ポケモンヒロインガールズ





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第二部 ポケモン少女群雄編
第16話 始まる直前

第16話 始まる直前



アリア
 「先輩たち襲撃されたんですって?」

明日花
 「ああ、本当だ……闘子さんを襲ったのは砂の女の子だった。アリアみたいに身長が高くて、スタイルも良かったなぁ……おまけに美人」

夢生
 「随分具体的ビュン……」

授業前、話題は先日のことで一杯だった。
幸いにおいて、明日花以外は巻き込まれなかったが、琉生は突然愛に連絡が入った時の驚きを覚えている。
一方で夢生やアリアもまた、その情報を聞かされた時戦慄した。

琉生
 「でも……どうして? なんでポケモン少女が争わないといけないの?」

アリア
 「分かりません……が、これだけは言えます。我々は人間です、ですからその在り方は無限にあるのです」

夢生
 「アリアちゃんの言葉は難しいビュン……」


 「……つまり、その行動は無限大、何をするのもその人次第って事ですね」

明日花
 「あ、愛ちゃん先輩」

気が付けば愛が入室していた。
愛はパン! と手を叩くと教壇の前に立つ。


 「はいはーい♪ 皆は心配する必要なんてないんですよー♪ それより皆さんの本分はお勉強なんですよー♪」

明日花
 「愛ちゃん先輩見ていると、なんか安心感あるよな」

アリア
 「ですが無理をしているようにも……」


 「お喋りはそこまで! 教科書を持って!」

四人は大人しく席に座ると、教科書とノートを出していく。


 「えーと、今日はですねー」

授業はいつも通りだった。
愛は決して、1年生を不安になどさせない。
それが3年生の勤めでもあり、愛の矜持だ。


 (本部の指示は無い……これまで通りやれという事ですか)



***




 「いつも通り……だよねぇ」

昼休憩、食堂に集まった2年生はその余りにもいつも通りの状況に呆気にとられていた。
特に鈴はカレースプーンを手に持つと、陶器の皿にトントンと叩いて不安とも不満ともとれない行動を取っていた。

由紀
 「皿叩くの止めなさい、イライラする」

由紀はそれを不満顔で諫めた。
由紀はあの後その場を去った事を涙する程後悔していた。
闘子が謎のシロデスナ少女に何も出来ず、挑発されて負けた。
それが悔しくて仕方がなかったのである。

由紀
 (何処の馬の骨か知らないけど、私が絶対ぶっ飛ばしてやる!)

ミア
 「……わざわざ宣戦布告されたんですよね?」

ミアはパスタの皿を持ってくると二人の前に座った。
彼女は彼女でこの事態が不安なのだ。

由紀
 「上等じゃない、返り討ちよ!」


 「でも私闘って禁止されてなかったっけ? 違反は不味いと思うんだよね〜」

由紀は鼻息も荒く息巻くが、鈴は冷静にそれに突っ込んだ。
闘子ならどうするだろうか、由紀はそれを考えたが、闘子ならきっと闘う……そう考える。
それだけで由紀は迷う必要はない。
由紀の憧れは闘子だ、そして由紀の目標は闘子を越えること。
ならば闘子を狙う敵を自分が撃退する……それは意味のあることだ。

由紀
 (私は止まらないわよ……誰よりも強くなってやるんだから!)

ミア
 (藤原先輩も襲われた……私も何か出来ないだろうか?)

ミアは決して争い向きじゃない。
でも真希が襲われて黙っている事なんでやっぱり出来ない。
ミアは決して由紀のような短絡的なタイプではないが、それでも先輩を狙われたことには怒りもあるのだ。

ミア
 「私も……来るならば戦わないといけないと思います」


 「ミア……、まぁ……そりゃそうか、暴漢に襲われて、はいそうですか、大人しくレイプされる訳にはいかないもんね」

鈴はある意味幸運だったかもしれない。
昨日はずっと愛と一緒にいて、襲撃されることはなかったのだ。
だが、もしも愛の前にまで敵が現れていたらどうしただろう?
きっと黙っていなかった筈だ、特にあの場には琉生だっていたのだ。
鈴は後輩が傷付く姿なんて絶対に見てらんない。
きっと愛が止めても、鈴は戦っただろう。
それは例え処分の対象にされても、琉生や愛が傷付くより百倍マシな選択だ。


 「一体、これからどうなるんだろう……?」

それは誰にも答えられない……だが、確信めいた物は誰にでもあるのだ。
これは嵐の前の静けさだと。



***




 「闘子ちゃん…本当に大丈夫なんですか?」

教員室にいた愛は同じく資料を集める闘子を見て、心配そうに言った。
闘子はニッと笑うと、自身の上腕二頭筋を見せつける。

闘子
 「鍛えてるからな! まぁリアルファイトに比べれば掠り傷だよ!」


 「そもそも、本当はそういう危険な事をするのは、見てられないのですが……」

愛は心配で仕方が無かった。
ただでさえ、ゲシュペンストは何一つ驚異性を減らした訳ではない。
依然として謎の多いゲシュペンストと戦わないといけないのに、その上謎のポケモン少女集団に喧嘩をふっかけられた状態なのだ。


