ポケモンヒロインガールズ





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第二部 ポケモン少女群雄編
第20話 決戦、その戦いの意味は

第20話 決戦、その戦いの意味は



アリア
 「琉生さん! 夢生さんが帰ってきませんわ!」

それは最終門限時刻、ポケモン少女達の寮は通常特別な理由がない限り、18時までであった。
いつものように外で時間ギリギリまで訓練を続けていた琉生は帰って来ると、慌てた様子のアリアに驚いた。

琉生
 「まさか……夢生まで?」

アリア
 「ど、どうしましょう……! 今日に限って愛先輩とは電話も繋がらないし」

琉生
 「夢生のスマホは?」

アリアは諦念を浮かべながら首を振った。
聡明な彼女がその選択をしない訳がない。
だが夢生が電話に応じることはなかった。

琉生
 「……ッ!」

琉生は迷わず、寮の外に飛び出そうとしたが、鈴先輩の言葉を思い出して、踏みとどまった。

琉生
 (自分を省みる……、でもそれじゃ誰も護れない……!)

琉生の中に既に宿っていたのはヒーロー然とした魂か。
あの入学式の時、全てがどうでも良くて、ポケモンにも興味がなかった。
それが今や、誰かを護りたいと真剣に思えるようになったのだ。

琉生
 (落ち着け、私! 私が行ってもミイラ取りがミイラになるだけだ……!)

琉生は必死に自省した。
琉生の悪いところは正に向こう見ず。
自分を制御できず、暴走しがちな所だ。
普段は人形のように大人しい琉生だが、その本性は寧ろ慌てん坊だと言える。

琉生
 「そう、だ! 鈴先輩……!」

琉生はソウルリンクスマホを取り出した。
以前鈴先輩の握手会の際、アドレスを無理矢理交換させられたのだ。

琉生
 「お願い……助けてください……先輩……っ!」



***



それは着信音だった。
吉野鈴は日課の美容スチームを浴びながら、マイルームで寛いでいるとスマホが鳴ったのだ。


 「ふえ? 誰からだろ?」

ややあられもない姿の鈴はスマホの画面を見ると、スーパーリトルガールの文字があった。


 「え!? 嘘!? 琉生ちゃん!? うわ、やだ!? 今まで一度も連絡くれなかったのに!?」

鈴は何故か大慌てしだすと、ハンガーに掛けてあった洋服を身に纏うと、深呼吸をした。


 「スー! ハー! お、落ち着くのよ鈴、あ、相手は琉生ちゃんってだけなんだから……!」

鈴は元アイドルだ。
それも頂点まで上り詰めたアイドル、その肝っ玉の据わり方は並ではない。
だが、いざ自分に殆ど無関心な子が急に心を開いてくれたら?


 「キャー!? 鈴ちゃん今日は眠れないー♪」

超ハイテンションで平常運転の鈴であった。
鈴は早速スマホの着信を許可すると、ドキドキ胸を高らせながら応じた。


 「ハーイ♪ 貴方の心にズキュン♪ 鈴ちゃんでーす♪」

琉生
 『……けてください、助けてください、鈴先輩!』


 「……え」

その声は切迫していた声だった。
鈴はその震え声に、即座に真面目モードになると、スマホを耳に押し付けて言った。


 「一体何があったの!? 詳しく教えて!」

琉生はどうしようもなかった。
明日花が入院中の今、夢生まで餌食となってしまったのか?
助けたくとも自分にその力はあるのか。
その自問自答はある答えを出したのだ。


 「――つまり、夢生ちゃんが行方不明なのね?」

琉生
 『……はい』

鈴は震えていた。
それは怒りのようで、興奮でもあった。


 「良く言ったわ琉生ちゃん! 後は先輩に任せなさいっ!」

鈴はそう言うと立ち上がった。
手近にあった制服を手に取ると、素早く袖を通し、スカートを穿いて、部屋を出る。

由紀
 「あん? なんで制服なのよ?」

丁度部屋を出ると、白いタンクトップ姿の砂皿由紀が目に入った。
既にリラックスモードの用だが、鈴は由紀の首根っこを掴むと。


 「丁度良いわ! 由紀も手伝いなさい!」

由紀
 「は!? ちょ、何言って!?」

鈴は迷わずある部屋を目指した。
そしてその部屋の扉を思いっきり開く!

