第14話 序曲は奏でられる
第14話 序曲は奏でられる
1年生と2年生の対抗戦が終わって半月が過ぎていた。
それぞれもまた各々の生活に戻り、ポケモン少女達はしばしの平和を享受していた。
琉生
「ふ! は!」
かつて能力測定にも使われた総合競技場のグラウンドには姫野琉生の姿があった。
琉生は武術を学ぶようにオオタチに変身した状態で、その身体を動かしていた。
琉生
(我武者羅じゃ駄目なんだ……!)
琉生は誰よりも真剣だ。
その実直真面目さも影響しているのだろうが、彼女の脳裏に映ったのは対抗戦だった。
琉生
(自分を省みていない……それは私が弱いから)
ビュン!
鋭いケリは空気を切り裂いた。
鈴の言葉は真摯に琉生に響いたのだ。
これ以上皆を心配させる訳にはいかない。
だから強くなる必要がある。
だけど、琉生にはどうすれば強くなれるのか、どの方向に強くなれば良いのか分からなかった。
琉生には派手な技はない。
全長の半分を占める大きな尻尾を使った叩きつけると、影分身。
その二つはどちらも琉生の身体能力に依存した技だ。
琉生
(我武者羅でも、フィジカルを鍛えるしかない……!)
琉生はその焦りを忘れるように身体を動かした。
自分にも星野きららのような派手で強力な技があれば、霧島ミアのような飛び道具があれば。
琉生
(鈴先輩もそんなに強いポケモンのソウルを有している訳じゃない……でもあれだけ技を洗練させていた)
先輩達はどれも1年生とは違い、素晴らしい力を持っている。
自分はそんな先輩達に追いつけるだろうか?
友井愛は「焦る必要はありませんよ?」と優しく声を掛けてくれたが、琉生は危惧しているのだ。
琉生
(ゲシュペンストは……いつも、理不尽で……!)
琉生は……というよりオオタチのソウルがそうさせるのだろうが、琉生はゲシュペンストに対し異常とも言える危惧感を抱えている。
実際には並大抵のゲシュペンストβでは琉生相手には役不足だろう。
ゲシュペンストγもあれ以来二度と姿を現していない。
琉生
(人類とポケモンの災厄……ゲシュペンスト……私は……!)
琉生の中で段々負の念のような物が膨れ上がろうとしていた。
琉生は優しさと勇気を兼ね備えた類い稀な少女かもしれないが、同時に琉生はまだ15歳の少女に過ぎないのだ。
15歳の少女が自分を大人と思うのは少し傲慢だろう。
何の責任も感じず生きているうちに、自身を全能のように錯覚するのは人間の特有な思考だろう。
だが、逆に琉生のようにその責任と重圧に15歳の少女は果たして耐えられるのか?
鈴
「おー! やってるねー!」
愛
「琉生ちゃん、お疲れ様です♪」
琉生が少し身体を止めていると、搬入口から二人の先輩が私服姿で現れた。
愛先輩は胸元にタブレットを抱えているため、まだ仕事中かもしれないが。
琉生
「愛先輩に鈴先輩?」
琉生は訓練を止めると、珠のように汗が落ちた。
秋の少し肌寒い風が琉生の身体を撫でる。
鈴
「自主練かぁ、真面目だねぇ」
琉生
「……それ以外強くなる方法が分からないから」
愛
「琉生ちゃんはこうと決めたら意外と頑固さんですね〜、琉生ちゃん、そんなに急がなくても大丈夫なんですよ?」
琉生
「……でも、私は、まだ」
琉生は顔を俯かせた。
強くなる、現実的にはそれこそ一朝一夕にはいかない。
それでも不安に押し潰されるよりは良かった。
しかしその煮え切らない態度に突然鈴は琉生に抱きついた!
