ポケモンヒロインガールズ





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第三部 ネクストワールド編
第42話 琉生の危機、アリアの挑戦

第42話 琉生の危機、アリアの挑戦



アリア
 「さて、次鋒ですが」

宝城明日花の戦いの後、次鋒選びは始まった。
愛は悲しいような呆れたような顔で落胆していた。
遠征先で怪我なんて、最も望んではいなかった事だ。
お願いだから無茶は本当にやめてほしいものだ。

琉生
 「次、私が行っていい?」

姫野琉生は小さく手を上げた。
普段消極的で、物静かな少女がやる気をみせたようだ。
八神悠那は目を閉じ、両手を組んで胸を持ち上げた。
そして、やや不機嫌そうに忠告する。

悠那
 「負けんじゃないわよ」

琉生
 「……」

琉生は無言で悠那を見た。
悠那は傲慢で高潔だ。
琉生の敗北は自分の株を落とす事を意味する。
それ以上に情けないライバルを見たくないのだろう。

アリア
 「えと、八神さんも問題はないようなので、琉生さんお願いします」

琉生は小さく頷いた。
その西洋人形のような少女が、危険なバトルフィールドに赴く。



***



サーリャ
 「ふぅん……もうジャイアントキラー登場か」

一方でサーリャ・カカーポポフはニヤリと笑った。
盗聴器を仕掛けてあり、サーリャは日本側の作戦が筒抜けだった。
今回模擬戦の提案、それは双方の予定にはなかったものだ。
サーリャが独断で組み込んだ、その意味は双方にとって大きな意味がある。

サーリャ
 「シェンコ、出番だぞ?」

シェンコ
 「任務了解」

セキタンザン少女のウラジミール・シェンコ。
彼女もまた、鉄面皮でサーリャの命令を第一と考えていた。
その二つ名はサイボーグ、高い実力と冷徹さを併せ持つロシアのエースポケモン少女だ。

シェンコは金網の中へと入ると、琉生と対峙した。
シェンコは静かな表情の内側で、琉生に特別な思いを抱いていた。

シェンコ
 (ジャイアントキラー……サーリャ中佐はいたく気に入っている……確かに優秀だが、とりたてて特別な力があるとは思えない……)

サーリャ
 「それでは、第二戦始めるぞ!」

シェンコ
 「了解、メイク・アップ!」

琉生
 「メイク、アップ!」

二人は同時に変身した。
シェンコは熱く重たい身体を着地させると、ズシンと揺れる。
琉生はやや、態勢を低くして構えた。

サーリャ
 「第二戦、始め!」

シェンコは熱を放つと、琉生を待ち構えた。
初動においてシェンコの身体は重い。
琉生にスピードで挑むのは無謀と分析する。

対して琉生はどうだ?
琉生はいつものように自問自答した。

琉生
 (オオタチさん、やれる?)

しかしオオタチのソウルは応えない。
とことん興味のない物には興味のないソウルだ。
まぁソウルと交信できるポケモン少女こそ異端なのだが、琉生はソウルから引き出される力を確かめる。

琉生
 「ふっ!」

琉生は地面スレスレまで頭を下げると、走り出した。
馬鹿正直に真っ直ぐだ、当然シェンコも反応する。

シェンコ
 「ロックブラスト!」

シェンコは全身から焼けた石炭の弾丸を無数に発射した!
それはショットガンのようにばら撒かれ、回避がし辛い。
サーリャはこの機会を見逃さなかった。

サーリャ
 (さぁ真価を見せてみろ姫野琉生!?)

琉生は鈍化した主観時間の中にいた。
オオタチは相変わらず琉生に丸投げし、琉生に貸す力は最低限に留める。
それでも琉生は、無数に飛び交う石炭の弾丸の中をすり抜けていた。
琉生にとってそれは止まった時間の中の光景に思えた。

当然目を見開いたのはシェンコだ。
残像を伴い、琉生は最短距離でシェンコに距離を詰める。

シェンコ
 (影分身!? 違う!? 高速移動!?)

