ポケモンヒロインガールズ





小説トップ
第三部 ネクストワールド編
第45話 人種の坩堝で

第45話 人種の坩堝で



アメリカニューヨークへと渡った日本のポケモン少女たちは、充てがわれたホテルで一泊を過ごした。
アメリカからの好意もあり、それなりに良いホテルを充てがわれたか琉生達も久方振りの満足行く休息を取れた事だろう。
そんな朝、姫野琉生は誰よりも早く目を覚ますと、何をするでもなくただストイックに筋トレを開始した。

琉生
 「はっ、はっ!」

スクワットをし、琉生は身体全体を鍛えるように全身に負荷を掛ける。
もはや入学したての頃と比べれば琉生は見違える程逞しくなったろう。
しかし琉生にとってこれはまだ通過点に過ぎないのかもしれない。
事実、その飽くなき求道心はどこから来るのか?

琉生
 「フウウウ……!」

琉生は続いて空手のように構え、大きく息を吐いた。
そのまま、舞うように演舞に入る。

琉生
 (重心は特に後ろを意識して……!)

琉生がソウルに宿すのはオオタチだ。
最大の特徴は全身に匹敵する巨大な尻尾であり、琉生のポケモン少女としての重心は必然的に普段とは違った。
実戦経験こそが、最もポケモン少女を成長させるのは、そういった変身少女達の身体の乖離こそが原因なのだ。

しかし、如何に琉生は静かにそうやって心身を鍛えようとも、ここは勝手知ったる日本の寮ではない。

明日香
 「んん? うっせぇぞ〜?」

琉生
 「あ」

琉生がいた部屋は四人のポケモン少女達も同様に宿泊していた。
かなり大きな部屋で、ベッドルームにラウンジリビング、外にはベランダもあった。
もしかすればここは高級ホテルだったりするのだろうか?
琉生や宝城明日香のような庶民には何れにせよ縁のない宿泊施設だ。

そんな中琉生はリビングで静かに鍛えていたが、流石に明日香が目を覚ました。
外を見ると日が昇っている。
まだ時差ボケもあってか、明日香も眠そうだった。

明日香
 「……そこで何やってんだ琉生?」

明日香はパジャマ姿のまま、静かにベッドルームから出てきた。
薄暗いリビングの片隅で演舞する琉生は見ようによっては不気味だった。

琉生
 「ご、ごめん……煩くした?」

琉生は演舞を中断するとペコリと丁寧に謝った。
こういう一々律儀な所は実に琉生らしく、明日香は「しょうがないな」と微笑んだ。

明日香
 「普段アタシの方が早起きなのに、珍しいな?」

明日香は立っているのも難だったからか、ソファに座ると琉生を改めて見た。
全身を上気させ、銀髪の令嬢は酷くアンバランスでもあった。

明日香
 「……ふと、思ったんだけどさ? 琉生って銀髪は地毛なんだよな?」

琉生
 「う、うん……お母さんの遺伝」

明日香はそれ聞くと「へぇ」と感心した。
東堂アリアや霧島ミアのように今やハーフも珍しくない時代だが、琉生は名前からは少し連想がしづらかった。

明日香
 「最初はアルビノかと思ったぜ」

琉生
 「あ、アルビノだと脱色するはず、それに網膜もメラニンが無くなるから赤く充血した目になる」

明日香はそれを聞くと、頭を抱えた。
明日香は難しい事は勘弁だ。
生粋のスポーツ少女は勉学には疎いのだ。

明日香
 「でもそっか〜、琉生って初めてあった時は、もう西洋人形かと思ったもんなぁ」

今でこそ琉生は少し日焼けしていたが、出会った頃は肌も今より白かったろう。
それでもアリア程ではなかったし、目立つ存在ではなかった。
ただあの頃の琉生は本当に絵本の中の存在のような感じであり、今や身体も鍛えられ、別人のようだ。

