ポケモンヒロインガールズ





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第三部 ネクストワールド編
第35話 フラッグ・バトル 中編

第35話 フラッグ・バトル 中編



ビュオオオ!

雪原に吹くブリザードは強さを増していた。
バトルフィールドの一角に不自然に吹く人工の風、周囲から隔絶されたリージョンに九州支部のメンバーの姿がある。
彼女たちはまだ、これから来る相手を見捉えてはいない。
しかしそれも時間の問題だ。

琉夏
 「来るっ!」

九州支部のチームリーダー2年生の海代琉夏がそう言うと、雪原に大きな水球が飛来した。
それは正確な射撃ではない、ただ一撃は強力で、見境のない縦断爆撃のように降り注いだ。



***




 「ミアの砲撃に合わせて、琉生ちゃんと夢生ちゃん前進!」

雪原手前に陣取った関東支部はブロスター少女の霧島ミアの支援砲撃を軸に雪原へと切り込んでいく。

アリア
 「鈴先輩、もう少し近づけば、正確な位置が掴めると思うのですが?」

同伴した観測要因のゴチルゼル少女東堂アリアはそう進言する。
しかし鈴は首を振った。


 「駄目、それより周囲を警戒して! 攻撃している間はこっちも手薄なんだから!」

アリアはその言葉にハッとする。
同時に鈴の後方10メートルに付けるある少女もビクンと身体を震えさせた。

美鈴
 (ひ、ヒエエエエ!? バレてる!? バレてない!? あわ、あわわわ!?)

関西支部1年カクレオン少女の浅葱美鈴は関東支部のフラッグを狙っていた。
しかしうかつに動けば、気づかれるかもしれない。
もし気づかれたらどんな目に合う?
それを想像すると足が竦んでそれ以上は近づけなかった。
とはいえそれが功を奏して、アリアの感知に引っかからなかったのだから、美鈴は幸運の持ち主だろう。

ともあれ、事態は動き出した。
関東支部は後ろを振り返らない。
霧島ミアの支援砲撃が10分近く続き、やがて関東支部の3人は雪原へと切り込んでいく。



***



雪原の中は大慌てだった。
図らずも鈴が取った戦術はドイツ軍が得意とした浸透戦術。
砲撃で混乱している中で、敵陣中央まで切り込む戦史を好む者ならば、その有効性に気付くだろう。

琉生
 「はぁ!」

琉生は視界不良の中、消せない火を目掛け突っ込んだ。
しかし、火の原因朝比奈寧を庇うように飛び出したのはバシャーモ少女の祭翔子だ。
証拠は素早く動くと、神速の二度蹴りを放つ!

翔子
 「エイヤ!」

琉生
 「っ!」

琉生は一発目スウェーで回避すると、2発目を尻尾で相殺した!
琉生の優れた動体視力と反射能力に翔子は舌打ちするが、その距離は自分の物だと言わんばかりに翔子は足刀蹴りを放つ!

琉生
 「くう!?」

琉生はなんとか両腕をクロスさせて、防御するが、雪の上を滑って距離が離れた。
如何に琉生が強くとも、いざ格闘戦ならばバシャーモ少女の翔子の独壇場だ。
まして琉生はオオタチ少女、ノーマルタイプは格闘タイプには不利だ。

翔子
 「いける……! リトルルーキー! ここで脱落してもらう!」

翔子はポケモンバトルなら琉生に勝てる、そう確信すると突っ込んだ。
しかし、それは正しかったのか?
翔子は後ろを振り返らない。
チームリーダーの琉夏の指示がない中、翔子は手から炎を放つ!
その炎を投げ飛ばすと、琉生はバク転、琉生の手前に着弾する。

琉生
 「……」

一方で琉生は翔子を、いや、その後ろを見た。
今夢生は空中からフラッグを奪取するため、攻勢を仕掛けているがこちらは九州支部の集中砲火に晒され、落ちないようにするので精一杯の様子だった。

琉生
 「……っ!」

琉生は真っ直ぐ駆けた。
生粋のインファイターの琉生と翔子。
しかし既に超接近戦での相性は翔子が制したというのに、なおも愚直に攻めるのか?

