突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 サイドストーリー
運命の輪の章 ギラティナに花束を

運命の輪 1.889267%
・ギラティナはある命令を受けて、戒めを解かれた。
しかしその命令に疑問を覚えた彼女は本来とは異なる選択肢を選んでしまう。
それは黒幕ですら読めなかったIFであった。

突ポ娘 サイドストーリーズ
運命の輪の章 ギラティナに花束を


ギラティナ
 「……」

私は足のない身体で、破れた世界を飛ぶ。
この世界は意味の無い世界だ。
私以外に生き物はいないし、どこかの世界に反応して現象が起きるだけ。
でも、その日は違ったんだ。
あの人が……、私にとって愛憎入り交じるあの方が私にある命令を下した。

ギラティナ
 「3つの卵と共に神々の黄昏を遂行しろ……か」

私は破れた世界に開いた穴に飛び込むと、視界は乱雑で光に溢れた世界に到着した。

ギラティナ
 「足だ……久し振り」

私は顕界した事で、その姿をアナザーフォルムに変え、周囲を伺う。
そこはビル群で、随分私が知る頃と世界が変わったみたいだ。

ギラティナ
 「私の任務はまず戦争に導くこと……でも、それって一杯人が死んじゃうのよね?」

私はこの世界に溢れんばかりの命を感じた。
眼下には多くの人が行き交い、ポケモンの姿も見られる。
だけど、あの方はこの世界を火で包めと言うのだ。
私はそれに恐怖と躊躇いを覚える。
しかしどの道選択肢など無いのだ……。

ギラティナ
 「どうする……えと、まずは卵を孵化させるんだっけ?」

私はあの方に渡された卵を3つ持っている。
それを大事に抱きかかえると卵に徐々にひび割れが入っていく。
やがて、卵から三匹のポケモンが産まれた。

赤い子
 「ここは〜?」

青い子
 「寒いです……」

黄色い子
 「あ……」

三人が私を見た。
私はなるべく微笑むと。

ギラティナ
 「私はギラティナ、あなた達の……お母さん、かな?」

産まれてきたのはそれぞれユクシー、エムリット、アグノムだった。
三人同時に産まれたが、ユクシーが長女でエムリットが次女となった。

ギラティナ
 「とりあえず……服を、服……」

私は丁度屋上でシーツがはためいているのを見つけた。
私はそれを申し訳なく思いながら取ると、裸の娘たちに巻き付けていった。

エムリット
 「わーい♪」

ユクシー
 「……これをこう巻くと、出来た。サリー」

アグノム
 「う〜?」

三人はまだ産まれたばっかりの性か、無邪気な反応で微笑ましい。
エムリットはもう笑顔でシーツで遊び、ユクシーは教えてもいないのにインドの服であるサリーを作っていた。
一番幼い感じのアグノムは、ぼーっとしながら空を見上げた。

ギラティナ
 「それじゃ、お母さんと一緒に行こうか?」

私は宙に浮くととりあえず目的を果たすため動くことにする。
しかし後ろにいた三人。

エムリット
 「う〜……えう!?」

アグノム
 「や〜、や〜!」

皆は飛ぼうとするが、まだ産まれたばかりの性か満足に浮遊することも出来ないようだ。

ギラティナ
 「お母さんがおんぶしてあげるから、ほら」

私は背中を降ろして乗るように言うと、まずはエムリットが嬉しそうに飛びついてくる。

エムリット
 「お〜! お母さんの背中大っきい〜♪」

ユクシー
 「ずるい……えい!」

続いてユクシーも乗ると、最後はアグノムだ。
だけどアグノムはどこか遠慮しているようで、中々乗ろうとしない。

ギラティナ
 「遠慮しなくていいのよ? ほら」

アグノム
 「う、うん……」

意を決してアグノムも私の背中に乗ると、私は立ち上がる。
三人はまだ小さく、直ぐには使い物にはならないだろう。

ギラティナ
 (おかしいよね……親の愛情も知らない私がこの子たちの親をやろうなんて……)

しかも彼女たちは最悪神殺しの爆弾になって貰う存在だ。
産まれる前から爆弾として生み出された憐れな子……だけどどうしてそれを道具扱い出来るだろう。
私は自らの不幸を呪うも、直ぐに頭を振って宙を飛ぶ。

