ポケモンヒロインガールズ





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第三部 ネクストワールド編
第25話 第2回能力テスト!

第25話 第2回能力テスト!



悠那
 「能力テスト……ねぇ」

学園所有の競技場で体操服に着替え、準備運動していたのは八神悠那だ。
彼女は一人先に学園棟の隣に併設されるこの競技場で柔軟体操をしながら能力テストの時を待っている。
彼女の中にあるのは姫野琉生に対する対抗心だ。
だが、同時に愛の言葉が彼女に突き刺さる。
プライドが高く、その傲慢さは敵を生みやすい。
だが彼女の根底にあるのは強い正義感、理想のヒーロー像の憧れだ。
彼女は過去にゲシュペンストに襲われ、それを名も知らぬポケモン少女に救われた経験がある。
その経験が、今の彼女を形成したと言える。
他人に言えば、馬鹿にもされそうな、漫画やアニメのようなヒーロー像、それを大真面目に彼女は目指している。
それは誰にも譲れず、そして彼女が必ず継がなければいけないのだ。

悠那
 (証明する……私は誰よりも強い、そうでなければ、誰も守れない……私をその命で守ってくれたあの人に何も返せない……!)

彼女は自分にそれをマインドセットすると、立ち上がる。
まだやや暑い9月の日差しが彼女に玉の汗を噴かせる。

明日花
 「あれ? 一番乗りと思ったら先に来てたのか?」

悠那は入口を一瞥すると、そこには体操服に着替えた宝城明日花が歩いてきていた。
悠那は目を細めると、顔を背ける。
明日花は気にした様子はないが、その付き合いの悪さは「やれやれ」と溜め息を吐く。

明日花
 「もう少し仲良くしねぇか?」

悠那
 「仲良しこよしするためにここにいる訳じゃないでしょう」

明日花
 「でも、だからって一人じゃ出来ない事も多いだろう?」

明日花の言うことは最もだ。
そしてそれは悠那が痛い程分かっている。
悠那に出来るのは精々眼の前の人を助ける事しか出来ない。
それは無力さだ、一人では限界であり、神ではない身の限界。
だが……。

悠那
 「……恨んでないの?」

明日花
 「あ?」

明日花はポカンとした。
悠那はプライドは高いが、それだけで生きている女ではない。
ガサツではなく、繊細で、そしてまだ子供なのだ。
それは悠那をどこか後ろめたくしていた。

明日花
 「アタシは気にしてないけどなぁ、てかさ? お前そんな事気にしてたのか?」

明日花はそう言うと苦笑した。
悠那はあからさまに不機嫌な態度を取るが、元より明日花は悠那ほどデリケートではない。
明日花から見て、悠那は随分大人っぽい女性だと思った。
それこそ、最初は大学生かと勘違いしたほどだ。
それ程悠那はしっかりしていて、大人びていたのだ。

悠那は顔を赤くすると、怒鳴るように言った。

悠那
 「笑うな! アンタ人のことなんだと思ってるの!?」

明日花
 「結構優しい奴とは思ってたけど、やっぱり同い年なんだな」

明日花は悠那をやはり色眼鏡を掛けて見ていたのだと実感した。
悠那も明日花と同じ等身大の女の子なのだ。
明日花だって悩みは多い、それと同じように悠那は無欠ではないのだ。

悠那
 「くっ!? アンタだって私達と戦って、大怪我負ったでしょう!? なんとも思わないの!?」

明日花
 「そりゃなんともとは言えないけどさ……でも、それと悠那は関係ないだろう? 大体お前らは筋を通したんだから、俺から言うことなんかねぇよ」

まぁ先輩達が何も言わないならアタシは文句もないしな、そう付け加えると明日花は能天気に、笑う。
一方で悠那は、脱力した。
それは明日花のあまりにもガサツでいい加減な性格にか、まぁ悠那とは何もかも違う明日花が考えに及ばないのはそういう所なのだろう。

悠那
 「これだから子供って、面倒なのよ!」

明日花
 「おい、そういう口の悪さだけは直した方がいいと思うぜ??」

悠那
 「……っ」

悠那にとって同年代は皆子供に思えた。
それは増上慢だが、悠那は気付かない。
悠那は少女であった時期が短く、誰かに甘えようとは思わなかった。
それは両親が厳格だった事も影響していると思う。
悠那の両親はそれなりに社会的地位があり、必然的悠那も英才教育が施された。
その幼い子供に課されたエリート街道は、同年代の友達を許すことはなく、そして悠那もそれが当然だと受け入れた。
そしてやがて彼女はその体にサザンドラのソウルを宿した時、悠那の人生は大きく変貌した。
悠那はそれを喜んだが、両親はそれに大きく失望を示した。
両親の期待を受けた少女は、エリート街道から外れてしまったのだ。
やがて悠那は両親と反発するように家を飛び出した。
そして反社会的組織に属することになったのだ。


