第3話 転校生がやってきた!
第3話 転校生がやってきた!
あい
「はーい、皆さん突然ですが転入生を発表しま〜す♪」
三人が学校生活を始めて2週間。
そろそろこのポケモン少女としての生活に慣れてきた頃、突然だった。
あすか
「転入生……て、当然ポケモン少女なんスよね?」
あい
「そうです♪ それでは入ってくださ〜い♪」
?
「ビューン!」
それは突然教室に駆け込んだ。
そして「キキィー!」と口にして立ち止まると、三人に自己紹介をする。
?
「むーちゃんでーす! よっろしく〜!」
るい&あすか&アリア
「「「……」」」
三人は呆然とした。
この異常なテンションは明日花を凌駕している。
しかしそれ以上に、その綺麗に整えられたピンクの髪、頭の両端で髪を白いリボンで止めている。
愛よりも小さな体で、胸もまるで無く、制服は間に合わなかったのか、別の学校の制服だった。
この少女に三人は見覚えがあった。
愛
「もう! むうちゃん! ちゃんと自己紹介してください!」
むう
「ハーイ♪ 改めて江道夢生(えどうむう)です! えと、エアームド? なんかよく分かんないけどそういうポケモンのソウルって奴持っているらしいでーす!」
あすか
「……なぁ? アレって確か藤原先輩がハッ倒した奴だよな?」
アリア
「多分そうでしょうね……」
るい
「キャラが違う……」
江藤夢生、エアームドのソウルを持つポケモン少女。
検査洩れによって、本来なら四人目として三人と一緒に入学するはずだった少女だ。
暴走状態の彼女は恐ろしく、あの狂気の笑顔は決して出会いたいタイプではなかった。
しかしこの夢生は、まるで子犬のようで愛顔負けの笑顔を浮かべていた。
江藤夢生、電子黒板に顔写真と共にその名が映る。
あい
「むうちゃんは、今日から皆さんと一緒にポケモン少女について学んで貰います」
むう
「はーい♪」
夢生はそう言うと、自分の席に向かった。
そんな無害そうな夢生が傍まで来ると、三人は自己紹介をする。
あすか
「アタシ、宝城明日花」
るい
「姫野琉生、よろしく」
アリア
「東堂アリアですわ、宜しくお願いします」
自己紹介を終えると、明日花は早速夢生に質問した。
あすか
「なぁ、なんでこんな転入が遅れたんだ?」
夢生の暴走が鎮圧されたのは2週間前。
街では情報操作によって江藤夢生という少女の事は一切知られることはなかった。
お陰で、すんなりとこの学園にやってこれたようだが、あの後何があったのか?
むう
「む〜、よく覚えてないんだけど、気が付いたら病院に居たんだよね〜」
アリア
「記憶が無いのですね」
暴走状態の時の記憶は無いらしく、夢生は困ったような顔をした。
ある意味覚えていない方が幸せなのだろうが、自分がポケモン少女だという事も知らなかった事は正に被害者だろう。
むう
「目を覚ますと数日が過ぎていて〜、眼鏡のセクシーなお姉さんがお見舞いに来てくれたんだ〜」
あすか
「藤原先輩だ」
アリア
「見掛けに寄らず面倒見が良いですわね」
愛の同期であり、諜報部に所属する藤原真希は、冷静で冷徹な判断を下すことも厭わないと怖れられているが、一方で責任感が強く、優しさもある。
「愛に比べたら、私なんて冷たい方よ」、そんな風に言うが真希は愛と同様の優しさを持っているのだろう。
あすか
「それじゃ、暫くは入院生活?」
むう
「うん、身体検査して、養生していたら、役人さんが来て、私がポケモン少女だって言われてもービックリ! なんか勝手に退学させられて、こっちに来ちゃった♪」
るい
「来ちゃったって……」
夢生はにははと笑っているが、普通ならもっと深刻な顔をするだろう。
ところが夢生はまるで気にしていない。
大凡バカなんじゃないかと思える程脳天気であり、その無軌道っぷりは琉生でさえ、呆れさせる。
あい
「こーらー! 授業中は私語禁止ですよ〜! プンプン!」
普段は菩薩の顔を持つ愛も、授業を無視する生徒には鬼の形相だ。
と言ってもいつも通りプンプンと口に出して、怒った顔も小動物染みて寧ろ可愛いものだから、迫力がまるで無い。
むう
「サーセ〜ン! テヘペロ♪」
あい
「全然反省してな〜い! プンスカプン!」
るい
「どっちもどっち……」
アリア
(可愛いですわ……!)
