突ポ娘外伝






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異世界転位編
#4 VSナッシー

#4



・大会ルール概要。

・トレーナーは必ず一匹のポケモンとバディーズを組む。

・トレーナーの死亡、またはポケモンが死亡したバディーズは失格となる。

・両者が無事な限り、何度でもバディーズバトルに挑戦出来る。

・トレーナーはポケモン一匹を召喚し、そのポケモンと契約しなければならない。

・開催期間7日間生き残ったバディーズは本戦へと進める。

・バトルは全ては人工島アルパにて行う事とする。

・優勝者にはあらゆる願いを叶えることを約束する。



ロッソ
 「……以上が大会のルールだ」


 「ここでも願いときたか……」

俺はメリオを倒した後、ロッソの家に招待されていた。
バトルでボロボロになったコマタナも、オボンとモモンの実を混ぜたシチューを食べた事で回復。
改めてポケモンの不思議はこの再生力だよな。
戦闘の結果折れた全身の刃も修復されて、今はうたた寝を掻いていた。


 (召喚……契約、つまりジラーチは召喚の末契約させられたのか)

恐らくあのドクロッグ、ゲオルクも違う世界から召喚されたということか。
最後に光になったのは帰ったのか?


 (コマタナだけなら、負ければ帰れるのか? いや無理か)

コマタナは契約で召喚されたんじゃない。
というか、俺は参加者って訳じゃないしな……途中参加ってありなのか?


 「大会期間ってのは?」

ロッソ
 「島の中心に馬鹿でかいスタジアムがあるんだが、今はそこで行われる本戦トーナメントの予選段階なんだ、ちょうど今日で4日目か」


 (ということは後3日か)

ロッソから聞いた話によるとこの予選は無理に戦う必要はないらしい。
だが、勝利することで莫大な経験値を得ることでポケモンは強くなる。
リスキーだが、本戦を少しでも有利に進めるために予選を積極的に戦うバディーズもいるらしい。
俺達は参加者じゃないから、無理にバディーズと戦う必要はない。
だがやはり気になるのは……。


 (優勝者にはあらゆる願いを叶えることを約束する)

『あらゆる願い』……割と最近聞いた言葉だ。

(コマタナ
 「願いが……叶うから」)

コマタナは俺を殺せば願いが叶うと教えられて俺を暗殺に来た。
願いだ、誰もが望む動機だろう。
しかしそのような奇跡はまずあり得ない。
ならばこれは偶然か?


 (因果関係はないかもしれない……ただ、不安だな)

ロッソ
 「アンタ、大会を目指すのかい?」


 「いや……どうかな?」

ロッソ
 「開催者はあらゆる挑戦者を受け入れていると言う……アンタも目的があるんだろう?」


 「……」

無いわけがない、ただ良いのか?
元の世界に帰りたい、俺とて子供の顔も見ず、異世界でくたばる気は毛頭無い。
だが、ここに来て2度も怪しい文言が出てきやがった。
願い……か。


 「そういやメリオはどうなったんだ?」

俺はあのドクロッグとバディーズを組んでいたモヒカンを思い出す。
ドクロッグの敗北後、放心していたが。

ロッソ
 「メリオはもう島にはいない、敗北したトレーナーは安全面も含め、外に放逐されるんだとさ」

安全面……という言葉が嫌に突き刺さる。
この世界のポケモンバトル、いやバディーズバトルと呼ばれる者は、ゲームのようにクリーンではない。
勝つためならば、ポケモンより寧ろトレーナーを狙う方が安全で、しかしそれはきっと恨みや怨念を溜め込むだろう。
特にメリオは暗殺を好んだと言う、そんな奴が護衛も無しにこの島に残ったら、誰が報復にくるか分からないだろう。
町の住民にしても、相当溜め込んでいた筈だ。


 「とりあえず寝るわ、疲れた……」

ロッソ
 「ああ、よく寝るといい」

俺はコマタナの横で眠る。
とにかく今日一日色々な事がありすぎて、疲れた。
信じられるか? 24時間前までは会社でプログラム作成してたんだぜ?


