ポケモンヒロインガールズ - 第三部 ネクストワールド編
第28話 運動会、開幕

第28 運動会、開幕



琉生
 「運動会……」

10月中旬、ポケモン少女にとって1年で唯一の祭典が今始まろうとしている。
ポケモン少女学園関東支部に所属する一年生姫野琉生はこれまで見たこともない数の一般来場客に驚愕した。
今回運動会が開催されるのがこの東京の一角に建設された実験都市の中なのだ。
琉生達にはお馴染み学園横に併設された総合運動場には人の塊、正に動き場もない程の人が集まっているのだ。

明日香
 「か〜! 陸上のインターハイよりすげぇな!」

今1年生は控室でその騒音を耳にした。
会場を揺らす振動、一般人にとってこの運動会がそれ程魅力的なのだ。
なにせポケモン少女を間近に見られるのだ、テレビではない。
それも可憐な少女達が人知を越えた活躍をする。
それにこれは運動会とは言うが、その実態は大分違う。

悠那
 「……」


 「瞑想?」

悠那は一人腕を組んで、目を瞑っていた。
まるで雑音なんて聞こえていないかのような集中力だった。

悠那
 「……これは勝負よ、最強を証明しなければいけない」

夢生
 「相変わらずビュンねぇ〜」

悠那のストイックさ、見事な物だが同時に付いて行きづらい。
悠那は常に自分が強いことを証明しようとしている。
さぁ、間もなく開催だ。


 「みなさ〜ん♪ 準備は出来ましたかー?」

控室に入ってきたのは3年生の友井愛だった。
3年生は進行役であり、あくまで競技を行うのは1年生と2年生なのだ。


 「どうして3年は出場しないの?」


 「あー、なんか慣習みたいですねー、ごめんなさい、理由は良く知らないんです」

アリア
 「昔は今よりポケモン少女も少なかったと聞きますし、案外それが原因でしょうか?」


 「さぁさ♪ 皆さん付いてきてください!」

愛は雑談する皆を急かすと控室を出た。
廊下に出ると、隣の部屋からは丁度2年生も出てきていた。


 「おっ、皆今日はチーム一丸となって頑張りましょう♪」

闘子
 「愛、手筈は整っているよな?」


 「はい♪」

2年生達は、1年生達と比べると幾分リラックスしている様子だった。
伊達に2回めの出場ではないという事だろう。
3年生の二人に至っては、余裕すら感じられる。

明日香
 「吉野先輩、笑ってられるんだからやっぱりスゲーよな」

アリア
 「伊達に元アイドルではありませんね」

由紀
 「貴方達、気合い入れなさい。勝つのは私達よ」

砂皿由紀はそう言って、鼓舞するが夢生はそれに苦笑した。

夢生
 「ユウとおんなじこと言ってるビュン」

悠那
 「……」

悠那はそれを言われると、あからさまに不機嫌な顔をした。
まるでコレと一緒にするな、そう無言で伝えるように。


 「ウフフ、悠那怒っちゃ駄目よ? 楽しまないと」

悠那
 「うるさい……気を散らさないで」

ミア
 「早く行きましょう、時間が押しますから」


 「そうですね〜! それじゃ、関東支部入場〜!」



***



総合運動場、そこは日本でも屈指に巨大なグラウンドを有する競技場。
観客席は満席であり、多く一般客がグラウンドに整列していくポケモン少女達に注目した。

全てのポケモン少女が出揃うと、開幕式が始まる。
予めポケモン少女達の前に設置された壇上にはポケモン少女達を代表し、二人の少女が登った。
関東支部代表友井愛と関西支部代表堀佳奈美だ。

佳奈美
 「久しぶりやな」


 「と言っても1週間ですが」

以前佳奈美が遊びに来たのは1週間前、愛がそれを笑顔で突っ込むと佳奈美は苦笑した。

佳奈美
 「1週間でも寂しいは寂しいやろ?」


 「それは……まぁ。それより宣誓しますよ!」

佳奈美
 「よっしゃ! 宣誓ー!!」

佳奈美の元気な声は、マイクを通じハウリングしながら競技場の外にまで響いた。
それは部外者進入禁止の学園棟にまでだ。

依乃里
 「始まったわね……」

学園棟から競技場を覗くユクシー少女の神成依乃里は、目を閉じている状態にも関わらず、それを冷静に確認している。
一方その隣りにいたスーツ姿の少女はウンザリ気味だった。

