第50話 本部の場所、隠された真実
第50話 本部の場所、隠された真実
姫野琉生達日本のポケモン少女達の長いようで短い海外交流は終わりを告げた。
時差を味わいながら、濃厚な日々を過ごしたポケモン少女達は帰りのジェット飛行機の中で眠りについていた。
一人、窓際席で起きていた琉生は窓の外の風景を眺めながら、あの言葉を思案していた。
琉生
(始まりの場所……か)
琉生は夢の中で出会った謎のグレイシア少女の言葉が気になっていた。
あのグレイシア少女は始まりの場所にポケモン少女とゲシュペンストの秘密があると答えた。
琉生の中には今葛藤がある、アメリカで出会ったグレイシア少女に瓜二つなゲシュペンストΔ、彼女は琉生に強い興味を抱いていた。
曰く極めて歪だが、理想的に美しい存在と、巫山戯た見解だが、ゲシュペンストΔは確かに迎撃こそすれど、積極的な交戦意思は持たない中立のような存在だった。
彼女達ゲシュペンストが語る所では正式名称を日本語に直せば巡礼旅団だという。
何に巡礼を? だが極限の戦闘状態の中でそれを知る余裕は琉生にはなかった。
奇跡的な程ニューヨークでは被害は無かったが、しかし送別式としては最悪のものだったろう。
琉生はニューヨーク最後の1時間を回想した。
***
送別式が慌ただしく終わった一行は空港にいた。
ロビーにはニューヨーク支部のポケモン少女達もいて、皆別れを惜しんでいた。
リリィ
「オゥ! ジャパニーズ! また会いましょう!」
スワンナ少女のリリィは誰よりも喜怒哀楽が激しく日本のポケモン少女達を最後まで困惑させた。
アマンダ
「ありがとう日本のヒーローズ、貴方達のヒーロースピリッツ、私達が継承していくわ」
フィアナ
「え、えと……また会いましょうね?」
アリアドス少女のアマンダとミルホッグ少女のフィアナもそれぞれ別れを告げていく。
そんな中、ただ一人違う雰囲気をもって訪れたのはコジョンド少女のヤンだった。
ヤンは琉生の前に行くと、まず一礼した。
ヤンの眼差しは同じ志を持つ者への敬意だった。
ヤン
「琉生、私も拳士としては道途上、詠春拳を極めた身ではない」
琉生
「……それでも、私は強くなった、ヒトを超え、ケモノを超える事が出来た」
ヤンはそれを聞くと満足そうに微笑んだ。
ヤン
「ジークンドーを知っているか?」
琉生
「え?」
琉生は首を横に振った。
センスは高くとも、そう言った知識は全くない琉生は格闘家から見れば歪な存在だ。
だが、ヤンはそんな琉生になるべく優しく説明した。
ヤン
「ジークンドーはブルース・リーが開祖だ、だがブルース・リーは無からこの流派を生んだ訳ではない、ブルース・リーは元々詠春拳の門下生だった」
琉生
「私達の大先輩?」
ヤン
「琉生、ジークンドーを学べ、君のオオタチとしての形は恐らくそちらの方が嵌る」
詠春拳はあくまでも人の身で扱う事を前提とした拳法。
超密着距離でのクンフーに特化させたこの流派は女性の支持者も多い。
そこからエッセンスを汲み取り発展させたと言われるジークンドーは確実に琉生にもその血脈が流れているはずだ。
ヤン
「琉生、強くなれ」
最後にヤンはそれだけ言った。
琉生は力強く頷いた。
過酷な運命は目の前に広がっているかも知れない。
それでも琉生は歩むと決めたのだ、この世界の真実……それを知る為に。
***
愛
「はい? 本部の場所ですか?」
日本へと帰ってきた当日、一年生達は寮へと帰っていった。
3年生は相変わらず業務があるのか、校舎に向かって行ったのを見た琉生は愛の後ろを追いかけた。
やがて彼女と二人っきりの場所を見つけると琉生は愛に話しかけたのだ。
琉生
「はい、どうしても知りたくて」
琉生は真剣だった、しかし愛もその質問には困ってしまう。
PKM少女管理局の本部は秘匿されているのだ。
かつて本部に向かった愛も、まさかあれがダミーだったとは思わなかった。
PKM少女管理局はかなりの数のダミー本部があり、それを探る者を撹乱する。
そして安易に近づけば、依乃里に記憶を消されるのがオチだ。
愛も依乃里なら本部の場所は知っているだろう、だが依乃里が答えてくれるとは思っていなかった。
愛
「ごめんなさい……私じゃお役に立てそうにありません〜」
愛は本当に申し訳無さそうに謝った。
愛とて本部の場所は知りたかった。
アメリカで見たマリア・タナーのポケモン化、そして依乃里に警告された愛の寿命限界。
依乃里には聞きたいことは山程あるのだ。
愛
(私もいつかニンフィアになる? 私という自我は消滅して?)
