり、通話履歴も残っている。
だが……それがおかしいんだ。


 (ここまで……あり得ない位違う世界線で、なぜこれ程違和感のない内部データが存在する?)

それは違和感が無さ過ぎた故に、逆に目立った違和感だと言える。
過去に一度、世界線移動を行った際には、全ての定義が上書きされたような現象が発生した。
突然俺の辿った歴史が俺の知らない者に上書きされ、今のように戸惑った。
だが、あれは同じ世界線に同一人物が存在出来ないから起きた人格の上書きだった。
恐らく今回もこの世界線の常葉茂が俺に上書きされたんだろう。


 (くそ……なぜこうなった? 前の時も凪と華凛を連れ帰った性で、世にPKMが溢れる事になったが、今回はそれ以上に変化している……おかしくないか?)

俺はスマホを枕元に落とすと、そのまま大の字になる。
考える事が仕事だと言えるが、今回は流石に知恵熱が出そうだ。
そもそも俺は呪われているのか?
どうしてこうも受難続きなのか。
家族の無事も心配だが、俺自身もどうなっちまうのか……。

クローズ
 『……少し……、いいか?』


 「クローズ?」

個室にはドアがない。
一応カーテンで仕切っているが、個室の前に現れたのは男か女かすら分からんクローズだった。
相変わらず合成音声で、どうしてそこまで存在を隠蔽するのか俺には分からん。
ただ黒の一族内では、そんな怪しさ満点でありながら強く信望されている。
いや、信仰と言えるかもしれない、それ程にクローズには組織内でカリスマがある。


 「何か用か?」

俺は仕切りのカーテンを捲ると、部屋の前に突っ立っていたクローズと対面する。
相変わらず背は低く、ぱっと見では子供が仮装しているようにしか思えんよな。

クローズ
 『いえ……いや、慣れない環境に疲れていないか?』

言い直した?
時々クローズは口籠もる時があるが、どうも言葉選びに苦慮している節がある。
あまり高圧的なキャラに慣れていないのか、それでも組織の長らしさを演出しようとしているのかもしれない。


 「多分俺の方が年齢が上だろうから、アドバイスするが、無理してキャラ作ってもその内ボロが出るぞ」

クローズ
 『……覚えておこう』

クローズはフルフェイスメットを被っているから、その表情は掴めない。
ただ、俺の勘なのだがクローズは多分結構幼いんじゃないだろうか?
リーダーやるってんだから、何かに縋ることも出来ないのかもしれないが、クローズは無理をしている気がする。


 「環境が良いとは言えないが、一先ず寝床があるだけマシだな」

クローズ
 『暫く我慢して欲しい……地上を取り戻さない限りまともな自由も得られない』


 「承知している」

俺達はそれから暫く沈黙が続いた。
言葉が見つからないと言うのが正しいが、俺とクローズの関係は微妙だからな。

クローズ
 『……貴方は、この組織が好きじゃないだろう?』

最初に口を開いたのはクローズの方だ。
俺はそのデリケートな話題に静かに俯いた。


 「ああ、そうだな……だがPKM合衆国連合だって、俺からしたら同じだ」

クローズ
 『同じ、か』


 「……なんで、わかり合えないんだろうな……家族にだってなれるのに」

俺は茜やルージュの事を思い出す。
多くのポケモンたちを見てきた。
人間を嫌う者も、その逆でポケモンを愛する者もいた。
なぜこれ程、決定的に拗れるのか。

黒の一族は当たり前のようにPKMを駆逐したい派だ。
一方でPKM合衆国連合は人間を家畜としか見ない。
両者は決定的に理解しようとは考えない。
俺はそのやばさを知っている、だから完全に味方にもなれない。

クローズ
 『……済まない、こうするしかPKM合衆国連合に抵抗する方法はない』


 「……お前は、PKMが嫌いか?」

クローズ
 『個人的な嫌悪感は無い、だが顔の見えない相手を好きでも嫌いでもなく殺せるのが人間だろう?』


 「……で、あろうな」

戦争はいつだって、個人の感情で始まる訳じゃない。
戦争するからって相手国を嫌っても、その国民を嫌う訳じゃない。
理屈じゃ説明できない場所で、人は争っている。


 「……お前が悪党にならない事を俺は祈るぜ」

俺に願えるのはそれだけだろう。
今更銃口を向けられた中でそれでも平和を訴えるような日和った頭はしていないが、クローズが悪党になれば、黒の一族は無法集団に成り下がるだろう。
それだけは避けて欲しいのだ。

