ポケモンヒロインガールズ





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第三部 ネクストワールド編
第55話 ニンフィア少女友井愛

第55話 ニンフィア少女友井愛



ポケモン少女管理局のある旧い校舎の裏山、そこに西洋人形めいた銀髪の少女と、全身漆黒の少女が訪れていた。
銀髪の少女姫野琉生は必死にある存在に呼びかけた。

琉生
 「愛先輩ー! どこですかー!?」

しかし、琉生の叫びに応えてくれるものはいなかった。
琉生は気を落とすと、漆黒の少女デルタは目を瞑り、何かを感じ取っていた。

デルタ
 「この辺りにニンフィアの存在は確認できない」

琉生
 「そんな、それじゃあどこに行ったの……?」

琉生はあのニンフィアと化してしまった愛が心配で心配で、胸を締め付ける程だった。
ゲシュペンスト界に僅かに訪れただけで、世界はあっという間に二週間が経ち、場所もここから大きく離れた場所に出た時は本当に度肝を抜いたものだ。
だがその二週間は致命的だった。
あの神成依乃里が、ユクシー少女が黙ってニンフィアを見逃すだろうか?
いや、ありえない……だからこそ琉生は心が折れそうなど程の絶望を味わう。

琉生
 「ねぇデルタ!? ニンフィアの居場所は解らない!?」

琉生は必死だった、デルタは友達の力にはなりたいが、残念ながらそれは簡単ではないぞ。

デルタ
 「……ニンフィアの個体認識はある程度距離を近づける必要がある。そしてこれは可能性の一つだが、既にニンフィアがこの世界にいない可能性が」

琉生
 「やめて!?」

琉生は頭を抱えて首を振った。
そう、あくまで可能性だがあり得るのだ。
あの冷酷なユクシー少女ならば、その選択は可能性としてあり得るのだ。
しかしそんな事考えたくはない、琉生はただ愛の無事を祈るしかないのか?


 「帰ってきたんだね……」

琉生は後ろを振り返る。
そこにはあの優しい顔をした一ノ瀬純が立っていた。
ポケモン少女管理局の局長は琉生達を見つけると微笑んだ。

琉生
 「局長さん……?」


 「琉生ちゃん、愛ちゃんはまだ無事だよ」

純は愛の居場所を知っていた。
それを聞いた琉生は顔色をはっきり変えると。

琉生
 「それは! どこに!?」



***



友井愛ことニンフィアはとあるビルの透明な強化ガラスで全面を覆われた部屋に監禁されていた。
ニンフィアは不安そうに顔を上げながら、ゆらりと二本の長いリボンのような触覚を揺らす。
あの依乃里も鬼ではなかったが、かといってニンフィアを放置する訳もなく、激しい抵抗を試みたが、あえなくお縄にかかったという訳だ。

ニンフィア
 「フィ……」

ニンフィアは小さな声で鳴いた。
それはまるで誰かを待ち構えるように。

そしてそんなニンフィアのいるビルに琉生は純に案内された。

琉生
 「愛先輩を返して!」

琉生は会口一番そう言った。
目を瞑ったまま、波風さえも立てない神成依乃里は「はぁ」と溜息を吐くと、琉生にバッサリ拒絶を表す。

依乃里
 「許可出来ない、ていうかなんでアンタがここにいるのよ?」

デルタ
 「お前の上司が教えてくれたぞ?」

依乃里は純の仕業かと知ると、相手が相手なだけに怒ることが出来ずぷるぷると震えていた。
因みに純は近くまで案内すると説得は任せたと、その場を去っていた。
恐らく遊びに行ったな、依乃里はありありとそんな純の姿を思い浮かべた。

依乃里
 「……兎に角、ニンフィアは渡さない」

琉生
 「……仕方がない」

聞き分けがいい? 依乃里は琉生の態度に訝しむ。
だが、ここまで執念で追ってきた女が、その程度で折れるものか?
そんな筈はない、琉生はソウルリンクスマートフォンを取り出した。

琉生
 「なら力づくでいく!」

依乃里
 「アンタまで脳筋万歳になってどうする!? それ没収!」

依乃里は素早くサイコキネシスで琉生のソウルリンクスマホを強奪する。
これで変身は出来ないだろう、てかなんでいきなりギャグみたいな展開になってんだと依乃里は神に突っ込んだ。

琉生
 「うう、決着さえもつけさせないのか……」

姫野琉生ってそんなの戦闘狂だったか?
依乃里はますますこの少女が分からなくなっていた。
戦闘狂かと言われれば、琉生はそうではない。
だが手段がなければ死物狂いになるのは琉生とて当然だった。