明日香
 「もう今の琉生は暴漢位一人ではっ倒しそうだよな!」

琉生
 「そ、そういう明日香だって、どんどんゴリラみたいになってる!」

自分の変化をネタにされたのが気に食わなかったのか、琉生は珍しく声を荒げた。
明日香は珍しい姿にキョトンとすると、琉生は顔を真っ赤にしてキョドりだす。

明日香
 「ハッハッハ! アタシはまだまださ! アタシの目標は闘子先輩だからな!?」

琉生は中国拳法家のようなスマートなマッスルなら、明日香は逆にプロレスラーのようなマッスルさだ。
ゴローニャ少女に最適化するに合わせて、必然的に体重増加が求められた。
元々運動神経抜群だったから、明日香のフィジカルは一年生で一番だろう。

明日香
 「いいか琉生? 人は熊には勝てねぇ、空手も柔道も習ってない熊にだ! なら簡単だ、熊になればいい! そうすりゃ最強だ!」

……なんて、明日香は無茶苦茶な論を並べる。
強さに対して強いハングリー精神がある割に、豆腐メンタルだから明日香の力説も琉生には響かないが、どうやら別の人物には届いたようだ。
力こぶを作って大声で笑う明日香に突然何かが飛来した。
ボフッ! という軽い音を立てて明日香の顔面に何かが当たった。
琉生は思わず口を塞いだ、それは枕だった。
ベッドルームから怒り心頭の顔で枕をぶん投げたのは八神悠那だった。

悠那
 「アンタ達! 煩いのよ!?」

琉生の3倍は煩い明日香の声は悠那の我慢を越えさせた。
悠那は休むべき所では休むべきと判断し、琉生たちを無視していたが、明日香の奴は時間も考えずギャハハと大声で笑っていれば、ストレスも溜まるという物だった。
ボトリ、枕は明日香の顔面からズレ落ちた。
明日香は足元に落ちた枕をゆっくり掴んで、立ち上がる。

明日香
 「へへ! とぉりゃぁ!」

明日香は自身自慢の豪腕で枕を悠那に投げ返した。
悠那は咄嗟に反応は出来ず、それを顔面で受け止めてしまう!
いきなりの事態に琉生は口を抑えたまま目を丸くした。
明日香の奴は、問答無用で投げ返すとは誰も思わなかっただろう。

明日香
 「へっへー♪ 一発は一発だぜ?」

明日香の反撃を受けた悠那は眉間を寄せてキレていた。
こいつ、空気読めないのか?
思わず距離を置く琉生は我関せずを貫くのだった。

悠那
 「上等よコラァ!?」

悠那は枕を明日香の投げ返した!
しかし、今度は明日香も直撃しない、枕をキャッチすると、枕でドッジボールを開始しだした。

明日香
 「コイツはお釣りだ、取っときな!」

ブォン!

明日香は自慢のフィジカルで悠那を圧倒する、変身前では流石の悠那でも明日香には勝てない。
悠那は頭部をスイングして、飛来する枕を回避した……が。

アリア
 「ふわあ……! もう、何事ですか……わぷ!?」

避けた先で東堂アリアが枕の直撃を受けてしまう。
しかも何故かやっぱり顔面でだ。

悠那
 「あ、やば?」

悠那と明日香はマズイと思った。
アリアは普段こそいつでも優しく微笑んでいるイメージだが、実際には怒らせるとかなり怖いタイプだった。

アリア
 「うふふ♪ 一体これは何事でしょうか?」

アリアから枕がずれ落ちると、アリアの顔は笑っていた。
ただし、安心できる笑みではないが。

明日香
 「まずい……」

アリア
 「明日香さん? 何が不味いのです? 言ってみてください?」

終わったな、部屋の隅で怯える琉生は明日香の失敗を学ぶのだった。
ただまぁ、馬鹿につけるクスリはないという事だが。

明日香
 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!? 元はと言えば枕投げてきたのは悠那だぜぇ!?」

悠那
 「はぁ!? 東堂に投げたのはアンタでしょう!?」

アリア
 「あらあら、今更どっちが悪い等私は求めてませんよ?」

悠那は顔を青くした。
アリアは笑っているように思えるが、その目の奥を見てアリアは笑っていないのだ。

アリア
 「とりあえず、二人共正座! 人様に迷惑を掛けるとは何事ですかー!?」

明日香
 「は、はい!」

悠那
 「く、屈辱だわ……!」

二人はアリアの気迫に圧されて即座に正座した。
しかし隣室に宿泊していた友井愛と星野きららは何事か聞きつけてきた。
丁度同室で打ち合わせでもしていたのかマリーも一緒に、三人は部屋へと駆け込んだ。


 「な、何事ですか〜!?」

マリー
 「Hey! Policeの参上よ!?」

ドカァン!!