黒の団員A
 「クローズ! ここにいましたか! 作戦会議の時間です」

クローズ
 『そうか』

突然、奥から名前も分からない団員がクローズを呼びに現れた。


 「作戦?」

クローズ
 「ああ、PKM合衆国連合の人間牧場を襲撃する」


 「人間牧場だと?」

クローズ
 「合衆国連合はまず、人間を拉致すると、収容所に送る。その後檻の中で生産活動に従事させられるのだ」

強制労働って訳か。
文字通り家畜だな。
まぁPKM合衆国連合からしたら人間は80億もいる使い捨ての労働力なんだろう。
なにせ使っても使っても80億という数はそう減るもんじゃない。
中世大航海時代の黒人プランテーションのような感覚なのだろうな。
放っておけば増えるし、反逆心さえ奪えば人間は最高の労働力になるんだろう。

クローズ
 『それじゃ、暫く辛抱を頼む』


 「……」

俺は何も言わなかった。
クローズの事を全て信用できる訳じゃないが、命を助けて貰い、更にこうやって寝床まで宛がわれた。
だから俺は口を挟まない、俺は俺でこの世界を見据える。



***



クイタラン
 「はぁ〜、ついてないよねぇ」

今日本は、かつての繁栄からはほど遠い。
PKMが自治を獲得して、合衆国連合は幾つかの主要都市を定めた。
しかしその主要都市の外側には、戦争の爪痕が今も残っている。
戦争で功績を立てたり、能力の高い者は内側に住める。
だがPKMにも序列があり、下っ端や何らか失態を犯した者はまず内側には行けない。

このクイタランの女はその両方だ。
そもそも下っ端であるし、人間の捕獲に失敗し、悪かった立場は最悪レベルまで落ちた。
と言うのも、クイタランはこの環境に怯えていた。
PKMが人間の上位互換性という考えは誤りだ。
確かに人間は脆く儚い。
しかし一方で賢く、そして敵愾心が極めて強い。
PKMと言えど、額を銃で打ち抜かれれば死ぬのだ。
まして、外側の廃墟はそんな人間達の巣窟。
何処から襲撃を受けるか分からない。

ウォーグル
 「さっさと、護送を終わらせりゃ、少なくともまた安全な場所に帰れるぜ」

スリープ
 「しかし、こう毎日命をすり減らすのも、大概にしたいですな」

クイタラン
 「……はぁ」

クイタランは溜息を放った。
この三人仲は良いが、チームとしては微妙だ。
強いが脳筋で、細かいことに頭が回らないウォーグル。
頭は良いが、愚鈍で運動神経が壊滅的なスリープ。
そして何しても中途半端な紅一点のクイタラン。

クイタラン
 「兎に角、収容所から人間牧場……ね」

人間牧場は都市周辺部に凄まじく大きな牧場を作り、そこに人間を住まわせ、内側のPKMが食っていく食料を生産させる。
PKM合衆国連合は隔離政策によって、住むエリアを区別し、壁を作ったのだ。
ベルリンの壁にも比肩する遠大な囲いを日本に産み出してしまったのだ。

収容所は外側にある。
人間を内側の近くに置きたくないという意思が、人間を捕まえて保管する収容所を危険な外側に置かせた。
収容所では自我研修という物が行われるという。
詳しい内容はクイタランも知らないが、収容所で研修を受けると、殆どの人間は大人しくなるという。
一体どんな不思議な力を扱っているのか、クイタランはそれを不気味だと思った。

ウォーグル
 「よし、収容所到着」

スリープ
 「一杯水でも欲しい所ですな」

収容所には巨大な塔が立っており、昼間でもサーチライトが忙しなく地上を照らしていた。
巨大な監獄とも言える収容所の入口には屈強な2人のPKMが……。

クイタラン
 「待って! 何か様子がおかしい!」

入口に到着したクイタランは違和感に真っ先に気付くことが出来た。
入口には屈強なPKMの門番がいたはずだ。
だが今入口に立っているのは、スリープと大して変わらない男二人だった。

