突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 サイドストーリー
悪魔の章 それでも目指す物があるから

悪魔 2.000071%
・杏は今日も勉強に勤しむ、来期からは大学にも編入される事が決まっていた。
しかし未だPKMと人の溝は深い。
果たして世界は彼女を受け入れてくれるのか?

突ポ娘 サイドストーリーズ
悪魔の章 それでも目指す物があるから




 「うーん」

私は参考書を読みながら、頭を唸らせる。
リビングにはいつものメンバーがおり、ほむらはあきれ顔で顎に手を当てつつ私に言った。

ほむら
 「お前良くそんな難しい本読むよなぁ、大学受験受かったんだろう?」


 「入試を抜けただけよ、その後の授業について行けなければ意味がないでしょ?」

私は今年PKM法の改正により高校大学の受験に受けられるようになったため、その受験を受けて見事合格した。
最も今の時代、大学側も生徒不足に悩ませている状態だから、合格できて当たり前なんだけどね。
私が受けたのもそこまで高学歴の所じゃないし、ここまで頑張る必要もないのかも知れない。
それでも殆どの子は12年以上学校教育を受けているわけで、ほぼ0からスタートなんだから並の勉強じゃ追いつけない。
私が受けたのは教育学部、今後教育者を目指す学部だ。
当然ながらその専門性は私達PKMには過酷。


 「入学って来週からでしょ、準備も大変よね」

そう言って白は今もノートパソコンのキーボードをずっと叩いている。
頭で言ったら白はかなり良い。
何せ今も論文作りに勤しんでおり、私とは目指している場所が違う。


 「白が論文の提出しようとしてるのってアメリカよね?」


 「○atureよ、ここに掲載されれば、最も確実に私の夢に近づけるわ」

白が今纏めているのはPKMの今後についての論文。
そして白がやりたいことと言うのは、PKMが持つ力の制御理論の確立。
ある組織の立ち入り調査により、白はPKMの力を制限して、ほぼ人間同然にする技術を見つけた。
それは特に白にとって大きい物だった。
ミカルゲという種族の特徴として常に重たい御影石と一緒にいなければならない。
だが、もしその枷が外せるならば、大きく出来ることが変わる。
同様に力によって不幸になるPKMに対しての希望にもなるはずだ。


 「私の夢はポケモンの能力制御装置の小型化……でも、これは個人じゃ無理……だからそのためには実績がいる」

真莉愛
 「偉い偉い、そのために英文で論文を纏めるなんて中々出来ないわよ」

そう、白の凄いところは論文を英文で書いていること。
私とは頭の出来も違うんだから当然だけど、目指すレベルがここまで違うのも複雑だわ。

真莉愛
 「ささ、二人とも夜更かしはそこまで! 特に杏は根詰めすぎよ!」

そう言うと真莉愛は手を叩いて、皆を散らせる。
時刻は既に深夜を迎えている。
真莉愛はもうお風呂にも入ったようで、その手にはビールが握られていた。
真莉愛の仕事は不定期な上に緊急出動もいつあるか分からないのにアルコールだなんてと呆れるが、真莉愛は気にする様子もない。
流石に少しほむらも呆れ気味で、ピッタリ真莉愛の後ろ斜めに寄りそう愛紗も溜息を吐いていた。


 「りょ〜かい、お風呂に入ってさっさと寝させていただくわ」

私はそう言うと、着替えを持ってお風呂場に向かった。



***



1週間後、4月。



大学生1
 「おい、見ろよアレ、スタイル抜群じゃね?」

大学生2
 「でもPKMだぜ? 目も白目がねぇし、あの足見ろよ」

大学生3
 「PKM法ってまだ改正されて4カ月だろ? 俺たちなんて何年勉強したと思ってんだよ……」

大学生4
 「色々人間とは違うんだろう? 脳も案外違うんじゃないか?」


 「……っ!」

大学のキャンパスは当然人間の巣窟だった。
今年この大学に入学したPKMは私一人。
つまりそれだけ世間のPKMに向ける目は冷たかった。
人間達は私に奇異の目を向ける。
四本足、人間とは異なる目……どれも彼らからすれば化け物染みて見えるのだろう。


 (なによ……なによなによ!? アンタたちと私の何が違うのよ!? 私だって一杯努力した! 毎日毎日徹夜で勉強してやっと思いで大学に入ったんだ!)