 (とりあえず……大会は目指してみるか)



***



異世界漂流3日目、大会日程だと5日目の朝。
俺達は再び森にやってきた。
理由はコマタナの特訓だ。


 「コマタナ! 辻斬り!」

コマタナ
 「スラーッシュ!」

コマタナは両手の刃に力を集約させると、それを大木に向かって放つ!
だが……刃は当たる寸前に力を失った。

ガッ!

コマタナの刃は大木に数センチの切り込みを入れた。
だが、それでは不完全だ。
コマタナはまだ辻斬りを習得していなかった。

コマタナ
 「ビェェェ……ごめんなさい〜」

相変わらずよく泣くコマタナは1回失敗した程度でこの有様だ。
今更ながらよくドクロッグに勝てたもんだ。
それ位コマタナは弱いだろう。


 「アイアンヘッドしか使えないのは、流石に不安なんだがなぁ……」

そのアイアンヘッドも成功率が微妙で、ドクロッグ戦は偶然出せた可能性が出てきている。
ただ、アイアンヘッドはコマタナがレベル54で習得する技だ。
辻斬りはレベル49とその手前。
アイアンヘッドが出来たのなら、理論的には辻斬りも習得出来る筈だが。


 「よし! 次はアイアンヘッド!」

コマタナ
 「チェストー!」

コマタナは気に向かってヘッドバッド!
直前で兜の刃が光沢を放ち、木に炸裂……するが。

ゴスッ!

木は表面を少し凹ませただけだ。
アイアンヘッドを持続出来なければ、ただの頭突きと変わらない。


 「はぁ……少し休憩するか」

コマタナ
 「……はい」

コマタナは悉く技の失敗に凹んでいた。
元からポジティブ気質ではないとはいえ、ここまで才能が無いとはな。


 (分からん……)

技が使えなかったと言えば、ニアも使えない事をコンプレックスにしていたな。
しかしニアの場合切欠さえ掴めばあっさり技を習得していた。


 (俺はコマタナのレベルは足りていると思ってるんだがな……)

コマタナの基礎スペックはドクロッグ戦を見ると、決して悪いものじゃない。
達人の域には至ってないが、充分潜在能力はあるんだと思う。

ただ、確信が持てない。
アイアンヘッドが出来たのは偶然かもしれないし、本当はもっとレベルが低いのかも。


 (同じタイプで見ても、華凛や美柑は苦戦もしなかったろうしな……)

改めて家族は規格外だったのだろう。
コマタナは普通のポケモン娘なんだ。


 「15分位休憩したら、特訓再開な」

コマタナ
 「……はい」

俺はそう言うとその場に寝転んだ。
ここは人工島故に、森と言っても動物の姿はない。
あっても鳥程度、高度に管理された島のようだ。
お陰で昼寝するには丁度良いが……。



***



コマタナ
 (……何やってるんだろう)

アタシは猛烈に落ち込んでいた。
ポケモンなのに技も満足に出せない。
ドクロッグに放ったアイアンヘッドは会心の一撃だった。
だけどあれは火事場のクソ力の過ぎないのだろうか?

コマタナ
 (悔しいよ……これじゃずっとコマタナのままだ)

アタシの願いはキリキザンになること。
コマタナ一族にとって進化は大きな意味を持つ。
代々コマタナ一族には王か女王になる一匹のキリキザンが一族を統率する。
女王に求められるのは他者を圧倒する力と、一族を従わせる冷酷さ。
アタシにはどちらもなかった。
一族の中でもはみ出し者のアタシには到底叶いっこない夢のまた夢。
だからこそアタシは願いに縋ってしまった……。

コマタナ
 (特異点を殺せば願いが叶う……こんなアタシでも立派な女王になれる……!)

