月の章 ルザミーネとリーリエ
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秩序が崩壊した世界。
ルザミーネとリーリエ、彼女たちはこの時代に翻弄される……そこにあるのは対立だけなのか?
二人の友情、そして信念……生き残るために今は戦うのだ。
突ポ娘 サイドストーリーズ
月の章 ルザミーネとリーリエ
リーリエ
「ルザミーネ、単刀直入に言うわ、日本を去りなさい」
その女、リーリエはそう言った。
リーリエは虚言で飾る女じゃない。
私に似たシルエットを持ち、一見すれば年若い金髪の白人。
誰も本当の素顔は知らないが、その見た目の倍は悠に生きていると謂われている。
ルザミーネ
「日本を? まるで戦争でも始まるみたいな言い方ね」
リーリエ
「少なくとも、ある作戦の後、この国にいるスパイは全て処分されるわよ」
私は絶句した。
この女は処分と言ったのだ。
つまり私も例外なく殺すと。
だけど、それならば何故?
リーリエ
「警告はしたわ……それじゃ、もう行くから」
***
……アレは一週間前か。
アレから世界では戦争が始まった。
PKMと人類の飽くなき闘争の時代が始まった。
私はリーリエに警告されたにも関わらず日本に残った。
リーリエの言っていた意味、それは戦争の始まりの符号ではなかった。
戦争はきっと誰にとっても予想外で、本来の意味で言えば技術の独占だった。
日本にいるスパイやエージェントを駆逐して、常葉茂という特異点を独占する。
だけどそれも失敗に終わった。
私は常葉家のPKMと協力して、常葉茂の奪還に成功。
彼女たちとの協力関係は終わったものの、常葉家の人達は変わらず私を信用してくれていた。
ルザミーネ
「こちらルザミーネ、応答せよ。応答せよ」
私は光のない闇夜で通信機で連絡を待った。
私はエージェントであり、クライアントの指令で動いている。
だが、通信機は相変わらず不調で繋がらない。
衛星通信に関わらず使えなくなったとなると、受信側の問題かしら。
ルザミーネ
「寒いわね……当然か、12月だものね」
私の情報端末は今を12月3日だと教えてくれる。
機器のGPSも健在で中継衛星がやられていない事だけは確かだ。
ルザミーネ
(私ってこんなにも無力だったかしら……?)
バックアップを失い、それでも生きるために利用できる物を利用して生き残ってきた。
それでも、私は孤独で、今なんのために生きているのか見失いかけている。
ガサッ!
ルザミーネ
「ッ!?」
私は茂みの音の方にマグライトを向ける。
直後私も強烈な光を浴びて目を背ける。
?
「不用心ね……全く」
直後、私の動きを見逃さなかった相手は私の頭部に銃の砲身を密着させた。
ルザミーネ
「リーリエ、私を殺しにきたの?」
激しい逆光の中、サングラス型情報端末を装備したリーリエが見えた。
鮮やかな技、世界最高のスパイは今も健在で、私は手を挙げるしかなかった。
リーリエ
「任務には貴方の殺害はないから、安心しなさい」
リーリエはそう言うと銃を離す。
マグライトを下に向けると、まだ目は激しいショックで残像を残していた。
リーリエ
「結局日本に残ったわけか……貴方が好む電波帯だったから、まさかと思ったけど」
ルザミーネ
「それは迂闊だったわ……近くで傍受されていたなんて」
文明が崩壊して早1週間、今やそんな高度な技術は残っていないと思っていた。
正直私はなんの情報も得られていない、これはエージェントとしては致命的だった。
リーリエ
「貴方……よく生き残ったわね」
ルザミーネ
「必死だっただけよ、兎に角必死だったわ」
私はリーリエの様子を探って、相手の状況を探る。
リーリエは夜間迷彩を装備しており、今任務中である事が分かった。
ルザミーネ
「目的は常葉茂かしら?」
リーリエ
「うーん、外れ」
私はカマを掛けたが、彼女は乗らなかった。
というか、まずリーリエはどこの所属なの?
