#6 予選最終
#6
異世界漂流4日目、大会日程6日目。
俺とルージュはノワールとの戦いに勝った。
その夜ノワールの強い勧めでコテージを宛がわれたんだが……。
茂
「一つの布団に枕二つ……はぁ」
コテージは随分上等なようだ、上等な木製の家具も一式あり、布団もふかふかである。
まるで高級ホテルみたいだが、問題は大きな布団に枕が二つ……そりゃもう、犯せって事だよなぁ。
ルージュの子作り宣言の後、俺はなんとか身を護ることに成功したが、この様子じゃまだまだ操を死守しないといけないようだ。
茂
(ルージュ、強くなったよな……)
少なくとも、ノワールはかなりの相手であった。
それにルージュは自分の想いを全部ぶつけて勝利したんだ、それは大きな勝利だろう。
アイツにとっての一つ目の夢は通過した。
二つ目が……俺、か。
茂
(茜、俺は浮気はしてないからな! ただ不可抗力は勘弁な!)
ノワール
「失礼するよ」
俺は若干悶々していると、この一団のボスであり、ルージュの母親ノワールがコテージに入ってきた。
俺は先ずはノワールに頭を下げる。
ノワール
「いいよ、娘の旦那なら私の義理の息子って事になるんだから」
茂
「……いや、ですから俺は既に妻もいると」
ノワール
「は! そんな物、帰れなければ意味もないだろう?」
ノワールは俺の横に腰掛けると、相変わらず冷たい目線で俺を射貫いた。
言葉に冷酷さは感じないが、ノワールは1個の芯の通った女性だ。
一族を護るために、幾つものルールが生まれ、その通り執行してきたのだろう。
ノワール
「私は娘をあそこまで育て上げたお前を評価しているつもりだよ?」
茂
「……どうも」
ノワール
「ククク、それに夜の方も一杯出してくれそうだし♪」
ガクン!
思わずずっこけてしまう。
結局最後はシモの話しかー!?
茂
「の、ノワールさん、冗談はそこまでに……」
ノワール
「はっ! 分かってないね! それがなによりも重要なんだよ! 一族を維持するには健康で屈強な母体と、子孫繁栄のためのオスは必須! その中でも極上のオスなら至高!」
ノワールは立ち上がると、そう力説する。
考えてみたらこの人何歳なんだ?
少なくとも姿はその娘と大して変わらないんだが……。
年齢を聞くのは……恐いから止めておこう。
ノワール
「クク、そうだ……娘が犯る前に味見しちゃおっか♪」
そう言うとノワールは身体を覆うアーマーに手を掛けた。
茂
「いや、それは洒落にならんから!」
ノワール
「良いじゃないか♪ 今のマスターはまだ小さくて精通もしておらん、私も寂しいのだ」
つまりマスターが大人なら容赦なく食ってたって事ですか!?
ある意味運が悪……いや、運の良いマスターだな。
ノワール
「ククク、捕まえた♪」
ノワールが俺に跨がる。
その顔は妖艶で上気した表情が女として美しい。
茂
「あの、ルージュが戻ったら間違いなく修羅場なんで、もう止めません!?」
思わずルージュの名前を使うが、ノワールは目を細め、微笑を浮かべた。
ノワール
「良いじゃないか、そしたら3Pですればいい♪」
茂
「アンタ淫乱ビッチかー!?」
ノワール
「キリキザンが淫乱ビッチで何が悪いっ!」
茂
「ぬわ!?」
突然ノワールが顔を近づける。
ノワールは迫真の顔で迫ると。
ノワール
「そもそも生存競争とは、種の繁栄、どんな男でも犯し、子を孕むのはその生存戦略に過ぎん! ならば人間から淫乱と言われようが、私はそれを誇りとしてくれるわ!」
文化が違う……改めて痛感した。
こういうのをカルチャーショックって言うんだろうな。
コマタナ一族と人間ではそもそも生態が違うのは承知だが、いざポケモン娘化した際、俺は人間の文化に当てはめていたのかもしれない。
でもノワールたちは人間の法律もルールも関係ない。
異星文明のような違和感だけが残る。
ノワール
「さぁ! という訳で先ずは娘の旦那の息子をご開帳〜♪」
茂
「い〜や〜! 言葉にすると頭転がるし、俺の尊厳が色々アウト〜!?」
ルージュ
「何してるの?」
ノワール
「……あ」
ルージュだった。
風呂を借りていたルージュは暫くコテージから離れていたが、タイミング良く戻ってきた。
入口に際どい格好で立っていたルージュは恐い顔をしていた。
改めて顔のパーツはノワールそっくりだから、結構目付き悪い。
ルージュ
「お母さん、なにしてるの?」
ノワール
「いや、その……セックスしたくて♪」
ルージュ
「お母さんの泥棒ーー!!!」
ノワール
「技マシン46〜!?」
ルージュは大泣きしながら、腕のブレードを展開すると容赦なくノワールを斬りつける。
茂
「て、待てルージュ! 殿中! 殿中だから!」
ルージュ
「茂はアタシが護るんだからー! ビエェェン!!」
ルージュはなん振りも振るうが、俺から飛び退いたノワールは一切当たらない。
流石に本気でないなら、ノワールを捉えはしないか。
ノワール
「全く、まだ泣き癖は治らないのかい?」
ルージュ
「だって〜、お母さんつまみ食いしようとしてたんだもん〜」
ノワール
「だって結構私の好みなんだもん♪」
そう言って年甲斐もなくウインクする。
母親でなければコロっと行ってしまいそうな可愛さなんだが。
ルージュ
「ビェェェン! 寝取られたー!?」
茂
「それ言ったらお前も寝取ろうとしている状態なんだけどね!?」
ルージュは大泣きしながら家具を手に取った。
それを……ノワールにぶん投げる!
