異世界転位編
#9 ノワールVSジラーチ

#9



ユミル
 「ふむ、着々と名勝負が生まれておる」

妾は会場の最上段からその試合を見て、満足に頷いた。
人の子らの戦いも激しさを増しているが、それだけ願いへと切実に繋がっている。
願いは闘争の原動力にもなる、それは人間の悪しき部分でもあるが妾はそれを愛おしく思う。

ユミル
 「もうすぐ2回戦も終わりか、3回戦は更に妾を楽しませてくれようかの、ホホホ♪」



***



主神ユミルがご満悦な頃、ポケモンセンターは人でごった返していた。


 「順番待ち……3時間か」

ルージュ
 「う〜」
それはポケセンターに掲げられた電光掲示板案内であった。
大会には大勢の怪我人ポケモンが運ばれてくる。
勝者も無傷とはいかず、俺はルージュを預けに来たが、随分時間がかかりそうだ。
とはいえそうやって後方でゲンナリしていても解決はしない。
どうしようかと途方に暮れているとある聞き慣れた女子の声が聞こえた。

メアリ
 「茂さん? ポケモンのメンテナンスですか?」

大混雑している中、偶然にもメアリはそこにいた。


 「ああ、ルージュが結構やられたからな……流石に診て貰った方が良いかと思ってな」

メアリ
 「ええ、3回戦にもなれば実力者が集中しますからね」

そうあっけらかんと言うが、メアリは既に2回戦を突破している。
こっちよりは楽な相手だったようだが、3回戦は分からない。

メアリ
 「あの、待っていても当分空きませんし、一緒にお食事でもどうですか?」

ルージュ
 「食事!?」

ルージュが目をキラキラさせて反応する。
コイツ本当に食い意地張ってるよなぁ。


 「……先に飯にするべきか」

俺は頭を掻きながら、ポケモンセンターが空くのを待つことにするのだった。



***



ポケモンセンターを出ると、外は暗くなっていた。
暗いと言っても、街灯もあるし真っ暗じゃない。
外にはナッシーがマスターを待っていた。

ナッシー
 「これは茂殿」


 「ナッシーさん、ポケモンセンターの入口入れませんよね?」

俺はポケモンセンターの入口を見る。
精々2メートル位で、3メートルを余裕で越えるナッシーは不便そうだと思う。

ナッシー
 「ええ、世界はナッシーを基準には作られていませんからね、色々苦労しています」

そう言ってナッシーは苦笑した。
とりあえずいつも通りそうで俺は安心した。
大して内のお姫様はというと。

ルージュ
 「お腹空いた〜」


 「このポケコインって言うの? どれ位店なら行けるんだ?」

俺は大会賞金という形で受け取ったこの世界の通貨を見る。
金貨1枚で1000ポケコインだそうで、俺はそれを5枚持っている。
大体回復薬だとセットで纏めて買えるみたいなんだが……。

メアリ
 「茂さんって不思議ですよね……文字も読めないし、通貨も分からない……でもポケモンの事、誰よりも理解している……」

ナッシー
 「……」

俺は何も言わなかった。
ナッシーは何かを察したのか、敢えて口を閉じているようだがこの世界に普通に住んでいるメアリには不思議でならない。

メアリ
 「もしかして茂さんって神の国の人だったり?」


 「神の国?」

いきなり聞き慣れない単語が出てきたな。
メアリはあるお話しを俺に話してくれた。

メアリ
 「神の国には多くの神様がいて、そこにはポケモンがいる……私達契約者は神の国のポケモンと契約をしている……と、言われてるんだけど、事実は分からないのよね」


 「……一つ気になったんだが、主神ユミルは……」

メアリ
 「ユミル様? ユミル様は私達子らの母親で、唯一神の国から降りてこられたのよ?」


 「そのユミル様はなんだってポケモンバトルを行っているんだ?」

メアリの反応から彼女は敬虔なユミル教徒と言えるだろう。
開会式でも結構な人がお辞儀していたが、神が実在すればそれは宗教にならずとも信仰にはなりえるのか。

メアリ
 「ユミル様は分からない事だらけだわ、ただ、ユミル様には善悪の二側面が存在するって言われていてね? 数百年前には、ユミル様を驕った一国を一夜にして滅ぼしたなんて話もあるくらい」


 「触らぬ神に祟り無しだな……」

なんとなくユミルが国を滅ぼしたってのが簡単に想像できて笑えない。
ポケモンにも同じ事が言えるが、永遠とかが暴れたら普通に何も出来ないよなぁ。


 (永遠……か、やっぱり俺を捜しているのか?)