リーリエ
「私の目的は神々の王……」
ルザミーネ
「は? 貴方いつから宗教に?」
私は正直リーリエが冗談を言ってる物だと思った。
実際リーリエは言葉の魔術師、どこに真相が隠れているか私でも読み解くのは難儀する。
しかしこの時のリーリエはまるで嘘などついていないかのようなのだ。
リーリエ
「どうせ無駄だけど教えてあげる……もうすぐ神々の黄昏がやってくるわ……全て滅ぼされるの」
ルザミーネ
「オカルトね……馬鹿げてるわ」
PKMが当たり前になった今日でも流石に神々が世界を滅ぼすなんて信じる方がどうかしている。
リーリエ
「精々生き抗いなさい……終わりの刻まで」
リーリエはマグライトの光を消すと闇の中へと消えていった。
私は呆然と立ち尽くす。
リーリエは嘘を言っているようには思えなかった。
冗談でもない? 終わりってなんなの?
***
茂
「よーし、茜ー! 夕日に向かって走れ!」
茜
「……はい」
シェルター生活にもいい加減飽きた頃、今日もシェルターの近くで常葉君は今日も無闇にハイテンションさを見せる。
一方で相変わらず茜ちゃんはどん底の暗さだ。
セローラ
「今更スポ根はないでしょう、流行りませんよ」
茂
「なに!? ならば○イアンリーガーの素晴らしさを語ってやろう!」
美柑
「嵐巻き起こる、スタジアムにー」
ルザミーネ
「なんで知ってるのよ貴方達……?」
○イアンリーガーって平成初期の作品の筈なんだけど……。
常葉君もまだ産まれてない筈よね?
保美香
「……はぁ、それにしてもこのままではまずいですわ」
そう言って保美香は備蓄の在庫を確認したようだ。
まぁ資源って限りあるからね、関西方面に行けばまだ人間のテリトリーだし、きっと生活はなんとかなるだろう。
ただ今種族間の関係は最悪だ、常葉君と私なら受け入れて貰えるだろうけど、PKMは連合に降るしかないだろう。
そのどっちも選べないから彼らは苦境なんだしね。
茂
「ならば、遠征を計画する必要があるな!」
凪
「生活に必要な物資は多いが、手に入るか?」
ルザミーネ
「不可能じゃないと思うわよ、ただ危険だけど」
私は人類とPKMの緩衝地帯なら、今だ物資が残っている可能性を話す。
すると彼らは何が必要か話し合い、そして準備を進める事になる。
ルザミーネ
「私は少し出かけるわ」
私はそんな常葉家を余所に山を登っていく。
目的は組織の跡地、十中八九リーリエは組織に属していると思っていいだろう。
そんな彼女がなぜ終末論なんて語り出すのか私は疑問でしかなかった。
山登りすることに2時間、私は目的の場所に到着した。
***
組織の秘密基地は山をくりぬいている。
中は強力なECM妨害でまともに電波が届かない。
私の目的はメインオーダールーム、組織が何を目指したのか。
その目的の場所は遥か地下で、手探りで捜すには流石に日をくいすぎた。
しかし12月も23日、遂にそこに到達したのだ。
ルザミーネ
「ここが組織の根幹」
私は今だ電源が壊れていない事を確認すると、ハッキングを開始する。
当然電源は入っていても部外者にはまともな情報は得られない。
だから持ち込めたピッキングツールを駆使する必要があった。
ルザミーネ
「これは……組織の研究?」
私は手当たり次第情報を探すと、まず目を引いたのは研究という文字だ。
研究は主にゲートの事について語られているが、その中に不思議な物が混じっている事に気が付く。
神の顕現の可能性……。
ルザミーネ
「組織まで神を信じるって訳?」
?
「信じるのではありません……存在するんです」
ルザミーネ
「な!?」
全く気配がしなかった。
私は振り返ると、白い祭儀服のような物を纏った小さな青い少女が目の前に浮かんでいた。
?
「そんな物は子供だましですよ」
瞬間、私の銃は不自然にねじ曲げられてしまう。
かなり強いサイコパワー、PKMか!?
?
「私の名前はアグノム、敵ではありません」
ルザミーネ
「かなり大物じゃない……敵じゃないって?」
私は使い物にならなくなった銃を捨てると、少女を見る。
少女は随分大人しそうな子で、上手くやれば利用できそうな危うさがあった。
流石に少女を懐柔しようとは思わないけどね!
