第39話 エキシビジョンマッチ、そして
第39話 エキシビジョンマッチ、そして
関東支部のお膝元、ポケモンバトルの会場として使われるドーム型ポケモンスタジアムには三人の女性がいた。
だが、その女性達は一人を除いて人間の姿はしていなかった。
由紀
「……挑戦受けてくれて、改めて感謝するわ……!」
そう言うと、ガシガシとスコップ状の爪を打ち付けるのはサンドパン少女に変身した砂皿由紀だった。
その隣には同級生の七海桜が、ポケモン少女管理局指定の制服を着て立っていた。
由紀はそんな桜を睨みつけるように見る。
由紀
「……言っておくが、まだ信用した訳じゃないのよ?」
桜はそれを聞くとニヒルに笑った。
だからこそ、桜はこれに立候補したのだから。
桜
「今回のエキシビジョンマッチ、審判がいるでしょ? なら、逆に私の方が良くない?」
由紀はチッと舌打ちすると、目の前で既に待ち構える『特別な相手』を見捉えた。
由紀
「元ポケモンバトル、リアルファイト部門1位出本麗花……準備はいい?」
それは九州支部に所属する3年の出本麗花だった。
その容姿端麗な姿からは予想も出来ない、金属の装甲に覆われたボスゴドラ少女は、ゆっくりと目を開いた。
麗花
「今の1位は君だろう? 砂皿由紀君」
由紀
「アンタに勝たずに1位じゃ誰も納得しないのよ! 私はアンタをここで倒して私の実力を証明する!」
麗花
「……それは、誰にかな?」
麗花は静かに由紀を見捉えた。
由紀はその得も知れぬプレッシャーに怯む。
その麗人は、まるで闘う事を知らぬというような、まるでポケモンバトルをする者とは思えない異端の気配を持っていた。
由紀や明日香のように、血の気が多くて血気盛んな者が多いこの業界において、麗花の気配はまるで氷だ。
麗花
「いや、問答はここでは控えよう……もう私は引退した身だが、君に精一杯付き合おう」
由紀は構えた。
桜はコホンと咳を打つと、中央へと歩いた。
固く詰められた土のフィールドには白線が引かれ、スポットライトがフィールドを強く照らす。
観客もいない、当然これは撮影もされていない。
由紀は前の運動会の際、このエキシビジョンマッチを組む事に成功したのだ。
由紀
(闘子の永遠のライバル……突き抜け過ぎた二強、か)
由紀は現役時の出本麗花の戦績を思い出す。
20戦16勝2敗2分け、その2敗2分けも剛力闘子にしかつけられていない。
桜
「それではエキシビジョンマッチを開始します! ルールはリアルファイト部門と同じ、フィールドにある物全てを利用して構いません!」
両者距離は20メートル。
由紀は闘志を燃やし、麗花は涼やかにそれを流した。
桜
「それでは、両者正々堂々! 試合開始!」
由紀
「はぁ!」
由紀は地面に爪を突き刺すと、周囲の地面が液状化しだした。
まずは地形を有利にする、激しい闘志を持つ由紀のクレバーな戦術はいつも通りの定石だった。
麗花
「砂地獄か……」
由紀
「らああ!」
由紀はスコップ状の爪を地面に刺したまま、麗花に真っ直ぐ突き進む!
まるで砂煙を巻き上げる暴走機関車のように由紀は爆走して、そして麗花の目の前で爪を振り上げた!
麗花
「くっ……!?」
爪は麗花を捉えない。
由紀の狙いはそちらではない。
砂を巻き上げたのだ。
それは即席の目潰し、顔面に粒子化した砂が麗花の目を襲う!
由紀
「まだまだ!」
由紀はラッシュを麗花に仕掛けた。
滅多打ちするように、スコップのような爪を麗花に打ち付ける!
キィン! キィン!
由紀
(ち!? 硬え!? こっちの爪が先にやられそうだわ!?)
しかしあまりにも麗花は堅牢だ。
両腕を上げて、顔面を守る防御の構え、しかし砂掛けが効いて間合いは測れない筈だ……だが、不意に麗花の全身が眩く輝いた!
麗花の装甲から放たれる光線が由紀を襲う!
由紀
「うわああ!?」
桜
(メタルバースト? 自分の耐久力に任せてえげつない戦術を取るわね!)