鈴
「いい加減にしなさい!」
琉生
「きゃあ!?」
鈴
「私はそんなに頼りないかー! チームはそんなに頼りないかー!? 私は少なくとも琉生ちゃんも愛ちゃん先輩も信頼しているわよ!」
琉生
「っ! り、鈴先輩……」
琉生は無論信頼していない訳ではない。
だが、同時にそれが弱点のように思えたのだ。
もしもチームプレー重視した結果、個々を襲撃されたらどうなるのか。
愛
「琉生ちゃんはもう充分過ぎるくらい強いですよ?」
愛はあくまでも優しく微笑みかける。
鈴
「ああもう! 琉生ちゃんのモフモフ柔らかくって暖かくって、甘い香りもして! この罪深少女めー!」
琉生
「ん……くふ!?」
鈴は琉生を抱きしめたまま、尻尾の付け根を指で捏ねるように転がすと、琉生は甘い声を出してしまう。
大真面目な話をしていたと思ったら、この先輩は何をしているのだ。
しかし色々と立場とかもあって琉生は鈴を退かせなかった。
愛
「鈴ちゃん、セクハラは駄目ですよ〜」
鈴
「愛ちゃん先輩もうちょっとだけ!」
愛
「駄目ですよ〜」
鈴
「愛ちゃん先輩にそう言われたら諦めざるを得ない!」
鈴はそう言うと、琉生から離れた。
鈴としてはもう少し楽しみたかったが、笑っていても愛は上級生なのだ。
愛を怒らせると、誰よりも恐ろしいという話を鈴は剛力闘子から聞いており、あまり怒らせたくないのだ。
鈴
「と、言うわけでこれから三人で遊びに行きましょう!」
琉生
「はぁ、はぁ……え?」
突然この人は何を言っているんだ?
しかし愛も承知しているのか、鈴の前に出ると言った。
愛
「琉生ちゃん、息抜きも必要ですよ? 行きましょう?」
愛はそう言うと琉生の手をとった。
相変わらず愛の手は小さく優しく暖かかった。
身体は小さいのに、愛は琉生より大きく錯覚するようで。
愛
「ふふ♪ 琉生ちゃん手が暖かいですね〜」
琉生
「……ふう」
琉生はこのやや極端な二人を前にして、ついに折れた。
変身を解除するとやそこには銀髪の制服姿の少女がいた。
鈴
「うーん、変身している琉生ちゃんは縫いぐるみみたいで可愛いけど、普段の琉生ちゃんもお人形さんみたいで可愛い〜♪」
琉生
「あ、あんまり可愛い可愛い、言わないでください」
琉生はあまり褒められるのに慣れておらず、照れて顔を紅くした。
愛
「照れてるんですか〜? でも琉生ちゃんは本当に可愛らしいですよ〜♪」
琉生
「か、可愛いなら愛先輩の方が……」
鈴
「いや、愛ちゃん先輩はもはや神話級だから!」
愛
「うぅ……嬉しいけれど複雑です、本当は真希ちゃんみたいな美人さんになりたいのですが……」
琉生はクスリと笑った。
愛らしい悩みだ。
鈴は一見すれば、琉生にはない物を全て持っている。
アイドルをしていただけに、容姿もずば抜けているし、コミュ力もあり、ポケモン少女としての能力も高い。
だけど、妙な欠点があったりもするのだから、琉生は可笑しくなった。
鈴
「あ、琉生ちゃん笑った〜♪」
愛
「このまま手を繋いだまま、行きましょうか?」
愛は歩き出す。
つられて琉生はゆっくりと歩き出した。
その隣には鈴が並ぶ。
鈴
「私も手を繋がせて〜!」
そう言って無理やり手を取る鈴、あっという間に琉生は両手を塞がれた。
両手を使えないのは流石に困るが、琉生は表情にも出さなかった。
何も言わないのは、立場が弱いからじゃない。
この先輩達を見ているだけ、楽しいと思ったからだ。
***
きらら
「……」
星野きららは全ポケモン少女の中でもトップクラスの実力者だ。
それ故に、彼女は世界を飛び回る事も珍しくはない。
パルキアの能力を使えば、地球の裏側でさえも造作もないのだから。
そんな彼女は空を見上げていた。
正確には空ではない、暗くなった歩道を照らす街灯だ。
そこはうらびれた住宅街、きららはそこである人物の登場を待っていた。
女性
「あれー? きららじゃん。久し振りだけどどうしたの?」
その人物は女性だった。
きららと比べると身長が高い、と言っても160センチ程。
やや華奢な印象を受けるが、それよりも目立つのはその草臥れたスーツ姿だ。
スーツには皺だらけで、その下のシャツはダラしなく第一ボタンも外されている。