ミア
 「きゃあ!? な、なんですか!?」

既にパジャマ姿の霧島ミアは、突然の乱入者に慌てふためく。
鈴は迷わず踏み込むと、ベッドの上で怯えるミアに。


 「お願いします! ミアさん! 諜報部の力を貸してください!」

そう言って迷わず土下座した。
琉生には迷わず啖呵を切った鈴だが、当の鈴も当てずっぽうでは助けられない。
だが彼女はその解決策を知っている。
一人で駄目なら二人で、二人で駄目なら三人なのだ!



***



真希
 「その情報……マジなのね?」

真希は諜報部のあるオフィスにいた。
真希に連絡したのはミアだ。
ミアは夢生が行方不明な事を伝えた。

真希
 「こっちもちょっと立て込んでるのよね……」

ミア
 『なにか、あったんですか?』

真希
 「今日に限って急に例の三人が監視カメラに映っていてね……」

例の三人、即ち八神悠那、七海桜、古代燈の三人だ。
未確認だが四人目もいると判断されている。

真希
 「あの三人はこれまで、細心の注意を払っていた……それこそ痕跡探しに私たちは必死になる程……!」

恐らく、証拠を消している存在がいるのだろう。
真希は唇を噛んだ。
ここまで後手に回った悔しさは、真希を苦しめた。

真希
 「それが急に今日に限って街の至る所で目撃されている!」

真希はパソコン上に表示された画像を見た。
ファミレスの一部が映っているが、そこにあの三人が楽しそうに食事している姿が記録されていた。

ミア
 『……もしかしてそれは?』

ミアは聡明、頭の回転ならば真希をも上回る。
ミアは気付いたのだろう、真希は一拍置くと。

真希
 「もう準備は出来た……て、事でしょう?」

真希は今三人の居場所を特定中だった。

真希
 「夢生ちゃんの事は任せておきなさい!」

ミア
 『お願いします……それと私たちは……』

真希
 「これは私の信条なんだけど、現場のことは現場に任せろ、ミアはミアのベストを尽くしなさい!」

真希はそう言うと電話を切った。
本来2年の監督権は剛力闘子にある。
だが、真希はミアに行動を促した。
この事件は恐らく3年だけでは解決できないと感じたのだ。

真希
 (愛がいればもう少しマシだったのかしらね……)

真希は早速、絶賛暇しているあの少女に連絡を取った。

きらら
 『……なに?』

真希
 「貴方向きの仕事があるんだけど?」



***



由紀
 「つまりよ、なんかされる前にこっちで捕縛出来れば良いんでしょ?」

ミア
 「そうとも、言えなくはないですが」

由紀はサンドパン少女に変身していた。
既に空は暗く、夜が支配している。
だが由紀に目はいらない。

由紀
 「……感じる、明らかに異質な感じ……!」

由紀はアスファルトの微細な振動から、何かを特定する。
それは例の三人か?


 「手筈通り行くのね?」

由紀
 「私は守るより責める方が好きなの!」

ミア
 「本来私がバックアップを担当すべきなんですけど、私の予想ではこの配置がベストと思いました」


 「オーケー、ミアが言うなら従うわ、私がバックアップするから暴れてきなさい!」

由紀
 「砂皿由紀! サンドパン、出る!」

由紀はそう言うと、地面へと潜った。
一方でミアは鈴を振り返ると。

ミア
 「全部終わらせて、またもう一度皆で遊びましょう!」


 「ええ! 約束よ!」

ミアは人間姿のまま、夜の闇へと走り出した。
残った鈴は空を見上げて呟く。


 「どうか、誰も傷付きませんように」



***




 「……くるわね」

シロデスナの少女、七海桜は公園にいた。
ただ、滑り台に背中を預けて、何かを待っている。

ザパァン!!

突然、砂が弾けた!
桜の目の前のは別のポケモン少女がいる。

由紀
 「アンタが例のポケモン少女か!」


 「成る程、貴方が私と踊ってくれるのね?」

桜はその場で変身を行う。
砂のドレスを身に纏った少女は、サンドパン少女を見下した!