マリーはドアを蹴って開けると、中に突撃した。
そして銃を両手に持ち、迷わず部屋の中に向けると、琉生達は呆然とした。
ここは銃社会アメリカだ、何か事件でも起きたのかと思ったのか、アメリカ警察流の突入法に、1年生達は硬直してしまう。
しかしマリー達が見たものは、乱れた部屋に、何故かアリアの前に正座する二人の少女という異様な図だった。
マリーは思わず両手に持った銃を降ろすと事態を飲み込もうとした。

マリー
 「……ワオ、ウチクビゴクモンの刑?」


 「あ、あはは〜? 説明してもらえますか?」

マリーは今、日本式処刑方が実施されているのか、興味津々だった。
大凡アメリカでは土下座など見る機会はなく、この日本独特の処刑方法は斬新だ。

アリア
 「あ、あはは……これはそのぉ?」

気がつけば朝7時を迎えていた。
アメリカ滞在2日目にして、この騒ぎよう。
先行き不安なのは愛だけか?



***



突如始まった枕投げから端を発した朝の騒動は、全員お叱りと言う事で改めて解決した。
愛は「修学旅行みたいですね」と苦笑いで済ましてくれたが、改めて馬鹿な事をしたものだ。


 「……それでは今日のスケジュールですが、先ずはポケモン少女ニューヨーク支部に行きます?」

一行は朝食を摂った後、ホテルの待合室に集合していた。
ポケモン少女ニューヨーク支部、たしか空港からホテルに向かう途中一度見たな、琉生は思った。
警察署に支部があるなんてなんだか不思議だが、それがお国柄なんだろう。

明日香
 「ロシアも大概だったが、アメリカも大概だな、特に八神はさ?」

明日香は悠那を流し目で見た。
その口角も僅かに上がっているのを見て、悠那は顔を険しくした。
やっぱりコイツとは仲良くなれないな、そう実感するのだった。

マリー
 「怖いお巡りさんが一杯いるけど、大丈夫よ」


 「あはは、警察学校のようなものですよ」

イザベラ
 「クス、アメリカは凶悪事件も多くてどうしてもな?」

等と元刑事のイザベラ・ホーミンは言うが、明らかにそんな朗らかな顔で言う台詞じゃないだろ、と明日香は心の中で突っ込みながら顔を引きつらせた。

アリア
 「あの、先に確認したいのですが、アメリカはゲシュペンスト被害はどの程度なのでしょうか?」

アリアはロシアでの一件を特に意識していた。
ロシアではゲシュペンストには酷い目にあった。
その性で日本のポケモン少女の疫病神扱いだ。
少なくともその件は、先に確認しておきたかった。

イザベラ
 「はっきり言おう、無い訳ではない、しかしアメリカの主なポケモン少女はFBIとして活動する事が殆どだ」

マリー
 「私なんて殆どポイントマン(カチコミ役)だし、日本で見たようなゲシュペンスト特盛り祭り! って感じのはまぁ無いわねー」

アリア
 「やはり……」

世界的に見て、日本はゲシュペンスト出現率が異常に高い。
しかし同時にポケモン少女の出現率も日本は異常に高いと言えた。
まして国土に対して人口の少ないアメリカやロシアが深刻なポケモン少女不足になるのは当然であろう。
しかし、ゲシュペンストの出現率は徐々に分かり始めている。
完全ではないが、確かにゲシュペンストはポケモン少女の居る場所に出現するのだ。
例外も多いが、ゲシュペンストもポケモン少女も不明な事が多い以上、決定的なゲシュペンストの出現予報のような事は不可能だった。

イザベラ
 「時間も押している、それでは署に案内しよう!」

イザベラはそう言うと立ち上がった。
それぞれ立ち上がると、ホテルを出て行った。
今日は快晴だ、日本の秋に比べると少し寒いニューヨークは既に冬の装いになっていた。
ホテルを出ると、明日香は耳元に触れ、今朝マリーから渡されたある物を確認した。

明日香
 「これ、ちゃんと機能するよな?」

それはロシアで渡された翻訳機と同様の物だった。
しかし此方はかなり小さい、耳の裏側、骨に触れる部分に小さな端末を接着するだけだった。
後は骨振動で英語を翻訳して耳に伝えてくれるとの事だが。