アタシは横になって眠る特異点を見た。
実に無防備だ、アタシを信用しきっている。
アタシが刃をその胸に突き立てれば、技なんていらない。
特異点を……殺せる。

コマタナ
 (だめ!? くっ!? 特異点はアタシに居場所をくれた! アタシは自力で強くなるって決めたんだ!)

アタシは直ぐに邪な考えを捨て、立ち上がる。

コマタナ
 「この……!」

アタシは木に刃を振りかざす。
しかし辻切りは出ない。

コマタナ
 「この、この!」

一度で駄目でも何度も繰り返す。
しかし何度やっても辻切りは成功しない。
辻切りは一族の代名詞、代々一族は辻斬りの秘奥を受け継いできた。

コマタナ
 「なんで! 出来ないのよ!?」

刃が木を抉る。
しかし出ない、焦燥感は徐々に募っていた。
そしてそれは段々焦りから怒りに変わってきていた。

コマタナ
 「あーーーもうーーー! 出ぇろぉぉぉ!」

その瞬間だった。
刃に力が集まる。
振り切った腕は殆ど感触がなかった。
だけど、大木はまるでチーズのように切り裂かれた。
その結果……。

ズッシィィィン!!!


 「敵襲かーっ!!?」


 「嬢よ! 今すぐ私の背に!」

横に綺麗にスライスされた大木は幸い(?)アタシとは反対側に倒れた。
だがその衝撃は凄まじく特異点はパニック気味に起き上がり、更にあわや木に踏み潰されそうになったバディーズが……。

アタシは涙を目に溜めると。

コマタナ
 「ごめんなさぁぁぁい!!」



***



木が倒れる少し前。
偶然にもすぐ近くにあるバディーズがいた。
一人は線の細い女性で、歳も幼い。
金髪が首元で上にカールしており、童話の中のお姫様のようだ。
その相棒はというと……異様な男だった。
身長は4メートルを有に越えているが、その大部分は首だ。
3メートル近い長い首を持つ、直立不動の男、これだけでも異様なのに、その頭部には3つの顔がある。

お嬢様
 「後3日ね……ナッシー」

その男、ナッシーではあるが、アローラ種と言われる特殊なナッシーであった。
ナッシーはそれぞれ異なる顔をしてそれぞれが答える。

ナッシー
 「しかし油断は禁物」
 「この周囲、噂の通りなら謎のアサシンも」
 「お嬢には必ずや勝利を」

非常に聞き取り辛い。
そもそもナッシーという種は顔ごとに意思を持っている言われている。
唯一尻尾の顔だけは思考能力を持たないと言われているが、一体どの頭が身体をコントロールしているのだろうか?

お嬢様
 「ええ、確かコマタナを従えているとか……」

その瞬間だった。


 「あーーーもうーーー! 出ぇろぉぉぉ!」

何処からか幼い叫び声が森に響いた。
その直後! お嬢の前に10メートルを越える巨木が倒れてきた!

お嬢様
 「きゃあ!?」

ナッシー
 「いけません!」
 「お嬢を!」
 「護るのです!」

ナッシーはバラバラの言葉を放ちながらも、その動きは見事で、お嬢を巨木から護った。

ズッシィィィン!!!

木の葉が舞い、鳥たちが飛び去った。
ナッシーは敵を疑い、お嬢を背中側に回す。
倒れた木の根元には少女がいた。


 「ごめんなさぁぁぁい!!」



***




 「……お前な、俺は休憩って言ったよな?」

コマタナ
 「ずびばぜん……」

コマタナは俺の目の前で正座して、声にならない言葉で謝った。
俺がコマタナに怒っているには休憩してなかった事だけじゃない。


 「危うく、人を踏み倒しかけたんだぞ?」

俺はそう言って、被害にあいかけた二人組を見る。
パッと見ではお嬢様と執事の組み合わせだが……カトレアとコクランをイメージせんでもない。


 (ナッシーの擬人化、シュールだよなぁ)