クイタラン
 「あの二人、見覚えある?」

ウォーグル
 「配置換えじゃないのか?」

クイタラン
 「そうなのかな……?」

スリープ
 「私の勘は反応しませんな……」

クイタラン
 「スリープ……、エスパータイプなんだから勘に頼らないで」

スリープ
 「そうは言っても、私はスリープですから」

スリープの念動力は弱く、本来は催眠術のスペシャリストだ。
ここぞでのサイコメトリーの類いは得意どころではない。

ウォーグル
 「予知夢ではどう出たんだよ?」

スリープ
 「現状が最悪なのに、最悪以下があるでしょうか?」

クイタラン
 「はぁ……」

再び溜息が零れる。
人間狩りの最前線に配置され、命の危険は常にある。
一方で内側では裕福に暮らす上級PKMがいる。
外側のPKMも勿論外側より内側の方が良いに決まっている。
誰もが彼も狂っているんじゃない。
バトル好きと死にたがりは別なのだ。

ウォーグル
 「まぁ、聞いてみれば良いんじゃねぇか?」

ウォーグルは脳天気にそんな事を言うが、これが敵だったらどうする気だろう。

スリープ
 「クイタラン、気にしすぎではありませんか?」

クイタラン
 「でも……なんかザワつくの」

クイタランははっきり言ってポケモンとしては弱い。
炎タイプとしてこれと言って秀でた部分があるわけじゃない生態もあるが、まずそれ以前にポケモンとして弱いのだ。
だからこそ、一番命の安い場所に配属された訳だが。

ウォーグル
 「やばけりゃ、即とんずらだ」

スリープ
 「ええ、命あっての物種ですからね?」

クイタラン
 「うん……」

命はなによりも大事だ。
クイタランも身に染みて理解している。
クイタランは進んでPKM合衆国連合に入った訳ではない。
かつて共に暮らす人間の家族が死んで、仕方なくPKM合衆国連合に合流したのだ。
人間に恨みがある訳ではない、だが殺さなきゃ殺されるから、殺すしかない。
上級のPKMなら兎も角、クイタランには生死与奪を選べる実力もない。

クイタラン
 (そう言えばあの時の人間……どうしてあんな顔できたんだろう?)

ふと、クイタランはある人間を思い出した。
自分に向かって両手を広げた威嚇のポーズをした巫山戯た男だ。
でもアイツはPKMに全然怯えていなかった。
それどころか、余裕すらあった気がする。
絶体絶命なのに、まるで切り抜けられる自信みたいな物がアイツにはあった。

クイタラン
 (多分、私とは違うんだろうな……)

同じ状況ならクイタランは笑っていられなかったろう。
人間の巣に一人放り込まれたら生きた心地がしない。
アイツは地獄を渡り歩いた事でもあるのだろうか?
ここよりももっと深い、地獄の住人だったのだろうか?
なら、あの時クイタランたちの命は死神の鎌が首元に掛かっていた?

クイタラン
 (馬鹿らしい、そんなオカルトある訳ないのに)

