ポケモンヒロインガールズ





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PHG スペシャル
SP06

ミュウ
「ミュウ……皆、ミュウの事、聞いてほしい!」

闘子
 「痛てて……一体これはどうなってんだ?」

ジガルデに眠らされたのか、剛力闘子は訳も分からず周囲を見渡した。
だが、いつになく真剣な表情のミュウに、集まった1年生、2年生も静かに言葉を待っていた。

真希
 「後で全部説明してあげるから、今は黙ってなさい」

闘子
 「ち、ちゃんと説明しろよ?」

闘子はそう言うと腕組をして、ミュウを見た。


 「教えて下さい……貴方の事」

ミュウはコクリと頷くと、静かに語りだす。

ミュウ
 「ミュウは時の旅人なの、それはいつ産まれた、どこで産まれたか、ミュウには、私には分からない、だけど目的があった」

悠那
 「目的? それは?」

ミュウ
 「私、いえ……私達の目的は、異常な力の排除」

琉生
 「異常な力……」

ミュウ
 「少し前、この世界で異常な力を観測した私とジガルデはこの世界に近付いた、でもすで世界を壊しかねない異常な力は収まっていたの」

悠那
 (もしかして、私のダイマックスの事?)

ミュウとジガルデは均衡を保つ為、世界を渡る旅人だという。
それは調停者とも呼ばれるようだが、世界の破壊を防ぐ為には、自身が世界を破壊できる力が必要だと言う。
それは荒唐無稽のようにも思えるが、意味の角度が違うからだ。
ミュウとジガルデはあくまでも調停者、実際に秩序を破壊することはないし、混沌であれ、それが世界の秩序なら混沌を守るために調停者は動くのだ。

真希
 「つまり、要約すると、この世界に秩序を乱す力があった、けど到着した頃には既に無かった?」

ミュウ
 「うん、そう……でも、本来ならミュウはこの世界を去らないといけなかったの……でも、琉生お姉ちゃんがそこに居たから私は……」

琉生
 「私?」

全員が琉生を見た。
かくいう琉生も目を丸くしている。
ミュウは少しだけ微笑むと、琉生に言った。

ミュウ
 「琉生お姉ちゃんだけが、世界の外側にいるミュウに気がついてくれたんだよ?」

琉生
 「あっ……!」

明日花
 「相変わらず神掛かってるよなぁ!」

アリア
 「クスクス、琉生さんですもの」

琉生は確かにミュウの声を聞いていた。
それに苛立ってさえいた。
しかしミュウにとっては違った。
ミュウの旅は退屈極まりないもので、実際に調停を行う事など殆どない。
殆どはただ世界の壁の外側から事後の世界を見て、次の世界への繰り返し。
だからこそ、ミュウの声を聞き取った琉生は特別な存在だった。
ミュウは俄然琉生に興味を抱き、ずっと観察をした。
観察する中で、ミュウはこの世界における自己を確立し、ポケモン少女ミュウは誕生したのだ。

ミュウ
 「誕生したばかりのミュウは何もかもが新鮮で楽しかった、宇宙の法則に従う事で、自己を定義し、脆弱でも、皆と一緒に過ごせるのは一生よりも素晴らしい物だった」

ただ、それは許されざるエゴだった。
ミュウのエゴは世界にとって危険だった。
ゲシュペンストγをいとも容易く撃破する様から分かるように、彼女自身が秩序を破壊しかけているのだ。

例えばだ、あの時鈴達が死ぬ運命だったとする。
それをミュウが阻止してしまえば、それは世界にとっては均衡を崩されたのだ。
そしてそれはジガルデに目を付けられるには充分過ぎる理由だった。
ジガルデはまだ良心が利いている内は、退いてくれたけど、それもいつまで保つかはミュウにも分からない。
ただ、ジガルデはミュウに破壊者になってほしくないのだ。
今は穏便にこれまでの事を無かった事にしようとしている。
ジガルデ自身なるべく、この世界に関わらないようにしているみたいだ。

