ポケモンヒロインガールズ





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第二部 ポケモン少女群雄編
第19話 決戦は不協和音と共に

第19話 決戦は不協和音と共に




 「それで……重要な時期に見つかっちゃうわ、買い物忘れるわ、した訳?」

アジトへ帰った燈と悠那だったが、その失態は早速桜の冷たい視線から始まった。
燈は「きゅぅぅ」と小さな悲鳴を上げて縮こまり、悠那も髪を掻きあげて、溜息をあげた。

悠那
 「私も、状況が状況だけに忘れてたわ……」


 「はぁ……、貴方らしくない」

悠那は自他に厳しいが、それは同時にそれだけ完璧を求めているという事でもあった。
まさか買い物袋を置きっぱなしにしてしまうとは、失態である。


 「あ、あの! 今から取りに行って!」

冥子
 『無駄だぜ、どうせあのグラマーな姉ちゃんか、警察に持ってかれてる』

悠那
 「持っていかれても不味い物はないけれどね」

燈がソウルリンクスマホをバッグに入れていたというなら問題があったが、幸いその紛失もない。
桜は自身のソウルリンクスマホを見て、苛立ちを募った。
そのスマホは外装が破損していたのだ。
宝城明日花、全く無警戒だった相手に辛酸舐めさせられた事は不愉快であったのだ。


 「こんな状態で本当に出来るの……?」


 「うぅ……」

冥子
 「……」

全員が言葉を無くす。
個々の実力は敵と比べて、決して劣ってはいない。
メタを合わせれば、各個撃破で関東支部を制圧出来る筈だった。

悠那
 「出来るわよ……! 私はやるわ!」

しかし一人だけ、悠那は力強くそう言った。
決して根拠がある訳ではない、では彼女のその強さは何所から来るのか?

パチパチパチ!

突然、拍手が起きた。
全員がその音の方向を振り返ると、そこには仕立ての良いグレーのスーツを着た長身の男性が立っていた。
その姿を見て、顔を明るくしたのは悠那だった。

悠那
 「先生!」

悠那が先生と言う男、その顔は逆光で見えなかった。
だが、悠那が駆け寄ると優しい声で言った。

先生
 「素晴らしい、悠那君はやはり違うな」

悠那
 「当然です♪ 先生の教え子ですもの♪」

先生と呼ばれる男、その男にだけ見せる悠那のあどけない笑顔を初めて見れば誰だって面食らうだろう。
実際悠那はこの先生を信頼しきっていた。
この先生と呼ばれる男の前では悠那は女の顔になれるのだ。

先生
 「君たちもこっちにきたまえ」


 「ん♪」


 「で、では……」

二人は呼ばれると、笑顔を浮かべながら先生の元に集まった。
あまり表情を見せない桜でさえも、微笑んでいるのだ。

冥子
 『先生ぇ〜、来るなら来るって連絡してくださいよぉ〜』

唯一冥子だけはここにいないが、その冥子も少しだけ嬉しそうだ。
何故この四人にこれ程慕われているのだろうか?
しかしその答えはここでは得られないだろう。

先生
 「冥子ちゃんも、一人で寂しく無いかい?」

冥子
 『大丈夫っすよ、先生に教わったロトムの力があれば、別に辛くもない!』

悠那
 「私も、サザンドラの力をあれからもっと上手く扱えている気がします♪」

先生
 「うむ、君たちは私が見つけた最高のポケモン少女たちだ」


 「あの……それで、どうして先生がアジトに?」

先生
 「……激励だよ。関東支部を占拠すれば必ず本部は動く……奴は必ずあの少女を出してくるはずだ!」

悠那
 「記憶を操る少女……!」

記憶を操る少女、それは決して表には出てこない。
愛たちでさえも存在を知らない少女。
それこそが彼女たち、そして先生の望みだった。

先生
 「偽りは暴かなければならない……皆、その力を貸してくれ!」



***




 「ここが……本部?」

各支部を統括する本部の所在は調べても出てこない。
何せダミーデータだらけで、行ってみたら無人の貸しペナントなんて事もあるのだ。
何故これ程厳重に秘匿されているのか、愛は戸惑った。
だが、本部の指示で辿り着いたのは、東京のど真ん中とも言える場所だった。