 「やっぱり、暴力や喧嘩はいけないと思うのです」

闘子
 「……と言っていざもう一度来たら、やるしかないだろ?」

警察は介入できない。
第一その気になればポケモン少女に警察の戦力は通用しない。
ポケモン少女は国が縛ることの出来ない存在なのだ。
だからこそポケモン少女を管理統括する組織が存在する。
世界中に支部を設置して、ポケモン少女の保護と対ゲシュペンストとして戦っているのだ。

闘子
 「大体本部だって、対応はウチの支部に任せるって言ってんだろ?」


 「そうなんですよねぇ……」

愛は溜息をついた。
つまり自分の身は自分で護れ。
本部は何の手助けもしない代わりに、今回の事件を見て見ぬ振りをする気のようだ。

闘子
 「良いじゃねぇか、始末書を書かなくて済むなら!」


 「始末書で済ませようとしないでください! プンプン!」

愛は顔を真っ赤にして、大真面目にそう言った。
しかしそれだけでも気が晴れるのか二人の顔は少しだけ柔らかくなっていた。

真希
 「二人ともいるー?」

ガララ。教員室の引き戸が開かれると入ってきたのは諜報部の真希だった。
真希は無駄に広い教員室を見渡すと、二人の姿を発見する。


 「あら、真希ちゃんいらっしゃい♪」

闘子
 「諜報部の無能が何の用だー?」

闘子のいつものからかいに目くじらを立てたのは真希だ。
真希は目を釣り目にするが、冷静にセルフレームの眼鏡をかけ直す。

真希
 「ふん、アンタだって不意打ち食らって、後輩を危険な目に合わせたらしいじゃない」

闘子
 「しっかり護ったんだから問題ない、それよりお前ともあろう者が相手を取り逃したって方が問題だろ」

きらら
 「……それなら私も同罪」

真希の後ろから、堆く積まれた資料に隠れて見えないが、執行部のきららまでが現れていた。
関東支部3年生が珍しく総集合したのだ。


 「あ、きららちゃんいらっしゃーい♪ お煎餅食べます?」

きらら
 「ん、貰う……」

愛は一番の親友が現れると、嬉しそうにきららを隣の席に誘導させた。
小さい者同士なにかシンパシーもあるのか、二人は本当に仲良しだ。

真希
 「きらら、執行部がこんな所で油売ってても良いの?」

真希はそう言うと、懐から通称十秒飯と言われる、最低限の食料を口にして、「ちゃんとした物を食べたい」と愚痴る。
きららはお煎餅を一枚頂くと。

きらら
 「任務から外された……」


 「ええ!?」

真希
 「は? 冗談でしょ? 執行部のスーパーエースが?」

執行部はその性質上、高い次元の能力が求められる。
執行部に求められるのは事案解決能力。
その多くは、ゲシュペンストの掃討や災害救助に当てられるが、それだけ執行部は質が高い分人数も少ない。
その中でも圧倒的成績を誇るきららを外すとは俄には信じがたい事だった。

闘子
 「命令違反か?」

真希
 「アンタじゃあるまいし、きららが?」

闘子
 「テメー、相変わらず一言多いっての! 大体お前だって結構ギリギリだろ!」

真希
 「違反はしたことないわよ、貴方と違って!」


 「はいはーい! 喧嘩はそこまで! もう! どうして顔を合わす度に喧嘩するんですかっ! プンスカプン!」

きらら
 「愛を怒らせるのも大概にね……」

パリッ、のんびり煎餅を囓りきららは二人の諍いを呆れながら宥める。
いつもの光景と言える程、見てきた姿だが、四人揃ったのはゲシュペンストγを倒した日以来だろうか。
それぞれ部署が違うだけに、3年生全員が揃う事はあまりない。
それだけにきららもこの光景に少しだけ笑顔を浮かべていた。

闘子
 「はぁ……。で、きららは暇を潰しに来たのか?」

きらら
 「1年生達が狙われるんじゃないかって……」

きららはそう言うと窓を見た。
少し曇り空で、なんとも言えない雰囲気だ。
きららはそんな空を見て、あのポケモン少女……サザンドラ少女の悠那を思い出した。

きらら
 (執行部出向のポケモン少女でもあのレベルは何人いる? もし今の1年生に向けられたら……)

きららはそれ程1年生と関わり深いわけではない。
それでも何度か琉生とは会話しているし、親交もある。
なにより自分の可愛い後輩を護りたいという気持ちは、愛や闘子に劣る物ではなかった。