4メートルを越える巨漢(その割に身体はゴツ目だが人間)ナッシー男は様々な表情で俺とコマタナを見ていた。

コマタナ
 「ごべんなさい〜」

お嬢様
 「あの、私たちもこうやって無事ですし……もうその程度で」


 「……はぁ、ウチのコマタナが迷惑をかけて、本当にすみませんでした!」

俺はそう言ってキッチリ頭を下げる。
お嬢さんは中学生位の少女だったが、随分人間としては出来るらしい。

お嬢様
 「いえ、それにしても特訓中ですか」


 「ええ、コマタナはやれば出来ると思うんですが、どうにも力を使いこなせなくて」

コマタナ
 「うぅ……」

俺は折られた大木を見て、確信している。
コマタナの潜在能力は低くない。
ただ、安定して引き出す手段に欠ける。

ナッシー
 「見たところ、一見頼りないですが、巨木を一刀両断するなど力はあるようですね」

お嬢様
 「そう、5日目まで生き残ったのなら、最低限の力はあるのね」

厳つく寡黙なナッシー男はコマタナをそう分析し、お嬢さんも同調する。
見方を変えるとこの二人も5日目まで生き残った強者ってことか……。

コマタナ
 「特異点……アタシ」


 「いい加減泣き止め」

お嬢様
 「クスクス、可愛らしいバディーね」

コマタナ
 「ケヒヒ、か、可愛いって……♪」

可愛い言われて喜んだようだ。
不味いな……完全に舐められてるな。


 「俺は常葉茂です、まぁしがないサラリーマンですが」

お嬢様
 「サラリー……? あ、私はメアリと申します」

お嬢さん、メアリはサラリーマンはピンとこないらしい。
この世界には存在しないのか、それともそれ程浮世離れしたお嬢様なのだろうか。

コマタナ
 「コマタナです」

ナッシー
 「ナッシーと」
 「申します」
 「お見知りおきを」

ナッシー男は頭部別々に話す。
凄まじく聞き取りづらい、相棒にするとこの点だけは疲れそうだな。


 「えと、メアリ嬢はどうしてこの森に?」

メアリ
 「ジラーチ使いの噂はご存じでしょうか?」


 「……!?」

俺はその予想の中に無かった答えに驚いた。
それと同時にあの一見柔和だが、酷薄さを隠した青年の顔が思い出される。


 「……かなりの強敵ですよ」

ナッシー
 「会ったことがお有りで?」

コマタナ
 「パンチ一発で負けちゃった……」

コマタナが落ち込む。
しかも今一つのコメットパンチで一発だからな。
まぁあのジラーチ後はエスパー技しか無いから、コマタナには絶望的に相性悪いんだが。
相性を能力差でゴリ押しされたんだから、冗談抜きにジラーチは強い。

メアリ
 「ナッシー、やっぱり……」

ナッシー
 「しかし最低限の偵察は必要かと」

どうやらこの二人、ジラーチ達の実力を知りたかったようだ。

メアリ
 「あの……今どこに?」


 「いや、流石にもう移動していると思うけど」

ナッシー
 「如何致しましょう?」
 「会える可能性は低そうですが」
 「一応危険もありますが」

メアリ
 「……でも、優勝に一番近いのは間違いなくジラーチよ」


 (どうやら余程優勝したいらしいな……)

俺はメアリの険しい顔を見逃さなかった。
手に力を込め、貪欲な精神が容易に見て取れる。


 「そんなに優勝したいのか?」

メアリ
 「っ!? 当然でしょ!? どんな願いでも叶えられる……私はその力で!」

ナッシー
 「お嬢、感情的になるのはいけません」

メアリ
 「そ、そうね……」

ナッシー
 「時に沈黙は金です」


 (……お嬢さんは兎も角、ナッシーは切れ者だな)

決して焚き付けた訳ではないが、メアリは簡単に感情的になった。
それだけの願望があるって言うのは確かだな。


 (今の所、この世界のポケモントレーナーって良い印象ないんだよな)

