突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 サイドストーリー
愚者の章 クローンは蝶の夢を見るのか
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・PKM戦争、PKMと人類の闘争の中、常葉茂を失った組織はある計画を立案する。
それはPKMのクローニング技術と、その集団的兵器運用。
その計画の素体として選ばれてしまったのは華凛だった。
不覚にも捕獲される華凛、彼女の細胞より生み出されし3体のクローンは何を考え、そしてどう生きるのか?




突ポ娘 サイドストーリー
愚者の章 クローンは蝶の夢を見るのか



PKM戦争……戦局は膠着状態に陥っていた。
華凛は荒廃し、瓦礫の海の中に生活物資を求めて一人探索をしていた。

華凛
 「かなり遠くまで出向いたが……収穫は無しか」

物資が途絶えて早一ヶ月、皆苦しい中頑張っている。
私はもう少し遠くまで出てみるかと思っていると、ある特殊な気配に気が付いた。

華凛
 「この気配……またあのロボか!」

私の目の前、山積みになった瓦礫の上に人類軍の対PKM駆逐人型兵器が2体が、その銃口を向ける。

キュイイ……!

ロボットは私を認識するとその重厚なガトリングの銃身を空転させる。
しかし私はそんな悠長に構えるつもりはない!

華凛
 「辻斬り、一の式! 瞬剣!」

私は一瞬で踏み込むと、ロボの弱点である装甲で覆われていない間接部を一瞬でバラバラに解体する。
所詮一流には通用しない中途半端な兵器では私を討ち取ることなど不可能だ。

華凛
 「それにしても誰もいないこんな辺境になぜロボが……っ!?」

ピス!

私は突然首筋に痛みを感じる。
私はその瞬間急激に意識を失いながら、何が起きたのか理解しようとする。

華凛
 「これ、は……罠、か」

ドサッ!


 「被検体の確保に成功、ラボに移送する」

倒れて動けない私は最後に聞いた言葉はそれだった。



***



かつて、世界どころかあらゆる並行世界さえも手に入れようとした組織があった。
しかしそのために必要なゲートの鍵である常葉茂を失った事で、組織は急速に力を失っていた。
とはいえ、依然組織の力は強力で人類軍の中核にあることは変わりない。
だが、人類軍の天敵PKM連合は開戦から3カ月、その力を増大させている。


 「以上、えー被検体華凛の概要です」

ある集会、顔の見えない聴衆の前で白衣の男が説明を行う。

白衣の男
 「まずは映像をご覧に頂きましたが、卓越した戦闘センス、そして身体能力と被検体として申し分ないと思われます。更に戦闘時のCP8600も驚異的です」

聴衆
 「しかし、まだプロジェクトの正式な承認は出せない」

白衣の男
 「現状の人型兵器ではこのクラスのPKMには手も足も出ません……しかしもし量産が出来れば、それは数世紀未来の戦争さえ変える可能性があります」

聴衆はその言葉に唸る。
莫大なコストを払って作る対PKM兵器も、弱点が露呈すればPKM連合に討ち取られる機会も増えている。
それは組織が人類軍の中核であるためには、新プロジェクトが必要だった。

聴衆
 「新型機の開発は難航しておる……悪くはないのではないか?」

聴衆
 「だが未開拓分野だぞ? 新型機開発の方が安上がりではないか?」

白衣の男
 「……」

聴衆するのは組織のトップ陣だ、その中でも議論が割れている。
組織は工業部門が旧来以前より力を持ち、バイオケミカル部門の力は弱い。
このプロジェクトはそんな組織の派閥争いの縮図であった。

議長
 「良かろう。意見を纏める。まずは先行的な結果を見せよ。それ次第で予算は承認するものとする」

白衣の男
 「は……了解致しました」

こうして組織の新プロジェクトが始動した。



***



プロジェクトスタートから1カ月、捕獲した華凛のDNAを元に3体のクローンが誕生する事となった。
それらは皆容姿は華凛そのものであった。
しかし、それらはクローンであって、華凛ではない。

そしてお披露目の当日……。



白衣の男
 「これよりプロジェクトの集大成クローンズの演習を開始します」

白衣の男は目の前で椅子に座る数名の幹部に説明を開始した。
眼下には戦闘を想定した瓦礫のバトルフィールドが設置されている。
バトルフィールドの外、黒いベレー帽を被った体躯の良い男はヘッドフォンから指令を出す。

