#1 歪められた世界
前回までのあらすじ!
2回目の異世界召喚をくらった常葉茂は、ある残念な美少女と運命的出会いを果たした。
だが、それも束の間、のじゃ系美少女の力を借りて、再び退廃と資本主義の世界へと帰ってきた!
だがそれは彼の旅の終わりを意味している訳ではない!
家に帰るとそこにはいたのは見覚えのないPKMが!
茂
「いい加減にしろよ……嘘は言ってないが、あらすじ適当すぎんだろ……」
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
第二章 歪められた世界
#1
?
「コイツニンゲン様かぁ〜?」
茂
(おいおいおい……冗談じゃないぜ、空き巣か?)
愛すべき家族の待つ我が家へ帰った俺は、そこで見知らぬPKM3人と遭遇する。
部屋の中は荒らされており、保美香が見れば激怒しているだろう。
だが、それ以前にこの3人は誰だ?
部屋の中で勝手に宴会でもしてたのか、テーブルを囲んでいたのはそれぞれ、炎の舌をチロチロさせるクイタラン女。
七色の尾羽と派手な鶏冠を持ったウォーグル男。
そして長い鼻を持ったスリープ男だった。
スリープ
「これはこれは、どういう事でしょう? この辺りのニンゲンは全て駆除したはずでは?」
茂
「威嚇のポーズ!」
クイタラン女
「へ?」
俺は真っ先に「やっちまったなぁ」と思った。
と言うか、偶然にしては出来過ぎだろ、このラインナップ!
敢えて言うなら黒豹がいないのがネックだけどな!
ウォーグル男
「よく分からんが捕らえて、収容所に送ってやれ!」
茂
「ジャスティス!」
クイタラン女
「炎の鞭!」
クイタラン女の掌が燃える。
手から生成される炎の鞭はまるで質量を持つかのようで、それをクイタラン女は振るった。
茂
「グワーッ!? 熱いじゃねぇかー!?」
炎の鞭は俺の頬を掠め、俺は炎熱に呻く。
帰ってきたら絶賛大ピンチかよ!?
クイタラン女以外にも、俺より大柄のウォーグル男に、何してくるか分からんスリープ男。
軽く四面楚歌だった。
クイタラン女
「うう〜! じっとしてなさいっ!」
茂
「したら死ぬわ!」
ウォーグル男
「俺に任せておけ、軽く捻ってくれるわ!」
ウォーグル男が前に出た。
ある意味こっちの方がやばい。
俺は後ろを確認した。
玄関さえ出れば、なんとかなるか?
茂
(いや、無茶だ……! 飛べる相手に逃げおおせる訳がない!)
俺は直ぐに逃げる作戦は無理と判断した。
茂
「おい、お前たちは何者だ? なんで俺の家にいる?」
俺は睨みつけるように、3人に注意を払いながら、それを聞くと3人はキョトンとしていた。
スリープ男
「おやおや、頭でもおかしくしたのか、それとも記憶喪失か」
茂
「なに?」
クイタラン女
「ここはPKM合衆国連合のお膝元よ?」
茂
「PKM合衆国連合!?」
聞き慣れない単語、しかしそれは嫌でもあの組織を意識する。
PKM連合、神々の黄昏を起こすため、大きな戦争を引き起こした組織。
黒幕スリーパーが死んだことで、計画はギラティナに引き継がれたが……それも俺達が解決した。
だが、合衆国連合だと? その名前は聞いたことがない。
ウォーグル男
「ここでは貴様らニンゲンなど家畜! 我らPKMを虐げた者たちは滅びたのだ!」
茂
(くそ! ユミル! ちゃんと帰れてないっぽいんだけど!? 明らかに世界線変わったよね!?)
『デーデデン♪ デンデンデンデン♪ テーレッテー♪』
茂
「っ!?」
突然、俺のスマホが鳴り出した。
俺は相手を目線から外さないように、スマホを懐から取り出す。
つーか、まだ電池切れしてないのかとか、そもそも状況悪すぎ!
ウォーグル男
「なんだぁ〜? こんな時に〜」
茂
「あーもう!」
俺は咄嗟に画面を開く。
一瞬見た、そこにあったのは、家族のSNSだ。
そこに見たことのないアカウントの一言が書いてあった。
『直ぐに伏せろ』
茂
「ままよ!」
逡巡する暇は無かった。
目の前には、俺に敵意しかないPKM。
家族は見当たらず、おまけに怪しいアカウント。
俺が出来るのは可能性に賭ける選択だけだった。
ウォーグル男
「はっ!? 土下座か!」
相手から見れば土下座に見えただろう。
兎に角何かが変わるなら……!
ガシャーン!
しかし、伏せた瞬間窓ガラスが割られ、何かが部屋に放り込まれた。
狼狽する3人、部屋は瞬く間に煙に包まれた。
クイタラン女
「きゃ!? 何これ!?」
スリープ男
「煙幕弾!? 猪口才な!」
ウォーグル男
「仲間でもいやがったか!?」
茂
(これって……!?)
