異世界転位編
#5 VSキリキザン

#5



ナッシーとの戦闘の終了後、暫く座って休んでいたナッシーが立ち上がった。

ナッシー
 「さて、お嬢……そろそろ行きましょう」

メアリ
 「え? まだ休んでいた方が……」

ナッシー
 「恐らくこのままでは優勝は出来ません、ジラーチのマスターを一刻も早く見つけ、目標を定める必要があります」

メアリ
 「そ、そうね……」

メアリは今だ深刻そうな顔をしている。
必死に優勝したいというのが感じられるが、俺はそれを見ていられなかった。


 「……お嬢さん、一つお礼代わりにアドバイスする」

メアリ
 「え? 茂さん?」


 「トレーナーがポケモンに不安な顔を見せるな、君のナッシーは良く出来ている、だけど君を信頼している意味を忘れないで」

メアリ
 「!? 信頼している意味……」

ナッシー
 「ふっ、重ね重ね感謝します」

ナッシーは笑顔で頭を下げたが、俺は少し笑って返した。
メアリは言葉を心に刻むと、強く向き直る。

メアリ
 「ナッシー! 行きますわよ! 後で傷が開いたなんて泣き言は聞きませんから!」

ナッシー
 「御意」
 「ご心配なく」
 「全てはお嬢様のために」

ナッシーは嬉しそうだった。
きっと心底メアリに仕える事に喜びを覚えているのだろう。
トレーナーとしては無能だが、ポケモンに不安を与えないトレーナーはそれで充分なんじゃないかって俺は思う。
彼女がいるから、ナッシーは辻斬りを耐えられた。
それは紛れもないトレーナーの力だ。

メアリ
 「あ、茂さん! 知っているかもしれませんが、一応ご注意を!」


 「え?」

森の奥に進むメアリたちは、突然振り返った。
ご注意と言うが一体?

メアリ
 「この森に拠点を構えるキリキザンがいるそうですが! コマタナを介してトレーナーを襲っているそうです!」

コマタナ
 「……え?」

メアリ
 「茂さんたちはそんな卑劣な行為は致しませんし、全く別のバディーズだと信じてますが! 一応気を付けて下さーい!」

メアリ達はその言葉を最後に森の奥へと消えていく。

コマタナ
 「キリキザン……まさか?」


 「コマタナ?」

キリキザンの名前を聞いたその時からコマタナの表情はおかしかった。
それは、その運命を分ける事になる……。



***



男性トレーナー
 「はぁ、はぁ! 畜生!」

同日、夜……森の中で一人の男性トレーナーが必死に逃げ惑っていった。

男性トレーナー
 「くそ!? あんなのは反則だろ!?」

男性トレーナーは必死に周りなど見ずに森を駆け回る。
随伴するポケモンの姿は見えない。
だが、森の中で駆ける影は一つではなかった。


 「ヒャッハー!」


 「デストローイ!」

男性トレーナー
 「ヒィ!?」

それは威圧するように叫び、男性トレーナーを追い詰める。
不意に男性トレーナーが地面に生えた根に足を取られた。

男性トレーナー
 「ぐわっ!?」

男性トレーナーが転んだのを追跡者は見逃さなかった。
追跡者……それはコマタナだ。
それも一匹や二匹じゃない。
無数のコマタナが男性トレーナーを取り囲んでいる。
僅かな光を受けてコマタナたちの刃がギラギラ光り、男性トレーナーを恐慌状態に陥らせた。

男性トレーナー
 「ヒイイ!?」


 「……たく、情けないねぇ。ポケモンがこの様なら、トレーナーもこの程度か」

コマタナ
 「長(オサ)!」

コマタナの一匹が後ろから現れた長身の女を呼んだ。
長身の女が月明かりに照らされ、その全貌が映ると、男性トレーナーは愕然とした。

男性トレーナー
 「お前が……キリキザン!?」

長と呼ばれた女性はキリキザンだった。
荒くれ者のコマタナ一族を力と恐怖で支配する絶対的女王。
血のように赤い甲冑、その美貌のように美しい白刃、黒い瞳は冷酷で美しく、黒い艶のある髪の毛は腰まで綺麗に伸びていた。