愛は恐ろしかった、自分が消えるという可能性が。
事実マリア・タナーは原種のウインディに成り果てた。
琉生達の情報では、ゲシュペンストと激しく戦い、ゲシュペンストΔとの戦いで命を落としたという。
命を落としたウインディは光となって消滅し、その魂の在り処がこの世界にはないという現実も知った。
これではまるで寄生だ、ポケモンに年端もいかない少女達が無理矢理寄生されている。
愛はポケモンを、ニンフィアを疑いたくはなかった。
それでも信じきれないのは、ニンフィアが愛に何も応えてくれないからだ。
ニンフィアもゲシュペンストに復讐する為に愛を利用しているのか?
愛はその優しさで包める心も限界はあったのかも知れない。
愛
「本部の場所を知って、琉生ちゃんはどうするのですか?」
沈んだ顔で聞く愛だったが、琉生は違った。
琉生は愛とは対照的に、覚悟を決めた真っ直ぐ前を見ている顔で答えた。
琉生
「真実を知りたい……そして過ちがあるなら、それを清算します」
愛
「過ち?」
それは愛では知り得ない情報だった。
人類かポケモンか、それとも両方かは少なくともなんらかの過ちを犯している。
ゲシュペンストがポケモン少女を襲う理由が、巡礼旅団の露払いだとしても、そもそもそこにはなんらかの誤解がある。
その誤解がなんなのか、琉生はそれを知りたかった。
愛
「と、とにかく一年生はこの時間は外出禁止ですから、今日は寮でお休み下さい。……琉生ちゃん、お願いだから無理だけはしないで下さいね?」
愛はそう言うと担任室に向かった。
琉生は静かに頭を愛の背中側に下ろすと、そのまま踵を返した。
グレイシア少女とゲシュペンストΔの秘密、その答えは一体なんなのか?
***
ポケモン管理局局長の一ノ瀬純は琉生達が日本に帰ってくると、その報告を受けていた。
純はいつものように温和な笑みを浮かべ、一先ずは安堵した。
純
「想像以上に七難八苦だったね」
依乃里
「はい、ですがこれまで通りです、今回の件も体制には然程問題はないでしょう」
純
「だけど不安だ……ゲシュペンストは新種がいくつも出てきたろう?」
飛行型の変異種や、Δ種、10年間もゲシュペンストを見てきた純にはここ最近のゲシュペンストの活発化は目に余る勢いだった。
依乃里
「……局長は私が絶対お護りします」
純
「うん……ありがとう、でも本当はもっと皆の為に使って欲しいんだけどな」
依乃里の忠誠心は純には完全には届かないのか、純は優しいが、真に依乃里を理解してくれない純には、依乃里は唇を噛んだ。
依乃里
「……それと、姫野琉生、ゲシュペンストΔに接触されました」
純
「ゲシュペンストΔが? 琉生ちゃん……本当に何者なんだろう?」
新種であり、想定上いると判断されていたゲシュペンストΔ、姫野琉生はゲシュペンストΔに神に至る可能性と判断されていた。
琉生自体はなんの変哲もない、普通のオオタチ少女に過ぎず、それは検査でも確実であり、依乃里もはっきりとした事は言えなかった。
だが、ある危惧は依乃里にはあった。
依乃里
「局長、姫野はゲシュペンストのビーコンの可能性もあります」
琉生の周りで多発するゲシュペンストの顕現現象。
ロシアにはゲシュペンストγを、アメリカにはゲシュペンストΔを持ち込んだのも、そもそもの原因は琉生ではないかと疑いを持ったのだ。
琉生が局長のお気に入りなのは理解した上で、依乃里はある提案をした。
依乃里
「局長、姫野琉生を本部に招集しましょう、場合によっては消します」
純
「誰も目撃者のいない場所で存在の抹消か……怖いなぁ、あんな優しくて良い娘なのに」
依乃里
「例え聖人であろうと、敵を呼び込む存在であるなら怪獣になります」
未曾有のゲシュペンスト災害がこのまま加速していけば、日本は火の海となるだろう。