翔子
 「チェイサ!」

翔子は機先を制して蹴りを放った!
しかし翔子は瞬時に目を剥いた。
琉生が……3体に分身したのだ!

琉生
 「悪いけど、倒すのが目的じゃないから」

琉生は翔子の蹴りを高速移動で、すり抜けると駆け抜けた。
翔子が振り返った時にはもう遅い。
琉生は低空姿勢のまま琉夏の守るフラッグに突き進む。

琉夏
 「ハッ!? させん!!」

琉夏は防衛線が抜かれた事にいち早く気付くと、琉生に反応した。
琉生の尻尾よりもより大きく長い美しい鱗の生えた尻尾、それを振り払う!

琉生
 「はぁっ!」

琉生もまた、尻尾を叩きつけた!
琉夏と琉生の尻尾が打ち合うと、二人は全身に衝撃を受けた。
二人の視線が交錯するとき、琉生は琉夏の鋭い瞳から、あの九州支部の3年生を見る。
宿すソウルは異なるが、巨大な壁がせり立っているかのような圧迫感が琉夏にはあった。

琉夏
 「吹き飛べ! 竜巻!」

琉夏の扇のように広がった美しい尻尾から竜巻が発生すると、琉生は竜巻に飲まれた!

琉生
 「ああっ!?」

琉生はその力には抗えず、弾け飛ばされる。

琉夏
 「この程度か……リトルルーキー!」

琉生
 「っ!」

琉生は空中で姿勢制御をすると、夢生が琉生の腕を掴んだ。

夢生
 「ちょ、大丈夫ビュン!?」

琉生
 「あの人……かなり強いね」

夢生
 「弾幕が激しくて、ちょっと近づけないビュン」

今も二人を狙う弾幕、火炎放射とはっぱカッターの弾幕だ。
更に琉夏の竜巻とハイドロポンプが組み合うと厄介極まりない。
夢生ならば距離を取れば早々当たることはないが、だが力負けしてしまう。

琉生
 「私をフラッグに投げて!」

夢生
 「相変わらず無茶な注文ばっかり! 愛ちゃん先輩の忠告聞いた!?」

琉生
 「大丈夫、無茶はしないから」

夢生
 「るーちゃんの大丈夫は信用度0ー!?」

夢生はしかし、アクロバットに空中を縦に回転する。
そのまま回転力で速度を加速させると、夢生は慣れたように琉生を投げつけた!

琉夏
 「なに!? ちっ!?」

琉夏がそれを見て直ぐにハイドロポンプの態勢に入った。
自らを砲弾にする琉生の捨て身の戦術、それは本来対ポケモン少女を想定した物ではない。
かつて、ゲシュペンストγに大ダメージを与えた技は、しかし琉夏からγを正面から受け止めた麗花の気配を感じ、この技を選択したのだ!

琉生
 「はあああ!!」

琉生は尻尾を大きく振り被った。
琉夏は正面から向き合う気概だ!

翔子
 「ちっ! 私が飛び上がって!」


 「翔子後ろ!?」

ズドォン!

翔子が吹き飛んだ。
水の波動が翔子に着弾する。
関東支部本隊が近づいているのだ。
ミアのアシストを受けた琉生についに手を出せる存在は居なくなった。
いよいよ、琉生と琉夏の一騎打ち、になる筈だった。

突然、琉生が空中で静止した。
琉生は咄嗟のことに目を疑った。
金髪の青い瞳の女性が、顔を近づけウィンクしてきたのだから。

リリィ
 「ソーリー♪ 横槍入れさせて貰うデース!」

リリィは追い風を受け、戦場に急行すると、琉生を空中でキャッチし、振り回した。

琉生
 「なっ!?」

琉生の視界が高速回転する。
アメリカ娘のダイナミックな技が琉生を遠心力で拘束した!
九州支部はその光景に呆然とした、しかし米露連合のリリィ・マクガイヤーが現れた事は、さらなる危機を琉夏に知らせた。

琉夏
 「各員輪形陣展開、ヨーソロー!」

琉夏の判断、少し速かった。
だが、また一人九州支部のポケモン少女が襲われた!

