ポケモンヒロインガールズ





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第三部 ネクストワールド編
第23話 悠那達の想い

第23話



悠那
 「姫野琉生……! アンタに負けたの偶然、それを証明してやるわ!」

朝のホームルームには二人の転入生の姿があった。
八神悠那と古代燈だ。
どちらもかつて、琉生たちと敵対していた少女達であった。
だが彼女たちは破れ、その身はポケモン少女管理局本部に拘束されたはずだった。

琉生
 「……」

悠那の目は険しい。
元々目つきが悪いのだが、とりわけ琉生を見る目は険しかった。
同様にそれを感じ取った琉生は口を噤み、愛を見る。

悠那
 「な、なによ……私には興味が無いっていうの!?」

琉生
 「……」

琉生は戸惑った。
ここまで明確な敵意を向けられたのは久方振りで、その対処に困ったのだ。
そもそもだ、琉生は別に悠那に恨みも敵意もない。
あるのは、ただ自分が彼女を倒したという事実だけなのだ。
だがその際の琉生は殆ど記憶がなく、気がつけば悠那が目の前に倒れていたと言う。

悠那
 (くっ!? この娘何を考えているのか分からない!? さっきから黙って、私を見下している!?)

一方で悠那もたじろいだ。
元々姫野琉生の事は開戦前からマークはしていた。
話題となる程のスーパールーキーだったが、悠那からすればそれ程驚異は感じない少女でしかなかった。
彼女がライバル視したのは星野きららの方であった。
情報調査でも琉生の実力はあくまで1年生としては驚異的というだけで、全ポケモン少女の中でトップランカーに入るきららとは雲泥の差がある筈だった。
だが悠那はきららをダイマックスにより圧倒する事は出来たが、同じくダイマックスした琉生に完膚なきまでに圧倒されたのだ。

悠那
 (私は天才! エリートなのよ!? 百戦やって百勝できる事を証明しなければいけないのよ!)

琉生
 (凄い睨んでる……はぁ、嫌だなぁ)

琉生はこの手合は大の苦手なのだ。
無理して張り合うのは馬鹿らしく、そのための対処法は何も感じないようにする事だ。
嵐はその内過ぎ去る、下手に手を出せばどうなるか、彼女は本能的にそれに自衛行動をとってしまうのだ。


 「悠那ちゃ〜ん? 元気なのは大変よろしいですけど、喧嘩はだめですよ〜?」

悠那
 「べ、別に喧嘩をしようってわけじゃ……」


 「それ、大分無理がある」

悠那
 「ぐっ!?」

見るに見かねた愛は悠那を咎めた。
愛はタブレットから琉生の状態を見て、見るに見かねたのだ。
大体は生徒の主体性に任せる愛だが、厳しい姿も見せる必要がある。


 「悠那ちゃん、貴方の向上心は素晴らしいと私も思うのですが、少し落ち着いて周りを見てみましょう」

悠那
 「周りを?」


 「ここにいるのは皆貴方の仲間です、その意味は悠那ちゃん、勿論分かりますよね?」

悠那
 「……っ」

悠那は周りを見た。
燈、愛、それに琉生達だ。
彼女は護らなければならない物がある。
それは正しさだ。
今ここにはいないが、桜や冥子の事もある。


 「はい、それでは二人共自由に席に座ってください! 授業を始めますよ〜!」

二人はおとなしく席に向かう。
早速その二人に興味を示したのは夢生だ。

夢生
 「あっかりーん♪ お隣どうぞビュン♪」


 「あかりん?」

ニコニコ笑顔で手を振る夢生に燈は首を傾げた。
それを見て、明日花は頭を抱える。

明日花
 「お前、初見にいきなりニックネームで呼ぶのやめとけ、困ってるだろう?」


 「私は、別にいいよ」

燈は、そう言うと夢生の隣に座った。
明日花はそんな燈を見て、イメージ通りの子だなと感じた。
燈は正直言ってなんであんな事件を起こしたのか本当に疑問だ。
仲間にもすぐに打ち解けそうだし、特に裏表もなさそうだ。
もし初対面がこっちだったら、我武者羅に敵意を向けることはなかったろう。

夢生
 「夢生は江道夢生ビュン♪ これからよろしくね♪」


 「うん、よろしく」

アリア
 「私は東堂アリアですわ」

明日花
 「宝城明日花」

琉生
 「姫野琉生、です」

四人は簡潔に挨拶した。
燈はそんな四人に穏やかな笑顔を向ける。
一方でムスッとした顔の悠那は琉生の隣に腰を下ろした。

悠那
 「……改めて、よろしくお願いするわ」

琉生
 「う、うん……」

同学年とはとても思えない圧迫感に琉生はたじろいだ。
悠那はいきなり問答無用で仕掛ける程無法者ではない。
だが、彼女の振る舞いそのものが、琉生を緊張させるには充分だった。

悠那
 「貴方より私の方が優れている……その証明は必ずさせてもらうから」

琉生
 「……」

悠那は琉生を見はしなかった。
正直言って悠那は苦手な相手だ。
琉生はそれ程悠那のことを知らない。
何故悠那はこれ程勝ち負けに拘るのか?