 「高層ビルですねぇ〜」

アポイントメントを取り、本部にやってきた愛は、色々違いすぎる世界に面食らってしまった。
だが、愛はこれから管理局のトップ、局長に直談判をしなければならないのだ。


 「お待ちしておりました、関東支部教導部所属友井愛様」


 「あ」

ビルに入ってすぐ、愛の前に現れたのは凄く不思議な少女だった。
黄色い髪をしており、その髪は腰の辺りで紐によって纏められている。
目はかなりの細めなのか、それとも閉じているのか分からない程。
服装もここにいるのは少しだけ奇妙でアイドルのようなドレスに身を包んでいる。


 (この子ポケモン少女……!?)

その少女は愛より少し身長は高かった。
一見するとあまりポケモンのパーツが少なくて判断に迷うが、尻尾があった。
先端が三つ叉に別れた一本の尻尾持ったポケモン少女だった。


 「は、初めまして、友井愛です!」

ポケモン少女
 「お話は既に伺っております、此方へどうぞ」

ポケモン少女が案内人?
愛は首を傾げるが、これが本部の流儀なのだろうか?
愛は少女に付いていくと、エレベーターに同席する。


 「あ、あの……貴方はポケモン少女なんですよね?」

ポケモン少女
 「そうですが、何か?」


 「いえいえ〜♪ 他意は無いのですがどうしてポケモン少女が案内役なのかと〜?」

別に愛は刺客という訳ではない。
ただ悠那達の事を白黒ハッキリさせたいだけだ。
なぜ悠那達は関東支部に喧嘩を仕掛けてきたのか。
愛はそれさえ知らない、だから止める方法が分からない。
それさえ分かれば愛は必ず一直線に向かうだろう。

ピンポーン!

やがてエレベーターが止まった。
エレベーターはまだ42階を示していた。


 「あれ? 中途半端なんですね?」

ポケモン少女
 「どうぞ、お先に……」

ポケモン少女が薦めると、愛はエレベーターを出た。
だが……。


 「あの……ここ、空き部屋じゃ?」

愛の目の前に広がっていたのは一つのオフィスが軽々入る大部屋だった。
だが何も置かれず、全面鏡張りの窓から街並みが届く程度だった。

ポケモン少女
 「馬鹿な娘ね……騙されたとも知らずに」


 「えっ……!?」

突然少女の声色が変わった。
少女はゆっくりとその場から浮遊すると、私を見下した。

ポケモン少女
 「あの方を貴方達の些事に巻き込まないで……! 所詮貴方もあの少女たちも、井の中の蛙なのよ……!」


 「ど、どういう事ですか!? 何を知っているんですか!?」

ポケモン少女
 「……ふん!」

ポケモン少女は手を翳すと、愛のソウルリンクスマホが空中に飛び出した!
愛は慌ててそれを掴もうとするが、ソウルリンクスマホは愛の手をすり抜けて、少女の手元に向かった。

ポケモン少女
 「これで変身できない、後は壁貼って終わり」

ポケモン少女そう言うと、愛とポケモン少女の間に見えない壁を生成した。
愛は慌てて、ポケモン少女に駆け寄るが全ては遅かった。


 「と、閉じ込める気ですか!? でもなぜ!? 私はポケモン少女同士が争うのを止めるために!」

ポケモン少女
 「だからなに?」


 「えっ?」

愛の必死さはポケモン少女の前には一蹴された。
少女は表情を変えないため、その感情は読み取れない。
だけど愛は感じていた、その超然とした意思を。

ポケモン少女
 「奴は読み間違えている……私をチェックすれば本部が落ちると……そんな事をしても、彼女はもう帰ってこないし、ゲシュペンストに勝てる訳じゃないのに……」


 (泣いてる……?)

