ポケモンヒロインガールズ





小説トップ
第二部 ポケモン少女群雄編
第10話 ポケモンバトル、明日花の挑戦

第10話 ポケモンバトル、明日花の挑戦



明日花
 「記念すべき10話だぜ、ヒャッホイ!」

夢生
 「と言っても第2部では2話目だから中途半端ビュン!」

アリア
 「て言うか、この導入必要なのでしょうか?」

琉生
 「え? これを読め?」

そう言って見せられたカンニングシートにあったのは。

全員
 「「「ポケモンヒロインガールズ、始まるよー!」」」



***



そこは学区内B地区、様々な複合レジャー施設の並ぶ、特殊な開発地区。
そこにポケモンバトル開催場所がある。
今や全国でも放送されるに至ったポケモンバトルは、かつての格闘技ブームを凌駕しつつある。
人間を遥かに凌駕したポケモン少女たちのバトル、それは人々に新たな熱狂を与える。

明日花
 「……」

今、ポケモンバトルに新たに挑戦しようとする少女は、控え室で瞑想をしていた。
憧れの闘子先輩と同じ舞台に立つ夢は、いよいよ明日花を前へと進ませる。

ガチャリ。

控え室の扉が開かれると、現れたのはラフなTシャツ姿の闘子であった。
今回、闘子は明日花のセコンドを務める。

闘子
 「時間だ、明日花」

明日花
 「……」

闘子
 「緊張してるのか?」

明日花
 「……してないって言ったら、嘘になります」

当たり前だ、戦う相手はポケモン少女。
訓練では何度か戦った事はあるが、それは訓練でこれは試合なのだ。
まして闘子の前で無様は見せられない。
闘子はそんな明日花を見て、そっと肩に手を置いた。
明日花は顔を上げると。

闘子
 「お前はオレが仕込んだんだぜ? 少しは信頼してくれよ?」

明日花
 「闘子先輩……」

闘子
 「さぁ立て、そして戦え!」

明日花
 「……うす! いきます!」

闘子の激励は不器用だが真っ直ぐと明日花に響いた。
明日花はそれに応えて立ち上がると、闘子と一緒にバトルフィールドに向かう。
通路は薄暗く、歩く度にカツン、カツンと足音が明日花の耳に残った。
心臓の音が聞こえてきそうなほど、明日花は精神を高揚させ、最後の扉を開く。

ビュオオオオ!

明日花
 「っ!?」

それは砂嵐だった。
人工的に産み出された竜巻と嵐のフィールドに明日花は入ると、目の前に一人の少女が見えたが、シルエットがボケて分からない。

闘子
 「変身だ」

明日花
 「変・身!」

明日花は変身するとゴローニャ少女に変身した。
ゴローニャになると、不思議と砂嵐は気にならなかった。
寧ろ相性が良い? ゆっくりと歩を歩むと大きな声が会場に響いた。

実況
 『さぁ! 今宵もポケモンバトルの時間がやって参りました! 今回はなんと両者デビュー戦! それでは本日のカードを紹介しましょう!』

明日花
 (すげ……ナマ実況だ……!)

テレビで聞いた声、それが何処からか明日花を俯瞰しているのだろう。
闘子は既に安全圏まで下がり、極度の視界の悪さに中、声だけが響き渡る。

実況
 『まずは関東支部所属ゴローニャ少女! 対するは九州支部所属のリザードン少女! 互いこの場においての実戦経験はなし! ファンをガッカリさせるなよ!?』

明日花
 (リザードン?)

明日花は目を凝らすが、何やら火が揺らめいた。
炎タイプのポケモンか、少ない知識で相手の情報を探る。

実況
 『今宵ルールはリアルファイト! フィールドにある全ての物、全ての技が使用可能になる最も危険なルール! それでは試合開始です!』

カァァァァン!

試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。

明日花
 「せぇの!」

明日花は手始めに足下に転がった石を拾うと、リザードン少女に投げつける。
石は砂嵐を突き抜け、シルエットに霞むリザードン少女を襲う……だが!
リザードン少女が直後、砂嵐の中に消えた!

明日花
 (うそ!? どこに消えた!?)

全く想定外だ。
バトルフィールドは公正を期すため、事前には告知されない。
明日花は白兵戦を望んでいたが、現実は手探りで相手を捜すことに。

ゴォオォォォ!!

