突ポ娘外伝




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異世界転位編
#2 VSジラーチ

#2



異世界転位はこれで2度目だが、俺はなろう小説とかの主人公じゃねぇんだぞ。


 「愚痴っても、仕方ねぇか」

コマタナ
 「?」

俺の名前は常葉茂(ときわしげる)
妻の常葉茜(ときわあかね)ともうすぐ産まれる子供を持つ、ナイスガイな24歳だ。
身長は高い方だが、目付きが異様に悪く死んだ魚の目なんて言われる。
身体はサボった分重く、高校生には分からんだろう歳の老いを実感している最中だ。
とりあえず帰ったらジムに通おうと思う。
このままじゃ間違いなくビール腹の中年一直線だからな!

コマタナ
 「……うぅ、お腹空いた」

んで、この子はコマタナ娘。
俺を殺しにきた少女だが、本質で言えばそれ程恐ろしい子には思えない。
背は低く、多分140前後。
全身に鋼の刃を仕込んでおり、迂闊に触れない全身凶器な少女だ。
正直まだよく分からん事も多く、お互い信用するには時間が掛かりそうだ。


 「やれやれ……俺も結構やばいんだが」

俺もなにせ定時に帰れなかったから、晩飯前だったんだ。
今の所鬱蒼とした森を歩いているが、木の実も動物も見当たらない。
不自然なほど静寂とした場所だった。

コマタナ
 「あ……何か良い匂いがする〜」

匂い?
コマタナは鼻をクンクンさせると、フラフラと歩き出す。
既に空は暗くなりつつあり、迂闊に動くのは危険そうだが。


 (とはいえ、誰かが俺達を捜している訳でもないだろうし、動かなきゃ飢え死に……か)

俺はそう判断すると、コマタナの後を追った。
やがて、森の奥から光りが零れた。
光に近づくと匂いが強くなる。


 「この匂い……カレーか?」

なんで異世界にカレーがあるんだ?
コマタナはもう我慢出来ないらしく、今にも駆け出しそうだった。
だが、まだ安全が確認出来ない。

コマタナ
 「ううぅ〜……もう駄目ぇ〜!」

コマタナは光の下へと走った。
あの馬鹿、罠だったらどうする気だよ!?
俺は慌てて追いかけると、やがて森は開けた場所に出た。


 (なんだこれ!?)

そこには鍋があった。
鍋と言っても携帯用の小さな鍋だが、携帯コンロの上に置かれ、香辛料の強い匂いがする。
鍋は木製のテーブルに置かれ、光量の強いランタンも置かれていた。
俺が突然現れた現代的な代物に戸惑っていると、主がすぐ近くの泉の傍で立ち上がった。


 「えっ……?」

その主は小さな少女だった。
コマタナよりも更に小さく、それよりも気になったのは白い祭礼服のようなシンプルな服に、耳から垂れ下がった短冊、目の下のティアドロップ模様……それはジラーチだった。

ジラーチ
 「どうして茂、お兄ちゃんが……?」


 「ッ!? お前フーパと一緒にいたジラーチか!?」

ジラーチ
 「やっぱり茂お兄ちゃん!?」

間違いない、こいつは俺を何度も助けてくれたジラーチだ。
見た目こそ幼女そのものだが、とても頼れる相手だ。
正直言ってこれは相当の幸運だろう。
まさか異世界で会えるとは……!

コマタナ
 「お腹空いた〜……」


 「ええい! お前はお隣さんの電気ネズミか!?」

感動の再会に水を差したのは、今にも鍋に顔を突っ込もうとしているコマタナだった。

ジラーチ
 「……で、そっちの汚いガキは誰?」

相変わらず見た目は可愛らしいのに、中身はやさぐれた女だな。
サラリと汚いガキ扱いしたのはスルーするとして、俺は事情を説明することに。


 「実はだな……なんか変な戦いに巻き込まれたら、ここに飛ばされた!」

ジラーチ
 「……アンタ疫病神か何かに呪われてるんじゃないの?」

自分でもそう思うわ。
個人的には不幸体質じゃないと思いたいが、少なくともまた巻き込まれたから笑えねぇ。
一応特異点とか、俺を殺せば願いが叶うとかは黙っておいた。
ジラーチに迷惑をかけたくはないという思いと、まだ事の真意が分からないからだ。