キリキザン
 「ふん」

キリキザンは何かを男性トレーナーの前に投げ捨てた。
男性トレーナーは最初それがなんだか分からなかった。
だが「ヒュー、ヒュー」という掠れた声からそれを察した。

男性トレーナー
 「ラッタ!? お前なのか!?」

ラッタ既に血塗れだった。
辛うじて死んではいないが、放っておけば直ぐに死ぬだろう。

キリキザン
 「こんな雑魚では経験値にならん」

男性トレーナー
 「お、お願いだ! み、見逃してくれ! このままじゃラッタが死ぬ!」

キリキザン
 「死ぬ? 当然だ……生きているものは例外なく死ぬ……お前も、私もだ」

キリキザンは冷酷な目で男性トレーナーを見下し、ゆっくりと近寄った。

男性トレーナー
 「ヒィ!? ち、近寄るな……!」

キリキザン
 「恐いのかい? ふふ……」

キリキザン笑った。
しかそれは決して安心できる笑みではない。

キリキザン
 「ぼうや、よく眠りな……」

ピッ!

何かが散った。
気が付けばキリキザンの右手のブレードが展開されている。

キリキザン
 「我が辻切りは神速、痛くなかったろう?」

それは男性の血だった。
キリキザンの一大刀は到底見えるものではなく、切り口があまりにも綺麗で血が僅かに散ったのだ。

男性トレーナー
 「あ、ば……」

男性トレーナーの首が落ちると、ラッタも光に変わる。
契約者であるトレーナーが死ねば、契約は履行となりポケモンは強制送還となる。
故にトレーナー狙うのはこの大会の定石だった。

キリキザン
 「つまらないねぇ……私をもう少し燃えさせる奴はいないのか」

キリキザンは月を見上げた。
その美しい顔はとても戦闘……いや、狩りの後とは思えない。
これはキリキザンの狩りだ。
適切な戦力を配分し、相手の動きを予想して、兵を動かす。
これこそがコマタナ一族の狩りである。

コマタナ
 「「「オーサ! オーサ! オーサ!」」」

コマタナ達は狩りの成功を一族の女王であるキリキザンに捧げた。

キリキザン
 「何処かに丁度良い獲物はいないのかい?」

キリキザンは後ろを見た。
後ろにはマントを着た少年がいた。
キリキザンのマスターだ。

少年
 「ジラーチのトレーナーがベースキャンプしているみたいだが、手を付けるの些かリスクが大きいな」

キリキザン
 「私では荷が重いと?」

少年
 「そうは言わない! だが本戦前にリスクを侵したくない!」

キリキザン
 「ふふふ……私を想ってくれているんだね坊や?」

キリキザンはあからさまに妖艶に前屈みになる。
するとその豊満な胸の谷間がチラリと覗く。
少年は顔を真っ赤にして顔を逸らした。

キリキザン
 「ふふ♪ 他には?」

少年
 「……近くの町を拠点にしていたメリオ一味が敗退した……それをやったのはコマタナのバディーズだそうだ……それが今この森にいるらしい」

キリキザン
 「コマタナ?」

キリキザンは目を丸くした。
自分の兵には幾らでもコマタナがいるが、それとは別に召喚されているとはおかしかった。
キリキザンは恐らく大会参加者でも唯一の例外と言えるポケモンであった。
通常召喚に応じるのはポケモン一匹のみ。
だがこのキリキザンに限り、大量のコマタナ達を連れて召喚された。
バディーズはあくまでキリキザンのみ、故にコマタナは少年の指示は聞かないが、長であるキリキザンに絶対服従だ。

キリキザン
 「ふ、ふふ……お前たち!」

コマタナ
 「長! なんでしょうか?」

キリキザン
 「森にいる全てのバディーズを索敵、その情報は全て私に送れ!」

コマタナ
 「「イエス! ゴーゴーゴー!!」」」

キリキザンはそう指示すると、コマタナ達は一斉に森の中へと散って行った。

キリキザン
 「さて……次は楽しい狩りになるかしら?」

キリキザンは妖艶に微笑んだ。



***



異世界放浪4日目、大会日程6日目。
俺とコマタナは森で特訓の続きをしていた。


 「辻斬り!」

コマタナ
 「やあああ!」

スパァン!

