ポケモンヒロインガールズ





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第二部 ポケモン少女群雄編
第9話 新登場! アイドル系ポケモン少女鈴!

第9話 新登場! アイドル系ポケモン少女鈴!



ゲシュペンストγが撃破されてから1ヶ月。
その最大の功労者である姫野琉生は、γ戦のダメージで入院していた所、ようやく退院の日を迎えていた。


 「退院おめでとー☆」

琉生
 「ん……」

学園区内には専門の病院もあり、琉生にとっては快適な入院生活が過ごせたことだろう。
幸いあれから1ヶ月、γの再出現は確認されていない。


 「全く、1年生の癖して1ヶ月の入院なんて、肝が据わった子だったよ!」


 「あ、瀬川先生、琉生ちゃんがお世話になりました〜♪」

この人は瀬川弓子(せがわゆみこ)先生、琉生の治療を担当した先生だ。
愛はこの先輩にも親しげだが、瀬川先生自体は普通の人間だ。
改めてこういう人物と関わることで、多くの人間がポケモン少女と関わっている事が理解できる。
しかしそれも当然だ、未だこの世界には圧倒的にポケモン少女が不足している。
彼女のような一般の人間も大多数が関わっているのは必然なのだ。

琉生
 「みんなは?」


 「皆さん用事がありますので〜」

弓子
 「ああ、そう言えば、アレって今日だっけ」


 「ええ、それで人員を取られて……」

琉生
 「アレ?」

この人達は何を話しているのだろうか?
少なくとも現場を1ヶ月離れた琉生には分からない。



***



H区はポケモン少女たちが通う学園から駅を使って3駅ほどの所にある。
歓楽街でもあり、人通りの多さは全区内でも有数だろう。
そんな街の一画に1年生たちの姿はあった。

明日花
 「設営終わったすよ〜」


 「お疲れ1年生〜♪」

妙に可愛らしい声で、汗を流す明日花に冷えたペットボトルを差し出したのは、明日花が溜息を放つほどの可愛い女性だった。
髪はよく整えられた茶髪で、制服越しではあるが、スタイルはやや抑えめで、背もアリアほどある訳ではない。
だがそのオーラは間違いなく、並の人間じゃない事を物語る。
そう、それもそのはず……その女性は数年前までアイドルだったのだ。
女性の名前は吉野鈴(よしのりん)、ポケモン少女学園2年生なのだ。

夢生
 「2年前位までテレビでよく見てたビュン〜」


 「まぁ適性検査受かっちゃったら仕方ないよね〜」

鈴はいわゆる子供アイドルだった。
それこそテレビにも連日登場するほどの人気もあり、ポケモン少女適性検査が合格したことはファンを嘆かせたという。
しかしそんな彼女もそれを悔いている様子はない。
今でも女子が見とれるほどの愛らしさを誇るが、本人の顔はしっかり先輩の顔をしていた。

アリア
 「それにしても握手会ですか」


 「ふふ、ポケモン少女になってもファンは大切にしないとね♪」

これはいわゆるポケモン少女たちの福祉活動の一環だと言える。
まして元アイドルである鈴ほどになれば、これらの活動も影響はでかい。


 「応援に来ましたよ〜♪」

明日花
 「おっ、学園の真のアイドル登場」

握手会の会場に現れたのは愛と琉生だった。
琉生はその設営風景を見て、ポカンとする。

琉生
 「なにこれ?」


 「あ、君が噂のリトルルーキー?」

琉生
 「えっ?」

琉生は突然目の前に現れた美人に戸惑った。
基本見知らぬ人間には奥手になってしまう琉生に鈴は微笑む。
いかにも小動物的で嗜虐心を刺激してしまったのだろうか。


 「や〜ん♪ 可愛い〜♪」

そう言って鈴は琉生に抱きついた。
琉生は困ったように顔を真っ赤にして慌てふためいた。
病み上がりの琉生には過激な歓迎だ。


 「こらこら〜、まずはちゃんと自己紹介ですよ〜?」


 「あ、いけない! 私は吉野鈴! 2年生よ、リトルガール♪」

琉生
 「私そんなに幼くない……」

明日花
 「そうだよなぁ、星野先輩とか、愛ちゃん先輩の方がよっぽどロリだよな〜」

それを聞くと愛先輩は露骨に頬を膨らませた。


 「失礼な! 私はロリじゃありませーん! 皆さんが大きいだけです! プンプン!」

夢生
 「まぁまぁ〜、そのうち成長するよ〜」

アリア
 「夢生が言っても説得力ありませんわね〜」

なんだか賑やかさが増した。
琉生はこの懐かしい喧しさに微笑んだ。
1ヶ月離れたけど、やっと帰ってきたんだ、と。

琉生
 「皆、心配掛けたね」

明日花
 「なに! 良いってことよ!」

アリア
 「そうですわ、それにアレから私達だって強くなったんですよ」

夢生
 「あう〜、あの鬼特訓は忘れられないビュン〜」

そう言って頭を抱えながら夢生が思い出したのは剛力闘子先輩の訓練メニューであった。
γ出現に伴い、ポケモン少女の能力底上げが提案され、その一環で、各員個別のトレーニングを受ける事になったのだ。
闘子に心酔する明日花は勿論ノリノリ、アリアも淡々と熟していたが、普段から頑張るや努力と無縁の夢生は正に地獄であった。


