第54話 明日香VS由紀、本当に強いのは?
第54話 明日香VS由紀、本当に強いのは?
姫野琉生と友井愛がポケモン少女管理局関東支部から姿を消し、行方不明となってから1週間、関東支部の少女たちも変化はあった。
明日香
「ゲシュペンストと交戦するな、かぁ?」
ゴローニャ少女の宝城明日香はスポーツジムで身体を鍛えながらそんな事を考えていた。
その隣にはいつものように先輩の剛力闘子も腕を組んで考え込んでいる。
闘子
「なぁ明日香? お前はなんの為に強くなる?」
明日香
「えっ? なんの為って……自分の為じゃないんすか?」
随分不思議な事を聞くなと明日香は思う。
今日の闘子はネガティブになっているのか、らしくないと思った。
だがそれは違った、闘子は明日香とは少し違うのだ。
闘子
「オレはちょっと違うんだ……オレはゲシュペンストから皆を護る為に強くなった」
闘子はそう言うと、滅多に見せない弱気さを見せた。
そう、闘子は戦うのが好きなんじゃない、戦うことで強くなるという信条の下でゲシュペンストから身を護るのが目的だった。何故そんな彼女が教導部を選んだのか?
それこそが答えだったのだ。
闘子
「それがいきなり本部からの命令でゲシュペンストとの交戦禁止ときた……ホッとした反面、じゃあオレは今まで何してきたのだろうって……」
明日香はそれを黙って聞いた。
尊敬する闘子先輩だが、その全てが明日香と同じではない。
特に元々体育会系の明日香は、陸上選手時代、ただ速く走る理由も人それぞれな事を知っていた。
だからこそ、闘子の意見も尊重し、受け入れた。
明日香
「先輩、アタシ正直今でもゲシュペンストは怖いよ、でもさ? アタシ逆にポケモンバトルは大好きなんだ! 強くなれるのが嬉しい!」
闘子はそれを聞くと「フッ」と微笑を浮かべた。
明日香の単純思考、それが闘子の心を少しだけ軽くした。
闘子
「明日香、お前は若い。そしてまだまだ成長期だ」
明日香
「闘子先輩?」
闘子は何を言おうとしているのだろう?
明日香は闘子の顔をじっと見た。
闘子
「アタシと試合組むか!?」
明日香
「え、えええー!?」
それは闘子の挑戦状だった。
***
由紀
「ちょっと宝城明日香!? 闘子とマッチメイクしたって本当な訳!?」
その日の夜、2年の砂皿由紀は一年生の寮へと駆け込んできた。
その理由はどこから聞いたのか、明日香と闘子の試合についてだ。
風呂上がりだった明日香は突然の先輩の来訪に顔を真っ赤にした。
所詮女ばかり、明日香のあられの無い格好も気にせず、ズカズカと明日香の前まで歩み寄り、顔をズイっと近づけると怖い顔で睨みつけた。
由紀
「認めないわよ……アンタに闘子へは挑ませない!」
明日香
「な、なんだよそれ!? 先輩横暴過ぎるだろ!?」
明日香は由紀の態度に対して反抗した。
この先輩の横暴な態度はいつもの事とはいえ、明日香も堪忍袋の緒が切れ、由紀に頭突きする勢いだった。
明日香
「大体先輩はアタシのなんなんだよ!? アタシと闘子先輩に関わるな!?」
悠那
「落ち着け単細胞」
アリア
「先輩もいきなり過ぎますわ」
勝手にヒートアップする二人、その後ろから、二人を無理矢理引き剥がしたのは八神悠那と東堂アリアだった。
二人の仲の悪さは目立つものだったが、ここまで顕著なのはこれが初めてだった。
悠那ならば見覚えのある光景かも知れないが、由紀の明日香に対する嫉妬は酷いものだなと思えた。
まるで自分を棚に上げたようだが、由紀にシンパシーを覚えながらも、自分は違うと考えているのだ。
由紀
「っ……! 明日香、闘子と戦うなら先に私と決着をつけなさい……!」
由紀はアリアに取り押さえられながら強い目でそう言った。
明日香は由紀の顔を見て、ゴクリと喉を鳴らした。
明日香
「マジなんだな……砂皿先輩? アタシはもう弱くねぇ……アンタ相手だってもうビビらねぇ!」
砂皿由紀は強い、ポケモン少女としてよく鍛えられ、バトルセンスも良い。
ポケモンバトル、リアルファイト部門ランキング1位の実力は伊達ではない。
だが明日香も様々な戦いを通じて強くなったと確信している。
由紀
「勝負は明日! いいわね!? 逃げんじゃないわよ!?」
由紀はそう言って明日香を指差すと、そのまま一年生寮を出て行った。
明日香はそんな由紀の背中を見て、ギュッと拳を固める。
明日香
(負けられない……砂皿先輩にだけは……!)