由紀
 「間違いないわね! 落とし前付けてもらうから!」

由紀は素早く桜に迫るとその爪を振りかざした!
しかし桜はそれにガッカリしていた。


 「貴方もそういうタイプ? 馬鹿の一つ覚えね」

由紀は桜の身体を引き裂く!
しかし由紀はその手応えの無さに舌打ちした。

由紀
 (噂通り物理は効かないわね……、さてどう崩す?)

由紀はバトルジャンキーだと言えるだろう。
剛力闘子に強い憧れを抱き、そしてそれを越えたいと思った。
プライドも育ったが、彼女の戦術眼は見事だ。

由紀
 (私のパワーは闘子はおろか、きっとあの馬鹿……明日花にだって負けている……それでも!)

由紀は爪を振るった。
しかし桜には通じない!


 「貴方馬鹿ぁ!? 貴方じゃ無理よ!」

由紀
 「いえ、大体把握した」


 「え?」

桜は目を開いた。
由紀の爪に砂が集まっている?

由紀
 「お前が砂の怪物なら……私はその砂を誰よりも掻いてやる!」

ビュオオ!


 「きゃ!?」

風が舞い、砂が噴き上がる!
風起こしなんてレベルじゃない。
それは砂嵐だ!

由紀
 「どう? 風に砂を持っていかれる感じは?」

由紀は砂嵐の中心にいながら平気だった。
サンドパンはこういった悪環境に生息するポケモンだからだ。
だが、一方で同じ地面タイプでも桜は違った。
シロデスナは温暖な砂浜に生息するポケモン。
環境が安定するが、高い湿度をもった砂地を好む。
両者の性質が、砂嵐下で明暗を別けたのか!?


 「く……!」

桜は砂の腕を伸ばした。
だが、由紀はそれを振り払う!


 「く!? 風に砂が持っていかれる!?」

砂嵐は桜の身体を構成する砂粒さえ巻き込むのだ。

由紀
 (だけど決定打にはならない……なにか致命的な弱点は?)

由紀もこれで余裕が出来たわけではないのだ。
一矢報いた程度である。
だが、ここは休まず攻めるべき! 由紀はそう確信した!

由紀
 「はぁ!」

由紀の連続クロー攻撃は桜の身体を削る!
桜もまた防戦一方だった。


 (思ったよりもすばしっこい! 催眠術を当てられない!)

どんなポケモンでも眠ってしまえば無力。
だが、それは確実に相手の動きを封じて行える物だ。
だが由紀は止まらない、いくら砂を向かわせてもそれをあのシャベルのような爪で掻き分けるのだ。


 (なによ……何よ何よ何よ!? ばっかみたい! ポケモンバトルなんて野蛮で大っ嫌い!)

だから桜は相手を傷付けず無力化する。
砂の身体はそれ自体無害で、実に相性が良かった。
しかし、追い込まれた桜は奥の手に出ざるをえなくなる。


 「巫山戯るなー!!」

桜は砂嵐の中で叫んだ。
すると、公園の砂が一斉に蠢き、波打った!

由紀
 「な!? 砂地獄!?」

由紀はその砂に足を取られると一瞬で下半身が公園の下に沈み込んだ!


 「私は砂のマスタリー! モグラ風情が砂という概念に勝てるか!」

由紀
 「この……! うわ!?」

由紀は抵抗しようとした、が……藻掻けば藻掻くほど身体は沈み込み、由紀の姿は公園から消えた!

由紀
 (くそ! だがサンドパンを舐めるなよ! 砂の中じゃ最強だ!)

サンドパンは穴掘り名人だ。
そのシャベル状の爪で固い岩も砕いて掘り進む。
だが、そこはシロデスナの胃袋か、砂は不気味に蠢くのだ。


 「あはは! 無駄よ無駄無駄! 逃がさないんだから!」

桜が由紀の目の前に顕われると、由紀は迷わずその顔面にクローを突き刺すが、桜だった物は砂に変わり、桜は後ろに出現した。


 「精々頑張りなさい、でも動きが止まったらそこで終わり」

由紀
 「ち!」

地面の中は全てがシロデスナの支配下か?

