ポケモンヒロインガールズ





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第二部 ポケモン少女群雄編
第18話 正義とは

第18話 正義とは



琉生
 「明日花……大丈夫かな?」

夢生
 「むーの責任ビュン、あの時あすちんを追いかけきれなかったから……」

朝学校で3人の顔は暗かった。
元を辿れば明日花の独断専行が招いた事だったが、誰もそれを責められる状況ではなかったのだ。

アリア
 「幸い命に別状はないようですし、これ以上責任を背負い合うのはやめましょう」

琉生
 「……うん」

きらら
 「……空気、重いね」

突然教室に入ってきたのは星野きららだった。
それを見た三人は目を丸くする。

アリア
 「あの……愛先輩は?」

きらら
 「諸事情により休暇を取りました、よって代理です」

夢生
 「休暇…は!? まさか産欠ビュン!?」

きらら
 「違う……ていうか毎日見て孕んでいるように見えたの?」

きららにしては珍しい突っ込みだ。
それ位1年生のノリは強烈なのだ。

夢生
 「分からないビュン! 愛ちゃん先輩だって大人だビュン! きっとお付き合いだってしている筈ビュン!」

アリア
 「ま、まさか先輩に限ってそれ……でも、はううう!?」

アリアは色々イケない事を想像し、遂に悶絶する。
愛は皆のマスコットだが、自分たちより2つも上なのだ。
2つ上だと、どんな大人な営みをしているか分からないのだ。

夢生
 「きっと愛ちゃん先輩だって、素敵なおじさまの一人や二人……」

アリア
 「ああ、そんな……まさかもう処女を捨てて?」

一方でこの状況を静止出来ていないきららは呆然としていた。

きらら
 「……?」

ふと、琉生の視線に気がついた。

琉生
 「……!」

琉生は無言でグッドポーズ。
とりあえず健闘を祈るなのか、ご愁傷様なのか判断に迷う物だった。

きらら
 (愛は凄いなぁ……私先生向いてない)



***



真希
 「つまり可能なのね?」

諜報部、そこでは徹夜でスマホの残骸を調べ上げていた。
明日花が戦ったシロデスナ少女は真っ黒なソウルリンクスマホを所持していたが、戦闘中に破損している。
そこから、ミアはある作戦を立てた。

ミア
 「はい、ハッキングは無理でも、サーチは可能かと思います」

色こそ、何所の支部も使っているソウルリンクスマホと異なっているが、機構そのものは同じである可能性が高い。

ミア
 「ただ、サーチを確実にするには、もう一度接触して変身して貰わないと」

真希
 「それに関してはパトロールを続けるしかないわね」

とはいえ、明日花が交戦したことは貴重なデータとなった。
始めて襲撃はなく、此方からの攻撃だったのだ。
向こうの移動経路が分かれば、敵の居場所には大分近づいたと言える。

真希
 「よーし、とりあえずここから反撃よ!」

ミア
 「はい! 私も頑張ります!」



***



由紀
 「この馬鹿は……私より弱い癖に、なにやってんのよ」

由紀は病室にいた。
今はガーゼと包帯で覆われた明日花がベッドで眠っている。
悪態を突きまくった相手だが、だからといって勝手に死なれちゃ困る後輩なのだ。

弓子
 「そういうアンタも、ここの世話になるんじゃないよ?」

由紀の後ろから現れたのは以前琉生も担当してもらった医者の瀬川弓子だった。
由紀は弓子が現れると頭を下げる。
リアルバトルをする者なら嫌でもお世話になる相手だからだ。

由紀
 「私はもう行きます」

弓子
 「ねぇ、今戦ってるのはゲシュペンストじゃないんだろ? それって哀しいねぇ、人間ってのはどこまで愚かなのか……」

由紀
 「……失礼します」

由紀は答えられなかった。
まるで全てを見透かされたかのようで、由紀はそれに耐えられなかった。
先生は大人で自分はまだ子供だから、心に負い目が出来るんだろう。

由紀
 (だってやるしかないじゃない……私たちは、ポケモン少女なんだもの……!)



