ポケモンヒロインガールズ





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第7話 ただの清掃会!

第7話



あい
 「は〜い♪ 1年生の皆さん、今日は楽しい清掃活動の日ですよ〜♪」

あすか
 「いや楽しいって……つか、これ完全にボランティアっすよね?」

5月も中旬、日々勉強訓練パトロールと、辛くも充実した日々を送るポケモン少女たちに初めてのイベントがやってきた!
それは街の清掃イベント!
早速朝早くから愛に引率されて近くの公園にやってきた1年生たちの装備は万全だ。

あい
 「当然です! 日々人々のために貢献してこそ、私達ポケモン少女は信頼して貰えるのですよ!」

そう言う愛の周りには既にご老人が集まっていた。

お爺ちゃん
 「あれま〜、愛ちゃんはめんこいね〜」

あい
 「あはは〜♪ ありがとうございます!」

お婆ちゃん
 「愛ちゃん、いつもありがとうね〜」

あい
 「お婆ちゃんこそ、無理をしないでくださいね? 腰は完治してないでしょう?」

愛はほぼ全ての住民のパーソナルデータを記憶しているらしく、それぞれに適切な対応を卒無く熟していく。
最強の人懐こさと、慈母の星の精神を宿すからこその神対応であった。
それを見た1年生は呟く。

むう
 「あいちん先輩、凄いの〜」

アリア
 「人徳ですわね」

あすか
 「年季が高校生ってレベル超えてるけどな」

るい
 「無駄口はおしまい、さっそく清掃始めよう」

琉生はそう言うと、清掃道具を持って移動を開始した。
それを見た他の皆も清掃道具を持つと、それぞれゴミ拾いを開始するのだった。

あすか
 「そんじゃま、いっちょ頑張りますか!」

アリア
 「そうですね、愛先輩の言葉も最もですから」

むう
 「あすちん、一緒にやろう〜♪」

四人はそう言って別々の場所から清掃を開始するのだった。



***



るい
 「……あ、ここにも」

琉生は真面目に清掃作業をしていた。
昨今、若者が積極的にやりたがらないであろう清掃もくそ真面目に執り行うのは、生来の性格か。
茂みの影にある空き缶まで丁寧に集め、ゴミ袋は早くも一杯になろうとしている。

お婆ちゃん
 「あれま〜、お嬢ちゃん頑張ってるわねぇ〜」

るい
 「あ……」

気が付くと琉生は既に周りの数倍はゴミを集めていた。
それを見て感心する老人達に気が付くと、琉生はその視線に困惑した。
一端のヒーロー魂は身についたと言っても、根は暗くコミュ障な琉生は一人で黙々と何かをするのは向いている。
だが、こういう不特定多数との活動の中では普段のポンコツっぷりも発揮されてしまうのだろう。

るい
 「あ、あの……わ、わたし、ゴミ袋変えてきます!」

琉生はそう言って、何度も老人方に頭を下げ、足早に逃げるように去って行った。

るい
 (うぅ〜! 早く治さないと……このあがり症)

その顔を見れば誰もが、真っ赤に顔を染めた琉生を見るだろう。
決して嫌いな訳ではない。
ただ生きる上で必要なかった技能を今更要求されているだけだ。
これからポケモン少女として活動していくには、不安の残る所だが、琉生は前進している。



***



あすか
 「吸い殻発見、こんな綺麗な街でもポイ捨てする奴いるんだなー」

琉生とは別の区画を掃除中の明日花と夢生は、雑談を交えながら清掃を続けている。
明日花はこういう慈善事業には慣れているのか、テキパキしているが夢生は口ばかりが動いて、そのゴミ袋は明日花の3分の1程しか満たされていない。