由紀は兎に角、捕まらないように掘り進んだ。
上を目指せば脱出出来るか?
いや、それを桜が許す訳がない。

由紀
 (くそ!? なにかないのか……なにか!?)

その時だ、由紀は砂の中で異質な震動を発見した。
それはシロデスナの支配下にはない物だった。

由紀
 (これなら……いけるかも!)

由紀は兎に角桜から逃げるように地面を掘り続ける。


 「あら? まさか敵前逃亡? あはは、無様ね!」

由紀
 「ふっ、はぁ!」

由紀は爪を払った。


 「だから無駄だって……え?」

ガキィン!

由紀の爪は桜を切り裂いたが、それ自体は無意味。
だが、それ程由紀は愚かではなかった。
由紀の狙いはその金属の管。
即ち、水道管だ!
水道管は破裂すると、桜を水浸しにしてしまう!


 「み、水ですってぇぇぇ!?」

由紀はにやっと笑った。
予想通り桜も地面タイプだから水が嫌いだ。
それも嫌いの度合いはサンドパンよりも酷いらしい。
由紀はその隙に、地上へと出た!


 「ま、待て!」

桜も追って地上に姿を現す。
しかしその姿は砂の怪物ではなかった。

由紀
 「ふん! 今度は泥の怪物か」


 「許さないんだから!」

桜は泥の腕を伸ばす!
しかし由紀は踏み込んだ!

由紀
 「そこにある物全てを利用するのがリアルバトルだ!」

由紀のショルダータックルが鈍重な桜を捉えた!


 「くっ!?」

桜は水を受けた事で固まり、砂の身体で回避は出来なくなった。
それは由紀が初めて聞いたうめきだ。
桜にとってそれは初めての体験だった。


 (身体が重い……! 避けられない!?)

しかしその分硬くなっている。
シロデスナの特性水固めは水を浴びれば浴びる程硬くなるのだ!
だが、由紀はニヤリと笑った。

由紀
 「殴れるみたいね! ならこっちの物よ!」

由紀はニヤリと笑うと、連続クロー攻撃を桜に浴びせる。
桜は泥を撒き散らせながら耐えた。


 (私は……ここで、終わるの……?)

桜の脳裏を過ぎたのは過去の自分だった。
桜は自分に自信があった。
なにをやっても優秀で、ポケモン少女としても才能があった。
でも先生が現れて、桜は人生観が変わった。
悠那や燈を見て、自分がまだまだなんだと思った。


 「っ!? 悠那……私はぁ!!」

桜は腕を振り払った!
そのパワーは由紀のクローを弾く!

由紀
 「なに!?」


 「うわあああああ!」

その直後、大地の力が由紀を襲う!
大地は荒れ狂い、由紀はその力に飲み込まれた!

由紀
 「うわぁぁぁ!?」

ドォォン!

由紀はその場に倒れていた。
強烈な一撃だ、しかし意識はある。
由紀は顔を上げて桜を見た。
桜はボロボロで、既に変身さえも解けかけているように思えた。

由紀
 (闘子、明日花……アンタたちなら……!)

由紀は立ち上がった。
限界ギリギリだったが、不敵な笑みを浮かべて。


 「はぁはぁ……!」

由紀
 「やるじゃねぇか……けどな! それじゃ止まらない!」

由紀はその背中に闘子と明日花の意思を背負っていた。
あの二人に情けない戦いを報告する訳にはいかない!
最高の教え子で、最高の先輩じゃないといけないんだ!


 「くっ、そ……!?」

桜は必死に抵抗しようとした。
しかしもう限界だった。
腕さえも上げられず、由紀はその拳を桜の顔面に叩き込んだ!


