ポケモンヒロインガールズ





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ポケモンヒロインガールズ
第1話 変身・ポケモン少女

ポケットモンスター、縮めてポケモン。
みんな、ポケモンって知ってるかな?
それはゲーム、アニメ、書籍……きっと色んな所で目にすると思う。
でも、現実には存在しないんだよね。

でも、ところがどっこい、実は存在するかもしれないのです。

―――そう、これはとあるポケモン少女達の物語である。



ポケモンヒロインガールズ



『20XX年 4月 日本、とある学園前』



近未来、と言ってもそこは現代と然程変わらない世界だ。
そこは日本のどこかにある、ある特別な目的で建った学校である。
そこは普通の学校ではない、故に今年の入学者は僅か3名なのだ。


 「へぇ〜、ここがアタシらの通う学校かぁ〜」

学校指定の制服に身を通した体育会系のポニーテール少女は呟いた。
その少女、宝城明日花(ほうじょうあすか)は学園の入口から、その異様を見上げた。
ポケモン少女、この世界にはポケモンは存在しないけれど、ポケモン少女は存在する。
それはポケモンの『ソウル』を受け継ぐ、少女達なのだ。


 「貴方も……入学生?」

あすか
 「ほえ? そうだけど……」

明日花は自分の隣に立ち、校門で立ち止まる少女を見た。

あすか
 (うわ〜、可愛い〜、アタシと全然違うなぁ)

その少女は白い髪を肩の高さまで伸ばした、清楚な少女だった。
勿論明日花の主観も大いに含まれるが、実際お嬢様のような雰囲気を持つ大人しめな子だ。

あすか
 「あ、初めまして! アタシ宝城明日花! まぁ見ての通り体育系!」


 「私は姫野琉生(ひめのるい)です」

姫野琉生という少女はそう言うと恭しく頭を下げた。
その後ろ姿を見たある少女は頬に手を当て、二人の前に出る。


 「あらあら? 同じご学友かしら?」

あすか
 「うわ!? 何!? 本物のお嬢様!?」

お嬢様、そう言われた少女の名は東堂(とうどう)アリアという。
長身で長い髪が腰辺りまで伸びるその姿はお人形のようでもあり、また気品が伴った。
歩く姿も優雅で、同じ制服に身を通しながら別次元の存在だと明日花は思う。

アリア
 「皆さん初めまして、東堂アリアと申しますわ」

るい
 「東堂……?」

その名に琉生は反応するが、直ぐに答えは出ない。
いや、それより先に学舎の入口から、ある少女が出てきたからだ。


 「はぁーい♪ 新入生のみなさ〜ん♪ こちらに集まってくださ〜い♪」

それは上級生の腕章を付けた少女だった。
大きなツインテールを作った少女はニコニコ笑顔で三人を呼ぶ。


 「皆さん初めまして! ポケモン少女の学び舎へようこそ! 私はニンフィアのソウルを宿した友井愛(ともいあい)と言います、気軽にあいちゃんって呼んでね♪」

あすか
 「うーっす! あい先輩! それより質問良いっすか?」

あい
 「はいはーい♪ 私に答えられることなら何なりと〜♪」

あすか
 「前に適性検査とかで、ポケモンのソウルって奴を聞かされたんすけど、そもそもソウルってなんっすか?」

るい
 「それ、私も知りたい」

少女達が疑問に思うのも無理はない。
そもそもポケモン少女が発見されたのはここ10年の話で、またソウルの継承者もそれ程多くはないのだ。
彼女たちも元を辿れば、普通の人間であり中学を卒業する際、ソウルの適性検査を受けさせられ、そして適合したのがこの3人なのだ。

あい
 「うーん、詳しい事は実際よく分かってないんですけど〜、ただ言えることはポケモンさんは、私達の味方です♪」

アリア
 「説明になってないようなのですが……」

あい
 「まぁまぁ! 立ち話もなんですから、中へどうぞ〜!」

愛先輩はそう言うと、三人を学舎へと誘う。
学舎の中は最新の設備で、そこは学校と言うより研究所という方が正しいかもしれない。
愛は歩きながらゆっくり説明をする。

あい
 「知っての通り、私達は普通の少女です、ですが普通の人と少し違う所がありました……それはポケモンのソウルを持っている事です」

アリア
 「ポケモンは10年程前まで流行っていたサブカルチャーですよね?」

あすか
 「それがなんで、アタシらにあるんですか?」

あい
 「それはよく分かりません、ただ……」

るい
 「ただ?」

愛は振り返る。
道は終わりを告げる、彼女たちは特別な教室に誘われる。
彼女は教壇らしき場に立つと。

あい
 「貴方達にはここで、ポケモン少女とは何かについて学んで貰います!」

るい
 「それは、どうして……?」

あい
 「それは――」

その時だった、全てが液晶モニタになった黒板に突然緊急指令が放たれた!

