第12話 戦え! 対抗戦!
第12話 戦え! 対抗戦!
B地区は複合アミューズメント地区だ。
ポケモン少女達が日々競い合うバトル会場や、ちょっとした山登りが体験できるようなレジャー施設もある。
そんな地区に、ポケモン少女学園の関係者が集まっていった。
闘子
「……定刻、お前ら準備は良いか!?」
そこは東京ドーム5個分の敷地に敷き詰められた訓練施設である。
1年生の目の前には廃墟となった都市群が聳え立つ。
明日花
「準備……オーケー!」
ゴローニャ少女に変身した明日花は、静かに闘志を暖めた。
対戦相手にはあの砂皿由紀がいる、今は敵わないかもしれない、だけど力を試したい相手だ。
アリア
「……静かですね」
夢生
「ちょっと恐いビュン〜」
琉生
「……」
琉生は静かに瞑想していた。
オオタチさんに呼びかけながら、今回のルールを思い出す。
***
……1時間前。
琉生達は控え室で愛から詳細な説明を受けていた。
愛
「皆さんこれは訓練ですが、気を付けてください〜」
アリア
「チームワークを試す実戦訓練ですか?」
4人は渡されたプリントを見る。
今回の訓練は大規模で、1年生対2年生という形で実戦訓練を行う事になった。
理由としては暴走ポケモン少女の鎮圧を想定してや、対ゲシュペンストに対しての基礎能力底上げというのも含まれるのかもしれない。
愛
「恐らく明日花ちゃん以外はポケモン少女を攻撃することに躊躇いがあると思います……ですが、これも訓練ですので〜」
明日花
「愛ちゃん先輩〜、そこはアタシたちの勝利を祈ってくださいよ」
愛の消極さは流石に明日花も苦笑するしかない。
愛としては兎に角、皆無事で終わる事だけが願いだ。
それに今回は対抗戦と言ってもルールが違う。
アリア
「あの……質問なのですが、お互い勝利条件が異なるようですが?」
愛
「はい、それは1年生の方が人数が多いことと、2年生の方がより成熟したポケモン少女であることを加味してですね〜?」
琉生
(勝利条件……相手の持つフラッグの奪取……)
琉生はその条件を見た。
勝利条件にまず2年生の打倒は含まれない。
これは妥当だろう、1年生ではまず対面で2年生と戦うのは無謀だ。
2年生には吉野鈴がいる……彼女一人見ても、技一つで完成度が違う。
果たしてどれ程自分たちの力は上級生に食らいつける?
いずれにせよ厳しい戦いは予感させる。
アリア
「敗北条件はリーダーの敗北ですか」
愛
「リーダーは皆さんで決めてください」
明日花
「アリアか、琉生だな」
夢生
「私もその二人でいいビュン」
琉生
「……アリアに譲る、私向いてないし」
琉生は機動力に長け、それについてこれるのは夢生位で、必然的に単独行動になりやすい。
その点アリアはフィジカルに不安な点はあるが、状況判断力や指揮力には申し分ないはず。
アリア
「畏まりました……謹んで承ります」
アリアはそう言って丁寧に頭を下げると、リーダーは決定した。
後は訓練時間を待つだけだ。
***
アリア
「良いですか? 極力交戦は避けて! 2年生と正面衝突は無謀です!」
訓練開始直前、私達は作戦を練った。
アリアの命令に全員頷くと、訓練開始の合図が鳴らされた。
ビィィィィ!
甲高い音を合図に、夢生が飛び立つ。
アリア
「夢生は上空から、偵察!」
夢生
「分かったビュン〜!」
現在12名いるポケモン少女で空を飛べる者は2人しかいない。
しかも翼で飛ぶのは僅か1名、それが夢生だ。
夢生は特訓(本人曰く地獄の)によって高所恐怖症を荒療治ではあるが、克服し、高さというアドバンテージを得て、地上を見渡す。
東京ドーム5個分という広大な敷地は、アリア達のいる廃墟群だけではない。
森林、湖、山岳地帯まである。
これを夢生一人で偵察するのは厄介だ。
だが、夢生にこの役割を徹させることは意味がある。
夢生
(む〜、フラッグ何処〜?)
1年生の勝利条件であるフラッグの所在は明かされていない。
恐らく2年生が守っていると思われ、それを目当てに探しているのだが……直後!
バシャァァン!!