琉生
 「じゃあ、ミュウはここに居ては駄目なの?」

琉生は悲しい顔をした。
ミュウは大好きなお姉ちゃんにそんな顔をさせるのが一番嫌だった。

ミュウ
 「ごめんね琉生お姉ちゃん、ミュウは初めから存在しちゃ駄目だったの」

琉生
 「違う! そんな事ない! それじゃミュウはずっと寂しくてもいいの!? 貴方寂しかったんでしょ!? だから私に応えた!」

ミュウ
 「!?」

そうだ、琉生はミュウの核心を突いた。
今度はミュウが泣き出した。

ミュウ
 「ひっぐ! うぇぇぇん! そうだよ、ミュウは、ミュウは! お姉ちゃんに触れたかった! お姉ちゃんの声を聞いたから、我慢出来なくなった!!」

悠那
 「たく……ガキの癖に」

ミュウ
 「グス、悠那お姉ちゃん?」

悠那
 「アンタは赤ちゃんと一緒よ、グズつくのは当然の権利なの! だから、ミュウが泣く必要はないでしょう?」

ミュウ
 「悠那お姉ちゃん……私ぃ」

悠那はミュウを優しく抱きしめた。
ミュウに対して厳しくあろうとする悠那だが、泣いているミュウを見て、黙っている事も出来なかったのだ。
ただ、去来する想いは、この幼気な少女を救わなければ、そういう想いだった。


 「それで、ではミュウさんはどうしたいのですか?」

ミュウ
 「ミュウ……ミュウ皆に迷惑かけられない、それにミュウがいなくなったらジガルデが困る……」

夢生
 「むぅ〜、ミュウちゃんやっぱり行っちゃうビュン?」

ミュウ
 「うん、ごめんなさい」


 「はぁ〜! おっし! それならさ!? 盛大にお別れ会しましょ!?」

由紀
 「お別れ会〜?」


 「そっ! ごめんなさいでお別れしちゃうのって寂しいじゃん!?だったら、ありがとうでお別れしたいじゃん!?」

ミア
 「クス、鈴らしいね」


 「だけど、いい得て妙ね」

ミュウ
 「皆……!」

皆、そのつもりだったようだ。
ミュウが居なくなる事は悲しいけれど、ミュウを涙で見送りたくない。
ミュウを最後まで笑顔にしたいのは皆の総意だった。


 「うふふ〜♪ そういう事なら愛ちゃんにお任せ♪」

真希
 「参考に聞きたいんだけど、タイムリミットは?」

ミュウ
 「多分明日には……」

明日花
 「なら! 急がないとな!」

こうして、ポケモン少女学園総出で、ミュウお別れ会は計画されるのだ。



***



夕暮れが学園を染めあげる。
学生にとってなんてことのない日常の風景だが、ミュウはそれを美しいと感じていた。
肌に触れる秋風、それさえもミュウにとっては掛け替えがなく。
同時にそれはもうすぐ別れなければならないというセンチメンタルな想いだった。

琉生
 「ミュウちゃん?」

ミュウの隣には一番大好きな琉生お姉ちゃんがいた。
皆はお別れ会の設営で忙しく、ミュウと琉生は体良く外に追い出された。

ミュウ
 「琉生お姉ちゃん……」

琉生
 「手を繋いで、少し歩こうか?」

そう言うと、琉生はミュウに手を差し出した。
ミュウはその手を見て、最初は逡巡した。
この手を掴んだら、もう自分が止められない気がして。
でも、結局その手を握ってしまった。
琉生の手は小さく、繊細で、お人形さんのようだ。
だけど仄かに温かく、ミュウはギュッと握りしめてしまう。

琉生
 「初めて会った時は、酷く振り回されちゃったっけ?」

ミュウは琉生との思い出を大切に覚えていた。
それは琉生の事をまだ良く知らず、自分のペースで滅茶苦茶にしてしまった記憶だ。
今は寧ろ琉生のゆっくりなペースに合わせている。
そんなミュウに琉生は笑顔を浮かべていた。
それ程よく笑う子ではない琉生をここまで、笑顔にさせたのはミュウが初めてだ。
自分の中に目覚めた母性、保護欲は彼女を変えるには充分だった。

琉生
 「ミュウ、楽しい?」

ミュウ
 「ミュウ〜……楽しいよ、琉生お姉ちゃんと二人っきり、何をしても楽しい」

それは嘘偽りのない思いだった。
だけども不満でもある。
何故ならミュウはもっとずっと、琉生と一緒に居たかったからだ。
この歩きなれた道、河川敷を散歩するルートも、これで最後だと思うと、やっぱり悲しい。

ミュウ
 「ねぇ、琉生お姉ちゃん……ミュウは、ミュウは一杯お姉ちゃんを困らせた、一杯怒らせた……それでも琉生お姉ちゃんは優しくしてくれる、なんで?」

琉生
 「それは簡単な答えだよ、大好きって事」

ミュウ
 「大好き?」

琉生
 「そう、知ってる? 好きって理由はいらないんだよ? 好きになるのに時間はいらない、一瞬なんだって」

ミュウ
 「好きは理由がいらない……一瞬……」

その言葉を聞いた時、ずっと我慢していたミュウの涙腺は遂に崩壊した。
そうなのだ、ミュウが琉生を好きになったのも、理由なんてなかった。
一瞬で好きになって、どんどん甘えたい想いは強くなった!

