#8 VSユキノオー&ヨワシ!
#8
アナウンサー
『第2回戦も熱戦だ! 激戦だ 大激戦だ! ウェイ!』
アナウンサーのハイテンションな喋りも、こういう大会の華か。
2日目は参加者も半分になり、最初はあれだけ窮屈だった共同控え室も大分余裕が出来た。
と言ってもまだまだ参加者は多いわけだが、俺は控え室から中継を見ていた。
茂
「キリキザン、そろそろ準備しておけよ?」
ルージュ
「うん」
ルージュは立ったまま、精神統一をするように目を閉じて落ち着いていた。
思った以上にクールだな。
俺の見立てではもっと熱を帯びると思っていたが。
茂
「お前、大丈夫か?」
ルージュ
「大丈夫……ただ、どんどん相手は強くなるんだよね?」
茂
「余程の大番狂わせがない限り、そうなるだろうな」
もしかしてビビっているのか?
元々小心者というか、ビビり体質ではあった。
それでも負けん気があり、臆病ながら意地っ張りな奴だ。
少し珍しいコンディションみたいだな。
茂
「キリキザン、手を出せ」
ルージュ
「え?」
ルージュは手を差し出すと不思議そうにしていた。
俺はその掌に人の字を三回書く。
茂
「ちょっとしたおまじないだが、お前はお前らしく行け」
ルージュ
「茂……」
茂
「……よし! それ行くぞ!」
ルージュ
「うん!」
俺は立ち上がると控え室を出る。
通路を通っていくと、ちょっとずつ俺の中でも緊張は上がっている。
当然だ、負ければ終わりのトーナメントで一戦でも手を抜くことなんて出来ない。
それはルージュも一緒だろう。
ルージュは特にその感受性は受けやすいだろう。
だが、俺に出来ることはやっぱり信じる事なのだ。
ルージュは優勝すると言った、俺はそれを信じるのみ。
ルージュ
「ねぇ茂……」
茂
「なんだ?」
ルージュ
「手……繋いでいい?」
ルージュは顔を紅くすると、手を差し出した。
俺はそれを見て、その手を握る。
ルージュはキュッと少し強い力で手を握った。
ルージュ
「ずっとコマタナだったから、手を繋ぐの憧れだった」
そうか、確かにコマタナの時は手が刃になっており、とても握れる物ではなかった。
触れ合いたくても触れ合えない。
それはヤマアラシのジレンマに似ているかもしれない。
茂
「着いたぞ」
俺たちは会場に入る通路に辿り着いた。
ルージュはゆっくりと手を離すと、その顔に闘志を宿らせる。
ルージュ
「茂……行ってくる!」
ルージュは直ぐに戦士の顔した。
係員は俺達の登場に、会場入りを促す。
茂
「行くぞ!」
ルージュ
「うん!」
ルージュを先頭に俺達は、会場へ入る。
1日目と変わらず、ただ白線だけが引かれた土のフィールド。
俺は改めて対戦するバディーズを見た。
トレーナーの方は女性だ、大人の女性にも見える。
一方でポケモンの方は……。
ユキノオー
「あ、結構可愛い子♪」
茂
(女子高生的な?)
そこにいたのはユキノオー娘だったが、些か毛並みが違う。
ギリードレスとでも言うべき物を着た現代風の少女。
というか、コスプレじゃねぇよな?
ルージュ
「……!」
ルージュは油断無く構えた。
俺は頭を掻くと、一先ず俺の感情は置いておく。
茂
「キリキザン、一気に決めるぞ!」
ルージュ
「……うん!」
ユキノオー
「わお、これはピンチかな?」
ユキノオー娘はこの後に及んで戯けていた。
慢心するだけの実力があるのか、それともポーカーフェイスなのか。
茂
「判断しかねるが……! アイアンヘッド!」
ルージュ
「!」
ルージュが駆ける。
ユキノオー娘は、手を振り払う!
カカッ!
ルージュ
「!? なにこれ!?」
ルージュ足下に何かを打ち込まれ、足を止めてしまう。
それは凍った葉っぱだ。
柔らかい葉を氷でコーティングして、殺傷能力を増してやがる!?