 「あはは……二年生も結構スパルタだったからね」

琉生
 「それにしても二年生は初めてです」


 「あーうん、そこはまぁ大人の都合と言うか、メタ的な?」

1年と2年は校舎が異なる。
それ故にこれまで出会うことはなかった。


 「あ、そろそろ時間じゃないですか?」


 「あ、そうですね! それじゃスタッフさん、現場入りま−す!」

鈴はそう言うと机に向かった。
それを待ちに待っていたのは100人を越えるファンたちだ。
生粋のファンにとって彼女はポケモン少女になっても神格化されたものだ。
1年生たち(琉生除く)はスタッフとしてファンの誘導と列の整理を行った。
明日花辺りは「これもポケモン少女がやることなのか〜?」等と愚痴っていたが、鈴はどのファンがきても、しっかり笑顔を崩さず握手を繰り返していた。
改めて、元とはいえプロのアイドルだったんだな、実感する。
列は中々なくならず、握手会は2時間にも上った。



***



明日花
 「終わったぁ〜……」


 「皆お疲れー! あ、スポーツドリンク用意しているから、皆必ず摂取してね!?」

時期は夏、屋外で行われた握手会は正に熱気地獄であったろう。
さしもの明日花でもヘトヘトであり、1年生たちは皆辛そうだった。
一方慣れているのか鈴はへっちゃらであり、あれだけ作り笑いをしていたのにまだ笑顔が出来るのかと感じられるほど元気だ。


 「ま、夏コミに比べたら天国だからね〜」

アリア
 「そうですね、アレに比べれば……はっ!?」

夢生
 「アリアちゃん、夏コミ知ってるビュン?」

アリア
 「ほ、ほら! 毎年報道もしてますし、インターネットなんかでも調べれば直ぐでしょ!?」

アリアの焦りようは異様だが、幸いなことにそれを不審がる者はいない。
まさか夏コミに徹夜で並んだ経験があるなど誰に言えるだろうか。
しかし鈴は違った。
目敏く口元を手で隠し、アリアの背中から近づくと呟く。


 「東堂さ〜ん、あなた良い趣味してる♪」

アリア
 「ひぅっ!?」

この先輩、まさか同類か?
アリアはこの空気に戦慄する。
駄目だ、飲まれればこれまでの性癖を隠せない。


 「ふふふ〜、ドリンク好きなのとってね〜♪」

鈴はそう言ってクーラーボックスを開くと、中には色とりどりのスポーツドリンクが揃っていた。

明日花
 「お〜、揃え良いっすね〜」

琉生
 「見たことないのもある……」


 「ふふ、スタッフの面倒まで見るのがアイドルですから〜♪」

アリア
 (それってもうプロデューサーじゃ……)

アリアは心の中で突っ込むが、やぶ蛇を突くのは嫌なので、それは心の中にとどめた。


 「皆、好きなの取っていって!」

明日花
 「じゃあたしはポクリエスエットで」

夢生
 「むうはねっちゃんにするビュン〜」

アリア
 「ではアクエリアで」

1年生はそれぞれ好きに取っていく。
しかし琉生はそれを取ろうとしないので、鈴は琉生に言った。


 「立っているだけでも熱射病リスクあるから、飲んだ方がいいよ?」

琉生
 「でも」


 「いただきましょう、入院生活で体力も落ちているでしょうし、まだ安静ですからね」

愛に言われると遠慮気味の琉生も流石に折れた。
ペットボトルの一つを手に取ると、深々と頭を下げた。

琉生
 「ありがとうございます」


 「ふ〜ん、噂のルーキーは礼儀正しいのねぇ」

琉生
 「あの、噂噂って……」

そろそろ気になっていたが、どうして2年生の話題になっているんだろう?
それがまず琉生には分からなかった。
しかし2年生からすれば、3年生でも討伐できなかったγを討伐したのは驚きを越えて衝撃なのだ。
それがどんな1年生なのかと思えば、線の細い美少女なのだ。
勿論ポケモン少女に見た目はあまり当てはまらない。
最たる例として2年を担当する、闘子は特に見た目の変化が激しい。


 「由紀なんて、一方的にライバル視してたし〜」

琉生
 「誰?」

由紀、砂皿由紀(すなざらゆき)は2年のサンドパン少女だ。
かつてリアルバトルで剛力闘子に挑んだ少女を覚えている者はいるだろうか?
無論興行バトルにおいて、ポケモン少女の氏名は開示されないので、下級生といえど知ることは殆どないのだが。
事実、マニアの明日花でさえピンと来た風ではない。


 「もう〜名前で言っても1年生は分かりませんよ〜」


 「あ、それもそうか! まぁそのうち縁もあるよ!」

琉生
 (縁……)

琉生はふと、2年生の実力が気になった。
3年生の強さは知っている。
自分たちが束でかかっても勝てる気がしない人達だ。
でも2年生ならどうなんだろうか?

