ポケモンヒロインガールズ - 第三部 ネクストワールド編
第26話 能力テスト、その終わり

第26話 能力テスト、その終わり



能力テスト後半戦、ここからは各ポケモン少女たちは変身して臨む事になる。
各々は変身して、ここから本番とも言えるテストを始めるのだ。


 「それでは一年生の皆さん、始めますよー!」

明日花
 「いよいよ、か」

宝城明日花、アローラリージョンのフォルムと呼ばれるゴローニャのポケモン少女は両手を打ち合わせた。
ゴローニャの身体は硬く、そして重い。
その打ち付けた拳は重たい音を響かせた。

アリア
 (さぁ、不甲斐なかったあの頃から、私はどう変わった? それをゴチルゼルと共に証明しましょう!)

ゴチルゼル、天体ポケモンと呼ばれるそのポケモンのソウルは、エスパータイプに属する。
強力な予知能力や念動力等、その力は決して弱い力ではない。
しかしあの頃のアリアにはその力を完全には理解出来ていなかった。
それは屈辱だ、アリアにとってもその不甲斐なさが与えた影響は大きい。
だからこそ、ゴチルゼルにとっても、アリアはその力を証明しなければならない。

悠那
 (勝つだけ……やるわよサザンドラ)

闘子
 「それでは、位置について!」

琉生
 (やるだけやる、そうよねオオタチさん!)

各自、一列に並ぶ。
ゴールは100メートル先、そこで友井愛が計測器を持って待っている。

闘子
 「よーい……」

緊張の一瞬、一年生達は、時間が鈍化するような感覚を覚える。
それは研ぎ澄まされた精神が及ぶす主観の世界。

闘子
 「……どん!」

夢生
 「ビューン!」

スタートの合図、それに最も素早く反応したのは夢生だ。
その速さはグンを抜いている、悠那は舌打ちをした。

悠那
 (速い……だけどね!?)

悠那が加速した!
サザンドラの力を引き出し、翼を広げ夢生を追い越す!

夢生
 「きゃあ!?」

悠那
 (このまま突き放す!)

勝利の確信だ。
このままトップで駆け抜ける!
だが悠那はその瞬間、その気配を感じ取った。

琉生
 「ふっ!」

琉生だ。
悠那は振り返らない!
振り返れば一瞬で持っていかれる!

悠那
(くっ!? 負けるかぁ!)

二人は加速した、後続を突き放すように。
やがてゴールが二人の眼の前に入った。
どちらが抜ける? 悠那? 琉生か?

悠那
 「くうっ!」

悠那が身体を突き出した。
その僅かな差だが、悠那は琉生を前には行かせずゴールした!

悠那
 「はぁ、はぁ! よし!」

悠那は肩で息をしながら、ガッツポーズをした。
正直、琉生は侮れない。
確かに悠那より劣っているが、彼女の潜在スペックは図り難い。

琉生
 「……」

一方、琉生は息を切らす事もなく、2着で落ち着いていた。
琉生は勝てると思っていた、実際スタートダッシュに遅れたが、その後追いついた。
200メートルなら勝てる?
いや、無理かもしれない、それだけ悠那は勝ちに貪欲で執念がある。

夢生
 「二人とも速ーい!」

3着は夢生、夢生も昔より速くなっている。
だが、地走ならこんなものだろう。
そして4着でゴールしたのは、なんと明日花だった。
明日花はその身体を帯電させ、バチバチと静電気が弾けていた。

明日花
 「おしっ!!」

明日花は珠のような汗を流しながら、ガッツポーズをする。
上三人にはこれでも追いつけないが、彼女もゴローニャの特性をよく理解し、電力を最適に人体へ配分して、ここまで加速した。
その僅か後ろで小さく息を吐いたアリアも同様だ。
彼女も5着ではあるが、満足のいく結果が出せた。

アリア
 (大丈夫、これで良い)

ゴチルゼルの力を理解して、ポケモンと同化する、そのプロセスをより理解して、アリアは充分に性能を引き出した。
一方、不満顔で膨れたのは、ビリの燈だった。


 「皆速い……」

変身しなくても鈍くさいが、変身しても鈍くさい燈は人間から毛の生えた程度の足しかない。
いや、そもそもウルガモスのソウルを宿す燈にとって、走るというのがあり得ないのだ。
ウルガモスはその一生を殆ど飛んで過ごす。
つまり、地上にいれば芋虫と変わらないのだ。
それが燈に与えるプラスはあまりに少ない。


