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第二部 ポケモン少女群雄編
第11話 IoTテロ

第11話 IoTテロ



真希
 「全く……冗談じゃないわよ!」

ビルとビルの屋上を飛び交う色つきの風がいた。
アギルダーのPKM、藤原真希だ。
真希は苛立ちを募らせながら、ある目標を捜していた。

真希
 「見つけたわよ!」

真希の眼下には法的速度を超過する暴走車があった。
紅いスポーツタイプの高級車だ。
真希はすかさず水手裏剣を2枚精製した。

真希
 「当たれ!」

水手裏剣は空気を切り裂き、暴走車のタイヤを狙う。
クリーンヒット、水手裏剣は左側の前輪と後輪のタイヤに突き刺さり、弾け飛ぶ。
直後空気圧の変化に耐えられなくなったタイヤはパンクして、暴走車は大きく旋回する。

ガシャァァァン!

そのままコンクリートの壁に激突した暴走車はフロントから黒煙を出して静止した。

真希
 「……はぁ」


 『お疲れ様です藤原先輩』

真希は眼鏡のフレームから、骨震動でその声を受信した。
真希をバックアップしていたのは2年の霧島ミアだ。
ブロスターのソウルを宿すポケモン少女で、主にオペレーターを担当してもらっている。
まだ不慣れだが、良くやっていた。

真希
 「車を点検するまでは仕事は終わらないわよ、警察に現在位置も伝えて」

ミア
 『了解です先輩』

諜報部は主に情報集めがメインの業務だが、警察と連携して、このような仕事も熟していた。
総じて頭脳明晰でないと務まらない業務だが、時として腕っ節も求められる。

真希はビルから飛び降りると、車の前に着地した。
念のためアギルダーに変身した状態は維持している。
真希は遠目に運転席を覗き込むと。

真希
 「無人機か……」

ミア
 『今月で5件目ですね』

最近この街で、無人機の暴走が相次いでいた。
何れも対象はIoT機器を取り付けた物で、政府はこれをテロと断定。
昨今増え続けるサイバーテロは激しさを増していた。
調査部はこの一件の調査を命じられ、真希は走り回る羽目になったのだ。

やがて、警察のパトカーが現場にやってくる。
状況検分を終えた真希は、提出できる情報を警察に渡すと、その場を去った。



***



明日花
 「5件目だってよ〜」

学校では早速テロの話で持ちきりだった。
ソウルリンクスマートフォンは通常のスマートフォンとしても活用でき、昼休憩の間に明日花はニュースサイトから情報を仕入れていた。

夢生
 「テロって恐いの〜」

明日花
 「ゲシュペンストもいつ湧くか分かんねぇってのになぁ! 世も末だと思わない?」

琉生
 「……一般人にとってゲシュペンストは対岸の火事に過ぎない」

ポケモン少女はゲシュペンストに唯一対抗出来る存在だ。
琉生はあくまで対ゲシュペンストとして自分を捉えている。
一方で明日花と夢生は違う、二人はそこまでストイックには生きられない。

明日花
 「今は小規模だけどさ、やっぱいつかは災害になっちまうんじゃねぇか?」

アリア
 「……」

夢生
 「アーちゃん考え込んでいるビュン?」

アリアはこういう時一番聡明だ。
彼女は全く別ベクトルにこのテロを考察していた。

アリア
 「IoTテロは10年前から警鐘が鳴らされていました……そして今日ではいつその制御権を乗っ取られるか分からない時代です……それだけコントロールの制御ロックは強固の筈ですが」