琉生の高速移動はかなり特殊な使い方だ。
通常高速移動は純粋にスピードを持続して上げる技だ。
しかし琉生はそれを一瞬の効果にする代わりに、残像を生む程のスピードに変換するのだ!

シェンコ
 「ち!?」

シェンコは咄嗟に両腕を顔面の前で固めた。
琉生は構わず、尻尾を振り上げる!

琉生
 「はああ!」

ドカァ!!

琉生の得意技、叩きつけるだ!
シェンコの身体が後ろにズレた!
ガード越し響く一撃だ。
シェンコはゾッとする。
これがゲシュペンストを一撃で刈り取る技なのだと。

琉生
 (ダメージは?)

一方、琉生は叩きつけるの反動を利用して、後ろに飛び退いた。
ガード越しに与えた一撃のダメージを計測する。

サーリャ
 (岩タイプはノーマル技は今ひとつにできる! シェンコ! 恐れるな!)

シェンコはガードを解くと、琉生を見定める。
岩タイプの身体越しに響く一撃、しかしシェンコは無事だった。
シェンコはこの攻防で琉生を見極めた。

シェンコ
 「なる程、強いですね」

琉生
 「え?」

シェンコ
 「ですが、勝ちます!」

シェンコはそう言うと、熱湯を放った。
それは放物線を描いて、琉生を襲う。
しかし、琉生はそれを円を描きながらかわす。
構わない、シェンコに欲しいのは僅かな猶予だ。

シェンコはその隙に自分の身体に熱湯を降らせた。
シェンコは苦痛に身を歪めながら、全身を発熱させ、蒸気を吹き出させた!

ポッポー!

まるでSL蒸気機関車のような音が、バトルフィールドに響いた。
シェンコはその瞬間、もはや止まれぬ暴走機関車と化す!

シェンコ
 「はああ!」

シェンコは真正面から琉生にタックルを仕掛けた!
時速60キロは出すシェンコのタックルは凶悪な一撃を連想させる。
琉生は身を捻ってそれを回避すると、シェンコは止まる事もできず、大きく旋回しながら琉生を追尾する!

琉生
 「く!?」

サーリャ
 (くく、単純なスピードとパワーだ、シェンコの体重から繰り出される一撃は、当たれば一撃もあり得るぞ?)

琉生は小回りは絶望的に効かないが、最高速はあるシェンコに苦戦した。
しかも、シェンコはフィールドを滑りながら弾幕を張ってくる!

シェンコ
 「ロックブラスト!」

琉生
 「くっ!?」

数発、琉生は被弾してしまう。
赤く赤熱するロックブラストは、琉生に僅かでもダメージを蓄積させる。

琉生
 (カウンターを決める? それしか手立てがない!?)

琉生の戦い方はシンプルだ。
白兵戦で決着をつけるのみ。
格闘タイプの真似事のような戦い方しかできず、しかもそれも限界がある。
琉生は無傷で勝つ事が難しい少女だ。
愛は冷や汗を流し、アリアは緊張して見守る。
悠那は腕組をしながら、琉生の苦戦に腕に力を込めた。

悠那
 「琉生! 迷うな! お前はお前のやり方でやれ!!」

悠那が叫んだ。
琉生は驚いて悠那を見る。
あの悠那が、琉生を真っ直ぐ見ていた。
そうか……悠那は辛いんだ。
琉生は改めて自分の手を見た。
そして、静かに拳を握る。

シェンコ
 「はああ!」

シェンコは迫る! まるで暴走機関車のように!
しかし、琉生は極めて平静だった。
悠那に叱責され、己を見つめると、ちっぽけな己が見えてくる。

オオタチ
 『……!』

やがて、琉生の中のソウルが立ち上がった気がした。
琉生はオオタチのソウルから力を引き出す。
シェンコがぶつかる瞬間、琉生は飛び上がった。

シェンコ
 「な!?」

シェンコは止まれない!
琉生は背面跳びで、シェンコのタックルをかわすと、後ろから尻尾を叩きつけた!