 「あはは〜、皆さんお疲れさまです〜」


 「ちょっと、悔しい」


 「うふふ〜、燈ちゃん、もっと自分を引き出して良いのですよ〜?」


 「? 意味が分からない」

愛は微笑んだ。
これ以上のヒントは与えない。
ポケモン少女は人間だが、人間ではない。
ポケモンだが、ポケモンではなく、その2つが混ざり合った存在なのだ。

愛からすれば、一年生はまだまだであった。
ソウルの力を純然に引き出す事、そして人間の発想に囚われない事、ポケモン少女には重要な事だ。


 「さぁさ、次は二年生ですよー?」

愛は皆を誘導すると、二年生達がトラックに入ってきた。
果たして今の二年生はどれ程なのか? 一年生達は注目した。

明日花
 「今のアタシ達がどれ位遅れてるかだよなぁ」

アリア
 「ええ、私達の目標にもなりますからね」

悠那
 (……興味ないわね)

悠那は息を整え、腕を組んで瞑想するように目を瞑った。
あくまで悠那が考えたのは、琉生に対する完全勝利だ。
まずは一勝を得たが、この後も勝つ気なら、並大抵の覚悟では無理だ。
それだけ琉生の潜在スペックは高いと見るべきだろう。
勿論、琉生にサザンドラのソウルを有する悠那にパワーで負けるとは思っていない。
オオタチを有する琉生のスペックはかなりスピードに寄っている。
スタートダッシュで琉生の方が速ければ、悠那は負けていただろう。
だからこそ貴重な勝利だった。
目標はこのまま琉生に対して全勝する事だ。

闘子
 「よーい……」

闘子が腕を上げスターターピストルを掲げた。
二年生達の顔は真剣だ。
そして一年生達も固唾を呑んで、待っている。

闘子
 「……どん!」

スターターが切られた!
その瞬間、二年生の四人は恐るべき動きを一年生に見せる。

ミア
 「今年こそは!」

四人の中でも特に歪なシルエットを持つ霧島ミアは、その身体と同等の大きさを誇る巨大なハサミを後ろに向けた!
それは丁度海老反りになって、皆とは正反対を向いた格好だ!

明日花
 「何をする気だ!?」

ミア
 「発射!」

ミアは強烈な水弾を発射した!
それは後方地面で炸裂し、ミアを吹き飛ばす!

アリア
 「まさか!?」

悠那
 「っ!?」

それは、一年生達が到底想像も出来ない戦術だった。


 (自分を出せって……こういうこと?)

彼女たちは人間ではない。
その尺度は間違いなくポケモンを半身に宿す、ソウル憑依者達。
そして、100メートル走のルール、闘子や愛が求めるポケモン少女達の能力は、単純なかけっこなどでは無い!

由紀
 「ちっ!?」


 「なーる、何でも有りなのね、なら!」

ミアは凄まじい速度で射出された。
それは距離アドバンテージとしては充分な飛距離だ!
だが、それで黙っている他の生徒たちではない!
由紀は大きな鉤爪を地面に突き刺すと地中に潜航した。
サンドパンのソウルを宿す砂皿由紀にとっては、走るよりも速いのだ。
一方で桜は別の解釈を見せる!
桜は全身を砂粒で構成したシロデスナ少女だ。
彼女は砂を自由自在に操り、己を変化させる。
今、彼女は自らを指先から無数の砂粒に変えて、風に乗った。


 「っ!?」

鈴はこれを不味いと思い、葉っぱカッターを手元に生成した。
しかしそれは射出する訳ではない、足元にばら撒き、その上を滑るように加速した。

それぞれが奇妙な方法でゴールを目指す。
果たして、一番初めにゴールするのは!?

明日花
 「誰だ!?」

夢生
 「一番は!?」

ゴールは一進一退だった。
一年生にも、誰が一番か分からなかった。
地面を砕き現れる由紀、ゴールで人の形に集結する桜、その後ろにミアと鈴がほぼ同時にゴールした。


 「一着は……桜ちゃんですねー」


 「おーし♪」

由紀
 「ちっ!? 後少しだったのに!」


 「愛ちゃん先輩〜、私とミアはどっち〜?」

由紀と桜に比べ、やはり一頭身遅れた鈴とミアは同時にゴールしたように見えた。
しかし計測器が捉える正確な結果は、愛の持つタブレットPCに無情な結果を示す。


 「ミアちゃんですねー」

ミア
 「やった♪ 最下位脱出♪」


 「パワーの時代は終わったか!」

由紀
 「いや、パワーは関係ないでしょ……」

二年生達はその結果に一喜一憂していたが、一年生達はその結果に脱帽した。
同時に己たちの意識の低さを思い知った。

アリア
 (現状に満足してしまった、ですが……私がしていることは人の延長)


 「ポケモンであること、ポケモン少女であること……」

悠那
 「……」

悠那は黙って俯いた。
悠那とて衝撃的だった。
形振り構わず頑張ってきたが、もしかしたら私はまだ人間であろうとしていたのかも。
だが、同時にそれが目の前で物言わぬ琉生の横顔を捉えてしまった。

悠那
 「っ!?」

悠那は腕組する指の力を強めた。
琉生の顔、それはあの日、ダイマックスの末、完膚なきまでに倒されたあの時の琉生の顔を思い出させた。

悠那
 (あの時、私は恐れた……理不尽に、姫野琉生を人間とは思えなかった……!)