ユキノオー
「警告よ、その葉っぱカッターより内側に入れば、今度は串刺し」
ルージュ
「ッ!?」
ルージュが攻めあぐねた。
ユキノオー娘は僅かな技と言葉を持って、ルージュを止めて見せたのだ。
茂
(……あのユキノオー、可愛い顔してかなりやる……! だがあの反応間違いなく白兵戦を嫌がった!)
俺はユキノオー娘の反応から、あくまで遠距離戦主体だと理解する。
とはいえそれでも接近戦が苦手かはまだ分からない。
ただ、俺にも分かっている事はある。
茂
(どうする? ルージュは白兵戦しか出来んぞ?)
ノワールならどう対処する?
俺は同じキリキザンのノワールを想像する。
ノワールもまた、遠距離戦を熟す技能を有しないだろう。
あの女なら、相手の射撃より速い踏み込みで制する……か。
茂
(ノワールの踏み込みを、ルージュにやれるか?)
俺は戦場を俯瞰した。
ユキノオー娘はルージュを警戒しながら、動かず逆にルージュはゆっくりと横に動く。
痺れを切らせば負けると言わんばかりだな……。
ユキノオー
「うーん、アイドルとしては観客を白けさせる訳には行かないんだよねぇ〜」
茂
(相手が動いた!?)
それは初めて見せた隙だ。
ルージュはそれを見逃さない。
だが……!
ルージュ
「もら……きゃあ!?」
ズテン!
ルージュが踏み込んだ瞬間、ルージュは素っ転んだ!
何事だ!? と俺は地面を見て気が付いた。
ユキノオー娘の足下が凍り付き、地面を凍結させていたのだ。
ユキノオー
「策士で御免ね♪ これでジ・エンド♪」
ユキノオー娘はウインクすると、掌から何かを生成して転んだルージュに投げ好む。
ドォォン! ドドォォン!!
それは種爆弾だった。
3個同時に投げ込まれた種爆弾は炸裂弾のように爆裂し、ルージュを襲う!
茂
「ルージュ!?」
思わず真名で叫んでしまう。
それ位、絶体絶命だったのだ。
ユキノオー娘はこの布石のために相手を言葉で縛り、戦術を隠し、絶好のチャンスを掴んだのだ。
俺は自分の手を強く握り込んだ。
茂
「ルージュ! お前ならやれるだろう!?」
爆煙の中、俺はそう叫ぶ。
俺は相手に騙された事を悔やむ。
だが、それで負けたとは思っていない!
茂
(俺はルージュを信じる!)
ルージュ
「……うわぁぁ!」
土煙の中からルージュは飛び出す!
ダメージは隠せていないが、ルージュの闘志はまだ消えていない!
ユキノオー
「嘘っ!? あれで火力足りないのっ!?」
ユキノオー娘は慌てて、掌に葉っぱを精製する。
だが既に遅い!
ルージュ
「貰ったぁ!」
ルージュは思いっきり頭部を振りかぶり、ユキノオー娘の頭部に振り下ろす!
ユキノオー
「痛ぁ!?」
ユキノオー娘が後ろに倒れる。
ルージュ
「はぁ、はぁ!」
ルージュは息を切らし、なんとか薄氷の勝利を獲得出来たか。
ユキノオー娘は大の字に後ろに倒れ、立ち上がる様子はない。
後は審判が宣告すれば……。
ビュウウ……!
茂
「冷気!?」
ユキノオー
「……ユキノオーは別名アイスモンスター、その周囲のリージョンを作り替える能力があるの……!」
ブリザードは会場全体を襲った。
よく見ると観客席の目の前に透明なバリヤーみたいな物が張られており、冷気はあくまでフィールド内だけのようだ。
俺は真冬の寒さに身を縮ませ、ルージュを見る。
ビュオオウ!
ルージュ
「くう!?」
ユキノオー
「鈴ちゃんの真骨頂……見せないとね!」
鈴ちゃん!? 真名か!?
真名には力が封印されるらしく、それは元の世界の記憶の集約だと言う。
名の持つ呪縛、俺の世界のそれとは意味も効果も違うらしいが、真名を出したと言うことは……本気だ!
ルージュ
「くう……う!?」
ルージュがブリザードに吹き飛ばされる。
鈴
「吹雪!」
ブリザード中、氷の嵐が吹き荒れる!
茂
「ルージュ! 防御を崩すな!」
ルージュ
「う……ん!」
ルージュはその氷の嵐を必死にやり過ごした。
しかそこには……!