由紀は光線を受けて、地面に転がった。
幸いダメージは小さい、由紀の白兵戦がまるで通じず、そのためダメージを上手く蓄積できなかったのだ。
麗花
「どうした? その程度か、今のランキング1位は?」
由紀
「くっ!?」
由紀は起き上がると、苦渋を舐めた。
麗花は構えを変えず、それどころか目も開けていない。
だが、由紀はそのオーラを正に感じていた。
由紀
「壁……か」
麗花に破れた者が誰もが言った言葉がある。
巨大な壁だ、なにをやっても崩せない。
それが麗花の二つ名、鉄壁の麗花のオーラだった。
由紀
(考えろ砂皿由紀、どうすれば崩せる? どうすればあの女を地に伏せられる!?)
かつてこの化け物相手に一進一退の攻防を繰り返した闘子は、これを正面から破ってみせた。
しかしカイリキー少女の闘子でも、麗花相手に簡単に勝てた訳ではない。
あの凶悪なメタルバーストは時に闘子さえも苦しめた。
由紀
「ち……やってやらぁ!」
由紀は飛び上がると、地面に潜り込んだ。
由紀最大の必殺技、穴を掘るだ。
サンドパン少女の身体はどんな硬い岩盤でさえも容易く貫いてみせる。
そして絶対的なソナー性能を誇る由紀は、地上の敵を見逃すことは無い!
由紀
「うらら!!」
由紀は麗花の真下から強襲した。
メタルバーストで読まれるか?
それは由紀にとって分の悪い賭けだ。
しかしこれしか、麗花にまともなダメージを与えられる手段が今の由紀にはない!
麗花
「……私を単なる固定砲台と思ったなら心外だな」
由紀
「な!?」
由紀の攻撃は地面を揺らし、麗花の身体を沈めこむ。
岩鋼タイプであるボスゴドラ少女にはかなりダメージがあるはずだった。
だが、麗花のスケイルアーマーのような装甲は光沢を増して、由紀の爪をいとも簡単に弾いた。
由紀
「鉄壁……!?」
麗花
「近づいてくれてありがとう、目が見えないんでな」
麗花はその瞬間を鉄壁を積みながら、じっくりと待っていた。
静かな闘志を持つ麗花は、それ程カッカと熱くならない。
ただ、冷静に勝利条件を揃えていく。
由紀は咄嗟に身を退こうとした……が、麗花は由紀の腕を掴んだ!
麗花
「こういう技もある!」
麗花は、由紀を力技で地面から引き抜くとその全身を使って、由紀にボディープレスを行う!
由紀
「がは!?」
由紀は無防備に強烈なボディープレスを受けてしまった。
麗花はゆっくりと立ち上がると、目を開いた。
麗花
「レフェリー、どうするの?」
桜
「あ……! サンドパン少女戦闘不能! ボスゴドラ少女の勝ち!」
桜はあまりの実力差に呆気にとられていた。
由紀は決して弱くない、運動会でも、そしてポケモンバトルにおいてもその実績はそれを証明し続けた。
だが、これは想定外だ……2年生と3年生ではまだこんな実力差が存在するのか?
