ポケモンヒロインガールズ





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PHG スペシャル
SP02

琉生
 「さて、今の所問題もなさそう」

大きなビルもそこそこに立ち並ぶビジネス街を歩いていたのは姫野琉生と八神悠那だ。
今日は午前中パトロールがあり、二人一組で分散しているのだ。

悠那
 「そもそも、本来問題がある時の方が珍しいでしょう?」

悠那はつまらなさそうにそう言うと、琉生も苦笑した。
それもそうだが、どういう訳だが何かと事件に巻き込まれがちの琉生は素直に納得出来てなかった。

琉生
 (まぁでも……確かにその通りなのかも)

入学してから変な事に巻き込まれがちだが、本来は悠那の意見が正しい。

悠那
 「ま、大きな事件は無くても、小さな事件ならあるかもしれないけどね」

琉生
 「え?」

悠那は小さくため息をついた。
悠那の目線の先、そこにあったのは。

琉生
 「お婆ちゃん?」

悠那は無言でお婆ちゃんの元へと近づいた。

悠那
 「お婆ちゃん、どうしたの? 困り事?」

そう、優しい声で言ったのだ。
琉生は面食らった。
あの他人を寄せ付けない高圧的女が、率先して困っている人を助けようとしているのだ。

しかし、悠那からすればそれは当然だった。
彼女のプライドは目に見えて高いが、あくまでもそれは比べる対象がいたときの話、生来彼女は優秀だが驕れることも無く、絵に書いたような優等生であった。
特にポケモン少女には、強い憧れを持ち、無償で誰かを助けられる者は称賛する。

誰かを助ける、言葉で言うほどそれは簡単ではなく、それを実行出来る者に悠那はなりたいのだ。

悠那
 「道が分からないの? なら、案内してあげる」

琉生
 「あ、ま、待って……!」

悠那はお婆ちゃんの手を握ると、歩き出した。
琉生は慌てて二人を追う。



***



もうすぐ正午を迎えようとしている。
午前のパトロールを任された1年生達は、それぞれ街の住民を助けながら、学園へと戻り始めていた。

琉生
 「ビックリした」

悠那
 「なにがよ?」

琉生
 「八神さん、率先して仕事しているんだもの……」

琉生と悠那の二人はそう言って戯れた。
琉生からすると、ハッキリ明暗が別れる程彼女はアクティブだ。

悠那
 「人を戦闘民族か何かと勘違いしてない? これでもポケモン少女なのよ!?」

これでも、と言う辺り自覚はあるのだろう。
一度は本部の隠してる闇を暴くために、敢えてヒールを演じた。
だけど、本質は誰よりも正義感の溢れる少女なのだ。

悠那
 (やっぱりイメージ作りミスってるのかしら?)

よく大人っぽいと言われる悠那だが、それは自他認める自分の姿だ。
だがそのお陰で同年代や子供に怖がられるのは心外である。

明日花
 「よー! 二人共、お疲れー!」

学園が遠目に差し掛かる頃、合流してきたのは宝城明日花と藤堂アリアの二人だった。
どうやら丁度同じ頃合に帰りが重なったようだ。

琉生
 「あ、二人共お疲れ」

アリア
 「そっちはどうです? 問題ありませんでしたか?」

悠那
 「あるならスマホで共有する筈でしょ?」

明日花
 「お前らだと、無視しかねないから言ってるんだけどな……」

明日花はそう言って苦笑すると、悠那はそれ以上は言えず、頭を描いて舌打ちをした。
大凡自業自得であり、信用は勝ち取るしか方法はない。

琉生
 「大丈夫、至って平和」

明日花
 「ま、琉生がそう言うなら、そうなんだろう」

悠那
 「ちょっと待ちなさい!? なんで姫野なら無条件で信用出来るのよ!?」

アリア
 「付き合い……ですかね?」

明日花
 「琉生は八神と違って、ある意味で分かりやすいからな」

琉生
 「分かりやすいって……」

事実、そこは付き合いによる部分は確かに大きい。
琉生はハッキリ言って、陰キャで率先して行動するタイプではない。
故に琉生は基本的には夢生かアリアと組む事が多かった。
特に夢生は琉生が陰キャの癖に強気で、夢生は陽キャの癖に、チキンだから相性は抜群に良かった。
次点でアリアは、感情的にはなりにくく、琉生の首を掴むのに馴れている。
伊達に寝食を共にしてはいないのだ。