むう
 「そう言えばあすちんが前に住んでいた所ってどんな所だったの〜?」

あすか
 「ん? 普通だよ? ここほど栄えてもいないけど、普通に駅もある街」

明日花はそれ程裕福な家庭にいた訳でもない。
奨学金がなければ高校に行けなかった程貧しかった訳でもないが、ごく普通の中流家庭の出身だった。

むう
 「むーはね? 女子高だったんだ〜」

あすか
 「そう言えば、転入初日に白い制服着てたっけ」

むう
 「あれ、前の学校の制服ビュン」

急遽転入の決まった夢生に制服の支給は遅れてしまった。
それ故に明日花の記憶にもあの白いセーラー服が記憶される。
とはいえ、あの制服可愛かったな〜等と普通の女子の感性を働かせるだけで、その制服の意味を明日花は介さなかったが、アリアが見たなら驚きと共に一目置いたであろう。

むう
 「むうのお家って、ベッドタウンって言うの? あんまり近くにコンビニとか無いんだよね〜」

あすか
 「ああ〜、アタシら女子高生には死活問題だよな〜」

まぁ今は寮生活なので、門限超えたら夜の街に出向く等不可能なのだが。
明日花はトングで適当にゴミを拾い集めながら、夢生の話を適当に聞く。

むう
 「学校も遠くて面倒だったし〜」

あすか
 「まぁ高校入ったら電車通学とか普通だろ?」

明日花も本来ならば電車で1時間のスポーツ強豪校に行くはずだった。
出来ることなら徒歩通学出来る高校の方が良かったが、高校生の身分では選択できる道も少なかっただろう。
一方で夢生の反応がズレている事には明日花は気が付かなかった。

夢生はその振る舞いのギャップから、恐らくアリアと愛意外には気付かれていないだろうが、お嬢様なのだ。
高校は中高一貫の女子高で、そこは所謂お嬢様学校という奴だ。
アリアのような真正のお嬢様とは違うが、夢生も一端の作法だって学んでいる。
ただ、ご両親は寛大で自由奔放に娘を育てた結果であろう。

あすか
 「大変だよな〜」

むう
 「そうビュンね〜」

価値観の違いは仕方がない。
とはいえ、微妙にお互いの会話は噛み合わないまま、掃除は進んでいく。



***



アリア
 (清掃活動など初めてですわ……)

真正のお嬢様たるアリアはその慣れない装備に戸惑った。
トングなど持った事も無く、その慣れない手つきで、それでも賢明に作業をしようとしている。

アリア
 (はぁ……これも社会勉強なのですね)

ゴミを見るのも嫌、そういう風に落胆顔のアリアは、それでも家と自分の事を考えると、前を向く。
自分はポケモン少女なのだから、こういう社会福祉に携わるのは必然だ。
そう言い聞かせて、ゴミをせっせと集める。
とはいえ……愚痴は人並みにも出るものだ。

アリア
 (ゴミ集めもオートボットが普及している現在、どうして私達が頑張る必要性があるのかしら?)

既に家庭レベルには清掃ロボットは普及している。
幾つかの国では都市用の大型清掃ロボットも活躍している今日、この最新実験都市にそれらが無い事は疑問だった。
何らかの市民交流の機会を考えている可能性は、主催があの愛だとすると否定できないが、非効率だとは思う。

アリア
 「あら……雑誌?」

アリアはふと、木陰を覗くと雑誌の束が纏められている事に気が付く。
それがなんてことのない少年誌なら、アリアも無感情にゴミ袋に入れていただろう。
だが、現実のアリアは違った。
その表紙を見た瞬間、頬を紅潮させ、身体を震わせたのだ。

アリア
 (こ、これは私の敬愛する先生の……しかも巻頭カラー!)