もし琉生が本当に呼び込んでいるなら、彼女に自覚は無くともゲシュペンストと同じく怪獣と同義になるのだ。
純
「分かった、でも俺が許可なく琉生ちゃんは消させない。それと琉生ちゃんもだけど、愛ちゃんも本部に連れてきてくれる?」
依乃里
「友井愛ですか? あの子にはもう期待するのは」
愛はニンフィアになりかけている。
ニンフィアの存在値が愛を上回ったら、その主導権は人間ではなくポケモンに移る。
その際人間の肉体は放棄され、ポケモンの肉体に変異が始まる。
愛は時間の問題だった。
だが純は首を振る。
純
「最後まで放っておけないんだ、彼女は望となにか似ているから……」
望、その名前を聞いた時依乃里は歯軋りする思いだった。
局長が依乃里に振り向かない絶対の存在、だが依乃里はそれになにも出来なかった。
10年前……西田望が死んだ時から、依乃里は純を真剣に愛していた。
だが死んだ者をいつまでも想う純が振り向く事はなく、そして故人は記憶を司るユクシー少女の依乃里でさえも、無敵の存在だった。
純
「僕は本部で待っているよ、依乃里ちゃん、くれぐれも丁重にね?」
依乃里
「……かしこまりました」
依乃里は恭しく頭を下げると、局長室を出ていった。
一人局長室で椅子に座る純は思い耽る。
純
(望……俺、正しい事出来てるかな、恭介に非難されている通りのだめな男じゃないかな?)
純は記憶から徐々に薄れゆくその少女に問いかけた。
しかしすでに個人であり、純にとってのイマジナリーフレンドはなにも答えてくれない。
当然だ、だからこそ純は常に迷い、道を探し続けてきたのだから。
***
翌日、琉生は寮で久し振りの朝を迎えていた。
ゆっくり起き上がると、琉生は着替えて部屋を出た。
2階に宿泊施設を持つ寮は中央に階段があり、静かに降りるとキッチンに向かった。
夢生
「あ、るーちゃん! おはようビュン!」
琉生
「……おはよう」
江道夢生は琉生を発見すると大きな声で朝の挨拶をした。
見慣れた筈なのに、随分久し振りの顔を見て、琉生は微笑んだ。
明日香
「遅ぇぞ琉生! ほら、座った座った!」
四角いテーブルを囲む一年生達はいつものように朝食を摂っていた。
琉生は無言で着席した。
悠那
「こら燈、口元汚れているわよ? 全く全然変わっていないんだから」
悠那は隣に座る古代燈の世話をしながら溜息を吐いた。
しかし燈は嬉しそうに悠那に口を拭かれていた。
燈
「悠那にしてもらうの久し振り♪」
悠那
「アンタ、お菓子食べ過ぎて虫歯になっちゃいないでしょうね?」
悠那は自他共に厳しい女だ。
時に傲慢にも見え、反発を生む事もあるが、燈に対する対応は完全に。
アリア
(お母さんですね)
明日香
(おかんだ)
琉生
(お母さん……)
海外では悠那が世話を焼く程の相手がいなかった事もあり、世話焼きな悠那も随分久し振りであった。
だがそんな微笑ましい視線を感じ取った悠那は吊り目を更に釣り上げて周囲を睨みつけた。
悠那
「なによ?」
極めて不満そうなその言葉にアリアは淑女的にお茶を濁し、明日香はそっぽを向いて口笛を吹いた。
悠気
「ちょっと明日香! アンタせめて隠す気とかないわけ!?」
明日香
「一体どこにキレているんだよ!?」
そんなある意味でいつもの光景を見た夢生と燈は微笑んだ。
夢生
「やっと元通りだビュン♪」
燈
「だね♪ ふふ」
そんな二人の笑顔を見て、喧嘩腰の悠那と明日香もポカンとした。
ずっと二人で過ごしていたこの寮はやはり寂しく、こうやって賑やかさが帰ってきたのはそれだけ嬉しかったのだ。
すっかり毒気の抜けた悠那はそれを見ると、落ち着いて着席した。
夢生は食パンに大量のジャムを塗ってそれを口いっぱい頬張る。
夢生