麗花
「ふぅ……済まない、立てるか?」
麗花は砂埃を払うと、桜に手を差し出した。
いささか戦う者には思えない、呑気な姿だったが、由紀を見てその様子に気がついた。
由紀
「ヒック! うぅ、くそ! うえぇん!」
泣いていた、顔を右手で覆い、子供らしく泣いていた。
それを見た麗花は悲しそうに手を引っ込めた。
現役時代何度でも見てきた光景だった。
勝てば嬉しい、負ければ悔しい。
そんな当然の感情が麗花には欠落している。
麗花にとって負けは悔しいものではなかった。
天然で普段はほんわかと落ち着いているが、麗花は一般の戦士とはかけ離れていた。
だから、敗者に手を差し出してしまった。
それが相手のプライドを傷付けると理解せずに。
麗花
「済まない……勝者がすべきではなかった」
由紀
「ぐす! いいっ、わよ! 私の負け! でもね!? 次は勝つんだからー!」
由紀は見た目の通り勝利に拘る女の子だ。
その地は負けず嫌いで子供っぽい。
桜はそれを見てクスリと笑った。
桜
(ふふ、まだ元気そうね♪)
***
控室に戻ると、由紀は泣き止んでいた。
絶対に勝って、踏み台にする、その身勝手な野望は失敗に終わった。
しかし由紀は敗北をバネに出来る子だ。
彼女の最大の野望は闘子に勝つことなのだから。
由紀
(とはいえ、闘子の選手生命はもう……)
闘子が学園を卒業する時、それが彼女の引退だ。
引退は自動的に由紀を王者にするだろう。
しかし由紀は我慢できない。
出本麗花に勝てず、剛力闘子に勝てずに王者など誰が認めるか。
桜
「ウフフ〜、砂皿さんの泣き叫ぶ顔可愛かったわよ〜♪」
しかしそれと別に今、由紀は不穏な気配に晒されていた。
顔を上気させた桜が、怪しく微笑んでいるのだ。
桜はサディステックな性癖がある。
元より前々から桜は由紀に目をつけていた。
悠那とは違ういじり甲斐、もとい調教しがいのある少女に艶やかな視線を送る。
由紀はなるべくそれを無視しながら、負傷した場所にテーピングをしていく。
とりあえず桜と目を合わせるとやばい、本能的にそれを理解した。
桜
「ねぇ、砂皿さん? 私と良い事しない?」
桜が由紀の首筋に熱い吐息を吹きかけた。
由紀は背筋を凍らせる。
だが、直後。
ガチャリ。
麗花
「失礼する」
桜
(ち!?)
桜は咄嗟に由紀から離れた。
既に興奮状態だった桜は一気に冷めて、一方由紀は安堵する。
麗花は手に大量の荷物を持って、現れた。
由紀
「えと? 何の用ですか?」
麗花
「これ、お裾分け、皆で食べてくれ」
由紀
「は?」
麗花はそう言うと、お菓子の大量に入った袋を由紀に差し出した。
桜
「うわぁ、黒い稲妻が一杯〜」
麗花の大好物の黒い稲妻、その他にも九州から関東に遠征するに当たり、大量のお菓子を新幹線に乗せてやってきていた。
麗花
「それじゃ、今日はお疲れ」
麗花は目的を果たすと、直ぐに立ち去った。
由紀は改めて渡された荷物に呆然とする。
由紀
「えと、一週間分?」
アミューズメント施設なんかである特大のビニール袋に詰められたお菓子の数々、それはとても2年生フル動員しても食べ切れそうには思えなかった。
しかし二人は知らない、それが出本麗花の1日分に過ぎない事を。
***
愛
「ふんふんふ〜ん♪」
午後、愛は一人で街の巡回に出ていた。
普段あまり巡回に出ることのない愛だが、本来は平和な街を回っているのが、愛にとって一番楽しい時でもあった。
3年になり、教導部に入るとデスクワークがどうしても多くなり、こうやって1年生2年生のように巡回する機会はめっきりなくなった。
ただ、こういう余裕が出来るならやっておきたいのだ。
まぁ、幸い今の所問題が起きている訳でもない、問題が起きれば真っ先に愛のソウルリンクスマホに連絡が入るのだから。
お婆ちゃん
「愛ちゃん、こんにちは〜♪」
愛
「ああ、鈴木さん♪ こんにちはでーす♪」
愛を見かけると、声をかける者は後を絶たない。
そして愛もまた、恐るべき人懐っこさと協調性、そして記憶力で応対していくのだ。
声をかけてきた者の声さえ聞こえれば、ほぼ相手を特定する愛は、生来の愛らしさもあって、街のアイドルだった。
愛
「うふふ〜♪ 今日も平和ですねー♪」
最近は人災もそんなにない。
代わりにゲシュペンスト被害が増加しているが、愛にはそちらの方が救いがあった。
人が人に仇なすのはとても悲しいのだ。
時に火災が、時に交通事故が。
このポケモン少女のために再開発された学園都市は、その日の顔を様々見せてくる。
愛
「そろそろ1年生の皆さんにも、レスキュー訓練を行いたいですねー」
きらら
「……仕事?」
ふと、目の前にお馴染みの少女が現れた。
星野きらら、その背の低い少女を愛は見つけると、満面の笑みで駆けた。
愛
「あ、きららちゃ〜ん♪」
愛はきららの手を掴むと、ブンブン振った。
きららはそれを見て、優しく微笑む。
執行部のきららは、世界中を飛び回り、ゲシュペンストを相手にしている。
意外に学園都市にいることが少ないのだ。
愛
「今帰って来たんですか?」
きらら
「うん、何故か管理局に学園で待機って命令が出てね?」
愛
「まぁ〜? 本部命令ですか?」
きららは小さく頷いた。
親友同士とはいえ、お互いの事情はあまりしならない。
きららが呼ばれたと言うことは、なにか大事の辞令だろうか?