ルンパッパ少女
 「きゃあ!?」

ルンパッパ少女は九州支部1年生琴紀桃香(こときとうか)、その足を掴み、雪原に引きずり込んだのは、ツンベアー少女のナターシャ・アルスキーだった。
ナターシャは匍匐前進で雪掻きの特性を活かしながら、静かにフラッグに接近。
しかし琉夏が突然陣形を変更してきた事で、やむなく桃香と交戦することになった。

琉夏
 「ちっ!? ハイドロポンプ!」

ナターシャ
 「むきゅ!?」

ナターシャが吹き飛ばされると、ナターシャは大の字に倒れて雪原に消えていく。

琉夏
 (やったか、いや……!)


 「大丈夫桃香!?」

桃香
 「う、うん! なんとか!」

リリィ
 「ソイヤー!」

一方で、空の方もリリィが琉生をぶん投げた!
琉生は無抵抗のまま明後日の方向へと投げ飛ばされた!

夢生
 「ワー!? 大変ビュン!?」

夢生は慌てて琉生を追いかけた。
リリィはもう一度唇を出しながらウィンクして「ゴメンね♪」と呟いた。

リリィ
 「さて、後はどうやってフラッグを奪うか、ですねー」

リリィは空中で静止すると、九州支部と関東支部、そしてナターシャを確認した。
シベリアの雪原に慣れたナターシャにとって人工のブリザードなど涼風同然、とはいかないがそれでも慣れた物で、ましてツンベアーの身体はそれこそ極端な寒さにも平然と耐えられる。
そして雪原における隠密性、ナターシャは再び雪原に潜ると、その姿は見えなくなった。

リリィ
 「ミッション・イン・ポッシブルな程燃えるデスネー!」

リリィはそう言うと風を集めた。

リリィ
 「エアスラッシュ!」

リリィは空気の刃を地上に放つと、デタラメに乱射した。
まるで当たったらごめんなサイネーとでも言わんばかりに。

琉夏
 「くっ、このままでは……!」

琉夏達は攻撃に耐えた。
徐々に敵が集まりつつあり、フラッグを狙っている。
もはや自力でこれら全てを撃退するのは不可能だ。

琉夏
 「この場所を放棄して態勢を立て直すぞ! 恵流、殿(しんがり)頼める?」

マルノーム少女の2年生鬼嶋恵流(きしまえる)はコクリと頷いた。
もはや九州支部が生き残るには強行軍でこの包囲を突破して、態勢を立て直す必要がある。
琉夏は既に勝つことよりも、1年生を守るための戦いに切り替えていた。

琉夏
 「関東支部の攻撃が止んでいるうちに突破するぞ! 止んでいる?」

琉夏はふと、あの煩かった砲撃の音が消えている事に気がついた。
今相手をしているのは米露連合だけ?
全容が分からない中、しかし事態は動き続けている。



***




 「はっぱカッター!」

鈴は掌に葉っぱを生成すると、それに冷気を吹きかけ、冷たくコーティングする。
そうして強度と鋭利さを増したはっぱカッターは後方へと投げられた。

綾女
 「きゃあ!?」

はっぱカッターは木々を盾にする鹿嶋綾女の目の前突き刺さった。
森を背に関西支部が関東支部の本隊を後ろから強襲してきたのだ!
ミアとアリアは琉生達に援護もままならないまま、この乱入者の対応を迫られた。

摩耶
 「アッハッハ! 戦力不足やねぇ関東の方? ほーれ、避けてみい!」

摩耶は手を振り払うと、その背後から9本の火の玉が関東支部を襲う。

ミア
 「危ない!」

ミアは身を挺して、鈴を守った。
しかしそれは鬼火だ、ミアの青い甲殻で覆われたハサミが火傷する!