教官
 「クローンズ、準備はどうか?」

C1
 「C1、準備完了」

C2
 「C2も直ぐいけます!」

C3
 「こちらC3、何時でもどうぞ」

三体のクローンズは顔の見えない黒いヘルメットを被り、軽微なバトルスーツを着ていた。
その手にはサバイバルナイフ、三人の前方10メートルには演習の仮想敵が待ち構えている。

教官
 「では、これまでの訓練を思い出して、演習開始!」

教官の号令に従い、まずはC2が正面から走り込む。
C1C3はそれぞれ回り込み、仮想敵を追い詰める。
しかし仮想敵は直ぐ動き出した!

仮想敵
 「マッハパンチ!」

仮想敵はキノガッサのナンバー06。
組織ではファーストナンバーと呼ばれる古参で、その実力は折り紙付きだ。

C2は顔面をやられて、後ろに転がる。
キノガッサはすかさず追撃を試みるが。

C1
 「C2! 何しているの!?」

すかさずC1C3がキノガッサにタックルを仕掛ける。

C2
 「痛た……油断した、でも……!」

C2は起き上がると動けないキノガッサの首元にサバイバルナイフを突きつけた。

教官
 「そこまで! 演習終了だ!」

白衣の男
 「如何です? ファーストナンバーといえど3人で」

幹部
 「話にならんな、原種ならば一人で圧倒可能なのではないか?」

この演習を見た幹部の顔色は悪かった。
それもそのはずクローンの実力は華凛には遠く及ばない。
同じ身体を持ってしても、その人生の厚みからくる実力には雲泥の差があるのだ。

白衣の男
 「しかしです……クローンズは遥かに安上がりで、数を集めれば効率的兵器運用も可能、今回はこのような結果でしたが次は……!」

幹部
 「我々が欲しいのは結果だよ、まぁ予算の件は考えておこう」

幹部達はそう言うと席を立っていく。
白衣の男は何も言い返せなかった。



***



C1
 「C2! あの結果は何!? 一発貰ってたじゃない!」

私達は更衣室で装備を脱いでいると、早速C1が説教を始める。
私は辟易しながらC3を見ると、C3はオロオロしていた。

C2
 「良いじゃない、勝ったんだから」

C1
 「貴方06が本気なら今頃顔面を砕かれて即死だったのよ!?」

キノガッサのパワーはそれを容易に行う。
CP3200を誇るキノガッサは組織内でもトップランカーとしての実力を誇るのだ。

C3
 「お、お姉ちゃんももう止めよう?」

オロオロと大人しいC3はそう言うと早く教官にリザルトの報告をしようと促す。
C1はまだまだ怒り心頭の様子だが、任務が大事だとここでの説教は諦めた。

C1
 「そうね……教官に報告するのが優先ね」

C2
 「(サンキューC3)」

私は小声でC3に感謝する。
同じ遺伝子から作られ、同じ日に生まれた私達。
しかし、にも関わらず私達はどうしてこうも違うのだろうか?
C1はしっかり者で厳格な性格、C3は大人し温和で思慮深い。
そして私はその点気楽で難しくは考えない。

私達は組織の制服に着替えると、直ぐに教官の下に向かう。

C2
 「あーもう! どうしてスーツってこんなに着づらいのかしら?」

私は胸を押し付けられるのが好きじゃない。
バスト100センチを越える私達は西洋的なスーツでは身体が絞められて苦しいのだ。
その点はC1も納得しているらしく、胸を持ち上げてうんうんと頷く。

C1
 「確かに、私達の場合完全に特注のスーツでないとバランスが悪いわね」

こういう点では大きい胸は邪魔だと思うのはクローン達でも共通認識のようだ。
やがて教官が見えると私達は足早に向かう。

教官
 「お前たちご苦労」

教官は生まれて直ぐ、私達に戦闘訓練を施してくれた偉大な師だ。
元米軍でアーミーキャンプのキャプテンを務めていたらしく、通称大尉。
故に私達が身につけているのはPKMと言うより、人間の軍隊式格闘術と言える。