それもジラーチのトレーナーとか、メリオの印象が悪すぎる性なんだが。
このお嬢さんも目的のために手段が過激ならないか不安がある。
トレーナーがそうなるのも、あらゆる願いが叶うって言うのが真実だという証左なんだろうな。

ナッシー
 「失礼ですが、こちらも質問宜しいでしょうか?」


 「答えられることならなんでも」

ナッシー
 「ありがとうございます」
 「それではお聞きしますが」
 「貴方は優勝する気はあるのですか?」


 「!」

逆に返されたか。
ここでそうだと答えれば、俺達は敵同士だ。
だが優勝する気がないと言えば、コマタナもあるし俺達は弱敵。


 (さて、どう答えるか)

ナッシー
 「……」

ナッシーの3つの顔はそれぞれ別の表情を見せている。
左の顔は興味深そうに、右の顔は威圧感を持って、正面の顔はただ冷静に俺を品定めしている。

コマタナ
 「……優勝する、叶えたい願いがあるから」

ナッシー
 「!」


 「コマタナ!?」

答えたのはコマタナだった。
コマタナは臆病だが負けん気がある。
しかまさかコマタナ、自分の実力を知りながらそれでも優勝すると言うか。


 (ふっ、コイツに言われて俺が乗らないのはバディーズとしてあり得ないか)

俺は微笑浮かべてしまう。
この大会は正真正銘命がけだ。
実際に何人ものトレーナーが命を失ったのだろう。
だが、それがどうしたという?
コマタナが俺のために戦ってくれるなら、俺はコマタナのために戦う。


 「そう言う訳で、残念ですが優勝は俺達」

コマタナ
 「特異点……♪」

俺は自信満々にそう言うと、コマタナは嬉しそうに俺に寄り添った。
ナッシーは完全に面を食らっており、俺達がこの選択をするとは想定してなかったのだろう。
だが、ナッシーも直ぐに頭を切り替えた。

ナッシー
 「面白い……あなた方を見ていると、昔を思い出します……」

コマタナ
 「昔?」

ナッシーの顔は大分昔を思い出している様子だった。
ロッソの話の通りなら、この島にいるポケモンたちは皆この世界のポケモンではないらしい。
どういう物かは分からないが、召喚という方法をとってポケモンをこの世界に呼び寄せるそうだ。
その中には生前英雄と呼ばれた者もいるんだとか……そう、生前だ。


 (このナッシーもそう言った生前に英雄と呼べる者だったのか?)

無論ナッシーの経緯がそうであるとは限らないが。
ただ、ナッシーには何か言い得ない深みがあった。

ナッシー
 「お嬢、この方にバディーズバトルを申し込みましょう!」

メアリ
 「ナッシー!? この子はそんな強敵では!?」

ナッシー
 「自らの弱さを自覚する者が、優勝すると言っているのです! 彼らは弱敵に非ず!」

メアリ
 「な、ナッシー……!」


 「コマタナ……やれるな?」

コマタナ
 「大丈夫、特異点、任せて」

コマタナは構えた。
相手から見るとコマタナは小物も良いところだ。
と言うか縮尺がおかしい。
メアリは万が一にも噛みつかれるリスクを危惧したようだが、ポケモン達の様子を見て諦めた。

メアリ
 「ナッシー、貴方に任せます!」

ナッシー
 「は!」
 「御意!」
 「勝利の栄光をお嬢様に!」

ナッシーがその屈強な身体を前に進める。


 「ナッシー、アローラの姿。タイプは草ドラゴン、ドラゴンの力を得たからエスパー捨てたとされるが、それは忘れろ!」

コマタナ
 「う、うん」


 「お前はタイプ的には有利だが、見ての通りパワーでは勝負にならん、特に代名詞のドラゴンハンマーに気を付けろ!」

ナッシー
 (このニンゲン、やはりあの時のニンゲンに似ている……私が仕えたあの方の帝国を打ち崩す要因となったニンゲンに……!)