そんな喧しすぎる奴と、怒っても可愛すぎる先輩のやりとりは授業が終わるまで続くのだった。
授業が終わる頃には流石に愛も疲れており、とんでもない新人が入ったものだ。
キンコンカンコーン。
あい
「疲れました……今日はここまでです」
あすか
「愛先輩お疲れ様でーす!」
むう
「ビュビューン! 授業終わった〜!」
るい
「全然衰えない……」
むう
「むーちゃんは元気が取り柄だもん!」
あすか
「元気すぎるだろ……」
あい
「あ、明日はちょっと授業を次のステップに進めるので体操服用意しておいてくださ〜い……」
愛はそう言うと、気持ち痩せた顔で教室を出て行った。
アリア
「体操服……ですか」
あすか
「体育の授業か!? ひっさしぶりだな〜!」
そう言う明日花は嬉しそうだった。
今の所授業は座学が中心で、体を動かす授業はそれ程行われていない。
唯一行われているのは、街の見回り程度だ。
とはいえポケモン少女の暴走なんていう事態は幸いアレから出会っていない。
あっても彼女たちでは手も足も出ない訳だが、いよいよそう言った授業が行われるのだろうか?
るい
「私達も戦うのかな?」
琉生は震えた。
きららや真希ならば、覚悟を決めて戦うことが出来るだろう。
だが琉生にその覚悟はまだ無い。
だけどその覚悟はいつか求められるのだろう……。
アリア
「江道さん、今日は始めてですので、何か質問はありますか?」
むう
「むーで良いビュン! アーちゃん!」
アリア
「なっ!?」
あすか
「ははっ、アーちゃんか」
むう
「因みに二人はあすちんと、るーちゃん!」
あすか
「あすちんか、ははっ!」
るい
「るーちゃん……」
明日花はそんなに嫌がってはいなかった。
テンションこそ一段違うが、明日花はそれ程夢生を嫌ってはいない。
寧ろ琉生だ、琉生はこれまでこれ程フレンドリーに接してくる相手などいなかった。
夢生は愛や明日花のそれに近いが、また一段と無遠慮が目立つ。
むう
「……もしかして嫌だった?」
琉生
「……ううん、よろしくむう」
琉生がそう言うと夢生は満面の笑みを浮かべる。
琉生は夢生を受け入れようと努力している。
生来コミュ障の琉生だが、この学園に入学して少しづつだが、前に進もうとしている。
あすか
「それよりよぉ、先ずは寮の案内からだろ?」
むう
「むーちゃんも寝る場所は気になるビュン!」
アリア
「それならば、まず寮に向かいましょうか」
あすか
「よし! そんじゃ付いてこい!」
むう
「了解ビュン!」
明日花はそう言うと、夢生を連れて先を急いだ。
明日花は三人の中でも夢生を特に気に入っているようで、夢生もよく懐いている。
そんな二人を見てアリアはポツンと呟いた。
アリア
「随分個性的な子が来ましたわね……」
るい
「うん、でも悪い子じゃない」
アリア
「そうですわね、それじゃ追いかけましょうか」
二人はさっさと寮に向かう二人の背中を追いかける。
江道夢生、ちょっとでは済まない個性的すぎる少女はこれから、どういうポケモン少女になるのだろうか。
***
夢生の案内は寮から始まり、街や学園の中まで及んだ。
なんにでも好奇心を抱く夢生は、それこそ事あるごとに質問し、どこかその仕草は小動物のようで三人も微笑ましいものだった。
そして19時、寮内で夕食を終えた四人は談笑室でテレビの前に居た。
あすか
「今週はやっぱアレだよな!?」
むう
「アレ? て……なに?」
明日花は随分と興奮気味であり、夢生は意味が分からなかった。
しかしアリアと琉生は何かを察して少し距離を取るのだった。
当然それに不思議がったのは夢生だ。
むう
「どうしてアーちゃんたち、距離を取るビュン?」
アリア
「……悪いことは言いませんから、こっちにいらっしゃい」
むう
「???」
そんな三人を余所に、テレビに近づいて興奮する明日花はテレビを付けた。
テレビでは丁度ある番組が放送されている。
番組は丁度始まるところで、タイトルには『ポケモンバトル』とある。
むう
「あ、これ知ってる〜、ポケモン少女が戦う番組〜!」
ポケモン少女の印象操作には、テレビを使った物がある。
日々過酷に、そして献身的に働く彼女たちの先輩達は、少しでもポケモン少女の印象を良くするために、このような番組も組み立てているのだ。
実況
『さぁ今日もやってきました! ポケモンバトル第141回! 今日のカードわぁ!?』
舞台は荒野、顔の見えない実況が二人のポケモン少女を紹介する!