真希
 「殊勝な事ね……だけど相手の目的が分からないんじゃどうしようも無いわよ?」

闘子
 「同感だ、こう後手に回る感じはイマイチ好きじゃない」


 「うぅ……一度しっかり話し合いたい所ですが」

きらら
 「少なくとも、私の戦った子は目的のためならば手段を選ばない相手だった、話し合いで解決できるなら、他の二人も襲撃されていない」

きららのそのきっぱりとした物言いに愛は困り果てて縮こまった。
平和主義者の愛としては敵であれポケモン少女が傷付く姿は見たくない。
これならば、ゲシュペンストの出現に悩まされる方がずっとマシだった。
ゲシュペンスト被害は深刻だが、愛は躊躇う事は無かった。
自己陶酔かも知れないが、愛はゲシュペンストから罪無き人々を護る事は誇りが持てたのだ。
だが、相手がポケモン少女だと事情が違う。
意思疎通の出来ない化け物などではなく、話し合いも協力も出来るはずなのだ。


 (理由……理由がなければこんな事出来ません……必ず、糸口は見つかるはず!)

そうだ、しかし愛は鋼のようなこれと決めれば絶対に曲げない精神の持ち主なのだ。
今は糸口も見えない、だからといって諦めるつもりもない。
普段はほんわかとしていて、トロいイメージの付きやすい愛だが、ここ一番の頭の速さは真希をも上回る。



***



ポチャン……。

雨音がする。
雨漏れが酷い……ある少女は思った。
そこは誰も使わなくなった廃工場、彼女がそこで潜伏を初めて既に半年になる。
惨めな生活を送る事になったが、それ以前の生活と比べるなら、こっちの方がマシだった。
少女の名は八神悠那(やがみゆうな)、きららを直接襲撃したサザンドラ少女だ。
その顔は凛々しく、目付きは釣り目で鋭い。
身長はきらら達より大きい、170位だろうか。
彼女の前には二人の少女がいた。
小さな女の子はドラム缶の上に座りながら、お菓子をポリポリと食べ、悠那より背の高いモデルのような少女は待ちくたびれたように立っていた。

悠那
 「待たせたわね、桜、燈」


 「ん……悠那ちゃん、食べる?」


 「後にしなさい燈」

それぞれ古代燈(こだいあかり)と七海桜(ななみさくら)に悠那は高圧的に髪を払った。
燈は中学生というより小学生のような少女だ。
どこか人形を思わせる身なりの良い洋服を身に纏っており、一見すればとてもこの場所には似合わない。
しかし彼女もウルガモス少女であり、悠那と同格と言えるのだ。
対して桜は二人よりも大人びている。
黒いドレスのような洋服に身を通し、髪は上質で艶がある。
しかし彼女もまたシロデスナのソウルを見に宿す少女。
何れもが悠那とは全く性質の異なるポケモン少女なのだ。

悠那
 「メイ! 揃ったわよ!」

悠那は何もない空間に声を上げると、その場に映像が浮かび上がった。
銀河冥子(ぎんがめいこ)と呼ばれるロトムのソウルを宿す少女だった。
その場にはいないが、冥子は首にヘッドフォンを掛け、黒人シンガーのイラストがプリントされたTシャツに身を通した、ビビットカラーに染め上げられたボサボサの髪の少女は三人にニコッと笑う。

冥子
 『ようやく準備も整ったぜ!』


 「……抜かりはないのね?」


 「私は従うだけ……」

悠那は腕を組んで胸を持ち上げると、はぁ……と溜息を零した。
準備……それは1年の準備であった。
彼女たちはある理由があり、ポケモン少女管理局に属していない。

悠那
 「一人いないけど、時間は待ってくれない……」

冥子
 『そりゃ仕方がねぇよ、それも含めて準備なんだろ?』


 「決行は?」

冥子
 『1週間後……だが賭けだぞ?』

悠那
 「結構じゃない……分が悪い賭けは元々よ」


 「ん……」


 「……」

全員が頷く。
彼女たちはこれから危険な闘いに挑む事になる。
それは命を賭けなければならない事だ。
何故そこまでこの少女達がしなければならないのか?
その意味を彼女たちは知っていた。

悠那
 「関東支部を叩けば、必ず『アイツ』は出てくる」

冥子
 『本部の隠し球……』


 「でもやるんでしょ?」

悠那
 「誰に物を言っているの? 私は最強のポケモン少女よ!」

冥子
 『ああ、それに切り札はある……!』

彼らは決して強大な組織ではない。
管理局を相手に出来る程の戦力でも無い。
だが理由はあったのだ。
この三人には……。



ポケモンヒロインガールズ

第16話 始まる直前 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2020/02/02(日) 22:01 )