ポケモンヒロインガールズ





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第6話 ポケモン少女たちの日常

第6話 ポケモン少女たちの日常



琉生達がポケモン少女のための学校に通うようになって1ヶ月余りが過ぎようとしていた。
既にポケモン少女の身体にも慣れて、琉生と夢生はコンビで街のパトロールをしていた。

むう
 「今日も平和だね〜」

るい
 「うん……でもいつ何が起きるか分からない」

街は平穏そのものだ。
基本的にはポケモン少女がパトロールしている事もあるが、特にこの辺りは治安が良い。
愛曰くまだ危険が予想されるエリアは任せられません! との事で、琉生達はこうしてのんびり見回っているのだ。

むう
 「あ、ねぇねぇ! タイヤキ食べようよ!」

るい
 「駄目、パトロール中よ」

夢生が見つけたのはキャンピングカーで売っているタイヤキ屋だった。
甘い物に目がない夢生が目敏く見つけるが、琉生は駄目だと言う。
しかしこんな時夢生はごねるのだ。

むう
 「たーべーよーよ! ほら、美味しいよ!?」

るい
 「駄目」

琉生はこういう時、融通が利かないものだ。
きっとアリアならば、この辺りで折れていたろうが、琉生は無駄に真面目である。

むう
 「ほーらー! あの人美味しそうに食べてるでしょー!?」

るい
 「余所は余所、ウチはウチ……て、あれ?」

夢生は必死だ。
よっぽどタイヤキを食べたいのだろうが、このパトロールは授業の一環なのだ。
しかし琉生は夢生が指差した人物に目を疑った。
そこにいたのはスーツ姿の似合う眼鏡ビューティなのだ。

まき
 「はむ、モグモグ……」

その周囲で一層浮く、そのクールビューティな姿は諜報部に所属する藤原真希の姿だった。
真希は二人に気付くと、手を振った。

まき
 「あら、1年生じゃない、パトロールご苦労様」

むう
 「まっきん先輩ズルいのー!?」

まき
 「ま、まっきん? リンゴ社のPCじゃないんだから……」

夢生はお目当てのタイヤキを食べている真希にご立腹だった。
とはいえ仮にも上級生相手にタメ口の夢生は良い度胸と言える。
真希はズレたセルフレームの眼鏡を直すと。

まき
 「はい、半分だけどあげるわ」

そう言って、タイヤキを二つに割って、夢生に渡した。
それだけで夢生は大喜びだ、いつものように子犬のように喜びを表現した。

むう
 「わぁ! ありがとうまっきん先輩!」

まき
 「真希、藤原真希よ……全く愛じゃないんだから」

るい
 (先輩でもそこまでネーミングセンスが酷くはないと思います……)

思わず憤慨する愛がイメージされる。

るい
 「……藤原先輩がいるという事は、事件ですか?」

真希
 「ちょっ!? 人を見た目は子供、中身は大人な探偵と同レベルに見ないでくれない!?」

事件の影には真希がいる、そういう認識を1年生に持たれているのかと、真希は驚いた。
とはいえ、仕事柄事件との遭遇率が高いことは人には言えないことだ。

まき
 「はぁ……休憩よ、休憩。丁度新作タイヤキが出るって言うから」

むう
 「ン〜♪ これ新味で美味しいの〜♪」

まき
 「あっ、分かる? 今回の和風でお茶と合うのよね〜」

休憩、そう言うが真希の様子を見る限り寧ろタイヤキが目当てのようだ。
人の好みまでとやかく言う気もないが、琉生は真希に聞く。

るい
 「それって要するにサボりですよね?」

まき
 「ちょ!? 人聞き悪いこと言わないでくれない!? あくまで休憩なの! ちょっと市場調査も兼ねてだけど……」

むう
 「まっきんオロオロしてるの〜」

一応サボっているという自覚はあるらしい。
公においては、完全無欠な印象を受ける真希だが、私に置いては些かズボラな用だ。
琉生は溜息を放つと。

るい
 「はぁ……失礼しました、夢生行くよ」

むう
 「はぁ〜い、まっきん先輩、タイヤキご馳走様〜♪」

琉生はキチンとお辞儀すると、夢生を連れてパトロールを再開した。
夢生もまた、礼儀作法はまるでなっていないが、相変わらず保護欲を掻き立てられる子だ。
真希は二人を見送ると、琉生をこう分析した。

まき
 (本質は愛よりきらら似ね……愛は意外と寛容だからね。あの隔絶した感じ、初めて会った頃のきららそっくりじゃない)

思えば、今年の1年生は奇しくも3年生と同じく4人。
だからなのか、若かりし自分達に似ていると思えた。

まき
 「んぐ、さて……さっさと仕事に戻らないとね」

真希はタイヤキを全て頬張ると、手をハンカチで拭いた。
そのまま彼女は仕事に戻るのだった。



***



とうこ
 「98……99……100!」

あすか
 「先輩! 終了ですっ!」

とうこ
 「ふう……悪いな、トレーニングに付き合わせて」

闘子と明日花は近所のスポーツジムにいた。
闘子は普段暇な時は必ずと言って良い程、身心を鍛えている。
明日花はそんな闘子と親しくなりたくて、トレーニングに付き合った。