実況
『まずは挑戦者サンドパン! ここ最近一気に勝率を上げ、遂にチャンピオン戦です!』
サンドパン少女
『イエーイ♪ ナンバーワーン!』
サンドパン少女は背中に無数のトゲ生やしている。
快活な少女で、年齢的には明日花とそれほど変わらないであろう。
一方で対戦相手は。
実況
『対するは現チャンピオン! このリアルファイトクラスで現在9連勝! 絶対王者カイリキー!』
カイリキー少女
「……!」
カイリキー少女はかなり特徴的だ。
まず目立つのが肩の後ろから生える二本腕。
前の腕は豊満な胸元で二の腕を組んでおり、肩から上に生える腕は挑発するように動いている。
むう
「おー、チャンピオンあすちんより凄ーい!」
あすか
「当然! なにせリアルファイトの現役チャンピオンだぜ!? アタシの憧れさ!」
アリア
(夢生さんが言っているのってもしかして……)
るい
(……胸の方?)
カイリキー少女はガテン系の見た目であり、筋骨隆々だ。
愛たちより年上のようにも見えるが、実際の所は同期だったりする。
明日花もスポーツマンらしく身体は良く鍛えられている。
だが、格闘家の筋肉と陸上選手の筋肉は違う。
明日花とは種類の異なるアスリートだ。
実況
『さぁ今回のルールはリアルファイトォ! 念のため説明するとこのルールではフィールドにある物は全て利用可! さらに技の使用も解禁というポケモン少女の全てが試される過酷なルールだぞ!?』
むう
「なんだか恐いの〜」
あすか
「はは、まぁ夢生じゃあな」
夢生も流石に格闘技のような物は恐いらしい。
明日花とて恐怖感が無いわけではないが、彼女はいつかポケモンファイターになりたいという願望もある。
実況
『さぁルール無用のガチバトル、今開幕だぁー!』
カァァァン! というゴング音が鳴るとサンドパン少女がカイリキー少女に突進する。
ここはリングではない、地面は硬く、辺りは剥き出しの岩も散見される。
ポケモン少女でも、危険なバトルフィールドなのだ。
それ故に明日花は血湧き肉躍る。
明日花
「イケー! やれー!!」
むう
「うわっ!? あぶな!?」
明日花は普段はそれほど暴れる方ではない。
だが、この番組の時だけは人が変わったようなのだ。
唐突に腕を振り回すわ、夢生に向かって飛び出すパンチ、これこそが二人が距離を取った理由だ。
サンドパン少女
『くらえー!』
実況
『サンドパン少女地面に潜った! ここからの奇襲が真骨頂!』
明日花
「穴を掘るだ! 気を付けろチャンピオン!」
むう
「そっちこそ気を付けるビュン!?」
一方で夢生も必死に明日花の大暴れを回避する。
案外見た目より動体視力に優れるらしく、器用な物だった。
るい
「夢生すごいね、私なんて開始15秒でノックアウトだった」
アリア
「あれ以外は良い人なんですがね、明日花さん……」
始めは誰もが初見殺しだが、琉生とアリアの時は最悪だった。
いきなり琉生は横顔を明日花にぶん殴られた時は、目を疑った。
だが注意しようにも興奮して周りの見えていない明日花の暴走を止める手段はなく、あえなく琉生は明日花の前に轟沈するのだった。
実況
『チャンピオン! 足を地面に引きずり込まれる!』
サンドパン少女
『今日からアタシがチャンピオンだー!』
カイリキー少女はサンドパン少女の地中からの攻撃に、足を地面に引きずり込まれた。
そうやって相手の体を地面に固定すると、サンドパン少女は目の前に飛び出す。
実況
『サンドパン少女その爪でカイリキー少女を滅多打ち! 遂に王座陥落か!?』
カイリキー少女
『ふ、チャンピオンか……お前にゃまだ早いよ』
実況
『あーと! チャンピオンサンドパン少女の両腕を肩の手で受け止めたぁ!!』
試合は佳境に入ったようだ。
それまで防戦一方のカイリキー少女が遂に反撃に打って出る。
サンドパン少女は咄嗟に離れようとするが、その距離に踏み込んだのは失策だと言えよう。
カイリキー少女
『ウオオオリャァァァァ!!!』
サンドパン少女
『ウニャァァァァ!?』
明日花
「出たー! カイリキー少女の必殺技風車投げ!」
夢生
「ぬわぁぁ!?」
興奮も最高潮の明日花は夢生の首を取った!