琉生
 「大丈夫? 震えているみたいだけど……」

琉生は振り返ると、悠那の異変に気がついた。
悠那はいつもように澄まし顔だが、震えていたのだ。
もしかして病気だろうか? そう思うと、悠那を避けるよりも、心配が勝ってしまう。

悠那
 「……なんでもない、大丈夫よ」

悠那は琉生の顔は見なかった。
ただ、不機嫌な表情で琉生を跳ね除けたのだ。
悠那の中にあるあの琉生のケモノの顔、あれがポケモン少女の究極ならば、悠那は目指さなければならない。
だけど、怖い。
自分があのケモノの顔をした時、戻ってこれるか?
人であって人ではなく、ポケモンであってポケモンではないからこそ、悠那は人間を辞めるのが恐ろしく思えたのだ。

だが、同時に悠那の中で反骨心が言う。
それでは琉生には勝てないのではないか?
琉生は高いシンクロ率を誇る、それはたやすく人よりもポケモン寄りの姿を見せた。
人とポケモン、どちらが優れているかは明白だ。
琉生はなまじ躊躇いがないように思える。
そうなると、ポケモンとしてはサザンドラの方が優秀だとしてもポケモン少女としては?

悠那
 「っ!?」

悠那は頭を振った。
否定しなければならない、人として自分を律しなければ。
ケモノに堕ちては強くなっても、人は救えない。
自分の繰り返しを絶対に防ぐため力を欲するのであって、それはケモノになることではない。


 「悠那……休む?」

悠那は目を見開いた。
燈が不安そうな顔で悠那の服を引っ張っていた。
それを見て、悠那はようやく落ち着く事が出来た。

悠那
 「ごめん……ちょっとヒステリックになってた」

悠那は浮き沈みがやや激しい所がある。
それに傲慢さが現れ、しばしばヒステリーを起こしていた。
燈はそんな時、本当に心から悠那を心配するのだ。
燈にとって悠那は依存の対象だった。
悠那の言うことは絶対で、悠那に従っていれば正しい。
今でも悠那を信じている事は変わらない、だが悠那には陰りがあった。


 「私、何か出来る? 悠那のこと、心配」

悠那
 「大丈夫、ありがとう、燈」

悠那は笑顔を浮かべると、燈の頭を撫でた。
悠那にとっても燈は仲間であり、大切な存在だ。
燈を心配させる悠那はヒーローではない、そういう思いが悠那を立ち直らせる。


 「次の種目行きますよー!」

やがて、愛が号令を掛けた。
悠那達は愛のもとに集まる。



***



琉生
 (オオタチさん、教えて……私の限界はどこ? 私はどれだけオオタチさんに近づけた?)

まるで西洋人形のようだと喩えられる少女、琉生。
彼女はしばしば、無口で耽り、ソウルに問いかける。
ソウルはやはり応えない、だけど琉生は会話を続けるのだ。

琉生
 (オオタチさんのお陰で私はここまで強くなった、でも私達はまだまだ弱い、どうすればいい?)

スタートラインにつく中、琉生の主観時間は泥のように鈍化していた。
琉生の目に世界のすべてがスローモーションに見えた。
仲間たちの表情、その僅かな筋肉の動きでさえ、掴んでいた。

闘子
 「お前らー! 手を抜くなよ!?」

闘子がスターターピストルを構える。
ここに来て、琉生の瞑想は更に深まっていた。
人間は脆弱で、ポケモンは強力だが肉が無い。
ポケモン少女はポケモンが受肉するための器。
その為には……。

闘子
 「よーい……どん!」

スターターピストルが鳴らされた。
一年生達が一斉にトラックに飛び出す。
400メートル走、最初に飛び出したのは琉生だった。

夢生
 「えっ!?」

ほんのコンマ秒の世界だが、夢生が出遅れた事に、夢生自身が驚愕した。
そしてそれは悠那を戦慄させる。

悠那
 (さっきと違う!? シンクロ率を上げている!?)