夢生
「……! !」
それを目視で確認した明日花は叫んだ。
明日花
「夢生ー!?」
突然夢生が砲撃された。
夢生を襲ったのは巨大な水の塊、夢生に着弾すると弾け飛び、周囲に雨を降らせた。
アリア
「琉生さん、夢生さんの回収を!」
琉生
「わかった」
琉生はすかさず落下する夢生の元に向かう。
その間にアリアは情報を分析した。
アリア
(2年生で水の波動が使えるのはブロスター少女の霧島ミアのみ!)
ゴチルゼル少女のアリアはフィジカル面では殆ど恩恵を受けられていないが、メンタル面では多大な恩恵を得ている。
それはすかさずミアの位置を割り出すほど。
アリア
「方角、射角割り出しました! 霧島先輩は前方山間部です!」
僅かな時間で必要な情報を集めるアリアは正にブレインだろう。
だが、あれは狼煙のような物であった。
ただ2年生は強襲する。
明日花
「あわ!? 足が!?」
突然アスファルトの地面に明日花の片足がめり込んだ。
明日花は咄嗟に電撃を放つ。
バチバチ!
?
「無駄無駄〜、宝城明日花……私の相手をして貰うわよ!?」
明日花
「サンドパン少女……!?」
それは背中に無数の刺を生やしたサンドパン少女だった。
彼女の得意技は穴を掘る、どんな硬い岩盤すらその爪で掘り進める!
そんな彼女の特性を忘れていた、彼女は如何にして地面の中に潜りながら相手を正確に攻撃できるのか?
彼女の持つ生体ソナーは僅かな震動すら知覚し、正確に1年生の居場所を由紀に伝えた。
由紀
「見せてやるわよニューピー!? リアルファイトクラス2位の実力!」
絶体絶命、由紀のスコップのような爪が明日花を襲う!
***
琉生
「キャッチ!」
一方で琉生は正確に夢生をキャッチすると、廃ビルを背にして着地した。
夢生
「うう〜、頭ガンガンするよぉ〜」
水の波動は、本来直接水を相手にぶつける技ではない。
水の中では幾万も震動が跳ね返り、相手を混乱させる効果がある。
琉生
「夢生? 大丈夫?」
夢生
「だ、大丈夫……それより山ビュン、フラッグはそこ」
?
「へぇ? 夢生ちゃん目が良いねぇ〜♪」
その声の主が現れると、突然霰が降り出した。
ある少女が雪降らしの特性を発動させたためだ。
琉生
「吉野鈴先輩ですか?」
鈴
「うんも〜♪ 鈴で良いってば〜♪」
間違いない、鈴先輩だ。
鈴先輩は姿こそ現さないが、霰を降らせてじわじわと削る気らしい。
琉生は夢生を抱きかけながら打開策を捜した。
琉生
(迂闊に動けば狙撃されるか……)
夢生はフラッグの位置を割り出した。
山間部はビル群を越えた先にあるが、真っ正面から近づけばミア先輩に狙撃されるだけ。
ヒュ!
琉生
「っ!? はっ!」
一枚、凍った葉っぱが弓形に琉生に襲いかかった。
琉生はそれを蹴りで破壊すると、直ぐに駆け出す。
その方角は山間部ではない、森林部だ。
それを見た鈴は満足そうに微笑んだ。
鈴
「さぁって〜♪ それじゃ追跡開始〜♪」
何処までも歌って踊る楽しそうな鈴、しかしそれは冷酷なハンターの表情を隠すには違和感がある。
***
フラッグは山間部に隠されている。
しかしそこには霧島ミアがいた。
ミアは巨大な右腕を地面に下ろし、左手でバイザーを持って、戦場を俯瞰する。
ミア
(ここは状況観察する上でも良い……それに遮蔽物がないから狙撃しやすい)
さっきはエアームド少女を狙撃した。
大分手加減したから外傷はないと思うが、ミアの心を少しだけ痛めた。
暴走したポケモン少女相手には手加減をする余裕はない。
やらなければ、こちらが殺される。
その極限の中で死中に活を求める必要がある。
自分は藤原先輩のようになれるだろうか、ミアは自問自答する。
やがて……戦場は動き出した。
ミア
(由紀は交戦開始、鈴は森へ誘導を始めているわね)
都市部で砂煙と、移動する雪化粧。
二人は本当に見分けやすい。
ミア
「このままいけば完全試合も目指せるわね」
ミアはゆっくりとその巨大すぎる右腕を持ち上げる。
右腕は大きな鋏だが、ここまで大きな鋏を持った生物は存在しない。
それはまるで巨大な砲だ。
ミアにとって重すぎる不安定な右腕、最初は好まなかったが……今は身体の一部となった。
ミア
「観測射撃、開始!」
ミアの右腕が震えた。
直後、悪の波動は廃墟群に放たれた!