 「あらあら〜、皆さんお早いですね〜♪」

気が付くと、団体が入り口から入ってきた。
愛の後ろには一年生達が揃っている。
当然、悠那は琉生の姿を見つけると、対抗心を燃やすように敵意を見せるのだ。

琉生
 「……っ」

琉生はそれに気付き俯いた。
敵意、それは琉生にとってはとても恐ろしい物だった。
敵意というものをよく知っているが故に、琉生はそれを無関心を装おって防護する。
当然、その由を知らない悠那は、ただの臆病者にしか思えないが、勿論ただの臆病者ではないのは知っている。

悠那
 (過小評価はしない! その上で差を見せつける!)

明日花
 「愛ちゃん先輩、やっぱりブルマなんだ……」


 「変ですか〜? 動きやすくて良いと思うですが〜?」

愛はそういうとブルマを持ち上げた。
それは何気ない仕草だが、太ももに食い込む紺色のブルマは妙にはいやらしく、特に敏感な東堂アリアは口元を手で抑え目を背ける。

アリア
 (ブルマの愛先輩、良いですわ……鼻血が出そうなほど)

夢生
 「これでみんなビュン?」


 「うん、皆いる」


 「あー、そのですねー、今回は私達だけじゃないんですよー」

明日花
 「そういや、闘子先輩いないな」

明日花は競技場見回すが、やはり見当たらない。
以前の能力テストでは剛力闘子が監督していたが、今回は忙しいのだろうか?

否、来ていないのではない。
その証拠に愛は入り口を見つめ、やがて人影が見えると笑顔で手を振った。


 「あ、こっちですよー!」

愛が手を振る先、そこにいたのは体操服に着替えた2年生達だ。
2年生? 思わず明日花も首を傾げるが愛が説明する。


 「ほら? 2年生も新学期から比べると格段に成長してますし、それにまだテストを受けてない子がいますから〜」

アリア
 「まさか、なら纏めてやってしまおうという魂胆?」


 「はーい♪ そうでーす♪」

能天気に間延びした声でそういう愛。
しかし、琉生が不安そう大丈夫か聞く。

琉生
 「それ、巡回スケジュールとか、大丈夫なんですか?」

普段は1年生と2年生が共同で街を見回り、人数で範囲をカバーしていた。
それが全員一緒で大丈夫なのか。
しかし愛は事も無げに。


 「何かあれば、真希ちゃんから連絡あるので〜」

アリア
 (それはそれで、藤原先輩過労死しそうですわね)

思わず愚痴を零しながら、街を駆け回る藤原真希を想像するとアリアも心の中で苦笑した。
なんだかんだ真面目だから、いつか倒れなければいいがと、心配するが、愛が言うのだからそれを信じるしかない。

闘子
 「よー! 待たせたかー?」

明日花
 「闘子先輩チーッス!」

明日花は闘子を近づくと快活に挨拶をした。
相変わらず仲の良い二人だが、それに不快感を見せたのは砂皿由紀だった。

由紀
 「ふん……! 精々仲良しごっこしてるのね! だけどナンバー1は私が取るんだから!」


 「あーら、由紀ちゃんツンツンしちゃって、悠那みたいで可愛いわね〜♪」

桜は由紀の後ろに回り込むと、脇に手を突っ込み、指を弄った。
当然そんな事をされれば由紀は顔を真っ赤にして。

由紀
 「きゃあ!? な、なにしてんのよー!?」


 「あら、可愛い悲鳴♪」

悠那
 「桜、あんまり遊ぶんじゃないわよ……」

悠那は頭を抱えると、かつての同僚に釘を刺した。
以前は事あるごとの自分があの目に遭ってきたので、内心では桜の関心が移ったのは喜ばしいが、桜の関心を買ってしまった由紀は哀れだった。