C2
 「どうでしたか!? シショーの教えの通りやってやりましたよ!」

私は意気揚々と教官に自分の活躍を伝えるが、教官は残念そうに首を振った。

教官
 「2秒接敵にズレがあった。原因はC2の先行だ。だがそれを許した俺を含めてチームの責任だ」

C1
 「申し訳御座いません……教官」

C3
 「つ、次はもっと頑張ります……!」

C2
 「……っ」

私はその結果に不満を持つ。
C1C3はただ謝った。
確かに私のミスが根本的原因だけど、それは私だけでも良いはず。

エンニュート
 「アレがうわさのクローンズ? 案外実物は大した物でもないみたいね」

パルシェン
 「でも、統率力は悪くないみたい」

エンニュート
 「まぁ最近はモラルの悪い奴も増えてきたしね……あのガブリアスいつか絞めてやる」

私達を見て噂している二人を私は一瞬だけ睨む。
そう、私達は弱くCPも600前後、ファーストナンバーズには遠く及ばない。

教官
 「結果は俺から報告しておく、お前たちは別命あるまで待機!」

C1
 「了解致しました」

私達は姿勢を正し、教官に敬礼する。
教官は書類を持って、上司に結果を報告するのだろう。
教官が去ると、私達はラボへと移動する。
ラボで私達クローンはメンテナンスを受ける必要があるからだ。

C2
 「ねぇ……私達ってやっぱり役立たずなの?」

C1
 「現状で結果を出すのはまだ早いわ、オリジナルには遠く及ばなくても私達はクローンの連携力がある」

C2
 「でも! それさえ私が乱した!」

C3
 「お、お姉ちゃん達喧嘩は止めて……!」

私はそれっきり黙る。
ラボでは今日も研究者が走り回っており、私達は専用のカプセルに入ると、そこで強制睡眠に入る。
私は夢うつつの中、オリジナルのことを考える。
研究者達はいつも比べるオリジナルとクローンズ、そこにある差とはなんなのか?
オリジナルを知りたい……そしてオリジナルの強さを学びたい……私の意識はそこで終わった。



***



C2
 「はっ!」

C1
 「ふっ!」

私は明くる日、C1と模擬戦を行う。
お互いの技術のベースはシステマ、それ故に互い手が分かるため膠着する。
クローンだから考えが似るのは当然だけど、そこにオリジナルの意思も介在するのだろうか?
オリジナルならどう動く? それがクローンの私には分からない。

C3
 「10分経過、そこまで!」

C3がタイマーで時間を確認すると私達は手を止め、礼をした。
私は汗を流しながらC1と会話する。

C2
 「ねぇ、オリジナルならどう動くと思う?」

C1
 「は? そんなの分かるわけないじゃない……」

やっぱり同じクローン、分かる訳もないか。
私は溜息を吐きながら落胆する。
しかし同時に私はそれを知りたいという欲求を強めた。

C2
 (オリジナルは今もラボのどこかにいる……、私は知りたいオリジナルの強さの根源を)

C1
 「……よし、次は私とC3で組み手!」

C3
 「はっ、はい!」

C2
 (二人は巻き込めないよね……)

私は今夜決行を決める。
そのためにここ最近のラボの中を調べた。
大丈夫……いけるはず。



***



そして夜、睡眠カプセルからそっと出た私は暗闇の中、二人の寝顔を確認する。
皆同じ顔、当然あらゆる部分がオリジナルと同一の筈だ。
私は重たい胸をゆっくり持ち上げて、アジャストすると近くにあった白衣を纏って移動を開始した。



………。



ラボは深夜になると流石に消灯しているが、幾つものサイバー光のお陰でそれ程暗くない。
ただ監視カメラや、徹夜で働く研究者に気を付けながら素早く進む。

C2
 (研究者たちもオリジナルのことは教えてくれない、そして見取り図にオリジナルを示す記号もない)

だけど、ラボにいることだけは確実。
私は一つだけ心当たりがある。
いつも警備員がいて、見取り図にも載っていない小さな部屋。

C1
 「どこへ行くの?」

C2
 「オリジナルに会いに、強さの秘密を知りたいんだ……て!」

私は振り返るとC1がむっつり顔で立っていた。

C1
 「オリジナル……本当にいるの?」

C2
 (あれ? 怒らないの?)