***
絶体絶命。
夢生を救助に行った琉生が帰ってこず、目の前には恐らく最大の難敵砂皿由紀がいる。
更に悪いことにアリアはある未来を予知した。
アリア
「明日花さん! ここは危険です!」
明日花
「なこと言っても!?」
明日花は由紀の攻撃に防戦一方だ。
まさか直接攻撃を仕掛けてくるとは予想しておらず、少なからずアリアは戸惑った。
更に悪いのは、放物線を描いて襲ってくる悪の波動だ。
ミアの居場所は特定した、だけどそれは彼女も同じらしい。
その砲撃自体は避けるのは簡単だ。
だが避け続けて解決する問題でもない。
アリア
(っ!? この感じ……ゴチルゼル、力を貸してくれるの!?)
絶体絶命の中、アリアはゴチルゼルとのシンクロを深める。
その度ゴチルゼルに近づくが、より強大な力を引き出せる。
アリア
「はぁ!」
アリアはその力を解放した。
すると明日花と自身の身体が浮かび出す。
それには由紀も驚いた。
由紀
「なっ!? 飛んだ!?」
明日花
「アリア!? これって!?」
アリア
「話は後です! 撤退しますよ!?」
アリアのテレキネシスは物体を浮かせる。
それを上手く応用できれば、一時的にパーティを浮遊させられる。
アリアはそのまま念動力で明日花の身体を引っ張ると、それを追う由紀の元から消え去った。
後に残った由紀は舌打ちをする。
由紀
(くそ……闘子見てなさいよ……次のチャンピオンは絶対私なんだから!)
執拗に明日花を狙う由紀の想いは嫉妬だ。
明日花を倒すことで、自分をアピールしたい。
無論明日花を倒した所で、闘子より強いアピールにはならない。
ただ明日花と由紀は似た者ではある。
一体何を目指すのか……その答えは同じなのだ。
由紀
「とりあえず索敵ね……」
由紀は手を地面に当てて、集中する。
状況を察したらしくミアの砲撃も止んでいた。
由紀
(宝城明日花の気配は見つからない……浮いているからか)
厄介だ、明日花一人なら造作もないが、あのゴチルゼルは由紀と根本的に相性が悪い。
奇襲も多分二度と通用しない。
ゴチルゼルの未来予測はそれほど甘くないだろう。
由紀
「上等よ! 意地でも見つけ出してやる!」
そう言うと由紀は周囲の建物を崩落させた。
砂地獄という技で、地面を液状化させ、周囲を埋没させたのだ。
そのまま由紀は砂地獄の範囲を広げながら、対象の索敵を開始した。
***
夢生
「うぅ〜、寒いビュン〜」
琉生
「我慢して、夢生」
琉生達は鈴から逃げるように廃墟部を脱出していた。
アリアとの合流も考えたが、鈴先輩を打倒せずに、合流するのは危険だ。
かといって単独で倒せるとも考えてはいない。
しかし一番問題なのは夢生だ。
水浸しになった夢生はあまりの寒さにガタガタ震えていた。
迂闊に飛べばまたミアの砲撃の的、このままでは夢生が凍死してしまう。
琉生
「く……ここまで来れば逃げ切れると予想していたのに」
琉生は森林部に入ったが、そこは既に鈴によって環境を歪められた後だった。
雪が積もり、木々が雪化粧する幻想的な光景だが、それはユキノオー少女のテリトリー。
琉生
(先輩の姿は相変わらず見えない……あくまでも持久戦?)
恐らく鈴先輩は白兵戦が得意じゃないのかも知れない。
でも彼女にはこんな恐ろしい力がある。
無理に勝負を急ぐ必要がない。
琉生
(このままでは負ける……)
琉生自身体力の低下は激しい。
ポケモン少女と言えど、対策無しで寒帯の環境に挑むのは無謀だ。
琉生
「夢生……力貸して」
夢生
「どうするビュン?」
琉生
「鈴先輩を引っ張り出す!」
それら様子を見ていた鈴は直後血の気が引いた。
夢生
「ビュビューン!!」
ほぼ無力化に成功していた筈のエアームド少女が叫び声を上げると、周囲の木々が無差別に切り倒されていく!
夢生のエアスラッシュだ、それが無差別にばらまかれていく。
鈴
「ちょ!? 当たったら流石にやばい!?」
鈴は慌ててエアスラッシュを避けた。
だがその動きを琉生は見逃さない!