琉生
 「どうして、どうしてそんなくだらない事に拘るの?」

悠那
 「……わたしにとってそれは重要な事なのよ」

悠那の意思は強い。
それは琉生にも分かった。
自分の優れた部分など何も無いように思えるが、それでもただ一度の敗戦が彼女をここまで拘らせているのだ。

悠那
 (そう、だって弱いと……なにも護れない、あの人の死になにも報いる事が出来ない……)

彼女の命を救ったあるポケモン少女の死は誰にも覚えられていない。
悠那には感謝を伝えることも、そんなポケモン少女の力になることも出来ないのだ。


 「それでは今日の授業は〜」

夢生
 「教科書貸してあげるビュン♪」


 「ありがとう」

夢生と燈は早速仲良くしているようだ。
琉生は果たしてこの隣人と仲良くなどなれるのか?

琉生
 (……仲良くならないと、駄目だよね)



***



一方で二年生は早速騒然としていた。
そこにはあの七海桜の姿があったのだ。


 「七海桜、シロデスナのソウルを宿しているわ、皆さんよろしくお願いするわね♪」

そう言ってウィンクする、年並外れた美貌の少女に二年生達は呆然とした。
特に砂皿由紀は。

由紀
 「おい、一体これはなんの冗談だ?」

由紀は教壇に立つ剛力闘子を見た。
闘子は教壇を叩くと、改めて言う。

闘子
 「何度も言うが、七海桜は仲間だ」

由紀
 「アンタそれでいいの!?」

闘子
 「砂皿!」

由紀
 「ッ!?」

ミア
 「……由紀ちゃん」


 「なんだか歓迎されてないわねぇ、一応最後には協力したつもりなのに」


 「あ、あはは〜、由紀ちゃんは大体こうだから気にしないで?」

鈴はから笑いでそう言うが、闘子と由紀は当然のようにピリピリしていた。
それを感じ取った鈴とミアがかなり気不味くなったのは言うまでもない。

由紀
 (今更敵対しようって事はない? それが分かりゃ苦労はしねぇだろ! それに闘子はまだコイツにリベンジしていない!)

由紀にとって結局わだかまりはそれだった。
闘子が番外とはいえ、桜に負けた事は本人以上にショックだった。
桜はそれだけではなく、後輩の明日花をも手にかけ、明日花は重症を負った。
由紀はそんな桜を倒したが、徹底的に毛並みの違う桜を信用しきれないのだ。

一方で闘子も全ての感情を整理出来ているかと言えばノーだ。
上層部からの指示で七海桜の面倒を見ることになった闘子は納得はしているが、愛ほど聖人にはなれない。
今も拳を握り、いつかリベンジをしたいと誓っているのだ。


 (ふふ、このクラス退屈はしなさそうね♪ 悠那と違って弄くり甲斐のある子が一杯だわ)

特に、桜は由紀を見る。
由紀は桜の舌で舐めるような視線を感じると、全身を震わせた。

由紀
 (う!? 悪寒……?)


 (フフ、特にあの子は可愛がり甲斐がありそうね♪)

桜に反逆の意思など勿論欠片もない。
元々暴力的な解決策は好まない桜は、悠那達の思想には賛同したが、やり方に賛同した訳ではない。
冷静沈着で、一線を画す美しさの女性の目は今はサディスティックに輝いていた。



***



昼休憩中。
ポケモン少女たちのしばしの自由時間だ。
通常はそれぞれの学年の学食を利用するのが通常だが、今回は1年生の棟に珍しい来客があった。


 「ここが1年生の食堂よ」


 「merci♪」

明日花
 「あれ? 鈴先輩と……げ!?」

いつものように学食で食べていた明日花は、鈴の隣の女性を見て顔色を変えた。
それは自業自得とはいえ、自分を返り討ちにしたシロデスナ少女こと七海桜だったからだ。


 「あら、あの時のガッツのある子じゃない♪」

桜は明日花に駆け寄るとギュッと抱きついた。
それに慌てて、箸を落としたのは明日花であった。

明日花
 「ちょ!? いきなり何を!?」


 「ごめんなさいね〜? 痛かったでしょう? これからはうんと優しくしてあ・げ・る♪」

桜の妖艶な笑みに明日花は顔を青くして悲鳴を小さく上げた。

悠那
 「はぁ……、それ位にしときなさい」


 「あら悠那? 良かったわ、貴方なんとか馴染めたみたいね?」

悠那は桜のこの行動に呆れていた。
桜の小動物好きは相変わらずで、昔から燈を困らせ、悠那にちょっかいを出したことさえある。
無論悠那は全力で拒否し、燈も守ったが、桜は変わっていない。

悠那
 「……年下を物色しにきたの?」


 「まさか、それは趣味のついで♪ あくまで目的は悠那と燈よ」


 「ごめんね〜、どうしても言うから変な人連れてきて」

鈴は琉生達のいる方へと歩むとそう言った。
琉生は桜は初対面だがなんだか言いようのない危機感を覚える。
一方でアリアは何故か親近感を覚えた。

琉生
 (うぅ……もしかしてアレも苦手なタイプかも)

アリア
 (なぜかしら? 彼女から同類の臭いがする……!)