 「もう! 遊ばないの」

由紀
 「あ、遊んでいるように見える!? ていうか、セクハラでしょ!?」


 「大丈夫、私レズだから」

由紀
 「聞いてないー!」

ミア
 「あの、先輩怒りますよ……?」

霧島ミアは闘子を指差すと、闘子はイライラ爆発寸前だった。
流石にやばいと感じたが、桜と由紀も黙ると、闘子は頭を掻きながら。

闘子
 「1年生共、もう説明はいらないと思うが、今回もオレが監督する!」

明日花
 「うーっす! 以前とは違うって所見せてやりますよー!?」


 「計測は私が担当しますのでー、怪我をしないようにしてくださいね?」

闘子
 「例によって1日使うから、バテんなよ!?」

三年生の二人がそう言うと、しばしこの珍しい合同チームはしばし談笑に移った。
とはいえ、この組み合わせでも比較的親しい者同士で会話は発生する。


 「やーん♪ 体操服の琉生ちゃんも可愛いー♪」

琉生
 「は、恥ずかしい、です」

鈴は相変わらず琉生にベタベタ、琉生も押しが弱く、鈴を追い返せず困ってしまう。

アリア
 「霧島先輩、お久しぶりです」

ミア
 「フフ、東堂さんもすっかり慣れたみたいね?」

一方でこのハーフのコンビは仲も良く、良好な関係だ。
それを見て夢生は「ほえー」と間抜けな声を上げる。


 「夢生? 二人をじっと見て、どうしたの?」

夢生
 「すっごいよねー……」


 「何が?」

夢生
 「おっぱい」

思わず燈が吹き出した。
言われてみれば、ふたりとも全体の中でも発育が良いが、夢生と燈は持たざる者だから、凄く共感出来る。
一体何を食べればああなるのか……二人は溜め息を零した。

由紀
 「宝城明日花! 先輩の格って奴を見せてやるわ!」

由紀はズカズカと明日花の前に迫ると、尊大な態度でそう言った。
一方でもう今更なのか明日花にとってはいつもの由紀で、辟易しながら。

明日花
 「砂皿先輩、なんでいつもフルネーム呼びなんすか……」

由紀
 「……癖よ」

すっかりマイクパフォーマンスが板についてしまった由紀は少し照れくそうにしていた。
ポケモンバトルでは思いっきりキャラを作ってるタイプだが、内心乙女なのだ。

悠那
 「桜、あんまり虐めると友達いなくなるわよ?」


 「あら? 悠那がいるじゃない? それとも悠那にとっては私は友達じゃない?」

悠那
 「……」


 「フフ、不機嫌そうな顔も可愛い」

桜は悠那が相手でも楽しそうに戯けている。
桜が自分がいると言われたのは意外だった。
なんだかんだ桜を心配する悠那は、桜を見捨てはしないだろう。
思想も決意も違うが、それでも二人はやはり信頼しているのだ。

ピー!


 「ちゅうもーく! トラックに集合! 先ずは一年生から計測しまーす!」

愛はホイッスルを吹くと、一年生達はトラックに集合した。
先ずは100メートル走、午前中は変身は行わない。

明日花
 「おーし、元陸上部の実力見せてやるぜ」

アリア
 「私も変身しなければ自信ありますよ?」

夢生
 「夢生は今回もドンケツビュンか……」


 「私も自信ない」

変身しなければ、15〜6歳の少女達に過ぎない。
それはつまり技術や能力で誤魔化せるものではなく、日々の鍛錬とたゆまぬ努力が重要なのだ。
一方で早速悠那はじっと琉生を睨んだ。
いよいよ、結果が出せる。
それが白になるか黒になるか、分からないが終われば意識を切り替えよう。

悠那
 (分かってる……仲間なんでしょ?)

だけどこの場だけは、琉生を全力で迎え撃つ。

闘子
 「位置について!」

全員が構える。
それぞれが想いを違えながら、ピストルを待つ。

パァン!

ピストルが鳴ると、一年生達は飛び出した。
最初に飛び出たのは夢生、しかし直ぐに明日花が最高のスプリントを見せる!
短期決戦の100メートル走、それは大した見せ場もなく終了するのだ。

明日花
 「おーし、勝ったー!」

アリア
 「はぁ、はぁ! あれから更に速くなってる」

悠那
 「ふう、ふう! ち……3着か」

結果は当然の明日花一着、二着アリアであった。
ガチで身体を鍛え続けている上、元々陸上で推薦入学出来るだけの才能を持つ明日花は圧倒的だったが、悠那が意外だったのはアリアの身体能力の高さだ。