「んん〜! 甘ぁ〜い!」
アリア
「こちらはこちらで、久し振りに見ましたわね」
琉生
「夢生の食べ方は久し振りだと、やっぱり多すぎ」
明日香
「つか、他のやつも使うんだからな?」
お互いなんだかんだで、別々に生活していた期間の長さは如実に現れていた。
離れ離れと言ってもたった2週間なので、お互いそんな極端な変化もないが、懐かしさがあったのだ。
明日香
「おし! ご馳走さまー! アタシちょっと闘子先輩のとこ行ってくる!」
明日香は一番に食べ終えると、すぐさま飛ぶように出かけていった。
アリア
「ホームルームまでには間に合わせるのですよー!」
明日香も昨日は帰りも夜で慌ただしく、闘子に顔を合わせられないのは我慢が出来なかったのだろう。
そういう気持ちも分からなくはないという風にあの悠那が明日香についてこう言った。
悠那
「あの馬鹿でも親しい奴っているのよね」
琉生
「悠那はいないの?」
悠那
「いない訳でもない、でも無理に会う必要もないでしょ」
2年に在籍する七海桜や本部に所属する銀河冥子等親しい相手自体はいる。
しかし桜はそんな女々しさを見せるにはそれ程良い関係とも言えないし、冥子に至っては連絡方法が無い。
下手に接触を試みれば造反の疑いが掛けられるのは目に見えているだけに下手は打てないのだ。
アリア
「私も後でミア先輩にご挨拶に向かいませんと」
悠那
「琉生はそういう相手はいない訳?」
琉生
「……特に」
強いて言えば吉野鈴なのだが、出来れば自分からは行きたくなかった。
むしろ向こうから奇襲を掛けて来ない事のほうが不思議だが、それ位鈴は琉生を溺愛しているのだ。
そんな相手に自分から向かえば間違いなく鈴は有頂天になるだろう。
琉生を偏愛し、そして愛されたい鈴は琉生からしたらウザいのだ。
だからこそ琉生は渋い顔をしているのだ。
悠那
「アンタ……もうちょっと社交性を鍛えた方がいいんじゃない?」
アリア
「確かに琉生さんは真面目ですからね」
琉生
「い、一応努力はしている!」
琉生は顔を赤くするとそう言った。
極度の人見知りで、喋るのがそもそも得意じゃない琉生は交友関係が極端に狭いと言える。
元より社交的ではなく、この歳になるまで友達どころかまともに会話する相手さえいなかったのだ。
そんな諦念だけが人生だった琉生が、ここまで明るくなったのだから、琉生からすれば評価して欲しいだろう。
琉生
「ご馳走さま、部屋戻ってる」
琉生は朝ごはんを食べ終えると席を立った。
この後は部屋で自己鍛錬で登校時間まで過ごすつもりだ。
ヤンの言っていたジークンドーの研究と実践応用もまだであり、琉生は着実に強くなろうとしていた。
しかし、その時寮に予想外の客がやってきた。
依乃里
「お邪魔するわよ? 姫野琉生はいる?」
悠那
「神成依乃里!?」
突然玄関を開いて中に勝手に入ってきた依乃里の姿に一同は騒然とした。
二本の尻尾を揺らすこのユクシー少女は目を瞑ったまま、琉生に振り返った。
依乃里
「ああ、いたわ。単刀直入に言うわよ、姫野琉生を本部へ招集する。出発は一時間後学園で待機、以上」
依乃里は辞令の一枚も持たずに簡潔にそう言うと踵を返した。
琉生
「ちょ、ちょっと待って!? な、なんで突然……?」
琉生は本部への道を突然棚からぼた餅のような幸運で得てしまった。
予予本部への行き方を模索していた琉生にとっては正に渡りに船だったが。
悠那
「怪しすぎるわ……どういうこと!?」
悠那は依乃里を最大限警戒していた。
それは依乃里がこれまでしてきたであろう所業の数々を知っているかだ。
悠那は激しく依乃里を睨みつけると噛み付くように言った。
悠那
「アンタ、まさか今度は琉生を消すの?」
琉生
「えっ? 消す……?」
依乃里
「……」