俺はあの時間の神様の事を思い出す。
俺と永遠は共犯者として、ある世界線を変えるために戦った。
それも終わって、永遠は普通の人間として生きることを受け入れたが、俺と彼女を唯一繋ぐのは時の結晶というアイテムだった。
彼女は時の結晶があれば、どんな時間軸でも捕捉出来る。
だが、今は時の結晶を俺が紛失しており、彼女でも迎えにはこれないだろう。


 (迎えと言えば……フーパはどうしたんだ?)

俺はジラーチを思い出す。
ジラーチが召喚に応じた理由は謎であり、なによりフーパがいない事は違和感だった。


 (謎……謎謎、世界は謎だらけ、か)

俺はそれ以外にもルージュが俺を殺しに来た理由も思いだし、ゲンナリした。
優勝してユミルに願いを叶えて貰ったとしても、それは同時にあのマルノーム含む、俺の命を狙う奴らと再会する訳なんだよなぁ。

ルージュ
 「茂……どうしたの?」


 「いや、考える事が多いなと思ってな」

ルージュは不安そうに俺の顔を覗き込んだ。
まさかコイツが俺のバディになるとは予想しなかったよなぁ。


 「なぁルージュ」

ルージュ
 「うにゅ?」


 「もし俺を殺して願いが叶うなら、お前は実行するか?」

ルージュ
 「……アタシはもう願いが叶った、今の願いを表すなら、それは茂を護る事だから、茂の願いがアタシの願い」

ルージュは少し哀しそうな顔をして、そう言った。
もうコイツはアサシンじゃない。
もし優勝出来なかったら、コイツとの第二の人生も考えないといけないのか。

メアリ
 「茂さん? あの……この店どうです?」

気が付くと、俺たちは繁華街に入っていた。
メアリが示したのは香辛料の匂いがする店だった。

ルージュ
 「カレーの匂いだぁ〜♪」

匂いだけでルージュの顔はトロンとしていた。
かく言う俺もその刺激的な匂いに腹の音は鳴るのだった。


 「オーケー、この店にしよう」



***



アルパシティは夜を迎えても、街の灯は消えない。
それこそが文明の証である、この世界にたった一人降り立ったユミルも愛した光。
しかし、街は遍く照らされている訳ではない。

例えば、路地裏には光の射さない死角だってある。

ジラーチ
 (何してるのかしらね……私)

私は今路地裏を彷徨っていた。
マスターの小言はウンザリで、宿屋から逃げてきたのだ。
私自身目的があるから、組んだけど相性で言えば最悪だ。
ルインは私を信じようとはしない。
私を召喚できた自分を信じ、信じられる者は自分だけ。

ジラーチ
 「願い事ポケモン……か」

私は自分自身を自嘲する。
願いを叶えるポケモンと言っても、自分の願いは叶えられないし、挙げ句マスターも私を信用しないんじゃ意味が無い。
最も、召喚された私の力じゃ願いを叶えるのは難しいんだけど。


 「へへへ、コイツジラーチじゃねぇか?」

ジラーチ
 「!」

気が付くと酔っ払った荒くれ者が周囲を取り囲んでいた。
酔っ払い達は、下卑た笑いを浮かべて、私に近寄ってくる。

ジラーチ
 「なによ、アンタたち?」

荒くれ者A
 「これが優勝候補?」

荒くれ者B
 「へへ、俺達が遊んでやろうか?」

ジラーチ
 「……」

激情に任せれば、そのままぶっ飛ばすんだけど、生憎私闘は禁止されている。
どうにか躱さないと、ちょっとやばいわね……。

荒くれ者C
 「へへ、ちょ〜と遊ぼうぜ〜?」

男の一人が汚い手で私に触れようとする。
しかし私は素早く身を翻して、回避した。

荒くれ者C
 「あら〜?」

荒くれ者A
 「け! おい! ちゃんと取り押さえろ!」

ジラーチ
 (くそ……これだから人間は嫌い!)

荒くれ者たちなんとか躱しているけれど、このままじゃ捕まってしまう。
しかしそうしていると、闇の中から新たな足音は聞こえてきた。
私は音の方を見るとそこには誰もが目を引くであろう美女が欠伸をしながら現れた。

ノワール
 「全く眠たいねぇ〜」

荒くれ者B
 「うほ! 良い女!」

ジラーチ
 (キリキザン?)