ミア
 「くう!?」


 「こんのぉ……そっちこそ戦力不足の癖にぃ」

摩耶
 「それはお互い様やな、まぁこっちはこっちで作戦あるねん」

摩耶は妖しく裾で口元を覆い、微笑んだ。

綾女
 (相変わらず悪党顔が似合うお人やねぇ)

綾女は飛び出すタイミングを見計らっていた。
日本晴れを摩耶が行い、綾女のスピードは上がっている。
トップギアに入れば、スピードで圧倒してフラッグを奪取する。
しかし、その機会を得るのは簡単じゃない。

綾女
 (向こうのユキノオーの人、食らったらこっちも一撃お陀仏しかねんし、なにより怖いんは……)

アリア
 「二人共もう少し持ちこたえて! 琉生さんたちが戻ります!」

あの東堂アリアという少女だ。
ゴチルゼルは未来予知に優れ、強い念動力もある。
この未来予知が厄介だ、アリアに出鼻を挫かれ、鈴にキツイ一撃をもらうはのは絶対に避けたい。
それが分かっているからか、摩耶も深入りはしなかった。

綾女
 「どうします? 姫野さん来るって」

摩耶
 「んー、まぁこっちも仕込みはあら方終わりましたしなぁ」


 「……つまらん」

翠は摩耶の作戦がつまらなさそうに不満顔で腕を組んだ。
姫野琉生、その実力は綾女から聞いている。
多分に脚色された情報だが、琉生という少女とは戦いたいと思っていた。

摩耶
 「正面切ってなら、負けんやろうですけどリスクありましょう? 向こうの2年生舐めたらあかん」


 「私達も2年だ」

摩耶は目を細めた。
翠の実力は信頼している。
だが、一対一ならともかく相手が律儀に付き合うか?
ここで翠を失いたくない、摩耶はやはり翠を前線に出したくはなかった。

摩耶
 「あかん、翠、ウチらは時間稼いだらそれで終わりどす」


 「それではいつ戦える?」

摩耶
 「順当関東支部が生き残ったら、姫野にぶつけたるわ!」

摩耶は高速で飛来するエアームド少女を確認すると、火炎放射をばらまいた。

夢生
 「わわっ!?」

琉生
 「おろして! もう大丈夫!」

摩耶の火炎放射は複雑な機動を描き、回避しづらいが、夢生はそれでも琉生を牽引しながら回避した。
琉生を下ろすと、自慢のスピードはあっという間に天井付近まで飛び上がり、摩耶の火炎放射は届かなくなった。
一方、琉生は着地を決めると、すぐさま鈴の元へと戻った。

琉生
 「大丈夫ですか!?」


 「ミアが少しダメージを」

ミア
 「わ、私は大丈夫……、接近戦をしなければ」

ミアはそうは言うが、火傷の痛みに表情を歪めていた。
摩耶の狡猾な戦術、鬼火や怪しい光でじわじわと陰湿に相手にダメージを与える。
それは琉生には真似できない方法であった。
そして、自分に足りないものはなにか、それを痛感する。

琉生
 (私は愚直に接近戦を挑むしかない攻撃に選択肢がない、味方を守ることも出来ない)

だからこそ、琉生は誰よりも早く決着をつけて味方の損害を減らす戦術を取り続けた。
しかしそれも限界だ。
ポケモン少女として琉生は強い、でも突出している訳ではない。
3年生程隔絶した実力がある訳でもなく、そして同年でも接近戦で負ける事態が発生した。
格闘タイプが根本的に不利である以上は自明の理。
これを明確に琉生をライバル視する悠那が見れば、どう評するだろう。

琉生
 (不甲斐ないって、罵られるかな?)

悠那なら、きっと初撃で決めていただろう。
プライドが高すぎる子だけど、自分を直ぐに切り替えられる子でもある。
フラッグを奪取するためならば、その最適解を直ぐに決めていただろう。

琉生
 (私なら、なにが出来る? 何をするべき? オオタチさん?)