コマタナがかけ声を上げて木に斬りかかると、木は綺麗に斜めに両断された。
うむ、見事な切れ味だな!


 「ナッシー戦から、技が上手く出せるようになったじゃないか」

コマタナ
 「ケヒケヒ♪ アタシ……いままでずっと自分の事信用出来ていませんでした、でもナッシーさんに言われて、今のアタシを頑張って肯定してみようと思ったんです!」

俺はコマタナのそれを良い傾向だなと思った。
ナッシーとの戦いには負けてしまった。
けれどもあの出会いはコマタナの内側を改革しようとしている。
そうなると……コマタナの進化は近いかも知れないな。


 (コマタナの進化は全ポケモンの中でも遅い方だ……進化レベルは52、辻斬り、アイアンヘッドを物にしたならもう下積みは充分の筈だが)

だが、コマタナの下っ端根性はどうだろう?
コマタナの話だと、一族でもキリキザンの至る者は少ないらしい。
恐らくそのレベルに至る前に多くのコマタナが使い捨てられるからだろう。


 「コマタナは……キリキザンに進化したいか?」

コマタナ
 「えっ!? そ、そりゃ進化したいですけど……アタシなんかまだまだ……」

そう言ってコマタナは顔を真っ赤にして照れてしまう。
やはりコマタナの内面改革はそんなに簡単じゃなさそうだな。
出来るっていう自信は進化に繋がると思うんだが、この調子では難しいのか。

ガサ! ガサガサ!


 「!」

突然、周囲がざわめいた。
昼下がりの中、そうは言っても森の中は暗い。
茂りの中に何かが潜んでいた。


 「ヒャッハー!」


 「獲物だー!」


 「デストローイ!!」

突然、僅かな前振りを残し、茂みから三人のコマタナが飛び出してきた!


 「て言うか! なんかお前のコンパチみたいな奴ら出たーっ!?」

コマタナ
 「!?」

それは間違いなくコマタナだ。
ウチのコマタナと体格も似ていて、装備も言動も似ている!
コマタナってのは皆こうなのか!?

モブA
 「長の命令だー! まずはポケモンをやるぞー!?」

コマタナ
 (長!?)

コンパチどもは刃をギラつかせると、コマタナにそれを向けた。
3体1……しかも同族対決か!?


 「コマタナ!」

モブ達
 「「「はい!?」」」


 「お前らじゃない! 可愛い方!」

コマタナ
 「可愛いって言われた……ぐふ、ぐふふ♪」

相変わらずちょっと煽てられただけで不気味な笑みで喜ぶコマタナ。
たく、緊張感ねぇな!


 「コマタナ! 俺の信じるお前を信じろ! お前の思う自分を信じろ!」

コマタナ
 「……はい!」

モブB
 「お前たち! 行くぞー!」

モブC
 「ヒャッハー!」

モブ達は一斉に飛びかかると、頭上からコマタナに迫った。

モブA
 「背後頭上を取られる事は死を意味する!」

コマタナ
 「っ!」

何処かの蚤男が言いそうな台詞を吐いて、三人同時の刺突攻撃。
しかしコマタナはそれを華麗に回避、そして流れるように刃は走った!

ピシッ! パキッ!

その刃はモブたちの兜や甲冑を割った。
その技術は中々見惚れる物があり、モブたちの体は傷一つない。
だが妙だ……コマタナはそんな優しい刃を振るう奴だったか?
今回は明確な格下相手とはいえ、コマタナは殺る時は殺る女だったはず。

モブA
 「ぬぅー!? 強い! だが、これなら長の望みに適うか!?」

モブB
 「プランBゴーゴー!」

ガサガサ!


 「なっ!?」

茂みは更に揺れる。
そこから現れたのは更に四人のモブコマタナたち!
モブコマタナ達は一斉に縄を俺に投げつけてきた!


 「ちょいキツめのグルグル巻き!?」

俺はそれから逃れる運動神経などなくお縄に頂戴されてしまうと、縄を体に絡めたコマタナ達は一斉に駆け出す!

