ポケモンヒロインガールズ





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PHG スペシャル
SP01

ここは少し未来の日本。
だけど、未来と言っても、そこは少し不思議な未来。
ポケモン少女と呼ばれる大体14〜18歳の少女たちにポケットモンスター……縮めてポケモン。
その魂が宿り、少女たちはポケモン少女に変身するのだ。

これはそんなポケモンヒロインガールズたちの物語である。



ポケモンヒロインガールズ スペシャル

『禁断のヒロイン!? の巻』



ポケモン少女管理局関東支部。
対ゲシュペンスト戦における最前線支部はいつものように朝を迎えていた。
ポケモン少女たちが普段寝泊まりする学生寮にはお馴染みの顔が集まりつつある。

夢生
 「文化祭かぁ〜」

江道夢生はテレビに映るニュースが今文化祭で各地が盛り上がっているのを知ると、ため息を零した。

アリア
 「もうそういうシーズンですか、まぁ私達には関係ありませんが」

藤堂アリアは食パンにジャムを塗りながら、そう言った。
ポケモン少女学園は、学園とはいうが実態は秘密組織のような物だ。
秘密組織と言っても正義の秘密組織だが、ポケモン少女の保護を前提に一般人は玄関を跨ぐことも許されていない。
極めて厳重な保護だが、アリアもその理由全てを知っている訳ではない。
恐らく彼女たちの先生、友井愛でも知らないだろう。

夢生
 「むう〜! 夢生ももっと学生的イベントを楽しみたいビュン〜!」

明日花
 「学生イベントねぇ?」

夢生はアリアからジャムの瓶を引っ手繰ると、大量に塗りつけながらそう言った。
夢生の気持ちも分からなくもないのか、宝城明日花は相槌を打つが、その検討はこれと言ってつかない。
そもそも明日花は体育祭の方が好みだし、文化系イベントはあまり興味もないのだ。

夢生
 「るーちゃん、何かいい案ない〜?」

そう言って急に話を振られたのは姫野琉生だ。
琉生はボーっとしていたのかキョトンとしていた。
相変わらず独自の時間を生きているというか、未だに歩調が合わない琉生に夢生もため息を吐くしかなかった。

琉生
 「えと、ごめん。聞いてなかった」

夢生
 「はぁ……もういいビュン」

琉生
 「え? でも……」

明日花
 「夢生がもういいって言ってんだから、もういいだろう? それより今日はどうした? いつもの神憑り?」

琉生
 「いつものって……」

悠那
 「神憑りって、アンタ、イタコかなんか?」


 「キエー! って言うの?」

そこへ洗面台を使っていた二人が現れる。
まだ転校して間もない八神悠那と古代燈だ。
燈はまだ眠たいのか目をゴシゴシしており、悠那は疲れたように自分の席に座った。

悠那
 「たまに燈は寝坊するから、たまったものじゃないわ……」

そういう自堕落が大っ嫌いな悠那は、殊の外大真面目に燈を起こして、洗面台に連れて行き、顔を洗わせるのだから、大した世話好きである。

悠那
 「それで神憑りって?」

琉生
 「そ、そんなのないから!」

琉生は顔を真っ赤にして否定するが、明日花達からすれば琉生も大概の不思議ちゃんである。
彼女に宿るポケモンのソウルの名前はオオタチ、それと彼女は頻繁に交信しているらしく、1年でも断トツのシンクロ率を叩き出す琉生は時折突飛な行動をする事で知られていた。
内なるソウルと度々会話する姿は紛れもなく神憑りだろう。

琉生
 「ただ、本当に呆っとしていただけだから」

琉生は本当にただ普通に無口になることは本当に多い。
慣れた1年生の中にいても、琉生はふと気がつけば人形のようにチョコンと座っている等日常茶飯事なのだ。

明日花
 「悠那ってしっかりしてるよなぁ」

悠那
 「逆にアンタはだらし無いだけよ、いい加減高校生なんだから、授業で巫山戯ないの!」

明日花
 「ちぇ! 説教は勘弁だぜ!」

悠那は良く言えば優等生だが、悪く言えば孤高だ。
面倒見は良いが、彼女自身プライドも高く、良くも悪くも浮いている。

夢生
 「あかりんジャムどうぞ♪」


 「ん、ありがとう夢生」

一方でこっちは少々我が道を行くタイプではあるが、早々に馴染んだものだ。
特に夢生と燈は仲がよく、まるで姉妹のようだ。

アリア
 「悠那さんは?」

悠那
 「バターだけで良いわ」

悠那はそう言うと、バターを食パンに塗ると、口に運んだ。

琉生
 「大人っぽい……」

悠那
 「は? 高校生はもう大人でしょう?」

アリア
 「まぁある意味では」

今は高校生が犯罪を犯せば実名報道される時代だ。
そういう意味では高校生はもう無責任ではない。
悠那程自覚が強い子も珍しいだろうが、同時に彼女は子供らしく遊びたいとは思わないのだろうか?