琉生
 「はぁ……穏便にいきたかったのに」

琉生はそう言うと、目を赤く輝かせた。
依乃里は馬鹿なと驚愕する、人間の状態でだと……!?
だが忘れてはならない、この少女は暴走状態でさえコントロールする上、彼女は原初のポケモン少女さえ内なる神として共存していることを!
神は、グレイシア少女はコクリと頷いた。
琉生は依乃里の目の前で変身を始める。
少女の肉体を分解し、ポケモン少女の身体へと再融合させ、そこにはオオタチ少女が立っていた。

依乃里
 「嘘でしょう!? 補助無しで変身ですって!?」

琉生
 「やるよ、オオタチさん!」

琉生はオオタチにいつもように語りかけた。
相変わらずオオタチはポケモン相手にはまるで興味を示さないが、構わず琉生は踏み込んだ。

琉生
 「はぁ!」

依乃里
 「ふざ、けるなぁ!?」

依乃里は咄嗟に琉生のパンチを回避する。
しかしその距離はやばい、琉生は更に踏み込み、詠春拳の距離に持ち込んだ!

琉生
 「やあ!」

琉生はコンパクトな掌打を依乃里に連続で放つ。
依乃里は必死にそれを回避するが、琉生は徐々にその回転を上げていく!

琉生
 「てい!!」

ズドン! 琉生は強く地面に踏み込むと、リノリウムの床が陥没した!?
琉生は震脚を踏み、肩から依乃里にぶつかった!
依乃里は避けきれず、その直撃を受けてしまう!

依乃里
 「あう!? この! そっちがその気なら!」

弾き飛ばされた依乃里はサイコキネシスを琉生に放った。
琉生はふううと息を吐くと、依乃里だけを見定めた。
依乃里はそんな琉生に恐怖した、一戦する度に強くなる琉生は、もう依乃里さえも越えるのか!?

琉生
 「ッ!」

琉生は次の瞬間、残像が出る程のスピードで目の前から消えた。
依乃里は第六感から琉生の動きを予測するが、琉生は既に依乃里の後ろをとっていた。

琉生
 「取った!」

琉生の裏拳は依乃里の顔面で寸止めされる。
依乃里は、冷や汗を流すと、もうこの少女が誰にも止められないのだと理解した。

デルタ
 「ニンフィアを認識。地下だ、床を壊して構わないか?」

デルタは琉生が戦っている間、ニンフィアの正確な物理座標さえ割り出していた。
つくづく無茶苦茶な二人がタッグを組んだものだ。

琉生
 「もう一度言う。愛先輩を返して」

琉生はある意味脅すように依乃里にもう一度交渉を持ちかけた。
ニンフィア……その存在が一体どれだけのポケモン少女を絶望させるだろう?
皆いつかはポケモンに食われる、依乃里とて例外ではない。
原初のグレイシア少女でさえ、グレイシアに食われたのだ。

依乃里
 「……これだけ答えて、怖くないの? 貴方もいつかオオタチに食われるのよ?」

琉生
 「怖いわ……でもその時はその時……それにオオタチさんの事は信じてる」

依乃里はもう、琉生に抗う気力は沸かない。
琉生はそんなに強い子じゃない。それでもこの子の勇気は、まるで蛮勇なのに。どうしてここまで来てしまったのだろう。

依乃里
 「持っていけ……もう、どうでもいい……」

依乃里はそう言うとその場にへたり込んだ。
琉生とデルタは頷きあうと、ニンフィアを奪還するために地下へと向かう。
依乃里は──ユクシーはずっと依乃里の振りをして、必死に人間の振りをし続けてきた。
もう十年になるそれは長過ぎた……。
だけどユクシーは依乃里と約束した、だからユクシーは悔しくて泣き出してしまった。



***



琉生
 「愛先輩!?」

琉生はデルタの案内でビルの地下へと急行する。
透明な強化ガラスに覆われた、まるでショーケースの中のような場所にニンフィアはおり、ニンフィアは愛を見つけると、けたたましく鳴いて駆け寄った。

デルタ
 「……!」

デルタは強化ガラスに手で接触すると、ガラスは音もなくくり抜かれていった。
原理としては、異なる位相空間を連結させて、片方の入口を閉じる事を繰り返して、物質界そのものを削り取ったようだ。
ニンフィアはそんなデルタの作った穴から飛び出すと、琉生に飛びついた。