少しだけ、少女が泣いたのを愛は見過ごさなかった。
愛はニンフィアのソウルに認められた少女だ。
それ故に心の機微には敏感だった。


 「……はぁ」

愛はその場に腰掛けた。
少女は不思議そうに首を傾げる。


 「体力の無駄は避けましょう、なんだか貴方にも事情がありそうですし」

ポケモン少女
 「もっと暴れるかと思っていたけど」


 「暴れても解決はしません、どうやら貴方もこの事件を見てはいるようですし……それならば私に出来る事はあまりなさそうです」

ポケモン少女
 「……変な子、傷付くわよ、色んな子がね」


 「出来ればなんとかしたいですが、せめて全員の無事を祈りましょう」

愛はそう言うと手を合わせた。
その祈る対象は琉生達だけに留まらない、悠那達や、この少女にまで及ぶのだ。


 「あの、お名前聞かせて頂けますか?」

ポケモン少女
 「神成依乃里(かみないのり)……」


 「神成ちゃんですか〜♪ 素敵な名前です♪」

依乃里
 (本当に変な子……)

依乃里にもその空気を掴めぬ愛は真正の芯を持った少女だった。
しかし結局局長には会えずじまいだ。
おまけにソウルリンクスマホまで取られ、監禁状態になるとは思わなかった。


 (1年生の皆さんは大丈夫でしょうか……明日花ちゃんもどうかお元気に)

依乃里
 (友井愛……か、あの人が気に掛けていた子、私でも計り辛いわね……)



***



夕暮れ、街は平和だけれどポケモン少女達は騒然としていた。

真希
 「愛はまだ帰ってないの!?」

闘子
 「ああ、連絡が無いから、分からねぇんだよな」

きらら
 「それより、あの子達の居場所分かったの?」

職員室には最近恒例になりつつある三人が集まっていた。
きららは随分疲れているが、初めての教職は難儀だったのだろう。
改めて愛と闘子の凄さが分かるという物だった。
だが、今の問題は悠那たちであった。

真希
 「ええ、運良く変身現場抑えられたからね」

現在諜報部は燈の使用したソウルリンクスマホの信号をサーチ中だった。
それさえ分かれば24時間監視することも可能になるだろう。

きらら
 「取り押さえるなら私に任せて、もうこれ以上誰かが傷付くのは見てられない」

きららはそう言うと顔を暗くした。
殆ど表面上は無表情な子だが、その内面は複雑に出来上がっている。
既に明日花が傷付き、そして悠那は目的のための覚悟がある。
あの子の振りまく不幸を止めるのは義務だと思えた。

闘子
 「同感だ! 第一戦いたいならポケモンバトルに参加しろってんだ!」

真希
 「この馬鹿の意見には賛同しないけど、まぁポケモン同士が争っても得するのはゲシュペンストだからね!」

闘子
 「お前、相変わらず一言多いっての!」

真希
 「んべー! お互い様よ!」

真希はベロを出すとそう言って悪態突く。
もう見慣れた光景だ。

きらら
 「馬鹿ばっか、ね」

しかしきららも嫌そうではなかった。



***



夢生
 「むう……なんか引っかかるんだよね」

夢生はそう呟きながら、街を歩いていた。
もうすぐ門限だから速く帰らないといけないのだが、今日はその気になれない。
何故なのか? 普段は門限はしっかり守る夢生が急に不良になってしまったのか?
否、それは違った。

夢生は直前の事を思い出した。



………。




 「やぁ、久し振りだね夢生君」

夢生
 「ふえ? おじさんだーれ?」

ほんの一時間前だった。
夢生は顔も知らない30代位の男性に声を掛けられたのだ。
仕立ての良いグレーのスーツを着た男性は夢生を見て優しく微笑む。
しかし夢生は身に覚えがない、なぜ自分の名前が知られているのだろう。

男性
 「ふむ、やはり強固か……まぁいい、彼女のプロテクトが解除可能か検証しよう」

夢生は呆然と立ち止まっていた。
男性は屈み込むと、ゆっくりと手を夢生の額に当てる。

男性
 「何か、思い出す物はないかな?」

夢生
 「ふえ? 分からない……分からないよ、先生……」

今夢生はこの男を先生と呼んだ?
夢生は今自我が曖昧になっていた。
ただ彼女は暴走していた時期の記憶がフラッシュバックしていたのだ。
真希と戦い、そして敗れた……。