モブE
 「このままお持ち帰りー!」

俺を引っ張ってるのは女の子なのか八重歯の目立つ子が全力で引っ張った。
当然そんな事をされると俺は引きずられる訳で……!


 「痛!? 痛たたた!?」

コマタナ
 「ま、待ってください!」

モブD
 「待てと言われて待つコマタナはいねぇー! ヒャッハー!」

四人のモブに引っ張られた俺は為す術がなかった。
しかも意外とコイツら足が速い!
コマタナが追ってきているが、物ともせず俺を引っ張る。
無論労りなど皆無であるが。


 (にしたって! このコマタナ達何処から現れた!?)

俺は昨日メアリが話していたキリキザンの話を思い出す。
これは間違いなくメアリの言っていた一団だろう。
だが、そこで疑問が浮かぶ。
トレーナーが召喚出来るのは原則ポケモン一匹の筈だ。
ならこの大量の統率の取れたコマタナ達は何処からやってきた?
この世界にはまだ謎があるのか、それとも例外があるのか。
とりあえず……。


 「人を引きずるのは止めろー!」

モブE
 「ヒャッハー! もう少し頑張ってねー!?」



***



引きずられた時間は10分? それとも30分か?
まぁいずれにせよ、えらい目にあった。
だがポケモンのパワー凄まじい、俺を引きずっていたにも関わらず疲れすら見せていないのだ。


 「ぜぇぜぇ……一体何だってんだ」

俺は縄で縛られた状態で座らされ、目の前には一際目立つ背の高い美人がいた。

キリキザン
 「ふふ、良くやったよお前たち」

モブE
 「えへへ♪ 楽勝っすよ♪」


(真ん中の女性がキリキザンか……モブコマタナは40人はいるか?)

凄まじい団体が、森の中でベースキャンプを築いており、簡易テントが幾つも立っていた。


 (モブって言っても年齢から性別まで様々みたいだな)

俺は冷静にこの一団を観察する。
背丈こそ皆変わらず、小さいが精端な顎髭を生やしたコマタナや、随分幼い女の子まで様々だった。
まるでコミュニティだな……これ自体が村みたいだ。

キリキザン
 「お前……随分冷静じゃないか」


 「!?」

不意にキリキザンはその冷たい視線を俺にくべた。
まるで俺の目を射貫くかのようなプレッシャー。
コイツは下手な手は打てないと本能的の理解できる。


 「こう見えて、内心ではヒヤヒヤしてんだけどね」

キリキザン
 「ははっ! まだそんな余裕があるのかい? アンタ敵中にいるってのにさ!」

その通りだろう。
おそらくこの女性の一言さえあれば、ここにいる40名のコマタナは一斉に俺をミンチにしてしまうだろう。


 「アンタの狙いは俺じゃない、多分俺のポケモンだろう?」

キリキザン
 「ほう、察していたのかい? その通り、私も経験値稼ぎが必要ってことさ、でも雑魚じゃ意味がない……優勝するには強者と殺し合う必要があるのさ……!」

この女性、俺が出会った中でも五指に入る美貌の持ち主だが、その言葉と顔は恐ろしい物であった。
殺意が命を持ったかのような感覚。
彼女は修羅と呼べるかもしれない。

コマタナW
 「長ー! 来ましたぜー!」

キリキザン
 「道を空けな! 私のディナーを奪う奴は許さないよ!?」

キリキザンの一声で、コマタナ達は統率の取れた動きで、まるでモーゼの海割れのように道を開けた。
キリキザンの目の先には……俺の知ってるコマタナがいた!

キリキザン
 「よくきたね……」

コマタナ
 「……」


 (コマタナ? なんだ?)

俺はコマタナの様子がおかしい事に気付いた。
まるでコマタナには戦意がない。
キリキザンに飲まれた?
いや、なにか違う!

コマタナ
 「……ださい」

キリキザン
 「は?」

コマタナ
 「止めてください……お願いします長……その人は」

キリキザン
 「ん〜? アンタ、見覚えがあるね?」


 (見覚えがある……まさか!?)