***




 「えーと、次は」

その日燈は買い物袋を持って街に出ていた。
万が一を兼ねて直ぐ近くに悠那もいた。
桜が偶然とは言え襲撃を受けて、今は治療中だった。
アジトに帰ってきた彼女は普段とは違い、不機嫌だった。
恐らく苦戦したのが原因だろう。
本来ならそれ位で動じる筈がないが、それでも彼女には彼女のプライドがあるのだろう。


 「あの、これ下さい」

燈は商店街で買い物リストを肉屋の店主に見せた。
すると大抵の店主は燈にこう言う。

店主
 「一人でお使いかい? お嬢ちゃん偉いねぇ!」


 「ん」

大抵は子供扱い。
そんなに気にしてはいないけど、高校生なのに小学生扱いされるのは釈然としなかった。
だが、この幼い容姿に得する事もある。

店主
 「お嬢ちゃん、飴ちゃんいるかい?」


 「ん♪」

燈はお菓子が大好きすぎる娘だが、特に甘味物は大好物だった。
燈はお金を支払うと、飴と一緒に受け取った。


 「♪〜♪」

燈は上機嫌になって、肉を入れたバッグを振るって次の見せに向かった。
次の店ではチョコレートを貰えた。
皆小学生のお使いだと思って、お駄賃をくれるのだ。
これだけはこの幼い容姿で得した事だ。

一般人
 「おい……あれ」


 「?」

誰かが商店街の奥を指差した。
燈はその指差した方向を見た。
しかし見るより前に彼女に宿るウルガモスのソウルが昂ぶる!
燈は見るより先にそれを知ってしまった。

一般人
 「ま、まさかゲシュペンストって奴か!?」

周囲が響めく。
ゆらりと、地面から浮き上がるようにゲシュペンストβは出現していた。
まるで燈に呼応するように。

ゲシュペンストβ
 「!!」

ゲシュペンストβは大きな口を開いて咆哮した。
すると周囲に大量のαを召喚する。
パニックだった。
一般人達は我先にと逃げ場所を求めていく。
しかしそれはとても危険な行為だ。
渋滞が渋滞を呼び、転んだ人間が押し潰される危険がある。

燈は変身をしようとした、しかし耳元のインカムから静止の声が聞こえる。

冥子
 『よせ燈! お前が戦う必要は無い!』


 「で、でも……!」

燈は自分では決められない性格の持ち主だ。
いつも悠那や冥子に従ってきた。
それ以前もずっとそうだ、ずっと燈は誰かに従ってきた。


 「い、今……私がやらないと……!」

冥子
 『お前が頑張らなくても! アイツらは直ぐ来る! ここで危険を冒す必要は!?』


 「そ、それじゃ間に合わない人はど、どうなるの? ゲシュペンストの餌にされるの?」

冥子
 『そ、それは……!』

冥子が初めて言い淀んだ。
そうだ、冥子も知っている……ゲシュペンスト被害の意味を。


 「消させない……! 私、護る! メイク……アップ!」

燈は震えていた。
ゲシュペンストが怖いのではない。
命令を無視して自分で行動することが不安で仕方がないのだ。
それでも誰かが目の前で傷付くのを黙ってはいられなかった。


 「あむ」

燈はウルガモス少女に変身すると、恐る恐る口に飴を運んだ。
甘さが口内に広がると、少しだけ不安感が和らぐ。


 「はぁ!」

燈はゲシュペンストβを睨みつけると、手を振り払い、周囲に熱風を放った。
ゲシュペンストαはそれだけで焼け落ちていく。
だが同時に商店街にも被害は及びつつある。
燈の力は強力だが、それはとても扱いづらい力でもあった。
羽を羽ばたかせるだけでも、森林火災を起こすというウルガモスの力は制御仕切れないのだ。


 (げ、ゲシュペンスだけ……ゲシュペンストだけ狙って!)

