突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 サイドストーリー
死神の章 死の神

死に神 2.000931%
イベルタルは人知れず生きる。
生殺与奪、彼女の前にそれは無意味……。
仲間の神々にすら怖れられる死の神、彼女の本性を描く正真正銘スピンオフ!
ぶっちゃけ作者のお気に入りだからねじ込んだ!

突ポ娘 サイドストーリーズ
死神の章 死の神



神にも様々な役割がある。
時の神ディアルガ、空間の神パルキア、太陽の神ソルガレオ、月の神ルナアーラ、陸の神グラードン、海の神カイオーガ、真実の神レシラム、理想の神ゼクロム、生命の神ゼルネアス。

そして死の神イベルタル……以上を神の座に並ぶ十柱という。
私イベルタルはその十柱を統括する創世の神アルセウスの命令を受けて動くヒットマンをしていた。

その対象は多岐に渡る。
一帝国を牛耳ろうとした野心家、神々にも匹敵する魔王、真理に気付いた探求者。
元々は神の座にいた堕天した神もその対象だ。
私がする事はいつもシンプル、ただ死を与え、速やかに撤収する。

しかしそれも終わりを迎えた。
神々の王は神の座の解散を宣言し、同時に全ての神を人の座へと降ろす決定をしたのだ。
私は文句も言わずただ受け入れた。
今や私は死の神ではない。



***




 「おい! いたか!?」


 「捜せ! まだ遠くまで逃げていないはずだ!」

イベルタル
 「……」

ここは確かマナウスと呼ばれる街。
怒号だ、現地人と思われるスーツの男たちがなにかを捜して走り回っている。

少年
 「はぁ、はぁ!」

肌の黒いこの地域特有の少年が細い路地に入る。
その少年は私を見て足を止めた。
その後ろ、マフィアと思われる二人組が少年を見て、路地へと入ってきた。

マフィア1
 「見つけたぞ!」

少年
 「あわわ……!」

マフィア2
 「なんだそこの異様な格好の女は?」

イベルタル
 「……」

私は少年とマフィアを交互に見た。
恐らくこの少年、盗みを働いたのだろう。
ただ相手を間違えたのだな、それで制裁のために追われている……か。
マフィアは高圧的に近寄ると、少年の胸ぐらを掴む。
私は無視してそれらとは反対に路地の出口に向かった。
しかしもう一人のマフィアが私の肩を掴む。

マフィア2
 「待て! 旅行者のようだが運が悪かったな!」

イベルタル
 「汚い手で触れるな」

私はその汚い手で触れた男から命を吸い取る。
非常に不味くちっぽけな命だが、男は即座に死後硬直に陥る。

マフィア1
 「おいマルコ? 何してやがる!?」

マルコと言うのか、その男は私の肩を掴んだ時点で死んでいるが、呻き声も上げなかった事から死んだとは気づいていないようだ。
私はその固まった手を払うと、マルコは無造作に後ろに倒れた。

マフィア1
 「なっ!? マルコに何しやがった女ーっ!?」

イベルタル
 「!」

激昂した男は私に銃を向ける。
しかしその行為は私そのの男の命も奪わせた。
男の生命エネルギーはエクトプラズムのように見え、私に吸収されると、私に銃を向けたまま男は死後硬直した。

少年
 「あ!? あの! お姉さん! 助けてくれてありがとう!」

イベルタル
 「……」

私は無視して路地を出る。
助けたんじゃない、路傍の石を蹴り飛ばしただけだ。



***



数週間後、アメリカ某所。
一切光を閉ざした暗闇の中で、一枚一枚壁に映像が投射される。
そこに映っていたのは赤黒の女だった。


 「身長180センチ、体重は不明。少ないながら目撃例は世界同時多発的に発射されたICBMの撃墜を確認」


 「専門家の見解はイベルタルというPKMだと判断しているな」

そこはアメリカのPKM研究所。
今や世界中で10万を越えるPKMが確認され、その危険度も様々ながら、先刻ブラジルでとある有力マフィアのファザーが暗殺されるという事態が発生した。
それ自体はなんてこともないが、それを行ったのがこのイベルタルなのだ。
コードはデス、その死という概念がつい先日にアメリカに入ったとキャッチされたのだ。