俺はこの不自然なほど戦意のないコマタナからある予想を立てた。
もし予想が正しければコマタナは!?


 「コマタナ! お前……このコミュニティの出身なのか!?」

キリキザン
 「! 思い出した! コマタナの癖にいつもピーピー鳴いて、満足に狩りも出来ない役立たず! 数年前失踪してくたばったと思ったら!」

コマタナ
 「長っ! お願いします! 私は貴方に忠誠を誓います! ですからその人を離してください!」


 (!? コマタナの奴……なんで?)

コマタナの身体は震えていた。
この一団を統べるキリキザンへの意見、それは本来首が飛びかねない程危険な行為なのかもしれない。
でもコマタナは初めから戦う気がない。
ずっと格上と戦ってきたコマタナの心がどうしてここまで折れる!?

キリキザン
 「ククク……アッハッハ! お前は! 既に居場所があると思っているのかい!?」

キリキザンは狂気的に笑った後、凄まじい怒気をコマタナにぶつけた。
キリキザンは気に食わない部下は容赦なく殺すという。
その残酷な女王を怒らせたのだ!

コマタナ
 「あ、アタシは……」

キリキザン
 「気に食わない! 私の子供の癖に私から何を学んだ!? 貴様がすべきは私を殺してでも、コイツを奪うことだろうが!!」


 「ぐっ!?」

そう言ってキリキザンは俺を足蹴にする。
俺は呻き声をあげながらコマタナを見た。

コマタナ
 「あ、アタシ……お母さんとなんて……!」

キリキザン
 「温い! コマタナ一族は強い者が長となる! 長とは最強の称号、それが欲しくはないと!?」

二人の会話……それ聞いて俺はようやくコマタナを理解した。
コマタナは本当に優しい奴なんだ。
キリキザンを見て、この一族は如何に苛酷で凄絶とした文化があることは理解できた。
だからコマタナはそんな不適合者の自分に劣等のレッテルを貼ってしまったんだ。
それこそが、コマタナが自分に自信を持てなかった理由だ!
文化がそもそも違うからこそ、今まで俺も気付かなかった!

コマタナ
 「あ、アタシ……うぅ!」


 「コマタナ! お前のそれは甘さじゃない! 優しさだ!」

コマタナ
 「特異点!?」


 「それはコマタナ一族には不要かもしれない! でもそれはお前と俺には必要な物だ! それを劣等感に当てはめるな!」

コマタナ
 「!?」


 「お前の我を通せ! お前のルールを押し付けろ! 勝てばいい! お前たちにとってコレほどシンプルな答えはないだろう!?」

コマタナ
 「特異点……!」

キリキザン
 「ふ! ハハハ! お前のマスターいい男じゃないか! そうだ……お前が勝てばお前は長となる! 長は全て自由だ! コマタナ一族における決闘はいつだってシンプル!」

コマタナ
 「特異点……アタシ」


 「怖れる必要はない……俺がいる」

コマタナ
 「……うん!」

コマタナはここに来て初めて明確な決意を見せた。
刃を煌めかせ、キリキザンに歩を進める。
一方で女王たるキリキザンも歩を進めた。

キリキザン
 「コレは神聖なる決闘である! いかなる者であろうと、この決闘を邪魔することは許されない!」

モブ
 「「「決闘だ!!」」」

モブ
 「「「あの出来損ないが長と!?」」」

モブ達がざわめく。
コレはそれ程一族において重要な儀式なのだ。
それはゲームの中では決して描かれない、狼のように崇高な決闘なのであろう。
空気が固着したような重さの中……コマタナが駆ける!

コマタナ
 「はぁぁぁぁぁ!」

コマタナは両手の刃を闇に染め、キリキザンに斬りかかる。
しかしキリキザンは微動だにしない。

キリキザン
 「ふっ!」

微笑を浮かべたまま、キリキザンは瞬時に両手のブレードを展開した!
コマタナと違い、キリキザンには指があり、手の甲に格納式のブレードがあるのだ!
大きさはコマタナのそれよりも大きく、そしてそれを……!

キィン!

コマタナ
 「くう!?」

コマタナが一瞬で弾かれた!
見えない斬撃がコマタナの辻斬りを弾き返したのだ!