状況は違う。
だが思い出したのは俺の誕生日、あの襲撃の日だった。
部屋を煙で充満させ、動揺している内に制圧する。
タイマンなら、どんな歴戦の猛者さえ倒す華凛や美柑でさえ、あの完璧な奇襲には対応できなかった。
ガタン!
ベランダで大きな音がした。
直後、真っ黒なシルエットが煙の中を駆け抜けて、こっちに迫る。
?
『起き上がって』
茂
「お前は?」
?
『話をしている暇はない』
目の前まで迫ったソレは細身のシルエットをしていた。
全身黒ずくめ、フルフェイスメットで素肌を完全に覆い、声はダミー音声のようだ。
一見すると女性にも、男性にも見える。
ただ、男性にしては背が低く、俺より二頭身は小さいだろうか?
細身のソレは俺の腕を引っ張ると、見た目に反して力はあるらしく俺は素早く起き上がった。
ソレはそんな俺を引っ張ると、迷わず玄関側に走る。
ウォーグル男
「くそ!? どこ行ったぁ!?」
クイタラン女
「換気が先よ!」
PKMたちは大慌てであった。
その隙には俺達は玄関の扉を開く。
茂
「――はぁ、はぁ! 一体何だってんだ!?」
煙から解放された俺は、急いで通路を走る。
階段に差し掛かると、迷わず降りようとするが……。
?
『待て、こっちの方が速い』
茂
「は? 何言って?」
マンションの端、落下防止のフェンスの向こうには小さな公園がある。
コイツは階段よりそっちの方が速いと言ったのだ。
俺が正気を疑うには充分である。
だってここ4階ですよ?
しかしそいつは事もなげに。
?
「大丈夫、問題ない」
茂
「そんな装備で大丈夫か〜!? て言うか、お前は昔から人の言うことを聞かない奴なのか〜!?」
?
『言い合いしている暇はない』
ソイツは細身に似合わない怪力で俺をお姫様抱っこすると、迷わず……4階から飛び降りた!
茂
「アイ! キャン! フラーイ!?」
?
『舌を噛む、口は閉じて』
ソイツは冷静にそう諫め、生け垣に着地。
すると同時に一回転するように衝撃を分散させ、公園の敷地に降り立った。
茂
「おま……すげぇな」
?
『褒められる程でもない』
ソイツは直ぐさま俺を降ろすとPKMたちの声が聞こえた。
どうやら俺を捜しているらしい。
?
『地下鉄に向かおう……アジトがある』
茂
「選択肢は無しか……!」
俺はまだコイツが何者なのか分からない。
果たして敵なのか味方なのか。
だが迷わず敵だと分かる相手と、一先ず助けてくれた相手ならば、怪しくともこっちを選ぶしかない。
無論マッチポンプの可能性も捨てきれないが。
茂
「お前、名前は?」
?
『クローズ、そう呼ばれている』
茂
「このメッセージはお前か?」
クローズ
『そうだ』
茂
「何故家族専用のアカウントを知っている?」
クローズ
『それは言えない』
俺は全力で走りながら、幾つか質問してみた。
とりあえず名前はクローズ、何故か俺の家族専用アカウントを知っており、俺を助ける理由があるようだ。
やがて、俺達は地下鉄の入口にやってきた。
インフラが行き届いていないのか、ライトはついていない。
クローズ
『足下に注意を』
茂
「アイツら追ってこないよな?」
クローズ
『結界がある……恐らく気付かないだろう』
茂
「結界?」
薄暗い地下道をクローズは手持ちのライトを照らしながら、ゆっくりと進む。
まだ何が何だか分からず、俺は何度も後ろを振り返りながら、やがてホームまで辿り着く。
クローズ
『段差に気を付けて』
クローズはそう言うと、線路に降りた。
俺は注意しながら降りる。
茂
「……変な事を聞くが、一体何があったんだ?」
クローズ
『戦争の事?』
茂
「そう、ここ数年……一体何が」
明らかに世界線が違うことが分かる。
だけど何が変わってしまったのか、俺にはまだそれが分からないんだ。
クローズ
『……切欠は4年前、PKMの大量発生に遡る』
茂
「4年!? 1年ではないのか!?」
俺の世界ではPKMの大量発生が政府に公表されたのは去年の9月だと記憶している。
それ以前からPKMは無論いただろうが、それでも4年は茜が来る前じゃないか。
クローズ
『人類に対して宣戦布告をしたPKM連合は、まずこの極東を制圧し、今や地球上の7割を制圧下に置いている』
茂
(あり得ない……PKM連合の人数では人類には勝てなかった……俺はその歴史を体験している)
だが……4年という歳月は俺の知らない可能性を引き出したのか?
クローズ
「PKM連合は幾つかの地区を分散統治し、PKM合衆国連合を成立させ、生き残った人類を家畜として扱うようになった」
茂
「それじゃもう人類は……」
クローズ
『大分数を減らしただろう……だが、我々はまだ負けてはいない』
我々、つまり人類側か。
コイツの様子を見る限り、家畜にされているようには思えない。
いずれにせよ、世紀末化した世界だな。
茂
(だが……そうだとすると茜は? 神々の王は何故この世界を滅ぼさない?)