悠那
 「貴方、東堂グループのご息女よね?」

アリア
 「っ!? どうしてそれを……」

悠那
 「なら、納得ね」

アリアは悠那を知らないが、悠那はアリアを知っている。
両親から東堂グループの事は聞いていた。
直接の面識はないが、所謂上流階級の存在だと聞かされていたのだ。
一方、アリアの表情は暗かった。
まるで日本に名だたる大財閥東堂グループのご息女にはあるまじき不安な顔。
それを悠那は推し量れない。
少なくともアリアが自分よりも更に過酷な人生を歩んだであろうというのは推測出来るが、それも推測でしかなく、その闇は推し量れないのだ。

琉生
 「はぁ、はぁ!」

一方で激しく息を切らしてゴールした琉生は4着だった。
眼の前を走る悠那に最期まで食い下がったが、やはり勝てなかった。

悠那
 「とりあえず先ずは1勝ね、とはいえ変身前は茶番よ」

琉生
 「……そんなに重要?」

悠那
 「私にとってはね、2番じゃ誰も認めてくれないもの」

悠那のそれは、悲壮に映った。
琉生は悠那の根底を推し量ろうとしたが、その重みは分からない。

琉生
 「私は……2番でいい……2番なら誰も注目しないもの」

琉生の暗さはいつものことだが、その時の暗さは悠那にも異質に思えた。
琉生は向上心の高い子だが、時折不自然な程、影が差す。
やはりそれが何を意味するのか悠那にも、琉生は測りきれない。

琉生
 (そう、敵はいない方がいい……じゃないと私は)

夢生
 「はぁ、はぁ! 負けたー!?」


 「初めて最下位じゃなかった……!」

一方ブービーは夢生だった。
それも僅差だが、同じく運動音痴の燈に惜敗してしまう。
燈は小学生の頃から、体も小さく運動音痴で、走ればいつも最下位だった。
足の長い人には絶対勝てないという諦めがあったが、今回初勝利だった。


 「明日花ちゃんすごいですー! 記録更新ですよー!?」

明日花
 「おーし目指せ10秒切り!」

悠那
 「女子世界新出す気か……!」

1年生で既にインターハイレベルの明日花なら、本当に日本新記録なら狙えるんじゃないかと思えるから不思議だ。
愛から見ても、最初は性格に不安のあった明日花が、半年でここまで立派になったのは嬉しくて仕方がない。
やはり闘子に明日花を任せたのは正解だったのだと思いたい。


 「アリアちゃんもアベレージ更新ですよー?」

アリア
 「まぁ」


 「琉生ちゃんも記録大幅更新ですねー」

琉生
 「でも勝てない……」


 「それは基礎も違いますから、むしろここまで仕上げた琉生ちゃんは凄いですよー」

確かに入学時、驚くほど細い足をしていた少女はここまでに驚くべき成長を遂げている。
だが、はっきり言えばそれはマイナスからのスタートなのだ。
明日花は勿論、悠那やアリアさえもスタートラインが違う。
その不公平を乗り越えて、ここまで来たのだから愛が一番表彰したいのは琉生だった。


 「悠那ちゃんは足が速いですね」

悠那
 「前に二人もいると、皮肉か嫌味に聞こえるわね」


 「そ、そういうつもりはないのですがー?」

悠那
 「悔しいけど、結果は結果よ」

悠那はそういうと腕を組んで胸を持ち上げた。
悠那は中学時代から文武両道、その成績は常にトップだった。
それだけの英才教育を受けていていたが、上には上がいるものだ。
だが、それは人類全体で見れば、明日花でさえも、然程ではないのだ。
悠那にとって本番は変身後だ。


 「夢生ちゃん、燈ちゃんは頑張りましたねー」

夢生
 「うぅ……あんまり嬉しくないビュン」


 「私はちょっとウレシイ♪」

最下位の夢生はどんより、燈は上機嫌。
五十歩百歩だが、その結果が明暗を分けた。


 「それじゃちょっと休憩してくださいね、次二年生お願いしまーす!」

愛はタブレット端末を持ち直すと、スタートラインで待つ、二年生達に叫んだ。



***




 「ガハハハ! 全く勝負たならんわ!」


 「はぁ、はぁ! この子何気にこんなに運動能力高いのね……」

由紀
 「しかも信じられる? 息切れてないのよ?」


 「アイドル舐めんな!? 2時間ライブの過酷さに比べれば生温い!」

ミア
 「はぁ、はぁ!」

二年生は鈴、桜、由紀、かなり遅れてミアとなった。
鈴は速力も体力もずば抜けており、ダンスを踊る余裕さえあった。
一方で案外変身前だとそこまででもない、由紀は平凡な結果に終わる。
桜との差は純粋な足の長さで決まった感じだ。