いつもなら耳引っ張ってでも連れ帰すC1だが、腕を組んで考えている。
この際両腕で胸を持ち上げるのはクローン共通だけど、オリジナルもそうなのかな?

C1
 「いいわ、私も責任もつ。オリジナルに会いましょう」

C2
 「いいの? もしかしたら居ないかも知れないし」

C1
 「だからその点も含めて責任持つって言ってるの、それに貴方一人だと絶対ヘマする」

C2
 「ぐ……」

言い返せない。
確かに私は少し迂闊な所がある。
この前の演習でもミスったし、C1の援護がなければやばかった。

C2
 「分かった、それじゃこの先に存在しない区画がある」

私は注意深く先へと進むと、やがて警備員の常駐した小さな部屋を発見する。

C1
 「二人……同時に撃破する必要あるわね」

C2
 「私も同じ事考えた、改めると凄い物騒よね」

多分考えるだけならC3も同じでしょうね。
クローンだけにやれるだけなら、C3も変わらない。
私達は天井に張り付くと、素早く警備員の真後ろから二人を昏倒させる。

C2
 「よし……この小さな窓から中が……っ!」

私は小さな覗き窓から中を確認すると、そこには何もない。
ただ座る場所だけがある白い空間、そこに私達とそっくりの女性がいた。

C2
 「オリジナル……!?」

華凛
 「私と同じ声……と言うことは噂のクローンか?」

間違いない……!
この人がオリジナル!

華凛
 「私は華凛、お前たち名は?」

華凛という名のオリジナルは大分衰弱しているように思える。
両手両足を縛られ、ロクに身動きもとれなさそう、しかし分かる……この人は私達とは違う!

C1
 「私はC1、貴方のクローン1号です」

C2
 「C2……教えて、貴方はどうして強いの!?」

私達は散々オリジナルと比べられた。
組織が求めたのはオリジナルの性能を持つ量産型。
私達のような劣化コピーではないのだ。

華凛
 「強さだと……そんな物に形はない。だがお前たちが私を強いと思うのは信念と守るべき物じゃないか……?」

C1
 「信念……」

C2
 「守るべき物?」

私はオリジナルの言葉がイマイチ分からない。
でもオリジナルはやつれた声で優しく言った。

華凛
 「私にはダーリンを護る信念があった。そのために例え拘束されようと確固たる意思を持っている」

C1
 「ダーリンですか?」

華凛
 「興味があれば、常葉茂について調べてみるがいい……」

常葉茂……それがオリジナルの強さ。
私にもオリジナルに負けない信念があれば強くなれる?


***



……それは、私達クローンズの運命を変えた。
その出会いから2週間後、私達の命運を掛けた実戦演習が始まった。

C3
 『敵、射程200メートル2機!』

私達はバトルスーツを着込み、ヘルメットに内蔵された通信機で連携をとる。
相手は最新型対PKM人型兵器。
使用武器は実弾、つまりこれは最終的な組織の次期主力兵器を決めるトライアウトなのだ。
本来ならあれから2週間程度で勝てる相手ではない。

バシュウ!!

ロボの両肩に装備された小型誘導ミサイルが全弾発射される。

C1
 『C2いける!?』

C2
 「二人がいるなら!」

C1がサブマシンガンで誘導ミサイルを打ち落とす。
私は態勢を低くして、一直線に突っ込んだ。
相手は4連ガトリングの銃弾をばらまく。

C2
 「負けるか……! オリジナルが言う信念だけでも! 見せてやる!」

私はヒートブレードを抜き、一気に踏み込む!

ザシュウ!

ロボの一体を私は袈裟懸けで切り落とす。
更に左手に持ったハンドガンでもう一体のカメラアイを狙撃して破壊。
ジェネレーターの内蔵されて胸部を私はヒートブレードで貫く!

教官
 『そこまでだ! 演習終了!』


それを見ていた幹部達は目の色を変えていった。

幹部
 「たった2週間でこれ程まで?」

幹部
 「むぅ……最新型でさえ2分と持たず撃破か……」

議長
 「これならば次期主力として申し分ない、プロジェクトを正式に認可しよう!」



C2
 (これでもきっとオリジナルには遠く及ばない……ただ、それでも強くなったよね?)