エムリット
 「お〜、高いのだ〜♪」

ギラティナ
 「あ、ちょっとエムリット暴れないで!」

私はビル群をフラフラと飛び、三人が落ちないようにゆっくりと飛行するが、無邪気なエムリットが暴れ始める。
私は慌てて体勢を立て直そうとするが。

アグノム
 「ふえ?」

ギラティナ
 「!? アグノムー!?」

アグノムがズルリと背中からこぼれ落ちた。
私はその瞬間、血の気が引ける思いだった。
私は助けようにも後ろにはエムリットとユクシーを背負っていて、手も伸ばせない。
どんどん頭を下にしてアグノムが落下していく。



***




 「……うーん、たまに家事をするなんてのも悪くはないか」

俺は布団を屋上で片っ端から天日干しする。
いつもは保美香がやってくれるのだが、たまには保美香に休んで欲しく、俺が買って出たのだ。

ギラティナ
 「アグノムー!」


 「は? 上……て!?」

小さな女の子が頭を下にして落ちてくる。
なんで子供が街中でスカイダイビングしてんだよと、突っ込む間もなく俺は手に持っていたシーツを広げた。


 「あーもうままよ! ばっちこい!」

俺は少女の落下地点でシーツを広げて待ち構えた。
少女は急速に落下し、俺はそれをなんとか助けようとするが。

アグノム
 「む〜!」


 「今だ! ……あれ?」

少女を受け止めた……そう思ったのだが、重さを全く感じない。

アグノム
 「う〜……」

代わりに生暖かい雨が降ってきた、しかしそれは黄色い。


 「うげ!?」

それは少女の聖水だった。
俺の少し上で空中に浮遊すると少女はおしっこをしたのだ。

ギラティナ
 「大丈夫!? アグノム!?」

エムリット
 「お〜、アグノムが浮いてるぞ〜!」

ユクシー
 「凄い……」

アグノム
 「???」


 「俺は夢でも見てんのか〜? 皆浮いてるぞ……」

ギラティナ
 「あ、あの! そこの死んだ魚のような目の人! アグノムを助けてくれてありがとうございます!」


 「……必要あったのかわからんがな」

アグノム
 「……」

アグノム……という少女は俺の頭に乗っかると小刻みに震える。


 「まさか!?」

俺は凄まじく嫌な予感に少女を抱きかかえると一目散にトイレに走った。



***




 「全く近頃の幼女は感心しませんな、人の頭の上で大をしようとするとは」

ギラティナ
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

アレから、この人のお家でアグノムをトイレに行かせて貰った。
本人はシャワーを浴び終えると私は平謝りする。

保美香
 「ふふ、むしろ幼女の黄金水を浴びるなどご褒美でしょうに!」

エムリット
 「髪の毛綺麗〜♪」

保美香
 「ちょ!? 触手を引っ張らないでかしら!?」

ユクシー
 「おっぱい……」

伊吹
 「あはは〜、ぎゅ〜♪」

皆人様の家で遠慮も知らずやりたい放題だ。
エムリットはモデルみたいな綺麗な女性の髪の毛(に見える触手)を力一杯引っ張り、ユクシーは爆乳長身の女性のおっぱいに埋もれながら、ハグをされていた。


 「……しかしまぁ、あんな小さな子三人も抱えてどうしたんだ?」

アグノムたちは皆人間年齢では5〜6歳だろうか。
しかし精神年齢は0歳そのもの、知能指数で言えば、ユクシーが一番上でアグノムが一番下かしら。
三者三様で皆楽しそうに遊ばせて貰っている。
一方でアグノムちゃんはなぜか、この男性の足にピッタリ引っ付いて離れない。