しかしソウルは応えない。
元よりソウルは興味が無いというように涼やかだ。

ミア
 「鈴、どうする?」


 「うーん……下手すれば挟み撃ちもあり得る?」

一方琉生が悩んでいる暇はない。
事態は今も動き続けている。
後ろに関西支部、前方に九州支部という状態はあまり芳しくない。
しかも米露連合が横槍を入れたのだ。
未だ姿の見えない北海道支部もあり、鈴は余計な被害を出したくない。
単独なら、ユキノオーのアイスモンスターと呼ばれる本領も出せようが、団体戦では逆に鈴のユキノオーの特性は腐りやすい。
関西支部のシナジーの取れた摩耶と綾女のコンビとは対象的だ。

アリア
 「……っ!? これは!?」

その時アリアが顔を険しくして、頭を抱えた。
頭痛に苛まれるように片手を頭に当てると、なにが起きたのか類推する。

アリア
 「念波の混線? エスパータイプが近くにいる?」

アリアは念動力を用い、それを索敵に利用している。
テレパシー反応を反射は電波の動きに似ている。
その反射を利用して、動体を特定し、味方とテレパシーを繋ぐ。
だが、初めて感覚だった。
アリアはエスパーという物をまだ完全には理解していない。
なにせ、エスパーという物は実に不可解で、教えを乞おうにも同類はそう多くない。

夢生
 「アーちゃん、大丈夫ビュン?」

夢生は心配そうにアリアの肩を持った。
アリアは微笑を浮かべた。

アリア
 「もう大丈夫ですわ……ただ、少し危険な気がします」

アリアは念波の混線に危惧を覚える。
九州支部にはエスパータイプは確認出来ない、関西支部も今の所それらしい反応はない。
だとすると、混戦したのは米露連合、あるいは北海道支部?



***



ルフィナ
 「あぐ!?」

混線は米露連合のカラマネロ少女ルフィナもフィードバックを受け取っていた。
アリアより念動力の操作には劣るルフィナだが、その力がどのベクトルから来たか、アリアより先に特定した。

ルフィナ
 「北海道支部……見つけた、かも?」

コリーン
 「なに? 本当か?」

ルフィナはゆっくり指差した。
それはフィールド中央の平原だった。

シェンコ
 「馬鹿な……隠れる場所もないぞ?」

ルフィナ
 「どんな能力かは分からない……でもポケモンに馬鹿なや不可能なんてない」

それを聞いたコリーンはゆっくりと頷いた。
ルフィナの持論、コリーンにも共感する物があった。
コリーンはルフィナの手に入れた情報を持って推論する。

コリーン
 「位置的には……行けるな」

コリーンは今混戦となっている中央からやや西部に広がる雪原を見た。

コリーン
 「我々は北部から大きく迂回しつつ平原を目指す! ルフィナはリリィとアルスキーに九州支部を追撃しつつ平原へと抜けるよう伝えてくれ!」

ルフィナ
 「了解」

シェンコ
 「先行する!」

こうして米露連合も本格的に動き出した。
果たしていかような手段で北海道支部は姿を隠しているのか?
しかし最初の脱落はもう目の前だ、それはどの支部なのか?



***



琉夏
 「はぁ、はぁ! 恵流は!?」


 「まだ雪原から出てきません!」

九州支部は決死の覚悟で包囲を脱出した。
幸運にも関東支部の追撃はなく、実質追撃してきたのは米露連合のスワンナ少女とツンベアー少女のみ、ツンベアー少女は決死の覚悟でマルノーム少女の恵流が止めている。
幸か不幸か、スワンナ少女も安全圏からエアスラッシュをばら撒くだけで、注意していればそれほど問題はなかった。何よりもスワンナ少女には本気でフラッグを取るという感じがしなかった。
それも九州支部にとって幸運な出来事だ。

琉夏
 「翔子の容態は?」

桃香
 「意識が朦朧としています!」

ルンパッパ少女の桃香は翔子を背負っていたが、強烈な水の波動の直撃を受け、すぐには復帰出来なかった。
一気に事実上二人を失った琉夏は唇を噛んだ。
この事態は琉夏が最初に寧にゴーサインを出した、自分の責任だと痛感した。
敬愛する出本麗花先輩ならどうしたろうか、琉夏はそれを反芻する。
日本で五指に数えられる鉄壁のボスゴドラ、その異名を持つ麗花なら、あの状態でさえ、味方を必ず守りきり、一人の脱落も出さなかっただろう。

琉夏
 「くっ! 兎に角戦力を整えるぞ、そして反抗を……!」

その時だった。
寧は目を疑った、琉夏の眼の前でフラッグが突然宙に浮いたのだ。
するりと巻きつけた尻尾から抜けるフラッグ、ただ呆然とそれを見た。

そしてその瞬間!