そんな明日香を見守るのは、なにも明日香を純粋に心配する者ばかりではなかった。
悠那
(馬鹿らしい、熱血か)
そんな八神悠那も由紀のプライドを馬鹿にする訳では無い。
だがプライドがどんなデメリットを起こすかも理解したつもりだ。
姫野琉生への余計なプライドが悠那にらしくない事をさせていた。
だからこそ、悠那は明日香に忠告する。
悠那
「明日香、プライドがあの先輩を許せないってんなら、プライドは邪魔なだけよ? プライドは必要だけど優先するな、これは忠告よ?」
明日香
「悠那……お前が?」
悠那はそれだけ言うと、自室に戻って行った。
明日香はそれを悠那なりの気遣いなんだなと解釈した。
子供みたいに喧嘩して、いがみ合ったりもしたが、なんだかんだで仲間になった悠那なりの配慮だった。
明日香
(……おし! やってやる! アタシだって!)
***
翌日、公式試合ではないがとあるスタジアムに明日香と由紀の姿はあった。
事情を聞いた何人かが、この試合を心配して駆けつけていた。
桜
「全く、あの子ったら、意地っ張りなんだから」
観客席には二人の少女が座っていた。
二年の七海桜は由紀を見ると、頬に手を当てた。
その隣には一年の古代燈の姿も。
燈
「悠那はプライドって言ってた」
桜
「プライドね……悠那らしいわ。あの子も大概プライドで生きてんだし、これはそうね……砂皿さんのプライドは自分よりも先に剛力先輩に挑むのが許せなかったのね? それで宝城さんはいい加減そんな砂皿さんを認めさせたいって所か」
桜の相変わらずどこか上から目線な解説は、燈もスッと入って納得させた。
燈
「私もいつまでも子供扱いする悠那を見返したい」
燈はムスッとした顔でそう言うと、桜は大人びた笑顔を浮かべた。
別に悠那でなくとも燈は皆に子供扱いされる程精神が幼いから、燈の自尊心を満たすのはまだまだ難しそうだ。
***
バトルフィールドには荒野が広がっていた。
向かい合うサンドパン少女とゴローニャ少女。
奇しくも二人にはお誂え向きのバトルフィールドであった。
由紀
「……!」
由紀は腕を組みながら精神を集中させた。
眼前の相手、宝城明日香は気合を入れて試合を待ち構えている様子だった。
明日香
「フッ! フッ!」
明日香はスクワットしながら、試合を待ち構えた。
ゴローニャの重たい身体がギシギシと唸り、その音は由紀にも届いた。
由紀はサンドパンの優れた聴覚で、今の明日香のコンディションを推し量った。
かつてはまだ未熟にもゴローニャの身体に振り回されていた明日香も、今やその身体を使いこなしていた。
闘子
「お前ら、準備はいいか?」
この試合、審判を買って出たのは闘子だった。
事情を聞いた闘子はこの試合を見守る権利は自分にあると志願し、そして二人はそれを受け入れた。
闘子にとって二人は親愛なる後輩であり、弟子達だ。
しかし闘子とは異なる意味で戦う彼女達は、今雌雄を決しようとしている。
明日香
「いつでも!」
由紀
「構わない!」
息の合った二人、闘子は力強く頷いた。
闘子
「いいか!? 勝った方がオレと戦う! それでは双方試合始めっ!」
闘子がそう言うと、二人は真っ直ぐ駆けた!
先ずは素早い由紀がスコップ状の爪で明日香に襲いかかる!
由紀
「てぇやぁ!」
ガキィン!
しかし、明日香の岩肌はそんなにやわじゃない。
明日香は腕でそれをブロックすると、ニヤリと笑った。
由紀
「っ!? こいつ!?」
明日香
「アタシも学んでんだ! ゴローニャなら何が出来るかって!!」
由紀は咄嗟に距離を離した!
明日香は地面に拳を打ち付けると、由紀の足元から岩の槍が突き出した!
明日香のストーンエッジだ!
由紀は顔を歪めた!
由紀
(こいつ!? 戦い慣れてる!?)
ポケモン少女としては由紀は先輩だ、だが明日香もそれだけの場数を踏んできた!
由紀はストーンエッジを受けて、空中に弾かれると、そのまま態勢を整えた!