 (な!? なんつー技だよ! ここまで技術が違うのか!?)

キリキザンのは顔は涼しい物だ。
まるで手加減でもしたかのように刃を振るう。
コマタナは距離を離し、じっくり構えた。

コマタナ
 (つ、強い……分かりきっていたけど!)


 (よし、コマタナは慌てていない……想定済みってことか)

コマタナ
 「はっ!」

コマタナは今度は低い態勢で突っ込む!
真っ直ぐ! だがコマタナは射程距離寸前で飛び上がった。

キリキザン
 「馬鹿が! 跳べばその隙どうする!?」

キリキザンは華麗に脚を振り上げた。
脚に仕込まれたブレードが、コマタナの兜を跳ね上げる!

コマタナ
 「あう!?」

キリキザン
 「まだまだ!」

キリキザンは腕をクロスさせると、空中で受け身の取れないコマタナを斬る!!

カッキィィン!!

コマタナ
 「ああああっ!?」

コマタナはなんとかブレードで弾くも吹き飛ばされ、地面を滑った。
今度はコマタナは簡単には立ち上がれない。
ガードしてもダメージがあるってのか!?
改めて攻撃種族値125属の恐ろしさが分かる。

キリキザン
 「ふん、結局は威勢だけかい?」

キリキザンはゆっくりとコマタナの元まで歩み寄ると、そのままコマタナの背を蹴り倒す。

コマタナ
 「あああああ!?」

グリグリと、キリキリザンは脚のブレードをコマタナの背中に食い込ませた。
コマタナは悲鳴を上げるが、キリキザンは容赦しない。

キリキザン
 「アンタ昔っから弱っちいのに、諦めは悪かったねぇ、アンタの夢……なんだったっけ?」

コマタナ
 「!? 夢……!」



***



夢、アタシには子供頃からずっと夢があった。
それは強くて立派なキリキザンになること。
でもアタシには冷酷さがなくて、狩りも下手で弱かった。
そんなアタシがキリキザンになれるわけないっていつも嘲笑の的だった。
いつしかアタシもそう思うようになり、いつの間にか諦観がいつも付きまとうようになった。

でも……違うんだ!

コマタナ
 「お母、さん……アタシ、新しい夢が出来、ました……!」

キリキザン
 「なに……!?」

アタシは身体に熱を感じた。
それは痛みじゃない、ただ興奮するような血の騒ぎ。
アタシはお母さんの脚を振り払うと、この変化を受け入れた!

モブ
 「「「出来損ないの姿が!?」」」

キリキザン
 「まさか……!?」


 「進化だ……!」

そう、気が付けばアタシはお母さんと同じ目線にいた。
この内から湧き上がる力は進化の証。
キリキザンに進化したのだ。

キリキザン
 「ふん! 進化したからなんだ! はぁ!」

お母さんが斬りかかってくる。
今までは見えなかった、でも今は見える!

アタシ
 「はぁ!!」

アタシは右手のブレードを展開する!
それをそのまま切り払う!

ピシィ!!

キリキザン
 「くうう!?」

お母さんの胸部アーマーにヒビが入る。
流石お母さん、寸前で身を退いたんだ。

アタシ
 「アタシの昔の夢はお母さんみたいなキリキザンになることでした……でも、それが間違ってたんです、だってアタシはお母さんみたいには絶対になれません……ですからお母さんとは違うキリキザンを目指しました」

キリキザン
 「くっ!? なんですって……? それで私を越えると? 舐めるなぁー!! 私はキリキザンの長ノワール! 唯一名を持つ者! この覚悟をお前などに!!」


 「お前だけじゃねぇ! 『ルージュ』だ! キリキザンに進化したお前に相応しいのはこの名前だ!」

ルージュ
 「ルージュ、アタシの名前……♪」

特異点……ううん、茂がアタシに名前をくれた。
アタシはそれがなによりも嬉しかった。
今のアタシはきっと世界一の幸せ者だ。

ルージュ
 「茂! 愛してますっ!」

ノワール
 「ち!? ここで惚気かい!? 私は認めないよ!!」

ノワールお母さんは神速の踏み込みで迫る!
それは一族に伝わる辻切りの奥義!
今はお母さん以外継承者のいない技、だけど!