悠那
 「はぁ……、これが本当に喧嘩売った相手なんだもの……」

悠那はそう言うと頭を抱えた。
だが、ふと琉生を見ると、琉生は、空を見上げた。
いや、違う!
それは琉生がトランス状態に入ったのだ。

アリア
 「琉生さん!? 突然どうしたんです!?」

琉生
 「ゲシュペンスト、来る!?」

琉生はオオタチの憎悪を感じ取った。
それはゲシュペンストが近くにいるという合図。
琉生はほぼ無条件にソウルリンクスマートフォンを掲げた。

琉生
 「メイク、アップ!」

琉生がそう言うと同時に、彼女たちの周囲にゲシュペンストαの群れが現れてきた。

明日花
 「ちぃ!? ここでか!?」

アリア
 「愚痴っている場合ではありません! 変身行きますよ!?」

悠那
 「ち、メイクアップ!」

悠那は改めて支給された白のソウルリンクスマホの表面を指でなぞると、ソウルリンクスマホが悠那の内側の潜むポケモンのソウルを認識する。
悠那の身体が光りに包まれると、真っ黒なドレスに包まれた三つ首と四枚の翼、大きな尻尾を持つ異形のサザンドラ少女へと変身を遂げた。
それは、両手に龍の頭を模したパペットを持っているようにも見え、逆光を浴びればヤマタノオロチにも見えるシルエットを持っている。

悠那
 (姫野のヤツ、出現前に変身した!?)

今朝琉生の神憑りの話題が出てきた事を思い出す。
冗談抜きに、琉生は悠那の持ち得ない才能を持っているのかもしれない。

琉生
 「はぁ!!」

オオタチをドレス化したようなオオタチ少女の琉生は自身の体長の半分を占める大きな尻尾を振り上げ、αの群れを薙ぎ払った。

悠那
 (戦い方は直線的で野蛮、だけどあの少女が、ここまで戦える?)

悠那は疑問に思った。
琉生は極めて大人しい子だ。
自分がいくら突っかかっても、彼女は無言でスルーする。
パッと見は人生の落語者、アリアや明日花と仲が良いと言っても、琉生は少し距離を置いているようにさえ見える。
だけど、ゲシュペンストを狩っていく様は実に生き生きしている。
まるで人が変わったように。

悠那
 「ち!? 考えるよりゲシュペンストの殲滅が先だぞ、悠那!」

悠那は琉生から思考をゲシュペンストに変え、竜の波動を両手から放った。
竜の波動は機動力の低いゲシュペンストαを安全の殲滅出来る。

明日花
 「畜生、飛びながら攻撃できるって良いよな〜!」

そう言ってアリアを背にして戦う明日花は電撃を放つ。

アリア
 「個性には得手不得手がありますが、あれが彼女の個性ですからね!」

アリアは背中を明日花に任せ、サイコキネシスで自分の見える範囲の相手を圧縮粉砕する。
ゴローニャ少女の明日花とゴチルゼル少女のアリア、二人は琉生や悠那には劣るかもしれないが、息の合ったコンビプレイで戦っている。

アリア
 「増援来ます! ゲシュペンストβです!」

アリアはゴチルゼルの能力で未来を透視し、ゲシュペンストの出現を予告した。
悠那と明日花はその言葉に警戒する。
ゲシュペンストβは雑兵と違い、ポケモン少女に匹敵する力がある。
事実悠那にとっては憎き相手だ。
一方で琉生は?


 「ウフフ♪」

琉生
 (誰!?)

声が聞こえた。
オオタチの声ではない。
オオタチのソウルは声を無視して、ゲシュペンストに憎悪を向け続けている。
そして声はオオタチは聞こえていないのか?


