ポケモンヒロインガールズ - 第三部 ネクストワールド編
第30話 障害物競走前編

第30話 障害物競走前編



冥子
 「16キロメートル走、終わったな」

校舎から競技場を眺める銀河冥子はそう言った。
陸上のある意味花形、こういう競技は枠を多く取る。
1年生のあとは2年生が走り、それも今しがた終わったところだ。
2年生は九州支部の子が首位を取った。
関東勢は鈴が出場し、惜しくも2位だった。
やはり、今年の運動会も、決してどこかが極端に強いなんて事はないようだ。

冥子
 「気持ち的には悠那達を応援したいけど」

依乃里
 「北海道支部には思い入れないの?」

隣で競技にはあまり興味のなさそうな神成依乃里はそう言う。
珍しいな、他人に興味を抱くなんて、冥子はそう思いながら、内心を吐露した。

冥子
 「思い入れはあるさ……一応3年在席してたんだからな、でもやっぱり気兼ねなく付き合えるのは悠那達なんだよなぁ」

もと北海道支部の冥子はそう言うと、タブレットを見る。
次の種目は。

冥子
 「障害物競争かぁ」

依乃里
 「参加人数は一組2人、1年生と2年生の混合、2セットね」

冥子
 「アタシの時は一人だったけどな」

依乃里
 「結果はどうだったの?」

冥子
 「ぶっちぎりの1位、つか量子化したら障害物関係ないしな」

冥子が宿すソウルはロトム、ロトム少女の冥子にとって障害物競走もただ素通りするだけ、実に簡単な物だった。
ただ、今回はルールも冥子が参加した時とは違う。
さて、関東支部はどう選択する?



***




 「あーんもう! 負けちゃった〜!」

由紀
 「ち! 情けねぇな」

鈴は決して速く走れる訳ではない。
だが、利口でユキノオーの力をよく引き出して見せた。
だが、それは他の学園生徒達も同じ、1年生とは違い、2年生の勝負となると、単純に速い者が勝つという訳でもないのだ。

ミア
 「えと、次は障害物競走ですよね?」

闘子
 「砂皿と七海、行ってこい」

ご指名を受けたシロデスナ少女の七海桜はウィンクする。
やる気は充分、一方サンドパン少女の砂皿由紀も同様だ。
両手を打ち合わせると、闘志を滾らせる。

由紀
 「ハハ! 私が出るからには勝つ!」


 「すごい自信ねぇ、足元掬われないでよ?」

由紀
 「お前こそ余裕ぶるなよな!」


 「もう喧嘩しない! 先輩も止めて!」

闘子
 「はは、競争心は良いことだ」

やや険悪な由紀と桜、鈴は早く仲良くなって欲しいのだが、闘子はそれを競争心だとして、良しとした。
ミアはそんな同輩達を見て苦笑いする。
なんだかんだで、デコボコだけど纏まっているんだよね、そう思うのだった。



***



佳奈美
 「おーしおしおし! まずまずの戦績やな!」

一方関西支部は、堀佳奈美も満足な結果を得られて満足げだった。

佳奈美
 「綾女が1位とったんは大きいで!」

綾女
 「ふふ、ですけど、まだそんなに差は産まれてませんねー?」

メブキジカ少女の1年生、鹿嶋綾女も結果は満更でもなかった。
得意不得意適材適所を合わせれば、決してどのチームも負けていない、それは関西支部の今後の動き方にも影響を与えそうだ。

佳奈美
 「せやなぁ、愛も意外に強かやし、そろそろ本気出してきそうやもんなぁ」

佳奈美の親友友井愛、彼女は菩薩のような微笑みの顔で、密かに勝利の方程式を組み立てる女だ。
きららと愛のコンビ、あの二人には1年生の時も2年生の時も勝てなかった。
世間の評価は星野きららばかり持ち上げられるが、それに的確な戦術を与え、きっちりサポートを熟す愛は佳奈美にとって死ぬ程厄介な相手で、佳奈美が最も評価するのは愛だった。
確かにポケモン少女単体としては、愛は取り立てて優秀でもないだろう、だが教育者としては一番愛は優秀だろう。
3年生でもう直接対決する機会はないが、それでも佳奈美は一度でいい、愛に勝ちたいのだ。