……それはエロ本だった。
アリアの絶対に言えない秘密とは、エロ本収集だ等と真正のお嬢様がカミングアウト出来る訳も無かった。
特にあるエロ作家を強く敬愛するアリアがその表紙を見て、反応が遅れるなどあり得なかった。

アリア
 (ああ〜♪ この薄くない本の重み♪ 中は全て情欲が放り込まれて〜♪)

アリアはその汚れたエロ雑誌を胸に手繰り寄せた。
普段なら絶対に触れないであろう物にも喜々としている所、相当の好き者だろう。

アリア
 (ああ……実家には100冊を超えるコレクションが眠っていますが、お母様にはバレていないでしょうか? 寮に入ってからは入手困難でやむなく電子書籍にしましたが、やはりポルノ雑誌は紙媒体に限りますわ!!!)

普段から女の園に溶け込んでおり、一切このような本性を曝け出す事のなかったアリアのこの至福の微笑み。
しかし問題はここからだ。

アリア
 (も、持ち帰りたい……! で、でもどうやって?)

あい
 「アリアちゃ〜ん、そっちどうですか〜?」

アリア
 「はぷらばらっ!?」

素っ頓狂過ぎる声を上げたアリアの体温は2度は下がっただろう。
そして普段は品行方正を貫くアリアが心の中で舌打ちしたことは間違いない。

アリア
 (なんてタイミングの悪い! と、兎に角このお宝だけは絶対に持ち帰らねば!)

あい
 「だ、大丈夫ですかアリアちゃん〜?」

アリア
 「あ、あはは〜♪ なんでもございませんわ」

るい
 「今こっちから叫び声が聞こえたけど!?」

あすか
 「大丈夫かアリアー!」

むう
 「助けに来たビュン〜!」

アリア
 (ギャース!? なんで皆さん集合しちゃうんですかー!?)

アリアの頓珍漢な叫びを聞いて、心配になった1年生達が集まる。
特にアリアは一度命の危機に晒されているだけに、皆の心配も強い。
だが、これは最悪だ。
今彼女が手に持つ雑誌は差し詰めデスノート、絶対に見られてはいけない。
久しく見なかったレア物のまさかの発見に喜ぶのも束の間、アリアは不倶戴天の状況に陥っていた。

るい
 「愛先輩、もしかしてゲシュペンストが!?」

あい
 「そ、その心配はありません!」

あすか
 「じゃあ今の悲鳴は何だったんだよ?」

アリア
 (あわわ……このままではまずい……!)

勘の良い夢生辺りは気付いてしまうかも知れない。
だがアリアの性癖がバレれば、もうアリアは生きていけない。
それ程誰にも知られたくなかった趣味であった。

むう
 「そう言えば、アーちんなんで後ろ向いてるビュン?」

アリア
 (なんでこういう時だけ目敏いのですのっ!?)

アリアは今茂みの方を向いており、身体でエロ本を隠している状態だ。
そして一冊アリア自身が大事に抱えている物まである。

アリア
 (うう〜、考えろ東堂アリア……どうすればこの事態を打開出来る!?)

少なくとも回収したいエロ雑誌は3冊。
何れも決して薄くはない、一冊ならば懐に忍び込ませればなんとかなりそうだが、3冊となると無茶が過ぎる。

あい
 「? もしかして動けないのでしょうか?」

愛がアリアに近寄ってくる。
アリアは逡巡した。

エロ本を諦めるか、この場の全員をハッ倒してでもゲットするか!
それほど、普段品行方正で冷静な彼女が狂い乱れていた!

アリア
 (どうする!? どうすれば!?)

生か死か、その極端な精神状態に追い込まれたアリア。
愛は普段から懐に忍ばせているスマホが震えている事に気が付いた。

あい
 「あれ? なんでしょうか?」

愛のスマホは特別製だ。
教導部に支給されるソウルリンクスマートフォンは、通常の機能の他の、ポケモン少女の追跡やバイタルチェックまで熟せる。
その特別製が、異常事態だと喚いていたのだ。
その内容を見て、愛は愕然とした。
この目の前の相手に精神異常を知らせたのだから。

アリア
 (あああ!? ダメ!? どっちも出来るわけがない!? でもでもでも! これを見逃せば次いつ巡り会えるか!? アアアアアアアアア!?)