琉生
 「オオタチさん……行くよ……!」

琉生はオオタチのソウルから与えられる力を引き出し、それを四肢全てに注ぎ込む。
琉生は前屈みになり、更に加速した。
それは夢生や悠那だけではなく、アリアや明日花さえも驚愕した。

明日花
 「嘘だろ!?」

アリア
 「は、速すぎる!?」

琉生は今なら、放たれた拳銃の弾丸でさえも、摘めるだろうなと思った。
風の動きでさえその目で捉え、全てが彼女には遅かったのだ。


 (安定してる……やっぱり何度見ても不思議です)

愛はつぶさに一年生のバイタルチェックをタブレットPCで確認していた。
安定した高水準のシンクロ率を誇る悠那と燈、それより劣るが、高いパフォーマンスを安定させている明日花、アリア、夢生。
それらに比べて、一般のポケモン少女なら暴走していても不思議ではないシンクロ率を弾き出す琉生。
琉生はシンクロ率が安定せず、不安気味だった。
ここぞで高いパフォーマンスを出すものの、平均すれば明日花達と対して変わらない。


 「琉生ちゃんは特別、なのでしょうか?」

そう呟いている間にも、琉生は一着でゴールした。
愛は直ぐに琉生に駆け寄る。


 「おめでとうございます〜! 一着ですよー!」

琉生
 「……?」


 「琉生ちゃん?」

愛は琉生の目に注目した。
琉生の目がやや赤く変色していた。
だが、それは直ぐに普段のつぶらな真っ黒お目々に戻っていた。

琉生
 「あ、うん」

琉生はいつものように大人しく頷いた。
既に普段どおりに落ち着きを取り戻したのだ。
その不可解さを愛は訝しんだが、結局答えは出せなかった。
その間にも一年生達はゴールしてくる、愛はその応対に追われてしまう。

悠那
 「はぁ、はぁ! くそ!? 完敗ですって?」


 「あはは〜、それでも2位ですよ?」

夢生
 「そうだビュン! 夢生なんて3位だビュン!」

400メートルとなると、結果はやはり変わってくる。
短距離でも長距離でも強い琉生、悠那、夢生の三人。
それに対して明日花は大きく失速した。
400メートルをフルに走るには、電力が足りなくなったのだ。
一方で超能力を四肢の稼働のサポートに回していたアリアはペースを維持するが、最高速が出ない。
そして2年生の結果を見て、解釈を改めた燈は羽で追い風を起こし、揚力を得て、4位でゴールした。
この結果はそれぞれのポケモンの能力の差であった。

明日花
 「はぁ、はぁ……くそ、重いぜ」

明日花はヘトヘトになりながら、へたり込む。
それでも愛は明日花を褒めた。


 「でも、記録更新ですよー? 明日花ちゃんは頑張りましたねー」

明日花
 「はぁ、身体鍛えるだけじゃ限界かぁ〜、もっと電気を使いこなさないとなぁ」

アリア
 (私は逆でしょうか? いくら強力な念動力を操れても、肉体が持たなければ、上の人達には敵わない)

夢生や琉生、人間の規格を超えた挙動が出来る者に比べれば、アリアはまだ人間レベルだ。
人間レベルを超えることは、アリアにとって大きな課題となった。

琉生
 「愛ちゃん先輩、私成長しましたか?」


 「それはもう! 少し怖いくらいですよ!」

正直言えば、本当に怖い。
琉生は自分に自信が無いからこそ、成長を実感出来ないのかもしれないが、愛は琉生程の一年生を他に知らない。
悠那もとても一年生とは思えなかったが、それでも琉生は別格だ。
それこそ三年生レベルあるかもしれない。

悠那
 「姫野琉生! これで勝ったと思わない事よ!」

悠那は疲れた顔を隠さぬまま、琉生を指差してそう言った。
いつもの事とはいえ、琉生は戸惑い固まってしまう。

琉生
 「えと、その……たまたま、だから」

悠那
 「たまたまで30秒以上も差をつけられてたまりますかー!?」

悠那は激怒した、琉生は謙虚すぎるのだ。
それは悠那のプライドを逆なでするものだ。



***



その後一年生と二年生の合同能力テストはつつがなく進んでいく。
パワー系では明日花や由紀が高い成績を出し、悠那と琉生の勝負は悠那の勝ち、だが敏捷性においては琉生が勝ち、精密動作においては五分五分だった。
能力テストで出た二人の結果は、ほぼ比べる事の難しい差であった。

悠那
 「むす〜!」

悠那は体操服から着替えると、顔を膨らませた。
それを見て、明日花は呆れたように言う。

明日花
 「正に勝利者達などいないってか」

夢生
 「人類は皆弱者なんだビュンね!」

アリア
 (合ってるけど違う……でも突っ込めない!)