ルージュ
「お母さんの馬鹿ー!」
***
ガッシャァァアン!
ノワール
「のわぁ!? 思春期の小娘か!?」
私は慌ててコテージから飛び出した。
危うく化粧箱を顔面にぶつけられる所だった。
戦の負傷なら幾らでも受けるが、痴話喧嘩の負傷は御免だからな。
少年
「君達は落ち着かないね」
そこにずっと見ていたのかマスターはいた。
マスターの名はアレン、歳こそ若いが、才気のある私のマスターだ。
ノワール
「ククク、愉快であろう? たった一日で二度も衝撃を味わったわ」
アレン
「でも、負けた事は結構深刻じゃないか?」
ノワール
「……くく、手心を加えただけだ、まだ奥義も見せていない」
最も勝負には本気だった。
本気を出した上で負けたのは事実だ。
ノワール
(動揺した……一番の出来損ないが私の子供たちの中で唯一キリキザンに進化した、それに私は怒ってしまった……私の人生を全否定された気分だった)
その結果無様に負けてしまった。
ルージュが長を引き継がなかった事で団は護られたが、もうかつての忠誠心は部下にも残っていないだろう。
かろうじて団は維持できているだけだな……。
キリキザン
(冷酷で残忍、恐怖の女王は、絶対的強さがあって初めて成立する、ただ一度の敗北も許されない……か)
私は本来ならば死ぬべきだった。
そもそも決闘はどちらかを殺すまで止めない物だ。
ところがルージュは逆刃で私を斬り、私は無様に気絶してしまった。
全ては慢心が招いた結果だ。
アレン
「……僕は、ノワールの味方、だ」
ノワール
「くく、ああ……私もマスターは裏切らないよ」
やがて夜は更けていく。
残す大会予選は最後……!
***
茂
「……島の中央を目指す?」
ノワール
「ああ、アンタ達もついてきな」
翌日、ノワールとそのマスターであるアレン少年は森を出る事を提案してきた。
彼女たちは大会に優勝する理由があるから、余裕持って会場入りしたいのだろうが。
茂
「ルージュの調整、もう少ししたいんだが」
ノワール
「それなら、尚更向かうべきだよ、恐らく殆どのトレーナーは既に会場入りしている、その実力を肌で感じるべきじゃないかい?」
一理あるな。
俺はルージュの実力ならある程度分かっているが、大会のレベルとなると分からない。
幸いルージュ自身はもう俺があーだこーだ言わなくてもやっていけるだろう。
泣き虫なのは変わらないが、それも時が彼女に自信を与えてくれるはず。
アレン
「本戦では競い合う敵同士ですが、それまではお互いいがみ合うのは止めましょう」
茂
「そうだな、出来れば本戦でもいがみ合いたくはないが……」
ノワール
「……そう言えば、ルージュの願いは分かったが、肝心のお前の願いはどうなのさ?」
茂
「……それは、まぁ」
ノワールさんは随分率直に聞いてくる。
俺の願いは元の世界に帰ること。
でも、それは俺がイレギュラーだとバレてしまうかもしれない。
茂
(そもそも俺に大会参加資格があるのかすら不明だからな……)
ノワール
「答えられない?」
茂
「家に帰りたいだけです……」
アレン
「え?」
少年は随分不思議そうな顔をした。
そりゃこの世界の住民ならば、大会が終われば皆家に帰れるだろう。
だが俺はどうか?