ニンフィア
 「フィー♪」

ニンフィアは触手を琉生に絡ませ喜んだ。
その元気な姿は琉生をようやくホッとさせた。
相変わらず小さな姿、いやこれを言ったら愛先輩は激おこぷんぷん丸かと、琉生は苦笑する。
ニンフィアも琉生の事は忘れていなかったのだろう、ずいぶん懐かしい臭いというように、何度も身体を琉生に擦りつける。
まるでマーキングだな、だがこれでピースは揃う。

デルタ
 「準備はいいか琉生、分の悪い賭けだぞ」

琉生
 「始めっからそんな勝負でしょ? 愛先輩は取り戻す!」

琉生ははっきりそう告げると、デルタはコクリと頷いた。
デルタは琉生、ニンフィアと共にその世界から消え去ると、再びゲシュペンスト界へと転移を開始。
すると、ニンフィアと琉生から、存在を維持できない同居人たちが飛び出すように分離した。

琉生はニンフィアから飛び出した、小さな少女を見て感激の涙を零した。
しかし同時にその小さな少女は一糸まとわぬ姿であり、琉生は顔を真っ赤に染め上げる。

琉生
 「え? 愛先輩裸!? え?」

グレイシア少女
 「そりゃポケモン基準で考えたら服着てたら不自然でしょ?」

グレイシア少女はそう突っ込むが、一応男性はいないとはいえ、裸を見てもいいものか琉生は逡巡する。
愛の裸にこんなにドキドキするとは琉生は思っていなかったのだ。


 「……ん、ん?」

そんな中、愛はゆっくりと目を開くと上半身を持ち上げる。
琉生は顔面を手で隠し、それは見ないように心掛けた。
貧相なロリっぽい身体とはいえ、愛のすべすべとした肌は間違いなく男子禁制のものであった。


 「は、い? はえ? え? ここは……?」

やがて愛は意識がはっきりしてくると、目をパチクリさせる。
愛は琉生に気付くと驚いた。


 「ええ!? もしかして琉生ちゃん!? ということはここは天国でしょうか!?」

デルタ
 「ここは巡礼旅団の世界だ、天国ではない」


 「あ、貴方は確かゲシュペンストΔさん?」

愛は朧気な記憶からデルタを思い出した。
どうも愛は既に死んだと思っているようで、記憶はニンフィアになる直前で止まっているようだ。

琉生
 「あ、愛先輩お、お久し振りです……」

琉生は顔を真っ赤にして、指の隙間から愛を覗いた。
なんでこんなイケない気持ちにならないといけないのか、琉生は訳もわからず混乱してしまうが、琉生の様子を察した愛は、改めて自分を見た。
一糸まとわぬ姿、それもまるでお風呂上がりのように綺麗な姿は愛もビックリだった。


 「きゃ、きゃあ!? ど、どうして裸なんでしょうかー!? もう色々誰か説明してくださーい!」

普段聡明な愛は胸を隠すと泣き叫ぶようにそう叫んだ。

デルタ
 「これでいいか?」

デルタは愛に手を突き出すと、愛の身体にコールタールのような粘性のある布が張り付く。
全身を覆ったその姿はまるでゲシュペンストのようだ。


 「あ、ありがとうございます……それで、私はどうなっているのでしょうか?」

琉生
 「えと、信じられないかもしれませんけど、愛先輩はまず死んでません、けれど生きているといえるかも少し怪しいんです」


 「え……?」

愛は訳が分からなかった。
だが足元に見覚えのあるポケモンがいる事に気がついた。
それはニンフィアだ、愛はニンフィアを見ると「ひっ!?」と小さな悲鳴を上げて、顔を真っ青にした。


 「わ、私ニンフィアになって……はえ?」

愛は酷く怯え狼狽した、無理もないが完全にニンフィアがトラウマになっていた。
それはそうだ、あの時ニンフィアに肉体を奪われた時は愛の酷い絶叫が今も琉生の耳には残っていた。
それが当事者なら、どんな気持ちかは筆舌に尽くしがたい。

デルタ
 「愛はニンフィアに肉体を奪われた、極論を言えば元の世界に戻ればまたニンフィアだ」


 「そ、そうですか……やっぱり私はもう手遅れなんですねぇ……」

愛は肩を揺らすと泣き出す。
泣いて当然だ、まだ愛だって子供なのだから。
何故世界を護る義務を子供に委ねられなければならないのか。
家族と引き離され、ただ寄る辺のない子供達が共同生活をしながら、危険と隣り合わせで生活する……そんな過酷な人生だ。
愛は先輩の顔が思い出せない、でもきっと先輩達は皆愛と同じ道を辿ったのだなと、聡明な頭脳が余計にそれを弾き出した。