特に大惨事になりかねない車なんて防護は強力、並大抵のハッキングでは制御できないはず。

明日花
 「IoT機器って今じゃ溢れかえってるもんな」

それは家電から車、スマートフォンだってそうだ。
技術の発展の裏にはリスクも付きまとう。
それを承知で人類は技術革新を進めていたのだ。

アリア
 「……明日花さん、貴方ならあの給湯器程度なら遠隔操作できるんじゃないですか?」

明日花
 「え〜、そんなのやった事ないぜ?」

夢生
 「それ、アーちゃんでも出来ない?」

アリア
 「ええ、出来ますよ、射程に限界はありますが」

アリアはゴチルゼルのソウルを宿すポケモン少女。
お得意のサイキックは物理的挙動を遠隔地で起こさせ、動かす事など容易だ。
だが射程には限界がある。
アリアだと精々20メートルが限界だろう。
一方で明日花は別だ。
無論IoTを使っている事が前提だが、スマホからハッキングすれば、地球の裏側どころか、月面のIoT機器すら制御出来るだろう。
電気タイプのポケモンである明日花ならば、そのような芸当も不可能ではないのかもしれない。

アリア
 (そう、可能性は0じゃない……でも本当にあり得るの?)

アリアは危惧している。
このテロはポケモン少女が起こした物ではないだろうか?
だが、全てのポケモン少女は人類の管理下にあるはずだ。
そのために各部署にPKM管理局が設置され、表向きは社会への奉仕活動、そして裏ではゲシュペンスト掃討に向けて戦っている。

しかしアリアはゴチルゼルのソウルを有する。
星読みポケモンのゴチルゼルは未来視を得意とする。
それは少なからずアリアに影響を与えているだろう……。



***



真希
 「あーもう! 次は絶対有給とってやる!」

ここ最近調査部の激務は続いている。
誰もがピリピリしているし、真希もストレス溜めっぱなしだ。
怒り顔で彼女はたこ焼きを口に投げ込む。

真希
 「熱っ!? あちちち!?」

ミア
 「お水どうぞ」

例によっての買い食い。
真希の趣味だが、歩きながら真希はペットボトルを受け取って水を流し込んだ。

真希
 「ありがと、死ぬかと思ったわ」

真希はペットボトルを返すと、その少女はニコリと微笑んだ。
霧島ミア、銀髪のウェーブがかかった美しい髪の少女で、白人の血を強く受け継いでいる。
身長は真希と比べると一回り小さく、150台だろうか。
ほっそりとしており、常に温和な笑みを崩さない。
しかしこんな儚げな少女でも一度ブロスターに変身すれば、強力な鋏を武器とするポケモン少女になるのだ。

真希
 「悪いわねミア、調査部ってきついでしょう?」

ミア
 「はい、体力のいる部署だと分かりました」

ミアはまだ正式には調査部ではない。
とはいえ2年生は本格的にどの部署に異動するかを考える時期だ。
3年になれば本格的のその部署で働くことになる。

真希
 「お陰で一番人気がないのもこの部署でね、まぁ適性持ちが少ないってのもあるんだけど」

人気が高いのは執務部、次いで教導部。
更に上に総括部があるが、これは卒業した後の昇進次第だ。
ゲシュペンスト戦を専門とする執務部は最も重要視されているから、教導部の教育も必然と執務部向きの生徒が育つ。
特に砂皿は執務部向きだろう。
真希はミアを調査部向きだと思っている。

真希
 「ミアの適性ならこっちが向いていると思うんだけどね」

ミア
 「でも私体力が……」

見た目通り体力のないミアだが、真希を基準にするのは異常だ。
真希はこれでも調査部きっての俊才だ。
調査部に必要な足もあり、いざというときの腕っ節もある。
なによりも必要な義務感と正義感を有しているのだ。