音声
 『S地区で火災発生! ポケモン少女は救助に当たれ!』

あすか
 「え? え?」

その瞬間、ほんわか笑顔がトレードマークの愛の表情が変わった。

あい
 「了解!」

るい
 「あ、あの先輩っ! 私達は……」

あい
 「皆さん、良い機会です、ポケモン少女とはなにか……ここでお見せしましょう!」

そう言うと愛はスマートフォンのような物を取り出す。
そしてその表面を縦に指でなぞると、画面にニンフィアのシルエットが浮かび、ある文字列が並ぶ。

『ソウルニンフィア、コンバート』

あい
 「メイク、アーップ!」

愛がそう叫ぶと、光が愛を包み込む。
髪はピンクに染まり、頭飾りにリボン、そして首元から有に4メートルはある長いリボンが生え、その全身を白地にピンクのラインが入ったドレスに身を包んでいた。
それはまさに一瞬の変身だ。

あい
 「これが、私達ポケモン少女の持つ姿です! 皆さん見学で良いので救助に向かいましょう!」



***



学舎と隣接するすぐ直近のエリアS地区では大規模な火災が発生していた。
その火の勢いは現地の消防隊では歯が立たず、それを見た愛も驚きを隠せなかった。

あい
 「なんてこと!? こんな酷いことに!?」

明らかに自然に起きた物ではない。
だが、そんな猛烈な炎を一人で淡々と鎮火する少女がいた。


 「……!」

少女は全身をパールホワイトのドレスで包み、両肩に真珠のような宝玉が埋め込まれている。
怪獣のような尻尾を持ちながら、少女らしい可憐さを同居させた少女は手を翳すと、空間が歪み、炎が隔離される。


 「……!」

そのまま、少女は手を握りこむと、空間が圧縮され、炎は消滅した。

あすか
 「スッゲー! あれもポケモン少女!?」

あい
 「きららちゃん!」

愛が少女に叫ぶと少女は振り向いた。
ややもや冷徹な印象さえ受ける少女は、抑揚のない声で話す。

きらら
 「愛……炎は私に任せて」

きららと言う少女はそう言うと、空間を蹴るように飛び上がり、無数の炎を一気に鎮圧にかかる。
その力は凄まじく、消防隊では手も足も出なかった炎が一気に勢いをなくしたのだ。

あい
 「パルキアのソウルを宿した星野きららちゃんです、私達は救助を優先しましょう!」

愛はそう言うと、直ぐに要救助者を捜索するのだ。
彼女の力はきららとはまるで違う、二本のリボンは生きているようにうねり、人の生命を探る。

あい
 「ここですね! 今助けますよ〜!」

そして動けない人を見つけると、似合わぬ怪力で瓦礫をどかし、助けるのだ。
三人はそんな先輩達をじっと見ていた。
或いはその力に恐怖し、或いはその献身に感動し、心を打たれたかは定かではない。



ポケモン少女、それは普通の少女たちであり、特別な力を持ってしまった少女達でもある。
人間を大きく越えた力を持ち、日々こうして戦っているのだ!



***



入学式は随分とドタバタとした。
愛やきららのように、少女でありながらポケモンの力を有した故に、彼女たちは普通の生活は送れないのだ。
数も少なく、そしてあのような災害現場にも立ち会わなければならない。
まだ半人前のポケモン少女達はこれから暮らす寮で、話し合った。

あすか
 「いや〜、それにしても先輩達マジすごかった〜!」

るい
 「……うん、とくにあの星野先輩……凄かった」

アリア
 「ですが、最近事件が多くありません?」

事件、そう……この世界では今日のような災害は決して珍しくないのだ。
ポケモン少女が現れるのと同時期……この世界に災厄も訪れた。
それは人知れず、災害を引き起こし、人類を苦しめた。
それを救済したのはポケモン少女であった。
ポケモン少女は人類にとっての福音であり、それ故に研究の対象にもなった。
なぜポケモンのソウルは十代の女性に集中するのか。
どうして、このような物々しい学校が必要なのか。