あすか
 「それにしてもかなりキツめのトレーニングですね」

とうこ
 「まぁポケモン少女って言っても、自分の身体を鍛えて損はしないからな、特にオレの場合地繋ぎでブーストされる訳だし」

そう言って闘子は上腕二頭筋を盛り上げる。
プロの格闘家のようなしなやかな筋肉はカイリキーに変身した時のようなビルドアップされた筋肉とは違い、美しい。
最初カイリキー少女に憧れた明日花でも、生身の闘子のギャップには驚いたものだ。

あすか
 「そうか……アタシも肉体改造が必要なのかも……」

闘子のストイックな感性は明日花にも通じる物がある。
コンマ1秒を競う世界で生きた明日花は如何に速く走れるかを追及して、筋肉を造り上げた。
だが、今の明日花ではゴローニャの身体を十全に操れていない。
当然だ、今の明日花はあくまで陸上系アスリートとしての肉体しか持ち合わせていない。
それが変身すれば300キロを超えるのだ。
いきなりそこらの力士の数倍の重量に跳ね上がれば、どう筋肉を操れば良いのかさえ明日花には分からなかった。
ゲシュペンストに襲われた時も、ビビりまくって琉生の影で怯えていることしか出来なかった。
なんとかなけなしの勇気で電撃を放った時も、まともなコントロールなんて出来ず、危うく夢生を傷つける所だった。

あすか
 「闘子先輩! アタシもやらせてください!」

とうこ
 「あん? 別にいいが……身体壊すなよ? お前の気概は分かるが、これはあくまでオレの場合に合わせたメニューなんだから!」

あすか
 「大丈夫っす! 自分のこと一番分かっているのは自分っす!」

あすかはそう言うと、早速重量上げの機材の元に向かった。
今の明日花に足りない物は、ゴローニャの重量に屈しない筋肉だ。
肉体改造は一朝一夕ではいかないだろう、それでも諦めないのが明日花だ。

とうこ
 (へ……オレも昔はこんな感じだったっけ……?)

闘子はなんだかんだで、明日花を気に入っている。
闘子に比べて、明日花はまだ上品で、どこかこんな世界に踏み込むべきじゃないと感じていた。
だが明日花は違う、ポケモン少女の適性検査を受けた時、彼女は喜んだ。
色々進路など、ぶち壊しな面もあったが、なんだかんだで学園に入れた事は喜んだ。
今の彼女は成長期だ。
今はピーピー喧しいヒヨッコだが、いつかは闘子の傍で共に戦う戦友になるかもしれない。

とうこ
 「へっ! よっしゃ! それならオレは厳しいからな!?」

あすか
 「望むところっす!」

闘子は嬉しかった。
闘子は3年生の間でも浮いていたし、こういう後輩も現れなかった。
だから、今はまだ舎弟の関係だが、明日花には希望を込める。
願わくば、自分さえ超えるポケモン少女にならんことを。



***



アリア
 「ふぅ、こっち終わりました!」

あい
 「ありがとうございます〜、アリアちゃん〜!」

職員室、愛は相変わらず事務仕事に追われていた。
アリアはそんな先輩を見かねて、仕事を手伝っているのだ。

アリア
 「それにしても、今更アナログな書類ですか」

あい
 「そうは言いますけど、そのアナログの方がセキュリティ面で有能なのですよ、特にウチはあんまり公に出来ない情報もありますから」

ポケモン少女管理局、そこは政府直属の機関である。
元を辿れば、ゲシュペンスト撲滅を目指して設立されたポケモン少女特殊部隊、しかし長期化する中で、出せる情報が一般に出回り、未だゲシュペンスト関連は秘匿され続けている。

アリア
 「なぜゲシュペンストの事は情報規制されているのですか?」

あい
 「だって、人類が絶対に勝てない相手を知って、喜ぶ人はいないでしょ?」

アリアは頭脳明晰なその脳を使って考える。
確かに短期的に見れば、ゲシュペンストは知られるべきだと思うが、長期で見れば混乱を広めるのは自明の理だ。
ましてなまじゲシュペンストがポケモン少女でしか対抗出来ないなら、人類は私達の兵器運用を義務化していたかもしれない。
それは恐ろしい事だ……だが、水面下でそれだけの危機に立たされているのだ。

アリア
 (しかし疑問もあります……ゲシュペンストの狙い……そして)

アリアは愛のパソコンの画面を見た。
そこには全国で確認されているポケモン少女の一覧があった。
だが……本来あるべき筈の名前は存在しない。

アリア
 (始祖たるポケモン少女、なぜ秘匿されている?)

