星の章 祝福を
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・百代絵梨花は出産を間近に迫っていた。
乳母になった経験など当然ないセローラは戸惑いながらも奮闘する。
そこに常葉宅の者も混じり、出産は始まる。
果たして無事赤ちゃんはこの世に祝福されるのか。
突ポ娘 サイドストーリーズ
星の章(sirius) 祝福を
セローラ
「ふんふんふ〜ん♪」
アフターコロニー歴196年12月。
セローラ
「私が突っ込むのもなんですけど実際は2019年6月です」
絵梨花
「セローラちゃん?」
私の名はセローラ、ランプラーのPKMで今は百代絵梨花を雇い主にハウスキーパーをやらせて頂いている。
今は絵梨花さん、妊娠も末期で家では絶対安静が続いていた。
だから家事の全ては私が行い、今は割と多忙で茜ちゃんで遊べない日が続いていた。
セローラ
「よーし、タコとキュウリの酢漬け完成〜」
私は今も着々と晩御飯の準備を進める。
後一品を足せば、晩ご飯は問題なし。
ただまぁ問題があるとすれば……。
セローラ
「それにしてもだんな様、相変わらず帰りが遅いですねー、こりゃ絶対浮気してますねー」
絵梨花
「あの、冗談でもそう言うこと言うの止めてね?」
セローラ
「でもでも〜、ほら常葉さん宅を見てみましょうよ〜、仲睦まじいですよ〜?」
茜ちゃんは今妊娠期に入っている。
茂さんと籍を入れた茜ちゃんも今やママさんだ。
これもあって最近ちょっかいかけ辛いんだよねぇ〜。
絵梨花
「あの人は仕事を頑張っているから……」
セローラ
「だといいですが」
私は最後の一品を作り終えると、奥様と一緒に御飯を頂くことにする。
セローラ
「頂きます」
絵梨花
「頂きます」
住めば都という言葉があるが、この世界に住んで8カ月、すっかり日本式に馴染んでいた。
出し物も和食が中心になってきたし、手を会わせるのもこの国らしい。
慣れていくのね……自分でも分かる。
***
食事、掃除、洗濯。
全て私が行っているが、それがなんだか私らしくない。
私と言えば、失職しない程度に手を抜いて楽をするのが私スタイル。
特段頑張っているつもりもないけれど、気が付いたら奥様にも全権を任されているし、結局無難にハウスキーパーになっていた。
セローラ
「う〜ん、重い」
私は買い物袋を持って帰り道、この時間だけは一人だ。
そこで私はあの二人を発見する。
保美香
「重い重い〜♪」
茜
「幸せの重さ〜♪」
同じように買い物帰りの茜ちゃん達だ。
茜ちゃん達が持っている荷物の量は私の比ではない。
まぁ何せ住んでいる人数が違うからだろう。
セローラ
(それにしても幸せそうに歌っているなぁ)
茜ちゃんは少しだけお腹が張っており、着実にお腹の赤ちゃんは育っているようだ。
それは正に至上の喜びのようで、私はつい後ろから母乳を搾る勢いで揉みたくなってしまうが、すっかり自制心のついてしまった私は直ぐに諦めた。
セローラ
(我ながら日和ったわねぇ……)
半年前までなら迷わず荷物も投げ捨てていたはずだ。
それが出来なくなったのは間違いなく日和った証。
保美香
「あら、セローラじゃないですか、久し振りですわね」
セローラ
「レ〜レレのレ〜、お出かけですか〜?」
茜
「それは箒を持ってないとダメ」
セローラ
「う〜ん、ネタ振った私が言うのもなんだけど茜ちゃん何歳なの?」
このネタもう平成終わってるのにいいのかなぁ?
私は苦笑してしまうが、随分余裕あるようで茜ちゃんもドヤ顔だ。
セローラ
「その荷物の量、多すぎません?」
保美香
「1週間分ですもの、当然ですわ」
茜
「家族が多いから、でもそれが幸せ」
セローラ
「茜ちゃん、笑顔が増えたね」
元々初めて会った頃は本当に無口でひ弱な子だった。
それが徐々に明るくなって、一時期本当にどん底って位暗い子になった時期があった。
ああ、そう言えばあの頃から茜ちゃんの反撃がアグレッシブになったんだよねぇ。
茜
「ふふ、ご主人様と一緒に子供を育てられるって本当に幸せ」
保美香
「そう言えば、絵梨花さんはもうそろそろなのではないですか?」
セローラ
「そうなんですがね〜、中々来ませんね〜」
人間の妊娠期間って大体266日、ウチもそろそろの筈なんだけど。
茜
「お母さんになるってどんな感じなんだろう……」
茜ちゃんはそう言うと、優しくお腹を擦った。
無事経過が過ぎれば、年末くらいには茜ちゃんもお母さんだもんね。
私はどちらかと言うと不安だけど、茜ちゃんは夢一杯。
まぁ家族が多い分、茜ちゃんの方が負担は少ないよね。
こっちは奥様と二人で世話することになりそうだから、後々の大変さを考えると早くもマタニティブルーになりそうだ。
保美香
「茜がだんな様の妻になって、母親になる……受け入れたとはいえ、やはり複雑ですわね」
常葉家と言えば、結婚騒動。
突然茂さんが茜さんとの婚約を発表して、常葉家は大騒動になった。