インターポール職員
 「アメリカ入りの理由が分からんとな……」

軍人
 「徹底的に監視しろ、ただし刺激するな!」



その不吉の象徴がアメリカで発見されたのは本当に偶然だった。
メキシコとの国境線を越えたデスを入管職員が発見し、それがペンタゴンの耳に入ったのだ。



***



イベルタル
 「……」

ニューヨーク、世界の坩堝と呼ばれる場所には人種もPKMもない。
しかしこの国の諜報官は中々優秀らしい。
常に二人以上が私を監視している。

私は……ここに来た理由を思い出す。
そしてある者が住むスラム街のアパートに向かった。
目的の部屋、大凡人の住みかには見えない場所のネームプレートには「聖(ひじり)」とある。

イベルタル
 「……入るぞ」


 「どうぞ」

中の者に許しを取ると、歪んで壊れそうなドアを開ける。
中は殊更に狭く、ベッドと小さな机しかない。

イベルタル
 「久し振りだなゼルネアス……いや、今は聖か」

中にいたのは大きな角を持った女性だ。
私とは双子の関係になる神の中でも古株。
今は住んでいる家とは対称的にそこそこ身なりはいいようだな。


 「2年ぶりね……貴方はどう?」

イベルタル
 「どうもなにも、生き方は今更変えられない……お前のように器用じゃないんでな」

聖はそれを聞くと笑った。
聖は人の座に降りてから私と同じように世界を転々としたが、やがて医者を志してこのニューヨークに落ち着いた。
今ではスラム街で低所得者のための医者として、地域に根を張ったそうだ。

イベルタル
 「お前の力を最大に活かせば、こんな貧しい生活を送る必要もあるまい」


 「駄目よ、それじゃこの地域の人達は救えないもの」

彼女の机にはボロボロの医学書が一冊置いてある。
あくまでもPKMとしてではなく、人としてこの世界を生きているようだ。


 「ホリィさーん!」

突然、窓の外から叫び声が上がる。
聖は窓から上半身を迫り出すと応えた。


 「どうしたの!?」

アパートの下にいたのは少年だ。
少年は随分慌てているようで、聖を確認するとまくし立てた。

少年
 「ホリィさんダグが! ダグを診て!」


 「ダグが!? 分かった直ぐ行くわ!」

聖は直ぐに立ち上がると、荷物を纏め始める。


 「貴方をマナウスで発見してわざわざ来て貰って悪いけど、直ぐに出るわ!」

イベルタル
 「まだ呼ばれた理由を聞いていない、ついて行こう」

私はそう言って扉に手をかける。
しかし建て付けが悪く、強く押すと……。

ガタン!


 「あ……」

イベルタル
 「……」

扉は壊れた、私はドアノブだけを持ってただその場で無言で佇む。
見事におんぼろの扉は枠から外れて、ゴミとなったな。

イベルタル
 「弁償する……」


 「どうせそんなお金無いでしょ? いいわよ……どの道壊れるのが定めだから」

聖はそう言うと、扉を壁に建てかけてアパートを出る。
アパートの入口には先ほどの少年がおり、聖の姿を確認するとしきりに「Harry up(急いで)!」と叫んでいる。
私達は少年の先導について行くと、辿り着いたのは裏びれた教会だった。

少年
 「中!」

こっちでは一般的な十字教の教会、だがお国柄を考えれば所詮スラムの教会という感じだった。
中も完璧な調度品は一つも無く、礼拝者も今の所いないようだ。
そのまま懺悔室の奥へと進むと、個人部屋に案内された。