そんな時だ……それは目の前に顕現した。

ゲシュペンストα
 「……」


それはαだった、だが一匹?
不自然だが、一匹とはいえゲシュペンスト。
皆はソウルリンクスマートフォンを取り出した。

だが、それを制したのは鈴だ。


 「先輩の力見せてあげるわ」

鈴はそう言うとソウルリンクスマートフォンを翳した。


 「レッツ♪ メイク・アップ♪」

そう言うと鈴の身体は光に包まれる。
それは俗言えばギリースーツだろうか?
まるで全身は雪の積もった樹木のようで、しかしやぼったさはない。
本人のアイドル性と融合したドレス姿であった。
そう、それはユキノオー少女の姿である。


 「ユキノオー少女にお任せあれ♪ 葉っぱカッター!」

それは鈴の手から発射された凍った葉っぱであった。
それを三枚同時、しかも一点に収束さている。
それだけでも1年生には驚くべき技だが、更に凍った葉っぱは一撃でαを貫通し、葉っぱは地面に突き刺さった。


 「ふふん! 所詮αね♪」

鈴は己の技量を見せれてご満悦だ。
だが一方で愛とアリアは不審がる。

アリア
 (何故一匹だけで出てきた?)


 (そのような出現パターンは報告されていませんが……一体?)

ゲシュペンストαが一体だけ、その後増援もなかった。
今までにはない行動パターンに、違和感があるが、それに解を出せる者はいない。
いつだって対ゲシュペンストは後手に回っているのだから。

夢生
 「リンリン、凄いビュン!」


 「ふふ〜ん♪ 当然よ、チェキ♪」

そう言ってポーズを決める鈴。
鈴の高い実力は琉生にも分かった。
それと同時に琉生は拳を固める。

琉生
 (これが二年生……技の威力も精度も私達とはまるで違う……!)

琉生たちの技はまだまだ雑だった。
しかし極めれば、一つの技もより強力な必殺技になる。
琉生はより技を強くすることを決意する。
今はγの硬い装甲にダメージを与えられない。
γに勝つためには技の威力、精度を極限まで極めるしかない。


 「考えても仕方ありませんか、とりあえず諜報部にも情報を渡しておきましょう」

明日花
 「案外、琉生の復活祝いだったり!」

琉生
 「まさか」

と、否定するがゲシュペンストに関しては謎が多く、完全には否定できない。
少なくともゲシュペンストが動物以上の知能を持っているのは確実で、もしかすれば彼らは知的生命体と言えるのではないかと言われてもいる。
事実、まだ見ぬタイプΔが仮定されている現在では、まだまだゲシュペンストは分かってない。


 「スーパールーキーの噂の強さって言うのもちょっと知りたかったかなぁ〜?」

琉生
 「あ、私なんて先輩に比べたら……」


 「あーん♪ やっぱり可愛い〜♪」

琉生の遠慮する姿、どこか儚げで守ってあげたいオーラでも出ているのか、鈴にはドストライクだったらしい。
早速抱きつく鈴に、琉生は初めてのドキドキに戸惑うのだった。


 「姫野ちゃん、私の事鈴でいいわ、その変わりこっちも名前で呼んでいい?」

琉生
 「え、えと……その」


 「はい、決定ー! それじゃ琉生ちゃん、宜しくね!」

琉生
 「は……えっ!?」


 「鈴ちゃんは思い切りが良すぎるんですよね〜……」

鈴は一度決めたら行動が速い。
それこそ周りの声が聞こえなくなるほどだが、同時に一方的になる悪い部分がある。
琉生はやたらと熱いスキンシップをしてくるこの先輩に、顔では困った様子を見せるが、それは嫌いという意味ではない。
新しい先輩の個性がまたそれだけ特徴的だっただけ。
と、少しズレた感覚で鈴を許容する琉生も、少し感性のおかしい子かもしれない。

琉生
 「あの、鈴先輩……これからもよろしくお願いします」


 「うん! よろしく!」



***



鈴の活躍から離れた場所、ある一人の少女はまず鈴を見た。
サングラスを掛けて、目線を隠し、一件では観光客か何かだがその視線は何か違う。
女性は次に愛を見た、そして最後に琉生を見た。

女性
 「……あれが噂のスーパールーキー……ね」

女性の口元は僅かだが微笑んだように思えた。


 『おーい、もうそれ位で良いだろう?』

その声は、周りには誰にも聞こえない。
女性の耳に、髪の毛で隠されたそこにインカムがある。
それは明らかに一般人の装備品ではない。
では彼女は何ものか。


 『雑魚見ても仕方ないだろ』

女性
 「ふふ、了解……次は藤原真希ね」

それは新風なのか……。
敵なのか、味方なのか。
琉生の復活祝い、二年生の登場……。
今第二幕が幕を開けようとしている……!



ポケモンヒロインガールズ

第9話 新登場! アイドル系ポケモン少女鈴! 完

続く……。

KaZuKiNa ( 2019/08/10(土) 11:02 )