ギラティナ
 「えと、その私はギラティナって言います」


 「ギラティナ! 伝説のポケモン!? それじゃこの子たちはまじでUMAか」

華凛
 「とすると、あの時現れたイベルタルの同類か」

私はまさかの名前にピクリとくる。
死を司る神イベルタル、その殺害対象は神にまで及ぶ。
もし私の前に現れたら、生き残れるかしら……。

アグノム
 「お母さん……お腹空いた〜」

保美香
 「あ、あらあら〜! それなら少しご用意致しますわ〜! あの、お願いだから触手引っ張らないで!?」

エムリット
 「きゃっきゃ♪」


 「こらこら、お姉さんを困らせちゃ、メッ! だぞ?」

翼の大きな女性はモデルみたいに綺麗な女性からエムリットを引き剥がすと、エムリットはしょんぼりした。
あの子はどうもやんちゃ過ぎるかしら、一方でユクシーは大人しいんだけど、ちょっと知能が高くて悪い子にならないか不安。
でも一番不安なのは今の所なに考えているか分からないアグノムかしら。

ギラティナ
 「あの、私もお手伝いしてもいいでしょうか?」

保美香
 「あら、それではお二人で……」

私は保美香さんの耳に口元寄せると、ヒソヒソ声で本音を話す。

ギラティナ
 「あの、出来れば料理を教えて欲しいんです……」

保美香
 「あら? もしかして初心者かしら?」

私は小さく頷く。
私自身はゴーストタイプの性か、お腹が空くことは殆ど無い。
物のない破れた世界で私が300年生き残れたのはある意味この身体のお陰だろう。
だけど産まれたばかりの子たちにひもじい思いをさせたくはない。
なるべく子供たちの為にもちゃんとしたお母さんになりたいのだ。

保美香
 「畏まりました、それではご一緒にしましょう」

ギラティナ
 「はいっ、お願いします!」

私は保美香さんと一緒にキッチンに入るとエプロンを着ける。

アグノム
 「ねぇ……」


 「ん? どうしたんだい?」

アグノム
 「抱っこ……」

アグノムはそう言って茂さんに両手を伸ばす。


 「こんな感じでいいか?」

アグノム
 「ん……」

ギラティナ
 「アグノム! ちゃんとお礼を言いなさい」

アグノム
 「ありがとう」

幸い茂さんは特に気にしていないみたいだけど、あんまり甘やかしちゃう訳にもいかない。

保美香
 「それでは、ギラティナさんには簡単な物を作って貰いましょう」



***



エムリット
 「ハムハムハム!」

ユクシー
 「オムライス〜オムライス〜」

アグノム
 「……美味しい」

私は一先ずケチャップライスの作り方を学んだ。
今日の所はほとんど保美香さんにしてもらったけど、一つ一つ学ばないといけない。

ギラティナ
 (常葉茂と茜……私のターゲット)

私はあの方に二人のことは聞いている。
まだどういう二人かはよく分からないんだけど、少なくとも茂さんはいい人だ。
事情も分からないのにアグノムを助けてくれたし、アグノムも茂さんが気に入ったのかべったりしている。
茂さんも嫌がってはいなかったし、子供好きなのは間違いないだろう。

ギラティナ
 (そんな人を……私はハメないといけないのか……)

今の所戦争を起こすことが私の目標となる。
それはとても残酷な事だ、この人を地獄に叩き落とすことが本当に許されるのか……。

時はまだ9月……あの方の話では茜が王に覚醒するのは11月までかかる。
つまりそこまで猶予がある。

ギラティナ
 「あのっ! お願いします、私達……いえ、子供たちだけでもここに居させてくれませんか!?」

私はやっぱり子供たちを巻き込みたくない。
人間爆弾として産まれたなんて、やっぱり間違っている!
この子たちだけは普通に幸せになって欲しい。

保美香
 「……だそうですが」


 「おーい、アグノムちゃんたち〜、ママがあんな事言ってるぞ〜?」

アグノム
 「お母さん、行っちゃうの?」

エムリット
 「やだやだ〜! お母さん行っちゃヤダ〜!」

ユクシー
 「………」((;¬_¬)ジー)

ギラティナ
 「あ……う」

私は子供たちの悲しい顔に弱ってしまう。
だけどこのまま一緒でも彼女たちは決して幸せにならないだろう。


 「では、家主が命令する、ギラティナよ、居たいだけここに居ろ。アグノムちゃんたちは俺たちが絶対護ってやる」

ギラティナ
 「あ……ありがとう、ございます……!」

私はその寛大な措置に、涙する。
やっぱりこの人たちは、暖かい人達だ。
私は訳も分からないまま幽閉されて、誰とも関わることがなかった。
300年間の間に、私は子供から大人になっていたのかもしれない。
でも、表にはこんないい人たちがいた。
やっぱりおかしいよ、この世界は尊く貴重だ。