***



サーリャ
 「……ふーむ、芳しくないか」

観客席で高みの見物をするサーリャは頭を掻きながらそう言った。
ここまで米露連合チームの成績は決して悪くはない、だが1位が取れていないのだ。
だが隣に座るアメリカ人のマリーは笑って言う。

マリー
 「ふふふ、流石本場ね」

サーリャ
 「質で言えば、劣ってないんだがね」

マリー
 「寧ろ大健闘よ♪ ただポケモン少女同士の試合って一筋縄じゃ行かないわねぇ」

サーリャ
 「ああ、ウチのシェンコも正攻法なら間違いなく勝利だったんだが」

マリー
 「それ言ったら、リリィもね?」

二人はそう言うと、押し黙った。
結局ただ単純に強ければ勝てるというものではない。
米露合同チーム、この組み合わせを組む上で両国は出場できる上で最高峰のポケモン少女達を選出している。
言ってみれば、本来なら全日本で当たらないといけない相手なのだ。
これには多少接待の意味もあっただろう。
だが、ポケモンの奥深さはこの相性という部分にある。

マリー
 「ま、運動会の理念は、勝ち負けじゃない♪ 正々堂々、持てる力を出し切る事! そう宣言していたものね」

サーリャ
 「は! 建前だね!」

勝ちたい、そう思うのは自然な事だ。
いくらスポーツマンシップを謳っても、結局何かを比べるっていうのは過酷な世界。
特にサーリャはそれを身に沁みて理解しているのだ。

サーリャ
 「そろそろ、結果を出してもらいたいねぇ?」



***



実況
 「さぁ第三種目、障害物競走の時間だぞ! 舞台は特別施設に移して、会場やテレビの皆は申し訳ないけど、画面越しに見てくれよな! さぁ、そしてドローン映像をご覧ください! 今回の障害物競走の舞台がこれだ!」

特別施設、この実験都市にはポケモン少女のための特殊施設がいくつも揃っている。
特に最大級の大きさを誇る実験場は、幅2キロにもなる縦長のコースを収容していた。
このカマボコ型の縦長な実験場、本来は特殊なポケモンバトル等を考慮した特殊施設で、天候すら自由に出来る。
そこに障害物競走に参加する選手たちは集まった。

明日香
 「はえー、すげーなぁ」

明日香はフィールドを見て感嘆した。
これから突破するフィールドはいくつ物障害物が並び、そしてゴールが全く見えない。
こういった実験場はポケモンバトルや2年生との対抗戦などで経験あるが、これ程の規模の物は初めてだった。

悠那
 「……どういう道を行くかね」

明日香と同じく、障害物競走に参加するのは悠那、愛は敢えてこの二人を選んだ。

明日香
 「愛ちゃん先輩のご指名だからな! 気合い入れて行くぜ!」

由紀
 「そうよ、私と組む以上負けは許さないからね?」

明日香は後ろを振り返った。
少し遅かったが、2年生も到着だ。

悠那
 「桜、アンタが出場するのね」


 「ふふふ、暴力的なのは好きじゃないけれど、こういうのは好きなのよ?」

明日香は2年生を見て、改めて緊張した。
ポケモンバトルリアルバトル部門でトップランカーの由紀、そして自分との実力差を見せつけた桜、どちらと組むにしても明日香には苦手意識がある。
今更桜に確執は無いが、だからと言って近寄りがたいのに変わりはない。

明日香
 (正直砂皿先輩の方がマシだな)