かく言う私は元々本妻なんて期待してなかったから、そんなに動じなかったけど。
もう気軽に茜ちゃんを弄れないって方がショックだったかな。
でもまぁ常葉家も一家離散なんて事態にはならずにすんで本当に良かったろう。
セローラ
「あ、私1階なんで」
気が付くと、家は目の前だった。
茜ちゃんたちは4階で、私は1階なので躍り階段で別れる。
茜
「ん」
保美香
「これから大変でしょうけど、頑張りなさい」
セローラ
「あはは♪ セローラちゃんはそんなに強く無いので、皆さんの力も借りちゃうかも♪」
私は笑顔でそう言って別れると、家を目指す。
家は出産後を考慮して出口の近くを選んだ。
だから別れるとすぐ目の前が下宿先だ。
セローラ
「ただいま帰りました〜」
私は扉を開いて玄関を通ると、中の異変に気が付く。
いつもなら直ぐに返事をしてくれる奥様が返事をしてくれない。
セローラ
「奥様!?」
私は荷物を放ると、急いでリビングに向かった。
絵梨花
「うぅ……せ、セローラちゃん……?」
奥様はリビングで苦しそうに倒れている。
更に奥様の周りが水浸しの状態で、私はその事態を理解した。
念のため視界を魂を見る目に切り替えると、奥様の中に二つの魂を確認する。
セローラ
「は、破水ですか!? ちょ、お医者さんは!?」
私は今奥様の置かれている状況を理解した。
出産だ、買い物に出かけている間に始まってしまったのだ。
だが、本来は助産師さんを呼んで行うはずだった自宅出産だが、今からで間に合うの!?
私はどうすればいいか分からずテンパってしまう。
セローラ
「そうだ! 少し待っててください!」
私は霊体を駆使して、最短で茜ちゃん達を追う!
茜ちゃん達はまだ家には辿り着いていない。
私は物体を通過して、二人の真後ろに辿り着くと、二人は振り返った。
茜
「セローラ? なにか忘れたの?」
セローラ
「お願いです……! 助けてください!」
***
出産は始まった。
奥様は苦しそうに身を捩って、呻き声を上げる。
保美香
「全くタイムリーですわね!? 茜お風呂場でぬるま湯を用意して!」
茜
「分かった……!」
セローラ
「私はどうすれば!?」
保美香
「まずは掛かり付けの助産師を呼んで! それから絵梨花さんの手を握って励まして!」
セローラ
「わ、分かりました!」
私は命令されると直ぐに動き出す。
まずは家の電話で病院に事態を説明する。
病院は直ぐに来てくれるとの事だが、間に合うだろうか。
茜
「お湯、持ってきた……!」
保美香
「ハンドタオルは……あった!」
保美香さんは奥様の汗を拭いていく。
私は意識朦朧とした奥様の手を握って励ました。
セローラ
「奥様! 頑張ってください!」
絵梨花
「うぅ……! 赤ちゃん……!」
保美香
「全く出産に立ち会うなんて初めてですわ……!」
茜
「セローラ、夫は?」
セローラ
「あ、忘れてた!?」
私は慌てて、旦那様へ電話を入れる。
茜
「保美香、血……!」
保美香
「助産師さん、間に合いそうにありませんわね……!」
奥様は膣道が広がり、赤ちゃんがもうすぐ出そうである。
絵梨花
「ううう……!」
茜
「赤ちゃん……出てきて!」
保美香
「頑張るのよ!」
セローラ
「奥様……赤ちゃん、どうか祝福を……!」
***
難産だった。
赤ちゃんは中々出てこれず、出てきたのは丁度助産師さんがやってくる5分前だった。
経験0の私達はヘトヘトになって、保美香さんに勧められて赤ちゃんを産湯に浸けると、赤ちゃんは大きな声で泣いたのだ。
奥様はそんな我が子を見届けて気絶した。
助産師
「暫くは大変よ、セローラさん、絵梨花をしっかり支えてね?」
セローラ
「はい、いきなりなのに来てくれてありがとうございます、紫苑さん」
助けて頂いたのは奥様の旧友で産婦人科で働いている紫苑菊子さんだ。
たまたま同じ街に住んでおり、そこで再会した奥様たちは、この日のことをいつも話していた。
へその緒を切ると立派な男の子だった。
保美香
「それにしてもこんな時に夫が不在とは、情けない!」
菊子
「言ってやんな! アイツはアレで絵梨花に一途だ……少ない収入なのに父親になろうなんて今時立派だよ」
紫苑さんは旦那様とも知り合いで、大学時代は先輩と後輩の関係だったようだ。
菊子
「それじゃ私はもう行くわ、お大事に」
紫苑さんは荷物を纏めると出て行った。
私は赤ちゃんを毛布で包んで、優しく抱きかかえる。
赤ちゃんの魂は純真無垢で、汚れのない美しい魂だ。
しかし人はその魂を汚して生きていく。
そんな汚れた魂の最期を看取るのがランプラーの宿命。
だけどこうやって誕生に立ち会い、私は真逆の行為を行っている。
セローラ
「赤ちゃんに祝福を……」
私が優しく微笑みかけると、赤ちゃんは答えるように笑った。
少し遅生まれだから大きな赤ちゃんで、これからが大変だろうけど、ブルーになんてなってられないからね!
突ポ娘 サイドストーリーズ
星の章 祝福を end