そんな視線を尻目に、桜は明日花を離すと次は夢生と仲良く食べる燈に向かった。


 「燈! 元気にしてた?」


 「桜もね」

夢生
 「あかりん、この人は?」


(あかりん? なにそれ可愛い♪)


 「七海桜、私の仲間よ」


 (うーん、よく見るとこの子も結構レベル高いわね?)

桜は夢生を見て、燈と遜色のないレベルの高さを感じた。
全体的に見ても、この学園のレベルは高い。
燈や悠那でさえ突出しているようには思えないのだ。
そして勿論趣向においても。


 「フフフ、桜よよろしくねピンクちゃん?」

夢生
 「夢生ビュン、サッキー♪」

明日花
 「はぁ……あいつまた」

アリア
 「パーフェクト○オングの製作者みたいですね」


 「う、フフ……ま、まぁいいわ、よろしく」

桜もこの即興で決めるニックネームには若干表情を引きつらせた。
だが桜は夢生のこの即興で決める頭の速さは評価する。


 (ふぅん、夢生って子、結構潜在スペックはあるのかもしれないわね)

悠那
 「……で、桜の方はどうなの?」


 「あら? 私? ウフフ……心配してくれてるんだ?」

悠那
 「べ、別に……ただ、興味が湧いただけよ!」

悠那はそう言って顔を背けた。
悠那が見た目ほど悪人ではないことを桜は知っている。
目的のために非情になる事は出来るけど、だからといって孤高という程独りよがりではない。
だからこそ燈も懐くし、冥子も悠那に全幅の信頼を置くのだ。
桜はそんな照れた悠那に目を細める。


 「1年生の皆、こんな不器用な子だけど、悠那は本当は優しくて良い子だから、よろしくね♪」

悠那
 「ちょ、ちょっと桜!?」

アリア
 「フフ、こちらこそ♪」

アリアは口元に手を当て微笑んだ。
桜は改めて、悠那が今置かれている環境は決して悪いものではないと感じた。
この環境なら、きっと悠那を落ち着かせてくれるだろう。


 (あの子はちょっと、プライドが高すぎるからね)

桜は最後に悠那に微笑みかけると、踵を返し、出口に向かった。


 「あれ? もういいの?」


 「ええ♪ 私は私で早く馴染まないとね♪」

鈴は立ち上がると桜を追いかけた。


 「じゃねー皆ー!」

鈴はそう言って手を振ると、食堂を出て、桜を追いかけた。
再び静けさをとり戻した食堂、最初に口を開いたのは明日花だった。

明日花
 「意外と仲間思いだったな」


 「桜はあれでも面倒見は良い、よく悠那と意見は対立するけど」

悠那
 「……桜は日和見がすぎるのよ」

琉生
 「どうして、どうしてあの戦いを起こしたの?」

琉生は食べ終えた食器を手元に置いてそう呟いた。
それを聞いた悠那は俯く。

悠那
 「この世界は矛盾を秘めている……だけどそれは貴方達にも認識することは出来ない」

アリア
 「認識できない? それは?」

悠那
 「ポケモン少女管理局はあるポケモン少女にその記憶の改竄を行わせているの、私はそれを否定するために戦った」

琉生
 「……」

琉生は正直言って分からなかった。
分からなかったが、悠那はアレを決断するだけの想いがあったのは確かだ。
それは琉生にも分かるし、否定は出来ない。
だけどやはりそのための誰かが傷つくのは駄目だ。

琉生
 「どうして本部に直接いかなかったの?」

悠那
 「行かなかったんじゃない、行けなかったのよ」

明日花
 「ああん? なんでだ?」

夢生
 「住所が、分からない?」

夢生が首を傾げながら呟いた。
悠那はそれに頷く。

悠那
 「ポケモン少女管理局は伏魔殿よ、所在を掴むだけでもリスクが高い」

ポケモン少女管理局の所在は全てダミーデータであった。
これは愛でさえ本部にはたどり着けなかったのだ。
何故ここまで秘密主義が蔓延るのか、琉生達は知らない。
果たしてポケモン少女を巡るなにか、彼女たちが知らない事実はあるのだろうか?



***



依乃里
 「マスター、本当にあの三人、良かったのでしょうか?」

神成依乃里は本部局長室にいる。
今は銀河冥子の姿はない。
依乃里は窓辺に向けて、背を向ける局長を見た。
局長は笑っている。

依乃里
 「八神悠那ら3人、特に八神は……」

依乃里はそこで言葉を噤んだ。
それ以上を局長は求めていないからだ。

依乃里
 「……出すぎた発言、失礼しました」

ポケモン少女管理局の秘中の秘である神成依乃里でさえ、平伏する局長はただ、優しく微笑むだけだった。



ポケモンヒロインガールズ

第23話 悠那達の想い 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/05/06(水) 17:43 )