ルージュ
 「愛は絶対だーー!!!」

アタシは想い爆発させ、その神速の辻切りを放つ!
互いの姿は残像を生み、交錯する!
勝ったのは……!

ピシィ!!

アタシの胸部アーマーが裂けた!
しかし……!

ノワール
 「ぐ……!?」

バァン!

お母さんのアーマーは完全に砕け散り、綺麗なおっぱいが剥き出しになって前のめりに倒れた。

モブ
 「決まった……女王が、長が負けた!」

モブ
 「下克上だ! 今新たな女王が産まれた!!」

モブ達
 「「「オーサ! オーサ! オーサ!」」」



***



大歓声だった。
ルージュが勝って、新女王が産まれたと大騒ぎだ。
俺は改めてルージュを見る。
身長が一気に上がり、170くらいの長身の母親似の女性に成長した。
赤い瞳、ルージュのように輝く髪は、母親とは対照的だった。


 (おっぱいも……その、俺好みになりやがって……)

俺は胸元から目を逸らすと、ルージュは俺に気付いて駆け寄ってきた。

ルージュ
 「茂、大丈夫?」


 「あ、ああ……ノワールは?」

ルージュ
 「逆刃で斬ったから殺してない……お母さんだもん」


 「そもそもお前ら親子って事に驚いたわ」

ルージュは腕のブレードを展開すると、綺麗に縄を切断する。
俺はそうやって立ち上がると、同時にノワールも立ち上がった。
んが……!

ノワール
 「く、はっはっは! 負けたな! よくぞここまで強くなった! 今日からお前が長だ!」


 「てかアンタ前隠せ!」

ノワールは胸部アーマーを完全粉砕された結果、もはや隠す物がなかった。
くそう、綺麗なロケットおっぱいしやがって!?

ノワール
 「ん? なにを気にする必要がある? 見られた所で害などないだろう?」


 (駄目だ! この人羞恥心が機能していない!?)

少年
 「ノワール、負けたんだね」

そこへいつの間にか替えの服を持ってきた少年がノワールの前まで歩み寄った。
ノワールはそれを受け取ると、胸に巻く。

少年
 「まさかノワールが負けるなんて……」

ノワール
 「ふ、そういうこともあるさ……さて、コレで兵も全て失った……どうするかな?」

ルージュ
 「あの! その事なんですが!」

新女王の一声に場が一斉に静まった。
全員の視線がルージュに注がれる。

ルージュ
 「アタシは! この一族を継ぎません!」

ノワール
 「な!?」

その発言にコマタナたちは一気に響めく。


 「継がないって……お前の夢じゃなかったのか!?」

ルージュ
 「私は……この人、最愛の人と新しい一族を築きます! だからお母さんはこのまま一族の長でいてください!」


 「ちょ!? 最愛っておま!?」

なんか急にルージュが積極的になってない!?

ノワール
 「くく……あははは! お前は何処までもアタシと真逆を行くねぇー! だが勝ったのはお前だ! ならばお前が絶対だ!」

モブ達
 「「「お、おーーーっ!!!」」」

少年
 「僕は部外者だから口を挟むつもりはないけど……彼大丈夫?」

ノワール
 「なに、私の娘さ、なら立派な一族を作るよ」


 (なんだか物凄く不安なんですが……)

どうも空気が怪しくなってきた。
緊迫感こそなくなったが、今度は一気に桃色の空気流れている気がするんだよなぁ〜。

ルージュ
 「あ、あの……茂?」


 「なんでしょうか?」

思わず敬語になってしまう。
ルージュは顔を紅くして上目遣いに俺の顔を覗き込んだ。
くそ、だからなんでそんなに可愛いんだよ!

ルージュ
 「アタシと、セックスしてください!」


 「はいアウトーーー!!」

ルージュ
 「だ、大丈夫です! 全部アタシが動きますから!」


 「俺は妻帯者だーーーー!!!」



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#5 VSキリキザン 完

#6に続く。


KaZuKiNa ( 2019/10/07(月) 22:50 )