そこへ現れたのは、黒髪のキリキザンだった。
確か茂お兄ちゃんの方とは違う方。

荒くれ者C
 「へへ、姉ちゃん俺達と遊ぼうぜ?」

ノワール
 「ほう? 私とお前たちが? はは、面白い冗談ね!」

荒くれ者A
 「へ! そんな事言って、お前参加者だろう? 俺達は関係ねぇが、お前たちはルールで抵抗出来ねぇだろう?」

ジラーチ
 「このゲス共……!」

コイツらは私達大会参加者が私闘を行えば失格になるのを知っている!
問題を起こせば、即優勝の道は阻まれる!

ノワール
 「ほう? お前たち死にたいのね?」

ジャキン!

キリキザンは突然右手のブレードを展開した。
口元にブレードを持っていくと、ギラリと刀身が光る。

荒くれ者B
 「ひっ!? お、お前そんな事をしたら大会は!」

ノワール
 「それがどうした? それで願いがご破算になるなら、貴様らを八つ裂きにしても構わん」

キリキザンが一歩前へ進む。
荒くれ者たちは一歩後ろへ。
キリキザンは恐ろしいほど冷酷な瞳で男達を居竦み、どちらが上かはっきり分からせた。

ノワール
 「それに誰の遺体か分からん程バラバラになれば、誰がやったなど特定出来るかね?」

荒くれ者たち
 「「「ひ、ひぇぇぇ!」」」

荒くれ者たちは我慢できず、遂には逃げ出した。
私はポカンとしていると、キリキザンは私に寄ってくる。

ノワール
 「度胸試しのつもり?」

ジラーチ
 「……助かったわ、ありがとう」

ノワール
 「……明日不戦勝は気にくわんのでな」

ジラーチ
 「え?」

黒髪のキリキザンはそう言って闇の中に溶けていった。
私は呆然としながら、その意味を思い出す。

ジラーチ
 「あ……まさか」



***



大会は3回戦。
既に人数は4分の1、予選から考えれば何分の1だろうか?

ルイン
 「手加減するな」

ジラーチ
 「分かってる」

私は目の前の相手を見た。
昨日のキリキザン、彼女がそこに立っていた。

ジラーチ
 「手加減して勝てる相手じゃないわね」

私はゆっくりとフィールドに歩み、相手の出方を待つ。

アレン
 「の、ノワール……頑張れ」

ノワール
 「ははは! まぁ任せておけ!」

マスターの前では意外に純情なのか、昨日の彼女のその顔はない。
キリキザンはマスターの頭部をぶっきらぼうに撫でると、フィールドに入った。

ジラーチ
 「昨日はどうも」

ノワール
 「くくく……お前を倒せば優勝以上の価値があるのでな」

ジラーチ
 「そんな物意味は無いでしょうに」

ノワール
 「ポケモンには無くとも、人にはある……そういう事だ!」

キリキザンが刃を展開した。
エスパー技は通用しない。
だから私は!

ジラーチ
 「コメットパンチ!」

私は突っ込む、彼女が踏み込むより先に顔面を殴り抜ける!

ノワール
 「ふ!」

キリキザンは微笑を浮かべる。
コメットパンチは顔面を捉え……!

ドス!

ジラーチ
 「ぐっ!?」

私は腹部に膝を叩き込まれる!
不意打ちだった、キリキザンなら出来て当然の技だ。

ジラーチ
 「らぁ!」

しかし、私は構わず拳を握り締め、殴り抜ける!

ドゴォ!

ノワール
 「くぅ!?」

キリキザンは両腕ブロックするが、一気にフィールドの端まで追い込まれる。

アレン
 「キリキザン!」

ルイン
 「今だ! トドメをさせ!」

ノワール
 「ち! パワーで上回られたとて!」

ジラーチ
 (もう一度不意打ちが来るか!? 次は強打かもしれない!)