震えも照準を狂わせる。
ゲシュペンストβはまるで燈が被害を増やすのを待っているかのように遠巻きで見ていた。
燈は必死に増え続けるαを処理するが、βには届かない。
βごと焼き切る事は出来るが、燈はそれを選ぶことは出来なかった。
それは商店街を丸ごと消失する事を意味しているからだ。


 「ど、どうすれば……!」

その時だった。
地獄のような赤黒の環境を一刃の手裏剣が切り裂いた!


 「水手裏剣! 狙い撃つ!」


 「ッ!?」

燈は後ろを振り返った。
その少女は宙を舞い、遮蔽物のない空からゲシュペンストβを狙ったのだ。
ゲシュペンストβは避けることも出来ず、額を割った。
続いて遅れるように2発の水手裏剣も突き刺さると、ゲシュペンストβは霧散していく。

少女はそのまま空中で一回転して、燈の目の前に着地した。
ゲシュペンストβがやられると、α達も消えて行く。
たった1枚の水手裏剣で、静止して見せたその少女は顔を上げると燈をじっと見た。

真希
 「貴方達……敵なの? 味方なの?」


 「あ、そ、その……ほ、放っておけなかったから……」

燈は急に余所余所しくなってしまう。
救援に現れたのは、以前戦った藤原真希であった。
真希に対して恨みはない。
だが、向こうは別だろう。

真希
 「……とりあえず、住民を護ってくれた事は感謝するわ……でもね!」

真希は燈を睨みつける。
感謝はあるが、それとは別に燈は重要参考人だ。
燈達の目的がなんなのか、何人いるのか、真希が知りたい情報はいくらでもあった。
だが、真希の後ろから、その少女は静止をかける。

悠那
 「そこまでよ」

真希
 「!? その釣り目……サザンドラ少女!?」

真希は思わぬ伏兵に戦慄すると同時に、燈は初めて笑顔を零した。

悠那
 「私はここで戦っても構わないけれど、その場合この商店街がどうなるか考慮出来ない訳?」

悠那の目は本気だ。
やるならば、周囲を灰燼に帰すことも厭わない覚悟がある。
真希は既に高速シュミレートを開始していたが、その手を下ろすのには時間は掛からなかった。

真希
 (サザンドラ少女の強さは恐らく私一人では手に余る……加えてウルガモス少女までいるなんて分が悪いってもんじゃないわね……)

苦渋の決断だったが、手段と目的を履き違える訳にはいかない。
ポケモン少女は正義のヒーローでなければならないのだ。
幸いウルガモス少女はその点ではヒーローだ。
遠くから見えていたが、彼女は震えながらも必死にαを撃退して逃げる人達の盾になっていた。
どんな理由であれ、彼女は行動出来たのだから、それを見咎める事は出来なかった。

真希
 「行きなさい! それと……住民の救助感謝します」

先に変身を解いたのは真希だった。
「ふん!」と、高圧的に鼻を鳴らした悠那は真希の横を通り過ぎる。

悠那
 「お前は何を信じて戦っている?」

真希
 「はぁ? 何を信じるって……自分の正義でしょう!?」

悠那の質問の意味を真希は理解できなかった。
だが、悠那はまるで嘲笑うように薄らと笑みを浮かべた。

悠那
 「私も同じよ、自分の正義を信じて戦う……この偽りの世界を暴くために!」

真希
 「……え?」

悠那
 「燈! 変身を解きなさい!」


 「あ、う……うん!」

悠那は燈を連れると、並んで商店街を出て行った。
真希は呆然とそれを見過ごしていく。
彼女の言葉を反芻しながら。

真希
 「お互いの正義……?」

ずっとモヤモヤしていた感情だったが、その答えを聞いて更に真希は迷ったのだ。
真希達は正義のヒーローだ。
ゲシュペンストが現れれば、真っ先に出撃して住民の盾となり、災害が起きれば、そのために力を奮う。
その事に疑問はなかった。
でも、じゃあ悠那達はヴィランなのか?
最初真希は自分たちが襲撃を喰らった事から、一方的に悠那達を敵視していた。
しかし彼女たちもヒーローかも知れないという迷いが生まれた。