あすか
 「だけどここ、なんか学校というか秘密基地っぽくねぇ?」

アリア
 「確かに教室も普通じゃありませんでしたね」

るい
 「ここに来るまでも、よく分からない設備があった」

ポケモン少女の情報は、多くは市民に伝えられてはいない。
存在することは漠然と知りながら、その実体は不明だったのだ。
ただ、三人は一様に溜息を吐く。

あすか
 「アタシ、これでも高校への推薦入学決まってたんだぜ? それが適性見つかったら強制的にここだ」

アリア
 「私もですわ、そして寮への強制入寮、外出も制限と来ました」

るい
 「……」

三人とも気分が良いものではない。
まるで実験動物のようであり、それでもこうしていられるのはきっと、先人達が彼女たちを護ったからだろう。
仮にも日本国民である彼女たちは、歴とした人類である。
その最後の支えが、彼女たちに最低限の物を与えている。

明日花
 「そういやさ、二人はなんのソウルを宿してんだ? アタシはゴローニャってんだ!」

アリア
 「私はゴチルゼルというポケモンのソウルらしいですわ」

あすか
 「姫野は?」

るい
 「オオタチ……よく知らないポケモン」

彼女たちにとってポケモンとは過去の産物だ。
正直そのソウルが宿ったと言っても、彼女たちにはピンときていないのだ。
ただ、明日花だけは目を輝かせ。

あすか
 「アタシらも変身できんだろ!? そしたら先輩達みたいに大活躍じゃねぇ!?」

アリア
 「ですが、そもそもどうやって変身するのでしょうか?」

るい
 「多分授業で分かるんじゃない? 私もう寝るよ」

アリア
 「そうですね、消灯時間が来ちゃいました」

あすか
 「あー、明日から授業かぁ〜」

明日花は身体を動かすことは得意でも勉強は苦手なタイプだ。
だからか、やや嫌そうにしていた。
こうしてポケモン少女たちの夜は耽る。
だが、この夜遅くに活動する者もまたいた。



***




 「諜報部より報告、ここ最近の事件にはポケモン少女の気配がある……学園は特に注意されたし」

青いマフラーを巻いた、頭部に大きな十字傷を持つ少女は、スマホに簡潔に言葉を述べた。
スマホの画面には愛の姿が映っている。

あい
 『了解です、あの〜マキさんも無茶はしないでくださいねぇ〜?』

ポケモン少女を管理する総括部、そこから派生した組織諜報部に所属するのはアギルダーのソウルを宿した藤原真希(ふじわらまき)、彼女は眼鏡を調整して、ただ述べる。

まき
 「私は実戦部隊じゃない、そこまで無茶はしないわ」

そう言って真希はスマホを懐に収めた。
月夜が少女を照らす、その目の前にはまた少女がいた。

少女
 「あはは……」

まき
 「……暴走か」

真希の掌には3枚の高圧縮された水手裏剣が生成され、強握られていた。
当たれば容易に人体など容易く切断する凶器、だがポケモン少女同士でそれが効くのかは分からない。
何故なら少女は、刃で出来た鋼の翼をチラつかせているのだ。

少女
 「あははははは!」

少女が駆ける!
真希は冷静にそれを見て、行動を選択する!

まき
 「対象を制圧する!」



***



あすか
 「ふあ〜、昨日はよく眠れなかった〜」

次の日、新入生の三人は教室にいた。
早速授業なのだが、先生は居らず、愛がニコニコ笑顔で立っているだけなのだ。

アリア
 「あの……愛先輩、先生は〜?」

あい
 「先生は私です♪ ここには普通の学校のような先生は存在しないのです!」

るい
 「それじゃ……先輩が授業を?」

あい
 「そうです! まずは皆さんにこれをお渡しします!」

愛はそう言うと三人にスマートフォンのような物を渡した。
それは昨日愛が使った物と同様の物だった。

あい
 「これは『ソウルリンクスマートフォン』というものです」

あすか
 「へぇ〜、おっ、普通のスマホとしても使えんじゃん!」

明日花は先輩の話もそこそこに早速それを弄くり始めた。
やれやれ、という風にアリアは頬に手を当てると説明を求める。

アリア
 「昨日の変身はこれを介していたようですが、どう使えば……?」

あい
 「それは……その人次第です!」

るい
 「その人次第……?」

あい
 「実のところ言うと、変身のメカニズムはよく分かってないんです! ただこのソウルリンクスマホはそんなポケモン少女への変身を手助けする事が出来ちゃうんです!」

アリア
 (と言うことは、装置抜きでも変身は出来る? いえ、出来てしまうという事でしょうか?)