それは、アリアを見た琉生達にさえ分かった。
アリアはソウルリンクスマートフォンを使うことなく、ポケモン少女に変身してしまったのだ。
そしてそれをどう言うか、彼女たちは授業で習っていた。

あすか
 「ぼ、暴走!? どうなってんだよアリア!?」

アリア
 「アアアアアアアアア!?」

ゴチルゼルへと変身したアリアは慟哭に似た叫びを上げた。
暴走はどんなポケモン少女にも起こりうる。
だからこそ、ソウルリンクスマホはセーフティの機能を有するのだが、悶値を越える精神異常はソウルリンクスマホの保護機能を凌駕した!

あい
 「わ、分かりませんが危険な状態です!」

るい
 「くっ!? メイク、アップ!」

むう
 「メイク、アープ!」

琉生と夢生はポケモン少女に変身する。
それを見て、早くも心の脆さを見せたのは明日花だった。
明日花は変身した琉生たちに噛みつく。

あすか
 「琉生! 夢生も! お前たち相手はアリアだぞ!?」

明日花は同士討ちなんてしたくなかった。
だが、誰よりも慈しみ深い愛は決断する。

あい
 「明日花ちゃん……私達が止めなくて、誰が止めるんですか?」

あすか
 「うっ!?」

むう
 「むーも、暴走しちゃったんでしょ? だったら放っておけないビュン」

夢生には暴走の時の記憶は無い。
だが、どれ程危険なのかは嫌でも聞かされたし、自分自身の力の恐ろしさも知っている。

あすか
 「くそ!? アリアのバッキャロー! 変・身!」

あい
 「メイク、アーップ!」

アリア
 「アアアアアアアアア!? SUIRYUKEI!?」

あすか
 「何言ってんのかさっぱり分からねぇけど、暴走を止めやがれ!」

明日花はそう言うと全身に電気を巡らせる。
訓練の中で明日花は自分の問題に直面し、どうすればいいか日々精進を続けた。
まだ憧れの闘子先輩には遠く及ばないが、この帯電状態で身体の反応を上げて、鈍重な身体の動作を補助する。

しかし暴走するアリアは無差別にサイコキネシスを放った。
それは全員をランダムに襲い、公園を滅茶苦茶にしてしまう。

るい
 「くっ!? 近寄れない!?」

むう
 「むーちゃん吶喊するビュン!」

この中で唯一エスパーに抵抗のある夢生は翼を広げ、アリアに突撃する。

アリア
 「horihiroaki!?」

アリアの意味不明の叫びから繰り出されるサイコウェーブに夢生は表情を歪めた。
暴走したポケモン少女はリミッターが外れている分並大抵より強力だ。
それは三年生の愛でさえ、迂闊に手を出せない程。
だが、覚悟を決めた明日花は走り出す。

あすか
 「夢生! 後は任せろー!」

むう
 「お願いビュン!」

明日花は全身をスパークさせる。
夢生の後ろから姿を現すと、アリアに強烈なワイルドボルトを炸裂させた!

アリア
 「あああっ!? まつり先生ぇ〜……」

ドサリ!

アリアは吹っ飛ぶと、地面に倒れると変身解除された。
アリアの状態に心配して駆け寄る学友たち。
しかしアリアの目線は茂みだった。

アリア
 (ああ〜……お宝は、守れました、わ……!)

あい
 「アリアちゃん! しっかりしてくださいアリアちゃん!」

るい
 「アリア……!」

例えボロボロにやられても、アリアの表情は満悦だった。
これだけ派手に暴れれば、誰もエロ本になど気を向けないだろう。

アリア
 (ふふふ……ただ、どうやって回収しましょう〜?)

その後の難儀はその後のこと。
ただ学友たちに知られる事は防げたろう。



ポケモンヒロインガールズ

第7話 ただの清掃会!

続く……。

KaZuKiNa ( 2019/07/25(木) 15:54 )