真希
 「なによ……偽りの世界って……?」




***




 「その、ごめんなさい……」

燈は勝手に変身して戦った事を、今更だが姿の見えない冥子に謝った。
ご丁寧に頭をきっちり45度下げているが、それが彼女の地なのだろう。

冥子
 『あのなぁ……お前がやったことのリスクって奴をだなぁ?』

悠那
 「燈は間違っていないわよ」

そこに悠那が口を挟んだ。
まさかの援護者に冥子の口調も荒くなる。

冥子
 『悠那!? お前だって事の危険性は!?』

悠那
 「だからって、私は悪党になる気はないわ、燈だってそれを許せないから変身した。寧ろ誇りなさい!」

冥子
 『……我が親友ながら、融通が利かんよなぁ』

冥子はもう追及しない。
ただため息がインカムから零れた。


 「私……良いの?」

悠那
 「当たり前でしょ、じゃなきゃ燈がウルガモスに選ばれた意味が無いでしょ」

燈は悠那に肯定されると、嬉しくて頬を赤らめて微笑んだ。
悠那は自信たっぷりだ。
多分一番のロマンチストで、強い正義感がある。
目付きも悪いし、自他に厳しいから、周りから近寄りがたいイメージがあるけど、燈は悠那の優しさを知っている。
同時に……だからこそ悠那のしようとしている事の危険性も危惧していた。


 「私、悠那に従うよ……何でも命令して」

燈のそれは依存性か、それとも盲信か。
しかし悠那には確かなカリスマとリーダーシップがある。
でなければ、冥子も桜も悠那に従わない。

悠那
 「ならこれは約束しなさい、詰まらない闘いで死なない事、絶対生き残ること!」


 「う、うん!」

悠那
 「私は絶対に勝つわ……そして本部の秘密を暴いてみせる!」


 「秘密……記憶を支配する少女?」

悠那
 「そう、存在するはずだ……でなければこの世界は矛盾が多すぎる!」

矛盾……燈にはそれが分からなかった。
悠那もそれに気付いたのは本当に偶然だという。
この世界には確かに矛盾がある。
それを握っているのがポケモン少女管理局本部が握るというポケモン少女。


 「矛盾……あ」

悠那
 「ん? どうしたの?」

ふと、燈はその矛盾に気が付いていてしまった。
燈はその幼い顔を蒼白に塗り替えると、手を何度も開いて閉じた。


 「い、いつから気が付かなかった……?」

悠那
 「なに? 一体どうしたの!?」


 「買い物袋……商店街に忘れてきた……!」((;´д⊂))



***



真希
 「証拠物押収……て事で良いのかしらねえ?」

商店街の事後処理を任せた真希は、燈の落とし物を拾っていた。
マイバッグで買い物するとはしっかりさんだが、中身は食料品が殆どだ。
買い込んだ量からして4人前って所だろう。
一番問題なのは……。

真希
 「現金バッグに入りっぱなしだけど、彼女たち大丈夫なのかしら〜?」

真希は苦笑するしかなかった。
もしこれが彼女たちの全財産なら非常に悪いことをしたと思っているが、警察に届けるつもりはない。
これは重要な証拠物なのだから。

真希
 「愛に早速調べてもらおうかしら……て、あれ?」

真希はスマホで愛に連絡を取ろうとしたが……それは繋がりはしなかった。

『現在お客様は、電波の届かない所にいるか、電源を切っているようで繋がりません』

真希
 「電波が届かないって……今日は確か本部に行くって」

真希は愛が休暇をとっている事を知っている。
何でも本部に直接問いただす為だ。
だが、電波が届かないというのはどういうことだ?
本部の場所は一般には公開されていない。
極めて隠密性の高い場所だとは聞くが、実際のところ真希は本部には行ったことが無い。

真希
 「一体何が起きてるのよ……?」



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第18話 正義とは

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/02/07(金) 17:19 )