明日香はそう思うと、最後にこっちにやってきた愛先輩を見る。
愛は選手が揃ったのを確認すると、手を叩いて注目を集める。


 「皆さん揃いましたねー、それじゃチーム分けを発表します。第一レースは悠那ちゃんと桜ちゃんです」

悠那
 「……!」


 「へぇ」

悠那は桜を見た。
桜は満更でもない様子だ。
桜なら息も合わせやすい、根本的な意見が合わない事も多かったが、見知らぬ相手よりは気苦労も少ないと言った所か。


 「次に第二レースは明日香ちゃんと由紀ちゃんです」

由紀
 「ち……しょうが無いわね、足引っ張るんじゃないわよ?」

明日香
 「ウッス! 善処します!」

必然的に余りだから分かっていた事だが、明日香と由紀は覚悟を決めた。
由紀といえば、何かに付けて明日香に噛み付いてくるが、チームを組んでまで言われる事は無いだろう。
一方由紀は由紀で複雑なものだ。
大切な後輩だが、同時に剛力闘子の直弟子である明日香には当然思うことがある。
由紀は闘子に憧れて、ポケモンバトルを始めるようになった。
だが由紀は闘子を越える事が目標なのだ。
一方で明日香は闘子を目指すが、闘子を越えようと思わない。
何故なのか? 由紀と明日香の決定的差、しかし由紀は明日香に闘子と同じものがある、そう感じている。
いつか化ける時が来たら、自分をも簡単に飛び越えてしまうんじゃないか、そういう恐れもあった。


 「それじゃ、頑張りましょう♪ 悠那」

桜は砂の身体を揺らしながらスタートラインに向かう。
悠那は頷く事もなく、ゆっくりと禍々しい四枚羽を羽ばたかせながら、ゆっくりと桜の後ろを浮遊する。

実況
 「さぁ! 準備も整ったようです! 先ずは第一レース! 果たしてこのレースを制するのは誰か!?」

悠那
 (……さて、私は容赦しないわよ、邪魔する奴は全て叩く!)

悠那は闘志を燃え上がらせた。
プライドの高い悠那が求めるのは勝利。
しかし勝利には引き立て役が必要だ。
ある意味で悠那はそんなエゴイズムな敗者の存在を求めている。

レース開始は5秒前、悠那の心臓がドクンドクンと鼓動を加速させる。


 「ショータイム!」

桜が笑った、その瞬間ポケモン少女達が飛び出していく。
桜は自らの身体を砂の粒に変えて、競技場の中へと拡散していく。
悠那はそれを確認しながら、真っ直ぐと飛び出した。

実況
 「さぁ! レース開始! ポケモン少女たち、一斉に飛び出したぁ!!」

悠那
 「さて、先ずは何が待っているわけ?」

悠那は低空を飛行しながら真っ直ぐ前を見た。
障害物競走、その名前の通りまっすぐ進むだけだが、その進路は障害物で妨害される。
だが、最初の100メートルは平坦な道だ。
幅200メートル、端から端まで見れば、如何にここが広いか分かる。

ドォン!

悠那
 「!?」

突然爆音が響いた。
悠那は音の正体を探る。
すると、それは直ぐにあちこちで発生し始めた。

ドォン! ドォン!

実況
 「さぁ! 最初のエリアは地雷原! て!? いきなりこれか!? だが安心してくれ! 地雷は火薬は使ってないらしいぞ! ただ音と衝撃は凄いから気をつけろ!」

悠那
 「地雷ねぇ、まぁ踏まなきゃ大丈夫なんでしょ?」

悠那はサザンドラ少女である、その歪なシルエットは、逆に立つことが難しく、浮遊している方が楽な程だ。
障害物競走は空を飛ぶことも許されている、実際飛行タイプのポケモン少女の方が有利だろう。
だが……悠那は足元を見た、透明な何かが悠那の足元に集まり、爆発した!

ドォン!

悠那
 「くう!?」

悠那は空中に跳ね上げられた。
見ると、他のポケモン少女まで跳ね上げられている。
中々巫山戯たギミックね、悠那は苦虫を噛みしめる思いだった。



明日香
 「八神ー! 空から行けー! 地上は危険だー!」

明日香はいきなりのえげつない歓迎に引きながら、悠那に向かって叫んだ。

由紀
 「聞こえやしない! この爆音に紛れちまう!」

明日香は手を握り込んだ。
八神悠那はこんな事でへこたれる奴じゃない事は分かっている。
アイツはプライドが高いだけの奴じゃない、ちゃんと実力もある。



悠那
 「ち……!? 空から……っ!?」

悠那は咄嗟に高度を下げた。
実験場の中空に見えないネットが張り巡らされていたのだ。
しかもそれは電気が流れていた!

悠那
 (高さ制限……! ダメージはない、でも地雷原を強行突破するには、どうすればいい!?)