琉生
 (大人……か、私もいつか大人になっちゃうだよね)

琉生はその時何を思ったのだろうか。
ただ大人になった自分だろうか。
琉生はまだ自分を子供だと思っている。
それは大人に対する怯えかもしれない。



***



学園はいつも通りだ。
ある意味で何にも左右されることなく、学園は運営されていく。
校舎に対しては異様に少ない生徒の数、しかしそれも馴れてしまえばそれほど不思議でもない。

明日花
 「今日の予定ってどうなってたっけ?」

アリア
 「午前中巡回だったはず」

明日花
 「おっしゃ! ちょっとやる気出た!」

夢生
 「あすちん、本当に座学嫌いビュンね〜」

明日花
 「だって、ずっと聞いてたら眠くなるじゃん!」


 「その気持ち、少し分かる」

悠那
 「燈……あの馬鹿のようになっては駄目よ?」


 「大丈夫、少なくとも筋肉重視にはならない」

等と、他愛のない会話をしながら教室に向かう一年生達。
色々言われたい放題の明日花は一番乗りで教室へ飛び込むと、その後ろを他の生徒達も続いた。
一番後ろを歩く琉生はそんな同級生達を見ながら、教室の扉に手を掛けた時。


 「クスクス」

琉生
 「え? 誰?」

琉生は突然聞き覚えのない笑い声に足を止めた。
通路は一直線で、声は響きやすいがそこには誰もいない。
一体誰の声だ?
琉生は訝しむが、答えは出てこない。
オオタチの声? いや違う。
オオタチの声は魂に直接響く、耳を使うとかそういう次元じゃない。
ならば幻聴……あるいは?

琉生
 (本当に、神憑ってる?)

馬鹿な、そうは思うが否定する材料も琉生にはない。
琉生自身霊感があったりする方ではないが、だからといってオカルトは肯定も否定も出来ないのだ。
やがて入り口前で、そうやって逡巡していると中から琉生を呼ぶ声が。

アリア
 「どうしました? 外に何かあるのですか?」

琉生
 「あ、ううん……なんでもない」

琉生はやがて、あの不思議な声を幻聴だと切り捨てた。
最近ちょっと疲れているのだ。
学園生活は楽しいけれど、必然的に小柄で体力もない琉生は疲労が隠せない。
夢生程元気ならば、結果も違うだろうけれど、琉生はこの中では一番の虚弱なのだ。

悠那
 「早く入ってきなさい、遠慮する理由は無い筈でしょ?」

周りから一番孤立している張本人に言われれば、ぐうの音も出ない。
琉生は頷くと、素直に教室に入った。




 「クスクス、ミツケタ♪」

しかし例え見えなくても、例え優れた知覚を有していても、その存在を正しく認識できるだろうか?
琉生が聞いた声は、すぐ近く存在している。
それが何を意味しているのか、それを琉生達は知らないだけだ。



***




 「はーい♪ 皆さんおはようございます〜♪」

琉生達が教室で談話しながら5分も経つと、1年生の担任を務める3年の友井愛はいつものタブレット端末を脇に抱え、満面の笑みを浮かべて教室に入ってきた。

夢生
 「愛ちゃん先輩おはようございますびゅん♪」

明日花
 「おはよーす!」


 「うんうん♪ 今日も皆元気、私も嬉しいです♪」

愛は嬉しそうに頷くと、教壇に登りいつものようにホームルームを開始する。


 「今日は午前中パトロールがあります。詳しい詳細はスマホの方に転送しますが、必ず一人にはならないこと、事件があっても絶対に自分たちだけで解決しようとしないこと。もう耳に蛸が出来るお話かとは思いますが、必ず厳守をお願いします」

最初は不慣れだった一年生達も一学期も過ぎると大分頼もしくなっている。
だが、それでも一年生だ。
特にここ最近は不穏で、ゲシュペンストの出現率も上がっている。
ゲシュペンストの危険性は言わずもがな、琉生達は戦い馴れてはいるが、常に安定した対処は誰にも望めないのだ。
特に愛が危惧するのはγタイプが出てきた時だ。


 「特に琉生ちゃん、悠那ちゃんは絶対に一人にならないでくださいね?」

琉生
 「え? わ、私も?」

まさかの指名に琉生は目を丸くして驚いた。
しかし愛からすれば一番心配なのは間違いなく琉生なのだ。
一見猪突猛進気味だが、明日花は基本臆病で、自分から積極的に事件に突っ込むタイプではないが、逆に琉生は普段のお人形のような物静かさとは裏腹に、事件が起きると暴走しがちである。
本人なりの強い正義感を愛は称賛こそするが、無理を無理と思わない所がある琉生は本当にいつ不運がやってくるか、気が気でないのだ。
特にここずっと、琉生は放課後に身体を鍛えていた。
増長するタイプとは思えないが、過信はしてほしくないのだ。