神父
 「おお、ミセスホリィ! ダグが!」

アフリカ系黒人の神父は聖を見かけると、その手に十字架を掲げた。
ベッドには中南米系の少年が熱を出して眠っている。


 「この症状は?」

イベルタル
 「……」

私はその少年の命の程度を知ることが出来る。
同様に聖も同じ能力を持つが、この少年の命のキャパシティが見えているだろう。


 「……これは、私の持ってきたアンプル剤だけじゃ……」

イベルタル
 「おい神父、私は宿無しだ……駄賃代わりに一つ請け負うぞ」

神父
 「は? そう言えば貴方は?」

私は少年の命のキャパシティを占有する別の生命体の命を奪った。
それは微少なコロイド光だが、確かに私は吸収する。


 「イベルタル……貴方どうして?」

イベルタル
 「……」

私は何も答えなかった。
ダグとかいう少年が掛かったのはペスト(黒死病)だ。
この周囲一帯の環境は悪く、ニューヨークのような都市部でもドブネズミからの感染報告はある。
決して世界レベルで診れば珍しくもない。
そういう点では聖が驚いたように、私に少年を助ける義理はない。
実際2年前までなら無視してただろう。

少年は熱っぽさも和らぎ、少年は安らかな吐息を上げた。

神父
 「一体なにを? まさか神の御業を!?」

イベルタル
 「イチイチPKMの能力に、そのいう存在を当てはめるな」

私は少しだけ不機嫌さを顕わにすると、神父は慌てて頭を振った。

神父
 「兎に角、ダグを助けて頂きありがとうございます。ここは教会ですので、宿が無ければいつでもどうぞ」

イベルタル
 「……感謝する」



***




 「貴方、少しだけ変わったわね……」

イベルタル
 「お前は激変したがな……ところで、何故この地の奴らはお前をホリィと言うんだ?」

治療が終わって1時間後、教会の控え室で私は改めて旧友と親交を深める。
今頃神父は懺悔室に入り、少年はダグの傍を離れないだろう。


 「日本語で書くと聖なるで聖(ひじり)、これを英語に訳すとホーリィ、だからホリィよ」

イベルタル
 「言語圏か……ポケモンには無い概念だな」

ポケモンは言葉を必要としない種族だ。
ある意味言葉を得たこともポケモンが人類化している証。
とある研究者の論文では人間とPKMのハーフは50%で決まるらしい。
という事はPKMの数は徐々に減少傾向に入る、1000年もすればPKMなんて存在しないんだろう。
何故ポケモンの人類化が始まったのか、それは王にすら分からない問題。
恐らく全く別の世界の影響を受けて、概念に変化が産まれたのだろう。
職業柄世界移動は多いが、人類化の特異点とは今だ出会った事は無いな。


 「やっぱ変わった……あなた人間らしくなった」

イベルタル
 「変わるさ、神の座から降ろされて2年……変わらない奴の方が少ないだろう」

私は少し皮肉って言うと、聖はクスクス笑う。
きっと誰かを思い出したのだろう。


 「アルセウス様に似ていたわね」

イベルタル
 「仕事上一番付き合いが長かったからな……」

アルセウスは実質私の上司だった。
出動命令を降すのはアルセウスで、私はただマシーンのように命令に従った。
その長さは有に1000年を超えている。
実際気の遠くなる怠惰な神の座に比べ、この世界は猥雑で変化に溢れすぎている。
無未漂白された神には毒にもなり得る世界だ。