琉生
 (恐れるな私、私はオオタチだ!)

シェンコはぐらつくもUターンする。
再びロックブラストの態勢だ!

シェンコ
 「はああ!」

シェンコはロックブラストを放つと、琉生は駆け出した。
四足になり、オオタチそのもののように、シェンコに詰める!

サーリャ
 「正面からぶつかる気か!?」

悠那
 「それでいい! 私に勝ったお前が弱腰になるな!!」

琉生は神経を極限まで研ぎ澄ませた。
シェンコのあらゆる動きを観察し、オオタチの鋭い目は筋肉の僅かな動きすら見逃さない。

琉生は地面を撫でるように、尻尾を水平に振るった!
シェンコは咄嗟の足元への攻撃に反応できない!
身体をぐらつかせ、前のめりに倒れる!

シェンコ
 「く!? しかしこのまま押し潰す!」

シェンコはボディープレスの態勢に入った。
圧倒的な体重差を活かした質量攻撃だ。
だが、琉生はその時既にシェンコの視界にはいなかった。

シェンコ
 「え?」

シェンコの頭上に影が射した。
高速移動を極限まで極め、僅かな技を研ぎ澄ます。
琉生は自分の技貧乏を呪った。
しかし、それは違う……だからこそ、一つ一つの技を絶対の物まで昇華させる。
なぜ? ポケモンは4つまでしか技を使えないのか?
4つで充分なのだ、それを奥義と呼べるまでに昇華出来るなら!

琉生
 「叩きつける!!」

パァン!

まるで銃の発砲音だ。
琉生の身体が空中で一回転した。
遠心力を受けた尻尾は音速を超えたため、空気が爆ぜたのだ!

ズダァン!!

琉生の強烈な叩きつけるは、シェンコの背中を強打した!
シェンコは一瞬で意識を刈り取られ、フィールドに叩きつけられた!

琉生が着地すると、そこには、変身の解けたシェンコが横たわっていた。

琉生
 「はぁ、はぁ……!」

一方で琉生も息が荒い、その原因は愛が知っていた。


 (琉生ちゃん、シンクロ率が一瞬90%を越えました……危険すぎます!?)

今の琉生のシンクロ率は60%台まで低下しており、人間味を取り戻している。
しかし一瞬だが、琉生は人間とポケモンの境目が曖昧になった。
人の身では到底できないポケモンの技、琉生の強さの源泉でもあるが、危険な力だ。

琉生
 「あの、えと……だ、大丈夫ですか?」

琉生は変身を解くと、シェンコを抱き上げた。
直ぐにサーリャはフィールドに入ると、気絶したシェンコを受け取る。

サーリャ
 「……お見事、勝つ気だったんだがな?」

琉生
 「す、すいません……模擬戦なのに」

琉生はいつものおどおどした顔に戻ると、サーリャに謝った。
サーリャはこの慎ましやかなヤーポンに思わず苦笑してしまう。
サーリャは盗聴器を仕掛けてまで、勝つつもりだったのだ。
日本のポケモン少女は素晴らしい、それでもロシアのポケモン少女の素晴らしさを証明する筈だった。

サーリャ
 「勝者ならせめて勝者らしくしたまえ」

琉生
 「……あ」

琉生は顔を俯かせると、サーリャの言葉を反芻した。
琉生の態度は敗者を諌めるだけ、そう指摘されたも同然な事に気づいた。
一方、サーリャは苦笑する。
これがあの野生の獣か何かだった少女なのだ。
戦っている時はきっとがむしゃらだったのだろう、こんな優しい少女がいざ戦えば誰よりも勇敢で無鉄砲なのだから笑うしかない。