ビィィィ!!

実況
 「ついに決まったァァ! 最初の脱落は九州支部!! フラッグを奪ったのは関西支部カクレオン少女! 鮮やかな手並みだー!!」

琉夏
 「え……?」

それは浅葱美鈴だった。
美鈴はずっとステルス状態で虎視眈々と狙っていた。
摩耶先輩から指示は美鈴に独立裁量権を与え、好きに動かす事だった。
その結果関東支部を尾行し、そして九州支部の状態を見て、好機とついに判断、見事作戦を成功に漕ぎ着けた。

美鈴
 「や、やった♪ やった! やりましたー!!」

美鈴は大喜びだった。
その場で万歳してぴょんぴょんと跳ね回る。
しかし九州支部は対象的にその顔は暗かった。
ともあれフラッグを奪われた以上、九州支部はここで全員退場だ。

琉夏
 「っ……! すみません、麗花先輩!」

しかし敗者には何も残らない。
このまま会場を出ていくのみだ。



***



九州支部脱落のアナウンスは各チームにも伝播した。
それを聞いてとりわけガッツポーズを取ったのは円寿摩耶だ。

綾女
 「美鈴ちゃん、ほんまにやったんや……!」

摩耶
 「おっしゃ! これで俄然有利や! 後退しますよ!?」


 「関東支部はどうするんだ!?」

関東支部と関西支部の睨み合いは続いていた。
しかし関西支部には美鈴と杉菜の二人がいない。
向こうは五人、一人負傷しているとはいえ、多数に無勢だ。

摩耶
 「次は米露連合に仕掛ける! そこで思う存分働け!」


 「ち……!」

琉生と戦う事を強く希望する翠は舌打ちした。
格闘タイプのソウルを宿す者の性か、その強い闘争心は頼もしい反面、扱いづらい。

摩耶
 「ほら! うちが殿努めているウチに退け!」

綾女
 「後退しますよ、志島先輩!」

摩耶は火炎放射をばら撒く。
関東支部にこれを直撃する間抜けはいないが、元より目的は足止めだ。

琉生
 「くっ!」

一方、関東支部は焦っていた。
最初の脱落は九州支部、それはまだいいが、問題はそれが目の前の相手に出し抜かれたという事だ。


 「やられた……! 作戦負けか……」

改めて摩耶の狡猾さを思い知らされた。
各メンバーの効率的な用兵において、摩耶の采配は素晴らしい。
鈴は少し悔しかった。


 「追撃するよ! 皆覚悟を決めて!」

鈴はそれを失敗だとは思わなかった。
フラッグを奪う事に成功した関西支部は確かに頭一つ抜けた。
更に関西支部はもう一つフラッグを狙い、勝利を盤石にする気だろう。
このゲーム逃げ回れば、決着はなかなかつかない。
しかし時間制限がある、それが過ぎた時、一番フラッグを持っていたチームが勝利なのだ。

ビュオオオ!

鈴の周囲から冷気が溢れた。
周囲には雪が降り出し、そしてそれは霰の変わっていく!
ユキノオーの別名アイスモンスター、本来は味方への被害や、周囲に自分の居場所を知らせる不都合など、鈴にとってはデメリットが大きかった。
しかし鈴はいよいよ動こうというのか、関東支部2年生の本領……それを知らしめるために。



ポケモンヒロインガールズ

フラッグ・バトル 中編

続く……。

KaZuKiNa ( 2021/03/10(水) 20:05 )