琉生
「そこ!」
琉生は身体を屈めて突撃した。
鈴はギリードレスを迷彩のように用いて雪原に溶け込む。
遠くから見れば、恐らく気付けないレベルのステルス性だ。
だが、それは同時に接近戦を嫌がる証だ!
琉生
「完全無欠な訳がない! 私が接近戦しか出来ないように! 鈴先輩はこの距離が苦手!」
琉生は尻尾を振り上げた。
自身の身の丈程もある巨大な尻尾を鈴に叩きつける。
鈴
「キャア!?」
鈴は咄嗟に身を捻って回避したが、その威力は凄まじく厚く積もった雪を弾き飛ばした。
改めてこの子が不可能だと言われていたゲシュペンストγを撃破した子なのだと思い出させる。
鈴
「た、確かにねぇ! 接近戦は苦手よ! でも先輩を舐めないこと!」
琉生
「っ!」
琉生は鈴に隙を与えない。
すかさず密着距離に入ると、鈴は掌を琉生に差し向けた!
琉生の反応は早く、掌自体は琉生を捉えなかった……しかし!
ドォォン!
鈴の掌が爆発した。
その衝撃で二人は距離を離されてしまう。
鈴
「痛〜、リスク高いからこれやりたくないのよねぇ〜」
琉生
「く……一体何が?」
琉生は咄嗟にクロスガードで顔面を保護したが、衝撃でクラクラしている。
一方で鈴も差し出した腕をぶらぶらさせていた。
鈴
「秘技、種爆弾ゼロ距離撃ち!」
攻撃の正体は種爆弾だった。
炸裂性のある種を掌から精製して、それを投げつける技だが、鈴はそれを至近距離で炸裂させ、ダメージ覚悟で距離を引き離したのだ。
その代償は重く、鈴の右腕からは血が滴っている。
琉生
「先輩その怪我……」
鈴
「あはは〜♪ 琉生ちゃんは優しいなぁ〜♪ でも私にだって上級生の意地があるのっ!」
鈴は生き残った左腕から5枚葉っぱを精製する。
鈴
「私の葉っぱカッター、貴方に避けられる!?」
琉生は身構えた!
鈴は葉っぱを凍らせて殺傷力を上げる!
それは必殺の矢となって放たれた!
琉生
「うわぁぁぁぁ!」
琉生は1枚目を直接回避、2枚目を右腕でガード、右腕に激痛が走った。
3枚目は左腕でガード、こちらも激痛が走る。
まるで鋼鉄製のカッターのような鋭さをもつ鈴の葉っぱカッターは肉を容易に抉る。
4枚目は首に来た、当たれば死ぬ?
当然の死の感覚、それは琉生の主観時間を鈍らせた。
琉生
(強い……流石先輩、私じゃやっぱり届かないのかな?)
接近戦に挑めばきっと勝てると思っていた。
でも現実は予想以上に近づくことさえ難しい。
高い壁だ……所詮琉生は愚直に真っ正面から当たる猪でしかない。
だが、着実に迫る死の感覚に琉生は恐れを持たなかった。
ただ、オオタチさんが横にいる気がした。
オオタチさんはまるで訳ないと言う気配を放っている。
琉生
(そうか、オオタチさんなら……!)
その瞬間だった。
目を疑ったのは鈴だ。
突然琉生の身体は3体の残像になり、4枚目と5枚目をすり抜けた。
鈴
(突然なに!?)
今度は鈴が分からなかった。
葉っぱカッターの再装填が間に合わない。
咄嗟に種爆弾に切り替えようかとも考えたがそれも間に合いそうにない。
琉生は既に鈴の目の前にいたからだ。
琉生
「はぁぁぁ!」
琉生は渾身の体当たりを放った。
その衝撃は重く、鈴の身体をくの字に曲がらせた。
二人はそのまま、雪原に倒れた。
鈴
「や〜ら〜れ〜た〜……!」
鈴は立てなかった。
というか、立ちたくなかった。
この恐るべきリトルルーキーは、戦いの中で凄まじいレベルアップを果たしている。
このままでは命が幾つあっても足りないと感じたのだ。
琉生
「はぁ……はぁ……!」
一方で琉生も限界だった。
直前で思い付いた技は高速移動。
オオタチの得意技で、進化するときに必ず覚える技だそうだ。
ぶっつけ本番で、身体が悲鳴を上げる無茶をしてしまった。
彼女もまた立てず、この戦いは相打ちだった。
ポケモンヒロインガールズ
第12話 戦え! 対抗戦! 完
続く……。