サーリャ
 「さ、戻りたまえ。後、念の為医務室へ行くよう」

琉生
 「は、はい」

サーリャはそう言うとシェンコを背負ってバトルフィールドを出た。
琉生は慌てて、愛たちの下に向かう。

アリア
 「やりましたね琉生さん! 2連勝ですよ!?」

悠那
 「ふん、当然よ、私に勝った女が簡単に負けるなんて許さないんだから!」

1年生達は琉生の勝利を喜んだ。
琉生は正直勝った事は嬉しいが、勝つことは目的ではなかった。
だから少しだけ戸惑ってしまう。
この幼い身体に求道者の意思を宿してしまった事は、琉生を異質に変えてしまったのかもしれない。

琉生
 「えと、あの……私、医務室に行かないと」


 「あ! それなら私も同伴しますー!」

きらら
 「そう、なら私は皆を見守るわ」

愛は心配そうに琉生を見た。
琉生はケロッとしているが、愛はこの少女がある爆弾を抱えているというのを知っている。
そしてそんな親友の心境を察したきららは、この場を受け持つと言った。
愛は琉生の手を握ると、早足で琉生を引っ張った。

琉生
 「あ、愛先輩?」

琉生はこの様子のおかしな先輩に戸惑った。
愛は周囲に誰も聞かれない場所まで琉生を誘導すると、足を止め振り返った。


 「琉生ちゃん? 身体は大丈夫ですか?」

琉生
 「え? 身体、ですか?」

愛は琉生の顔をじっと見た。
このお人形のような美しい少女を、ただ心配した目で。
琉生は大したダメージはない、多少ロックブラストを被弾したものの、何れも軽傷だった。


 「琉生ちゃん、変身時、自分が自分であると実感、出来ましたか?」

琉生
 「は?」

琉生は意味不明だった。
愛は首を振り、自分の説明の下手さを恥じた。
だが、そのパーソナリティが重要なのだ。


 「ポケモン少女は人間とポケモンのソウルが融合した存在です……変身するとは、ポケモンになると言えます」

そう、脆弱な人間の皮を捨て、ポケモンの身体に再構築するのがポケモン少女。
でもどこまでが人間で、どこからがポケモンなのかは誰にも分からない。
だから愛は心配してしまう。
もし、琉生が自分が人間ではなく、ポケモンだと認識したのならば、その時戻って来れるのか?


 「琉生ちゃん……人間性を捨てないでください、私はただ怖いのです……」

愛は今もデータとして残っている琉生のシンクロデータを不安視する。
シンクロ率の高いポケモン少女程強いとはいえ、90%なんていうシンクロ率は殆ど人間性を捨てているようなもの。
愛は琉生が人間を辞めてしまう事を恐れた。

琉生
 「だ、大丈夫、です……その、説明は出来ないですけど、私は、人間です」

琉生はたどたどしいが、愛に自分の状態を説明した。
少なくとも今は人間だ、そう今は。
琉生は通路の奥に医務室を発見すると、走り出す。

琉生
 「あのっ! 私怪我見てもらわなければいけないんで!」


 「あ、ま、待ってください!」

琉生はその時不安の中にいた。
そう、愛の言葉に心当たりがあったからだ。
変身中琉生は自分をオオタチだと認識していた。
人間に戻れたから良かったが、あれこそが愛の恐れる人間性の喪失なんじゃないか?
琉生は途端にそれが恐ろしくなった。
オオタチとシンクロする事は恐ろしくはない。
寧ろ自然であり、そうであるべきとさえ思う。
だけど、それは駄目なんだ。
じゃないといつか、琉生は本当に野生の獣に堕ちてしまう。

琉生
 (だめ!? 皆を悲しませちゃ駄目だ! 私は人間! 私は姫野琉生!)