私は元々頭が良かった訳じゃない。
初めてこの世界に来たとき、私はきっと獣染みていただろう。
PKMの中なら、私なんて珍しい存在じゃない
でも人間からしたら、私は化け物だ。

私は早足で講義の行われるホールに向かう。
その悔しさは表情には見せない。
だけど、内面では悔しさに泣いてしまう。
どうしてPKMと言うだけで偏見の目で見られないといけないのかしら?


 「あら? もしかして貴方も教育学科を受けて?」

ホールの入口に入ろうとすると、同じ部屋に入ろうとした女性と鉢会う。
女性は細身で小さな印象を受け、同じ大学生としては年下のように見える。
それは童顔で赤いフレームの眼鏡からもそう言う印象を受ける。

女性
 「私は梔子杏子(くちなしきょうこ)、貴方は?」


 「わ、私は御影杏……です」

私はその人懐っこそうな女性に戸惑いながら、自己紹介すると彼女は口に手を当てて驚いた。

杏子
 「まぁもしかして名前の字は木の下に口?」


 「ええ、杏の木の……」

杏子
 「同じね! なんて偶然かしら!」

この子、随分親しげに話してくるわね。
この子は私に何も警戒してないのかしら?
これでもアリアドスと言えば、子供は泣いちゃうようなポケモンだったんだけどね。


 「あ、あの、入っていいかしら?」

私は流石にウンザリして、そう言うと彼女はハッと私を足止めしていることに気が付く。

杏子
 「あら、ごめんなさい!」

そう言うと彼女は道を開けた。
私は梔子さんの前を通り過ぎると近くの座席に座る。

杏子
 「隣良い?」


 「どうぞ……?」

梔子さんは私の隣に座ると私の顔を見てニコニコしている。
私はその反応に戸惑ってしまう。


 (なんなのこの人? まだ何かある訳?)

こんな事初めてだ。
嫌われる事もあっても、こんなに好意を持たれるのは初めてだ。
一体この子何者なんだろう?

杏子
 「ねぇ、杏さんって呼んでいいかしら?」


 「いいけど……」

梔子さんは、早速名前呼びだった。
この人はPKMに偏見がないタイプなのかしら?
彼女は随分親しげに接してきて、私は空笑いしてしまった。

杏子
 「良かった! 私の事は杏子って呼んでいいからね!」


 「それじゃ、杏子?」

杏子
 「うん!」


 (調子狂うわ……)

この人のペースを乱す感覚は真莉愛に近いのかしら?
物怖じしないと言うか、あまりいないタイプなのは確かよね。

私はそろそろ教材を出していく。
ちょっと隣を見ると、彼女も可愛らしい筆箱を取り出して、続いて教材を小さなバッグから取り出した。
見た目こそ幼い感じだけども、教育学部に入っただけに、中身は優秀なのかしら?


 (……でも、コイツも心の中じゃ私を笑ってるのかしら……人間の心なんて分かったもんじゃない、優しげな顔の裏に酷薄な笑みを浮かべているかもしれないし……)

て……駄目だ。
私は首を振ると、そういう邪険は捨てる。
誰も信じられなければ、それがどうして教育者になれるっていうのよ!
今は駄目でも、私自身の評価を変えるのも私じゃない。

やがてホールには講義が目当ての生徒が集まり、先生は壇上に上がった。
私はペンとノートを持ち、必死にその言葉を聞いた。
兎に角今は自分の事で精一杯なんだ。



***



私は愛紗のように真莉愛に一生を尽くそうって訳でも無い。
白のように天才でもないし、ほむらのように馬鹿にもなれない。
それでも私は証が欲しい……この世界になりたい訳でもなかった人間になった意味、その証を。
だから私は家に帰っても勉強は続いた。
本当に分からない問題が出てきても、なんとか解法を見つけて必死について行こうとする。
明日も受けたい講義は一杯ある。