 「ソレガアナタノホントウノスガタナノネ?」

琉生
 「何を言っている!?」

悠那
 「姫野……?」

琉生は何を叫んでいる?
全員が琉生を訝しんだ。
直後、琉生の目の前にゲシュペンストβが現れた。
下半身はスライム状で上半身は人型の目を持たぬゲシュペンストβは大きな右手の鉤爪を持ち上げる。
それを琉生に振り降ろそうと。

明日花
 「琉生! 避けろ!!」

琉生
 「ッ!」

ゲシュペンストβ
 「!!」

ゲシュペンストβが鉤爪を振り下ろす!
しかし、琉生は当たる直前で残像を出した。
琉生の高速移動だ、琉生はゲシュペンストβの頭上からそれを睨みつけた。

琉生
 「はぁ!」

そしてその巨大な尻尾をゲシュペンストβの頭上から叩きつける!

ズドォン!!

愚直でシンプルな一撃だが、その分威力は絶大だ。
アスファルトの地面を砕く一撃は、ゲシュペンストβを粉砕した。
たった一撃。
時間にすれば、ほんの数秒でゲシュペンストβは排除されたのだ。


 「キャキャ♪」

琉生
 「く……!?」

声は依然として消えない。
しかもこの声、どうやら琉生以外には聞こえないようなのだ。
琉生は周囲に注意深く目配せをした。
オオタチ少女に変身した琉生は、高い動体視力と観察力を得ている。
これはオオタチがそういう警戒能力を持つポケモンだから、与えられた能力であろう。

アリア
 「よし、増援はもう無さそうです! αを掃討しましょう!」

アリアはブレインのように立ち振舞い、そう皆に指示した。
しかし、その直後地表を撫でる熱波がαを薙ぎ払った。


 「助けにきた」

夢生
 「皆、大丈夫!?」

街の方から飛来したのはウルガモス少女の燈とエアームド少女の夢生だ。
燈はゲシュペンストの群れを見つけると、羽から熱風を放ち、αだけを正確に焼き払ったのだ。

アリア
 「こっちは大丈夫ですわ!」

明日花
 「まっ、アタシ達だけでも大丈夫だったけどな!」

燈と夢生は皆の元に飛来すると、着陸した。
本来なら和気藹々となる所だが……。

琉生
 「一体誰……?」

夢生
 「るーちゃん、どうしたビュン?」

琉生が異常だった。
また暴走しているのか?
一行は警戒をするが、どうもそうではないようなのだ。
琉生は確かに心そこに在らずだが、暴走している雰囲気ではない。
琉生は変身すると、興奮してしまう癖がある。
そのお陰で、本来華奢で大人しい少女が戦えるのだが。
しかし、アリアや明日花でさえ、この琉生の様子は初めての光景だった。

琉生
 「姿を見せて! さっきからずっとなんなの!?」

悠那
 「姫野……?」


 「クスクス♪ ウン♪ イマイクネ、オネエチャン♪」

琉生は空を見上げた。
そう、ゲシュペンストを感じ取った時のように。
だが、あれは本当にゲシュペンストを知覚して行った行為か?
実際は『ソレ』を見たからじゃないか?

空に光が集まった。
光の粒子は次第に人の形を型作る。
琉生はそれを睨みつけた。
本能的に分かったのだ、それが声の正体なのだと。

やがて、光は徐々に失せると、空に少女が浮かんでいた。
肌色に近いピンクのドレスに身を包んだ少女は、まるで胎児のように丸まっており、やがて目を開くと琉生に向かって落下を始める。


 「キャキャ♪」

琉生
 「なっ!?」

琉生は慌てて、その少女を抱きかかえた。
少女は小さく小学生低学年を思わせた。
ピンクの髪は短髪で、長い尻尾が生えている。


 「おねーちゃん♪ 会いたかった♪」

悠那
 「な、なに……突然空から」

明日花
 「親方! 空から女の子が!?」

アリア
 「ボケている場合じゃないですわ、琉生さん、その子は?」

琉生
 「その子は……と、言われても……」

琉生自身それが分かる訳がない。
全くの初対面なのだ。
だが、この少女の声には覚えがある。
今日一日、ずっと見られていた気がした。
そう、この少女に見られていたのだ。

琉生
 「貴方は誰?」

少女
 「貴方は誰?」

オウム返しだった。
言葉の意味を理解していないのか?
しかし少女は「キャキャ♪」と笑いながら、琉生の胸に顔を埋める。

夢生
 「すごく懐いているビュン」


 「まさか、隠し子?」

悠那
 「いやいや、あり得ないでしょ!」

随分物議を醸し出す謎の少女だが、一行はとりあえずやるべきことを熟すことにした。
変身を解いたアリアは、すぐにスマホから上に報告を行った。
ゲシュペンストを常に監視しているポケモン少女管理局だ、すぐにでも諜報部の職員を送ってくるだろう。