アグノム
「神々の黄昏……それは我々が望むべき未来」
ルザミーネ
「貴方、もしかしてリーリエの関係者!?」
アグノム
「リーリエ……、その方の今の名はヒガナ。まぁ貴方の認識がリーリエならそれでも構いませんが」
ルザミーネ
「ヒガナ……」
相変わらずコロコロコードネームが変わる人ね。
まぁそれも暗殺を未然に防ぐ手立ての一つなのでしょうね。
アイツは優秀すぎて、どこの組織にも引っ張りだこだけど、それはそれだけ多くの組織に狙われているという証。
アグノム
「もう間もなく黄昏を迎える……宜しければご一緒しますか?」
ルザミーネ
「そうね……気になるもの、見させて貰おうじゃない」
彼女……リーリエはもう終わりだと言った。
無駄だと言った意味……それを私は知りたい。
アグノム
「では……行きましょう」
アグノムは強力なサイコパワーを放つと、私の身体が浮遊する。
そして天井が開かれると、そのまま真っ直ぐ直通の吹き抜けを飛び越える。
やがて、凄いスピードで建物から飛び出すと、目の前に昇る太陽が見えた。
いつの間にか日付が変わっていたのか……。
アグノムはゆっくりと降下すると山の頂上のヘリポートに着地した。
リーリエ
「……ルザミーネを連れてきたの?」
アグノム
「権利はあると思いました」
ヘリポートにはリーリエがいた。
リーリエは意外そうに私を見たが、直ぐに眼下に目を向けた。
リーリエ
「そうね、これで東京方面を見てみなさい」
リーリエは電子望遠鏡を渡してくる。
それはスコープのようだが、1千倍にもズームできる高機能なものだ。
しかも目線を検知して、勝手にフォーカスしてくれる。
私は最大倍率で見ると、あり得ない物が映った。
ルザミーネ
「なによアレ……空母が陸を歩行してる?」
リーリエ
「頭頂高120メートル、全長1キロメートル。人類軍が開発した最大の兵器よ」
それは私の知らない技術で出来ていた。
思えば対PKM人型兵器だって、私の知っている技術を大きく越えている。
これが私の知らない世界……!
アグノム
「虐殺です……でも、こうでもしないと王は覚醒しない」
アグノムちゃんは目を背けた。
恐らくエスパータイプだから、殺戮の思念を感受しているのだろう。
ルザミーネ
「王って?」
リーリエ
「この世界は王の創った箱庭よ……壊されるのは定めって所かしら」
ルザミーネ
「訳分からない……」
私は頭を抱えた。
やがて日が完全に昇ると、戦闘音が聞こえ始めた。
空には爆撃機まで飛び始める。
阿鼻叫喚……一言で言えばそれだけ。
アグノム
「う……く!」
アグノムちゃんは頭を抱えて震えた。
私はそっとその小さな身体を抱きかかえる。
殺戮の怨嗟がアグノムちゃんを押し付けているのだろう。
アグノム
「くる……来ます!」
やがて、空にとてつもなく巨大なゲートが開いた。
それは東京を覆えるほどの大きさがある気がした。
そしてそこから無数のPKMが顕現する。
ルザミーネ
「これが神々の黄昏!? ただ無茶苦茶じゃない! 殺し、殺されて! 巫山戯ている!?」
リーリエ
「そうよ、クソッタレなの」
私はリーリエにくってかかる。
胸ぐらを掴んでその顔を睨むと。
ルザミーネ
「アンタならなんとか出来たんじゃないの!? こんな巫山戯た事しても誰も幸せになんて!」
?
「そうね……幸せになんてならない、だから王は学ばないといけないわね」
突然だった、後ろから妙な女が空間に穴を開けて現れた。
リーリエ
「ギラティナ、これが次の週の糧になるのね?」
ギラティナ、そう呼ばれる女性はニコリと笑った。
やがて、世界が光に変わる。
それは私達全てを飲み込もうとしていた。
ルザミーネ
(こんな……こんな甲斐の無い人生なんて私は認めない!)
だけど、その想いさえも光に変わってしまうのか。
でも、もし可能なら誰かがこの想いを拾ってはくれないか?
私は完全に光に変わるその時まで―――諦め―――な――――――。
突ポ娘 サイドストーリーズ
月の章 ルザミーネとリーリエ