果たして大会優勝であらゆる願いを叶えると言うのも、俺の願いまで叶えられるのか?
ルージュ
「何を話しているの?」
ノワール
「む? なに願いを聞いていたのだ」
ルージュ
「願い……アタシは叶った、だから次は茂の番」
ルージュはそう言うと大人っぽく微笑む。
呼び方まで変わって、彼女の意識も改革し、本当に色っぽくなった。
茂
「逆にノワールさんの願いはなんです?」
ノワール
「私か……より強力な長なって、一族を繁栄させること、だったが……今は違うな」
ルージュ
「え? 願いが変わったの?」
ノワール
「うむ、今の願いは……茂を私の伴侶にすること♪」
ズテン!
ノワール以外がずっこける。
この人本気で寝取りに掛かってる……。
当然それにはルージュも反発し。
ルージュ
「絶対駄目! 茂は渡さないから!」
そう言ってルージュは強引に俺を抱き寄せる。
ノワール
「じゃ、願いは一夫多妻制を認めて貰おうかな〜♪」
今度は反対側からノワールが俺に抱きついてきた。
両手に華……なのだが、そもそも俺の意見は何処に行った?
茂
「だから既に俺は結婚しているから!」
ノワール
「そんなもの知らん、奪いとれ! 今は悪魔が微笑む時代なのだ!」
ルージュ
「帰ったら絶対茂の奥さんと話し着けますから!」
……思わず、茜と睨み合うルージュの姿を幻視してしまう。
はぁ……大きな溜息を吐いたのはアレン少年だった。
アレン
「行くぞキリキザン、負けは許されない」
ノワール
「まぁ、契約だからな」
ノワールはそう言って俺から離れると、設営を片付けるコマタナ一団に檄を飛ばす。
ノワール
「お前ら! 後10分で出発するよ! ノロマは覚悟しておけ!!」
コマタナ達
「「「イエッサー!!!」」
***
異世界漂流5日目、大会予選最終日。
泣こうが喚こうが、明日から本戦は始まる。
人工島アルパの中心地は、この島の行政機能が全て集積したシティ、アルパシティがあった。
ルージュ
「凄い……都会だ」
あまりビル群こそ目立たないが、そこは正に近代都市だった。
その中でも異常に目立つのが街の中央に聳えるドームだ。
アレン
「世界最大の観客収容を可能とする一大エンターテイメント施設アルパスタジアムだよ」
茂
「アルパスタジアム……」
アルパシティは近代的な格好をした人間も大勢いる。
それと同時に様々な格好をしたバディーズたちも見て取れた。
ルージュ
「あれ、なに?」
ルージュが指差したのは赤い屋根が特徴的な施設だった。
アレン
「ポケモンセンター、て、もしかして利用してないの?」
茂
(予想通りポケモンセンターも存在するのか)
俺達はこれまでそれ程人工島アルパを歩き回った訳ではない。
ただ、限りなくゲームに近い世界観は当然この施設も予感させた。
ノワール
「メンテナンスは必要だから、ルージュたちも行ってきなさい」
ルージュ
「お母さんは?」
ノワール
「宿を決める、言っておくが明日からは敵同士、忘れるなよ?」
ルージュ
「……!」
ノワールとアレンはそう言うと一団を連れて街の中へと消えていった。
残った俺達はポケモンセンターの外観を眺めながら、中へと入るのだった。
ウィィィン。
ポケモンセンター係員
「いらっしゃいませ! あら? 見ない顔ですね?」
茂
「あ、初めて利用するんですけど」
ポケモンセンターに入ると、お馴染みのBGMがセンター内に静かに流れていた。
中には大勢のバディーズ達がおり、施設左側にはフレンドリィショップが併設され、客で賑わっている。
ポケモンセンター係員
「成る程、それで来店の目的は?」
茂
「俺のバディーズ、キリキザンを見て貰いたいんですけど」
ルージュ
「その……」
ノワールといた時は紛らわしさもあり、名前で呼んだが、本来は隠すのが普通のようで俺は種族名で言った。
係員の女性はルージュを見るとニッコリと笑い。
ポケモンセンター係員
「それでは此方へどうぞ♪ 10分ほどで済みますので♪」
ピンク髪の係員のお姉さんはそう言うと、ルージュをセンターの奥へと連れて行く。
テンテンテテテン♪ と簡単にはいかないらしい。
茂
(どちらかというと精密検査か、俺もドック診断受けないといけない歳だよなぁ)
今の所健康だと思うが、さり気なく血糖値は気にしていたり。
まぁしかし、ここは異世界、俺はルージュを待っている間、センター内を見渡すと。
茂
「テレビ……」
ふと、小さなテレビが設置されていた。
流している内容は観光案内が中心のようだが、相変わらず文字は読めん。
茂
(改めてロッソ達の村とまるで違うな)
ロッソの町は畑の広がる農村だった。
人工島とはいえ、人は住んでおり、何らかの生産活動をしている証明だろう。
茂
(ただ、歪なんだよな……)
?