明日花
 「なに!?」

突然、目の前に炎が旋風に巻き上げられ、広範囲を焼く渦を生み出した!
明日花は為す術なくその渦に飲み込まれる!

実況
 『炎の渦が決まったぁぁ! ゴローニャ少女動けない!』

明日花
 「……く」

大丈夫、私は岩タイプのお陰か、この程度では倒れない。
とはいえ、何処から攻撃してきた?
明日花はまだ冷静だった。

だが、急ぐ必要はないと言うように、更に炎は明日花を襲う。
今度は火炎放射、明日花は顔面を咄嗟に守って、横に転がる。

明日花
 「くそ!?」

実況
 『ゴローニャ少女手も足も出ない! これはリザードン少女の圧勝か!?』

明日花
 (馬鹿言えっての! ここまではサービス!)

と、強がるがあくまでこれは闘子のリスペクトだ。
闘子は基本相手の攻撃を受けてから反撃する。
最も過酷なルールで、それこそ人知を越えたポケモン少女の戦いで絶対王者に君臨する闘子ならきっと笑うはずだ。
だから明日花も笑った。

実況
 「ゴローニャ少女笑っている! まるで通じてないのか!?」

それを安全圏から見ていた闘子は頷いた。

闘子
 (それでいい……相手の精神に圧を掛けろ、不利である顔をするな)

それは闘子の戦闘哲学だ。
どれだけピンチでも不敵に笑い、そして逆転ファイトを可能にする。
明日花はきっと闘子に応えるだろう。

リザードン少女
 「くっ!? やぁぁぁぁ!」

明日花
 「上か!」

炎の渦も火炎放射も明日花に有効打は与えられていない事もあるが、不敵に笑った事はデカい。
その結果、より大きなダメージを与えるためにリザードン少女は明日花に接近戦を挑んでしまう!
それこそが明日花の望みだと言うのに!

リザードン少女
 「たぁ!」

リザードン少女のドラゴンクロー。
明日花の岩の装甲を切り裂くが、大したダメージにはならない。
それよりも明日花が選んだ選択肢は兎に角一撃をぶち込む事だった。

明日花
 「この距離じゃ避けられねぇだろ!?」

明日花の放電、それは周囲に瞬く間に伝播する。
それは至近距離ほど危険だ。
そして超至近距離にいたリザードン少女は爆心地にいる!

リザードン少女
 「きゃぁぁぁぁ!?」

少女は悲鳴を上げ、吹っ飛びながらフィールドに倒れた。

明日花
 「あれ? 一撃?」

実況
 『決まったー! 効果は抜群だー! リザードン少女ノックアウト!!』

よく見るとリザードン少女、翼がある。
夢生に近い鳥ポケモンなのだろうか、お陰で視界から見失ってしまったが、電気が苦手だったようだ。
本人自身気付いていないが、相性はもとより天候においても有利な戦いであった。

カンカンカーン!

試合終了だ、リザードン少女のセコンドが駆け寄ると、リザードン少女は回収されていく。
同時に闘子先輩もやってきた。

闘子
 「デビュー戦、どうだった?」

明日花
 「その……よく分かりませんでした!」

それは明日花が求めていた高揚感とは異なっていた。
闘子が身を置く命を削り合うこの舞台は、あまりにも異質で、陸上部で感じた喜びとは明らかに異なるのだ。

闘子
 「分からないか、ま……明日には実感してるさ」

闘子はそう言うとタオルを明日花に投げた。
明日花はそれを受け取ると、フィールドを出る。
汗を拭きながら、変身を解くと明日花は今日の出来を聞いた。

明日花
 「それで……アタシ上手くやれました?」

闘子
 「そうだな……上出来だろう」


 「ふん、その子が噂の1年生?」

明日花
 「え?」

突然二人の前に現れたのは同じ学園の制服を着た少女だった。
その少女に心当たりはなかったが、明日花はピンときた。
リアルファイト部門で現在ランキング2位のサンドパン娘……。