愛は少しだけ不安になる。
きらら
「愛はなにか受けてないの?」
愛
「えーと、無いですね……あ」
その時だ、愛のソウルリンクスマホに一通の連絡が入った。
愛はそれを確認すると、管理局本部から学園での待機命令だった。
愛
「あはは……今来ましたね?」
愛は苦笑した。
しかし一体何事だろう?
今朝少し奇妙な事があったが、その関係だろうか?
愛
(依乃里ちゃんは何も分からないって言っていたけど?)
今朝魂に傷が付くような痛みがあった。
ソウルがなにかしたのではないかと疑ったが、確証は得られなかった。
でも、本部は隠し事をしている。
それが具体的に何なのか、それは聡明な愛でも分からない。
神成依乃里の言うように、本当に何も知らないのかしれない。
でも、もし嘘をついているなら、愛は徹底的に追求するだろう。
1年生達を護るたなら、愛はどこまでも頑張れるのだから。
愛
「それじゃ急いで戻りませんとねー」
愛は道を引き返そうとした。
けれど、愛は突然足を止めた。
愛
「おや、なにか問題でしょうか?」
この生粋のお人好しは、目の前で問題が起きれば、何よりも優先してしまうのだ。
愛が見た先には、女性が男性に声を掛けられていた。
男性の背中に隠れてよく見えないが、困った気配だった。
一体どうなっているのだろうか、愛は背を伸ばして確認する。
それは銀髪の麗人だった。
スタイルが良くまるでモデルのようで、身長も愛やきららに比べて高い。
その大人びた顔を見たとき、愛はピーンときた。
愛
「麗花ちゃん!?」
愛は麗花の顔を確認すると、直ぐに駆け出した。
きららは慌てて、その後ろを追いかけた。
男性
「君、アイドルになりたくない?」
麗花
「そ、その……私は、あ」
麗花は困った顔をしていると、真っ直ぐに目掛けてくる愛が目に入った。
愛
「はぁ、はぁ、麗花ちゃんに何かを用でしょうか〜?」
男性
「え? あ……ポケモン少女?」
愛はなるべくニコリと笑った。
男性は愛の制服と腕章を見てポケモン少女だと気付いたようだ。
麗花は今は制服ではなく、私服だった。
その性でこのスカウトマンと思しきスーツ姿の男性が誤認したのだろう。
愛
「麗花ちゃんは、ポケモン少女管理局の管轄です♪ ご用があれば、本部にご連絡を♪」
愛は極めてマニュアル的な解答をした。
麗花は愛の背中に隠れるように回り込むと、男性は頭を掻いた。
男性
「あ〜、逸材だと思ったのになぁ〜」
男性はそう言うと、直ぐに明後日の方向に歩いて行った。
愛は麗花に向き直ると、麗花はホッと、肩の力を抜く。
麗花
「あ、ありがとう愛……」
愛
「いえいえ♪ それより麗花ちゃんどうしてこっちに?」
麗花
「少し用があって」
麗花は今日エキシビジョンマッチのため、関東までやってきたが、愛に連絡はしていなかった。
この街には一泊だけすると、朝一には九州支部に帰るつもりだった。
だから愛に連絡する必要はないと思っていたのだ。
麗花
「びっくりした、やっぱりこっちは凄いな……アイドルになれるなんて言われたのは初めてだ」
愛
「あはは〜、アイドルですか、麗花ちゃんは美人ですからね〜」
きらら
「愛、急いだ方がいいんじゃない?」
少し離れた場所できららは愛に注意した。
愛は「あっ!」声を出すと、本来すべき事を思い出す。
愛
「あ、そ、それじゃ麗花ちゃん! もし良かった学園まで来くださいねー♪」
愛は手を精一杯振って、笑顔で走り去った。
きららは麗花のに一瞥すると、愛を追いかける。
麗花は小さく手を振ると、少しだけ耽った。
麗花
「いきなり違う支部の人が来て、迷惑じゃないのかな?」