真希
 「はむっ、ハフハフ! ま、オペレーターならそれ程体力は要らないでしょ?」

たこ焼きを息で冷やしながら食べ、真希はミアの仕事っぷりを振り返る。
最初はミスも多かったが、今では卒なくオペレーターを熟している。

ミア
 「でもマルチタスクが要求されますし……」

真希
 「それが出来るのが才能よ、出来ないやつはいくら体力があっても無理よ」

オペレーターが楽かと言えばノーだ。
複数の調査員のサポートをしなければならないし、なにより寝る時間がない。
結局調査部で一番の問題は過労だ。

ミア
 「……! 先輩、事件発生です!」

真希
 「……昼ご飯を食べる暇もありゃしない!」

真希はたこ焼きを食べきると、ソウルスマホを取り出した。

真希
 「メイク、アップ!」

ソウルスマホが真希を認証すると、真希の姿はアギルダー少女へと変身した。
真希は調査部用に支給された、多機能眼鏡のレンズに表示された事件概要を確認する。
商業ビルで火災発生、とある。

真希
 「出火原因を調べろ、か。バックアップお願い!」

ミア
 「は、はい! お気を付けて!」

真希はそう言うと走り出した。
常人では到底追えないその足はこれでも、力をセーブしている状態だ。
現場は直ぐ近く、やがて真希は現場に辿り着いた。
8階建ての商業ビル、その5階から火が発生したという。

真希
 「ち……消防隊はまだか」

真希はアギルダー少女故に火に弱い。
とはいえ炎が全てを消し去る前に調査の必要がある。

きらら
 「速いわね」

真希
 「きらら、丁度良い手伝って!」

現場に現れたのは執行部の星野きららだ。
普段から世界中を飛び回る彼女だが、ここで出会えたのは幸運だろう。

きらら
 「良いけど、人命救助が優先」

真希
 「それで結構!」

真希は飛び上がった。
その跳躍は容易に5階の窓から侵入する。

真希
 (くっ!? 煙が充満して!)

真希は口元を布で覆った。
眼鏡のレンズには現場の情報が載っているが、逃げ遅れの数は不明とある。

真希
 (これもIoTテロか? 巫山戯て!)

真希は怒りを覚えた。
もしこれが同一のテロなら、犯人は殺人鬼だ。
必ず法の報いを受けさせやる!

きらら
 「炎は消す」

宙を浮き、安全な場所からバックアップするきららは、火と煙を結界に押しとどめる。
酸素を急速に消費して、火は鎮火された。
きららお得意の鎮火法だ。

真希
 「ちっ! 一人発見! きらら!」

真希はテナントで倒れ込む男性を発見すると、男性を担いだ。
急げばまだ間に合う!
真希は男性をきららに投げると、きららは優しく男性を結界で包み込み、地上に空間転移させた。

そのまま二人は火を消しながら生存者を捜した。
その10分後、消防車と救急車が現地に集まり、私達の活躍は終わった。



***



真希
 (出火原因は中華店の油が原因……テロとは無関係だったか)

真希は疲れた顔で、煤けたビルを見上げた。
救助を終えるときららは周りに感謝されながら、どこかへと消えた。
相変わらず神出鬼没な子ね。
私は調査資料を纏めると、ミアに連絡をする。

真希
 「ミア、もう本部にいる?」


 『はいはーい♪ お待ちしてました〜♪』

真希
 「っ!?」

その声はミアじゃなかった。
女の声だが、快活でミアとは全く違う。

真希
 「貴方誰かしら?」


 『あれ? もうバレた?』

真希
 (惚けたやつね……通信を乗っ取られた?)

通信は果たして正しくミアの元に届いているだろうか?
真希の眼鏡とてIoTを積んでいる、真っ先に浮かんだのは遠隔操作だ。


 『君、面白いからちょっと話して見たかったんだよね〜』

真希
 「私も少し気になっているわ」

真希はあくまで冷静に言葉を選んでいた。
正体不明の相手はテロの犯人である可能性があるからだ。


 『あはは〜♪ 面白いね♪ でも君に質問の権利はない』

真希
 「!?」

その直後だ、眼鏡が発熱しだす。
リチウムイオン電池が過負荷を与えられれば、優に1000度を越えることを知っていた。
真希は咄嗟に眼鏡を投げ捨てた。

ボン!