闘子
 「なんだ見学か、砂皿」

その少女は砂皿由紀だ。
学園の2年生で、明日花にとっては先輩にあたる。
由紀は闘子を見ると鼻を鳴らした。

由紀
 「ふん! その子が貴方の愛弟子?」

闘子
 「何が言いたい?」

由紀
 「私の目標はアンタを倒すこと! その子にかまけて足下掬われるんじゃないわよ!?」

由紀はそう言うと背中を見せた。
まるで明日花なんて眼中になく、ただ闘子に闘争心を燃やす。
由紀はそれだけ言って会場を去った。
明日花は少しだけ不安そうな顔で闘子を見た。

闘子
 「砂皿はオレの担当する生徒なんだ……アイツはオレを目指して強くなった、だから明日花に嫉妬しているんだろう」

明日花
 「あ、アタシに?」

闘子と由紀の事情は知らない。
だが由紀に刺々しい空気は感じていた。
それが自分にも向けられているのか、明日花は戸惑った。

闘子
 「明日花、お前はゲシュペンストγ相手にも戦ってみせた、それは誇っていい……実戦は最もポケモン少女を強くする!」

明日花
 「闘子先輩……でも、アタシ」

明日花は自分に自信がないのだ。
γと戦ったと言っても、琉生のようにはいかない。
きっと今γが現れても、自分は震えているだろう。

闘子
 「お前は謙虚が美徳だな、決して砂皿にも劣らない実力があるだろうに」

明日花
 「そんなアタシなんて!?」

由紀は明日花よりずっと上のランカーだ。
きっと自分のような無様は見せないだろう。
それとも過大評価しているのだろうか?

闘子
 「ハッハッハ! まぁいい、それより腹減ってるだろ? 今日は奢ってやる!」


 「そーのーまーえーに! 明日花ちゃん、メディカルチェックに行きますよ!?」

突然、会場の入り口前で遭遇したのは愛だった。
愛は明日花の手を引っ張った。
その顔に涙を溜め込んで。


 「もう、心配していたんですからね!?」

明日花
 「あ、愛ちゃん先輩、泣いてます?」


 「な、泣いていません! もう怪我しないか心配で心配で!」

闘子
 「過保護だねぇ〜」


 「もう〜! 闘子ちゃんももう少し心配してあげてください! プンプン!」

愛は勿論明日花の試合を見ていた。
結果的に大したダメージを受けていないが、それでも愛には心臓発作でも起きそうな程心配していた。
そのまま、愛は明日花の手をギュッと握ったまま、病院まで直行するのだった。



***



会場を出ると明日花たち、それを暗闇から見ていたのはサングラスを掛けた女性だ。
夜間だというのに、その目線は明日花をじっと見ており、やがて闘子に移っていた。


 『剛力闘子は厄介だね』

その声は周りには届かない。
髪に隠れて耳元に装備したインカムから女の声が届く。

女性
 「……ふふ」

女性はそう微笑を浮かべ踵を返した。
そしてそのまま人混みの中の消えていく。



***



琉生
 「……ふぅ」

明日花の試合をまた心配していたのは愛だけではなかった。
琉生たちもまた寮で談話室のテレビの前に集まり、同僚の心配をしていた。

夢生
 「あすちん、勝てたビュン♪」

アリア
 「少し危ない場面もありましたけどね」

明日花の活躍はテレビ越しにではあったが、琉生には充分刺激的だった。

琉生
 (明日花、前より着実に強くなっている……!)

明日花は元々優しいというか、臆病さの目立つ子だった。
4人の中でも一番ゲシュペンストとの戦いに順応するのが遅く、イマイチ実力を発揮できない事も多かった。
でも今の明日花は違う、フィジカルもメンタルも大きく成長している!

琉生
 「私も頑張らないと……!」

アリア
 「あら、琉生さん燃えてます?」

夢生
 「珍しい〜」

自分に熱血が似合わないのは琉生自身自覚している。
とはいえ、γに特攻するなど、根っから冷静なタイプではない。
物静かな少女だが、それに似合わぬ闘志があるのだろう。

琉生
 「皆も強くなったのよね?」

アリア
 「はい、と言っても琉生さんに追いつくほどかは分かりませんが」

琉生自身も、γ戦の時の力を出せるかは分からない。
他のポケモン少女よりもソウルとのシンクロ率の高い琉生はそのお陰で、高いパフォーマンスを発揮できた物の、基礎的なレベルはそれ程皆と変わらないだろう。
スーパールーキー等と噂されているが、琉生自身は分不相応だと思っている。

琉生
 (またγが現れるかもしれない……そのためにも更に強くならないと……!)