ギラティナ
 「皆さん、不詳ギラティナ、皆さんにお世話になります!」

私は頭をビシッと下げる。
この人たちの為に私は戦おう。
私があの方の命令を反故するなら、きっとなにか制裁があるに違いない。
せめてこの人たちには迷惑はかけない。

アグノム
 「良かった……パパ、よろしくね」


 「パパ? 俺が?」

エムリット
 「おお〜、お母さんとお父さんが一緒に出来た〜!」

ユクシー
 「結婚式はいつ?」

保美香
 「ちょ、ちょっと待つかしら!? 子供たちは許しても、結婚は許さないかしら!?」

エムリット
 「保美香おばさんもよろしくね〜!」

保美香
 「おばっ!?」

華凛
 「……まぁ私は愛人で充分だよ」

ギラティナ
 「あ、あわわ……!」

ど、どうしよう……一瞬で修羅場みたいになっちゃった。
もはや一堂がどんちゃん騒ぎ、私にはどうすることも出来ずただオロオロしてしまう。
とりあえず茂さんに助けを求めようとそっちを見ると、何やら腕を組んで考え事をしている。


 「げろしゃぶか、ティナかな?」

ギラティナ
 「何考えてるんですかー!?」


 「やっぱりげろ……」

ギラティナ
 「ティナ! ティナでお願いします!」

なんだかこのままでは私の名前がげろしゃぶになりそうなので全力で否定した。


 「ティナか……まぁネタ切れだし、悪くはないか」

ティナ
 (よ、よかった……とりあえずげろしゃぶの危機は回避できた!)



こうして、私は正式に茂さんの家で暮らすことになった。
ティナという名前も頂き、より一層この人に尽くしたいと思うようになった。



***



それから2ヶ月余り……私は家族と一緒に茂さん宅で暮らし、家族もすくすく成長して、皆この家の一家として馴染んできた。
だが、不穏な気配は刻一刻と迫っている。



美柑
 「さぁお菓子対決、保美香VS理奈の勝負!」

ティナ
 「頑張ってー!」

私がティナの名を貰ったように、子供たちも名前を頂いた。
そのうちアグノムは理奈(りな)、エムリットは未理空(みりあ)、ユクシーは由理(ゆり)の名を貰った。
三人は皆も驚くレベルで急成長し、たった2ヶ月で今や12歳位まで肉体が成長したのだ。
このままだと年内に大人になるかもと茂さんも苦笑していたが、恐らく成長はこの辺りで一旦停止して、後は人間と同様に老いると思われる。
そんな中で皆個性的に成長し、長女の由理はとても頭脳明晰で、妹たちにも優しい姉として育ち、次女の未理空はわんぱくで、皆を和ませるムードメーカーに。
そして末女の理奈は大人しく優しい家庭的な子になった。

保美香
 「ふふふ理奈、貴方は今やわたくしの一番弟子とはいえ、手加減は致しませんわ」

理奈
 「はい、私も最高の品を出したいと思います」

二人はギャラリーが見る中、同時にお菓子を作り始める。


 「それにしても初めて会った時は幼子のようだったのに、成長したな」

伊吹
 「逆にアタシたちが老けたみたいだよね〜」

由理
 「心配しないで姉さんたちの肌年齢は凪姉さんが20歳、伊吹姉さんは14歳、全然老けてないわ」

華凛
 「しかし種族特徴とはいえ、伊吹の肌は反則レベルだな」

ティナ
 (確かに〜)

伊吹さんのお肌は常に潤いたっぷりで、保湿に優れきめ細かい。
ぬめぬめとした粘液が肌年齢を守っているんだろうけど、全女性が羨むよね。

未理空
 「まぁあの水風船のようなおっぱいは、埋まったら即死レベルだもんね〜」

美柑
 「女子ばっかりとはいえ、セクハラ発言ですよ!」


 「……良い匂いがしてきた」

気がつけばキッチンから香ばしい匂いがしてきた。
両者作ったのはクッキーのようだ。
理奈は最も得意なお菓子はクッキーだ。
少ししっとり気味のクッキーは家族にも大好評で、茂さんに絶賛されて以来、本当によく作っている。
一方でそれを教えたのはやっぱり保美香、彼女には私も一から家事を教えて貰い、全て一通り熟せるようになった。
しかしずっと後ろで見ていた理奈は、私より要領が良くて、お菓子だけなら保美香と並ぶレベルになった。