コマタナ
 「はっ!」

コマタナは駆ける。
一体何処を攻撃すれば良いのか分からんが。

ナッシー
 「ふん!」

ナッシーはその長すぎる首をしならせてコマタナを攻撃する!
動作からコレがドラゴンハンマーか!?
コマタナは素早く横にステップして回避するが、大地が揺れた。

ズシィィン!


 「ぐお!? 凄いパワーだな!?」

ナッシー
 「ただのパワータイプではない事を教えましょう!」

ドラゴンハンマーの衝撃で葉が大量に舞う。
それはコマタナを幻惑し、そしてやがて嵐となる!
俺は直感的にやばいと感じた。


 「身を守れ!」

コマタナ
 「うん!」

ナッシー
 「受けよ! リーフストーム!」

ビュオオオオ!!

舞しきる木の葉は暴威を持って渦巻き、コマタナの肌を切り裂いていく!

コマタナ
 「くぅ!?」

しかしコマタナは耐えた。
コマタナ程度なら吹き飛ばされそうな威力だったが、見事に彼女は耐えたのだ。


 「ナッシーのリーチは3〜5メートル! 内側はお前の距離だ!」

俺はここまでのナッシーの性能から遠距離アタッカーだと判断した。
ドクロッグ戦は相手の距離で戦わないといけないというリスクがあったが、今度はお互いのレンジが違う。

コマタナ
 「はぁ!」

コマタナはナッシーの胴体を切りつける!

ナッシー
 「ぬぅ!?」

しかしナッシーはその偉丈夫な躰で耐え抜いた!

ナッシー
 「甘く見ないで頂きたい!」
 「近距離でも戦えない訳ではないのですよ!」
 「その身に受けよ!」

ナッシーの目が光る。
サイコキネシス、しかしそれはコマタナには通用しない。
だが、目的は別にあった!

コマタナ
 「こ、コレは!?」

ナッシーのサイコキネシスは戦闘の余波を受け、その場に転がる枝や石を無差別にコマタナに向ける。
ナッシーすら巻き込みかねないが、コマタナはたまらず後ろに転がった。

ナッシー
 「ふ、ふぅ……!」

メアリ
 「どうしたのナッシー!? 苦戦しているじゃない!」

ナッシー
 「申し訳ありませんお嬢、やはり手練れです」

メアリ
 「そんな貴方が負けたら私は……!」

ナッシー
 「ご安心を!」
 「私は貴方を優勝させるために召喚に応じたのです!」
 「必ずや勝ちます!」

メアリは焦りを見せる。
今の所一切ナッシーにアドバイスすら送らない姿はトレーナーとしては疑問符が浮かぶ。
だがナッシーには声だけで充分なんだろう、それを鼓舞してコマタナに向き合う。
一方で、体中傷だらけにしながらコマタナも闘志を剥き出しにした。


 「大丈夫かコマタナ?」

コマタナ
 「う、うん……まだいける」

リーフストームで下がった特殊攻撃力で無理矢理サイコキネシスでレンジを外した。
予想以上にコマタナが善戦している。
だが決定打を与えられない!
前回と一緒だ!
コマタナは相手を倒せる攻撃力が無い!


 「コマタナ、特訓を思い出せ」

コマタナ
 「特訓……」


 「もう出来ませんでしたじゃ許されねぇからな」

コマタナ
 「う、うん!」


 「それと……俺が最後に出来るのはこれだけだ、信じてるぞ!」

コマタナ
 「と、特異点……それだけで、充分♪」

コマタナは嬉しそうに微笑む。
結局どれだけアドバイスしても、どれだけ的確に判断しても、現場で戦っているのはポケモン達だ。
俺達トレーナーが最初から最後まで出来るのは信じる事だ。

コマタナ
 「行くぞー!!」

コマタナが全力で駆ける。

ナッシー
 「種爆弾!」

ナッシーは接近を嫌がるように上から種爆弾を投下する。
コマタナはそこから更にスピード上げ、爆撃をすり抜けていく!