由紀は地面に爪を突き立てると、素早く穴を掘り出した!
明日香
(来た! 砂皿先輩の得意技!)
サンドパン少女の真骨頂、穴を掘る攻撃はどんな硬い岩盤さえも砕き、相手の位置を決して見失わないサンドパンだからこその技だった。
明日香はどっしりと足を止めると、由紀を待ち構えた。
バチバチ……明日香の身体からは電気が溢れながら。
バチン!
直後、明日香の足元でスパークが生じた!
明日香はその瞬間、全神経を足元に集中し、素早くその場から飛び退いた!
ズドォン!
直後、明日香のいた地面が陥没した。
これも由紀の得意な戦術、相手の足を砂地獄で足止めして、得意な接近戦で決着をつけるスタイルだ!
由紀
(ちぃ!? 読まれた!? それなら……!)
由紀は地面から飛び出すと、明日香に向かって何かを投げつけた!
それは砂だ! 明日香は砂を顔面に浴び、視界を封じられた!
明日香
「やばい!?」
目が開けられない状況で、明日香はすぐに防御を固める。
だが場数慣れしているのは由紀とて同じだ、由紀は容赦なく明日香の腹部に爪を突き立てた!
明日香
「がは!?」
如何に岩肌と言えど、内臓への一撃に明日香は悶絶する!
由紀はこれが有効だと確信すると、何度もボディーブローを明日香に叩き込んだ!
明日香
「あぐ!? うぐ!?」
明日香は痛みに耐え抜き、それでもガードを上げ続けた。
明日香
(耐えろ! まだ耐えられる! 反撃のチャンスはまだある!)
明日香はガード越しにニヤリと笑った。
由紀はそれを見て、明日香に闘子の幻影を見た。
由紀
「笑うなー!? 闘子みたいにー!?」
由紀は激昂すると、攻撃を頭部に切り替えた!
既に明日香はボロボロで、この戦闘は由紀有利に進んでいた。
にも関わらず、由紀はそこで判断ミスしてしまう。
明日香
(ボディの攻撃が止んだ!? なら!)
明日香はその瞬間、放電した!
バチバチバチィ!
由紀
「くっ!? 視界が!?」
地面タイプであるサンドパンに放電は無効だった。
だが由紀の視界には光が拡がり、一瞬だが明日香を視界から失ってしまった。
明日香
「うおおおお!」
その一瞬、踏み込みを誤った由紀は構わず爪を突き出した!
しかし爪は明日香の頬を切り裂くも、その攻撃はファンブルだった。
明日香はカウンターを合わせ、由紀に力を込めた右ストレートを、由紀に叩き込んだ!
由紀
「がは!?」
由紀はダンプカーに轢かれるような衝撃で吹き飛ばされた!
地面を2回も転がると、そのままぐったりと倒れた。
その姿に悲鳴と歓声は同時に上がった。
アリア
「明日香さんが決めた!」
控え室で試合を見守っていた東堂アリアはガッツポーズをした。
その隣にいた江道夢生も大喜びだった。
夢生
「あすちん逆転勝利だビュンー!!」
一方で、別の控え室には由紀を見守る吉野鈴と霧島ミアが悲鳴を上げた。
鈴
「由紀ちゃん!?」
ミア
「駄目よ由紀さん! 貴方はそんな程度じゃ!?」
勿論、ギャラリーの声なんて当事者達には聞こえやしない。
ただ明日香は、息を荒くしながら全身からバチバチと電気を放出しながら、勝利を確信してガッツポーズをとった。
そして由紀は薄れゆく意識の中、ぼんやりと天井を見上げた。
由紀
(う……あ、なん、で……?)
由紀は何故自分が倒れているのか分からなかった。
だが彼女に去来したのは、楽しい記憶だった。
ポケモン少女となって闘子と出会い、ポケモンバトルの楽しさ覚えた記憶だった。
由紀
(そう、だ……私の目的は闘子を越えること、私が一番強いって闘子に証明すること……)
由紀はその時、歯を食いしばって拳を握った。
徐々に意識が戻ってきた。由紀は次に明日香を思い出した。
急に現れた由紀の後輩。闘子の熱烈な信者で、闘子も満更ではなく、明日香をコーチングした。
由紀
(なんで……なんでアイツなのよ!?)