始祖のポケモン少女の事は愛にも聞いた事があった。
だが、その情報は愛でさえ何一つ知らなかった。
いや、愛のセキュリティレベルでは、アクセスすら出来ないのだ。

アリア
 (隠す必要がある? でもなぜ?)

分からない、でもそこにゲシュペンストとの戦いの真実があるはず。

あい
 「すいません、アリアちゃんこれシュレッダーに掛けといてくれますか?」

アリア
 「はい、お預かりしますわ」

アリアは書類の束を受け取ると、それをシュレッダーの前まで持っていく。
しかし電動のシュレッダーを起動させた所でアリアは、書類を改めた。

アリア
 (流石に求める情報はないか……)

あい
 「アリアちゃ〜ん? どうしました〜?」

アリア
 「なんでもありませんわ、それよりこれが終わったら……」

あい
 「後は私一人で充分ですので帰って頂いて結構ですよ〜♪」

愛はそう言って再びパソコンに向き直る。
人がつくづく足りてないのだろう、愛の忙しさは溜息が出る。
アリアは書類を全てシュレッダーに通し、それをゴミ箱に片付ける。
このまま帰る前に一言言おう、そうして愛の傍まで向かうと。

あい
 「アリアちゃん、はい♪」

アリア
 「え?」

愛は突然アリアに、なにか紙切れを差し出した。

あい
 「ごめんなさい、お給料は出せないんですけど、これ、お駄賃です♪」

アリア
 「と、図書カード?」

愛は仕事の対価で差し出したのは図書カードだった。
今時珍しいが、書店に行けば使えるちゃんとした物だった。
愛が持っていると言うことは仕事の付き合いだろうか。

アリア
 「……有り難く受け取らせていただきます」

あい
 「はい♪ それではお疲れ様です〜」

アリア
 「はい、お疲れ様でした」



***



るい
 「……ふう」

夕暮れ時、琉生は一人で河川敷に来ていた。
ここに来たのはあの日、琉生が初めてオオタチに変身した時以来か。
琉生は別に何か目的があってここに来たわけじゃない、本当になんとなく一人で散歩したくなっただけだ。
だけど、なんの偶然か……彼女はそこにいた。

るい
 「きらら先輩?」

ぱっと見では中学生と言っても通用する幼い姿の少女。
それは星野きらら、その人だった。
きららはゆっくり琉生に振り返る。

きらら
 「久し振りね」

るい
 「はい」

思えば、ここできららの話を聞かなかったら琉生は今頃どうなっていただろう?
あの日琉生は訳が分からず、途方に暮れていた。
あの時車に轢かれそうになった少女を救えたのは、少しでもきらら先輩の話を聞いていたからではないだろうか?

きらら
 「その……あれからどう? ポケモン少女としては慣れたかしら?」

きららは琉生の事を心配しているのだろう。
顔には出さないが、かえってそれが不器用で琉生はクスリとくる。

るい
 「ふふ、はい。まだオオタチさんの事は全然分かりませんけど、私は上手くやれていると思います!」

きらら
 「……そう、よかった」

きららはそれを聞くと微笑んだ。
先輩としてはぶっちぎりに不器用だが、琉生にとってこの人は間違いなく切欠だったのだ。

るい
 「クラスメート、愛先輩、藤原先輩、剛力先輩……皆良い人達で、だからこそ今日までやってこれました」

きらら
 「そう……貴方には仲間がいるのね、その仲間大切にね?」

るい
 「はい! 勿論きらら先輩もですよ?」

きらら
 「え?」

きららは意外そうな顔をしたが、同じ仲間であることに違いはない。
だからこそ、琉生はきららの手を握った。
琉生にとって、きららはある種の憧れなのだ。

るい
 「きらら先輩、これからもよりしくお願いします」

琉生の目は真っ直ぐだった。
あの日、迷える子羊の目をしていた琉生とはまるで違う。
今の琉生はもう心構えだけなら立派なポケモン少女だった。
だからこそ、きららは微笑んでその手を握り返した。

きらら
 「ええ、でも無茶をしてはダメ……危なくなったら先輩を頼ること、絶対よ?」

るい
 「あ、はい!」

きららはそれだけ言うと琉生の手を離した。
その直後、何所からか悲鳴が聞こえる。

男性
 「大変だー! 子供が溺れているぞー!?」

るい
 「あ!」

きらら
 「いくわよ琉生、メイクアップ」

きららは抑揚のない声で、そう言うとその身を光に包み込み、変身する。
琉生はそんな先輩の言葉を聞き逃さなかった。

るい
 「はいっ、メイク、アップ!」

二人はポケモン少女に変身すると、溺れる子供の元に向かう。
琉生はほんの少しだけ、高揚していた。
きららが「いくわよ」と言ってくれたのだ。
それは琉生が確実に前に進んだ証だった。



ポケモンヒロインガールズ

第6話 ポケモン少女たちの日常

続く……。

KaZuKiNa ( 2019/07/24(水) 20:50 )