ミュウ
 「琉生お姉ちゃん! ミュウも好き! 一杯好き! 大好きー!」

ミュウは琉生に抱きつくと想いを口から吐き出した。
好きに理由はいらない、ただそこには必然があっただけなのだ。

琉生
 「ふふ、ミュウ、ちょっと走ろうか?」

ミュウ
 「ふえ?」

琉生
 「はい、ヨーイドン!」

そう言うと琉生が走り出した。
ミュウは慌てて追いかける。
ミュウはその意図するものが分からなかった。
だが、琉生が全力で走れば直ぐにバテる。
ミュウはあっという間に、そうやってバテた琉生を追い抜いたのだ。

琉生
 「はぁ、はぁ! やっぱり足速いね」

ミュウ
 「お姉ちゃんだって、変身すればもっと早い」

琉生
 「クス、でもそれじゃ私が勝った事にはならないから」

ミュウ
 「琉生お姉ちゃんであって、琉生お姉ちゃんじゃないから?」

琉生は汗だくになりながら頷いた。
初めのミュウには意味が分からなかったが、今なら分かる。
ミュウには初めからその線引が存在しなかったが、ポケモン少女達には存在するのだ。

ミュウ
 「ねぇ、琉生お姉ちゃん」

琉生
 「なに?」

ミュウ
 「空、飛んでみよう!」

琉生
 「え? きゃあ!?」

突然琉生の身体が浮かび上がる。
無重力のような浮遊感に包まれたのは、ミュウが放った念動力だ。
ミュウは超能力を操ると、そのまま琉生と一緒に空へと飛び上がった。

琉生
 「ちょ、ちょっとミュウ!?」

ミュウ
 「キャキャ♪ 大丈夫♪」

琉生は手足をバタつかせ、その落ち着きのなさを現した。
一方でミュウは楽しげにそんな琉生を眺めた。
やがて観念したように、琉生は動きを止めると、彼女は大きく目を見開いた。

琉生
 「わぁ……!」

それは地平線に沈む太陽だった。
地上からは見られない、空からじゃないと分からない地球の丸さ。
琉生は地平線に沈みゆく日没をじっと眺めた。
夕闇はやがて、風よりも早く空を暗く染め上げる。

ミュウ
 「琉生お姉ちゃん、もう少し上行ってみよう?」

琉生
 「上?」

ミュウはそう言うと、琉生の言葉も待たずに更に上昇した。
やがて、二人は雲よりも高い空に上がると、琉生はその変化に気がついた。

琉生
 「凄い……星が!」

ミュウ
 「ミューミューミュ♪ 下も見て!」

琉生
 「下? あっ!」

彼女が見たのは、空に広がる満天の星であり、そして下に見たのは人工の光が織りなす地上の星雲であった。
上空は大気が薄く、地上の光はそれを阻害しない。
一方で空から見る地上も別の意味で美しい星々の世界だ。

琉生
 「綺麗……」

琉生は見入ってしまった。
恐らくミュウと出会わなければ、絶対にこの景色を味合う事は出来なかった。
空を飛べなない地上の者にとって、この光景は最果てにさえ思える。
無論さらなる先は存在するが、果たしてこの上に行っても大丈夫か、そう疑問を覚える。
宇宙……その見果てぬ夢。

琉生
 「もしかしたら……宇宙の先、その最果て、そこさえも越えた先にミュウの産まれた世界はあるのかな?」

ミュウ
 「でも、それは届かない……届いちゃいけないの」

ミュウは琉生に近寄ると、悲しげにそう言った。
琉生は空に広がる星々に手を伸ばしながら、振り向いて聞いた。

琉生
 「どうして?」

ミュウ
 「お姉ちゃんがお姉ちゃんであるためには、その星の加護が必要なの……誰も宇宙の最果てにたどり着くことは出来ない……光でさえも」

琉生
 「私が私であるため、か。ミュウは? ミュウはどうなるの?」

ミュウ
 「ミュウは法則に従わないの、宇宙の法則は壁によって区切られる……ミュウは壁と壁の間で産まれたから」

それはつまり、彼女の言う星の加護を受けない者。
それがどれだけ過酷で、どれだけ孤独か琉生には推し量れなかった。
だけど、琉生はミュウの手を掴むと。

琉生
 「でも、今はここにいる。私は貴方に触れている」

そう言って優しく微笑んだ。
ミュウはその手の温かさにじんわりと涙が出てしまう。

ミュウ
 「どうしてこんなに温かいの? どうして涙は出てくるの? どうして? ねぇ? どうして?」

琉生
 「それが愛、なんだと思うよ」

ミュウ
 「愛?」

琉生
 「うん、愛。家族愛、動物愛、人類愛……色々あるけど、愛だよ」

ミュウ
 「ミュウ! 琉生お姉ちゃん!」

ミュウは琉生に飛びついた。
琉生は優しくミュウを胸に抱きとめ、しばし空を無重力で回転した。

ミュウ
 (琉生お姉ちゃん……ミュウの、私の一番大切な人)