由紀はゆっくりと起き上がった。
明日香はまだ由紀が負けていない事に驚愕する。
明日香
「まじかよ……会心の一撃だったのに!?」
由紀
「はぁ、はぁ! 負けられないのよ! アンタなんかに! 闘子を越えようとしないアンタなんかにー!?」
由紀は前のめりになると、そう吠えた。
明日香は誰よりもそれに動揺した。
明日香
「アタシが闘子先輩を越えようとしない……? せ、先輩に何が分かるんだよ!?」
由紀
「分かるわよ!? 誰よりも闘子の強さに憧れた! アンタは闘子の何が分かる!?」
明日香は怯む、由紀は闘子への想いを強く明日香にぶつけた。
その試合を誰よりも近くで、そして真っ直ぐな想いで見守っていた闘子は二人の想いを言葉で聞いて考えていた。
闘子
(由紀の想いは知っていたさ……オレを越えたい、明日香の想いはそうではなかった……それでもあの二人はオレとは決定的に違う事がある)
由紀と明日香、闘子は二人を交互に見比べた。
この二人は純粋にポケモンバトルが好きなんだ。
その中でも由紀は勝つ事が好きで、明日香は強くなる事が好きなんだ。
闘子はポケモンバトルが好きというよりも、強くなる事に必死で、たまたま同期に好敵手に恵まれた事が絶対のチャンピオンに立たせる事になった。
闘子の迷いは、戦う事への疑問だった。
明日香に問いた意味、その答えは強くなる事だった。
闘子はその意味が自分とは異なる求道者の形なんだと理解した。
だからこそ明日香に挑戦状を送ったのだ。
だが、それに異を唱えた由紀がいた。
由紀の意思も勿論分かっている、だが由紀の考えもまた闘子にとって可能性だった。
闘子
(く……身体が疼いてきやがるぜ……やっぱりオレもバトルが好きなんだな……)
闘子はニヤリと笑うと、二人の戦いを見守った。
もう二人に体力の余裕もなく、この戦いは必然と終盤だった。
由紀
「アンタに闘子は渡さないっ! オオオオオ!」
由紀は凄まじい闘志で明日香に襲いかかった!
明日香に気力で押され、防御を固めてしまう!
明日香
(くそう!? なんで!? なんで砂皿先輩の拳はこんなに重い!? アタシじゃまだ足りないってのか!?)
由紀に比べ明日香の拳は軽いのだろうか?
結論から言えばそんな事はない、だが明日香が弱気になっているのは確かであり、それこそが闘子に勝ちたいという想いの差だった。
由紀
「でぇぇやああ!」
由紀は我武者羅に拳を明日香に振るった!
その拳にもはや由紀のクレバーで正確な一撃は残っていない。
だがそれは今までどんな姿の由紀も見せたことのない、最も驚異的な姿だった!
防御を構える鉄壁の構えの明日香、だが由紀の燃えるような強い意思は、その拳に宿るかのように明日香の防御をすり抜けた!
ズガァ!!
由紀の渾身の一撃が明日香を捉えた!
明日香は身体を仰け反らせ、後ろに倒れる。
明日香
「が……はっ!?」
明日香は一瞬で意識が遠退いた。
目の色は暗く、それは心が折れかけた証だった。
明日香
(アタシ……役不足なのか? アタシじゃ相応しくない?)
明日香は闘子に強い憧れ、それは信望といって差支えない愛情を持っていた。
だがそれだけでは届かない、明日香の想いでは由紀の想いを越えられないのか?
明日香
(ち……く、しょう……!? いや、だ! まけ、たくな……い!)
明日香は全身に力を送った。
それはバチバチと全身に電流が走った。
由紀
「ち……!? まだやるの!?」
明日香は全身を震わせ、ゆっくり立ち上がった。
その重たい身体を持ち上げると、目の前の由紀を睨む。
明日香
「あ、アタシも負けたくないっ……! アタシは……もっともっと……強く、強くなるんだぁーッ!!」
明日香は全力で由紀に向かって突進した!
由紀は応戦する! 明日香の咆哮に挫ける事なく、ただ殴りかかった!
明日香
「うぐ!? らああ!」
由紀
「がっ!? さっさと倒れろー!?」
二人の殴り合いは続いた。死力を尽くす二人の技はもはや見当たらず、ただ気力と執念を持って拳を振るうのみ。
だが、続く拮抗も徐々にだが亀裂が見え始めてきた。
由紀
「ぐう!?」
由紀の身体が大きく揺らめく、体重の乗った明日香のパンチを受ければ、同じ防御を捨てた殴り合いでは明日香が有利だった。
タイプ相性の面で言えばサンドパン少女の由紀の方が有利なのだが、ただの殴り合いならゴローニャ少女の明日香は重い!
加えてゴローニャの身体は硬く、冷静さを失った由紀の失策であった!