コマタナ
 「うぅ……」

おっと、流石にもうコマタナが限界そうだな。


 「ジラーチ、良かったら俺達も晩飯に付き合わせて貰っても良いかな?」

それは何気ない物だったと俺は思う。
だが、ジラーチは突然険しい顔をすると。

ジラーチ
 「茂お兄ちゃん……今は駄目! 絶対助けるから今はここを離れて!」


 「なに?」

ジラーチ
 「もうすぐアイツが帰ってくる!? そのガキ連れて早く!」

アイツ!? ジラーチの奴何を焦っている!?
俺は改めて、カレー鍋の置かれたテーブルを見た。
テーブルには皿が二つある。
それはジラーチが誰かと一緒にいることを示していた。
だがそれはフーパではない、ジラーチの態度が証明している。


 「分かった……よく分からんがお前に従う! コマタナ、一旦離れるぞ!」

コマタナ
 「で、でも〜……」


 「おやおや、これはどういう事かな?」

コマタナがモタモタしていると、突然森の奥から線の細い青年が現れた。
どこか身なりの良い青年はまずコマタナを見て、次に俺を見た。
俺はその時のそいつの表情を見逃さなかった。
一瞬だが、コイツ笑いやがった?
青年はジラーチを見ると言う。

青年
 「ジラーチ、これはどういう状況かな?」

ジラーチ
 「無関係よ、私は水汲みしてたんだから」


 (ジラーチの知り合い? だがなんだ? 嫌な予感が増しやがった……!)

青年
 「ふーん、見たところ君たちバディーズだね、だとすると目的は同じか! ジラーチ!」

ジラーチ
 「ち……悪く思わないでよ!?」

バディーズ?
俺とコマタナの事か?
同じ目的ってどういう意味だ!?
なぜジラーチが殺気を向ける!?
俺は状況に流されまいと、少ない情報から最善の答えを捜す。
だが、肝心のコマタナは。

コマタナ
 「ヒッ!? な、何々!?」

コマタナは殺気を向けられた事は理解したようだが、慌てふためいていた。
それを見た青年は笑う。

青年
 「ハハハッ! 随分情けないバディだな! ジラーチ、だが手加減はするなよ!?」

ジラーチ
 「勝手な事を……!」

ジラーチの右腕が鋼の光沢で光る!


 「コマタナ! 防御しろ!」

コマタナ
 「と、特異点!?」

コマタナは辛うじて俺の声に反応した。
しかしジラーチは一瞬でコマタナの懐に踏み込むと、拳を握り込んだ。

コマタナ
 「う、うわぁぁあ!?」

コマタナは両腕で顔面をガード。
しかしジラーチはガード越しに殴る!

ジラーチ
 「コメットパンチ!」

コマタナ
 「がっ!?」

コマタナはその圧倒的な力でいとも簡単に吹き飛ばされ、樹木をなぎ倒し、大の字に倒れた。
完膚なきまでに、コマタナの完敗だ。
だが、青年は不満を漏らす。

青年
 「おい、ジラーチ、ボディを何故狙わなかった?」

ジラーチ
 「くだらない、防御してあの様なら何処を狙っても一緒よ」

違う、ジラーチはわざとガード越しに殴ったんだ。
青年はジラーチの答えに納得したようだが、兎に角今はコマタナが心配だ。


 「コマタナ!」

俺はコマタナに駆け寄ると、コマタナは意識があった。
樹木をなぎ倒す一撃を受けて、ボロボロだったが辛うじて無事だったのだ。

コマタナ
 「うぅ〜……!」

青年
 「ははは! まぁ無理もない! ジラーチは今大会でも間違いなく最強格! 君のような三流が上がる舞台じゃないんだよ!」


 (……怒りは必要ない! 状況分析が先だ!)