ポケモンがオカルトな存在でも、信用しないオカルトは存在する。
宗教は信用しないし、非科学的なことも基本的に信じない。
それは人でもポケモンでも変わらないのだ。

ウォーグル
 「あー、人間牧場への護送の命令を受けてるんだがー?」

ウォーグルは門番の元に向かった。
門番は黒ずくめで、ガタイは良いが前の門番ほどじゃない。
前の門番は確か……ゴーリキーだったわね。

門番
 「悪いが今は立て込み中だ」

ウォーグル
 「中で問題でも起きてるのか?」

門番
 「極秘事項だ、分かったら今はお引き取り願おう」

ウォーグル
 「……」

ウォーグルは渋々来た道を戻る。
その様子をスリープとクイタランも怪訝な顔で見ていた。

スリープ
 「妙ですな」

ウォーグル
 「極秘事項ってなんだ?」

クイタラン
 「分かる訳ないじゃん」

スリープ
 「収容所は得体が知れませんが、突っぱねられたのは初ですね」

ウォーグル
 「上空から偵察するか?」

ウォーグルは上を指す。
収容所は塔になっている性質上、監獄は上層にある。
窓一つない塔だが、上からなら何か分かるかも知れない。

スリープ
 「そうしましょうか」

ウォーグル
 「なら、ひとっ飛びだ!」

ウォーグルは翼を広げると飛び上がった。
クイタランはさっきから、ずっと険しい顔のままだ。
まるで何かを予感しているように。

スリープ
 「まだ、気にしているのですか?」

クイタラン
 「私、運だけは良いから、基本的にそれを信用しているんだよね」

スリープ
 「確かご家族が殺された時も?」

クイタラン
 「あの時も今みたいにザワついて、助かった」

クイタランは別にこの世界の家族を愛していた訳じゃない。
人間と暮らしていた事があるのは、人間を理解する上で重要だったが、人間は自分を理解しようとはしなかった。
スリープは目を細めた。
何か感じようとしているのかもしれない。

スリープ
 「……私の予知夢は何も言わない、でも何も言わない?」

クイタラン
 「どうしたの?」

スリープはこの三馬鹿の中では聡明な男だ。
聡明と言っても学があるわけじゃないが、落ち着いて物事を正確に捉えるのが上手い。
これで実力があれば、きっと内側に住むのも夢じゃなかったろう。
逆にウォーグルにその聡明さがあれば、あいつも優秀な軍人として内側には住めた筈だ。
つくづく何かが足りないものだ。

スリープ
 「白……いえ、空白の夢? いや、まさか?」

その時だった。
乾いた銃声がその場に鳴り響く。

タァァァン!

クイタラン
 「敵襲!? どこ!?」

クイタランは銃声に怯えるように周囲を見渡した。
炎を高めると自然に舌は燃え上がる。
しかし炎の舌は定期的に外に出さないと内側を焼き焦がしてしまう。

スリープ
 「上です! 撃たれたのは!」

スリープが上を指した。
そこにはクルクル回転しながら落下するウォーグルがいた。

ウォーグル
 「くそがぁぁぁ!!!」

ウォーグルは激昂していた。
翼をやられたらしく、血を流している。
ウォーグルは牙を剥くように睨みつけたのは塔の上階だ。
そしてそれが何を意味するか、それが分からない程3人は愚鈍ではない。

クイタラン
 「誰にやられたの!?」

ウォーグル
 「ニンゲンだ! 占領されてる!」

スリープ
 「な!? まさか!?」

スリープはその言葉に、瞬時に門番を見た。
門番は既に銃を構えていた。
何処に隠していたのか、両手持ちのアサルトライフルだった。

スリープ
 「いけない! 二人とも!」

スリープは咄嗟に念力を放出した。
門番は三人に向かって、無造作に引き金を引く。

タタタタタ!

銃弾はスリープの念力に阻まれて減衰するが、スリープ程度では防ぎきれない。
徐々にその体をやられていく。

クイタラン
 「スリープ!」

スリープ
 「にげ、なさい……!」

ウォーグル
 「アイツらニンゲンどもをぶち殺さなきゃ、この痛みは治まらねぇんだよ!」

クイタラン
 「ウォーグル!?」

ウォーグルは翼を庇うのも辞め、ただ門番に向かって突撃する。
二人の門番は片方はスリープに、もう片方はウォーグルに銃口を向けた。

ウォーグルはまるで暴走列車のように突撃するが、防具も纏わないその身体は、ライフルによって容易く貫かれた。

ウォーグル
 「がは!?」

ものの数秒だろうか、ウォーグルが血塗れになるのをクイタランは呆然と見ているしかなかった。
後から自分も突っ込めば、銃口は一つ足りない。
相手を倒せたかもしれないと考えたが、そんな事出来るほど勇敢じゃなかった。

ウォーグル
 「に、ンゲン、め……!」

門番
 「恨むなら自分の馬鹿さを恨め、害獣め!」

門番はそう掃いて捨てると、ウォーグルの頭に銃口を当て、そして引き金を引いた。

タァァン!