しかし、別れの時間は刻一刻と迫っている。



***



やや遅く、琉生とミュウは学生寮へと帰ってきた。


 「あ! おっそーい! 琉生ちゃん、ミュウちゃん! 入って入って!」

一年生側の寮であるが、入り口で出迎えたのは鈴だった。
鈴は二人の背中を押すと、広間へと案内した。

琉生
 「ちょ!?」

ミュウ
 「ミュミュミュ!?」

二人は広間に案内されると、そこには関東支部の全員がいた。
ミュウの為に普段は忙しい3年生まで集まっていたのだ。

明日花
 「おっ! 主賓の登場!」

ミュウ
 「ミュウ? これって……」

アリア
 「お別れ会、ですが……しんみりとは行きたくないですわね」

広間は今、パーティ会場のようになっているのだ。
鈴はミュウを主賓席に案内すると、皆静まり返った。
代表して、会を進行したのは愛だった。


 「それでは、ミュウちゃんとのお別れ会開きたいと思います〜、ですが最初に言わせて下さい。ミュウちゃんは私達の仲間です。それは何処へ行こうとも変わりません。そしてこれはミュウちゃんの旅立ちを祝う物に致しましょう」

ミュウ
 「ミュウ……皆」


 「ミュウちゃん? 次はあなたの言葉を皆に聞かせて?」

愛はにこやかに微笑んだ。
ミュウは周囲をちらりと眺め、琉生と悠那をそれぞれ見つけた。

ミュウ
 「ミュウ……皆とは短い付き合いだったけど、皆の事大好きです! ミュウ本当はもっともっとこの世界に居たい! 知りたい事まだまだ一杯ある! でも……ミュウは行かないといけない、皆の事本当に本当に大好きだから!」

パチパチパチ。

それは誰かが始めた拍手だった。
だけど、それは自然に伝播して拍手は大きく広がった。

夢生
 「夢生もミュウちゃんの事大好きビュン!」


 「ん、仲間だと思ってる」

明日花
 「当然だよな!?」

アリア
 「クス、お互い様です♪」

皆同じだった。
ミュウが思っている事、それは同じなのだ。


 「ささ♪ パーティを始めましょう♪」


 「よーし、鈴ちゃん歌ってあげるよー!?」


 「お料理もどんどん食べてくださいね〜♪ 今日は張り切りましたから♪」

やがて、楽しげにそのお別れ会は始まった。
主賓のミュウはそれぞれが見せる表情とその後ろの想いを見て、ますます涙を貯めてしまう。
この人たちは本当に良い人だ。
ますます自分のワガママに巻き込めない。
だからミュウは笑顔を浮かべた。
それは嬉し泣きだった。
ミュウにとってこの世界はかけがえがない。
何も彼女たちこそが、世界で一番尊いのだ。



***



ミュウが旅立ちに選んだのは、深夜だった。
お別れ会は本当に楽しかった。
これを胸に旅立てるなら、ミュウに悔いはない。

ミュウ
 「……ミュウ」

ミュウはひっそりと共用ベランダに出ると、空を見上げる。
空は暗く、月が薄っすら輝いている。

ミュウはベランダの縁に手を当てると、この世界での思い出を思い出した。
きっかけは物凄く偶然だった。
ミュウと琉生が繋がるなんて、きっとこれ以上の奇跡はない。
その後もミュウはこの世界で掛け替えのない物を一杯得た。