悠那
 「私の信用が無いのはなんでなのかしら?」

一方悠那は不服そうに胸元で腕を組むと、そう抗議した。
しかしそれに失笑したのは明日花だ。

明日花
 「ちょ、おま……、まだ素行に信用あると思ってたのか?」

悠那
 「く……馬鹿に笑われると屈辱ね……」

明日花
 「ちょ!? 馬鹿って!?」

夢生
 「あすちんは馬鹿だけど、学習能力はある方ビュン!」

アリア
 「ば、馬鹿であることは肯定するんですね……」


 「はいはーい! お静かに! 静かになれないなら怒りますよ〜プンプン!」

愛は少し怒った振りをすると、一年生達は口を噤んだ。
愛は改めて悠那と向き合うと真剣な、少し悲しそうな顔でその理由を述べる。


 「確かに悠那ちゃんは、成績も素晴らしいですが、同時にとても強い正義感がありますよね? 私はそれが心配なのです、悠那ちゃんは絶対に無茶をしちゃうタイプじゃないかって……」

悠那
 「……ようするに姫野琉生と同類扱い、か」

琉生
 「……っ」

琉生と悠那は対極の存在に思えるが、その芯はとても似ている。
琉生の孤独と悠那の孤高はある側面から見れば同じ意味を持つ。
この二人は、本質で同じ正義を抱える似た者なのだ。


 「はい、それじゃスマホ送信しましたので、巡回ルートを確認してください、ホームルームはこれで終わりにします」

愛はそう言うと教室を出ていった。
ポケモン少女のパトロールは警察と共同で行う。
ポケモン少女は鍛えられた警察官を圧倒出来る程の力がある。
そのため、このある意味で奉仕活動は、それなりに社会に意味があるのだ。


 「誰と組む?」

夢生
 「あかりん夢生と一緒に行くビュン!」


 「うん、良いよ夢生」

相変わらず波長が合うのか姉妹のように仲の良い夢生と燈が早速ペアを決めると、明日花はアリアを見た。

明日花
 「アリア、一緒に行くか」

アリア
 「え? しかし……」

明日花
 「言うな、察しろ」

アリア
 「アッハイ、そうですね……」

アリアは首を振った。
最初琉生を放置するのは不味いのではないかと考えたが、その場合結局どちらかが悠那と組まないといけないのだ。
特に明日花は悠那を苦手としているし、アリアもまだ悠那は苦手だった。

アリア
 「でも良いんでしょうか?」

明日花
 「逆に考えろ、暴走した琉生を止められるのは八神だけだと」

アリアはその言葉に、あの琉生と悠那がダイマックスと呼ばれる現象を起こした日を思い出した。
あの日は特に琉生は神憑っていた。
アリアの静止など露とも聞かず、ただ暴走する琉生を止められなかった。
万が一を想定すると、アリアは自分の役不足を痛感するのだった。

悠那
 「こういう時、偶数って助かるわね……」

琉生
 「少しだけ分かるわ」

お互いは大凡の人となりを自覚しており、まぁ1クラスに一人はいる孤立するタイプなのを知っていた。
事実人付き合いの極端に悪い琉生も、孤高過ぎて誰も寄せ付けなかった悠那も中学時代にグループを作る際の苦い思い出がある。

悠那
 「はぁ、何か不味い事があるなら言いなさいよ?」

琉生
 「え?」

悠那
 「え? じゃ、ないわよ……こっちは従順でなければいけない理由があるの、アンタの気の迷いにイチイチ付き合いたくないのよ」

琉生
 「う……善処する」

気の迷い、琉生はそれを自覚している。
オオタチの強い憎悪に当てられた琉生は自分をコントロール出来ない所があり、それが原因でゲシュペンスト戦で無茶をしがちなのだ。
愛が絶対に一人になるなと言ったのは、それを危惧するからこそだった。

アリア
 「皆さん、巡回エリアと最適なルートは組みましたので、送信しますね」

アリアはそう言うとスマホを弄り、それぞれの巡回ルートを作成した。
それを見たそれぞれは納得し、教室を出ていった。

夢生
 「あかりん、頑張ろうね♪」


 「うん、頑張る……♪」

明日花
 「まぁ、今更だよな」

アリア
 「慢心せず報連相は忘れずに」

それぞれが教室を出ていく。
最後に琉生は悠那を見た。
悠那は琉生にあまり良くない感情があるだろう。
それは琉生には無縁過ぎて、対処の仕方が分からない困った問題だ。

悠那
 「なに? なにか言いたい事があるの?」

琉生
 「別に……」

言えない、その態度は悠那が容易に推測できる物であった。

悠那
 (なぜ、こんな子に私は負けたのか……?)

琉生
 (どうして私にそんなに拘るんだろう……?)

それでも琉生は琉生なりに頑張った。
こんな無愛想な悠那とも仲良くなろうと。
そしてこんな臆病で情けない琉生と、決して敵対だけではない、同じ学友として認めようと努力している。

二人は誰から先でもなく教室を出て、街へ繰り出すのだった。



ポケモンヒロインガールズ

SP01 完。

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/07/03(金) 23:28 )