C1
 「やったじゃない! C2!」

C3
 「完全勝利ですよ! 姉さん!」

二人は駆け寄ると、喜び抱き合った。
見ると教官も涙ぐんで喜んでいた。
組織の予想さえ裏切り私達は勝ち取った。
そしてラボでは本格的なクローンの量産が開始し、私達も実戦への参加が行われた。
計画は順風満帆、研究所の誰もが喜ぶ中、私だけはそうじゃなかった。

C2
 「……」

C1
 「浮かない顔ね」

私はクローンの40体目のロールアウトに喜ぶ研究員達を余所に、グラスを傾けながら黄昏れていた。
そこに最初期のメンバーである二人が駆け寄ってくる。

C3
 「C2姉さん凄いです、CP2000を突破したんですよ?」

C2
 「それで? オリジナルの半分以下じゃない」

C3
 「そ、それは……」

C1
 「C2最近変よ? いつも黄昏れているっていうか……」

私はいつもオリジナルの事ばかり考えていた。
オリジナルは見るからに弱っていて、押せば倒れそうな程なのに、私は全く勝てる気がしなかった。
あれこそがオリジナルの信念であり、強さなんだろう。

C3
 「その、お姉ちゃん……最近研究者が言っていたんだけど、性格の矯正を検討してるって」

私はその言葉に苦笑した。
私は間違いなくナンバー1のクローンだ、私より戦果を上げたクローンはいない。
だが同時に私はしばしば上の命令を無視していた。
私がこうだと思えば例え命令でも無視して任務を遂行してきた。
そのため私の現場評価はすこぶる悪い。
私からすれば無能な指揮官ほど邪魔な物はいないと思っているんだけどね。

C2
 「グリナでも仕留めれば、上も納得するでしょう」

PKM連合のナンバー1グリナ、発見次第捕獲の命令が下っているが、生憎簡単には会敵できない。

C1
 「貴方、やっぱりエゴが強くなり過ぎているのかも……」

C2
 「でも、エゴこそが強さかもしれないよ?」

C1
 「……確かに、それも否定は出来ないわね」

上も直ぐに決断しないのは、戦闘能力の低下を怖れているからだ。
私は強くなった……それでもそれはオリジナルのような本当の強さじゃない。

C2
 「常葉茂……」

C1
 「え?」

私はふとオリジナルの言葉を思い出した。
常葉茂を調べろ……。
常葉茂はゲートジャンパーであり、組織の野望の中核になるとされている。

C2
 「そうか……そうだ。常葉茂に会えば、私も知ることが出来るかもしれない……!」

C3
 「お、お姉ちゃん? どうしたの?」

C2
 「退いて!」

私はグラスを投げ捨て、C3を押しのける。

C1
 「貴方……何をする気なの!?」

C2
 「分からない? 同じクローンなのに? 組織を抜ける! そしてオリジナルの強さの意味を知る!」

C1
 「なっ!? 貴方反逆者になってでもそれは必要なことなの!?」

C2
 「アンタこそその空虚な心に何もないまま死んでいいの!? 私は嫌! 思い出さえない私達クローンには死んでも何も残らないのよ!?」

C3
 「何も……残らない?」

C1
 「C2……」

二人は私の言葉に呆然とした。
私はそんな二人を無視して走り出す!



***



ビービービー!