「何を気にしておる?」
茂
「え!? えっと……君は?」
突然、俺がボーと周囲を眺めていると小柄な少女に声を掛けられた。
その少女は真っ白なワンピースを着た日本人風の少女だった。
歳は14歳位だろうか?
少女
「人に名前を聞く前に自分が名乗ったらどうじゃ?」
……妙に特徴的な喋りをする少女だな。
どことなくハプウを思い出す。
茂
「常葉茂、です」
なんとなく、敬語を使ってしまう。
しかし少女は上機嫌に笑う。
少女
「あっはっは! 畏まるでない……妾はユミル」
茂
「ユミル……」
ユミル
「お主、随分他のマスターとは目線が違う気がしての、気になったのじゃ」
茂
「目線って」
ユミル
「所謂、ギラつきがない……まるで願いなどどうでも良いみたいな、な」
茂
「……!」
この少女何者だろうか。
確かに俺は他のマスターより断トツに願望は薄いだろう。
なにせ叶うかも分からない願いなのだ。
無論帰れるなら帰りたい……しかし。
ユミル
「ここはあらゆる願望の叶う地……お主がここに来た理由はその程度かえ?」
茂
「来たと言うか、来させられたと言うか……」
その時だ、ウィィンと再びシャッターが開く。
中に入ってきたのは……。
ジラーチ
「茂……?」
青年
「ん? あの男どこかで?」
茂
「ジラーチ……!」
ポケモンセンターに入ってきたのはジラーチとそのマスターだった。
このバディーズの登場にポケモンセンターの中にはざわめきが広がった。
ポケモンセンター係員
「いらっしゃいませ♪ ルイン様、本日のご用件は?」
茂
(ルインって言うのか)
ルイン
「ジラーチのメンテナンスを頼む、都会は目線が煩くて好まない」
ポケモンセンター係員
「ルイン様はそれだけ有名人だという事ですよ、それではジラーチ様は此方に」
ジラーチ
「ん、マスター、言っておくけど凄いのは私で、アンタじゃない」
ルイン
「ふん、相変わらず生意気なポケモンだ」
ジラーチはそれっきりセンターの奥へと入っていった。
ルインはそれからつまらなさそうに壁にもたれ掛かる。
ざわめきは全てルインへと注がれていた。
ルイン
「言っておくがね君たち、ポケモンセンター内での戦闘は禁則事項だからね」
その言葉に何人かがビクついた。
ポケモンが強くてもトレーナーが凡人ならば暗殺は有効だ。
逆に言うと、ルインが森に篭もっていたのは襲撃を怖れてか。
茂
(意外に小物だな、周囲に敵愾心を出し過ぎだし、第一に身の安全か)
改めてこの大会が殺伐としていると感じる。
茂
「あれ? そう言えばユミルは?」
気が付いたらユミルが消えていた。
センターの中を見渡しても、黒髪ワンピースの姿はなくユミルは忽然と消えていた。
テンテンテテテン♪
ポケモンセンター係員
「キリキザンのメンテナンスが終了しました! マスターの方は直ぐに受付までお願いします!」
茂
「あ、はい!」
俺は呼ばれて直ぐに受付に向かった。
受付ではルージュが待っていた。
ルージュ
「茂! 会いたかった!」
茂
「たった10分だろうが」
ルージュは俺を見つけると嬉しそうに抱きついてきた。
10分でも我慢できないタイプだろうか。
ルージュ
「中でジラーチと出会った……」
茂
「そうか、今度は勝つぞ」
ルージュ
「うん……!」
***
夕暮れ時、街を闊歩する少女の姿はあった。
だが、誰もその姿を見ようとはしない。
まるで気付かないように、少女を人々は避けていた。
そしてそれが当たり前であるようにその少女は微笑む。
ユミル
(ふふふ、今年の大会は過去最高の楽しい大会になりそうじゃ)
その少女、ユミルはスタジアムを見る。
明日そこは血と汗が飛び散る戦場の舞台となる。
それは凄惨であるが尊く、少女の心に響いた。
ユミル
(特異点、妾の想像を上回るのか?)
突然始まるポケモン娘シリーズ外伝
突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語
#6 予選最終 完
#7に続く。