そんな身嗜みの悪い女性は、当然というように髪もボサボサで枝毛が目立ち、取り立ててお洒落じゃない眼鏡も合わせて、非常に残念な女性であることが分かる。
そして、死んだ魚のような目、いっそ男として産まれればまだマシだったかもしれないその女性にきららは少しだけ笑顔を浮かべた。
きらら
「うん、たまたま近くに来てね?」
それは少し嘘が混じっている。
本当はきららが彼女に会いたかっただけだ。
何せ、『家族』なのだから。
きらら
「青子お姉ちゃん、家ついて行っていい?」
青子
「んー? 散らかってるけど、それでも良ければどぞー」
その女の名は常葉青子(ときわあおこ)という。
常葉の性が示すように、きららと青子は血は繋がっていない。
だが10年前に両親を失ったきららを、引き取り養子にしたのは常葉家の人たちだった。
取り分け何故かきららはこの青子に懐いている。
青子の手を見ると、ビニール袋が掴まれている。
中身はコンビニ弁当とお酒のようだ。
きらら
「相変わらずまともな物は食べてないんだ」
青子
「一人暮らしって結構自堕落になっちゃうのよねぇ、まぁ生活が成り立ってるなら問題ないっしょ」
きららは青子と一緒に夜の道を歩くと、やがてやや古臭いアパートが見えた。
青子が一人で住んでいる安めの家賃がウリの借り家だ。
階段を昇り、家の前に辿り着くと青子は鍵を開ける。
扉を開けて、中を覗くとそこは予想以上の大惨事である。
青子
「とりあえず入って〜」
青子は全く気にしないが、きららはさすがに頭を抱えた。
きらら
「どうして玄関に下着が落ちてるの……?」
青子
「んー? 忘れたー」
余りにもあっけらかんとしたその態度。
本当に覚えていないのだろうか。
それ以外を見ても、部屋の中にはゴミが散乱している。
大半が弁当の入れ物に空き缶というあたりに、この女の絶望的な女子力の無さが知れてくる。
きらら
「お姉ちゃん、こんなに片づけない人だったっけ?」
きららはそう言うとゴミを一つ一つゴミ袋に纏めていった。
青子は早速居間に腰掛けると缶ビールを開けようとするが、その言葉に彼女は。
青子
「ん〜、社会の荒波に揉まれてストレス社会を生きてりゃね……」
きららは不安に思った。
よく見れば青子の顔は前に見たときよりやつれているように見えたのだ。
きらら
「お姉ちゃんの仕事場ってブラック企業?」
青子
「んー、上司は糞野郎だけど、会社としては居心地悪くないし、給料も良いからねぇ……残業を押し付けてきたり、休日出勤要求してくる所はムカつくけど」
青子はそう言うと缶ビールを開けた。
もはやそのストレスに打ち勝つにはアルコールしかないと言うように。
青子
「んっんっん……プハァー! 生き返るー!」
きらら
「お姉ちゃん、それ飲み終えたら片付けるから」
青子
「もう、別に片付けなくたって私は気にしないのに」
きらら
「私が気にするのっ」
きららにしては珍しく怒気を高めた言い方だった。
きららは学生時代の青子を知っているが、あの頃の青子は多少人を寄せ付けない雰囲気こそあったが、ここまで自堕落ではなかった。
きらら
「お姉ちゃん、老けるのなんてあっという間だよ?」
青子
「おーおー、高校生が言うようになったわ、私はそれで良いの、どうせ私に言い寄る奴なんていないし、私も別に求めてないし」
青子はそう言うとふて腐れるようにテーブルに突っ伏した。
昔から青子は他人を必要以上に内側に入れようとはしなかったが、23歳にしてはまるで仙人かなにかのようだ。
それもストレスの影響だとしたら予想以上に深刻じゃないか。
青子
「あー、なんだか眠くなってきた〜、もう寝るから弁当あげるわ〜」
きらら
「駄目、ちゃんと食べないと駄目」
青子
「もうアンタはお母さんかっ!」
青子は逆ギレ気味に怒鳴った。
顔も真っ赤で、ビール一杯で酔ったとは燃費の良い女だ。
きらら
「お姉ちゃん、どうして一人暮らし始めたの? お義父さんとお義母さんは?」
青子
「別に両親と仲違いしたわけじゃないわよ、なんとなく自立は早い方が良いか……そう思っただけ……アンタ持っていかれた時からね……」
きらら
「……!」
それは自分がパルキア少女に目覚めたあの日の事を言っているのだろう。
きららは本来なら青子と同じ学校に進学するはずだった。