ノワール
 (猪かと思ったが、慎重になりおったか)

私は一定距離で止まる。
後ろからルインの罵詈雑言が飛んでくるが無視した。



***



ルージュ
 「お母さん苦戦してる……」


 「パワー負けしていたって事は、レベルでは相当上回られているって事だな」

俺たちは控え室で、この試合を見ていた。
どちらが勝っても不思議じゃない。
ジラーチは強いが、トレーナーと絆は皆無、この世界ではこの絆は意外に重要な力だ。
一方でノワールはアレンとの様子を見ても関係が良好であることが分かる。
ただ、ノワールはアレンを頼ろうとはしない。
果たして本当に理想的な力を持っているのかは疑問もある。


 「どちらが勝っても、あの二人なら優勝まで行くだろうな」

ルージュ
 「アタシより強い?」


 「さて、お前はまだ成長は終わっていない……この意味がどういう結果を残すか、だな……」

ルージュ
 「アタシ、優勝したい……優勝して、茂の願いを叶えたい」

ルージュはそう願うような顔で言った。
コイツは本当に俺のことを信頼してくれているんだな。
大会としてはイレギュラーだが、俺達の絆はトップではないかと思う。
だが、ただ信じるだけで勝てる程甘くはない。
一つ俺にアドバンテージがあるとすれば、この世界の人間より遥かにポケモンに対する知識がある。
少なからずトレーナーは軽視されるが、多分その意味は大きいと思う。


 (ノワールが勝つか、それともジラーチが勝つか)



***



ノワール
 「ふぅ……ふぅ……!」

試合は10分を過ぎようとしていた。
ポケモンの戦いは技が直撃すれば、最悪一撃K.Oもありえる。
つまりは如何に直撃を避けるかが、ポケモンバトルだと言える。
だが……こうも疲れる戦は久方振りか……。

ジラーチ
 「はぁ、はぁ」

ジラーチは面倒くさそうにしているが、攻めあぐねて疲弊している。
原因は私が悪タイプだから、ジラーチは無効のエスパータイプと今一つな鋼タイプを使わざるをえない。
一方で私の悪タイプ技、特に不意打ちはジラーチに大ダメージを与えうる。
それを警戒するあまり、ジラーチはあまり攻勢に出られないのだ。

ノワール
 (強いな……本来の世界線ならどれ程とんでもない存在だったのだろうか……)

ジラーチ
 (面倒臭い……どう攻略する?)

ルイン
 「ジラーチ! 何をしているのだ!?」

相手のトレーナーは随分イライラしているようだ。
思わぬ苦戦に戸惑っていると言った所か。

ノワール
 「くくく……、お前のトレーナー、無能だな」

ジラーチ
 「自覚してる……」

ジラーチにとってもアレはマイナス点か。
付け入るならそこなのだが、問題点はこっちもか。

ノワール
 (アレン……後一歩なんだが)

クス、これがもし茂なら間違いなく私の力を十全に引き出してくれただろう。
つくづく縁とは巡り合わせよ。
しかし縁という言葉に片づけて、自分の力で手に入れる欲望を捨てるつもりはない!

ノワール
 「覚悟しろ……私は諦めの悪いポケモンだぞ?」

ジラーチ
 「……!」

私は踏み込む!
ジラーチも拳を固めた、迎撃の構え!

ノワール
 「はぁ!」

私は渾身の力で辻斬りを放つ!
ジラーチもまた、その拳に鋼の力を込める!

ガキィン!

刃がジラーチの右拳に弾かれた。
だが、刃は折れていない!
私はすかさず左の刃を振るった。

ノワール
 「貰ったぞ!」

ジラーチ
 「甘くみないで!」

しかしジラーチもまた、左の拳に念動力を滾らせる。

ノワール
 「その技は私には通用しない!」

ジラーチ
 「使い方は……一つじゃない!」

ジラーチの拳はエメラルド色の光を放った。
固体化する程の力はそれ自体凶器。
だけど、ジラーチはその力を、自ら弾いた!

バァァン!

ノワール
 「なに!?」

掌大にまで超圧縮されたサイコキネシスは解放されると、周囲にバーストして爆発を起こす!
それ自体は私にはダメージがない……だが!

ノワール
 「くっ!? 視界を!?」

光が視界を奪う!
それは一瞬の隙だった。
しかしポケモンバトルはそれが致命的なのだ、それを刹那的に私は理解していた。

ジラーチ
 「これで!」

ノワール
 「がっ!?」

ジラーチの強烈な蹴りが腹部に刺さる。
私は吹き飛び、地面を舐める。

ノワール
 「くぅ……!?」

腹部に生える刃の何本かが折れていた。
ついでに肋骨もやったか?
私は痛みに堪えながら、なんとか立ち上がろうとする。
しかし疲労とダメージが限界に近い。

アレン
 「キリキザン!?」

マスターの悲鳴めいた声が脳裏に木霊した。
く……、まずい、先に致命打を貰ってしまうとは。

ノワール
 「し、心配するな……!」

私は震えながら、立ち上がった。
アレンをまだ心配させる訳にはいかん。

ジラーチ
 「く……まだ立ち上がれるの?」

ジラーチが用いたのは正真正銘奇策だ。
二度目はない……が、俄然不利なのは私か。

ジラーチ
 「今ならまだ!」

ジラーチは再び、突っ込んできた。
私は不意打ちを狙うが……!