悠那は頭も良い、直ぐに上から攻略が駄目なら、地雷原の突破方法を模索する。
一々踏んでいたら時間の無駄だ。


 「ちょっと! なにこんな序盤で躓いているの!?」

桜は悠那の異変に気がついて、悠那の側で桜の形に集合した。

悠那
 「桜、力を貸しなさい……貴方のシロデスナの才能がいる!」


 「全く! それが年上に頼む態度!?」

桜はこんな状況でもいつも通り上から目線な悠那を咎める。
だが、桜は直ぐに手を横に薙ぐ。
桜の腕は砂に分解され、それがまっすぐ前方に薄っすら被さった。


 「これでどう!?」

悠那
 「上出来だ!」

それは薄っすらと地雷の輪郭を浮かび上がらせた。
生きた砂の塊である桜は砂のマスタリー、サンドロードを作り出し、その上に地雷を浮かび上がらせていった。

実況
 「おーっと! 関東代表サザンドラ少女とシロデスナ少女、早くも第一関門突破!!」


 「ざっとこんな物よ!」

桜はガッツポーズ、しかし悠那は笑顔も浮かべず次の関門を見た。



***



ポケモン少女たちが地雷原に右往左往する中、一人悠然と地雷原を歩くポケモン少女がいた。
その少女は九本の尻尾を持ち、巫女のような格好したキュウコン少女だった。
その名は円寿摩耶(えんじゅまや)、関西支部2年生の少女だった。

摩耶
 「なんや、けったいどすなぁ〜、美鈴、ついてきとりますか?」

美鈴、そう呼ばれた少女は突然摩耶の真後ろに出現する。

美鈴
 「ううう、美鈴は〜ん……ウチ怖いぃ」

浅葱美鈴(あさぎみすず)、自分の体を自由自在に色を変える事のできるカクレオン少女、関西支部の1年生は、必死に隠れながら摩耶の後ろに付いて行った。

摩耶
 「なーんも、怖あらへんよ、大丈夫大丈夫♪」

摩耶はのほほんとそう言いながら尻尾をゆさゆさと振るった。
すると尻尾の一本一本から小さな火の玉『鬼火』が揺らめきだす。
キュウコンは炎を神通力で操り、その炎は同時に九本の尻尾から出すことが出来ると言われている。
キュウコンは神様としても扱われる格の高いポケモン。
京都出身の摩耶はこのこのキュウコンをお稲荷様と呼んで信頼している。
鬼火は自分勝手に空を飛び回ったかと思うと、一気に地雷に向かって飛来した。

ドォン! ドォン!

摩耶の目の前で爆発が連続で起きる。
美鈴は「ひう!?」と悲鳴を上げると、また透明化した。

摩耶
 「ほーら、道は開いたでー?」

摩耶は首だけ回して後ろを見る。
美鈴は涙目になりながら、ゆっくり実体化を始めた。

美鈴
 「ほ、ほんまですか……?」

摩耶
 「心配性やなー、ほんまやて」

摩耶はそう言うと、またゆっくりと歩き出す。
彼女の眼の前は無人の荒野のようであった。

美鈴
 「い、急がんでええのん?」

摩耶
 「急がば回れ、焦っても、墓穴掘るでー」

関西代表、キュウコン少女摩耶とカクレオン少女の美鈴、デコボココンビで他とも異質な雰囲気だが、その足取りは確実で地雷原を突破するのだった。



***



悠那
 「迷路、か」


 「それも普通の迷路じゃないわね」

実況
 「さぁ! 早くも続々ポケモン少女達が第二エリア、メイズトラップに突入! このエリアは巨大な迷路! しかしそこには数々のトラップが仕掛けられているぞ!?」


 「トラップ……ね?」

桜は自分の身体を細かい砂の粒に変えると地面に撒いた。

ズドン!

すると、目の前の地面から槍が飛び出した。
桜はそれを見てギョッとする。


 「ちょ!? 流石に洒落になってないんじゃ……」

悠那
 「先端は丸まってる、痛いかもしれないけど、当たりどころが悪くない限り大丈夫でしょう」


 「そ、そうかもしれないけどねぇ?」

冷静にそう言う悠那に桜も少し引いていた。
シロデスナの身体は生半可な物理攻撃は通用しないが、サザンドラ少女の悠那は別だ。
桜は上を指差し提案する。


 「上から飛び越える?」

悠那
 「難しいわね、きっと罠がある」


 「罠……かぁ」

桜は背筋を凍らした。
この競技、やるからには徹底的な雰囲気が滲み出ている。
ゴーストタイプでもあるためか、その周囲から立ち込める意地悪な気配をゾクゾク感じていた。