警報が鳴る。
反逆者の出た組織の中は騒然として、それはまるで組織をひっくり返したかのようではないか。

幹部
 「C2の反逆か……」

幹部
 「目的は脱走であろう? 自我が強くなりすぎた反動だな!」

幹部
 「連れ戻せ! 記憶を消して再調整すれば良いではないか!」

幹部達が緊急会議をする中で、C2は走る。
次々と現れる追っ手を退け、後少しで脱出できる。

C2
 「はぁ、はぁ……! ここを越えれば出口……!?」

私は組織を脱走する最後のエリアで最悪の相手に遭遇した。

エンニュート
 「全くクローンに手こずって」

C2
 「ファーストナンバー!?」

ナンバー05、その細身の女性は、は虫類を思わせる瞳孔を収縮させて構える。
最後の壁……て、訳ね。

C2
 「上等!」

私は武器も持っていないが、05に襲いかかる。
しかし私の攻撃はエンニュートは鮮やかに回避し、嘲笑う。

エンニュート
 「あはは! ポケモンってのはこう戦うんだよ!」

05は両手から炎を出す。
それは火炎放射となって私の身体を焼いた。

C2
 「うああああ!?」

私達クローンはポケモンとしての技は使えない。
誰からも教えられることもなく、ただ軍隊式格闘でのみ戦うように調整された。

エンニュート
 「さて、殺すなと言われてるからね……まぁ焼き加減は調整してやるさ」

C2
 「くそ!?」

私はなんとか火を消すが、彼女はゆったりと私に近寄ってくる。
これが俗に言う蛇に睨まれた蛙かと実感するが、私は諦めない。

C2
 「この!」

私は水平蹴りで転倒を狙う。
しかし05はしなやかに跳ぶと、両手から炎を撒き散らした。
それは弾ける炎となり、周囲を火の海にする。

エンニュート
 「そんなもの? 笑っちゃうわね」

C2
 「はぁ……はぁ……! まだ、だ……!」

炎に酸素を奪われる。
私は徐々に朦朧とする中、それでも諦めなかった。
オリジナルは今も諦めない、それは強いからだ。
彼女のエゴは決して曲げない決意だった。
私にはまだそんな物はない。
オリジナルに比べれば精々ちっぽけなエゴだろう。
それでも負けないと……歯を食いしばる!

エンニュート
 「さて……それじゃもう少しいたぶって……」

C3
 「うわぁぁ!」

そろりと近づいてくる05、そこに突然C3が現れ、05にタックルする!

C1
 「何ボサッとしてるの!? 援護するから早く行きなさい!」

C2
 「C1C3、なんで……?」

C3
 「分かりません! でも私達だって生きてるんです! 何も残せず終わりたくなんてない!」

C1
 「要するに、私達も抜けるって言ってるの! アンタいつも無鉄砲なんだから!」

エンニュート
 「ち……反逆者が三体? 研究所の奴ら管理がおかしいんじゃないのか?」

徐々に炎は小さくなる。
それはスプリンクラーが起動して鎮火開始したからだ。
私はずぶ濡れの身体を動かし、05と対峙する。

C2
 「二人ともごめん、さっき強く当たっちゃって」

C1
 「何を今更!」

C2
 「二人ともフォーメーション!」

私達は同一のクローン。
例え、言葉は少なくともその連携は他を凌駕する。
C1C3は両脇から牽制、私は05に吶喊する!

C2
 「うわああああああ!」

エンニュート
 「!? それは!?」

私は腕に黒いオーラを纏わせ、一瞬でエンニュートを切り裂き後ろに居合い後のように立った。

エンニュート
 「つじ、きり……だと……!?」

05がその場にバタリと倒れた。

C2
 「か、勝った……?」

C3
 「凄いですお姉ちゃん! 今の辻斬りですよ! オリジナルの得意技!」

C1
 「こら! ボサッとするなって言ってるでしょうが……っ!?」

C1が振り返った。
その瞬間、C1とC3が銃撃されてゆっくりと倒れる。
音は後からやってきた。

C2
 「……え?」

戦闘員
 「C2以外は生死不問、全くやはりクローンは信用出来んな」

それは完全武装された戦闘員達だった。
フルフェイスメットの先の表情は見えないが、私達を侮蔑しているのは確実だ。

C2
 「うそ、でしょ……?」

C3
 「……」

C1
 「……」

二人はピクリとも動かない。
ただその場に血の海が広がっていく。

C2
 「あ、はは……なにこれ? そんなのありなの? ここまで来て?」

戦闘員
 「猛獣も眠らせる強力な麻酔銃だ、お前は生き残れて運がよかったな。まぁどうせ人格処理されるんだが……なんだ?」

C2
 「光……?」

それは世界が光に変わる光景だった。
戦闘員達が慌てる中次々と光に変わり、やがてC1C3も消えていく。
そしてそれは私も同じだった。

C2
 「強さ……て、なんなのかなぁ? 私、夢でも見てるのかな……?」

不思議だけど、私は光に変わるなかで穏やかだった。
もうどうでもいい……あの二人を失ってまで強さなんていらない。
結局はこれがクローンの限界なのかなぁ……。



突ポ娘 サイドストーリー
愚者の章 クローンは蝶の夢を見るのか END

KaZuKiNa ( 2019/06/05(水) 18:35 )