直後、眼鏡は炎を上げて爆発した。

真希
 「遠隔操作……!」

間違いないと、真希は確信した。
ここ最近のテロはさっきの声の主の仕業だ。

真希
 (だけど、どうやってポケモン管理局の使っている電波帯を特定した?)

当然ながら、極秘組織とも言える調査部の支給品をハッキングするのは容易ではない。
そのような物を突破できる犯人は相当の凄腕だろう。
だが、目的は?
愉快犯が真希にまでちょっかいを出すだろうか?
この違和感不安はなんなのか、真希は兎に角頭を振った。

真希
 (だめ……答えを焦るな)

真希は熱くなる癖があり、少しでも熱くなると直ぐにクールダウンするためのマインドセットを行う。
調査員にはクレバーさが求められる。

真希
 「……にしても、いくら便利だからって、なんでもインターネットに繋ぐのも問題ね」

念のために爆発した眼鏡の残骸も回収する。
もしかしたら通信履歴から犯人を特定できるかもしれない。
そのような証拠が残っていればだが。


 「真希ちゃん? どうしたんです!? 顔が煤けていますし、眼鏡も……」

真希
 「愛……」

遅れてやってきた愛は直ぐに真希に駆け寄った。
心配そうにハンカチを取り出すと、真希の顔をから煤を取り除く。


 「真希ちゃん、ちゃんとお休み取れてますか? 頑張りすぎじゃないですか?」

愛は本当に優しい子だ。
だからこそ真希は彼女を不安にしてはいけないと思う。

真希
 「大丈夫よ、今度連休とるから」


 「もう〜! そう言って、休み取った事あります!?」

真希
 「はは、今度は本当よ」


 「真希ちゃんは一人、替えなんていないんですからね?」

愛は不安だった。
真希は特に頑張り屋だから、無理をしていないか。
ここ最近調査部が忙しい事も知っている。

真希
 「あ〜、うん……それは、分かってるわよ」

そのまま二人は夕焼け空の中、歩く。
真希は早く調査部当局に行かないといけないが、少しだけこの時間を大切にしていた。
やがて、真希を迎えに来た影が前方から見えた。

ミア
 「藤原先輩〜!」

ミアであった。
ミアは息を切らしながら真希の元まで辿り着くと、息を切らしていた。

ミア
 「はぁ、はぁ! 連絡が取れなくなったから心配しましたよ!?」

真希
 「御免御免、眼鏡がぶっ壊れてね?」

そう言って残骸を見せる。
眼鏡自体は伊達だ。
真希は両目とも健常である。

ミア
 「まぁ! あの愛ちゃん先輩、後は私が引き継ぎますから!」


 「はい、真希ちゃんのこと、お願いしますね〜♪」

ミアは大切そうに真希の腕を掴むと、愛は和やかに離れた。
そのまま別れようかという時、思い出したように愛は振り返った。


 「ミアちゃ〜ん! 来週宜しくお願いしますね〜!」

ミア
 「あ、はい!」

真希
 「来週? 何の事?」

ミア
 「それはですね……」



***



琉生
 「1年2年合同演習訓練……」

琉生は今日渡されたプリントから、その言葉を呟いた。
それは1年生達にとって初めての体験だ。
2年生と合同で、演習訓練を行う。
場所はB地区にある訓練施設。
都市戦を想定したかなり本格的な訓練になるらしい。

明日花
 「へ、燃えてきたぜ!」

アリア
 「本格的に試されますわね」

夢生
 「ちょっと恐いビュン〜」

2年生とは殆ど交流がない。
それ故に相手の情報は殆ど無いのと同じだ。
果たして2年生についていけるのか?
しかし、琉生は拳握った。
試したい……そして確かめたい!

琉生
 (オオタチさん、私達ってどこまで頑張れるんでしょう? 私はそれが知りたい!)



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第11話 IoTテロ


KaZuKiNa ( 2019/08/16(金) 17:04 )