だが、直前で検査から漏れたきららはあることが原因でポケモン少女であることが判明し、ポケモン少女養成学校に強制的に転入させられた。
姉の青子は本当にきららを可愛がっていた。
多分一番反発したのも青子だった気がする。
きらら
「私は……今を不幸には思っていない、アレから色んな人と出会えたから」
青子
「んー……そ……っか……ぐう」
青子はそこで寝落ちした。
見るからに疲れていそうで、誰も見ていないのは本当に心配になる義理の姉だ。
明らかに駄目な姉で、せめて嫁の貰い手でもあれば良いのだろうけど、青子は絶対に受け入れないだろう。
きらら
「お姉ちゃん、風邪ひくよ?」
青子
「ん〜? むにゃむにゃ」
きららは青子をベッドに運ぶと、そっと毛布を掛ける。
そして、ゴミを纏めるとゴミ袋を纏めた。
その後は掃除だ、床に散乱した下着や上着を手に取ると、それを洗濯籠に入れる。
きらら
「お姉ちゃん、全然洗濯してない……」
溜息しかでない。
自分が出来れば良いのだが、きららの忙しさはそれを許さない。
というか、本来ならきららが青子の家に上がるのは、規律違反だ。
ポケモン少女は不必要に一般生活を送る人間と接触してはいけない。
だがきららはそれ程真面目ちゃんではない。
自分でコントロール出来る程度には自由を利用している。
きらら
「お姉ちゃん、私もう行くよ?」
青子
「ん……きららぁ……元気でねぇ」
きららは振り返った。
だがそんな姉は寝返りを打つだけだ。
夢の中できららと出会っているのだろうか?
だが、それはきららは嬉しかった。
きらら
「大丈夫、私は元気にやるよ」
きららは部屋の電気を消すと、そのままアパートを出た。
アパートを出た時、きららは視線を感じた。
きらら
「?」
きららは視線を不可解に思いながら、階段を下り、アパートから出た。
その時、空に影が走った!
きらら
「!?」
?
「はぁい♪ そこの貴方? 私と少し遊んでくれない?」
それはポケモン少女だった。
月を横切り、きららの前に降り立ったのは真っ黒なドレスに身を包んだ釣り目の少女だ。
身長は高く180近いだろうか、背中には四枚の翼があり、両手がパントマイムの人形のようだった。
きらら
「貴方……誰?」
きららは少女を睨んだ。
それは最強のポケモン少女の視線だ、だが相手はクスクスと笑っている。
謎の少女
「クスクス、そんな事どうでもいいの……貴方の力が知れればね!」
謎の少女はそう言うと左手をアパート向けた!
丁度龍の人形が口を開いたように! きららはそれに顔を青くした。
きらら
「なにを!?」
謎の少女
「悠長な貴方でも、これなら本気にならないといけないんじゃないかしら!?」
謎の少女は左手に力を集め、悪の波動を精製した。
少女の目は本気だ。
本気でアパートを……青子を狙っている!
謎の少女
「はぁ!」
謎の少女は悪の波動を放った!
きらら
「くっ!?」
悪の波動はアパートに当たると大爆発。
その威力は一撃で建物を倒壊させる威力だ。
謎の少女
「ハッハッハ! これで少しは本気になれるかしら!?」
その直後だった。
謎の少女の目の前の空間が切り裂かれた。
謎の少女
「っ!?」
謎の少女は瞬間的に後ろに飛び上がった。
一撃に驚いたからじゃない、問答無用で放たれたプレッシャーにだ。
きらら
「……貴方、私を怒らせてどうする気?」
きららは既に変身していた。
少女とは対照的なパールホワイトのドレス。
その両肩には月の光を鈍く跳ね返す大きな真珠が埋め込まれている。
きららは手を振ると、アパートに異変が起きた。
きらら
「お姉ちゃんに手を出すなら、誰であろうと容赦しない……!」
そう言うと無傷のアパートがその場に出現した。
きららは悪の波動がアパートを破壊する直前、空間ごとアパートを隔離した。
そしてそれを元通りにしたのだ。
謎の少女
「ふ、ふふ……! 成る程噂通りか!」
謎の少女が戦慄するに充分な迫力がきららにはある。
だが……少女は笑っていた。
まるで勝てる、そう考えているかのように。
きらら
「所属を言いなさい、ポケモン少女の私闘は禁止されているわ」
謎の少女
「ふふふ! 何も知らないのね! 所詮貴方も奴の籠の鳥!」
きらら
「?」
何を言っている?