アリア
 「英語位話せるようになった方が良いと思いますが」

悠那
 「同感ね」

二人には呆れられるが、明日香には致命傷だ。
だがそれは琉生も同じ、あくまで中学生から高校生程度の語学レベルしかないから装置の恩恵は必要だ。

明日香
 「てか、先輩達なんでそんな語学堪能なんすか?」


 「あははー、人生勉強ですからー」

きらら
 「気がついたら勝手に覚えた」

愛は普段から少し惚けた優しいお姉さんをしているが、これでいて正真正銘の天才なのだ。
それこそ諜報部の藤原真希も認める天才は努力をし続ける天才でもある。
きららはそういうタイプではないが、それでも執行部として、またパルキア娘として世界各国で活動するものだから、正に習うより慣れろだ。

マリー
 「さ、警察署はすぐそこだから、歩いて行きましょ!」

そう言うと一行はニューヨークの街並みを歩き出した。
朝早くだが、ニューヨークの街は活気がある。
世界有数の大都市はロシアとは真逆の風景を見せてくれた。

明日香
 「なぁ、琉生、自由の女神は見たか?」

琉生
 「うん、ホテルから見えたね」

自由の女神はマンハッタン島にあるニューヨークでも最も有名な建築物だろう。
今やタイムズスクエアやセントラルパークと並んでニューヨークの名物だと言える。

マリー
 「なに? 自由の女神に入りたいの?」

マリーはホームの観光名所の話を聞き逃さず、直ぐに明日香に食いついた。

琉生
 「え? あれ中に入れるの?」

イザベラ
 「ええ、だけどまだ整備中で入館は出来ないんですけどね」


 「自由の女神像は1886年アメリカ合衆国の独立100年を記念してフランスより寄贈されたんですねー、1984年には世界遺産登録されてますね」

愛の謎の知識にはマリーも思わず口笛を吹いた。
アメリカ人でもそこまで正確には覚えている者はそう多くないだろう。
さりげない愛の賢さの現れだった。
愛はそれに気を良くしたのか、上機嫌にうんちくを続けた。


 「因みに牛久大仏より小さいんですねー」

アリア
 「ムダ知識と言えばムダ知識ですわね」

きらら
 「愛は雑学王ね」


 「あはは、気になった事は直ぐ調べる癖がありまして〜」

愛は浅く広くならかなり広範な知識があった。
勿論専門的な所までは愛も習熟していないが、それでも1年生の目を丸くさせるには充分だろう。

明日香
 「やっぱり愛ちゃん先輩はすげーな」

アリア
 「伊達に教導部のエースではありませんね」

明日香の意見にアリアも頷いた。
逆に言うならば3年生になる頃にはそれだけの知識と能力も求められるのだろう。
1年生達にはまだ2年後だが、それでも優秀な先輩達を見ていると先行きに不安も覚えるのだ。

悠那
 「ふん、雑学がなんだって言うの?」

悠那はそう言うと鼻息を荒くする。
愛を見くびっている訳ではないが、そんなムダ知識が3年に必須項目ではないだろう。
愛はクスリと笑った、ある程度悠那の意見に賛同しながらも、自分も否定しない大人の対応だ。


 「うふふ、勿論悠那ちゃんもきっと素敵な3年生になれますよー、誰も私のようになる必要はないのですからー♪」

きらら
 「でも闘子のようにもなって欲しくないわね……」

明日香
 「ええーなんで? いいじゃないすかー!?」

愛は苦笑した、きららは闘子を若干面倒くさく思っているのか、明日香はそんなきららに憤慨する。
何事も筋肉で解決する主義の女が二人もいると、流石に愛も同意出来ない。
そんな闘子を信望する明日香はショックを隠せなかった。

明日香
 「チェ、どうして闘子先輩の素晴らしさを皆理解してくれないんだ〜」

悠那
 (何がいいのよ? この脳味噌筋肉は!?)