アナウンサー
『なんだぁ!? フィールドに氷山が出現!』
ユキノオー娘の放った吹雪はフィールドを完全に冷やしきり、そして巨大な氷柱が地面から生えたのだ。
ルージュ
「はぁ……はぁ!」
茂
(まずい! ルージュの体力も限界か!?)
ルージュは特に体温低下の影響が出始めている。
決して氷に弱いタイプではないが、だからと言って体温が低下すれば死にいたるのは他のポケモンと変わらない。
ルージュ
「し、げる……!」
茂
「ルージュ……」
ルージュの火は絶えかけている。
今ルージュは俺に縋っている状態だ。
俺は右手を見た。
冷え切っているが、そこにはまだ熱があった。
それはルージュの熱だ。
そっと、でも力強く繋いだ手が熱を放っているのだ。
馬鹿な……そう思えるかもしれないが、俺はそれを否定しなかった。
鈴
(はぁ、はぁ、鈴ちゃんもちょっとピンチだったり……とはいえ、契約もあるし……!)
茂
「ルージュ、俺の熱を感じるか?」
ルージュ
「う、うん……熱い、コネクトしてる?」
そうだ、俺とルージュが右手を通して繋がった。
俺は右手を強く握り込む!
茂
「行くぞ俺達のバディーズ技!」
ルージュ
「!」
今俺の中にルージュが流れ込んでいた。
その感覚は不思議とそこまで熱くはない。
ルージュの優しさがまるで物質になったかのようで、俺の傍に寄り添った。
ルージュ
(熱い……でも火傷するような熱さじゃない、茂の全部がアタシと混ざっちゃうみたいで……!)
鈴
「何かしようとしているみたいだけど!」
ユキノオー娘は吹雪を放つ!
実際これ以上くらえば命はないかもしれない。
だが、俺達は……!
茂
「『優しき命を燃やす辻斬り』!!」
その瞬間、俺の生気が全てルージュに吸い込まれたかのような錯覚を覚える。
実際その倦怠感は凄まじい。
だが、ルージュは全身にオーラを迷い、その刃を振り上げた。
ルージュ
「これが! アタシ達の勝利の剣だーーっ!!!」
ルージュそのオーラを刀身に乗せ、刃を縦に振り払う!
すると、その一撃は氷山を砕き、その後ろのユキノオー娘をも斬った!
鈴
「!?」
正真正銘、必殺の一撃。
砕け散る氷山と共にユキノオー娘は今度こそ、大の字で倒れた。
だが、傷跡がない。
バディーズ技と言えど、その刃は逆刃。
ルージュの本質の優しさが、その技に出たか。
審判
「ユキノオー戦闘不能! よって勝者キリキザン!」
茂
「はぁ、はぁ……!」
バディーズ技の威力は凄まじかった。
だがその分マスターに与える負担も大きいらしい。
俺はぶっ倒れそうになり、そりゃこれは乱発出きんわ。
ルージュ
「茂……っ」
ルージュは俺の元に寄ると、そのまま身体を預けるように倒れた。
観客は大技の応酬に大歓声を上げていたが、俺達はそれ所じゃない。
茂
「お疲れさん」
ルージュ
「茂が居なかったら無理だった……ありがとう」
茂
「そりゃお互い様だ」
俺達はそう言って、若干フラフラになりながら会場を後にする。
ルージュ
「茂……今日こそ子作りを……♪」
茂
「絶対にNO!」
***
ノワール
(ルージュめ、我が娘ながらまだ強くなっておるか)
私は控え室から中継でルージュの戦いを見ていた。
まだ青臭さが抜けない生娘だが、最後の大技は良かった。
私とアレンならやれるか?
アレンが保つか心配だから、今までアレンに負担を掛ける戦いはしてこなかった。
ノワール
(だが、そうも言っていられんか)
戦いの中で力を取り戻す……にしても今の私は精々6割か?