 「足止めてても仕方ないか、とりあえず私が罠はサーチするから……」

桜は悠那の顔を覗いた。
そして口を開けたまま固まってしまう。
なぜなら悠那は両手、龍の首を真っ直ぐ前に向けたからだ。

悠那
 「面倒ね……!」


 「ちょ!? 屋内でそれ使う気!?」

悠那
 「流星群!!」

悠那は3つの口から龍のエネルギーを凝縮させ、目の前に光り輝く龍のエネルギー体が生成され、そして悠那は撃ち放った!

ズドォォン!!

流星群、かつてきららの空間隔離防御を決壊させ、彼女にさえ手傷を負わせた悠那の最大の技。
単純な破壊力なら、ダイマックスした時のダイドラグーンに匹敵する破壊の力は前方の壁や柱を叩き潰した。

悠那
 「はぁ、はぁ! 行くわよ?」


 「無茶苦茶するんだから! まったくもう!」

悠那は凄まじい倦怠感を覚えながら、前へと進む。
ゆっくりと迷路と罠に付き合っていたら、全く前に進めない。
それならば賭けに出ても良いはずだ。
流星群は強力だがデメリットも大きい。
悠那もそう何回も使える技ではないのだ。



***


ズドォォン!

美鈴
 「ひう!? な、なんなん!? 今度はなんなんですか!?」

摩耶
 「あれは……関東の子、ええねぇ、おもろいわぁ」

流星群の衝撃は実験場を揺らした。
ポケモン少女がいくら暴れても平気な設計ではあるが、全ポケモン少女でも攻撃力だけならトップクラスの悠那の攻撃はそれ程だった。
そしてその一撃は、摩耶に目撃される。
摩耶は悠那と桜の背中を見つけ、目を細めてニッコリ笑った。

摩耶
 「美鈴ー! 少し働いて貰うでー!」

美鈴
 「ほえ!? 摩耶はんなにを……てええええ!?」

摩耶は美鈴の腕を掴むと引きずるように走った。
まだ摩耶の前の罠は除去できていない。
だがそんなものは知らんと言わんばかりに、摩耶は直感で罠を回避していく。

美鈴
 「きゃああああ!?」

当然臆病な美鈴はパニックになり絶叫した。
するとその身体は透明になる。
摩耶は、悠那が作った道に踏み込むと、悠那に向かって美鈴を……投げた!!

摩耶
 「行ってこーい!」

美鈴
 「いやああああああああ!?」



***


悠那
 「っ!? 後ろ!?」

悠那は咄嗟に振り返った。
そこにはキュウコン少女が立っていた。
そして、何かけたたましい声が聞こえた。

美鈴
 「いやあああああああああ!?」

悠那
 「一体なに……へぐ!?」

悠那の顔面に何かがのしかかった。
それは透明化した美鈴だった。
いくらポケモン少女とはいえ、仮にも一人の少女をぶん投げた摩耶はクリーンヒットにニヤリと笑う。


 「ちょっ!? 悠那、大丈夫!?」

背中から倒れる悠那、悠那は頭を抱えながらゆっくりと起き上がった。

悠那
 「い、一体何が……?」

美鈴
 「は、はううう!? ご、ごめんなさいィィ!」


 「は!? 声? 近くに何かいる?」

桜は周囲を見渡す、まだ後続は追いついていないが、それで見当たるのは目の前の摩耶のみ。
だが、クラクラする頭を抑えた悠那は立ち上がると真横を睨みつけた。

悠那
 「見えない奴がいる……!」


 「はぁ!? 見えないって!? 透明!?」

摩耶
 「美鈴! いてこましたれぇ!」

美鈴
 「む、無茶言わんといてください!?」

摩耶
 「なら、嫌な音でええわ!」

美鈴
 「そ、それ位なら……!」

ギィィ! ギギィィ!!