 「イベルタル……明日日本に渡って欲しいの」

イベルタル
 「なに?」

突然聖は真面目な顔でそう言った。
その顔は私に指令を出すときの表情だった。


 「詳しい話は現地で聞いて欲しいんだけど、アルセウス様絡みね」

イベルタル
 「……把握した」

あの方絡みという事は、単なるガキの使いでもなさそうだ。
聖は懐から飛行機のチケットとビザを取り出すと、私はそれを受け取る。


 「外に……多分FBIね、面倒を起こさなければ空港までスルー出来ると思うわ」

イベルタル
 「……聖」


 「なに?」

イベルタル
 「お前と久し振りに会えて良かった……」

私はそれだけ言うと彼女の前から姿を消した。
彼女は最後まで、和やかな笑顔を浮かべるのだった。



昔から私は命令があれば神でも殺すと、仲間にさえ怖れられた。
死の神というのはどの世界でも嫌がられる物で、私はそれに無感情でいられるほどマシーンじゃない。
心の中には何時でも憤怒や憎悪だってあった。
ただマシーンのように振る舞うのは日常になりすぎて、自分自身でさえ、本当の私が何所にあるのか計りかねる。

警官
 「ヴィランだ! 中核のPKMは……!?」

ニューヨークの中心、黄色いカラーが特徴のタクシーが飛んできて、現地の警察車両を踏み潰す。
完全武装した警官たちもやっかむ事件の中心には、ヴィランと言われる奴らがいる。

両肩から炎を上げる豚……2メートル越えの巨漢だが、大層の肥満体型で、警察を蹂躙して大喜びしている。

警官
 「くそぉ! 指名手配のブレイズか! ん……そこの女性そっちに行ったら!?」

私はただ荒野を行くように、空港への最短距離を進んだ。
警察の静止、目の前にはブレイズというヴィランネームを持ったエンブオー。

ブレイズ
 「ぶふ? おねーさん、ボクのファンかな? ぶふふ! 有名になってきたね!」

イベルタル
 「どけ、そこの豚。邪魔だ」

ブレイズ
 「ぶ、豚ぁ!?」

ブレイズは驚きの余り身体を大きく仰け反らせるが、ギリギリで倒れず体勢を元通りにすると身体を熱で上気させた。

ブレイズ
 「豚じゃない! 俺はブレイズ様だぁぁぁ!」

ブレイズとかいう豚は激怒すると、炎を周囲に撒き散らした。
私は苛立ち、豚のどこまでが首かわからない場所に腕を突き刺す。

ブレイズ
 「ぶふ!?」

イベルタル
 「……ふん」

私は直接触れる方が、より速く生命力を吸い取れる。
豚は見る見るうちに炎を弱めて衰弱化、私は残りカスとなった豚を警察の方に投げ捨てる。
その一方的な光景を見た警察は銃を下ろし、呆然としていた。

警察
 「な、なんて奴だ……軍隊すら手を焼いたブレイズを……あっという間に……」

警察
 「あれ、先日報告に上がってたデスじゃないのか!?」

警察
 「謎のヒットマン、ヒーローでもヴィランでもない……デス!」

私は警察を横目に空港へと急ぐ。
豚は16分の1の生命力でギリギリ死んではいない。
後は刑務所とやらで後生を大事にすることだな……。

イベルタル
 (不味い命だ……すっかり美味しい命にはありつけていないな)

あの豚、生命力だけなら人間を圧倒していた。
だが量があるだけで実に不味い。
私はそれなりにグルメだし、喜怒哀楽だってある。

だが周りは私をマシーンだと評する。
仕事なら殺すが、プライベートなら気分次第だ。
こんなマシーンがいるか? 私はイベルタル……名前はまだ無い。
世界中にPKMが溢れ、聖のように貧しい者のための医者になろうとする者もいれば、ブレイズのようにただ快楽を求める者もいる。
PKM全体が、この世界でどのような生き方を選ぶのか……それはおぼろげながら見えてきている気がする。

イベルタル
 (日本か……一応王にも挨拶するべき、か)

等と考えながらも、結局私はその日暮らしで、明日の予定もロクに組み立てず穀潰しに生きるのだった。



突ポ娘 サイドストーリーズ
死神の章 死の神 end


KaZuKiNa ( 2019/07/10(水) 20:21 )