クイタラン
 「い、嫌ぁぁぁぁぁ!?」

クイタランはウォーグルの死を目の当たりにして、大泣きして頭を抱えた。
ザワつくといつもそうだ、誰かを失う。
家族のことは愛していなかった、でも生きて欲しかった。
掛け替えのない仲間のウォーグルを見捨てたいなんて思った事はない。

ウォーグルがただの肉塊になる頃、スリープも限界だった。
銃撃は既に止んでるが、全身から血を吹き出し、ついに崩れ落ちる。

クイタラン
 「スリープ!?」

スリープ
 「クイタラン……聞き、なさい」

スリープはこの出来事の直前に何かを見た。
はっきりと分かる未来視ではなかったが、何かを見たのだ。

スリープ
 「透明な夢、白にも黒にも染まる……危うくもしかし綺麗で尊い色……そこに安住の地は……」

クイタラン
 「スリープ? スリープ!?」

クイタランはスリープを揺さぶるも、それっきりスリープは物言わぬ屍になっていた。

門番
 「ふん、さっさとこの場を去っていれば、今日の所は生きていられた物を」

門番
 「まぁ、どうせ害獣はこの世から駆逐するんだがな!」

クイタラン
 「あ、あ……!」

門番二人は銃口を向けたまま近づいてくる。
クイタランは絶望した。
ここは既に敵地だ、助けを呼んでも誰もが助けてくれない。
刃向かった所で一人は殺せても、二人は無理だ。
ここには絶望しかない。

クイタラン
 「スリープ、安住の地なんて……私達には……」

その時だ、クイタランの脳裏に再びあの男が現れた。
あの地獄からやってきたような目をした男は、この状況で何をした?

クイタラン
 「い、威嚇のポーズ!!」

クイタランはやけくそだった。
両手を広げて、超泣きべそ掻きながらあの男の真似をしたのだ。

門番
 「は?」

門番
 「萌え……は!?」

一瞬だった。
門番の一人が呆けて銃口を下げたのだ。
それをクイタランは見逃さなかった。

クイタラン
 「二人ともごめん!」

クイタランは迷わず逃げた。
幸いここは昔は高速道路も走るような繁華街で、廃墟とはいえ身を隠す場所はいくらでもある。

門番
 「あ! 待て!」

門番
 「持ち場を離れるな! 我々は監視が任務だ!」

門番は追わなかった。
クイタランは物陰に隠れて息を潜ませる。

クイタラン
 (見殺しにした、見殺しにした、見殺しにした、見殺しにした、見殺しにした!)

クイタランは口元を抑え、声が漏れないようにしながらボタボタと涙を落とした。
クイタランの人生はいつもこうだった。
一人では生きていけない癖に、誰かのピンチを助けることも出来ない。
前の家族も今の仲間もそうやって見殺しにしてきた。
今は耐えなければいけない。
仲間さえも過去にしなければ、生きていくのは辛すぎる。

クイタラン
 (自由が欲しい……! 誰にも犯されない安住の地!)

争いを無くすには根源を絶つという考え方は、PKM合衆国連合にも人間側にもある。
だが、それは過程に争いを挟むもので、巫山戯た考え方だ。
どうして争わないといけない?
桃源郷はどこにある?



***




 「戦争……か」

俺は黒の一族が出撃した後、一人留守番状態だった。
厳密には俺一人ではないが、俺に出来ることもない。
ただ、現実を顧みながら、どうするべきか考える。

セーラ
 「はぁい♪ 元気かしら?」

アジトを適当に歩いていると、突然魔術師のセーラが現れた。
普段は階下の研究施設に引き籠もっているように思えたが、今日はどうしたのだろうか?


 「俺に用か?」

セーラ
 「別に用って訳じゃないわ、クローズから作戦成功が届いてね……迎えに行くところ」

セーラはそう言うと怪しく笑った。
迎え、と言うが果たして迎えるのは黒の一族か、それとも?

セーラ
 「さーて、さーて、忙しくなるわよー♪」

そう言うとセーラはスキップでもしかねない上機嫌っぷりを見せて入口に向かっていった。
俺は立ち止まって、その魔術師の背中を見送る。


 (俺の記憶の戦争の中に存在しなかったキーワード、それは魔術……この違和感は魔術によるものなのか?)

この世界は何かがおかしい。
この違和感は簡単には説明できないが、なにか秘密があるのかもしれない。


 (家族の無事……それだけでも分かれば良いんだが)

だが……世界は個の力を越えて回っている。
この歪んだ世界は……一体何処に向かっていくのだろうか?



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#2 個を無視する世界 完

#3に続く。


KaZuKiNa ( 2019/12/02(月) 16:28 )