依乃里は無言で足を止めた。
悠那は汗を流しながら、この少女の一挙一投足に注目した。
依乃里
「……変な詮索はよしてもらいましょう、私は忙しいので」
依乃里は結局、悠那に対して回答をぼかしそのまま寮を立ち去った。
琉生は不安げに悠那に振り返ると。
琉生
「……危険?」
悠那
「分からない……だけど信用出来る相手じゃないわね」
そう言うと悠那はコップに注がれた水を一気に煽った。
現場にいた燈は不安そうに怯えながら悠那の腕を掴んだ。
燈
「悠那……琉生、いなくなっちゃうの?」
悠那
「それは……」
悠那には答えられなかった。
それ程までにさっきの依乃里は不自然だったのだ。
夢生
「本部招集? そもそも本部ってどこビュン?」
アリア
「さぁ? 知っているのはほんの一握りという話ですが」
愛やきららでさえ知らない本部の所在。
琉生にとっては渡りに船、でもそれが本当に美味い話かは分からないのだ。
琉生は不安そうに胸元に手を当てるが、彼女は気丈に顔を上げると。
琉生
「私、いく……。知りたい事があるから」
夢生
「るーちゃん?」
アリア
「知りたいこと? まさかあのゲシュペンストに関する事ですか?」
悠那
「ゲシュペンストΔ……!」
あの理不尽なゲシュペンストの王と目される存在。
一年生はなにも出来なかった、あそこに依乃里ときららが介入しなかったら全滅していたかも知れない。
何故ゲシュペンストΔは琉生に興味を持っているのか?
一年生、特に現場にいた悠那とアリアはある危惧を持つ。
悠那
(琉生がゲシュペンストを呼ぶ……?)
アリア
(馬鹿げている……なによりそれを理由に友達を警戒するなど絶対に認められない)
二人は、いやここにいない明日香も琉生を信じていた。
しかし着実に彼女達にゲシュペンストを呼ぶ者として姫野琉生は認識されだしていたのだ。
***
1時間後、姫野琉生は学園で友井愛と共に待合室で待機していた。
琉生
「愛先輩も招集されたんですね」
愛
「はい、もうービックリです!」
愛の下にも依乃里はやってきたようだが、逆に言うと愛の場合依乃里だから信じたようだ。
依乃里が現れたということは、逆説的にはそれだけ一大事であり、それ以上隠す物がないとも取れると愛はにこやかに琉生に説明した。
琉生
「それじゃ、本当に本部にいけるんだ」
愛
「あの……気になっていたんですけど、真実を知りたいって、悠那ちゃんや桜ちゃんはともかく、どうして琉生ちゃんが?」
ちっこくて幼く見えても、愛は聡明で琉生よりも年上。
気配せも充分出来て、そして琉生をよく見ていた。
そんな愛からして今の琉生は不思議に思えたのだ。
愛
「琉生ちゃん、ずっと必死に頑張ってきたのは知っています、でもそういう探究心というのは然程持ってなかったと思うのですが?」
琉生
「私……ゲシュペンストΔについて知りたいんです」
愛
「ゲシュペンストΔを? でもそれは本部でも……」
愛は直接ゲシュペンストΔを見た訳ではない。
だが報告ではポケモン少女に似ていたと聞いている。
琉生がその存在に拘る理由、それはやはりグレイシア少女だろう。
琉生
「愛先輩、知り合いにグレイシア少女とかいますか?」
愛
「え? いえ……残念ながら知りませんねぇ、少なくとも国内にイーブイ種に属する由来を持つポケモン少女は私だけですねー?」
海外なら他にもいたと思いますが、そう告げる愛に琉生もあまり期待していなかったのか「そう」と淡白に返した。
あのグレイシア少女、本人の言が正しければ既に亡くなっているという事。
過去のポケモン少女のデータは殆どが閲覧不可であり、琉生のような末端は当然として、教導部の愛でさえ権限が足りない。
恐らく本部に所属する職員レベルでやっとではないだろうか?