この状態ではまだ奥義は無理かもしれん。
ノワール
「契約の手前、泣き言も言えんか」
我々ポケモンは異界から召喚された存在だ。
魔術と言える技術を持って、異界から情報を元に召喚するそうだ。
だから厳密には私はノワールのコピー体だと言えるそうだ。
それ故に器の完全再現には至らず、そのためにポケモンバトルを通して、強くなる必要があった。
アレン
「ノワール、不安なのか?」
私のマスターアレンはまだ幼い、しかしそれを感じさせない才覚はある。
とはいえ、肉体的に劣るのは必定。
マスターはまだ人間として強くない。
ノワール
「馬鹿言え、優勝するのは私だぞ?」
私は敢えてビックマウスを用いるが、アレンは真剣な目で私を見た。
アレン
「お前からすれば、僕はちっぽけな存在かもしれない……だが僕を舐めるなよ」
ノワール
「ふ」
言ったものだ。
アレンはここで優勝する事でエリートとしての実績を確定させようとしている。
アレンの家系は代々有力な貴族の家の出身で、所詮この大会もその実績作りだと言える。
私を召喚するだけの才覚はあるが、イマイチ熱が無いのが困りものか。
アレン
「そろそろ試合だぞ」
ノワール
「……ふむ」
立ち上がると、更に身長差が広がる。
私はちっぽけなアレンを見下ろすと。
ノワール
「おぶってやろうか?」
アレン
「子供扱いするな!」
アレンは顔を真っ赤にすると、控え室を飛び出していく。
私はその後ろ姿に肩を竦めると。
ノワール
(実際子供であろうに)
***
会場に辿り着くと、既に対戦相手はいた。
身長100センチ位? 今大会でも最小クラスのポケモンが立っていた。
名前はなんと言ったかな?
アレン
「ヨワシ……知っているか?」
ノワール
「記憶にないな」
相手はヨワシと言うらしい。
大きな目をした水棲系のパーツが見られる少女。
獲物として小物というか、小魚か。
ノワール
「まぁ、おやつかね」
ヨワシ
「……! 舐めないで!」
ヨワシの目が光る。
私は警戒する。
すると、ヨワシの真上に穴が開き、そこから何かが溢れた!
アレン
「なっ!? なんだアレは!?」
ヨワシ
「「「私は私を見下す者を許しはしない」」」
それは群体だ。
無数のヨワシが巨人を象る。
ノワール
「こいつ……私と同じタイプか!」
私は一団で召喚された珍しいタイプだが、それは私だけではないらしい。
魚群とも言うべき姿は、正に化け物!
ヨワシ
「「「砕け散れ!」」」
ヨワシの声がエコーする。
その豪腕が振り下ろされる!
ノワール
「は!」
私は豪腕を避けると同時に足の刃で斬る!
巨体と言っても、それはヨワシの群れに過ぎない。
だが、利巧なのか斬られたヨワシは直ぐに奥に引き込んでいき、新しいヨワシが腕を形作る。
ヨワシ
「「「おおおお!」」」
ヨワシの口元が丸く広がる。
直後、凄まじい威力のハイドロポンプが私を襲う!
ノワール
「くう!?」
***
ルージュ
「お母さん……!」
ルージュが小さな悲鳴を零した。
茂
(ヨワシか……多数を殲滅する術を持たないノワールだと相性は最悪だぞ……)
俺たちは中継カメラからその試合を見ていた。
ノワールはハイドロポンプの直撃を貰い、地面に手をつけていた。
明らかに苦戦している。
茂
(負けるのか? ノワール……)
俺は敵であるにも関わらず、ノワールを心配していた。
きっとリスペクトなんだろう。
単純にルージュの母親だという事もある。
茂
「ルージュ、お前の母さんを信じてやれ」
ルージュ
「う、うん……!」
ルージュは祈るように手を合わせた。
戦いは今も続いている。
***
アレン
「キリキザン! 何をしているんだ!?」
ノワール
「黙っていろ!」
私はヨワシの群れを斬りつけるも、所詮数匹にダメージを与えたに過ぎない。
数百匹のヨワシの群れは内部でアクアリングでも使用して回復しているのか、まるでダメージを与えられない。
ノワール
(はぁ、はぁ……なんて様だ、この私が)
私は苦笑するしなかった。
悔しいが相手が上手だ。
今のままではまるで勝ち目がない。
だが……だから良い!
ノワール
「はっはっは! 弱敵には飽きていた! コイツは最高の上物ではないか!」
ヨワシ
「「「なに? 壊れたの?」」」
アレン
「キリキザン……」
ノワール
「アレンよ、見ておくがいい……真のポケモンバトルをな!」
私は一旦全ての刃を仕舞う。
巨人ヨワシは怪訝な顔を浮かべたが、直ぐに攻勢に出る!