冥子
 「なんでアタシまで、こっちに来なきゃならないんだよ」

依乃里
 「局長命令よ」

局長、冥子はその肩書に複雑な表情をした。
この世界において秘中の秘、ほんの僅かな者だけが局長の顔を知っている。
冥子は下を覗いた。
この場所にその局長がやってきているのだ。
目的はポケモン少女達の運動会だろう。
だが、疑問が残る。

冥子
 「……なんで局長はオフィスに居ねぇんだ? 観戦するだけならオフィスでも出来るだろうに」

依乃里
 「さぁね、私達の任務は局長を影から護衛することよ」

冥子
 「へいへい、分かってますよ……ていうか依乃里だけいたらそれ充分だろ」

勿論依乃里もそのつもりだ。
ポケモン少女達をここまで導いてくれた局長の道を阻むもの、それこそが依乃里の排除すべき対象である。
局長の命令は絶対だが、しかし確かに不可解ではある。

依乃里
 (まるで、本当の目的は運動会じゃない、そんな風にも感じるわね)

愛や悠那、きららでさえも見たこともない謎の局長。
何故それ程隠されているのか、冥子はかつて探った事もあった。
でもその答えは正に暗黒の中、電子の海には何もない。

冥子
 (まっ、余計な事をしない分には、待遇も良いし……ここは素直に従っておくか)


 『正々堂々戦うこと! 誓いまーす!』

冥子
 「……開会式終わったな」

依乃里
 「……第1種目は?」

依乃里はパンフレットを懐から取り出すと、スケジュールを確認した。

冥子
 「暗記しているかと思ったら、結構準備いいんだな」

依乃里
 「私はそれ程自分の記憶を信じていないだけよ、事実は徹底するだけ」

冥子はその依乃里のプロフェッショナル主義に頭を掻いた。
仮にも知識ポケモンと呼ばれる奴のソウルが宿ったポケモン少女が、記憶を司りながら記憶を否定する。
傲慢も驕りもない、こんな奴を捕まえようとしたなんて、土台無理だったんだな、と冥子は思う。

冥子
 「……さて、そんじゃ最初の種目は?」

冥子は窓から競技場の空を見上げた。
無数のドローンが飛び交い、そして巨大なリングが宙に浮かび上がっていた。



***



実況
 「さぁ、始まりました! 実況はポケモンバトルでもお馴染み、この私が務めさせていただきます! まずは第1種目、4キロ飛行! この競技は約200メートル毎に設置されたリングの中を通過し、4キロの空中レースだ!」

競技場真上に出現したホログラムのリングに、明日香は感嘆の声を上げた。

明日香
 「はえー、初っ端からこれだもんなぁ」

それぞれ既に変身を終えたポケモン少女達、1年生は初めての舞台に呆気にとられていた。
それにしても、学生の運動会とはまるで規模が違う。
まるで競技用ドローンレースのような状況に、関東支部だけでなく、日本中から集まったポケモン少女達が驚いているのだ。

実況
 「それでは先ずはデモンストレーションを行って頂きます、デモンストレーションをして頂くのは関東支部パルキア少女!」

きらら
 「ん」

琉生
 「きらら先輩……」

デモンストレーションを行うのは星野きららだった。
きららはスタート位置につくと、スタートを待つ。

アリア
 「先輩、姿を見ないと思ったら、こういうことでしたのね」


 「皆さん見ていて下さいね〜、これが如何に普通の運動会じゃないか、しっかり勉強してくださいね?」

愛がそう言うと、1年生達は頷いた。
縦に並んだスタートランプ、それが赤から緑へと変わっていく。
そしてスタート音が競技場に鳴り響くと!

きらら
 「行くよ、パルキア」

その瞬間、きららがスタート位置から消えた!