摩耶は一気に駆け出す。
悠那達は身構えるも、美鈴の出す嫌な音に顔を歪めた。


 「す、すっごい不協和音!?」

悠那
 「くうう!?」

摩耶
 「あっはっは♪ ウチは円樹摩耶! 関西学園2年生や! 関東の! 佳奈美はんが望む勝利、いただくで〜!」

悠那
 「ち、来るならこい!」

悠那はいつでも迎撃できる態勢に入った。
一方で桜は円樹摩耶、その名前に何か思い出そうとしていた。


 (円樹摩耶? 円樹!?)

桜はギョッとした。
するとすぐに悠那の腕を掴む。


 「一旦退く!」

桜はそう言うと悠那の腕を引っ張った。
拍子抜けしたのは摩耶だ。
摩耶の周りに浮かぶ狐火達は、折角の舞台にしょんぼり気味に揺らめいた。

美鈴
「は、はうううう」

摩耶
 「なんや? 逃げおったな……それにしてもあの砂女どこかで?」



***



実況
 「さぁ! いよいよ先頭集団は後半戦、第3エリアに突入! シンプルな急斜面が立ちはだかるぞ!」

ポケモン少女達に立ちはだかったのは急斜面。
まるでモトクロスレースの会場のようなダウンヒルの続く悪路がポケモン少女達に立ち塞がる。

悠那
 「撤退した理由は?」

悠那は逃げた事に不満顔だった。
挑まれれば逃げない、それも悠那が強者であるための矜持であるからだ。


 「思い出したの、円樹摩耶、キュウコン少女、でも私の世代であいつの異名って言えば性悪女狐!」

桜は前年の記憶を思い出した。
それはまだ桜が九州支部に所属していた頃、関西支部と交流を持つ事があった。
同じ西日本ということで、円樹は交換留学生として九州支部にきた。


 「最初はあいつ猫かぶってたわ……でも、ちょっずつ本性現して来ると……」

摩耶
 「ああ! 思い出した! なんやいつの間に転校しとったんや! おかげで忘れとったで、あんさん影薄かったからなぁ〜!」

摩耶が追いついた、摩耶は目を細め、嫌らしく笑う。
カチン、普段クレバーな女の桜に、額に血管が浮かび上がった。


 「誰が影薄いよ! この性悪女!」

摩耶
 「ややわぁ、さすが防人のお人♪ お上手ですねぇ」

悠那
 「な、なんなのアイツ?」


 「アイツ、京都出身だからお高く止まってんのよ……それに私、影薄くないもん……!」

悠那
 (そういえば出会った頃って)

悠那は昔の桜を思い出す。
そういえば、最初の頃の桜はどっちかって言うと一人でいる方が好きな子だったっけ。
なんとなく影薄いなこの子、そう思った事のある悠那は合点がいった。


 「なに!? なんで納得した顔してるの悠那!?」

悠那
 「い、いえ、それより相変わらず一人見えないわね」

摩耶が追いかけて来る中、もう一人の関西支部から参加するポケモン娘の姿が見えない。
桜は追いかける摩耶を見て、舌打ちをした。
同期中じゃ、摩耶はかなりの実力者だ。
だが、それよりも何よりも厄介なのが小賢しさ。
まるで微笑んでいるかのような糸目は表情が読めず、一体何を企んでいる。

悠那
 「ち、兎に角レースを制するのが先決ね! 桜、行くわよ!?」

悠那は飛び上がる、桜は頷き身体を砂の粒子に変えていった。

摩耶
 「掛かったな! 阿呆! 美鈴、今どす!」


 「えっ!?」

悠那
 「なに!?」

二人は咄嗟に身構えた。
周囲に目配せし、あの透明な少女の襲撃に備える。
だが……。


悠那
 「なにも起きない?」

ピョーイ、そんな軽やかな効果音が聴こえそうな軽い足取りで、摩耶は二人を追い抜いた。
摩耶は口に手を当て、表情を半分隠すと。

摩耶
 「ウププ、間抜けやねぇ、ほな、お先どす♪」

その瞬間、桜はハッとした。
同時に怒りが湧き上がる。


 「こ、このぉ!! 女狐ー!!」

摩耶
 「あ、コンコン♪ お稲荷様のお通りやでー♪」

そうやって、耳をピョコピョコ、左手でキツネのサインを描くとあざ笑う。
摩耶の隣には透明かする美鈴が(いいのかなぁ?)と申し訳無さそうにしていた。

悠那
 「ち! この! ふざけた真似を!」

摩耶が得意とするのは話術だ。
ポケモン少女として、摩耶が突出している訳ではない。
だが、それでも1年生の時、桜は摩耶に辛酸舐めさせられた。
悔しいが、人間性能も含めてポケモン少女の強さだ。