三人の中で一番聡明なアリアはその条件に感づいた。
一方でまるで気付かない明日花は立ち上がると。

あすか
 「よーし! へ〜んしん!」

まるで昨日の愛を真似るように、スマホを指でなぞる明日花。
しかしソウルリンクスマホは何も反応を示さなかった。

あい
 「明日花ちゃ〜ん、先輩の話はちゃんと聞いてくださ〜い! もう、プンプン!」

そう言って頬を膨らませる愛。
段取りを無視されてご立腹のようだ。

あすか
 「あ、あはは〜、すいません」

あい
 「良いですか、助けるとは言っても変身条件は人によって違います、まずは変身条件を見つけましょう!」

変身条件、ポケモン少女は当然変身前は無力な少女と何も変わらない。
それが人類を遥かに凌駕するポケモン少女に変身するのは、あるプロセスが必要だ。
それは即ち『ソウルリンク』、ソウルに宿りしポケモンの声を聞き、それに応えるときポケモン少女に変身するのだ。


 「因みに私の場合、最初に変身したのは友達を守ろうとした時でしたかね〜」

あすか
 「え? いきなりハード系?」

るい
 「……っ」

琉生が震えた。
愛はそれに気付かず、話を訂正する。



 「あ、守ったと言ってもナンパしようとした人からで、ヴァイオレンスさとかないですからね?」

あすか
 「あ、そうなんだ〜、あい先輩も血生臭い世界にいるのかな〜って」

あい
 「もう明日花ちゃんったら! 心配しなくても私は平和ですよ〜♪」

アリア
 「……ソウルリンク、つまり内なるソウルに従え、と?」

アリアはソウルリンクスマホにそっと手を乗せ、目を閉じる。
誰よりも頭が良いからこそ、最も適切な手段で向き合おうとしていた。
しかし、暫くするとアリアは溜息を吐きながら、目を開けた。

アリア
 「駄目です……どうすれば分かるのでしょうか?」

あい
 「まぁ〜、直ぐには変身出来ないと思いますよ〜、私の場合は大切な物と関係してましたから、割とあっさり変身できましたけど」

あすか
 「大切な物か……そりゃアタシは……熱血だぁぁぁ!」

明日花は生粋の体育会系女子だ。
それこそ陸上で推薦入学が叶う程のスポーツマンである。
そんな彼女の根底にあるのは、それこそ泥臭いスポ根染みたものだった。
だが、偶発的にもそれにソウルリンクスマホが反応する!

『ソウルゴローニャ、コンバート』

あい
 「あ! 明日花ちゃんが!」

あすか
 「うおおお! 変・身!」

明日花の身体が光に包まれる。
その全身は岩石の鎧に包まれ、頭部には磁石のような突起が生えた。
明日花はゴローニャのポケモン少女に変身したのだ!

あい
 「あら〜、どうやらちょっと珍しいゴローニャさんみたいですね〜」

それはアローラフォルムと呼ばれる、特殊なゴローニャだった。
原種と違い、地面の力を無くした代わりに電気の力を持っているのだ。

あすか
 「うおお! これがアタシかぁ!」

彼女はその勇ましい格好に震えていた。
だが、内心ではちょっぴり残念だったりもしている。

あすか
 (あ〜、どうせなら私もフリフリのスカートとか着てみたかったなぁ〜)

スパッツには慣れている明日花だが、少しだけ乙女チックな願望もあったようだ。
しかし容姿はどうあれ、変身した姿に琉生とアリアは感嘆の声を上げた。

るい
 「宝城さん……すごい」

あすか
 「いや〜、アハハ♪ なんかアタシとコイツの相性が良かったみたい!」

明日花はそう言うと、身体を適当に動かす。
筋肉質というよりはしなやかな柔らかい筋肉を持つ明日花はゴローニャとしての身体を動かすと早速違和感には気付いた。
そしてそれは周囲にも容易に読み取れる変化だ。

ズシン! ズシン!