琉生はとりあえず、少女の様子を見て落ち着くと、変身を解除した。
しかし、少女が不思議そうに見上げる。

少女
 「あれ? 変わっちゃうの?」

琉生
 「何を言ってるの? これが本来の私」

少女
 「これが……本来の私……」

少女が復唱した。
何を考えているのか全く分からないが、少女は琉生から離れると、その姿を変化させた。

少女
 「じゃあ、ミュウも!」

琉生
 「ミュウ?」

ミュウという少女は変身を解くと、琉生の腰辺りまでしか身長のない少女だった。
服装も真っ白なワンピースを着ただけの簡素なもの。
少女は再びにこやかに笑うと。

少女
 「ミュー! ミュミュー! ミューミュー!」

そう言って嬉しそうにその場を駆け回った。
なんだか、和やかな光景だが、この少女は何者だろう。

明日花
 「ん? ちょっと待て、この子靴履いてないぞ!?」

アリア
 「え? 大変! 足を怪我しますわ!」

少女は靴はおろか、靴下も履いていない。
慌てて取り押さえようとするが、一足先に『彼女』が、少女の首を掴んだ。

真希
 「こらこら、ちょっと落ち着きなさい」

3年、諜報部のエース、アギルダー少女の藤原真希はいつものスーツ姿で少女を優しく抱きかかえた。
少女は不思議そうに真希の顔を見上げた。

アリア
 「藤原先輩お疲れ様です」

真希
 「ん、現場確認に移るけど、この子は?」

少女
 「ミュ?」

琉生
 「その、よく分からないけど、ポケモン少女みたいです」

少女
 「ミュー♪」

少女は琉生に飛びついた。
琉生は困り顔だが、それを受け止める。

真希
 「こんな小さなポケモン少女は例にないわね……愛より小さいじゃない」

愛が聞いたら激怒しそうな事を呟く真希だが、未発見のポケモン少女に違いはない。

真希
 「キミ、お名前はなにかな?」

真希は少女の目線まで顔を下げると、優しく聞いた。
少女は真希の顔をジーッと見つめると。

少女
 「ミュウ! これなに!? これなに!?」

そう言って少女は真希の眼鏡を強奪した。

真希
 「あ、ちょっと!?」

慌てて取り返そうとするが、少女はそれを振り回し、付けたり投げたりやりたい放題だ。

琉生
 「駄目、眼鏡、返すの」

琉生は少しだけ怖い顔をして少女に言うと、少女はシュンとした。

少女
 「ミュ〜……」

少女は眼鏡を真希に返した。
どうやら琉生に怒られた事が、よっぽどショックだったらしい。
少女は琉生にしがみついたまま、泣いてしまった。

真希
 「あー、えーと私怒ってないからね? だから泣き止んで?」

子供慣れしている真希でも、この子は例外だろう。
愛ならば、難なく熟すのだろうか?
真希もタジタジだった。

それに堪らずため息を吐いたのは悠那だった。

悠那
 「アンタ、随分自由だけど、いい加減答えたらどう?」

悠那は高圧的に胸を持ち上げて、少女に言った。
少女は怯えて、更に琉生に強くしがみつく。
当然その対応は周囲からは非難轟々である。

明日花
 「ないわ〜」

アリア
 「怯えさせてどうするんですの……」


 「デデーン、悠那、アウトー」

悠那
 「外野は黙ってなさい! 姫野!? アンタもそういう態度だから、その子供をつけあがらせるのよ!?」

琉生
 「っ!?」

これは私の責任だろうか、琉生は胸を打った。
謎の少女はずっと琉生に抱きついたままだ。
それを跳ね飛ばすのは簡単な事だ、だが琉生はそれをしなかった。
何故か、その少女を強く突っ張れなかったのだ。

琉生
 「いい? 人が嫌がることしちゃだめ、解かった?」

少女
 「ミュ〜……ごめんなさい」

琉生は敢えて、そうやって少女を諭すと、少女は素直に頷いた。
それを見て、琉生は優しく少女の頭を撫でた。

琉生
 「良い子、お名前はなぁに?」

優しい口調だった。
母性を開花させたように、琉生は少女の頭を優しく撫で続ける。
少女は嬉しそうに目を細めた。

少女
 「ミュウ、ミュウはミュウなの〜」

真希
 「ミュウちゃんね、名前よね? 性は分かる?」

ミュウ
 「ミュ〜?」

少女は理解していないのか、首を傾げた。
ミュウと名乗る少女、何故琉生にこれほどまで懐いているのか?
正体不明のポケモン少女は、一体何者なのか?