真莉愛
 「……あら? 杏ったら」

暗がりのリビングで、そろりそろりと書斎から現れた真莉愛はそこで勉強の途中で力尽きて眠っていた杏を発見した。

真莉愛
 「相変わらず頑張り屋なんだから」

真莉愛はいつも杏のことを見ていた。
彼女は収容所卒業の時もこうやって努力を惜しまなかった。
そして今も益々努力に勤しみ、ただ真っ直ぐ進んでいる。
でもそれが無茶だと気付かない事は、真莉愛も苦笑を浮かべる。
不眠の特性を持つ杏とはいえ、疲れれば眠る……つまりそれ程努力をしたのだろう。

愛紗
 「ここで寝たら風邪を引くわよ」

真莉愛
 「寝かせてあげましょう、毛布を掛けてね」

愛紗
 「イエス、マイマスター」

真莉愛
 「まぁあんまり愛紗が近くにいると悪夢を見たとき、文句言われるだろうしね」

愛紗
 「酷い!? ナイトメアは制御できますよ!?」

真莉愛は部屋から毛布を持ってくると、それを杏に掛けて寝室に戻った。


 (杏……貴方は日本人の12年を追いかけているの、それは大変なことよ……小学校、中学校、高校……どれも行ったこともないのだから)

しかし、それを乗り越えて頑張る杏は愛おしい。
もしかすれば杏は真莉愛が抱くPKMの希望だから、そうなのかも知れない。



***




 「……はぁ」

次の日、昨日の疲れが取りきれない中、身嗜みだけは整えて大学に向かった。
大学へはバスで通学しており、私は手すりを掴みながらぼんやりしていると、突然彼女は声をかけてきた。

杏子
 「杏さん? 奇遇ね!」


 「杏子? 貴方もバス利用なのね」

杏子
 「うん、案外近くに住んでいたのね」

そういうことになるか。
杏子は私の隣に来ると、昨日同様にニコニコしている。
喜怒哀楽がはっきりした子みたいだけど、それも喜びばかりが突出している気がするわね。


 「ねぇ、貴方いつも笑っているけど、何が楽しいの?」

私は昨日までは遠慮していたが、流石にこれが毎日続くかと思うと、その理由を聞いた。

杏子
 「うーん、そう言えば、杏さんはどうして教育学科に?」

しかし彼女は逆に質問で返してきた。
やっぱりどうもペースを崩されるわね、私は埒があかないので素直の理由を説明する。


 「私はPKMでも後発にやれば出来るんだぞって事を教えたいの、小学校でも中学校でもいい……先生になってそれを教えたいの」

杏子
 「そうなんだ……自分の考えを立派に持ってるのは凄いなぁ。私はね……恩師の教えなの。昔の私は暗い子でね……自殺まで考えちゃった……でもね恩師は厳しい人だけど私を絶対に見捨てなかったの……だから私は恩師みたいになりたくてずっと笑顔で先生目指してるの!」


 「アンタも……」

目的は違う、きっと意味も違う。
でも私とコイツは同じなんだ。
私も杏子も決して強くはない。
人間だって、死にたいって思うことだってある。
私が鬱になるように、杏子もそうだった。
でもお互い変えたいんだ。
なんだ、こいつ立派じゃん。


 「貴方こそ立派じゃない……」

私は微笑んだ。
ある意味初めて微笑んだかもしれない。

杏子
 「ふふ、なんでか分からないけど杏さんって他人の気がしなかったのよね」


 「あら、でも見た目は貴方子供っぽいわよねぇ、身長も低いし、150位?」

杏子
 「ひゃ、160センチあるもん! 杏さんが美人過ぎるの!」


 「当たり前でしょう? PKMだからって美貌は気にしてるんだから」

私達は笑い合った。
なるほど、この子は他とは違う、もしかしたら真莉愛より気が合うのかも。


 (正直学校って鬱だった……偏見はまだ多いし、元からアリアドスは嫌われ者、諦観もあった……でも違うんだ、だからこそ変える意味がある! 自分も! 世界も!)

私は心の中に何かがストンと落ちて嵌まった気がした。
そうよ、変えるの!
そのためなら大学を首席卒業するくらい気合を見せないとね!


 「杏子、お互い今日も頑張りましょうか!」

杏子
 「うん、元気出さないとね!」



突ポ娘 サイドストーリーズ
悪魔の章 それでも目指す物があるから


KaZuKiNa ( 2019/07/12(金) 23:20 )