あすか
 「重い……!」

別名メガトンポケモンのゴローニャ、明日花の体重は確実に100kgを越えているだろう。
それは軽量でスピーディーな明日花とは印象が異なる。

あい
 「あはは〜♪ 暫くは戸惑うと思いますけど慣れるまで我慢ですよ〜」

あすか
 「そうっすね」

暫くすると、明日花の変身は解かれた。

あい
 「それじゃ、今日の所は楽しい座学ですよ〜♪」

あすか
 「うぇぇ〜」

アリア
 「ふふ、デスクワークなら得意ですわ♪」

るい
 (大切な物……か)

三人が席に着くと、愛は電子黒板を操作して三人に授業を執り行った。
それを聞きながら、琉生は自分の中に宿るソウルについて考えた。
オオタチ、見たことも聞いたこともないポケモン。
ソウルは自分に何を求めているのか?
それは……一向に分かることはなかった。



***



授業の内容自体は普通の高校とそれ程違いはない。
ただ内容自体は特殊であり、放課後を迎えると三人はクタクタだった。

アリア
 「はぁ……それにしても変身ですか」

三人の中で最も頭の良いアリアは今日一日愛と明日花を例に自身の変身を考えたが、変身は成功していない。
ただ、思い当たる物はあった。
問題はおいそれとそれが選べないという事だが。

アリア
 (もし私の変身条件がアレだとすると……!)

あすか
 「なぁ姫野、東堂〜こっからどうする〜?」

ある程度彼女たちの行動は制限されているが、それでも放課後の行動については門限さえ守れば許されている。
18時までに寮にさえ帰れば、街に出ても構わないから、明日花は早速提案したのだ。

るい
 「……私、少し散歩する」

アリア
 「姫野さん? 一人で?」

るい
 「……うん」

琉生はそう言うと静かに町外れに向かっていった。
それを見た明日花は。

あすか
 「なんか、姫野って付き合い悪いよなぁ〜」

アリア
 「寧ろ距離を取られている気がしますが」

二人としても、同期生であり、琉生の事で気まずくはなりたくない。
とはいえまだ知り合って間もなく、友達とも言えない関係で明日花は不満だった。
聡明なアリアもある程度理解を示しているが、それにしても琉生も配慮がなく、このまま致命的な亀裂が産まれないか不安だった。

あすか
 「うーん、なんとかしなきゃな〜」

明日花はと言うと、アリアの危惧とはまるで違っていた。
彼女は負の側面はまるで考えない、ただ早く仲良くなりたいだけなのだ。



***



るい
 「変身……ポケモン少女、なんで私が……」

琉生は一人夕暮れの河川敷を歩いていた。
そしてうわごとのように呟く。
彼女……姫野琉生は、明日花やアリアとは違い、ポケモンに対して全くの無知だ。
その上絵に描いたようなヒーロー像に憧れもない。
彼女にとって、ポケモン少女はただ、戸惑いの対象だったのだ。
オオタチ等という顔も知らないポケモンのソウルを突然宿すと宣告された琉生はどうしようもなかった。
琉生はアリアのように秀才でも明日花のようにスポーツマンでもない。
ごく普通の少女であり、これと言って明るい未来もなかった。


 「あなた……たしか昨日愛と一緒にいた?」

るい
 「え?」

琉生は顔を上げると、背の低い少女がいた。
白い学生服に身を通し、中学生と言われても違和感のない黒い髪を腰辺りまでストレートで伸ばした少女。
ただ、琉生は少女の顔を見て、初めて察した。
間違いなく美少女だが、能面で冷たささえ覚える人形のような華奢な少女。

るい
 「あっ、星野きらら先輩……? たしかパルキアのソウルを宿したポケモン少女」

そう、変身した姿とは異なる故に一瞬では気付かなかった。
だがよく見れば分かる相手だ。
無論名前は知っていても、どういう人物か等まるで知らないのだが。

きらら
 「なにか、深刻そうな顔に見えたわ……」

るい
 「私が、ですか?」

きらら
 「不安?」

るい
 「……っ」

琉生は唇を噛んだ。
不安という言葉は正に的中していたからだ。
きららはそんな琉生を見て近寄った。
鉄面皮な表情には似合わず、愛同様きららもお人好しのようだ。

きらら
 「私で良ければ、話聞くけど……?」

るい
 「……なんで私なんでしょうか? 私なんてなん取り柄もない……ただの女の子なのに」

きらら
 「……私も、数年前まではそうだったわ」

きららは真摯に琉生に向き合った。
恐らくきららは琉生が自分に似ていると感じた事も大きいだろう。
きららまた、初めからポケモン少女ではなかった。
中学を卒業して、あくまでも普通の女子高に進学する予定だった彼女は適性検査を経て、ポケモン少女となった。
きららとて、最初からソウルを受け入れた訳ではない。
特にきららは空間の神とさえ言われる強大な神話級のソウルを宿した事で苦労も絶えなかった。