等と麗花は遠慮気味に考えるが、しかし麗花は知らない。
かの堀佳奈美など、微塵も遠慮などなくやってきているなど。
***
ザワザワ、ザワザワ。
放課後間もなく、1年生達は教室で騒然としていた。
互いに顔を合わし、なにかついて噂する。
明日香
「お、男の人だ……スーツ着た男の人!?」
アリア
「お、落ち着くのです明日香さん! 男性位普通ですわ!?」
夢生
「いやそれはおかしいビュン! この作品の男性出演率を考えるビュン!」
琉生
「何言っているの夢生?」
それは1年生達が見たこともない男性だった。
身長も高く、これまた見たこともないポケモン少女を連れてこの教室にやってきたのだ。
この女の園に、男性がやって来ること事態が異常事態なのだ。
ぶっちゃけこの少女達に男性免疫は殆ど無い。
悠那
「……はぁ、騒ぎすぎでしょ」
一方悠那は一番後ろで腕を組んでため息をついた。
一人大人びた反応に、明日香が噛み付く。
明日香
「よー、八神さぁ? お前は男性と付き合った事ある訳?」
悠那
「……ないわよ」
悠那は更に不快そうに眉間に皺を寄せる。
だが、明日香は更にまくし立てた。
明日香
「いきなり笑顔が反則級なおじさん現れたら、ときめくだろ!?」
燈
「色恋に興味があるの?」
燈は目線をより下を恥しそうに教科書で隠すと、そう突っ込んだ。
明日香は突っ込まれると顔を真っ赤にして狼狽える。
夢生
「キャー♪ あすちん大人ビュン〜!」
明日香
「ち、違!? あ、アタシは……あわわわ!?」
悠那は改めてため息を吐いた。
悠那
「馬鹿じゃないの?」
そう言って、桃色に包まれた教室の雰囲気に呆れるのだった。
***
愛
「はぁ、はぁ! お待たせしましたー!」
愛は急いで学園の応接間に向かった。
先方の客は既に到着している連絡があったのだ。
きららを伴い、愛は応接間の扉を開くと、中央の椅子に腰掛ける温和な笑みの男性が出迎えてくれた。
その隣には愛も知る神成依乃里が立っていた。
純
「やぁ! 初めまして、友井愛さん、そして星野きららさん!」
愛
「えーと……?」
全く覚えのない相手である。
愛は相手を覚えるのは相当得意な方だ、しかしこの男は本当に知らない。
純
「ああ、先に自己紹介が必要か、俺は一ノ瀬純! ポケモン少女管理局局長さ!」
純はそう言うとサムズアップ、最大の笑顔で二人を見た。
二人はポカーンとした。
依乃里
「局長、要件は手早くお願いします」
秘書のように佇む依乃里はそう言うと、局長にさっさと話を進めろと、優しく促した。
純は頭を掻くと、掴みは失敗したかと呟いた。
掴みがオーケーなら、大体なんとかなる、それが純のスタイルなのだ。
純
「友井愛君、そして星野きらら君、君たちは海外出張を命じる」
きらら
「私は分かるけど……愛も?」
きららは不審に思った。
執行部に所属する都合、移動は頻繁に行っていたが、これまで本部からメールで指示が常であり、局長自ら、しかも口頭で指令など些か怪しくないか?
だが、依乃里は有無言わさず、二人に書類を差し出した。
二人は書類を見てギョッとする。
愛
「ちょ、ちょっと待ってください!? 1年生も連れてロシアですかー!?」
純
「そう、ロシア政府の希望でね、ポケモン少女の交流会を求められている、そこでその書類に書かれている場所に向かってほしい」
依乃里
「ま、修学旅行のような物と思っておきなさい」
等と本部側は言うが、愛は判断し難かった。
なぜなら、ロシア遠征への指令書には姫野琉生の名前あったからだ。
ポケモンヒロインガールズ
第39話 エキシビジョンマッチ、そして
続く……。