そのまま無意識のヘッドロック、夢生は首を絞められ苦しんだ!
一方試合の方は、サンドパン少女が両手で駒のように回され、そのまま真上に投げ飛ばされる!
カイリキー少女
『これがぁぁぁ! チャンピオンの力だぁぁぁあ!!』
そのまま錐揉み回転で落下するサンドパン少女にカイリキー少女の正拳突きが突き刺さる!
カンカンカーン!
カイリキー少女の一撃に、サンドパン少女は一撃ノックアウトだった。
実況
『なんという事でしょう!? 途中まで善戦したサンドパン少女、しかし結果は無残な敗北! とはいえチャンピオン10連勝!』
明日花
「いぃぃやったぁぁぁぁ!!! 見たか夢生!? ……夢生?」
気が付くと、明日花の隣に夢生はいなかった。
それもその筈、夢生は今明日花の二の腕の中で泡を吹いているのだ。
夢生
「きゅう〜……」
明日花
「あ、あれ? 大丈夫か夢生!? しっかりしろー!?」
しかし一方で後ろからそれを見ていた二人は冷ややかだった。
アリア
「まぁこれで夢生さんも分かった事でしょう」
るい
「それより明日花が学ぶべき」
人それぞれ、個性は様々。
だけど困った個性も存在する。
それが明日花の熱狂癖だ。
***
ポケモンバトル会場は学園からそれほど離れてはいない。
一見荒野に見えたバトルフィールドも実際はドーム内のセットに過ぎない。
そんな中、チャンピオンことカイリキー少女の剛力闘子(ごうりきとうこ)は帰りの準備を進めていた。
あい
「お疲れ様です闘子ちゃん♪」
とうこ
「愛かい、試合見に来たのかい?」
あい
「ええ、それより身体は大丈夫ですか?」
闘子は変身を解くと、普通の少女だ。
無論身体はよく鍛えられているが、それも少女の範疇だ。
リアルファイトのダメージは直接本人たちに残る。
負けたサンドパン少女こと砂皿由紀(すなざらゆき)は今頃ポケモン少女専属の医療スタッフが治療に当たっている。
とうこ
「……アイツ、結構強かったぜ、期待しても良いんじゃないか?」
あい
「もう! 相手を褒めるより自分を心配してくださいっ!」
愛にとって勿論全てのポケモン少女に対して、慈しみを持っている。
必要があるとはいえ、やはりリアルファイトには反対だった。
あい
「リアルファイトは危険すぎます……」
とうこ
「ちゃんと加減はしてるさ、それにこのリアルファイトは最も実戦に近い……砂皿は執行部向きだ」
あい
「それは私も同感です……由紀ちゃんは勇敢ですし、実力もあります……ですが、不安もあります」
教導部所属の愛だからこその不安、それは優しさだろう。
一方で『同じ教導部』の闘子は違った。
とうこ
「砂皿にまだ経験が足りない、でもそれはいつか得るものさ……それより一年生だよ、明日だな?」
あい
「あっはい! 明日は朝早いですけど、闘子ちゃんよろしくお願いします!」
今年の一年生、即ち琉生たちは一定のラインを越えた。
だからこそ、闘子の出番がやってきたのだ。
とうこ
「へへ! さて……今年はどうかな?」
闘子は腕を組むと、嬉しそうにした。
そんな姿に苦笑する愛は一年生をこう評する。
あい
「皆とっても優秀で良い子たちです、だから不安なんですけど……」
愛の目から見ても琉生たちは優秀だ。
入学から1週間以内に全員が変身できるなど、自分たち以来じゃないだろうか?
戦いの怖さも知っているし、これからが楽しみでもある。
でも……問題はここからだ。
とうこ
「へぇ〜、まぁオレは愛を信じるぜ、さてと……それじゃ一緒に晩飯どうだ?」
あい
「いつもの牛丼屋ですよね?」
闘子は上着を羽織ると、控え室を出た。
試合の後、必ず寄る馴染みの店がある。
とうこ
「そんで、『アレ』の動きは?」
あい
「調査部の報告書待ちですが……活発化の兆しは見えますね……」
ポケモン少女は組織だって、何をしているのか?
リアルファイト、ポケモンバトルでも最も危険なルールだが、その意味を理解している者はどれほどいるだろう?
一年生たちに待つのは試練なのだろうか……。
ポケモンヒロインガールズ
第3話 転校生がやってきた! 完
続く……。