琉生
 「愛先輩、まだです……まだ諦めちゃ駄目です!」


 「る、琉生ちゃん? そ、それってどういう事ですか?」

琉生
 「今ここに愛先輩はいる。ニンフィアと一緒に、もしニンフィアを説得できれば愛先輩は帰ってこれるんです!」


 「え……説得、ですか?」

愛はもう一度ニンフィアを見た。
ニンフィアは大して愛に興味がないのか、むしろ琉生に触手を絡めていた。

琉生
 「ニンフィア、こんなの酷いってのはわかっている。でも愛先輩を返して欲しいの」

ニンフィア
 「フィー?」

ニンフィアは果たして分かっているのか?
ただ、愛はゴクリと喉を鳴らすと、恐る恐るニンフィアに近付いた。
愛は初めて目にする自らの半身に初めて指を触れると、愛はビクンと体を跳ねさせた。


 「あ、暖かい……生きてる」

ニンフィア
 「フィア?」

ニンフィアは愛の顔を見上げた。
愛に少し興味を抱いたようだ。
その雰囲気は、やはりニンフィアにとって愛は受肉の生贄に過ぎなかったのだろうか?

依代は奪ってしまえばもう用済みなのか?
琉生はこれは限りなく分の悪い賭けだと承知している。
だが、愛はニンフィアのソウルに僅かだがこびりついていたのだ。
それが偶然でないのならば、琉生はニンフィアが僅かでも愛を想っている事に賭けたかった。

ニンフィア
 「フィー」

ニンフィアは琉生を見た、琉生は哀しい顔をしている。
次に愛を見た、愛も哀しい顔をしている。
ニンフィアは二人の顔を見て、ニンフィアもなんだか哀しい顔をしてしまった。
愛はニンフィアが怖い、ニンフィアの底知れなさが堪らなく怖い。
だけど愛は強い子だったから、哀しそうなニンフィアを見ると、恐怖を抑えてそっと抱きしめた。


 「ニンフィア……私の半身、どうか私の話を聞いてください」

ニンフィアは愛の顔を見上げると、クンクンと鼻を鳴らした。
やがてニンフィアは愛にそっと、触手を絡ませた。
琉生は少しそんな愛達から離れると、ふとオオタチを見た。
オオタチはなにも言わない、良く言えば物静か、悪く言えば唯我独尊だった。

琉生
 「クス……オオタチ、私達もちょっと話す?」

琉生はオオタチ側に座ると、オオタチは首を持ち上げた。
決して過度に琉生に甘えるような事はしないが、距離を取ろうともしない。
琉生とオオタチは付かず離れずの独特の距離感があった。

琉生はオオタチにそっと触れると、オオタチの柔らかな毛並みを優しく撫でた。
オオタチは目を閉じてまるで寝たフリだ。
琉生はこの毛並みを気に入っている、その大きな尻尾もお気に入りだ。
オオタチのおかげで琉生は変われたのだから、オオタチには感謝している。

愛の方はどうか?
愛はニンフィアを抱きしめながら静かに自分のことを喋っているようだった。


 「私……自分の人生、めちゃくちゃだったけど、後悔はしてない……つもりでした。でもやっぱり割り切れなんて無理でした〜。友達といっぱい別れました。これから素敵なレディになるっていう希望も、潰えましたね……」

ニンフィア
 「フィイ……」

ニンフィアはなんとも言えない表情だった。
哀れんでいる、それとも悲しんでいる?
怒っているような様子ではない、だが共感しているかは怪しいのもそうだ。


 「どうして私はニンフィア少女なんでしょうね……貴方は疫病神ですか〜?」

ギュッと愛はニンフィアを抱く力を強める。
それは痛いという程ではなかったが、愛は震えているのだ。
愛の大きな目から零れ落ちる熱い涙が、ニンフィアの顔を濡らした。
ニンフィアは耳をぴょこぴょこと動かした。


 「ヒック! ごめんなさい、やっぱり嘘ですっ。だってニンフィアさんのおかげで一杯素敵な友達と出会えました。きららちゃん。真希ちゃん。闘子ちゃん。佳奈美ちゃん……」

愛は一人一人、ゆっくりと思い出すように、愛がポケモン少女となってから出会った友達の名前を呟いた。
その数は百人を越えるほど、愛は色んな出会いを、巡り合いを記憶していた。
ぽろぽろ、ぽろぽろと涙は頬を伝い、ニンフィアを塗らす。