愛
「依乃里ちゃんに聞いてみては?」
琉生
「それは……」
琉生は愛ほど依乃里を信用してはいない。
下手な言葉はそれだけで言質を取られる可能性がある。
依乃里は味方ではあるが、信用の置けない味方というポジションなのだ。
やや気不味い雰囲気、そんな待合室で待っているとやがて一つしかない扉が開くと、目を瞑った件の少女は浮遊しながら入ってきた。
依乃里
「待たせたわね……二人とも」
愛
「あ、出発ですねー」
依乃里
「その前にボディチェック」
琉生
「え?」
突然黄色いサイコオーラを放つと、二人を同色のオーラに包まれた。
何が起きたのか二人は戸惑うが、愛の胸ポケットに入っていたボールペンとメモ帳が宙へと浮いた。
依乃里
「それは此方で預からせていただきます」
愛
「あはは〜、厳重ですね〜」
愛はたかがメモ帳とボールペンにも関わらず、まるでこれからホワイトハウスに入るかのような厳重さに苦笑いを浮かべた。
しかし依乃里は至って大真面目にその意味を説いた。
依乃里
「本部はそれだけ秘匿しなければならない理由があります、あらゆる痕跡を持ち帰ることも持ち込む事も許可できません、勿論本部を出る際には所在の記憶も消去します」
琉生
(そこまで……?)
いくらユクシー少女とはいえ、堂々と記憶を消去すると言ってきた事は驚きだった。
依乃里はそのまま検査を終えると、二人を誘導する。
琉生達は待合室を出ると真っ直ぐ正面玄関に向かった。
外には車が一台待機していたのだ。
琉生
「車でいくの?」
依乃里
「そうです、後部座席にお乗りください」
依乃里はそう言うと前から乗り込んだ。
琉生は先に愛を車に入れると、そのまま後ろに乗り込んだ。
琉生
「? 運転手は?」
琉生は中にはいると、3人しかいない事に気がついた。
しかし車は勝手にエンジンを掛けた、いや勝手にではない操縦しているのは依乃里だった。
愛
「う、運転免許はあるのですか?」
依乃里
「さぁね? それじゃ行くわよ?」
愛も流石に驚いた。
齢は中学生から高校生に掛けての年齢で止まっている依乃里は平然とハンドルを握っていたのだ。
車はスムーズに動き出すと、二人は呆然とした。
琉生
「前、見えてるの?」
依乃里
「見えてなければ運転しないわ、一々超能力に頼っていたら疲れるの」
車に乗り込むと砕けだ調子になる依乃里に琉生はドン引きしながら、この推し量れない少女に恐怖めいた感情を覚えた。
得体が知れないというなら、正に依乃里こそ得体が知れないの代名詞だろう。
愛
「あの……ところで本部はどこに?」
依乃里
「黙っていれば、その内着くわよ」
依乃里はそう言うと黙々と運転した。
二人はどうにも落ち着かず、依乃里の運転を不安げに見守った。
やがて、車は都市からどんどん離れていった。
視界は徐々に緑が増え始めた。
愛
「山……?」
山道を走る車は、大凡人の姿も満足に見られない過疎化したエリアへと向かっていた。
琉生は徐々に不安になり、悠那の言葉を思い出した。
琉生
(消される? 本当に?)