能力テストが終わって、今日は授業もなく後は帰るだけ。
流石に一年生達も今日はヘトヘトだった。

琉生
 「でも良かった」

明日花
 「なにが?」

琉生
 「今回はゲシュペンストも出なかった」

悠那と燈以外はああと頷いた。

夢生
 「そういえば、あの時るーちゃん死にかけたビュンもんね」

悠那
 「死にかけた?」

アリア
 「初遭遇でしたから、本当に運が良かったですよ」

今の琉生を見れば、並の編隊では到底ゲシュペンストも敵わないだろうが、初期はそれだけ貧弱だったのだろう。
それが悠那には意外だった。
悠那とて最初から強かった訳ではないが、それでも才能があった。
ゲシュペンストの恐ろしさも知っているが、それでも悠那は怯まなかった。

琉生
 「……ねぇ、八神さん?」

悠那
 「なに?」

珍しい事だ、琉生がおどおどしながら悠那に声を掛けた。
悠那からなら毎度の事だが、琉生が話しかける事はまず無い。
それ故に、皆は着替える手を止め、琉生を心配そうに見て固唾を呑んだ。

琉生
 「まだ、私に拘るの?」

悠那
 「……」

琉生からすると、悠那は鬱陶しい存在だと言える。
琉生は静かでいたいのに、それを悠那は許さない。
だからこそ、逡巡するのだ。
これからどのように付き合うのが、仲間として正しいのか。
少なくとも琉生は思った。

琉生
 「私は……悠那と仲良くしたい」

それが琉生の答えだった。
この触れれば、簡単に壊れそうな儚げな少女が、悠那に歩み寄ったのだ。
悠那は言葉がなく、明日花とアリアは顔を合わせ、ニコリと笑った。

明日花
 「だってさ? 八神さん?」

アリア
 「勿論私達も同じ想いですわよ?」

二人も琉生に同意した。
そしてそれは。


 「私もそう思う」

夢生
 「仲良くした方がよっぽどいいビュン!」

悠那は長い長髪を指で掻いた。
想定外だったのは、琉生の対応だ。
まさか琉生の方からそう呼びかけられるなんて思っていなかった。

悠那
 「分かったわよ、分かった! 私の負け、ね」

悠那はそう言うと、琉生に頭を下げた。
彼女なりのこれまでに対する謝罪だろう。
だが、悠那は直ぐに顔を上げると、胸を張って宣言する。

悠那
 「だけど、アンタは私のライバル! 次は私が勝つんだから!」

明日花
 「アッハッハ! やっぱり変わんねー!」


 「悠那らしい」

周囲はどっと笑った。
ようやく得た雪解け、未だ確執はあるものの、悠那に刺々しさは消えていた。
だからこそ、琉生はそっと優しく微笑む。

琉生
 「うん、私もやっぱり負けたくない、よろしく八神さん」

悠那
 「悠那よ、悠那でいい。その代わり琉生って呼ばせて貰うから!」

琉生
 「……うん!」



***



雨が降って地が固まるように、一年生達が仲を深め合う中、夕暮れの街に珍しい人物が現れていた。
その出で立ちはポケモン少女管理局指定の制服に袖を通している少女だった。
そう、それはポケモン少女なのだ。


 「相変わらず綺麗な街やなー!」

その奇妙な言葉を使う少女は目を細め、ある建物を捉えた。
ポケモン少女学園関東支部。


 「愛ときらら、あの二人元気にしとるかなー?」

友井愛と星野きらら、八重歯の目立つオレンジ髪の少女はそう呟くと歩き出す。
その胸には『関西支部』のプレートがあった。



***



きらら
 「愛、いる?」

職員室に訪れた星野きららは相変わらず山のように積まれた書類の奥でパソコンとにらめっこする愛を発見した。


 「あら? きららちゃんですか! 一体どうしましたか?」

愛は仕事の手を止めると、にこやかにきららを迎え入れる。
今日の茶菓子はひよこ饅頭か。

きらら
 「もうすぐ運動会でしょ? 本部から参加しろって言われてね」


 「ああ、もうすぐですからね〜」

愛はそう言うとカレンダーを見た。
運動会、普通の学校行事だが、ここはポケモン少女達の通う学園だ。
普通の運動会の筈もなく、そしてそれは一年生達に新たな試練を与える……。



ポケモンヒロインガールズ

第26話 能力テスト、その終わり

続く……。

KaZuKiNa ( 2020/11/03(火) 11:01 )