ミュウ
 「ごめんなさい」

それは自然に出てきた言葉だった。
こんな不意打ちみたいな出発の仕方をする自分に後ろめたさを感じてしまったのだ。


「それはどういう意味かしら?」

それは後ろからだった。
ミュウは驚いて振り返ると、そこには腕組して厳しくしている悠那がいた。

ミュウ
 「どうして? 悠那お姉ちゃん今深夜3時だよ?」

悠那
 「そういうアンタこそ、こんな夜逃げみたいなタイミングで」

ミュウ
 「う……!」

ミュウは最もな事を言われて怯んだ。
悠那はため息を吐くと、ミュウに近寄った。

悠那
 「アンタのその単純な思考パターンが読めない程耄碌はしてないって事よ」

ミュウ
 「単純……ミュウ」

悠那はミュウの横に立つと、ベランダに背を向けて落下防止柵にもたれ掛かる。
悠那からすれば、まだまだミュウは子供だ。

ミュウ
 「悠那お姉ちゃん、怒ってる?」

悠那
 「さぁね? 人間は複雑怪奇よ、泣いてるように見えて、本心では笑ってる奴。怒っているようで、本当は誰よりも心配している奴」

それは悠那なりの気遣いだろうか。
悠那にとってもミュウは大切な子供だった。
だけども彼女は旅立たないといけない。

悠那
 「なにか言い残す事は?」

悠那はミュウの旅立ちを受け入れた。
ミュウが消えたからって無様に泣くつもりはない。

ミュウ
 「……言いたいこと、悠那お姉ちゃんこそ無いの?」

悠那
 「……ないわ」

ミュウは訝しんだ。
悠那の心は揺らいでいる。
それは悠那の気丈さだ。

ミュウ
 「じゃあ、私が言う……私、最初悠那お姉ちゃんが怖くて仕方がなかった」

悠那
 「クス、でしょうね」

ミュウ
 「琉生お姉ちゃんに刺々しくて、でも次第にそれだけじゃなくて、悠那お姉ちゃんの優しさに触れて……ミュウは悠那お姉ちゃんの事大好きになった」

悠那
 「ち……! 私も丸くなったわね」

今度はミュウがクスリと笑った。
悠那はそんなに変わってない、彼女の優しさは元からだ。

ミュウ
 「ミュウね……もう行くよ? ジガルデも首を長くして待ってるはずだから」

ミュウは浮かび上がった。
悠那は振り返らない。
やがて、ゆっくりと浮かび上がるミュウに、悠那は腕組する指の力を強めると、ミュウに振り返った。

悠那
 「ミュウ! 忘れるな! 私もお前を仲間と、大好きな家族だと認めている! だから絶対に忘れるな! そうすればこれは今生の別れにはならない筈だ! お前の旅立ちはその一瞬になるはずだ!」

悠那が感情をぶつけてきた。
普段冷静沈着で物静かな悠那がミュウに必死に叫んでいる。
ミュウは振り返ると、優しく微笑んだ。

ミュウ
 「うん! 忘れない! ミュウは! 私は! 絶対に忘れない! 私もポケモン少女だから!」

やがて、ミュウの姿は悠那の視界から消えていった。

悠那
 「……っ」

悠那は震えていた。
もう感じることのできない気配に悲しむように。



***



ジガルデ
 「……」

ミュウ
 「お待たせ、ジガルデ」

そこは暗闇だった。
誰にも認識されない、次元の狭間は暗く冷たい印象を受ける。
ジガルデは、無言で姉を見た。
そして疑問をぶつける。

ジガルデ
 「どうして墜ちたんだ?」

ミュウ
 「さぁね、きっと神様の気まぐれじゃないかしら?」

神様、そんな陳腐な言葉を使うミュウにジガルデは更に訝しむ。

ジガルデ
 「本当はわざとなんじゃ?」

ミュウ
 「だとすれば、もっと抵抗したと思わない?」

本当にそうだろうか?
この姉は本当に聡明だ。
全てのポケモンのルーツはミュウにあると言われるポケモン。
そんなミュウが抵抗しなかった。
その意味をジガルデは考えた。

ジガルデ
 「……姉さんは姉さんなりに、秩序を護ったんじゃないの?」

ミュウ
 「クス♪ 私は貴方程勤勉な秩序の守護者じゃないわよ?」

ミュウが笑った。
ジガルデはその異質なミュウに異様さを感じてしまう。

ジガルデ
 「何を学んだの?」

ミュウ
 「色々よ、一生掛け替えなのない……そう、それは一瞬でも、永遠だから」

それはとある異能生存体と出会い。
禁断のポケモン少女は、世界さえも壊しかねない存在だった。
だが、彼女が学んだ物は、その一生からすれば一瞬の出来事だ。
しかしその一瞬は、この無味乾燥な旅にとっては永遠に匹敵する密度だ。

ミュウ
 (絶対に忘れないよ、琉生お姉ちゃん、悠那お姉ちゃん! ポケモン少女の皆!)



ポケモンヒロインガールズ

禁断のポケモン少女!? の巻 完。

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KaZuKiNa ( 2020/09/14(月) 18:32 )