男性
 「ここまでにしよう」

夢生
 「ふえ!? む、夢生一体なにを!?」

男性は手を離すと、満足そうに立ち上がった。
夢生は不思議そうに男性を見上げる。
不思議だが、その男性が嫌いにはなれなかった。

男性
 「ふふふ、頑張ってくれたまえ、若きポケモンヒロインガールズよ」

男性はそう言うと、人混みに消えて行った。



………。



それから、夢生はその夢心地のまま、放浪を続けていたのだ。
夢生は一体何所に向かっているのか?

夢生
 (夢生何か忘れてる……?)

夢生は自分の記憶には自信があった。
大事な物は全部思い出せるし、不安なんて何もないはずだ。
ああ、不安と言えば明日花ちゃんは不安だ。
夢生は優しい子だ、だから戦うことは苦手な子だ。
だけど、1年生も戦いに巻き込まれた。

夢生
 「なんで……夢生、勝手に歩いているんだろ……?」

夢生は無意識に道を選んでいた。
気がつけば人の姿は周囲にはない。
うらびれた工場街にやってきたのだ。
そして、彼女は廃工場で立ち止まった。

夢生
 「あれぇ? ここどこかでぇ?」

夢生は恐る恐る廃工場に入った。
廃工場は放置されて久しいのだろう。
屋根が落ちており、光が差し込んだ。

夢生
 「ん〜、なんで私ここに来たんだろう?」

なんだか不思議と生活感がある。
浮浪者のたまり場なのだろうか。
否、そこは……!?

悠那
 「奇襲!?」

別の入口から現れたのは悠那であった。
先生と別れた後、彼女たちは最後の晩餐を開いていたのだ。
明日、関東支部と決着を付ける為に。
だが、既に用済みなったアジトに彼女が帰ってくると、江道夢生がいたのだ。

夢生
 「ふえ!? キシューってなに!?」

悠那
 「ちっ!? 後手に回ったか! しかし!」

悠那はソウルリンクスマホを取り出した。
しかし夢生は両手を広げて、戦う意思がないことを示す!

夢生
 「ちょ、ちょっと話し合いしよ!? いきなり暴力に訴えかけるのって良くないと思うびゅん!」

悠那
 「……確かに、無抵抗の子を嬲る趣味は私にはないわね」

悠那はソウルリンクスマホを懐に戻した。
悠那とて、無作為に暴れるのが好きな訳ではない。
自分の実力を証明するのは好きだが、決して弱い者虐めしたい訳ではない。

悠那
 「私の倒すべき相手は星野きららだけだ」

夢生
 「はぁ、はぁ……寿命が縮むびゅん」

悠那
 「それで、今更休戦しようとでもいうのか?」

夢生
 「それ以前にどうして戦うの? 私たち何か悪い事したの?」

悠那は腕を組むと夢生睨みつけた。
夢生はただ怯えていた。

悠那
 「いいだろう、ならば教えてやる。私たちが戦っているのは管理局本部だ」

夢生
 「本部びゅん?」

悠那
 「そうだ、本部はなぜ自分達の所在を秘密にしている? 本部は何かを隠している、それはポケモン少女に関する核心の筈だ!」

夢生
 「で、でも……何もないかも」

悠那
 「無くても! 本部はポケモン少女を道具としか見ていない! それを許せるものか!」

悠那が怒りに吼えた。
夢生は怯えきっていた。
なぜ悠那はこれ程怒っているのだ?

悠那
 「知っているか、ある日誰かが突然消される恐怖を……」

夢生
 「け、消される……?」

その時悠那は自分の肩を抱いていた。
怯えているのだ、顔も気性も恐ろしいが、それでも悠那も年端のいかぬ少女なのだ。

悠那
 「始祖のポケモン少女……全てはそこに収束するはず、なんだ……」



ポケモンヒロインガールズ

第19話 決戦は不協和音と共に

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/02/09(日) 21:07 )