アリア
 (あはは、まぁ剛力先輩は尊敬出来ない訳ではないのですが)

誰も賛同してくれない。
明日香は気落ちしていると、やがて警察署が見えた。
入口には警察官2人が立っている。

イザベラ
 「やあ、おはよう!」

警察官
 「おはよう御座いますホーミン教官!」

イザベラはいつものように挨拶すると、入り口の警察官は丁寧に敬礼した。
そんな様子を見た一年生達は、イザベラに尊敬の念を抱くには十分だった。

明日香
 「なんかやっぱり出来る大人って感じだなー?」

アリア
 「バリバリのキャリアウーマンの筈ですしね」

マリー
 「イザベラは自他に厳しい所があるけれど優秀なのは本当よ?」

マリーはそう補足しながら、警察官に軽く挨拶しながら署に入っていく。
1年生達はついていくと、先ずは受付だった。
眼鏡の女性は透明な防弾ガラスの向こうで日本のポケモン少女達を見た。

眼鏡の女性
 「へぇ、その子達が噂の日本のヒロイン達?」

琉生
 「ひ、ヒロイン?」

琉生はその言い方に戸惑った。
つくづくアメリカはヒーロー信仰があるのだなと呆れ返る。
ポケモン少女はアメリカではヒーローなのだ。
しかし日本のポケモン少女達は多分に可憐でヒロインと評したのだろう。

イザベラ
 「クリスチーナ、ガキ共は教室にいるか?」

イザベラは眼鏡の女性クリスチーナに聞くと、クリスチーナは頷いた。
教室は2階だ、勝手知ったるマリーは通路を進む。

マリー
 「因みに1階は取調室、それと現職の詰め所ね」

取調室という物々しい単語に明日香は多少萎縮する。
色んな意味で高校生には少し刺激の強い場所だ。

アリア
 「地下があるようですが、あちらは?」

マリー
 「ああ、簡易留置所と、武器保管庫、後は警察犬の住まいよ」

明日香
 「へぇ、警察犬? なに、やっぱりシェパード?」

明日香は犬に興味があるのか食いついた。
シェパードは昔見たアメリカのドラマのイメージだった。

マリー
 「ふふ、だけじゃないわよ?」

マリーはそう言うと2階への階段を登っていく。
2階はポケモン少女達の教室の他に、この署では鑑識課の使用する部屋、更に証拠保管庫もあった。
そして部屋の奥には警察発表をするため、記者を迎え入れ迎賓室も備える。

明日香
 「日本と比べると、クラシックな内装だなー」

マリー
 「そりゃそうよ、築100年だもの」

明日香はそれを聞くと驚いた。
いや驚いたのは琉生もか。
アメリカでは住宅は大切にする文化があり、この警察署のような建物はニューヨークでは珍しくなかった。
まして伝統と権威のあるニューヨーク市警が、そのクラシカルな建物を使い続けるのは当然だった。


 「ニューヨークの土地価格は世界一、それに加え新築より中古の方が値が張りますからねー」

そんなアメリカの土地事情はそこまでで、一行はある教室に入った。
1年生は古臭い木造の教室に入ると、アメリカのポケモン少女たちは出迎えてくれた。
そしてその中には、日本で見た者もいた。

リリィ
 「ハーイ! 日本のヒロインガールズ♪」

リリィ・マクガイヤーだった。
スワンナのソウルを宿す典型的なアメリカ白人女性だった。
だがそれ以外は流石人種の坩堝と言われるアメリカだ。
黒人少女もいれば、アジア系、ヒスパニックも混ざっている。
これらバラバラの民族を纏めてアメリカ人なのだろう。

黒人少女
 「え、えと、ようこそアメリカへ!」

黒人少女は典型的なアフリカ系か、肌は黒人の中でも極めて黒く、髪は天然パーマが掛かっている。
身長はアリア並にあるが、その性格は内向的なのかおどおどしていた。
この時期から考えれば入学したての1年生なのだろう。

明日香
 「あはは、琉生そっくりだな?」

琉生
 「……」

否定したくても否定できないな、内心琉生は複雑だった。
琉生も自分を内向的だと思っているが、多分自分なりに頑張るだろうと思うと、ダブってしまう。
ただ最大の問題は今の琉生と彼女は同レベルで、入学したての琉生はそれ以下だった事か。