奴? 誰のことを言っている?
だが謎の少女は両手をきららに向けた。
今度は龍の力を集める。
謎の少女
「くらえ!」
龍の波動は翠の波動となってきららを襲う。
だがきららは動かなかった。
きららは龍の波動を空間的に隔離すると、龍の波動は別の次元で爆発する。
謎の少女
「ち!」
だがこの結果はある程度少女も理解していたのかも知れない。
素早くきららの後ろに回ると、人形がきららの肩を襲う!
だがきららは振り向こうともしない!
きらら
「無駄」
空間が湾曲した。
動かずとも、きららはこの謎の相手を対処できる。
だが力を振るうのは、私闘の為ではない。
きらら
(暴走している訳じゃない? やんちゃにしては……やり過ぎだけど、彼女の管轄は?)
謎の少女
「……埒が空かないわね」
少女は再び、空を飛んできららから距離をとった。
少女の攻撃は鉄壁のきららの防御を崩す事ができない。
謎の少女
「成る程、確かに最強のポケモン少女ね……でも、これなら無理でもないわね」
きらら
「貴方、さっきから何を言ってるの?」
きららは現状の分析と相手の分析で精一杯だった。
ただ対処しているだけだと、騒ぎが民間人に見られるかもしれない。
それをきららは空間的に弄くり、一切の影響が周囲に漏れないようの気を配っているが、能力的にはかなりのキャパシティを消費していた。
?
『おい、悠那(ゆうな)! あんまり時間掛けるな! 他はもう終わってるぞ!?』
謎の少女、悠那はインカムから聞こえてくる喧しい声に苛立った。
悠那
「わかってるわよ、こっちも大体把握したから!」
きらら
「独り言?」
悠那
「少しだけ教えてあげる、私はサザンドラ少女!」
サザンドラ、四つの羽と三つの首を持つ漆黒の龍。
狂暴ポケモンが示す通り、その戦い方は暴威の塊のようだった。
悠那は三つの『口』にエネルギーを溜めると、それをきららに放つ。
それは隕石群となってきららを襲うが、きららはそれさえも簡単に空間の外へと消し去るのか……?
否! 悠那は知っている、その能力が無敵ではないと!
悠那
「貫けぇ! 奴の空間を!」
きらら
「くっ!?」
きららはそれも空間を隔離しようとした。
しかしきららは神ではない。
神話に綴られるポケモンのソウルを有していても、神ではないのだ。
空間は無限に広げることは不可能であり、強大な存在を抑える事はできない。
事実きららは一人ではゲシュペンストγを抑えきれなかったのだ。
つまりゲシュペンストγにも匹敵する力ならば?
ガシャァァン!!
まるでガラスが割れたような音が空間に響いた。
パルキアの力が破られ、流星群はきららを襲う!
ズドォォン!!
悠那
「……確かに最大戦力でしょうね、数値化されたデータの上では、ね」
悠那は爆発を見届け、飛び去った。
ビュウ!
きららは悠那が消え去った後、爆風をかき消した。
その身体はボロボロだ。
流星群は減衰したものの、直撃を貰ったのだ。
悠那がもういない事を確認したきららは空間を元に戻す。
すると、ソウルリンクスマートフォンに連絡が入った。
きらら
「はい、きららです」
愛
『きららちゃん!? た、大変なのです!』
連絡は愛だった。
なんだかとても焦っているみたいだった。
きらら
「落ち着いて愛、一体どうしたの?」
愛
「と、闘子ちゃんと真希ちゃんが襲われたんです!」
……それはなんの幕開けなのだろうか?
きららだけではなかった。
同時に三人のポケモン少女が襲われていたのだ。
それは……本来ならあってはならない、ポケモン少女同士の戦いなのだろうか……。
ポケモンヒロインガールズ
第14話 序曲は奏でられる 完
続く……。