伊吹
 「実際どっちのお菓子が美味しいのか楽しみだねぇ〜」


 「食は万里に通ずる……」

未理空
 「茜姉さん、それ座右の銘なの?」

茜は殆ど美味しい物は万国共通位の感覚で言っているけど、それだけに茜の食の欲求は凄まじい。
茜があの言葉を使った時点でこの勝負が相当高レベルなのが分かるというもの。

由理
 「そう言えばもうすぐ21日よね」


 「ご主人様の誕生日……!」

ティナ
 (……!)

私は結局この日まで、惰性のように幸せに浸かってしまった。
もっと早くに来るかと思った制裁の刺客もなく、ついに覚醒のターニングポイントを迎えようとしている。

ティナ
 (これは恩返し……、絶対守ってみせる!)



……そして運命の日、11月21日はやってきた。



***




 「ティナと二人っきりで買い物なんて初めてだね」

ティナ
 「そうですね、いつもなら保美香さんがいますから」

誕生日当日、私は保美香さんに代わって茜さんと買い物に出ていた。
とりあえず今の所ではおかしな部分もなく、今は買い物帰りだった。


 「重い、重い、幸せの重さ〜♪」

ティナ
 「幸せの重さですか……」

両手一杯に埋まった今日の為の品々。
茜さんは嬉しそうに持ち歩く。


 「……っ!?」

不意に、茜さんが足を止めた。
その瞬間、背中側に影が写る。

イベルタル
 「ギラティナだな? 排除対象確認」

ティナ
 「イベルタル!? 私を殺しにきたの!?」

その姿は私が幼い頃見た姿と何も変わらない。
ただあの頃は怖くてディアルガ姉さんの背中に隠れていた。
イベルタルは着地すると、その冷酷な目をただ私に向ける。

イベルタル
 「理由は知らんがこれが私の使命だ、恨むなら恨め」

イベルタルはそう言うと、ダークオーラを放ち、悪の波動を放った。
私は荷物を捨てて、盾になるように受け止める。

ティナ
 「うあっ!?」

イベルタル
 「愚だな……」

ティナ
 「守ってみせます……大切なものだから!」

私がこの世界の毒ならば、イベルタルの出現には正当性がある。
しかし、私はこの世界が混沌に飲まれるのを良しとはしない!

イベルタル
 「デスウィング!」

イベルタルが羽ばたき、そのシルエットがYを描く。
漆黒のエネルギーが口からは放たれた。
しかし……そこに突然茜さんが割り込む。


 「王が命ずる」

茜さんがなにかを小さく呟いた、デスウィングは茜さんの手に触れると拡散して消える。

ティナ
 (定義を上書きした!? デスウィングを無かったことにしたの!?)