夢生
 「え!? 消えたよ!?」


 「リングを!」

愛がリングを指差す。
きららは一瞬リングを通過すると、直ぐに消える。
そして次の瞬間には次のリングを通過しており、きららは20個のリングを通過して、ゴールの競技場に辿り着いたのは僅か7秒程だった。

観客
 「「「ワアアアアアアアア!!」」」

人間の常識を超えたきららのパフォーマンスに観客席が一気に湧き上がった。
だが、その本質に気付いた者は如何にきららが規格外か思い知る。

悠那
 「……っ! アレが最強のポケモン少女か」

アリア
 「星野先輩は空間転移を繰り返して、チェックポイントだけ実体化して、ゴールした訳ですね。つまるところ、このレース飛行する必要はない」

明日香
 「て、言ってもあんな規格外な事出来るのも星野先輩だけだよな」


 「さて、走者ですが、先ずは第一走燈ちゃん、お願いしますね」


 「うん、頑張る」

デモンストレーションが終わると、いよいよ本番のレースが始まる。
スタートラインに集まる少女達、燈はある少女を見つけると目を見開いた。


 「あ……」

そこにいたのは北海道支部に所属するムウマージ娘だった。
まるで黒い魔女のような格好、しかしその目はおっとりしており、燈より少し背の高い温和な少女だった。


 「縁(よすが)ちゃん……」

縁美代(よすがみよ)、かつて古代燈が所属していた北海道支部の同級生だった。

美代
 「古代さん……良かった、無事で」

あの関東支部襲撃事件を起こした燈は、公では失踪した事になっていた。
美代という少女は涙を流しながら、燈の平穏安堵な姿にホッとした。


 「う、うん……」

しかし、燈は複雑だった。
美代から顔を逸らすと、口籠ってしまう。
美代はあくまで燈を被害者だと思っているのだ。
実際は自分の意思で北海道支部を出奔し、悠那達に合流した。
燈自身にこれと言って主義思想があった訳じゃない。
ただ燈は盲目的にまで悠那に従ったのだ。
その結果、多くの人を傷つけて、燈は迷った。
今平穏でいられるのはある意味奇跡のようだ。
だが美代に嘘を付いていいのか?
燈は逡巡する。

美代
 「ウフフ♪ 古代さん、私も貴方が消えてから強くなったのよ♪ 見せてあげる♪」


 「う、うん」

燈は北海道支部では抜きん出た才能を持っていた。
未熟な精神に反比例するように備わった強大な力はしばしば、仲間を驚異に晒すこともあった。



明日香
 「なんか、様子が変だな? 燈の奴」


 「うーん」

遠目に燈の様子を見る愛は手に持ったタブレットPCを見た。
画面上には、各員のバイタルチェックが表示されており、愛は燈の項目を確認する。


 「シンクロ率も正常、心拍呼吸も特に問題はありませんねー」

悠那
 (燈……)

その事情を知っているのは悠那だけだった。
突然の失踪と転向。
その満足な理由を恐らく北海道支部には伝わっていないだろう。
燈は優しく優柔不断な少女だ。
今ある意味燈は試されている。

実況
 「さぁ! 走者の説明をするぞ! 先ずは関東支部所属ウルガモス少女! 次に関西支部のヤンヤンマ少女! 北海道支部からはムウマージ少女! 九州支部はリザードン少女!」

明日香
 「あ!? あいつ!? デビュー戦の!?」

明日香はリザードンの少女を見て思わず素っ頓狂な声を上げた。
もう覚えている人も少ないかもしれない、しかしその少女こそポケモンバトル、リアルファイト部門で明日香と新人戦を熟した相手だったのだ!

夢生
 「あの九州代表知っているの?」

明日香
 「い、いや……俺もあの時は、対戦相手を意識するだけの余裕なかったから……」

実況
 「そして最後! 海を越えてはるばる日本にやってきて貰った米露合同チームより初参戦! スワンナ少女だー!」

琉生
 「が、外人さん?」

最後に紹介され、笑顔で手を振るスワンナ少女は目の青い白人系だった。
ただ少女というが、スワンナ少女は背も高く顔も大人びており、日本人とは違うオーラを感じるものだった。


 「アメリカニューヨーク支部所属のリリィさんですねー」

明日香
 「え? 愛ちゃん先輩、アメリカにまで人脈あるの?」


 「あはは〜、私よりきららちゃんの方が詳しいと思いますよ〜?」

笑ってそう言う愛、改めて3年生って謎だよな、そう思う明日香だった。



リリィ
 「Hay! pretty girl!」


 「え? えと、ジャパニーズ、スピーク、プリーズ?」

リリィ
 「アハハ♪ OK♪ 可愛らしいお嬢さん♪ 今日はよろしくね♪」

リリィは典型的なアメリカ人少女だった。
スワンナの美しい翼を背中に生やし、人懐っこい顔で燈や美代に寄ってくる。

美代
 「ず、随分フレンドリィだね」

リリィ
 「一度で良いから日本キタカッタデース♪ オタク文化満喫デス♪」


 「お、オタク?」

燈はその言葉に戸惑うが、アメリカ人にとってオタクは日本人ほどネガティブな言葉ではない。
いわゆるコアな日本のアニメやゲーム等のカルチャー、それをOTAKUと言うのだ。
まぁ、そんなお国柄のローカルを知るはずもない日本の乙女たちは、自由とナショナリズムの本場の陽キャに圧倒されるしかないのだ。