琉生は立ち上がった。
今からでも出来る訓練をしたいのだ。
オオタチ少女は肉弾戦がメインだから、フィジカルの強化は特に重要だ。
部屋に戻って、自己鍛錬を行おう。

その言葉にはない琉生のやる気を見た同僚たちは口走る。

夢生
 「るーちゃんって、結構熱血系だよね〜」

アリア
 「努力友情勝利なのでしょう」

琉生の真面目さは筋金入りだ。
それが悪い方向に行っちゃうこともままある訳だが、頼もしくもある。
夢生は元から臆病者でゲシュペンストとの戦いはいつもやけっぱちに悲鳴を上げて戦っていた。
琉生が引っ張ってくれなければ、逃げ出していたかもしれない。
正直メンタルを変えるのは難しく、好き嫌いの激しい夢生は不安も多いが、それでも琉生を見て何かを変えようと頑張った。
アリアは冷静な分析は出来るが、その分フィジカルがとても弱かった。
前衛ではなく、あくまで後衛だが、イマイチ皆をまとめ上げれていない。
アリアはそう言った様々な課題にも果敢に挑み、改善していっている。

明日花もそうだが、はっきり言って琉生の周りは異常であった。
1年生で琉生ほどの戦果を上げた者は稀、そしてγを撃破できた者は存在しない。
それに引っ張られるように強くなっていく1年生たちは、すでに他の支部の1年生を大きく越えつつあった。

夢生
 「アーちゃん、むー達強くなってるの?」

アリア
 「大丈夫ですよ、明日花さんだって、あんなに頑張ったのですから」

リアルファイトでは、あの明日花が、あそこまで冷静でいられたのは驚きであった。
放電の威力も更に上がっていたし、確実に一歩を実感できる。

夢生
 「夢生、戦うより災害救助とかの方が向いてるビュン……」

アリア
 「誰もが琉生さんや明日花さんのようなポケモン少女を目指すわけではありませんよ?」

愛だって、戦えない訳ではない。
才能も調査部で通用する程だが、彼女はあくまで教導部を選び、1年生を見守りながら、時に災害発生時に出動する。
夢生は適性的には教導部向きかもしれない。

アリア
 「私も部屋に戻りますわ」

そう言ってアリアも自室に戻る。
自室は寮という事もあり、物はそれほど置かれていない。
アリアお気に入りのエロ本も厳重に隠されており、一見すれば地味な部屋と言える。

アリア
 (私もいつまでも皆さんに甘えられる訳じゃないですからね……!)

アリアは小さな鉄アレイを手にすると、それを使ってフィジカルトレーニングを行う。
前衛では人間時とまるで性能の変わらないゴチルゼル娘は足手まといと言える。
正直トレーニングをどれだけやったところで、琉生のような性能が得られる訳ではないが、それでも万が一接近戦を強要される事態があれば、必要なのは肉体の強さなのだ。

アリア
 「ふ、ふ、ふ!」

アリアの訓練も熱が入った。
マッチョを目指す訳ではないが、アリアはコツコツと計画を立てて、邁進していく。



***



琉生
 (オオタチさん……私、上手くやれてるかな?)

琉生もまた自室で訓練を始めていた。
こちらは機材のような物はなく、あくまでも腕立て伏せや腹筋、スクワットがメインだ。
効果は地味かも知れないが、続ければ琉生には大きいだろう。
そして訓練をしながら、琉生はソウルとのリンクを強める。
ポケモンとしては派手な技を持たない琉生は、ポケモン少女としては弱いと考えている。
それを補うには、オオタチと力を合わせるしかない。

琉生
 (……そう簡単にはリンクしないか)

オオタチの声は最後まで琉生には届かなかった。
琉生自身γ戦から1ヶ月間オオタチとはリンクできていない。
γに勝利したことで、オオタチも満足したのか、ソウルが表出することは無くなった。

琉生
 (私自身が強くなるしか……ないのか)



ポケモンヒロインガールズ

第10話 ポケモンバトル、明日花の挑戦 完

続く……。


KaZuKiNa ( 2019/08/12(月) 10:54 )