しかし、ソウルは燻っている。
まるでオオタチは、心の闇の中で、ただ琉生に視線を送るように。
そう、誰よりも大切で、信頼したオオタチが、まるでお前も堕ちろと言っているように感じてしまう。



***




 「琉生ちゃんが?」

そこは日本、誰も知らない本当のポケモン少女管理局本部に局長の一ノ瀬純はいた。
その脇には神成依乃里がタブレットPCを手に持って。

依乃里
 「はい、かなり危険なシンクロ率です」

依乃里は全世界のポケモン少女のデータを握っている。
それはリアルタイムで依乃里に届けられ、依乃里の超天才的な処理能力によって、捌かれていく。
依乃里は今ロシアにいる姫野琉生が危険域にあったと、純に説明した。


 「やだなぁ、あんな小さな子を失うなんて」

純は本当に悲しそうだった。
そこは、本当のポケモン少女管理局はある意味で異質だった。
外からの外観は既に放棄された山間の古い木造校舎。
そして、純と依乃里がいたのは、担任室。
そこには都心の偽装した管理局のようなハイテク機器も、インフラもない。
ただ、純は黒板に貼られた写真を見た。

写真にはまだ若い一ノ瀬純と杉森恭介、そして綺麗な茶髪を腰まで伸ばし、元気な笑顔を浮かべる活発そうな少女が写っていた。


 「望(のぞみ)……どうして僕たちは」

その少女の名が呟かれた時、依乃里は珍しく顔を険しくした。
西田望(にしだのぞみ)と呼ばれた少女は、今はこの写真の中にしか存在しない。
写真の奥、遠慮気味に黒髪お下げを垂らした眼鏡の少女が写っている。
神成依乃里、もう10年以上昔の話だ。

依乃里
 「姫野琉生を呼び戻し、記憶を調整しましょうか?」


 「でも、パフォーマンスは低下するね」

依乃里の宿すユクシー少女の力を使えば、記憶を作ることも消すことも出来る。
意図的に姫野琉生のシンクロ率を下げる事も依乃里なら可能だった。
だが記憶の消去によって、琉生のシンクロ率を下げる方法では琉生のポケモン少女としての性能を低下させてしまう。


 「今後に備えると……出来ればやめておきたいよね」

依乃里
 「私は局長に従います」

依乃里はそう言うと、再びタブレットPCに向き合った。
純は内心では、これではまた恭介に叱られるなと思った。


 「……どうしてポケモン少女は生まれたのだろう?」

依乃里
 「……?」


 「ゲシュペンストさえいなければ……産まれなかったのかな?」

依乃里
 「……」

依乃里は純のその疑問に答えられなかった。
ポケモンはゲシュペンストに憎悪を持つ。
全てを滅ぼし、肉体を失ったポケモン達は放浪の果てに、少女たちの肉体に宿った。
しかし、ゲシュペンストはこの世界にまで現れた。
必然的にポケモン少女達はゲシュペンストに立ち向かう。
今もゲシュペンストは水面下で不吉な兆しを残すのだから。

依乃里
 (ゲシュペンストの変異体……一体この世界はどうなるの?)

それは、依乃里のタブレットPCに映された映像だった。
赤い体色のゲシュペンストβ、巨大な羽を持つゲシュペンストγ。
世界は今も平和の裏で混沌としている。



***



アリア
 「くっ!? はあ!」

一方、ここはロシア。
次のカードはゴチルゼル少女の東堂アリアとカラマネロ少女のルフィナ・バザロフ。
ルフィナの放つ悪の波動をアリアは避けると、サイコキネシスを放った。
しかし悪タイプであるカラマネロ少女のルフィナにエスパー技は通用しない。
これは絶望的な相性差だ。
しかし、アリアは諦めない。
サイコキネシスはフィールドを揺らし、ルフィナをぐらつかせる。
その間にアリアは踏み込んだ。

ルフィナ
 「っ! はぁ!」

ルフィナは咄嗟に悪の波動を放った。
しかしアリアはそれを読んでいた。
天体ポケモンゴチルゼルの未来予測はあらゆるエスパーポケモンの中でも高いレベルにある。
アリアはテレキネシスを放ち、ルフィナを浮遊させる。
この技は数少なく悪タイプに通用するエスパー技だ。
ルフィナは身体が浮遊すると、悪の波動は狙いを外す。

アリア
 「この隙、逃しません!」

アリアは拳を握る。
ルフィナの顔面に渾身の右ストレートを放った!