 「これで恨めなんてやっぱり無理です。ニンフィアには感謝ですよ……でも、お別れが出来ないなんてやっぱり……ううう」

ニンフィア
 「フィ……イ」

ニンフィアはそんな愛の顔をペロペロ舐め始めた。
愛は驚き、顔を離すが、構わずニンフィアは愛を押し倒してその顔を舐め回す。
その意味がなにしたのか、琉生にはわからなかったが、愛はそれが分かったようだ。


 「ニンフィア……貴方私を慰めてくれるの?」

ニンフィア
 「フィー」

ニンフィアは触手を愛の両手に絡める。
まるで握手のように、そして愛とニンフィアは繋がった。
ニンフィアの身体が黄金に光り出した。

グレイシア少女
 「嘘!? これって!?」


 「あ……ああ!? これ、は!?」

愛はその時ニンフィアの全てが愛の中へと流れ込んでくるのを感じていた。
その奔流は、愛の人格をまるで押し流しそうな勢いで、愛は発狂しかけていた。
しかし自我のほんの僅かな安全地帯に愛は必死にしがみつき、ニンフィアの全てをじっくりと幻視した。
ニンフィアがどんな風に誕生して、そしてニンフィアの生になにがあったのか。
時に外敵と戦い、仲間と身体を抱き合い、そして運命の日を迎えた。
ニンフィアは仲間を護る為に勇敢にゲシュペンストに挑んだが、ゲシュペンストには敵わなかった。
やがてその肉は滅び、魂は次元を彷徨い、愛へと宿る。
愛の中のニンフィアはぼんやりとしており、殆ど外の事は分からない。
だが、愛がニンフィアの全てを受け止める頃にはニンフィアがどう思っていたかが、はっきりとわかった。


 「貴方、も……同じ、だった、の?」

愛は虚ろな目で呟きながら、徐々にその大きな瞳に輝きを取り戻していった。
ニンフィアは元に戻るとぐったりとしていた。


 「そう……もう疲れたのね? そうですよね……私も同じです。私達は同じです……だから、私に引き継がせてください!」

愛はそう言うと立ち上がり、ニンフィアを持ち上げた。
ニンフィアは眠っているのか、ぐったりと身体をチーズのように伸ばしていた。

琉生
 「ねぇ? 今のって?」

デルタ
 「裏返った……ニンフィアが愛を知るために、愛に主導権を返したんだ」

琉生はそれを聞いて感激に涙した。
琉生はすぐさま愛に駆けつけると、愛に抱きついた。

琉生
 「やった! 愛先輩!?」


 「あ、あはは……まだ、ちゃんと戻ってみないと分かりませんよ〜」

デルタ
 「じゃあ戻るぞ?」

グレイシア少女
 「人間は空を飛べないからねー?」

グレイシア少女はそうデルタにツッコむと、デルタも念を入れた。
愛と琉生を一緒に抱くと、三人はゲシュペンスト界から物質界へと転移する。

琉生
 「ッ……? ここは?」

そこは公園だった、それも見覚えのある公園。
琉生はすぐに愛を確認した、そこには愛がちゃんといたのだ!


 「あれ、ここって学園都市の〜?」

老人
 「あれま! 愛ちゃん久し振り? なんだい変わった格好だねぇ?」


 「あっ、斎藤さんお久し振りです〜♪ これには事情がありまして〜?」

即座に声をかけられた愛は笑顔で老人に即応対をした。
愛だと気付くと、公園にいた人たちは次々と愛の前に集まってきた。
愛はまるで聖徳太子のごとくそんな人々に笑顔で応じた。

琉生
 「本当に、本当に良かった……愛先輩が、帰ってきた……」

デルタ
 「だがニンフィアの力は休眠状態に入ったようだ」

琉生
 「休眠状態?」

デルタ
 「簡単に言えば、もう変身できない」

それを聞いて琉生は驚く、だがその方がいいのかもしれない。
老人達と楽しそうに会話する愛は実に幸せそうだ。
そこにニンフィアの力なんて必要だろうか?
もう愛はニンフィア少女ではなく、ただの友井愛という素敵な少女に戻ったのだ。


 「あ、すみません! まだ用事がありまして〜! 琉生ちゃーん! 学園に帰りましょー♪ あ、デルタちゃんもどうぞー!」

愛は丁寧に老人達に深々と頭を下げると、いつものテキパキとした出来る女愛は、ニコニコ笑顔で手を振った。
琉生はクスリと笑うと、そんな愛を追いかけた。
デルタは琉生から離れず一緒に愛を追う。
ようやく全て取り戻した……ようやく。



ポケモンヒロインガールズ

第55話 ニンフィア少女友井愛 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2022/12/09(金) 15:57 )