俺はふつふつと湧き上がる怒りを自覚して、必死に鎮めた。
いきなり襲いかかられて、コマタナがボロ雑巾みたいにされて、そりゃ俺はコマタナの何かにもなっていない。
はっきり言えば、まだ他人の関係だ。
それでもこの青年の言葉にはカチンとくる物があった。
これで俺が10代だったら、一発ぶん殴っていたかもしれないが、生憎怒ることは20代に入る前に忘れちまった。
俺はコマタナを優しく抱きかかえると、立ち上がった。

青年
 「さっさと消えたまえ」


 「……ッ!」

俺は何も言わなかった。
兎に角その場から離れる。

コマタナ
 「うぅ……」


 「コマタナ、無理すんな!」

コマタナは何か苦しそうに呻いていた。
改めて、あの圧倒的な戦闘力差は驚愕する物だった。
と……同時に家族が如何に規格外の集団だったかが分かる。

コマタナ
 「……やしぃ」


 「なに?」

コマタナ
 「くやしいよぉ……!」

コマタナは顔を覆うと泣いていた。
コマタナもポケモンだからなのか、バトルに負けた事が悔しいらしい。
俺は途中で立ち止まると、コマタナの頭を撫でた。


 「コマタナ、俺がついてる……お前の悔しさも俺が受け止めてやる」

コマタナ
 「と、特異点……?」


 「お前が弱いと思うな、お前の思う強さになれ! そのためなら俺が支えてやる!」

俺らしくないな、自分でそう思った。
だが、コマタナを見ていると、10代の頃にはまだあったはずの情熱が思い出される。
ポケモンの戦いに人間は無力だ。
だがポケモン娘達の戦いはずっと見てきた。


 「敗北を終わりにするのは止めようぜ!? 明日勝てば良い!」

俺はそう言ってニコッと笑った。
コマタナはただ気恥ずかしそうに、何も言わず縮こまった。

コマタナ
 「? なにか……」

ふと空から何かが降ってきた。
それは木の実だった。
ヒョウタン型の黄色い斑点のある特徴的な木の実。


 「もしかしてオボンの実か?」

俺は降ってきた空を見上げるが、この木の実が生りそうな木は見当たらない。
それよりも偶然落ちてくる方がおかしいだろう。
と言うことは……。


 (ジラーチ、お前か?)

それは恐らくジラーチからの贈り物だろう。
コマタナはオボンの実を持つ、俺の顔を覗き込んだ。


 「ん? なんだ?」

コマタナ
 「半分……あげる」

なんと、このアイテムは回復薬だというのに、この子は俺に半分やると?


 「俺はいい、お前が全部食え、体力を回復させないといけないだろう?」

コマタナ
 「でも……」

コイツ、良い奴だなと俺は確信した。
良い奴が必ず良い行いをする訳ではないが、俺はコイツを信用に足ると判断した。


 「ほら、その手じゃ食べにくいだろう? 俺が持っててやる」

コマタナの両手は刃になっており、物を握ることが出来ない。
切ったり突き刺したり出来ることから、本来は肉食なのかも。

コマタナ
 「ん……美味しい」

コマタナはゆっくりと咀嚼した。
大きさにして約10センチの巨大木の実はそれだけで満腹になりそうだな。

コマタナ
 「……ん、元気になった」

気が付くと、至る所にあった傷が修復されている。
改めてポケモンの神秘だが、オボンの実の効果で回復したという事だろう。

コマタナ
 「ふぁ……!」

コマタナは食べ終えると、欠伸をした。
急に高カロリーなエネルギーを摂取したからだろうか、俺の腕の中で眠り始めた。
俺は改めて丁度良い木の根元に座りこむ。
コマタナは依然として味方ではないかもしれない。
俺の命を狙う動機もあり、まだその真意も不明だからだ。
一方で俺達は遭難者だ。
敵対する者同士が手を取り合うには条件が整っている。


 (吊り橋効果に過ぎないかもしれないが……)

俺は、コマタナを信じてやりたい。
そう思い……目を閉じた。


 (大会、バディーズ……ここは人工島パシオのような場所なのか?)