ルフィナ
 「あ、く!?」

ルフィナは咄嗟に目を光らせた!
ルフィナの催眠術だ!
未来予測の得意なゴチルゼルに対し、ルフィナの宿すカラマネロの得意なのは洗脳である。
今、ルフィナはアリアを見捉える……が!?

ルフィナ
 「目を閉じて!? ああっ!?」

ドカァ!

アリアは目を閉じていた。
ルフィナの戦力分析はアリアも怠らなかった。
ここまで尽く不利な組み合わせ、アリアはこの不自然さから、自分の想定相手をルフィナと定めていた。
そしてルフィナの宿すカラマネロというポケモン事も調べ上げた。
催眠術は相手の目を通して掛ける洗脳だ。
ならば目は必要ない、エスパータイプは心で視るのだから。

ルフィナ
 「うう!? 悪の波動!」

ルフィナも身体は強くない。
鍛えているとはいえ、肉体的には人間程度のアリアの右ストレートに怯むが決定打には至ってない。
ルフィナは直ぐに悪の波動で反撃した。
アリアは直撃をくらい吹っ飛んだ。

アリア
 「ああっ!?」

アリアは地面に倒れる。
一方ルフィナもテレキネシス状態で殴られた事で、金網フェンスにぶつかった。
ルフィナはフィールドに降り立つと、アリアを見た。
アリアも立ち上がる、アリアは呼吸を整えた。

アリア
 「すぅ……はぁ!」

アリアは呼吸を通し、ソウルの力を引き出していく。
アリアから放たれるサイコオーラが可視化された。
ルフィナは不味いと考えた。
直ぐにトドメを刺すために、悪の波動を放つ!

アリア
 「っ!」

アリアは目を見開いた。
その瞬間、ルフィナの足元で爆発が起きる!

ルフィナ
 「きゃ!?」

それは未来予知だった。
冷静に考えれば、悪タイプのルフィナには無力だが、しかしルフィナに、事戦場においてそれを判断することは不可能だった。
ルフィナは怯んでしまい、致命的な隙を晒す!
アリアはこの瞬間を決着に選んだ!
悪の波動を回避し、ルフィナに接近すると拳を構えた。
ルフィナは咄嗟に顔面を腕で護る。
しかし、アリアは単調に二度も同じこと等しはしなかった。
ルフィナは臆病にも防御を固めた事で、アリアを視界から見失う。
次の瞬間、アリアはルフィナの後ろからヘッドロックを仕掛けていた!

ルフィナ
 「な!? かは!?」

アリア
 「落とさせていただきます!」

アリアはルフィナの頸動脈を締め付けた。
ルフィナは咄嗟に念動力を練ろうとするが、呼吸を止められ、パニックの中、正確に念動力を練られない!
やがて、ルフィナの身体から力が抜けた。
アリアは絞め技で、ルフィナを失神させたのだ。

サーリャ
 「ああ……!」

サーリャは頭を抱えた。
今度こそ勝てると踏んだのだが、また負けた。
それにしても藤堂アリアはよく身体を鍛えている、それは見事だと感心した。
それに対してルフィナは基本接近戦を経験したことがない、身体も貧弱であり、まさかフィジカルで勝負を決められるとは思わなかった。

アリア
 「はぁ、はぁ!」

サーリャ
 「そこまで! ヤーポンの勝ちだ!」

アリアは呼吸を整えると、変身を解除する。
悪の波動の直撃を受けたアリアもダメージはあった。

きらら
 「お疲れ様」

きららはアリアの後ろから現れる。
訓練はつい熱が入り、怪我人が出そうな勢いだ。
そのままこの訓練は最終戦を迎える……。



ポケモンヒロインガールズ

第42話 琉生の危機、アリアの挑戦 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2021/09/04(土) 12:49 )