 「あああっ!?」

桜は悲鳴と同時に倒れた。
変身が解け、傷付いた少女だけが残る。

由紀
 「はぁはぁ、感謝しなさいよ、敗北を知ることが出来たんだから」

由紀は敗北から強くなった。
敗北は終わりではない、敗北は始まりなのだ。
そしてだからこそ、由紀は桜を賞賛した。
全く価値観の相容れない相手であったが、相手の強さは本物だった。


 「ふ、ふふ……負けちゃった♪ まさか、ね」

由紀
 「おい、教えろ……お前らの目的を!」



***



ミア
 「貴方が、ウルガモス少女なんですね?」


 「……ん」

ミアの前には炎の羽を持つ少女がいた。
燈は空の開けた河川敷で相手が来るのを待っていたのだ。


 「私の目的は悠那の邪魔を排除すること」

ミア
 「何が目的なんです!?」


 「私は悠那に従うだけ……」

燈は炎を纏う、それはもはや問答は不要という意思表示。

ミア
 「くっ!? メイク、アップ!」

ミアはブロスター少女に変身すると、その重たげな巨大な右腕を持ち上げた。

ミア
 「どうしても、やるのですか?」


 「貴方を倒せば、悠那は喜ぶ」

ミア
 「そんな事!」

ミアは左腕の小さなハサミから水の波動を放った!
だが、同時に燈も炎を放ち、そして飛び上がる!

ドォン!

水と炎がぶつかり混ざって、爆発する!
ミアは上空の燈に連続で水の波動を放った!


 「蝶の舞い……!」

燈は弾幕をすり抜けながら、空を艶やかに舞った。
炎の鱗粉は舞い、空気が乾燥していく。
ミアは嫌な気配を感じていた。
この感覚は良くない、早期決着を狙わねば!

ミア
 「水の波動! 悪の波動! ダブルファイア!」

ミアは左手から小さな悪の波動、右手から巨大な水の波動を燈に放つ!
だが、燈は羽を羽ばたかせると。


 「虫のさざめき!」

燈はその音波攻撃を放つと、波動は干渉され相殺される!

ミア
 「なっ!?」


 「はぁ!」

ミアは驚愕した。
攻撃を相殺したこと、そしてその後放たれた熱風の威力に!

ミア
 「きゃああ!?」

ブロスターは水タイプだ。
本来炎は得意であるにも関わらず、そのダメージを脅威だと感じた。
燈の火力は蝶の舞いによって底上げされている!

ミア
 「くっ!」

ミアは走りながら、小さな左腕から水の波動を連射する。
燈はそれを回避しながら、熱風を放った!

ミア
 (くう!強い……! こんなに強いポケモン少女がいたなんて!)

だが、強いからと言って負けるわけにはいかない。
まだ相手の目的は不透明なのだ。
ただ、関東支部を制圧する気だろうか?

ミア
 (あの子、悪い子には思えないけど……それでも戦う理由があるなら!)

ドォン!

水の波動の一発が燈の炎と接触して、空中で爆発した!
ミアはその隙に河川敷に飛び込んだ!

爆発の中から現れた燈は、ミアが見当たらず首を傾げた。


 「逃げちゃった?」

燈はゆっくりと降りると、ミアの姿を捜すが見当たらない。
敵わないと思って逃げたのだろうか?
でもあんな目立つ子が逃げられる?

燈は周囲を伺いながら、やがて河川敷に近づいてしまう。


 「いない……」

古代燈は極めて強力なポケモン少女だ。
そのシンクロ率は悠那を上回るが、彼女は致命的なほど危機感がなかった。
そして相手のポケモンの正体すら把握していなかったのだ!

ザパァン!


 「ッ!?」

その瞬間だ!
川の底で燈の動きを監視していたミアは水面から飛び出すと、その右手の照準を合わせる!
燈の動きは完全に出遅れている。

ミア
 「このチャンス! 逃しません!」

ミアのチャージは終わった。
燈の高い防御力と敏捷性、どちらもがミアを上回っており、正面からでは打破の難しい相手だった。
だがミアと燈、その人間性能ならば話は違う!
ミアはこの好機を捜していた。
決して格上の相手だからと言って諦めはしなかった。
策に嵌まった燈は何を思うのか、ただミアは時間が延長されたかのような錯覚の中、水の波動を放つ。


 「あ……」

ミア
 「……ごめんなさい!」

バシャァァン!!