由紀
 「やっぱり、足長いのは有利ね〜」


 「確かに桜さんってグラビアアイドルみたいにスタイル抜群よね〜」


 「こう見えてもスタイル維持するのは大変なのよ〜?」

ミア
 「み、皆余裕ですね……」

一方余裕ないミアの虚弱さは去年より悪化しているように思えた。


 「霧島さん、身体は弱い方?」

ミア
 「はい……虚弱って程じゃないですけど、うぅ……内勤で衰えた……?」

近頃諜報部での内勤で座っている事が多く、運動する機会は体育位だった。
このままではいけないと分かっているが、ずるずるここまで来てしまった。

ミア
 「うぅ……先輩に怒られる〜」


 「怒るって、闘子ってそんな怒る?」

由紀
 「そっちの先輩じゃなくて藤原先輩ね、あのエロい眼鏡の先輩」


 「言い方言い方!」

由紀の葉に衣を着せない表現だが、桜は「ああ」と思い出す。
ミアは真希との付き合いがあり、あれで意外と真希の方が闘子より厳しいのだ。

由紀
 「ふぅ、とりあえず体力残さないとね」

能力テストは始まったばかりだ。



***



テスト内容は前回とほぼ同じだった。
結果内容もほぼ変わりなく、ごく普通の競技を熟し、昼休憩を迎えた。

夢生
 「現実は非情ビュン……」


 「答えBなの?」

ここまでの結果を見ても、夢生の結果は散々だった。
燈も大概だが、それ以上に壊滅している夢生はもはや、何か異常があるのではないかと疑ってしまう。

明日花
 「うーん、夢生は運動能力が悪い訳じゃないんだけどな」

悠那
 「フォームの問題じゃない?」

それも勿論あるだろう。
陸上経験のある明日花と違い、一般家庭の子供である夢生にはそんな専門的な事を学ぶ機会はない。
しかも歳の割に夢生は体型が幼く、足が短いからバランスが悪いのだ。

明日花
 「やっぱり幼女体型だからか?」

夢生
 「異議あり! 夢生が小さいんじゃなくて、皆が大きいだけビュン!」


 「その気持ち分かります〜、大きい人って皆そう言いますよねぇ」

同じ悩みを持つ愛は夢生に激しく同意する。
密かに琉生まで頷いていたが、夢生と愛は同時に似たような事を言った。

夢生
 「夢生だってアーちゃんみたいにスタイルの良い方が……」


 「私だって真希ちゃんみたいにグラマラスなら……」

悠那
 「持たざる者の妬みね……」

悠那は呆れたようにお茶を口に含むと体勢を整えた。
その際揺れるたわわな胸が二人に突き刺さったのは自明の理だ。

夢生
 「ユーだって、そのふしだらな胸はなんだビュン!? 少しは寄越せビューン!」


 「あらあら〜? 何を食べればそんな無駄な脂肪がつくのでしょうか〜?」

悠那
 「ふ、二人共怖いわよ……!?」

夢生
 「うふふ〜」

二人は目を怪しく光らせて、いやらしく手をワキワキと動かす。
思わず悠那は血の気が引いて、後ろに後ずさった。

琉生
 「……そこまで、それ以上はまずい」

流石に琉生も止めた。
アリアも止めようと思ったが、藪蛇になりかねないので自重した。
夢生は琉生の方に顔を向けると、その爪先から頭までゆっくりと品定めする。

夢生
 「むぅ〜、琉生ちゃん美少女だから、そういう事言えるんだビュン」

明日花
 「貧乳だけどな! ハッハッハ!」

まるでお人形のようと言われがちの琉生は、黙っていると本当に等身大の人形のようだ。
綺麗に整えられた銀髪は風に揺れ、その線の細さは見る者が見れば上物だと言えるだろう。
それが夢生は気に食わないようだ。

琉生
 (夢生も静かにしていれば美少女だと思うけど)

やはり小学生と勘違いされる子供体型が問題なのだろう。
琉生も幼く見られがちだが、特に気にしたことがない。
自分を無価値な物だと思っていたのも大きいが、夢生の快活な性格には憧れもある。