だが、私はそんな鈍足よりも速く、巨人ヨワシの内部へと入り込む!
ヨワシ
「きゃあ!?」
ヨワシ
「来るなぁ!」
ヨワシ
「追い出せ追い出せ!」
ノワール
「くくく……やはりな、群れていくら強がろうが、単体は小魚に過ぎん」
私は今、ヨワシの中心にいた。
全周囲をヨワシに囲まれ、しかしヨワシは2メートル以上近づこうとはしない。
本質的には臆病な証。
ヨワシ
「馬鹿! 相手は腹の中よ! 逃げ場のない中ハイドロポンプで仕留めるの!」
ノワール
「貴様が本体か……!」
司令塔は必ずいる!
それは確信だった。
明らかに他のヨワシを指揮しているマスターヨワシを発見した。
ヨワシ
「だからなに!? 貴方はここで死ぬのよ!」
ノワール
「ふふ……薄っぺらいな、元来我が流派は殺しの技、外道の法よ……ただ一刀を芸術と呼べるほどまで昇華させる……されどその道は修羅の道!」
私は刃を抜いた!
ヨワシ
「戯れ言を!」
ノワール
「辻斬り、終の式、百花繚乱!」
***
それは突如ドーム状に変形したヨワシの外からだった。
アレンは突然笑い出しヨワシの内部に飛び込んだノワールを心配そうに伺っていた。
だが変化は直ぐに起きたのだ。
ヨワシ
「「「キャァァァ!?」」」
突然光が溢れる。
ヨワシの群れの悲鳴と同時に、粒子は零れ消えていく。
それは大量のヨワシが死んだ光だ。
光が止むと、そこには無数のヨワシが地面に散らばっていた。
その中心にはノワールが立っていた。
ヨワシ
「あわわわ……!?」
ノワール
「感謝するぞ、お前のお陰でレベルアップ出来た」
ノワールはある一匹のヨワシにゆっくりと近寄る。
ヨワシたちはもはや恐慌状態だ。
ヨワシ
「お、お前たち戦え!」
ヨワシ
「無理です〜! 親分が叶わない相手に叶うわけありませ〜ん!」
ノワール
「くくく……脆い統率だな」
ノワールは腹の底から笑いこみ上げた。
最初ヨワシたちは見事な統率だと感心した。
戦術としては正解であったし、学ぶ部分もあった。
だが結局鉄の忠誠心無くして組織は成り立たん。
ヨワシ
「た、助けて……!」
ノワール
「今更命乞いか、都合の良いことを」
キィン!
ノワールは刃を振るわせた。
そして後ろを振り返る。
そこには涙目になったアレンがいた。
ヨワシ
「い、し、死にたわ!?」
ノワール
「ボッシュート♪」
ヨワシはノワールの見えない斬撃に切り裂かれ、傷口から光が溢れた。
マスターとなるヨワシの死に、眷族たる他のヨワシ達も光へと変わっていった。
ノワールは軽やかな足取りでアレンに駆け寄ると。
ノワール
「おやおや〜? 心配しておったのか?」
アレン
「だ、誰が!」
アレンはノワールが戻ってくると、崩壊しかけた涙腺を隠すように後ろを向いた。
審判
「ヨワシ死亡! よって勝者キリキザン!」
ノワール
「ほら、早く帰るぞ……流石に疲れた」
アレン
「の、ノワール……」
ノワール
「うん?」
アレン
「よく、頑張った、な……」
アレンは精一杯の気持ちで勝ったノワールを褒めた。
勝ったと言ってもノワールは無傷ではない。
その姿は痛々しく、トーナメントの厳しさを物語っていた。
ノワール
「ふふ、マスターを優勝させるためだからな」
アレン
「自分のためでもあるんだろう?」
ノワール
「当然♪」
***
茂
(ノワールの技、やっぱり似ているんだよな……)
彼女の冴え渡る剣技はある人物を思い出させた。
華凛……元アーソル帝国の皇帝。
圧倒的な力を誇った彼女の剣は正に魔剣だった。
それが異世界を通じて、似た技に辿り着くと?
茂
(偶然なのか……それとも?)
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#8 2回戦 VSユキノオー&ヨワシ! 完
#9に続く。