燈は巨大な水球に飲み込まれる。
水の波動は燈を強烈に揺らし、平衡感覚を奪い、そしてウルガモスの炎の力を奪った。

そのまま燈は宙を舞い、地面にドサリと倒れた。
変身は解かれ、そこには水浸しの少女だけが横たわった。

ミア
 「勝ったには勝った……けど」

ミアの心に去来したのは虚しさか。
なぜこんな少女を傷付けなければならないのだろう。
ポケモン少女同士が争うことになんの意味がある?
ただ、ミアは泣かなかった。
なにかを捨てなければ、きっと何も護れはしないから。

ポタポタ、ミアの全身も水浸しで濡れ鼠のような頭に、ポンとなにかが置かれた。
ミアは後ろを振り返ると。

真希
 「風邪引くわよ、って水タイプには意味のない?」

ミア
 「せ、先輩……」

それ真希だった。
真希は空を舞う炎を見て、燈だと確信し、急いだ。
だが、戦いは終わっていた。
ミアは燈の傍で顔を俯かせていたのだから、そっとタオルをかけたのだ。

真希
 「……まさか、ミアまで前線に出ちゃうなんてね」

ミア
 「も、申し訳ございません……出しゃばった真似を」

真希
 「良いわよ、今回の事件、私たちだけで収まる気なんてしなかったし」

真希はミア達を諭した側だ。
闘子や愛なら怒るかもしれないが、真希は使える物は使う。
真希は燈を見ると、近づいた。
燈は一切動かない。

ミア
 「い、生きてますよね?」

ミアは最悪の事態を想定して、顔を青くさせた。
真希はクスリと笑うと。

真希
 「で、どうなの?」


 「……死んでない」

燈は生きていた。
ただ身体は動きそうにない。
水の波動の直撃はそれ程のダメージであり、燈はウルガモスのソウルが遠ざかるのを感じていた。
負けた、勝たなければならなかったのに……。
ただ、燈は泣けなかった。
悠那や冥子、なにより先生に申し訳がないのに、何故か安心していた。


 「もうこれで戦う必要は無い……」

燈は本人の意思で動くことが極端に苦手だ。
いつも誰かの顔を見て生きていた。
そんな彼女がハッキリ言えなかった事がある。


 (ポケモン少女同士で戦うなんて嫌……)

燈とミアは同じだった。
この戦いも無意味だと知っている。
それでもなにかを守るために二人は戦った。
そこには悪は存在しない、ただ異なる正義があるだけだ。

真希
 「とりあえず身柄は確保させて貰うわよ?」


 「……」

燈は何も答えなかった。
それは怯えでも、強硬な態度でもない。
真希とミアを信用し、委ねたのだ。

真希
 「一応聞くけど、貴方達の目的は?」


 「私の目的は悠那のため、先生のため……」

ミア
 「先生? それは!?」

ミアはここに来て初めて聞く名前に驚いた。
それはポケモン少女以外の人間が関わっているのか!?
だが、その時だった。


 「命令なの、少しじっとして貰うわよ」

真希
 「なっ!?」

突然少女の声が聞こえた。
真希が警戒する、しかしそれは突然真希達の目の前に現れる。


 「あな――」



***



悠那
 「……」

悠那は都市の真ん中でじっとしていた。
夜の都会は多くの人間が行き交っている。
その中でぽつんと浮く、漆黒の少女には誰もが振り向いた。

冥子
 『ちょっとやばいかも』

悠那はインカムから聞こえる冥子の声に耳を傾けた。
悠那はここから動けない。
本当なら自分こそが矢面に立って、正面から敵を撃破すべきだった。
だが、この計画は悠那がいて初めて成立する。

冥子
 『桜も燈もやられたっぽい』

悠那
 「あの二人も……所詮そこまでという事か」

冥子
 『最悪撤退も視野に』

悠那
 「問題ないわ……私一人いれば先生の目的は達するもの」

冥子
 『……』

冥子はそれ以上は何も言わない。
冥子と悠那は付き合いが長い。
長いと言ってもまだ2年だが、それでも誰よりもお互いを理解していた。
だからこそ、冥子は悠那のやり方に口を出さなかったのだ。
やがて、彼女の目の前に一人の少女が現れる。

きらら
 「……ここで何をしているの?」

それは最強のポケモン少女、星野きららだった。



ポケモンヒロインガールズ

第20話 決戦、その戦いの意味は

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/02/20(木) 22:08 )