きらら
 「私は自分の力が怖かったわ」

るい
 「ポケモン少女の力が?」

琉生にはまだ想像も出来ないが、きららの力は容易に世界を壊せる程の物なのだ。
だが、今の彼女はそれを受け入れている。

きらら
 「不安は貴方だけの物じゃないわ……皆そうよ」

るい
 (宝城さんも、東堂さんも……愛先輩も?)

なんとなくあの三人が頭に浮かぶ。
脳天気な明日花でも、聡明なアリアでも……慈母の星のような愛でも。
そんなとき……!

キキィーッ!

車の急ブレーキ音に二人は顔を音の方に向けた。
車の前に小学生低学年位の少女がいた。
誰かが悲鳴を上げる。
その瞬間、琉生は顔を真っ青にした。

琉生
 (このままじゃ、あの子死んじゃう!?)

琉生は咄嗟に駆け出そうとした。
だが直ぐに自分の無力さを思い出す。
だが、一度でもなんとかしたいと思った琉生の背中を押したのは。

『どうして助けようとしないの?』

るい
 (無理よ……私なんて)

『出来るわ、私だもの』

るい
 (貴方は?)

優しい声だった。
それは誰にも聞こえない魂の会話。
その会話時間も瞬くより一瞬の出来事だった。
琉生の懐に仕舞われたソウルリンクスマホが起動する。

スマホ
 『ソウルオオタチ、コンバート』

『さぁ、貴方のしたい事をして! 私は貴方だもの!』

るい
 「メイク、アップ!」

半ば無意識の行動だった。
琉生は走りながら変身を行う。
その姿はフェレットを思わせる茶色い毛並みのドレス、胴体並みの大きさを誇る尻尾を生やし、彼女はオオタチのポケモン少女になったのだ。

るい
 「必ず……助けるから!」

その足は速かった。
人間の常識を越えた加速で、車が少女を轢くより速く、少女を抱きかかえた!
琉生はそのまま少女を守るように車線から飛び退いた。

るい
 「はぁ、はぁ、はぁ……!」

きらら
 「良くやったわ」

我武者羅だった。
無我夢中にただ無垢な少女を助けたくて、それでも無力な自分に葛藤し、ただ自分の声に応えたのだ。
気が付けばきららも変身しており、車は空間ごと浮かされて、固定されていた。

るい
 「……もしかして私頑張らなくても先輩一人でよかったんじゃ?」

きらら
 「そんなことない、貴方の方が速かった、それはよりその少女の安全に繋がったはずよ」

そうだ、少女は!?
琉生は咄嗟に抱きかかえた少女を見た。
少女は無事だった。

少女
 「ポケモンのお姉ちゃん、ありがとう!」

るい
 「あ、う……うん」

少女は笑顔を浮かべ感謝した。
それに琉生は気恥ずかしさを覚える。
世間一般でポケモン少女とはヒーローだ。
自分が改めてそのヒーローの一員になったんだと自覚すると、彼女は無性に恥ずかしくなってしまった。

きらら
 「よっと、えと貴方名前は?」

るい
 「姫野琉生です、オオタチのソウルを宿したポケモン少女」

きらら
 「そう、それじゃ琉生、私はもう行くわ……貴方も、頑張って」

きららはそう言うと、空間を元通り修復して変身を解除した。
気が付くと琉生も変身が強制解除される。
咄嗟のことで、まだ力を制御しているとは言えなかった。
だが琉生は……。

琉生
 (私のしたいようにしろ……貴方は私、私は貴方だから)

なんとなく、内なるソウルは微笑んでいる気がした。



ポケモン少女……それは突如としてこの世界に現れた幻想である。
殆どの場合未成年の少女に宿り、彼女たちの運命を弄ぶ。
しかし彼女たちは高潔で、ひたむきだった。
いつしか世界は彼女たちをヒーローだと言った。
ポケモン少女、それは現代に現れたヒロインたちなのだ!



ポケモンヒロインガールズ

第1話 変身・ポケモン少女

続く……。

KaZuKiNa ( 2019/07/03(水) 21:45 )