イザベラ
 「諸君静粛に! 彼女達が日本から来たポケモン少女達だ! 短い期間だが、相互交流の機会だ! 学ぶことも多いだろう!」


 「はい、それでは自己紹介させていただきますね? 私はニンフィア少女の友井愛です♪ こう見えても18歳なんですよー?」

きらら
 「パルキア少女の星野きららよ、今回は監督役ね」

アリア
 「東堂アリアと申します、ゴチルゼルのソウルを持ちますわ」

明日香
 「アタシはゴローニャ少女! 宝城明日香だぜ! よろしくな!?」

悠那
 「八神悠那、サザンドラ少女よ」

琉生
 「そ、その……オオタチ少女です、姫野琉生、といいます……」

やっぱりというか、遠慮なく男勝りに自己アピールする明日香に比べ、琉生はなんとおとなしい事か。
しかしアメリカのポケモン少女にとって日本のポケモン少女は憧れだった。
いや、日本が憧れなのだろう。
アメリカの少女達は目をキラキラさせていた。
そんなアメリカのポケモン少女達も自己紹介をする。

リリィ
 「リリィ・マクガイヤーよ! スワンナ少女♪」

ヒスパニック系少女
 「私はアマンダ・ハンフリーです、アリアドスのソウルを宿しています」

身長は160センチ程、線が細くメキシコ系にも思えるアマンダはそう言うとニコリと笑った。

明日香
 「スパイダーマンに似てる!」

アマンダ
 「スパイダーマンって? マイルズ・モラレスの事?」

流石アメリカヒーローか、向こうでも当然の認知度だ。
思わずアマンダもクスリと笑ったが、実力は如何にという所か。

黒人少女
 「フィアナ・キニーです、そ、その……ミルホッグのソウルを持ってます」

一方でこっちの肌が異様に黒い少女は、かなりナードな印象を受ける。
身長は高い一方で、身体は細く、性格も大人しい。
これは琉生も好感が持ちやすいタイプだろう。

アジア系
 「ヤン・アーロン、コジョンドのソウル憑依者です」

アジア系少女は中国移民だろうか?
日本人に似ているが、目は糸目で髪は三編みだった。
この四人の中ではスタイルも良く、性格は落ち着いているのかやや無口だった。

明日香
 「アメリカもやっぱり少ないな」

リリィ
 「そうなのよー、この支部2年生がいないのよ?」

マリー
 「3年も私だけだけどね?」

そう聞くと、如何に日本は充実しているか分かるというものだった。
イザベラはお互いの紹介を終えさせると、愛を見た。

イザベラ
 「日本の方々もよかったら、こちらの授業を受けて下さい、基本は座学ですので」

明日香
 「うげ!? まじかー?」


 「あはは〜、皆授業遅れてますから丁度いいですね〜」

アメリカのポケモン少女は警察の管理化とはいえ学生は学生だ。
ロシアのポケモン少女のように軍人的な規律は感じないが、それでもアメリカハイスクールの授業は明日香を悩ませる。

イザベラ
 「それでは好きな席に座れ! 授業を開始する!」

琉生
 「そういえばアメリカは普通に大人が授業するんだ?」

琉生は大人しく席に付くと、ふと気がついた。
日本では愛がしているが、普通なら大人が教師をするのが当然の筈だ。


 「あはは、日本の場合情報の秘匿が必要ですからねー?」

愛は思わず苦笑した。
琉生の言うとおりだが、日本では民営故に情報の機密保持のため、外部の人間と極力関わらせない方針の為だった。
勿論その限りではないが、専門医の瀬川弓子や局長の一ノ瀬純などいない訳ではない。

悠那
 「……」

悠那は何も言わなかった、本来はそれを嫌いテロリストになったにも関わらず、組織の異常とも言える秘密主義、何故組織はそれ程事実を隠蔽する?
悠那にとってそれは許せざる暴挙だ、彼女の命を救い、そしてその性で存在を消された命の恩人に報いるため、悠那は戦わなければならない。
しかし、今は堪えているのか、その表情はクレバーに、ただ黒板に向かっていた。

授業はアメリカ主導で進む、教室は古臭くても設備は新しいのか、生徒たちはタブレット端末を教科書であり、ノートとして扱った。
琉生は授業を聞きながら考える。
こちらでは平穏に過ごせるのだろうか、と。



ポケモンヒロインガールズ

第45話 人種の坩堝で 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2021/11/15(月) 20:19 )