完全に同一ではないだろうが、なにか大会をやっているらしい。
俺は今日集まった数少ない情報を精査する。
あの青年はジラーチに命令する立場にあった。
ジラーチはあまり従いたがる様子じゃなかったが、絶対的な主従関係が成立していた。
一体ジラーチになにがあった?
フーパも別の場所で同じような目にあっているのか?


 (だが、人がいるという事は分かった、これは有り難い情報だ)

おそらくだが、近くに集落かなにかあるんじゃないだろうか。
依然この世界がどのような世界なのかは把握できていない。
人化したポケモンを苦も無く受け入れている世界。


 (だが……それが良い世界かは別なんだよな)

それはある意味で予感だ。



***



コマタナ
 (とっても温かった……)

特異点はアタシを励ましてくれた。
アタシを怖れなかった。
アタシの頭を撫でられたら、凄く気持ちよくて……もう一度して欲しいって思っちゃった。
心地良い……でもそれはコマタナの生き方に反する事だ。
こんな事では立派なキリキザンには進化できない。
いや……そもそもアタシはキリキザンになることさえ出来るのか?
私の願いは……。

ギュッ……。

不意にアタシの身体は抱きしめられた。
特異点がアタシを護ってくれている。
アタシの身体は容易に特異点を傷つけてしまう。
アタシにとってこの身体は誇らしいコマタナ一族の身体であると同時に、呪われた一族の身体だ。

コマタナ
 (特異点……アタシは……)



***



ジラーチ
 (ちゃんと届いたかしら?)

私は可能な限りコマタナへの攻撃はダメージが少なくなるように調整した。
幸いガード越しだったから無事だった。
後でこっそり木の実を転送したが、ちゃんと食べていれば明日には元気になっているだろう。

青年
 「おい、洗い物は終わったか?」

ジラーチ
 「今やっているわ」

青年
 「早くしろ、全く……バトル以外は使えんな」

ジラーチ
 (頭来るわねぇ……! 茂お兄ちゃんとマスター交代して欲しいわ!)

私は今ある理由でこの青年に絶対服従だった。
お陰でアレしろコレしろと、無駄に私を雑用係にしてくるんだから、たまったもんじゃない。
はっきり言って不幸だわ……もう自分の不幸体質は慣れっこだけども。
とはいえ、幸運もあった。
どういう事か茂お兄ちゃんが、こっちの世界にいたのだ。
フーパと離れ離れになってしまい、挙げ句絶対服従の呪いまで掛けられた。
自分だけではどうにもならないけど、茂お兄ちゃんがいるなら別だ。

ジラーチ
 (それにしてもあの汚いガキ、なんで茂お兄ちゃんの庇護を受けられるのよ!? 理不尽すぎない!?)

あの汚いガキに恨みはないが、こっちの待遇もあってカチンとしたのは事実だ。

青年
 「終わったらベッドの用意をしろ」

ジラーチ
 「はーいはいはい」

私は苛立ちながら、雑用を熟していく。
おのれ……ポケモンは一流、トレーナーとしては二流、人格は三流の癖に!



***



朝が来た。
異世界漂流二日目、引き続き森の中からスタートだ。


 「うっし! コマタナ準備は良いか?」

コマタナ
 「い、イェーイ! 今日はヴィクトリー!」


 (中二病だろうか? 変なテンションの上げ方だよなぁ〜)

時々飛び出す嫌にハイテンションな振る舞い。
コマタナはオボンの実の効用もあって、朝には元気いっぱいだった。


 「とりあえず人がいる以上、どこかに拠点となる町がある可能性が高い! 今日はそれを捜索するぞ!」

コマタナ
 「ラジャー!」

しかし、俺はこの世界を必要以上に信用してしまったのかもしれない。
この後……俺はこの世界の真実を目の当たりにするのだった。



突然始まるポケモン娘シリーズ外伝

突然始まるポケモン娘と理を侵す者の物語

#2 VSジラーチ 完

#3に続く。


KaZuKiNa ( 2019/09/15(日) 17:48 )