夢生
 「笑ってるけど、あすちんなれるならるーちゃんみたいな美少女と、ユーみたいなボンッキュッボンとどっちが良い?」

アリア
 「その言い方もう古いですね」

明日花
 「決まってらぁ! アタシは闘子先輩意外眼中に無いぜ!」

そう言うと明日花は力コブを作り、筋肉アピール。
夢生は溜め息を吐いた。

夢生
 「言うと思ったビュン」

悠那
 「一応言うけど、巨乳っていいことばかりじゃないわよ? 肩だって凝るし、身体に合うブラジャーだって選択肢少なくなるんだから」


 「うぅ……贅沢な悩みです」

思わずアリアも悠那に同意して、静かに頷くがアリアは身長が高いので、巨乳だが体格からすれば、悠那ほどアンバランスではない。
勿論ブラジャー選び困っているのは悠那同様だが。

明日花
 「どうせ見せる相手もいないならスポーツブラで充分じゃねぇか?」

夢生
 「それはオシャレじゃないビュン……」

アリア
 (巨乳のスポーツブラはエロの定番、むしろオシャレなブラの方が無粋ッ!)

思わずエロ本思考でスポーツブラを妄想するアリアはそれを顔に出さない。
流石に同級生でヌく程終わってはいないが、悠那程恵まれたスタイルの女性は珍しく、それこそスポーツブラでもエロさを醸し出すだろうなと、むっつり考えてしまう。
その邪念ともいうべき物を感じた悠那は不審な目でアリアを見た。

悠那
 (なんか、胸を見られてる気がするのよね)

スタイルが良いのは、それはステータスだし、悠那もどちらかといえばそれを誇らしく思っているが、それはそれだけ邪な目線を向けられた機会が多いと言うことだ。
とはいえ、殆ど男性の下卑た目線であり、女性のそれは慣れていない。
隙あらば胸を揉みにくる桜のそれは慣れているが、見るが手は出さないアリアの紳士的な変態は上級過ぎた。

明日花
 「まぁ個性って奴は人それぞれだからなぁ」


 「そうですね……ですが時々理不尽に思います」

愛はそう言うと立ち上がった。
タブレット端末を大切そうに脇に抱えると皆に言う。


 「能力テストは30分後再開します、午後から変身して行いますので〜」

愛はそう言うと足早に去っていく。
改めて、三年生は三年生で忙しそうだ。

明日花
 「さて、飯も食ったし、ちょっと身体動かすかぁ〜」

明日花はそう言うと立ち上がって柔軟体操を開始した。
明日花にとってここからが進退だ。
ゴローニャのソウルを宿す明日花にとってスプリント系の運動は鬼門であった。
実際以前のテスト結果は散々であった。
一方でアリアも同じだった。

アリア
 (今の私はあの頃とは違う……!)

アリアが宿すゴチルゼルというポケモンはエスパータイプのポケモンで、その意味をアリアは介しきれず、戸惑った。
あの時、自身の無力さが初めてのゲシュペンスト戦で致命的な隙になり、琉生を殺しかけた。
もう二度とあんな事は繰り返させない。
そのためにアリアも強くなったのだ。

悠那
 (いよいよね、サザンドラ、私に力を貸しなさい!)

悠那はソウルにそう呟くが、ソウルが返す言葉はない。
それが当然だが、悠那はサザンドラが自分にとって最高のソウルだと信じて疑わない、だからマインドセットに使うのだ。
ポケモン少女として、完全無欠の証明……それこそがゲシュペンストを駆逐し、理不尽な被害を無くさせる方法なのだ。

琉生
 (オオタチさん、私、どうすればいい?)

オオタチ
 『……』

琉生は空を仰いだ。
琉生もまた強くなった。
一年生の中でも最も強いと言われるその力はどれ程なのか?
琉生は自分を客観的に評価出来なかった。
正直言えば、本当に凄いのか、それさえわからないのだ。
勿論やるからには全力でやる。
でもそこで彼女の持つネガティブさが噛み合い不協和音となる。

琉生
 (負けた方がいいのかなぁ……?)

琉生は悠那を見て、そう思った。
わざと負けて、相手が格上だと証明出来れば、それで悠那は納得するんじゃないだろうか?
悠那の事は正直苦手だ。
忘れたい程嫌なことを思い出してしまう。

琉生
 (でも、手を抜くのは嫌だなぁ……)

琉生の複雑で繊細なメンタル。
それこそ、強く押せば簡単に割れそうなガラスのような心の少女。
それでも……彼女の内面に、変化は生じていた。



ポケモンヒロインガールズ

第25話 第2回能力テスト!

続く……。

KaZuKiNa ( 2020/10/23(金) 14:33 )