ノワール
 (痛っ!?)

腹部の痛みに動きが鈍る。
その間に不意打ちは打つ機会を失い、ジラーチの射程距離を迎える。

ジラーチ
 「貰ったわよ!」

ジラーチのコメットパンチ。
万全の状態なら受けられる……だが今の私では!

ドカァ!

ノワール
 「くぅ!?」

私は必死に顔面をガードするが、奴のコメットパンチは骨に響く。
足の動かない私はサンドバッグだった。

アレン
 「ノワール!!」

ノワール
 (アレン!?)

普段冷静なアレンにあるまじき反応だった。
泣きそうになりながら、私の名前を叫ぶ。
それは私のための涙か、不思議だが少しだけ繋がった気がした。

ノワール
 「辻斬り……百花繚乱……ッ!」

私は渾身の力で動いた。
歯を食いしばり、本来のパフォーマンスを発揮できなくともその技を放つ!
私の切っ先は九の線を結ぶ。
相手をバラバラにもしかねない技……それが、ジラーチを、捉、え……。

ジラーチ
 「……お見事、尊敬に値するわ」

私の刃はジラーチに届いた。
だが……それが限界だった。
私の切っ先はジラーチの腹部を捉えていたが……刃は激戦に絶えきれず、切っ先からボロボロと自壊していく。
結論から言えば、不発……!

そして、それが私の活動限界だった。
ジラーチは握り込んだ拳を解くと、ゆっくりと私の手に触れた。

ノワール
 「く……う!?」

私はゆっくりと地面に倒れた。
意識が朦朧としていた。

審判
 「キリキザン戦闘不能! よって勝者ジラーチ!」

ノワール
 (ああ、負けたのか……)

もう身体が動かん。
だが、結局我が力は後一歩届かなかった。

アレン
 「ノワール! ノワール!?」

ノワール
 「アレン……? すまん」

アレン
 「なんで謝るんだ!? ノワールは良くやった! 僕なんかのために……!」

ノワール
 「……泣いておるのか?」

アレン
 「泣いて、なんか……!」



ジラーチ
 「……」

私は相手のマスターを見た。
幼いが、キリキザンが傷付く様を良く見届けた物だと思う。
もし……もう少し絆が繋がっていたら、負けていたのは私だったかも。

ルイン
 「苦戦したな」

ジラーチ
 「それだけの大物だったって事よ」

ルイン
 「お前も優勝しなければ何にもならん、忘れるなよ?」

ジラーチ
 「忘れないわよ」

……そう、私には負けられない理由がある。
それはある友のため、あの馬鹿のために。



***



ルージュ
 「ひっく! ひっぐ!」


 「お前が泣いてどうする」

ルージュ
 「だ、だってぇ〜」

ノワールが敗れた様は俺たちは中継で見ていた。
勝者だけが生き残るとはいえ、やはり俺にも堪える物はあった。
だが、俺達が泣いても意味なんてない。
だから俺は泣かなかった。


 「ノワールは死力を尽くした……立派だったろうが」

ルージュ
 「うん……、うん!」

意地っ張り振りなら流石親子、負けず劣らずだったが純粋な力に押し潰された。
ジラーチは理屈抜きに強い事を証明した戦いだった。
改めて、アイツの強さを再確認した気分だな。


 「お前にノワールの強さが少しでもあるのなら、歯を食いしばれ!」

ルージュ
 「お母さん……!」

ルージュの優しさは根本的の争いごとに向かない。
コマタナ一族に産まれた事が、生まれの不幸だったのかもしれない。
でも俺はルージュに可能性を見た。
コイツならノワール以上の強さもきっと手に入れられる。


 「俺たちは勝つぞ!」

ルージュ
 「うん!」

ルージュは涙を拭くと力強く頷く。
このトーナメントが終わったら、戦うのはこれっきりにしたい。
きっとルージュもそれを望んではいないだろう。
後数戦……終わりは、近かった。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#9 ノワールVSジラーチ 完

#10に続く。


KaZuKiNa ( 2019/11/03(日) 17:38 )