 「今だ! 行けぇ!」

コマタナ
 「うわあ!」

コマタナが吼える。
その右手の黒いオーラを纏わせ、それをナッシーの胸に袈裟懸けに斬りつけた!

ブシャア!

血飛沫が上がった。
ナッシーの胴から血が舞う。

ナッシー
 「……ぐ」

ナッシーの体がぐらついた。
その大きな首が真後ろに倒れていく。
しかし……!

ナッシー
 「勝利を確信する時、そこに油断はある!!」

ナッシーはまだ闘志を失っていない!
ナッシーの首は後ろから横にスイングさせた!

ドゴン!

コマタナ
 「がは!?」

その変形のドラゴンハンマーはコマタナを捉える。
大質量をぶつけられたコマタナは吹き飛び、大木にぶつかる。

そこに立っていたのはナッシーの方だった。

メアリ
 「な、ナッシー! 良かった! 今傷の手当てを!」

ナッシー
 「はぁ、はぁ……約束通り」
 「はぁ、はぁ……お嬢に勝利を」
 「はぁ、はぁ……捧げます」

ナッシーも相当無理をしていたのだろう。
片膝を付いてしまうが、倒れていないのが不思議だった。
一方でこっちのお嬢様は勝ったと思った瞬間を突かれて、伸びているらしい。


 「コマタナ、大丈夫か?」

コマタナ
 「きゅ〜……」

とりあえず気絶はしているが、大丈夫そうだ。
俺はコマタナを抱きかかえると、二人の元に向かった。


 「参りました」

ナッシー
 「実際紙一重でした……ニンゲン、貴方は不思議だ……ポケモンに力を与える」

メアリ
 「力?」

メアリはバッグから紫色のスプレーを取り出すと、それをナッシーの傷口吹きかけた。
するとあっという間に傷口は塞がった。
恐らく凄い傷薬だろう、結構高級回復アイテム持ってるな。

ナッシー
 「私は生前アマージョの女王に仕えていました、圧倒的力を持つ魔王に相応しきお方でしたが、最終的には破れました……私はあの時この方に似たニンゲンと出会いました」

メアリ
 「その人もポケモンに力を?」

ナッシー
 「私はそう予想しています」


 「……」

俺は黙っていた。
ぶしつけに聞くのはやぶ蛇だろうし、俺はその力にそれ程興味はなかった。


 「神話の乙女……」

ナッシー
 「それは?」


 「俺が訪れた世界の伝承、世界を救う乙女の物語……」

俺は凪と華凛を思い出しながら、コマタナを見た。
もしかしたらコイツは神話の乙女なのかもしれない。
俺はコマタナに可能性を見た。

メアリ
 「あの、良かったらこれを」

メアリは俺に黄色い欠片を差し出した。

メアリ
 「元気の欠片です、念のため」


 「あ……ありがとう」

俺はそれを受け取るとコマタナの口に含ませる。
なんとか飲み込ませると、コマタナは目を覚ました。

コマタナ
 「はえ? 特異、点?」


 「おはようございます、マイ、プリンセス」

コマタナ
 「ぴゃあ!? お、お姫様!? あ、アタシが!?」

冗談めかして言ったのだが、面白い位テンパるコマタナにメアリはクスクスと笑った。
真正のお嬢様にはこの庶民が滑稽に映ったのだろう。

コマタナ
 「あ……、アタシ負けた?」


 「ああ、惜しかった」

ナッシー
 「コマタナさん、貴方にアドバイスをするなら、自分を信じなさい……自分のエゴを強化するのです」

コマタナ
 「自分を信じる……、エゴを強化する……」

ナッシーのアドバイスは俺と似ているが、少し違う像があるようだ。
恐らくナッシーは知っているんだ、本当に強い奴の像を。


 (コマタナ、お前はもっと強くなれる)

俺はコマタナを抱きながら、それを確信していた。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#4 VSナッシー 完

#5に続く。


KaZuKiNa ( 2019/09/29(日) 12:27 )