由紀
「な、舐めるなー!」
由紀は咄嗟に明日香のパンチを下から掻い潜った!
2年生の意地とプライドが、土壇場で由紀に奇跡を起こさせるのか!?
明日香
(やばい!? カウンターで貰う!?)
明日香は由紀の攻撃が見えていた、だがダメージを負い、疲労困憊の身体は言うことを聞いてくれない。
敗北が薄っすらと見えてきた、明日香は歯を食いしばった。
明日香
(もう無様は見せねぇ! 見せたくない! アタシは負けたくないんだ! 砂皿先輩にも! 闘子先輩にだって!)
明日香の闘志、それは決して由紀に負けていた訳ではない。
確かに口に出して言える程の想いでは無かったかも知れないが、かといってなら由紀の圧勝かと言えばそうでもないのだ。
闘志がポケモンバトルに賭ける想いが、二人とは異なるように、二人の描く理想の姿は違っていた。
闘子を越えたいと強く願う由紀、闘子のように強く在りたいと思う明日香。
そこに明確な差なんて存在しない、ただ由紀は明日香に嫉妬してしまったのだ。
だが明日香の由紀には負けたくないという想いは、彼女を強くさせた!
明日香
「一か八かー!」
明日香は全身に電流を流した!
バチバチスパークを放ちながら、明日香は由紀のカウンターを腕を絡めて弾いた!
由紀
「クロスカウンター!?」
明日香
「もらったぁ!!」
明日香の左アッパー! 明日香は勝利を確信した!
だが明日香が冷静さを取り戻せたならば、それは由紀も同じはずだ!
由紀は左のアッパーに対して、更にそれにカウンターを仕掛けた!
闘子
(ダブルクロスカウンターだと!? 由紀の奴想定していたのか!?)
闘子はこの二人の成長に驚愕した!
明日香は勿論、由紀もまた成長を繰り返していた。
ポケモンであるが、同時に人である。
ポケモン少女の理想的な姿はすぐそこだったのかもしれない。
明日香
「ま、だだぁ!!」
だが更なるカウンターに対して明日香は強引に右ストレートを振り下ろす!
由紀は目を見開いた!
明日香は鈍重だが、電流を全身に通電させる事で反応を引き上げている。
つまり土壇場でも明日香はパフォーマンスが低下し難い!
由紀
「私の方が速い!!」
由紀は負けじと応戦した!
二人の拳が互いの顔面を捉えた!
グシャァ! と嫌な音がフィールドに響くと誰もが息を呑んだ。
明日香
「ここ、まで……か」
由紀
「う……あ」
同時だった、二人は同時に倒れて気絶した。
審判を務める闘子は駆け寄ると二人を確認した。
闘子
「両者戦闘不能! この勝負引き分けだ!」
誰もが息を呑む結果だった。
燈
「二人とも負け?」
観客席で観戦していた燈は二人の惨状を指差した。
隣に座る桜は呆れ顔で腕を組み、頭を振った。
桜
「ま、勝てなきゃ負けと一緒よね……特に由紀ちゃんはね?」
燈はそういう物なんだと頷いた。
とりあえず燈はパチパチと二人に拍手を送った。
それに吊られて桜も拍手した。
気絶した二人には聞こえていないだろうが、二人の名演は素晴らしいものだった。
***
アリア
「明日香さん……」
夢生
「急いであすちん回収するビュン!」
一年生のアリアと夢生は最後まで心配げに試合を見守っていた。
結果を見れば引き分けだ、明日香が変にショックを受けなければ良いが。
二人は立ち上がると、すぐに控え室を出ていった。
今は親友が心配だった。
***
闘子
「たく、こいつらは……!」
闘子はぶっ倒れて変身解除した二人を見て苦笑した。
あんだけ痴話喧嘩繰り返して、結局は精根尽き果てて殴り合い。
だが、殴り合いの中で二人は技も捨てて気力を尽くしたのだ。
闘子はそんな二人がどこか嬉しく誇らしかった。
闘子
「オレを越えたい……か、やれやれ、もうそろそろ引退って時にさ?」
闘子はあんな言葉を聞けば、まだもう少し頑張ろうと思えた。
闘子が強くあったのは、それを顕示するためではなく、ゲシュペンストから皆を護る為だったが、その後輩達にはヒーローの後ろ姿に憧れさせてしまった。
なら最後までヒーローであろう、闘子は心の中でそう誓った。
ポケモンヒロインガールズ
第54話 明日香VS由紀、本当に強いのは? 完
続く……。