琉生は拳を強く握った。
いざという時は愛ちゃん先輩と一緒に強引でも逃げる。
そう覚悟を決めると。
依乃里
「そんなに怯えないでも大丈夫よ、ちゃんと道は合ってるから」
琉生
「読心!?」
依乃里
「そんな上等なものじゃないわ、ただアンタ位の年齢の子は単純で解りやすいのよ」
琉生は驚くが、依乃里からすればどうということもない。
琉生の汗、その握られた拳、そして依乃里に見せる決して折れない目を見れば、その子の精神状態を分析するのは訳がなかった。
依乃里はそれだけの超高校生級の天才だということの証明だった。
愛
「ここ、別の街……というか村?」
依乃里
「市町村で言えば一応町よ」
やがて寂れた町を走る車は、とある廃校へと向かって行った。
周囲が森に囲まれ、まるで忘れられたかのような場所に向かう車、不審がる二人を出迎えたのは見事に紅葉した木々だった。
愛
「あの……ここって学校では?」
依乃里
「ついたわよ」
校門前で車を停めると、依乃里はエンジンを停めた。
「え?」と不思議に思うの二人だが、車から出ると依乃里は言った。
依乃里
「はい、ここがポケモン管理局本部よ」
琉生は呆然と校門の奥を眺めた。
古臭い校舎は木造で、とっくの昔に放置されたかのようだった。
或いはそれが偽装なのだろうか?
だが大凡ここにポケモン少女管理局を総括するだけの施設があるとは思えなかった。
愛
「……はぁ、あの? ここで働いているのは何人でしょうか?」
依乃里
「いないわ、業務は支社で充分だもの」
依乃里はそう言うと校門を開き潜った。
二人はついていくと、雑草がいたる所生えたグラウンドに踏み込んだ。
愛
「見た目は偽装でしょうか……?」
依乃里
「いいえ、見た目通りよ、おかげで維持が大変なのだけど」
琉生
「維持って?」
依乃里
「局長がここを買い取ったの、だから維持も私の業務よ」
色々と衝撃の事実に驚く二人、やがて彼女たちは校舎に案内された。
校舎に入っても、木造建築のそれは、所々が朽ちていたり、普通の廃校であった。
やがて三人はある教室の前までやってきた。
琉生
(3年A組?)
琉生は上を見上げた。
今は生徒等一人もいないが、かつてはここに学生達が賑わせていたのだろうか。
依乃里
「所長? 姫野琉生と友井愛を連れてきました……?」
愛
「……いませんね?」
依乃里は珍しく目くじらを立てると、直ぐに動き出した。
依乃里
「所長を捜してきます、お二人はここでお待ちを」
依乃里はそう言うと直ぐに走り出した。
どうしたものか二人は教室に入った。
愛
「あら、写真?」
愛は古臭い汚れた黒板に貼られた写真を見た。
四人の男女が写った学生写真だろうか?
しかし愛はその一人に気付き驚いた。
愛
「え? これ依乃里はちゃん!?」
愛は写真をよく目を凝らした、そこに写る一番子柄な丸眼鏡の黒髪少女は依乃里に似ていた。
眼鏡をしていたり、長い三編みの黒髪等相違はあるが……。
この写真……愛は写真を裏返した、そこには日付が書いてあった。
愛
「10年前!? じゃあ依乃里ちゃんって……?」
琉生
「先輩、私も見ても?」
琉生は愛の注目する写真を見た。
どんな些細な情報でも、もしゲシュペンストの戦い終わらせられるなら可能性を模索する琉生は写真を覗き込み。
だが琉生が注目したのは依乃里と思しき女性ではなく、もう一人の活発そうな少女の方だった。
琉生
「グレイシア少女!? じゃああの人はこの学校の生徒……?」
グレイシア少女に似た、優しそうな男子高生に肩をかける快活そうな少女は笑顔を向けていた。
その姿はグレイシア少女に似ていて、そして琉生の魂が確かにざわついた。
直後……!
ズガァァァン!!
本部に衝撃が走った。
強烈な縦揺れ、爆発似た音に驚いた瞬間、琉生は目を疑った。
ゲシュペンストΔ
「攻撃意思を確認」
それは校舎から飛び出すゲシュペンストΔの姿だった。
ポケモンヒロインガールズ
第50話 本部の場所、隠された真実 完
続く……。