***




 「はぁ〜、この子がミュウちゃんですか〜」

程なくして、琉生達1年生は学園に帰ってきた。
真希の指示は、愛に任せろとの事で、ミュウは連れ帰った。
ミュウは愛の顔をじっと見つめた。
対する愛は優しく微笑んでいる。

ミュウ
 「ミュ〜?」


 「ウフフ♪」

明日花
 「愛ちゃん先輩本気パネェ〜、初対面の子供も余裕の対応」

アリア
 「あの年頃の子は、私達高校生には難敵ですからね……」

愛は元々子供にも馴れている。
ボランティア活動が半ば生き甲斐のような愛にとって、このような相手も問題ではないのだ。
改めて、高校生というか、お母さんといった感じだ。
一方で同じくあんまり高校生っぽくはない悠那は琉生と向かい合っていた。
勿論内容はミュウについてだ。

悠那
 「で、あの子はアンタの何なの?」

琉生
 「分からない……会うのも初めてだし」

夢生
 「その割には、琉生ちゃんも優しかったよね〜」

琉生が性根から善人なのは、誰もが認める所だが、しかしあのミュウという少女には、なにか別の優しさを感じたのだ。

琉生
 「何故か、放っておけない……」

夢生
 「まぁ、放っておけないって言うのは、分かるよね」


 「何しでかすか分からない子供程怖い物はない」

燈の意見も最もだ。
だが、悠那の見解は違う。
悠那が琉生に感じたのは母性だ。

悠那
 「妹、或いは隠し子って感じね」

琉生
 「私の年齢であの子供は無理がある」


 「うん、それは分かる、けど」

琉生
 「分かってる、でもあの子に不思議な感覚があるの」

琉生が感じた物、それは不確かな物だ。
それは母性なのか、それとも違う物なのか。
ミュウが琉生に向ける感情は、非常に子供的だ。
ミュウは琉生をまるで母親に接するように甘え、そして慕っている。
初対面でこうなる筈はない、一体如何なる関係なのか。
琉生はミュウを横目で見た。
今は愛が応対しており、ミュウは不思議そうに首を傾げている。


 「ミュウちゃんは何処から来たのですか〜?」

ミュウ
 「ミュー」


 「ミューですかー」

明日花
 「いやいや愛ちゃん先輩!? それ明らかに住所とかじゃないっすよ!?」


 「うふふ〜、良いんです♪ せっかちにならなくても」

夢生
 「愛ちゃん先輩に全て任せるべきビュンね」

ミュウ
 「ミュ〜……」

ミュウはなんだか困ったように蹲った。
「あらあら」と愛は急いでミュウに駆け寄った。


 「ミュウちゃん? 大丈夫ですか?」

ミュウ
 「ミュウはミュウ……何処から来て、何処に行く?」


 「え?」

琉生
 「ッ!?」

何処から来て、何処へ行く?
その言葉が何故か琉生に突き刺さった。
大して意味のない言葉の筈なのに、まるでそれがミュウの運命を表すようで、琉生は狼狽したのだ。

ミュウ
 「んん〜……ミュウー!! お姉ちゃん!!」

突然、ミュウは癇癪を起こすように叫ぶと、琉生に飛びついた。
琉生は、驚くも、それを優しい表情で受け止めた。

琉生
 「どうしたの?」

ミュウ
 「ミュウ〜、ミュウーミュウー」

ミュウは何度も琉生の胸に顔を埋めた。
まるで親の愛情をせびるように、そして琉生もそれを許してしまう。

悠那
 「やっぱり親子にしか見えないわね……」


 「絶対にありえないって、矛盾してるのにね」

アリア
 「或いは、それが母性なのかも……」



ポケモンヒロインガールズ

SP02 完。

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/07/10(金) 13:24 )