 「イベルタルよ、誰の命令で私の前で狼藉を働く」

イベルタル
 「王よ、非礼は詫びます。しかしこちらも別系統で動いていますので」


 「アイツか……ならば王として命ずる、別命あるまで座で待機せよ、これはいかなる命令よりも上位とする」

イベルタル
 「……任務了解」

イベルタルはあっさりと引き下がった。
今、私の目の前にいるのは茜ちゃんじゃない。
圧倒的存在力を放つ神々の王、その人だ。


 「ティナ……いかなる理由があっても、私は貴方を信じるわ」

ティナ
 「王……ですよね?」


 「私は神々の王でもあり茜でもある……とても不安定な存在、そしてそれはこの世界にとって有害すぎる」

茜さんはそう言うと自らの手を見て、震えていた。
それは強すぎる力に怯える茜さんそのものだった。


 「ティナ、王として、茜として貴方に命じます。ご主人様を守りなさい!」

ティナ
 「は、はい!」


 「ご主人様を幸せにしなさい!」

ティナ
 「はい!」


 「そして……最後」

突然茜さんの体が光の粒子に変わっていく。
それはこの世界から存在が消滅するという合図。


 「貴方自身、幸せになりなさい……」

ティナ
 「待ってください! なぜ泣くのですか!? どうして私なんですか!?」


 「私は貴方という可能性を信じます、貴方なら私が成し得なかった奇跡を成し遂げると信じたのです……どうか、お願い、ね―――」

最後の言葉は光の粒子の中で途切れた。
茜さんが、茜さんだけがこの世界から消滅した。

セローラ
 「わわ!? こんなに荷物散乱させて! どうしたんですかティナさん!?」

ご近所に住むセローラは大惨事を見ると、積極的に荷物を拾っていく。
私は呆然としながら呟いた。

ティナ
 「茜さんが……」

セローラ
 「茜? 誰ですかそれ?」

私はまだたった300歳の子供なのに、あの人はどれだけ無茶振りするんだ。
私は大粒の涙が止まらなかった。
それでも荷物を持って、家へと帰る。
家からは、茜さんの痕跡が全て消えており、歴史修正されていた。

そして私以外が茜さんを覚えていない中で、誕生日パーティーは行われた。



***




 「うーん」

理奈
 「どうしたのパパ?」

誕生日会も終わり頃、ふと茂さんが頭を悩ませた。


 「なにかが足りないって言うか……変だな?」

保美香
 「おかしな事言いますわね、まだ腹八分目だったり?」

美柑
 「いや、それはないでしょう。今日は少し買い込みすぎでしたし!」

ティナ
 「……」

もしも茂さんが足りないと思った物が茜なら、あの人はそれだけ大きな影響のあった人だと言えるだろう。
でも私は託された、あの人が涙してでも諦めたこの世界を。

ダカダカダカ!

未理空
 「足音? やけに多いな」

それは不穏な気配、私は咄嗟に全員を破れた世界に避難させる。
直後、玄関は吹き飛ばされた。
粉塵が飛び交い、銃器を持った黒ずくめの男たちが一斉に雪崩れ込む。

黒ずくめ
 「いない!?」

ティナ
 「これが運命なら! 私は全力で反骨するぞ! 滅びが運命なら! 世界だって救ってやるんだから!」

私のシャドーダイブが男一人を昏倒させる。

由理
 「組織? パパを狙ったの? 許せないわね……!」

ユクシーの由理は記憶を司る、男たちの記憶を探り、相手の目的を知った事で怒りを顕わにした。

未理空
 「そいつぁメチャ許せんよなぁ〜!?」

理奈
 「パパは私達が護ります!」

三人のサイコキネシスがぐしゃりと男たちの武器を破壊する。

黒ずくめ
 「くそ!? こんな筈じゃ!?」

保美香
 「あら残念、行き止まりかしら?」

逃げようとする黒ずくめに私は玄関側に保美香と美柑を解放した。

ティナ
 「茂さんはもう少し待ってて、凪と華凛は周囲の警戒をお願い」


 「畏まった!」

続いて、部屋の外に凪さんを解放し、空中を監視して貰い、華凛には1階から様子を見て貰う。

由理
 「お母さん、動体反応真下に1」

未理空
 「これは邪気だよ!?」

ティナ
 「私が行く!」

私は破れた世界に飛び込んだ。
邪気の元、地下駐車場から発進する車を直前でキャッチして、顕界する。

ティナ
 「禍根は絶つ!」

ガッシャァァァン!

私は思いっきり車の後部側を破壊する。
真上から奇襲に対応できない車はそのまま火花を散らして道路を滑る。
しかしそれは華凛は事もなげに足蹴りで止めた。

華凛
 「鼠が、汚物は排除しなければな」

車に乗っていたのは顔の分からない黒ずくめの女性だった。
女性はホールドアップ、敗北を認めた。



……後日、警察が来て現場検証が行われ、未理空のサイコメトリーによって、相手のある程度の目的が分かった。

ティナ
 (神々の黄昏……かつて私が実行しようとした計画、だけど今は……私が止める!)



突ポ娘 サイドストーリーズ
運命の輪の章 ギラティナに花束を


KaZuKiNa ( 2019/07/08(月) 21:38 )