悠那
 「待てぇ!」

悠那は直ぐに飛び上がると、摩耶に迫る。
複雑な地形を走らなければならないキュウコン少女の摩耶と比べて、空を飛べるサザンドラ少女の悠那は有利だった。
だが、摩耶は口元を服の裾で隠すと、悠那を赤い瞳で見つめた。

摩耶
 「若いねぇ、お盛んな事、それじゃ京都じゃ生きていけへんよ?」

摩耶は尻尾から何かを放った。
それは怪しい光だった。
弾幕のように放たれた怪しい光に悠那は飛び込んでしまう!

悠那
 「くっ!? 奴は!? あのふざけたキュウコン少女は!?」

摩耶
 「アッハッハ! 鬼さんこっち〜♪」

悠那は摩耶見つけると、すぐさま飛びかかる。
先輩だかなんだか知らないが、必ず追い抜いて実力の差を見せつける!



***



摩耶
 「あはは、ほんじゃサヨナラ〜♪」

摩耶は手をヒラヒラと振ると、明後日の方向に飛び出した悠那を見送った。
ああいう直情型の子は摩耶にとってお得意様だ。
イノシシみたいに自分の力に過信して、馬鹿正直に戦うことしか知らない。
摩耶は直接戦闘はちょっと苦手だ、本来なら後ろからサポートするのが本業。
でも、今回は佳奈美立っての希望もあり、摩耶が出ることになった。

摩耶
 「ほな、もうそんなに急ぐ必要もあらへんな、佳奈美はんの顔もこれで立つやろ」

摩耶は勝利を勝ち誇った。
もう見える障害は後1エリア、それさえ越えればこの勝負は終了だ。


 「だーれーが、行かせるって言ったかしら?」

摩耶
 「!?」

ドサリ!

桜が突然摩耶の目の前に現れた。
砂の粒子と化した桜は風に乗り、摩耶の目の前で人の形に集まると、桜は目を怪しく光らせた。
その紫色に光る瞳を覗いてしまった美鈴は前のめりに倒れた。

摩耶
 「美鈴!?」


 「安心しなさい、そっちの厄介な娘は眠ってもらっただけ」

桜の催眠術、その目を見たものは眠りに誘われる。
だが気が高ぶっているものや、精神力の強い者には効きづらい。
逆に言えば、精神の弱い者や、衰弱した者には効きやすい。
常に臆病で自分に自信のない美鈴は真っ先に桜の催眠術の術中嵌ってしまった。

摩耶
 「このぉ……やってくれるやん!?」


 「ウフフ、貴方の怒った顔素敵よ?」

桜が初めて精神的優位に立った。
2年生同士の対決、しかも奇しくもどちらもが搦手を得意とする策士!
摩耶が先に動く!

摩耶
 「怪しい光!」

摩耶が怪しい光を放った。
しかし桜は直ぐに地面に吸い込まれる。
固く押し固められた砂ではあるが、鉄やコンクリートで舗装されていないなら、そこはシロデスナの領域だ。


 「アハハ! 砂のマスタリーにどう挑む!?」

桜は地面を揺らした。
フィールドと同化した桜は摩耶の足元を揺らす。

摩耶
 「わ!? く!? あかん! しゃーないな!?」

このルール下では直接的な攻撃は禁止されている。
使っていいのは主に補助技、そして妨害技が精々だ。
故意に狙っていない場合は例外にもなるが、摩耶はその例外に近い方法を取ることにする。

摩耶
 「火炎放射、全弾持ってけ!」

摩耶はその場から飛び上がると、9本の尻尾から、炎が吹いた!
火炎放射はフィールドに高熱を与える!

摩耶
 「どや、熱いやろ!? さっさと出てきたらどうや!?」

火炎放射を直接桜に向けるのはアウトだ。
だがフィールドを焼くぶんには構わない。
それはフィールドを破壊してショートカットした悠那のように。
とはいえ砂と一体化している桜では事情が違う。
ある意味でこれは明確な攻撃、桜は高温に晒されたのだ。


 (くう!? だ、だけどこの勝負は私達の勝ちよ!?)