係員
 「それでは位置について!」

リリィ
 「oh! 負けませんヨー!?」

いよいよレース開始だ。
5人のポケモン少女はスタートラインに横並びする。
スタートランプは赤から緑へと変わると、甲高いスタート音が響いた!

リザードン少女
 「機先を制する!」

まずはスタートダッシュを制したのは九州からやってきたリザードン少女だ。
その反応は良い、伊達に危険な世界、ポケモンバトルで慣らしてはいないという所か。
そしてその後ろに続いたのは関西のヤンヤンマ少女と関東支部燈。
更に後ろには北海道支部の美代が続く。

実況
 「走者一斉に飛び出した! いや!? 待てよ!? 連合チームのスワンナ少女飛び出さない!」

リリィ
 「フフ♪ ハンデデース♪」

リリィはあえてスタートを遅らせると、白銀に輝く大きな翼をはためかせた。
天使のようにさえ見えるリリィは一度羽ばたくと、凄まじい風が周囲を舞った。
その翼力から放たれるスピードは一度放たれると、誰よりも速く飛び上がった。


 「速い!?」

リリィ
 「お先デース♪」

リリィはチェックポイントを通過する燈と美代をあっさりと抜き去った。
そのスピードが先頭争いをするリザードン少女とヤンヤンマ少女を捉えるのは時間の問題だった。

美代
 「そ、想定内よ! いくわよ! トリックルーム!」


 「っ!?」

燈は後ろを振り返った。
鳥のように速くは飛べないムウマージ少女、しかしそれを逆手にとった作戦に打ってでた。

実況
 「おーっと!? 先頭を行く3選手、減速! 逆に北海道支部代表ムウマージ少女急加速!」

リリィ
 「ノゥ!? これはまずいデス!」


 「っ!?」

美代はこのチャンスに一気に首位を奪取した。
速い者ほど遅く、遅い者ほど速くなるトリックルーム。
その不慣れな状態に選手たちは戸惑った。
ただ、一人燈を除いて。


 (凄い力……でも、そんなに便利な物? 射程は? 効果時間は?)

燈は相対的に速くなった事で、リリィ達を追い越すそれでも美代には遠く離された。

美代
 (い、急がないと! リードを維持して!)

一方、首位を走る美代は必死だった。
そう、このトリックルームは切り札だが、決して万能ではない。
効果時間はそれ程長くない、再使用は可能だがトリックルームは大きな隙を晒す。
とにかく急いでチェックポイントを通って、ゴールに向かうしかないのだ。


 (かなり離された……これは少し賭け)

燈は数チェックポイントをリードする美代を俯瞰する。
燈は天才だと喩えられる、あの悠那が認める潜在的な能力の高さは、普段は鈍くさく優柔不断な燈の性格に隠れた。
だが、その独特のフィーリングはトリックルームの仕様を本能的に理解しようとしていた。
何より燈は焦っていない。
イマイチ鈍くさくて、能力テストでもイマイチ結果を残せなかったけど、今少しだけポケモン少女が何たるかを理解した。


 「蝶の、舞!」

燈は空中でクルリと回転するように舞い踊った。
炎の燐が飛び散り、彼女の舞は太陽のコロナのようであった。
だがその舞を見せた瞬間、燈の動きが遅くなった。
燈は直ぐにリリィ達に抜かれてしまう。

リリィ
 「why!?」

リリィはその特異な世界で、燈を抜き去るとき、その顔を覗いた。

リリィ
 (減速したデス!? 空気抵抗? なにか違いマース!?)

燈は続いてもう一度蝶の舞を舞った。
その炎の鱗粉はゆっくりと空気の中に散っていく。
それを見て、リリィはようやく理解した。

リリィ
 「So that's it! そういう事デスカ!」

リリィは直ぐに大きく羽ばたき、並走するリザードン少女、ヤンヤンマ少女から離れた。

実況
 「スワンナ少女突然離脱! トラブル発生かー!?」


 (後は……頑張るっ!)