俺の知っている茜は全てが無茶苦茶にされた世界に絶望し、滅ぼした。
何故今回はそれに至ってないのか。
クローズ
『着いたぞ』
クローズが指差す。
狭い地下鉄の線路を渡り歩くと、開けた空間に出た。
幾つかのLED光が照らす、ジャンク置き場にも地下街にも見える空間だった。
?
「クローズ、帰ってきたか!」
クローズ
『支援ご苦労、お陰で助かった』
クローズが歩み寄ると、何人かがクローズの元に集まった。
全員暗色系の服を着て、更にアサルトライフルを持った者もいる。
?
「彼が……君の言っていたキー?」
茂
(キー? 鍵のことか? どういう意味だ?)
クローズ
『そうだ、名前は常葉茂』
?
「意外と平凡な名前だな……まぁいい、俺は百目鬼信也(どうめきしんや)、この反PKM組織黒の一族の副リーダーをしている」
茂
「……どうも、常葉茂です」
副リーダーと名乗った男は、俺と同じか少し上だろうか。
あまり武闘派のイメージを持てない優男だった。
茂
(クローズの奴、俺のフルネームどこで?)
俺は一団の中でも一際異様を放つクローズの背中を見た。
俺は一度もフルネームを名乗った覚えはない。
だがアイツは何処で俺を知ったんだ?
それとも俺の家族の一人か?
茂
(背格好なら、茜と同じくらいか? だが茜なら尻尾は隠せないし……美柑と比べると背が低い)
駄目だ、家族に該当者が見当たらない。
クローズ
『百目鬼、マギア・バレットの量産は?』
百目鬼
「襲撃に充分な量はなんとか、だな……魔術師共はもう少しマシな研究施設を要望しているが」
クローズ
『考えておこう』
茂
(マギア・バレット? 魔術師? オカルトか?)
中々状況が飲み込めない。
俺はやや、離れた所で様子を見ているとクローズは突然振り返った。
クローズ
『……君の部屋を案内しよう』
茂
(黒の一族……か)
***
黒の一族の拠点は廃棄された電車を改造した施設らしい。
団員は40名程、更に地下に研究施設があるらしいが、そっちは限られた人間しか入れないようだ。
インフラは何処から得たのか分からないが、少なくとも電気には困っていないようだ。
茂
「言っておくが、俺は別に黒の一族に入団したいって訳じゃないからな」
クローズ
『承知している、もとより戦力としては見ていない』
クローズは淡々としている。
恐らくリーダーなのだろうが、何故姿を隠すのだろう?
団員たちは何人か俺を見て、ヒソヒソ話している。
俺がキーだと言っていたが、一体何の事だ?
茂
「俺の利用価値はなんだ?」
クローズ
『ボランティアで助けることはいけない事か?』
茂
「……そう言われると、反論出来んな」
クローズの底はイマイチ見えない。
俺を助けた事に意味はあるのだろうが、その意味を俺に教えてくれん。
?
「クローズ! そいつがキー!?」
突然下へと続くスロープから身を擡げたのは赤いローブを羽織った金髪の白人少女だった。
随分年若いが、これが魔術師か?
クローズ
『Sera、君なら聞く必要もないんじゃないか?』
sera? セーラか?
seraという少女は俺を見ると、にんまりと笑い、幾つか問う。
sera
「幾つか質問に応えなさい、私の言葉は分かる?」
茂
「ああ」
sera
「貴方は何者?」
茂
「タダ者だよ、文句あっか?」
sera
「貴方が見ている世界線は?」
茂
「はぁ?」
そこでseraの質問は終わった。
seraは両腕を貧相な胸の前で組むと。
sera
「成る程……これが補正か、魔術師共が夢見た神の領域」
茂
「俺も質問するがお前が魔術師か?」
sera
「そうよ、日本語で挨拶すればセーラです、これ合ってる?」
クローズ
『少し違う、より丁寧に挨拶するなら、セーラですにゃん♪ だ』
セーラ
「いや、アンタ外国人だからって馬鹿にしてるでしょう!? それが嘘だって位分かるわよ!」
セーラはおそらく、日本語とそれ以外を使い分けている。
だから俺にはあべこべに聞こえてしまうが……少なくとも言語の補正を知っているようだ。
魔術師というものに俺はトコトン無知だが、ファンタジーだけの存在では無さそうだ。
茂
(だからと言ってユミルのような格はなさそうだが)
まぁユミルのは魔術というより奇跡だが。
セーラ
「まぁいい……成る程、特異点か」
セーラはそう言って地下へと潜って行った。
茂
(コイツも特異点って……!)
特異点……この摩訶不思議な次元旅行において、必ず付きまとうワード。
果たしてそれがなんだと言うのか。
俺にまだ、自分の身に起きている本当の意味を知らない……。
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#1 歪められた世界 完
#2に続く。