桜は火炎放射に耐えた。
なんのため? それは勿論最も信頼しているあの子のため!



***



ゴチン!

悠那
 「が!?」

悠那は摩耶を追いかけると突然頭を壁のように聳える斜面ぶつけて停止した。
頭を抑えながら目をパチクリする悠那はそこでようやく幻覚から覚めた。
悠那は直ぐに自分の状況を確認した。

悠那
 「私は無事、あのキュウコン少女と桜は!?」

悠那は直ぐにキュウコン少女を見つけた。
キュウコン少女は地面に向けて火炎放射を放っている。
それを見た悠那は全てを察した。
そして自分が何をしたのか悔いた。

悠那
 (私の馬鹿! 何やってるの!? もっとクレバーになりなさい! 感情に任せてなんになる!?)

悠那は元々激情家だ。
サザンドラのソウルがそうさせる影響も大きいだろうが、悠那は時折周りが見えなくなる。
そのソウルの暴走のような強烈な高ぶりを、彼女は必死に抑えつける。

悠那
 「勝つ……それだけよ!」

悠那は自分に問いかけ、そして決を得た。
ふわり、音もなく飛び上がった悠那はすぐさまキュウコン少女に目掛けて飛来する。

悠那
 「桜!」

摩耶
 「しま!?」

摩耶が悠那に振り返った。
その慣れた声を聞いた桜は地面から飛び出す。
所々焦げているが、桜は無事な姿を見せると悠那に飛びかかった。

パシ!

見事なタイミングで悠那は桜の腕をキャッチすると、そのまま摩耶を無視して飛び去った。


 「アデュー! 摩耶、貴方強かったわよ! でも相方の性能差が出たわね!」

桜と摩耶、直接対決なら摩耶に分があったろう。
だが、悠那と美鈴は?
美鈴は兎に角厄介な女だ、桜は特に摩耶より美鈴を警戒した。
美鈴のアンブッシュに晒されるリスクは、桜や悠那に大胆な行動をさせる抑止になった。
だからこそ、真っ先に賭けだったが、催眠術を敢行した桜はこの勝負の勝利を確信した。

悠那
 「桜! ゴールまで駆け抜けるわよ!?」


 「ええ! 援護は任せなさい!」

悠那と桜の息があった。
大胆に行動する悠那と慎重に万全を期す桜は意見を対立させる事もしばしば。
だが、孤高に生きる悠那にとって桜は貴重な自分に意見してくれる相手であり、桜にとってなんだか生きづらかった九州支部時代と比べて、悠那との付き合いは遠慮する必要のない最高の相棒だった。

摩耶
 「あかん! 美鈴どこや!? 追うで!?」

美鈴
 「うー?」

一方摩耶は地面を踏み、悔しさを表した。
摩耶は自分に自信があった、佳奈美の願いを一番叶えられるのは自分だという自負。
自惚れもあったろう、だがそれに裏打ちされる実力もあった。
だからこそ、美鈴を駒としては有用に思っていたが、美鈴に積極的に頼る事はなかった。
美鈴の極端に臆病な性格は積極的な妨害等不可能であり、それ故にここまでステルス性の高いカクレオンのソウルが宿ったのかもしれない。
もし摩耶がもっと美鈴を信頼していれば、結果は違ったかもしれない。
摩耶はその場を必死に手探りすると、美鈴の感触を発見する。

摩耶
 「美鈴! 起きるんや美鈴!」

摩耶は必死に美鈴の背中を擦った。
だが、美鈴はただ睡眠状態に入っている訳ではない。
シロデスナの催眠術は深い、まるで呪縛のようにそれを縛り付ける。
物理的な影響では美鈴は目覚めない、最低でも2分はこの状態は続くのだ。


 (向こうもすぐ動き出す! 催眠術はそんなに長くは効かない)

かつて剛力闘子さえも、術中にはまり絶大な力を発揮した催眠術。
桜の得意技であり、この術中にハマり、脱出出来たのは明日香だけだ。
だが無敵の技ではないのを知っている。
だからこそ、桜は真剣な面持ちで、このレースを見た。



ポケモンヒロインガールズ

第30話 障害物競走前編

続く……。

KaZuKiNa ( 2021/01/19(火) 18:04 )