燈の背中からバッグファイアが吹いた。
その瞬間、トリックルームが解除された。
通算3回蝶の舞を使用した燈は凄まじい速度で加速する。
それはまるで火球だ、燈の周囲は炎の鱗粉が膜のように舞い、その凄まじい熱量は、燃えやすい物なら自然発火する程だ。

一方、同じように美代と燈の意図を土壇場で理解したリリィは大きく翼をはためかせた。
追い風を起こすと、ただでさえ速いリリィは凄まじいスピードを出した!

実況
 「スワンナ少女、ウルガモス少女急加速! リザードン少女ヤンヤンマ少女追い抜かれる!」

リザードン少女
 「なっ!?」

ヤンヤンマ少女
 「くっ!?」

燈は真っ直ぐ美代の背中を捉えた。
美代は後ろを振り返る。

美代
 (まずい追いつかれる!? こうなればもう一度!)

美代はトリックルームの始動準備に入った。
まずい、燈は直感から再発動したら勝ち目はないと悟った。
だが、リリィが風を切り裂いた!
リリィのエアスラッシュ、美代の肩を切り裂いた。

美代
 「あう!?」

美代が怯んだ!
燈は美代を心配したが、幸いエアスラッシュは美代の皮を裂いた程度で、重症ではなかった。

リリィ
 「ごめんなさいネ!?」

リリィは申し訳なさそうにウィンクすると、美代を追い抜いた。
その隣には燈が並走する。
美代はほんの僅かとはいえトリックルームの発動を中断させられた。
それがどのような結果を残すか、美代は唇を噛んだ。

美代
 「トリックルーム!」

美代は2回めのトリックルームを発動させた。
再び定義されるフィールドにその原理は発動され、速いものは遅く、遅いものは速くなった。

美代は必死でリリィと燈を追いかけた。
燈とリリィ、その先頭争いは微妙な勝負であった。
やや燈が速いか、徐々にリリィを引き剥がす。
燈は眼下を見た。
ゴールは後200メートル、競技場が近づいている。

実況
 「先頭争いは関東支部代表ウルガモス少女か!? このまま! このまま終わってしまうのかー!?」

リリィ
 「フフフ、デース!」

突然リリィが加速した!
追い風の効果が無くなり、相対的に燈より遅くなる、つまりトリックルーム下ではリリィの方が速くなる!
だが、ゴールは目前だ、後ろには猛スピードで美代も追いかけてくる!


 (勝ち、たいっ……!)

燈は手を前へと突き出した!

パァァァァン!

ゴールした、ポケモン少女達は減速する。
果たして誰が勝ったのか?
誰もがその結果を待つ、全ての選手がゴールした後、競技場上部に設置された巨大ディスプレイにその結果が表示された。

実況
 「1位は……! 関東支部代表ウルガモス少女!!」


 「はぁ、はぁ……え?」

燈はゆっくりと、競技場に降り立った。
正直勝利の実感がなかった。
ただ身体の熱が熱く、燈は燃える吐息を吐きながら、クールダウンする。

リリィ
 「oh! 負けちゃいましたネー! お見事デス!」

美代
 「あ、あともうちょっとだったのに……」

リリィと美代の姿、燈はそれを振り返りようやくその結果を受け止めた。
2位はリリィ、3位は美代、何れも僅差の勝負であった。



***



明日香
 「おっしゃー! 勝ったー!!」

明日香はガッツポーズを取り、燈の勝利を喜んだ。
相手は皆未知のポケモン少女達、そしてその戦術は様々な事を思い知る。

佳奈美
 「アホンダラー!! 何やっとんねん!!」

アリア
 「……明日香さんより大声の人がいますね」


 (か、佳奈美ちゃん……)

熱狂しているのは何も明日香だけではない。
関西支部の待機場所では堀佳奈美が自軍の不甲斐なさに憤慨した。
1年生からすると、かなり個性的な少女に映ったろう。

琉生
 「……過酷だね」

あんなデッドヒートを見た琉生はゴクリと息を呑んだ。
自分はついていけるだろうか?
全国の同世代のポケモン少女達、この特別な祭典に関東支部はついていけるのか。



ポケモンヒロインガールズ

第28話 運動会、開幕

続く……。


KaZuKiNa ( 2021/01/06(水) 18:11 )